ゾイドグラフィックス戦記   作:ロイ(ゾイダー)

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ゾイドグラフィックス戦記 ヘルキャット編後編

 

 

夜、雲一つない空に浮かぶ3つの月から放たれる冷たい光が、大地を照らしていた。

 

 

クルトは、基地の格納庫にいた。彼のいる基地のかまぼこ型の格納庫には、ヘルキャットの他にゲーターが8機駐機されていた。

 

背鰭にレーダーを搭載した偵察、電子戦用で、正面戦闘に投入するのは、性能的に問題があるものの、この様な森林地帯での偵察、情報収集任務には最適な機体だと言える。

 

この基地のゲーターは、1機を除き、森林戦仕様に塗装されていた。

 

唯一の例外のゲーターは、通常のゲーターでは無く、通称 ゲーター・レディファントマと呼ばれる機体で、通常のゲーターを上回る電子戦能力を有し、更に地上における早期警戒機としても使用可能という高性能機であった。

 

またその高性能と引き換えに、電子部品の製造コストや機体の維持費も合わせると大型ゾイド並みのコストがかかっている。

 

その為、現在戦線に配備されているのは、2、3機のみという機体である。この基地には試験評価の為に護衛部隊ごと送られてきていた。

 

対空砲台替わりのマルダーだけは、野外に係留されていた。

 

つい2時間前まで、格納庫を動き回っていた整備兵の姿も影一つ無い。彼らは、定期整備の完了後すぐに兵舎で眠りに就いている。

 

作戦の都合や敵の出現で、未明に起こされることや徹夜の作業を強いられることも頻繁にある彼らにとって睡眠時間は、黄金よりも貴重だった。

 

クルトは、閑散とした格納庫に人影を見た。

 

「あれは…」

 

肩までかかるオレンジがかった赤毛を二本三つ編みにした女性士官が彼のヘルキャットの近くに立っていた。

 

クルトの上官…ダーシャだった。

 

ダーシャは、クルトのヘルキャットを興味深そうに眺めると、クルトの方に顔を向けた。

苦手な相手の出現にクルトは、露骨に顔をしかめた。

 

「クルト准尉…」

 

対するダーシャは、意外そうな表情をしていた。

 

「あんたもいたのか」

 

クルトは、相手が上官であるのにもかかわらず、苛立ちを隠さない口調で言う。

「あなたこそ、この場所にいるとは思わなかったわ。」

 

地底族の特徴である磨き上げたルビーの様な眼が彼を見据えた。

 

地底族が多数派を占めるゼネバス帝国では、赤い色の瞳は珍しくもないが、ここまで綺麗な瞳を持つ者はそうはいないだろう…ダーシャの事が気に食わない彼も、それは認めていた。

 

「早くこのクソ猫にさよならをいいたいんでね」

 

「まだあなたはヘルキャットを認められないの?また機種転換の申請書を出したそうね…何度出しても無駄なのに。」

 

「何だと…」

 

「ゼネバス帝国軍は、共和国よりも国力でも、人口でも劣る…人材を遊ばせているわけにはいかないってこと。貴方は優秀なパイロット…だからこそ、このヘルキャットに乗り換える人材に選ばれたのよ、この決定が覆ることは無いわ」

 

「俺は、このゾイドに向いていないんだ。紙の上の数字で相棒を決められたら敵わないぜ…」

「クルト、貴方もいつまでもマーダに拘っているわけにはいかないこと位分からないわけではないでしょ?」

 

ダーシャの言い方は、上官が部下に対して言うというよりも、母親が聞き分けの悪い子供をたしなめている様にも聞こえた。それが一層クルトを苛立たせた。

 

 

「…俺はな、マーダに3年以上も乗ってたんだ。こののろまな子猫ちゃんと違ってな」

 

クルトは、嫌悪に顔をしかめると、右手で、格納庫のゾイドハンガーに駐機された自身の乗機であるヘルキャットを指差して言った。

 

「クルト…あんたは、マーダに乗ってる時、3回も乗機から脱出する羽目になっている。マーダは、帝国のゾイドの中で最も軽装甲なのよ、貴方に運が無ければとっくに死んでるわ。」

 

対照的にダーシャは、冷めた口調で言う。

 

マーダは、重装甲が多い、ゼネバス帝国ゾイドの中では装甲が薄く、大損害を受けることも少なくなかった。

 

クルトも参加した1年前の帝国領 ミーバロス市を巡る戦闘では、先鋒を務めるマーダ部隊は、市内を防衛するヘリック共和国軍部隊の防御砲火を浴びることとなった。

 

この戦いでマーダ部隊は、大損害を受けた。

 

この時期の前線兵士達にはマーダ乗りの寿命は2週間足らずと言われたこともあった。

ヘルキャットの方が操縦性でも、持久力でも最初の帝国ゾイドであるマーダと比較にならない程強化されている。

 

そしてヘルキャットは、マーダ最大の弱点である防御力の面の問題も解決していた。

 

中央大陸西部の森林地帯 タイガーゲージに生息するヒョウ型ゾイドを素体に開発されたヘルキャットは、コアの出力が小型ゾイドとしては高く、同時に体格でもマーダよりも大型である。

 

その為、機動性を損ねない程度に装甲を機体の大部分に施すことが出来た。

 

対照的にマーダは、ヘルキャットの素体であるヒョウ型ゾイドに比べて小型で、コア出力も劣るオルニトレステス型ゾイドを素体としている。

 

その為、装甲が施されているのは、ゾイドコアのある胴体や脚の一部等の箇所に止まる。

 

これは、素体となったゾイドの体格差、コア出力の差によって生まれたキャパシティの差であり、単純な改造や武装強化で乗り越えられるものではなかった。

 

「それに武装でもマーダよりヘルキャットは大型の武装を乗せることができるし、消音機能と排熱システムで帝国軍のゾイドで最も発見されにくい、しかも運動性能は、この森の金属樹木の上に飛び乗ることだってできるのよ…マーダとは比べ物にならないってことよ。早く受け入れることね。幸い貴方は、ヘルキャットに乗った後も手を抜いていないようだし…」

 

手を抜いてゾイドを操縦すること等、軍人として、ゾイド乗りとしてそれだけは、出来なかったのである。

 

「当たり前だ!」

 

クルトは、思わず格納庫に響き渡る様な大声で叫んだ。

 

「とにかく、ヘルキャットに乗ることを受け入れることね。貴方の様な優秀なパイロットが新型機を受け入れないのは我軍の損失だわ。」

 

そう言うと、ダーシャは、クルトに背を向けて格納庫から立ち去って行った。

 

クルトは、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

 

1週間後、第45偵察隊を含むヘルキャット装備の部隊に任務が下った。

第34基地のパイロット達が、基地の一室に集められた。

 

クルトとダーシャ、ヘルベルトとアレクは、真正面の椅子に座っている。

 

作戦は、第34基地にいる戦闘用ゾイドが全て動員されるという、基地が建設されて以来の大作戦だった。

 

作戦は、主力である帝国機甲師団の共和国領侵攻に先立ち、侵攻ルート上に存在する国境沿いの金属樹木が密生する森林地帯に潜伏する共和国軍の電子索敵部隊を撃破せよ、というものであった。

 

これは、森林戦で戦果を挙げてきたヘルキャットにとっては御誂え向きの任務と言える。

 

また最新鋭機のヘルキャットだけでは、数が足りない為、マーダ装備の部隊も作戦に参加することになっている。

 

 

これまで、森林地帯に偵察任務に出撃していたゲーター隊は、基地周辺で待機し、基地防衛と電波妨害による支援任務に従事することとなっていた。

ブリーフィング後、パイロット達は、格納庫に移動し、それぞれの乗機に乗り込んだ。

 

「あんたのサポートとはな…」

 

クルトは、部隊の指揮官であるダーシャの僚機を務める。

 

「ヘルキャット以前にマーダで戦果を挙げているあなたは、この基地では、有数の高速ゾイド操縦者よ。だから僚機にした…不満かしら?」

 

「いいや…不満は無いよ隊長殿」

 

「クルト、隊長殿を頼んだぜ…アレク!油断するなよ!」

 

「了解です!」

 

4機の鋼鉄の豹は、敵の待ち受ける森林へと消えていった。

 

クルトのヘルキャットのレーザー機銃が火を噴き、ステゴサウルス型小型電子戦ゾイド ゴルゴドスの胴体側面を射抜いた。レーザー弾の乱打に胴体を撃ち抜かれ、ゴルゴドスは力なく崩れ落ちる。

 

ダーシャとクルトは、共和国領の森林地帯で、順調に共和国軍の電子索敵部隊を撃破していた。

 

「流石ね。やっぱり相棒の事を認めてあげるべきよ…あなたは」

 

「…そうかい隊長殿!」

 

彼らは、森林の奥で、足を止めた。

 

そこには、破壊されたゾイドの残骸が転がっていた。残骸は、マーダ、ゲーター、モルガ…全て友軍の機体で、装甲の厚いモルガも頭部装甲を破壊されて撃破されていた。

 

ゲーターは、集中的に攻撃を受けたらしく、どの残骸も損傷が激しかった。

 

そしてマーダは、原型を留めていないものも少なくない。

 

「敵の迎撃部隊がいたのか?」

 

「大型ゾイドのようね…」

 

大型ゾイドのものと思われる巨大な足跡が残されていた。

 

「森に隠れるわよ!」

 

敵部隊を待ち伏せする為、2機のヘルキャットは、周囲の森林に身を隠した。

 

その数分後、彼らが待ち受けていた敵部隊が姿を現した。

 

護衛機の指揮官機なのだろう指揮官機仕様のゴドス、サソリ型小型ゾイド ガイサック、グランチュラ4機、装甲車ゾイド ハイドッカー…そしてその後方から地響きを立ててそれらのゾイドよりも遥かに大きい4足歩行のゾイドが、背びれを揺らしながら接近してきていた。

 

 

 

「ゴルドスか…」

 

新たに出現した敵機を睨み据え、クルトは、震える声色で呟いた。

 

「森林戦仕様ね…あれが部隊の指揮官機よ、きっと」

 

 

その後方には、三色迷彩に塗装されたゴルドス森林戦仕様がその巨体を誇示していた。

 

ヘリック共和国軍が開発したステゴサウルス型大型ゾイド ゴルドスは、電子戦、強行偵察、弾着観測を行うことを主目的に開発された機体である。

大型機のパワーと搭載力を生かして全天候3Dレーダーを初めとする多数のレーダーや敵の分析やレーダーでの捕捉時に支援する高速コンピュータ等の数々の電子兵装を搭載し、ゴルドス1機でゲーター5機に匹敵する電子戦能力を持っていた。

 

純粋な戦闘能力では、主砲の破壊力、格闘性能、装甲で帝国のレッドホーンに劣るが、ゴルドスの情報収集能力、電子妨害によって正面戦力で劣る共和国軍が勝利した戦いも少なくは無い。

 

この森林戦仕様は、共和国軍が国境の森林地帯の奥深くに配備した強行偵察隊の所属機で、帝国軍の侵攻を察知する為に配備されていた。

 

もしこのゴルドスを野放しにすれば、ゼネバス帝国軍の機甲師団が共和国領に侵攻する際にレーダーでそれを発見し、後方の共和国軍基地に敵部隊の存在について即座に機体に搭載された強力な通信機によって通報するだろう。

 

 

そうなった場合、情報を得た共和国軍は、即座に防衛線の穴を塞ぐべく、サラマンダーを含む空軍による爆撃、そしてゴジュラスやマンモスを中核とする部隊を投入し、迎撃することは確実である。

 

その場合、いかに強力なゾイドと精鋭を有するとはいえ、主力部隊は、苦戦を強いられることになるのは間違いなかった。

 

 

今回の作戦でもゴルドスが敵の索敵部隊に存在している可能性は、高いと予測されていた。

 

だが、こうして実際に遭遇するとどう対処すべきか2人は容易に判断できなかった。

奇襲攻撃でも大型ゾイドであるゴルドスを相手にするのは、ヘルキャットの装備火器の威力的には、余りにも分が悪い。

 

クルトにとっては、大型ゾイドと交戦するのは、マーダを操縦していた頃でも未経験だった。

 

同様にダーシャも大型ゾイドとの交戦経験は無かった。

 

最初に攻撃を仕掛けたのは、ダーシャのヘルキャットだった。

 

胴体下部の高速キャノン砲が歩兵を満載したハイドッカーの胴体側面を撃ち抜いた。

コアを撃ち抜かれたハイドッカーは瞬時に爆発し、乗っていた歩兵は一人残らず全滅していた。

 

少し遅れてクルトのヘルキャットがレーザー機銃を連射した。

 

 

コックピットを撃ち抜かれたゴドスが崩れ落ちる。共和国部隊は、突然の奇襲に慌てていたが、大型ゾイドの巨体を利用して強力なレーダー等の索敵、電子戦装備を搭載するゴルドスの索敵能力なら直ぐに捕捉されてしまうだろう。

 

「いくわよ!」

 

「おう!」

 

2機のヘルキャットは、森から飛び出す。

 

「新型だと!」

 

グランチュラがエレショットを放つ。

エレショットは、収束し、高威力化した電磁波をビームの様に発射する兵器で、装甲が施されたヘルキャットにとっては、命中しても精々機体の動きがしばらく悪くなるだけだ。

 

だが、敵の方が多い状況で動けなくなれば、機動力が利点のヘルキャットにとっては致命傷となる。

 

「そんな攻撃!」

 

エレショットを回避し、ダーシャはトリガーを引く。

 

ヘルキャットのレーザー機銃がグランチュラの頭部に叩き付けられた。

 

グランチュラのコックピットが吹き飛び、グランチュラは、動きを止めた。

 

ガイサックが尾部のポイズンジェットスプレーと胴体のロングレンジガンを乱射、その真後ろにいたゴルドス森林戦仕様もビームや砲弾を撃ちまくる。

 

どちらも軽装甲のヘルキャットには、十分に脅威となる。

 

ダーシャのヘルキャットは、レーザー機銃を連射する。光弾の雨を受けたグランチュラが爆散する。

 

クルトのヘルキャットもグランチュラを撃破していた。最後のグランチュラが爆発の炎に消える。

 

クルトのヘルキャットが、高速キャノン砲とレーザー機銃を連射し、ガイサックの胴体の燃料タンクと内部に収められているゾイドコアを破壊した。

直後、ガイサックが爆発し、燃え盛る破片が周囲に飛び散った。

 

短時間で7機いたゴルドスの護衛機は、全滅した。

 

 

残るは、攻撃目標であるゴルドス森林戦仕様のみ……護衛機を瞬く間に叩き潰されたゴルドス森林戦仕様は、咆哮を上げた。

 

ゴルドスは、背部の105mm高速キャノン砲が火を噴いた。

小型ゾイドの火器とは比較にならない破壊力を持つ砲弾が地面に着弾し、火柱を上げた。

 

 

2機のヘルキャットは、左右に別れ、それぞれゴルドスの側面に回り込む。

左に逃げたクルトのヘルキャットがゴルドスの横をすり抜けようとした瞬間、ゴルドスの腰の部分に装備されたパノーパー20mmビーム砲が火を噴く。

「ちっ!」

ビームがヘルキャットの後左足を掠めた。

もしマーダなら装甲を撃ち抜かれて撃破されていただろう。

 

ダーシャのヘルキャットが背部のレーザー機銃と胴体下部の高速キャノンを乱射した。

 

発射された光弾と銃弾がゴルドスの胴体側面に次々と命中した。

 

だが、小型ゾイドの火器で打ち破れる程脆くは無かった。

 

「食らえ!」

 

クルトのヘルキャットがゴルドスの頭部目がけてレーザー機銃を撃つ。

だが、ゴルドスは、それをぎりぎりで回避し、胴体に装備されたビームランチャーを撃つ。

更にゴルドスの尾部の火器が一斉に火を噴いた。

 

その攻撃は、背後から襲いかかろうとしていたダーシャのヘルキャットを狙っていた。

 

「しまった!」

 

ダーシャは操縦桿を押し倒し、回避を図った。

 

だが、それはいささか遅かった。

 

 

その内の一発がヘルキャットの左後ろ脚に着弾、更に数発が、側面を曝したヘルキャットの腹部に命中した。被弾したダーシャのヘルキャットは、崩れ落ちた。

 

「ダーシャ!」

 

ダーシャの安否は不明だったが、コックピットの損傷が殆ど無いことから生きている可能性は高かった。

 

 

「!」

 

万事休す…思わずクルトの脳裏にその言葉が浮かんだ。

 

ダーシャのヘルキャットが戦闘不能になった以上、自身とヘルキャットだけで目の前のゴルドスを撃破しなければならないからだ。

 

ヘルキャットの俊足をもってすれば、鈍足のゴルドスから逃げること等容易い。

 

だが、その場合、撃破されたダーシャのヘルキャットを見捨てることになる。

 

最新鋭機の友軍機が敵地で回収不能になった場合、残骸でも攻撃して破壊する様に指示が出されていたが、彼にとってはありえない選択である。

 

1週間前の新型機の共和国兵の様に戦友を撃つ真似はしたくなかったのだ。

 

加えてここは、敵地だ。長々と戦うのは、リスクが高すぎる。

 

ヘルキャットの性能を十二分に出しきらない限り、目の前の大型ゾイドであるゴルドスを倒すことはできないだろう…彼は、気付いていなかったが、今まで頑なに受け入れることが出来なかったヘルキャットを受け入れようとしていた。

 

それは、死を前にした状況が齎した奇妙な連帯感とでもいうべきものであった。

 

 

 

 

ゴルドスは、残る1機のヘルキャットを仕留めるべく、突進した。

ヘルキャットよりも遥かに鈍いその動きをクルトは機体を横に跳躍させて回避する。

 

「いくぞ!」

 

ヘルキャットのレーザー機銃を右前足に向けて叩き込んだ。

 

ゴルドスは、悲鳴を上げ、被弾した箇所から紫色のスパークが生じ、黒煙が立ち上る。

だが、ゴルドスは、未だに倒れる気配はない。

 

3Dレーダーを兼ねる背鰭を不気味に輝かせ、尾部を振り回して火器を乱射する。

 

「ちっ、大型ゾイドだけあって分厚い装甲だな…」

 

ヘルキャットの頭部は、一瞬だが、森の木々と枝を見つめていた。

 

「…そういうことか」

 

それを見逃さなかったクルトは、以前の格納庫でのダーシャとの会話を思い出した。

ヘルキャットの素体であるヒョウ型ゾイドは、中央大陸西部の森林地帯に生息する。

 

そして彼らは、森林地帯の樹木を上り、その上から獲物に飛び掛かる立体的に狩りを行うことで知られている。

 

そしてそれは、戦闘用に改造されてもその本能は、失われていなかった。

 

ヘルキャットは、跳躍した。

 

 

ゴルドスの砲撃が先程までヘルキャットがいた地面に着弾する。

 

跳躍したヘルキャットが着地したのは、地面ではなかった…周囲に神殿の石柱の如く聳える樹木の1つ…そこから幾つも生えた太い枝であった。

 

高く伸びた太い樹木の枝の上にヘルキャットは器用に着地した。だが、その足場は余りにも小さく不安定である。

 

数秒と経たず、ヘルキャットはそこから次の樹木に跳躍する。

 

そしてその木の枝に着地とほぼ同時にゴルドスに向けて飛び降りた。

 

ゾイドの砲撃に対してもある程度耐える金属樹木の耐久力と弾力は、ヘルキャットの重量を受け止めるとばねの様に撓った。

 

その反発力を得たヘルキャットの跳躍力は、クルトのかつての乗機 マーダを超えていた。

 

マーダをも上回る跳躍力でヘルキャットは、敵に向けて飛び掛かった。

 

「一撃で仕留める!」

 

森の樹木から飛び降りたヘルキャットは、ゴルドスの上から襲い掛かった。

 

狙うのは、ヘルキャットの火器でも破壊可能な重要箇所、ゴルドスの頭部コックピット…キャノピーは多少の攻撃にも耐えることができるが、レーザーは防げない筈だった。

 

自身に向かって森から急降下してくる敵機の姿を見たゴルドス森林戦仕様のパイロットは、その動きに驚愕した。

 

ゴルドスの装備火器の射角では、上から飛び掛かるヘルキャットを捉えることは出来ない。苦し紛れの一撃か、ゴルドスの主砲たる105mm高速キャノン砲が火を噴く。

 

当たり所によってはレッドホーンの装甲に打撃を与える威力を持つその一撃が命中すれば、装甲の薄いヘルキャット等完全に破壊されることは確実である。

 

そして、クルトのヘルキャットは、今上空から地上へ向けて落下している状態の為、相手の攻撃を回避することは出来ない。

 

「当たるかよ!」

 

自分と相棒を奮い立たせるかのようにクルトは叫んだ。

 

そう口走った彼にも勝算があったわけではない。そして彼とヘルキャットは、賭けに勝利した。

 

赤熱化して隕石の様に赤く輝く砲弾が、ヘルキャットの胴体真下を通り過ぎた。

 

「デカブツが!これでも食らいやがれ!」

 

クルトはトリガーを引いた。ヘルキャットの背部に装備されたレーザー機銃が火を噴く。

 

ピンク色の光弾が断続的に砲口から吐き出され、ゴルドス森林戦仕様の頭部コックピットに降り注いだ。

 

大型で動きが機敏とは言えないゴルドス森林戦仕様は、その攻撃を回避する術を持たなかった。

 

キャノピー式コックピットのある頭部に次々とレーザー弾が掠め、コックピットを覆う円形のキャノピーがレーザーの高熱で歪んだ。

 

ついにレーザー弾がコックピットを捉えた。数発のレーザー弾が、ゴルドスの頭部キャノピーを貫き、コックピットにいたパイロットを焼き尽くした。

 

コックピットを撃ち抜かれたゴルドス森林戦仕様は、崩れ落ちた。

 

黒と緑色に塗装された巨体が地面に倒れる音が森の中に木霊した。クルトのヘルキャットが大地に着地したのは、それとほぼ同時であった。

 

 

「…やったぜ…相棒」

 

この短時間の戦いの中で、クルトは、ヘルキャットを相棒と認めていた。

 

「ダーシャ、無事か!」

 

クルトは、自機をダーシャのヘルキャットに接近させた。

コックピットは、損傷していないため、パイロットは生きている可能性が高い。

 

「ダーシャ隊長!」

 

クルトは、倒れ込んでいるダーシャのヘルキャットに通信を送る。

 

「…ゴルドスはどうなったの?」

 

ダーシャは、負傷していたものの、生存していた。どうやらゾイドの操縦も可能な程度の負傷の様だった。

 

「倒したよ…俺と相棒がな」

 

ヘルキャットは、嬉しそうに唸り声を上げた。短期間の激闘で、クルトはヘルキャットを相棒だと認めていた。

 

「…糞猫じゃなかったの?」

 

格納庫での事を思い出し、ダーシャは、皮肉を言った。

 

「動けるか?」

 

「なんとか移動は可能だけど、左後ろ脚はダメね。完全に機能停止してる。いざとなったらあなただけ基地に帰還しなさい」

 

「…味方を見捨てられるか」

 

ここから2人そろって基地まで帰還できるか厳しいな…彼がそう思ったその時、森の木々が轟音と共に崩れ去り、緑色のゾイドが出現した。

 

出現したのは、帝国軍の誇るゴリラ型大型ゾイド アイアンコングだった。

 

それも1機ではなく、後ろに4機いた。アイアンコングは、全機がノーマル機と異なり、森の中に溶け込む様な迷彩塗装が施されていた。

 

「アイアンコング…」

 

「友軍部隊か、貴官らの撤退を支援する。」

 

先頭のアイアンコングが通信を送ってきた。

 

「了解した」

 

帝国側の基地に帰還した後、クルトを含むこの作戦に参加したゼネバス帝国軍兵士は、自分達が何のためにこの戦いに参加させられたのかを知った。

 

今回の共和国領への作戦は、侵攻作戦に先立っての作戦ではなかった。

 

その主目的は、共和国軍の防衛ラインを攪乱させることだった。

 

小型ゾイド部隊が共和国軍の防衛ラインをかき乱している隙に、大型ゾイドであるアイアンコング4個小隊、12機を森林地帯に侵入させた。

 

戦闘で索敵網が機能しなくなっていた共和国領の森林地帯を容易く突破したアイアンコング12機は、森林地帯の外れに建設されていたヘリック共和国軍基地をミサイルで攻撃したのである。

 

発射されたミサイルは、1週間前に基地に潜入したスパイコマンドーによって提供された情報に基づいて着弾点を設定されており、精確に弾薬庫、食糧庫、ゾイド格納庫等にすべて着弾し、基地に壊滅的打撃を与えた。

 

本格的な攻勢の際、このことは、帝国軍の有利に働くことは間違いないだろう。

 

 

 

20分後、彼らは基地に帰還した。

 

以後、ヘルキャット4機を保有する第45偵察隊は、この森林地帯で偵察、奇襲任務に従事した。

 

隊員の一人 クルト・ロスナーは、後にサーベルタイガーの援護を行うヘルキャット部隊の訓練教官の1人に選ばれた。

 

 

ZAC2036年 ゼネバス帝国軍は、レッドホーン、アイアンコングに次ぐ3番目の新型大型ゾイドとして虎型高速ゾイド EPZ-003 サーベルタイガーを就役させた。

 

大型ゾイドとしては最高時速200kmという当時の常識を覆す速さを誇るこのゾイドは、その高い機動性で共和国軍のゾイドを次々と撃破し、多くの共和国兵を恐れさせた。

 

共和国軍の最強ゾイドであったゴジュラスすらサーベルタイガーの機動性には苦戦を強いられ、ヘリック共和国軍は、空軍の支援が受けられない状況下での交戦を禁止した程であった。

 

このサーベルタイガーの開発には、ヘルキャットで得られた高速ゾイドの戦闘データやノウハウが生かされていた。

 

 

ゼネバス帝国が、マーダの後継機としてヒョウ型ゾイドをベースに最初の高速ゾイドとして開発したヘルキャットは、それまでの射撃戦、肉弾戦が主体だったゾイド戦闘を一変させ、運動性と機動性を生かした機動戦闘というゾイド戦の新境地を開いた。

 

特に森林地帯での戦闘では、消音装置と隠密性能を生かした奇襲攻撃で多くの共和国ゾイドを葬り〝密林の暗殺者〟の異名を得た。

 

そしてサーベルタイガーの僚機としても高い戦果を挙げた。

 

第二次中央大陸戦争時も引き続きサーベルタイガーと共にヘルキャットは、帝国軍高速部隊の一翼を担い、ディメトロドンやブラックライモス、レドラー、ブラキオス、シーパンツァー等の新鋭帝国ゾイドと共にゼネバス帝国の失地回復に貢献した。

 

だが、サーベルタイガーへの対抗機としてシールドライガーと共に、開発された狼型中型高速ゾイド コマンドウルフが実戦投入されたことが、ヘルキャットの運命を一変させた。

量産性にも優れるコマンドウルフは、火力、機動性、防御力でヘルキャットを上回っていた。更に消音性能を重視したヘルキャットと異なり、電磁牙とストライククローによって本格的な格闘戦が可能であった。

 

ヘルキャットは、各地の戦場でコマンドウルフを有する共和国軍高速部隊の前に敗戦を重ねた。

 

かつて共和国兵を恐怖させた森林地帯での奇襲作戦でも敵部隊に奇襲攻撃を仕掛ける前に、護衛機のコマンドウルフによって駆逐されるケースも増えていった。

 

更にクマ型中型ゾイド ベアファイターがロールアウトしたことも、さらに状況を悪化させた。

 

中央大陸東部の森林地帯に生息するクマ型ゾイドを素体として開発されたベアファイターは、速力はヘルキャットに僅かに劣るものの、装甲と火力、パワーでは遥かに上回っていた。

 

ヘルキャットは、これら2機種の中型高速ゾイドの前に苦戦を強いられた。

 

シールドライガーに苦戦させられたサーベルタイガーが、グレートサーベルとして火力、速力を中心に改良された様に随伴機であるヘルキャットも様々な改良案が提案された。

 

しかし、サーベルタイガーよりもサイズが小さく設計面でも余裕がない為それ以上の性能向上には限界があった。

 

ヘルキャットの後継機として西方大陸に生息するライオン型野生ゾイドをベースに開発された高速ゾイド ライジャーがヘルキャットの後継機として開発された。

 

だが生産が大戦末期であったこと、コストの問題によってヘルキャットを完全に代替することは出来ず、ヘルキャットは、ゼネバス帝国軍高速戦闘部隊の数的主力として終戦まで苦闘を強いられた。

 

ゼネバス帝国滅亡時、多くの帝国ゾイドと同様にヘルキャットも暗黒軍に接収された。接収されたヘルキャットも、他の機体同様に蛍光物質ディオハリコンの投与によって基本性能を大幅に引き上げられた。

暗黒軍は、ゼネバス帝国軍から接収したグレートサーベル、ライジャー、独自開発したガルタイガー、ジークドーベルといった優れた性能を持った高速ゾイドを保有していた。

その為、性能、設計共に旧式のヘルキャットが、前線に投入されることは少なく、主に後方で、陸上連絡機、練習機として運用された。

 

大異変後、多くの高速ゾイドが野生体の絶滅、個体数激減によって再配備不能に追い込まれたことで、西方大陸戦争時、サーベルタイガーの改良機 セイバータイガーの随伴機としてヘルキャットもガイロス帝国軍高速戦闘隊に主力機として配備された。

 

この時、ヘルキャットは、かつての戦友であるサーベルタイガーがセイバータイガーとして強化改良された様にヘルキャットも消音装置の改良、武装の強化などの性能向上が図られた。

 

また少数ながら最新技術である光学迷彩システムを搭載した機体も存在した。

 

西方大陸戦争の途中には、ライバル機であったコマンドウルフの強化改造型やシールドライガーの後継機としてブレードライガーが投入されたことで、またもやヘルキャットは旧式化し、ヘルキャットの後継機としてチーター型高速ゾイド ライトニングサイクスが開発された。

 

この機体は、セイバータイガー以上の高性能を誇ったが、皮肉にもライジャーの時と同様に最新技術を導入したことによるコストが問題となり、配備数でヘルキャットを補完するには至らなかった。

 

 

結局、第二次大陸間戦争においても、ヘルキャットは、高速ゾイド部隊の数的主力として苦しい戦いを

続けることになったのである。




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