新作のゾイドアニメとゾイドシリーズが発表されましたが、楽しみですね。
今回の話は、時系列的には、ゴドス編の次位の時期です。
1人の男が谷の上に立っていた。
燃え盛る炎を思わせるオレンジ色の髪を短く切り揃えた中年の男の視線の先には、自然豊かな中央大陸東部の大地が広がっている。
遠くから見るとエメラルドを敷き詰めたかの様に見える美しい緑の地面は、不毛の土地の多いゼネバス帝国の人間にとっては羨望を掻きたてる物であった。
その足元には、彼の率いた軍勢………ゼネバス帝国陸軍 第37装甲大隊に所属するゾイドと将兵達の姿があった。
ZAC2032年 9月12日 ゼネバス帝国軍は、レッドホーン3機を中核とする侵攻部隊を編制、ヘリック共和国領 ライカン峡谷に侵攻した。
戦力で劣るヘリック共和国軍は、四方を城壁で囲んだ要塞 レーン砦に立て篭もり、帝国軍の侵攻部隊を迎撃する構えを見せた。帝国軍は、砦を包囲し、猛攻撃を仕掛けた。
それから約2ヶ月が経過した 11月4日。
砦を袋の鼠にした筈の帝国軍は、逆に苦境に立たされていた。その原因は、補給物資が枯渇しつつあることにあった。
補給がなくては、どんな強力な兵器、訓練された将兵を有する軍隊でも勝利することは不可能である。整備部品の不足から、レッドホーン1機、マーダ5機、ゲルダー4機、モルガ3機が戦列を離れた。
これらのゾイドは、戦闘で敵に破壊されたわけではない。
整備不良により、戦力として機能していないだけなのである。
弾薬や食料、そして整備部品が到着すれば、再び攻撃を行い、上手くいけばレーン砦を落すことも可能になる。
だが、現在まで、それらの補給物資は届いていなかった。
何故なら、補給物資を前線部隊に運ぶ補給部隊が到着していなかったのである。
補給物資がこの部隊に一向に到着しないのは、共和国軍の妨害が原因であった。
共和国側は、この砦に増援を派遣する代わりに空軍部隊により、後方の補給物資を輸送して来る部隊を攻撃し、物資を破壊したのである。
本来補給部隊を守るべき、ゼネバス帝国空軍は、創設間もない事もあり、本土の都市の防空で精一杯であった。
彼らは、全ての前線の地上部隊を援護し、制空権を共和国空軍から奪取する為の航空戦力を有してはいなかった。
更に不足しているのは、補給物資だけではない。
攻略部隊には、要塞を攻略するのに不可欠な戦力が、砲兵戦力が不足していた。
砲兵がいなければ、敵の要塞砲を叩くどころか反撃する事も儘ならない。
城塞を打ち破る手段もゾイドによる体当たりと爆薬による爆破しかできない。
この手段は、どちらも犠牲が大きい上に失敗の可能性も高かった。
一週間以内に次の補給がこの地に到着しなければ、彼らは、撤退を余儀なくされる。
そうなれば、今までこの地で行われてきた戦いで倒れた将兵やゾイド、消耗された補給物資、将兵達の命を懸けた努力………それらの全ては無駄となる。
「今度こそ……成功してくれ」
谷の上に立つ男………要塞攻略部隊司令官 ホルスト・ブラント大佐は、西の方角を見やり、祈る様な声で言った。
彼の視線のはるか向こう………西には、友軍の拠点と出発の時を待つ補給部隊がいる筈だった。
レーン砦を包囲する帝国軍部隊が撤退か、包囲を継続するかの決断を迫られているのと同じ頃、中央山脈の国境地帯に設営された兵站拠点 C-5564では、レーン砦を包囲する部隊に送る為の補給部隊が編成されていた。
ゼネバス帝国側は、これまでの空からの妨害の前に目的地にたどり着く前に補給部隊が阻止された事を考慮して、ある対策を練っていた。
帝国軍は、補給部隊に専門の防空部隊を随伴させたのである。
―――――兵站拠点 C-5564
元々、この基地は、ゼネバス帝国軍がヘリック共和国の領土に侵攻する部隊の補給物資を集積する目的で建設された。
今日も、前線に補給物資を送る為に編成された補給部隊とそれを護衛する護衛部隊が出撃の時を待っていた。
今回の補給部隊は、竜脚類型ゾイド ザットンと昆虫型ゾイド モルガで編成されていた。
ザットンは、背部に補給物資を格納したコンテナを載せている。モルガは、機体後部の、普通はミサイルを入れる箇所に物資を格納している。
護衛は、蝸牛型小型ゾイド マルダーで構成された部隊。
マルダーは、丸盾の様な円形の胴体と胴体下部から覗く帝国小型ゾイド共通コックピットが特徴的な機体であり、帝国小型ゾイドでは最も重い機体でもある。
18機のマルダーが、ザットンとモルガ、合わせて26機で構成される補給部隊の護衛であった。
更に対空監視の為に電子戦機のゲーターが3機加わる。
「すごい数だ。この一回の補給でレーン砦を包囲してる友軍に物資を届けるってわけか。」
マルダー 12番機のパイロット クルツ・リヒター少尉は、目の前に展開する友軍の補給部隊を見て感心していた。
彼の愛機の正面モニターには、弾薬や食料、ゾイドの整備部品を満載した輸送用コンテナを胴体後部の格納庫に格納したモルガと背部に載せたザットンが見事な隊列を組む姿が表示されていた。
「ああ、これならレーン砦までたどり着けそうだ。」
クルツの同僚のマルダー14番機のパイロット ハインツ・ノイヴァール少尉も安心していた。
「だといいけどな」
クルツは、楽観主義者の同僚とは対照的に作戦が成功するのか不安だった。
これまで、レーン砦への攻略作戦は幾度も行われてきた。
その度に帝国軍は撃退されてきた。
レーン砦の城壁を突き破り、内部に歩兵と小型ゾイド部隊を送り込んだ事もあったが、撤退を余儀なくされたのである。
帝国軍の補給線を空襲する共和国空軍の活躍によって。
隊列を組み終えた補給部隊と護衛部隊は、移動を開始した。
彼らの部隊の陣形は、補給部隊を中央に置き、護衛部隊のマルダー8機が左右に展開し、補給部隊の盾となる陣形である。
最前列と最後尾の機体も、敵襲があった場合、同様に友軍の盾となる予定だった。
ゲーター3機は、マルダー部隊の外周に展開する。
背鰭の磁気探知機と全天候3Dレーダーによる索敵により、部隊の眼となるのが、彼らの任務であった。
マルダーに護衛された補給部隊は、レーン砦を包囲する友軍部隊に物資を送り、彼らが再びレーン砦を攻撃できる様にするのがその任務である。
この輸送作戦が失敗すれば、レーン砦を包囲している帝国軍は撤退を余儀なくされる。
作戦の重要性に補給部隊の護衛に就くマルダー部隊のパイロット達は、心中の高ぶりを感じていた。クルツもその1人であった。
「……しっかし、俺達もいきなり重要な作戦を任せられたもんだよな。」
クルツは、僚機に乗る同僚に14番機のハインツに話しかける。
天候が快晴のお陰でいつも悩まされる電磁嵐が存在せず、通信状況は非常に良かった。
「どういう事だ?クルツ」
「今まで基地で砲台替わりだったのに、いきなり最前線の友軍部隊の支援だぜ。」
鈍足のマルダーは、機動性を優先するゼネバス帝国軍の現在の戦術には合致していなかった。
その為、この部隊を含む多くのマルダー部隊は、拠点や都市の対空砲台代わりに運用される事が多かった。
それがいきなり重要な作戦に投入される事になったのだから、クルツが違和感を覚えるのも当然である。
「俺達は対空戦闘をやってきたからな。補給線を攻撃する敵の空襲に対抗する為だろう。空軍のシンカーも全然足りないらしいし……。」
「12番機、14番機、私語は慎めよ。」
護衛部隊指揮官のマックス・ファルケンバーグ大尉が2人を注意した。
指揮官機は、部下の機体の通信内容を把握していた。
「護衛任務は、重要な任務だ。他の隊員もそれを肝に銘じておくことだ。」
「了解!」
30分後、彼らは、上空から接近する共和国空軍と遭遇する事となる。
遭遇した場所は、遮蔽物は何もない荒涼とした平地。
「敵の航空部隊を確認!」
最初に敵機を発見したのは、ゲーター2番機であった。
「敵が現れたぞ!全機対空戦闘用意!!!」
ファルケンバーグ大尉の大声が帝国軍のゾイド用通信機の発信する電波を経由して部下達の機体のコックピットに響き渡る。
この友軍の支配地域において、出現する敵は飛行ゾイド以外考えられない。
これまでレーン砦を包囲する部隊への補給は、共和国空軍の空からの攻撃によってすべて阻止されてきた。
今回、マルダー部隊が補給部隊の護衛機として参加しているのは、対空火器により、これらの上空からの脅威を排除する為である。
これまでマルダー16機で編成されるこの対空部隊は、拠点防衛用の戦力として、帝国領に襲来してきた多くの共和国空軍の飛行ゾイドを撃墜破してきた。
ゲーター3機は、本格的な対空火器こそ存在しないが、背鰭の3Dレーダーで上空の敵を捕捉し、友軍にその情報を伝える事で正確な対空射撃を可能とするという重要な役目があった。
「了解!!いよいよ現れやがったか」
機種は、ペガサロスとグライドラー……どちらも現在の共和国空軍の主力ゾイドである。
その数は20機。ペガサロスが8機、グライドラーが12機という内訳で、新型機のペガサロスと従来機のグライドラーの混成であった。
ペガサロスは背部にミサイル、グライドラーは、翼下に地上攻撃用の爆弾を搭載していた。
「全機陣形を組め!1機たりとも輸送隊に爆弾を落とさせるな!」
ファルケンバーグ大尉の命令が補給部隊を守るマルダー全機が戦闘態勢に入った。
対空部隊のマルダーは、減速しつつ、移動を継続する。同様に減速しつつ補給部隊のザットンとモルガも、隊列を組んでの移動を継続する。
彼らは、最悪の場合、各機ばらばらに撤退する様に補給基地の司令官から命令を受けていた。
上空を飛ぶ共和国航空部隊は、青空に見事なV字隊形を描いていた。それらの鋼鉄の鳥達の翼には爆弾が抱えられている。
地上を進むゼネバス帝国兵達は、指揮官のファルケンバーグからリヒター達対空部隊の隊員や補給部隊の隊員に至るまでそれらの敵の脅威を認識していた。
「隊長!敵機が接近してきます!」
「慌てるな、4番機、6番機、8番機、12番機、16番機のみ対空ミサイルを発射せよ。その他の機体は、絶対に発射するな。」
「……(俺も指名されたか)」
クルツは、緊張と闘志が電流の様に背筋を駆け抜けるのを感じ、緊張した。
彼も、同僚の大半も対空戦闘は初めてではなく、友軍基地を攻撃する為に接近してくる共和国の飛行ゾイドを撃墜した経験を持っていた。
同時に彼らは、ゼネバス帝国軍に散々煮え湯を飲ませたヘリック共和国の保有する強力な空軍の空爆の恐ろしさを身を持って体験させられてきた。
「何故ですか?!敵がこっちに向かってきてるんですよ!」
マルダーに乗る対空部隊の隊員の1人―――――――――実戦経験の少ない新兵が焦燥感に満ちた声でファルケンバーグに尋ねる。
「ミサイルは、貴重だ。この戦いで浪費するわけにはいかん。我々が友軍部隊の下に到着するまでの間、どれだけの被害が出ると思っているんだ。それにマルダーの火器は、ミサイルだけではない。ミサイルに頼りすぎるな!若造」
「……申し訳ありません!指揮官殿!」
ファルケンバーグの考えを知り、冷静さを取り戻したその兵士は、謝罪した。
対空射撃の切り札である自己誘導ミサイルは、マルダーの胴体にも最大3発しか格納できなかった。
ファルケンバーグ隊長の命令通り、指名を受けた機体のみがミサイルを発射した。
マルダーの胴体上部のミサイル発射口が解放され、自己誘導ミサイルランチャーが姿を現す。
同時にランチャーに装填されたミサイルが発射される。
5機のマルダーから放たれた銀色の矢は、白煙を上げて青空へと駆け上がった。
マルダーの胴体に内蔵されていた自己誘導ミサイルは、対空ミサイルとも呼ばれていたが、地上と上空の両方の目標を攻撃する事が可能であった。
また目標や任務に合わせて弾頭の種類も複数存在していた。
今回、補給部隊の護衛任務に就いている対空部隊のマルダーに搭載されているミサイルはどれも対空用に炸裂弾頭を装着したタイプだった。
これらのミサイルは、敵の熱源を捕えるタイプの誘導装置を内蔵した誘導性能の高いミサイルであった。
共和国軍航空部隊は、自分達に向かってくるミサイルを見るや否や編隊を崩し、それぞれ回避運動に入った。
ここからは、ミサイルの性能や大気の状態、飛行ゾイドの性能、パイロットの技量といった様々なファクターが結果を左右する事になる。
「やった!」
「俺のミサイルが当たった!」
「まずは2機……」
澄んだ青空にオレンジの華が咲き、黒い煙が青空を汚す。
最初の撃墜機が出た。
クルツはその事に興奮した。新兵に至ってはコックピットで大声で叫んでいた。
動きが遅れたグライドラーが2機、対空ミサイルの破片をもろに受けて撃墜された。
最も近い位置にいたグライドラーは、ゾイドコアがある胴体を穴だらけにされて石の様に地面に落ちていった。
その機体は間もなく爆弾が誘爆したのか、空中で火球に変じた。
もう1機は、頭部キャノピーを破片に突き破られ、パイロットが重傷を負って操縦不能となった。
操縦不能に陥ったグライドラーが錐もみ状態で地面に向かって落下していった。
残りのミサイルも次々と敵機に命中するか、敵機の至近距離で爆発して上空に炎と鉄の華を咲かせていった。
正面からミサイルの直撃を胴体に受けたペガサロスは、胴体が吹き飛んで頭部と両翼を飛び散らせた。
1発だけはペガサロスの機首の30mmビームバルカン砲の連射で撃墜されたものの、4発のミサイルが直撃や飛び散らせた破片で敵機を撃墜した。
5機のグライドラーと2機のペガサロスが致命的な損傷を被り、飛行能力を喪失して地面へと落下を余儀なくされた。
黒煙を引いて墜落する敵機の運命を確認することなく、マルダー部隊のパイロット達は、上空の敵機の群れを見据える。
「ビビって逃げちまえっ」
誰に言う事無くクルツはコックピットで吐き捨てる。
こちらのミサイル攻撃に怖気づいて敵が撤退してくれれば……補給部隊のひとまずの安全は確保される。
指揮官のファルケンバーグも同様に敵が撤退する事を望んでいた。
これまで対空部隊を率いて友軍の拠点を共和国空軍の空襲から守り抜くための戦いを行ってきた彼は、友軍を守ると言う事は、多くの敵を撃墜すればいいだけの任務ではないと言うことを認識していた。
「ちっ、突っ込んできやがった」
「全機対空防御!」
「諦めの悪い奴らだな!」
敵機の動きを見た指揮官は直ちに指示を下し、クルツら、部下達はそれぞれ愚痴を吐き捨てる。
ミサイル攻撃を受けた共和国空軍航空部隊は、半数近くの味方機を撃墜されたにも拘らず、マルダー部隊に護衛された補給部隊を叩き潰すべく、突撃してきたのである。
ペガサロス6機と7機のグライドラーは、それぞれ機体に抱えた兵器を地上の敵に叩き付けるんと空を駆ける。
対するマルダー部隊も重装甲の殻に内蔵した対空火器を展開し、対空射撃を開始する。
マルダーの胴体側面に装備された加速ビーム砲と胴体に格納されていた中口径電磁砲、頭部コックピットの両側面に装備された機銃が上空に向けて一斉に発射された。
マルダー部隊は、互いに友軍機の死角を補い合う様に配置され、肉食獣から子供を守る為に円陣を組むある種の草食動物の群れを見る者に想起させた。
補給部隊に襲い掛かろうとする共和国軍の航空部隊を金属とエネルギーで形成された光の網が迎えた。
1機のグライドラーが電磁砲を左翼に受けて飛行不能に陥り、地面に激突してバラバラになった。
1機のペガサロスが頭部の30mmビームバルカンと20mmパルスビーム砲2門を乱射して輸送部隊に低空から突進する。
その後ろには、両翼に爆弾を搭載したグライドラーがいた。
「あのデカ足を近づけさせるな!奴の脚部には……」
ファルケンバーグ大尉の警告が部下の機体の通信機から発せられる。
グライドラーは、現在では旧式機扱いだったが、対地攻撃機としては侮れない機体であった。
グライドラーのボディに不釣り合いな程のサイズの脚部は、ミサイルコンテナと緊急離脱用のロケットブースターも兼ねていた。
グライドラーは空戦性能こそ低いが、巨大な脚部ユニットをウェポンベイとしている為、共和国空軍の標準的なミサイルや爆弾なら4発程搭載できた。
その事は、無力な補給部隊を護衛するマルダー部隊にとって脅威だった。
クルツのマルダーの胴体にペガサロスのビーム弾が次々と着弾する。
だが、マルダーの分厚いプロテクターに次々と弾かれる。
元々ペガサロスの機首の火器は、装甲の薄い飛行ゾイドを撃墜する事を主眼に開発された兵器であり、マルダー等の重装甲のゼネバス帝国軍の小型ゾイドを貫けるような兵装では無かった。
「当たれ!」
クルツは、胴体に中口径電磁砲を発射した。
電磁加速された砲弾は、見事ペガサロスの胴体を、ゾイドコアを撃ち抜いた。
胴体を撃ち抜かれたペガサロスが墜落した。
その背後を飛んでいたグライドラーの両脚部が開き、ミサイルが顔を出す。
「ミサイルを撃つ気か!?」
クルツが舌打ちしたのと、ほぼ同時にグライドラーは横合いから受けたビームを浴びて撃墜された。
「ありがたい!」
グライドラーを撃墜したのは、隣にいた僚機のマルダーから発射されたビームだった。
自分は、一人で戦っているわけではない。隣にいる味方機が共に補給部隊を守っている。
戦闘の興奮の中で忘れつつあった当たり前の事にクルツは、気付かされた。
「食らえ!」
1機のペガサロスが、補給部隊のゾイドに狙いを定めた。
ペガサロスの背部の対地ミサイルが発射される。
そのミサイルは、補給部隊のザットンを狙っていた。
標的にされたザットンの背部には、物資を満載した輸送コンテナが乗せられている。
ただでさえ機動性が低い上に、物資を満載して機動性が更に低下しているザットンが、ミサイルを回避出来る可能性は殆ど無かった。
「させるか!」
1機のマルダーが射線上に立ち塞がる。
友軍機の盾になったのである。
直後、対地ミサイルがそのマルダーの円形の胴体に着弾した。
「どうなった?」
ファルケンバーグは、部下の安否を気遣った。
黒煙が晴れ、補給部隊の盾となったマルダーが姿を現す。
そのマルダーは、丸い胴体の表面装甲を多少損傷していたが、戦闘能力を維持していた。
マルダーの重装甲は、その一撃に見事耐え切っていた。ミサイルを発射したペガサロスが中口径電磁砲を食らって撃墜される。
被弾したペガサロスが地面に激突して大破したのと同じ頃、後のグライドラーがマルダーの放った加速ビーム砲の一撃を受けて墜落した。
爆装していたグライドラーが全滅するのを見た護衛のペガサロスは、慌てて退却していった。生き残っていたのは、2機だけだった。
「全機、対空戦闘止め!」
「補給部隊の被害は?」
ファルケンバーグ大尉は、部隊の損害を確認する。
「護衛のマルダーが数機被弾しましたが、戦闘可能です。補給部隊の損害は、ありません。」
「よし!いい滑り出しだな」
ファルケンバーグ大尉は、上機嫌だった。
クルツを含め、彼の部下達も同様に笑顔を浮かべていた。
これまでレーン砦に向かう補給部隊は、幾度も共和国空軍の攻撃によって大損害を被るか、物資を全て焼き払われるかして任務を果たす事が出来なかった。
護衛部隊も空を縦横無尽に飛び回る飛行ゾイドを撃墜出来ず、損害を重ねてきた。
それが、今回は、補給部隊に被害を出さず、敵に大損害を与える事に成功したのだから、喜ぶのも無理は無かった。
5分後、隊形を再び整えた補給部隊と護衛のマルダー部隊は、進軍を再開した。
「今日は、此処で野営する!全機進撃停止!各機分散して駐機させた後、食事とする!」
太陽が地平線の向こうに沈み、3つの月と無数の星々が暗闇に染まった空を満たして暫く経ってから、ファルケンバーグ大尉は、部下達に待機する様に命じた。
「……(今日は此処までか。)」
クルツは、漸く眠れる事に安堵した。途中、休憩はあったが、睡眠は取れなかった。
「ここで休憩か。まるで墓場だ。」
同僚の一人がそうぼやいたのを通信機越しにクルツは、聞いた。
「確かにここは……」
クルツもその同僚と同意見だった。
彼らの周囲には、かつて破壊されたゾイドの残骸や放棄された陣地があった。
ここは、古戦場だった。
夜の闇で見えないが、恐らく周囲の砂を掘り返せば、埋葬された両軍兵士の遺骨に出くわす可能性は高かった。
敵の夜間爆撃を避けるにはおあつらえ向きの遮蔽物といえたが、感情面ではあまり長居したくない場所だった。
護衛のマルダーと補給部隊のザットンとモルガは、それぞれ離れた地点に機体を停止させた。
これも、敵の空襲を受けた際の被害を局限する為である。
「よし、予定の位置に着いたな。各員は、コックピットで食事を取った後、明日の明朝まで睡眠をとれ。今日は移動しない。」
「夜間は、移動しないのですか?」
ファルケンバーグの部下の一人が怪訝そうに言う。
「そうだ。十分に睡眠をとる必要があるからな!我々対空部隊にとっても、補給部隊にとっても睡眠は欠かせないだろう?」
「ですが、レーン砦攻撃に出ている友軍部隊は、一刻も早く補給物資が到着するのを待っています!」
今度は補給部隊の指揮官がファルケンバーグに意見を言ってきた。
彼らとしては、一刻も早く前線に補給物資を届けたいのだろう。とクルツは推測した。
護衛部隊の一部も補給部隊の指揮官と同意見だった。
航空攻撃が低調になる夜間を行動するのは、攻撃を避ける意味でも理にかなっていた。
「………今日はここで休息を取る。夜間の移動はしない」
護衛部隊の指揮官である髭面の男は、補給部隊の指揮官の意見を撥ね付ける。
「何故ですか?!大尉殿、友軍部隊は、我々の到着を一日千秋の想いで待っているのですよ?!」
「夜間の移動は、その分友軍兵士を疲れさせる。注意力散漫の兵士は、敵にとってその分奇襲を成功させる条件になる。貴官の想いは理解できるが、安全性には代えられない。」
「……分かりました。」
大尉の発言に納得したのか、それ以上議論しても無理と考えたのか、補給部隊の指揮官の男は、反論しなかった。
「諸君、食事を取った後は、各員休息を取れ、警戒要員は交代制とする!」
「了解」
「了解」
「了解」
「了解」
星空の下、補給部隊とその護衛達は、夕食を始めた。
「やっと食事か。………(退屈な味だな)」クルツは、カロリーバーを齧りながらそんなことを思った。彼の口一杯にカロリーバーの単調な食事が広がった。
彼らの食事は、魚の缶詰か、カロリーバー、水筒の中の水。
クルツは、これまで防衛任務に就いていた基地の食堂の食事が懐かしくなった。
食堂の食事も飛びぬけて美味いわけでは無かったが、少なくとも向こうは火の通った温かい食事を取る事が出来た。
昔は、夜は前線でも宴会だったのにな……。
クルツは、自分が新兵だった頃を、まだレーダーも精密誘導爆弾も光学兵器も存在しなかったあの長閑な戦場を思い出していた。
地球人が来訪する前、夜には、一部の例外を除いて戦闘が行われる事は無かった。
夜は大抵宴会か睡眠だった。
かつては最前線でも火を熾(おこ)して酒を飲んだ。だが、今ではそれは、命取りに繋がる行為であった。
地球由来のレーダーや熱センサー等の探知機が導入されて以来、焚火を行うのは、敵に存在を教えているのと同じだった。
「皆、食事は終わったな?これより就寝する!夜間見張りは交代制とする。最初は、2番機、4番機がペアで行え!」
ファルケンバーグは、最初の見張りを指名した。
「了解!」
「了解」
「(俺が指名されなくてよかった)」
そんなことを考えつつ、クルツは、支給品の毛布を被り、コックピットで眠りに就いた。
昼間の戦闘と対空監視の疲れもあって、彼は殆どの隊員と同様に直ぐに眠りの世界に旅立つことが出来た。
「出発だ。全機隊形を組め!」
「了解!」
「了解!」
「了解」
翌日、太陽がまだ地平線から昇るか、昇らないかの明朝、彼らは出発した。
「大尉殿、妙ですね」
「どうした?アインハルト中尉」
ファルケンバーグ大尉の副官 アインハルト・ハルシュタット中尉は、怪訝そうに顔を顰めて言った。
「敵が静かすぎます。我々の存在を無視しているかのようです。」
彼の言う様に昼間までの間、彼らが攻撃を受けることは無かった。
「……」
クルツを始めとする護衛を務めるマルダー部隊の隊員達や補給部隊の隊員も不思議に思っていた。
雲一つない青空には、敵の飛行ゾイドの姿もない。昨日襲撃を受けた時とは大違いだった。
「ライカン峡谷に入れば、敵の航空部隊もおいそれとは我々を爆撃できなくなる………急ぐぞ、諸君!後1日でライカン峡谷に入れるはずだ」
「はい!指揮官殿」
「了解!」
「……」
その時、部隊の外周で対空警戒任務に就いていたゲーター3機の内1機が、低空を飛ぶ大型飛行ゾイドの反応を捉えた。
ゲーターのパイロットは、その反応に該当するゾイドを知っていた。
そしてそれは、彼とその戦友達にとって不幸な事に友軍機では無かった。
「3時方向より敵機接近!!機種はサラマンダーと思われる!」
ゲーターのパイロットは、通信機に向かって叫ぶ。
「サラマンダーだと!?………数は?」
「1機だけです!」
「……サラマンダー!」
指揮官のファルケンバーグ大尉を含め、マルダー部隊と補給部隊のパイロットは、一様に驚愕した。
サラマンダーと言えば、ヘリック共和国軍の誇る大型飛行ゾイドであり、中央山脈を越えての帝国側基地や都市への爆撃を行っている防空部隊にとって宿敵ともいえる存在である。
この部隊も帝国の防空戦力の一端として、サラマンダーとは何度も交戦した経験を有している。防空部隊にとっての宿敵が出現したのだから、驚愕するのも無理はなかった。
「サラマンダー!どうして奴が低空を……」
クルツは、驚きつつもサラマンダーが低空飛行をしていることが気になった。
これまで、彼が、対空部隊のパイロットとして交戦してきたサラマンダーは、3~30機程の編隊を組んでの高高度爆撃戦術を取っていた。
それが、地を這う様な低空で単機で現れたというのは、腑に落ちない話だった。
間もなく、彼と彼の仲間達は、その理由を否が応でも教えられる事となる。
低空を飛ぶ機影が見えた。
サラマンダーの巨体は、低空で一際目立った。
その鋼鉄の怪鳥が、輸送部隊とそれを護衛するマルダー部隊の脇腹を狙って向かってくる姿は、上空から獲物を狙う猛禽類さながらである。
鋭い嘴の付いた頭部は、恐ろしく、巨大な翼は、力強い印象を見る者に与えている。
何よりも補給部隊と護衛のマルダーのパイロット達を驚かせたのは、その巨体だった。
「なんてでかさだ!レッドホーン位あるぞ!?」
「低空飛行してやがるからな!」
マルダー部隊の隊員達は、低空から接近してくるサラマンダーの巨体を見て驚愕する。
彼らも、防空部隊の一員として、共和国空軍のサラマンダーとの交戦経験を有している。
だが、それらは、高高度を飛ぶ豆粒の様にしか見えない敵機にミサイルを発射するという任務であった。
その為、サラマンダーがどの位の大きさか知る事は出来なかった。
大半の兵士は、漠然と大きいのだろうと考えていた。
サラマンダーの実際の大きさを確認した者は、地面に墜落した残骸を目撃した者だけだった。
そして、この部隊には、隊長と数名以外、その様な人間はいなかった。
クルツも、マルダー部隊の隊員の大半も帝国領への偵察任務と戦術爆撃に現れた機体しか見た事が無かった。
「あれがサラマンダー……」
低空を飛ぶ巨体に驚嘆するクルツ、彼の声にファルケンバーグの声が重なる。
「掃射機型だ!」
補給部隊に迫るサラマンダーは、通常のサラマンダーとは異なった形状をしていた。
その機体は、サラマンダーガンシップ。
現在のゼネバス帝国軍の地上部隊にとって空飛ぶ悪夢そのものといえる機体だった。
共和国空軍の誇る大型飛行ゾイド サラマンダーは、その巨体から拡張性が高く、多くの大型ゾイドと同様に任務に合わせて複数のバリエーションが存在していた。
その内の1つ、地上攻撃仕様が、このサラマンダーガンシップである。
通常型との相違点は、背部の火器管制・航法員用コックピットを複座化し、メインパイロットを含めて3人乗りに、2連装ミサイル発射機を撤去、代わりに全身に多数の地上攻撃用兵装を満載している点である。
左右の胴体側面に地上攻撃用のガンポッドと横向きに装備したバルカンファランクスをそれぞれ2基、脚部側面に地上攻撃用のミサイルポッドとを2基、そして全身に近接防御用のバルカン砲を7門装備していた。
重武装であるため、空戦性能と最高速度、運動性能は低下していたが、火力と装甲では通常型を凌駕していた。
地上攻撃用の装備で固めたこの機体は、帝国軍にとって一番遭遇したくない飛行ゾイドの1つであった。
「低空から襲い掛かって来るぞ!全員補給部隊を守れ!対空防御陣形!1~6番機は、ミサイル発射!」
ファルケンバーグ大尉の命令の元、マルダー6機から自己誘導ミサイルがサラマンダーガンシップ目掛けて発射された。
オレンジ色の推進炎を噴き出しながら6発のミサイルは、低空で補給部隊に向けて突進するサラマンダーガンシップの巨体に向かって突進する。
高い耐久性を誇るサラマンダーといえど、複数の自己誘導ミサイルを食らえば、墜落を免れる事は出来ない。
「やったか!」
ハインツがそう叫ぶのを通信機を通じてクルツは聞いた。
彼だけでなく、他の同僚も撃墜を確信していた。
サラマンダーガンシップの両翼から何かが射出された。
直後、サラマンダーガンシップの背後にいくつもの火球が生まれた。
白煙をまき散らし、オレンジに明滅する火球―――――その正体に気付いたクルツは声を上げた。
「フレアか!」
「しまった!」
驚愕するクルツの声に悔しさが滲んだファルケンバーグ大尉の声が重なる。
フレアの熱に誘導装置をかく乱された6発の自己誘導ミサイルは、明後日の方向へと飛び去っていった。
「しまった!」
数秒後、自己誘導ミサイルは、虚しくサラマンダーの後方で自爆した。
サラマンダーガンシップに損傷は無かった。
低空飛行で敵地上部隊を攻撃する事が主任務のサラマンダーガンシップには、ミサイル防御用にフレアを搭載していた。
この時期、ゼネバス軍の対空ミサイルは、多くが熱誘導方式を採用していた。
金属生命体による生態系が存在し、磁気嵐が吹き荒れるゾイド星(惑星Zi)では、電波ホーミング誘導やレーダー誘導方式よりも熱誘導方式の方が信頼出来たからである。
だが、この時は、それが裏目に出た。
更に2機のマルダーが自己誘導ミサイルを発射したが、先程と同様にフレアに攪乱された。
「……弾幕を張れ!!あのサイズだ。撃てばあたる!」
「了解!」
「補給部隊を襲わせるかよ!」
マルダー部隊は、中口径電磁砲とビーム砲で低空を進撃するサラマンダーガンシップを迎撃する。
電磁加速された砲弾とビームの火線を恐れることなく、重火器を満載した鋼鉄の翼竜は、獲物に向かって突進する。
「なんて防御力だ……!」
クルツが呻く様に言ったのと同時にサラマンダーガンシップの胴体左右にぶら下げられたガンポッドが火を噴いた。
大口径機銃弾の掃射を胴体に受けたマルダーが2機大破した。
更に2機が胴体下部のバルカンファランクスの集中射撃を受けて破壊された。
内1機は、頭部コックピットを撃ち砕かれていた。
「なんて火力だ!」
「5番機と8番機がやられた!12番機もだ!」
更に脚部のミサイルポッドが発射された。
「ミサイルだ!撃ち落とせ!」
「くっ!」
ミサイルは、半分以上がビームに撃墜され、残ったミサイルも補給部隊のゾイドに命中することなく、マルダーと地面に命中しただけに終わった。
「7番機!駆動系を損傷!」
マルダー部隊に更に被害が出た。
「いい加減んっ落ちろ!」
自身に向かって突進してくるサラマンダーガンシップの巨体に向けてビームを撃ち込みながら、クルツは、叫ぶ。
中口径電磁砲もビームも、陸戦ゾイドの装甲も貫通可能な火器である。
サラマンダーガンシップは、更に猛攻撃を浴びせてくる。
「このままでは、突破される……!」
こちらの火力は撃ち減らされているのに対し、サラマンダーガンシップは、火器を乱射しながら突進してくる。
このままでは、補給部隊がサラマンダーガンシップの餌食になるのは時間の問題である。
その時、ファルケンバーグ大尉のマルダーが対空ミサイルを発射した。
「……ミサイル?」
それを見たクルツは疑問を覚えた。対空ミサイルによる攻撃は、サラマンダーガンシップには通用しないと分かっている筈―――――――――彼だけでなく他の隊員も隊長の意図を図りかねた。
クルツは、発射されたミサイルの動きを見た。ミサイルは、〝一直線〟に飛んでいた。
「誘導装置をOFFにしている……!」
その動きを見たクルツは、隊長機が発射したミサイルの誘導装置がOFFにされている事に気付いた。
マルダーの自己誘導ミサイルは、パイロットの任意で誘導装置をOFFにすることが出来た。
無誘導ならば、砲弾と同じでフレアの影響を受けない。
ファルケンバーグは、サラマンダーガンシップの直線的な動きを見て予想進路上にミサイルを発射したのである。
命中させることが出来れば、サラマンダーガンシップもただでは済まないだろう……。
誘導装置を作動させていない自己誘導ミサイルは、ロケット推進する高性能爆薬を詰めた金属製の槍と同じだった。
そしてそれは、サラマンダーガンシップの予想進路上に突進した。
「いけ!」
クルツのマルダーも自己誘導ミサイルを発射した。
隊長と同じく、ミサイルの誘導装置をOFFにして、サラマンダーガンシップの予想新路上に向けて撃ち込んだ。2発のミサイルがサラマンダーガンシップへと突進する。
サラマンダーガンシップも全身に装備した近接防御用のバルカン砲とフレアをまき散らす。
鈍色の鉄の翼竜の巨体の周囲に無数の火球と火線が生まれる。
ミサイルは、サラマンダーガンシップの至近で炸裂した。
サラマンダーガンシップの巨体を炸裂した爆炎が包み込む。
少し遅れてクルツのマルダーが発射したミサイルがサラマンダーガンシップの近くで爆発した。
「やったか?!」
「今度こそ……!」
マルダー部隊のパイロット達と補給部隊のパイロット達は、固唾を飲んで、先程までサラマンダーガンシップが存在していた辺りを見た。
黒煙が晴れるよりも早く、サラマンダーガンシップの巨体が姿を現した。
2発のミサイルの爆発を突き破って現れた機体は、無傷ではなかった。
傷付いたサラマンダーガンシップは、右方向に旋回した。
サラマンダーガンシップは、撤退するのか、それとも補給部隊を撃破すべく、再び旋回してマルダー部隊の方向に突進するつもりなのかもしれない。
どちらにしても放置しておけば帝国軍の脅威である。
「全機攻撃開始!今の奴は死に体だ!」
「了解!」
「叩き落としてやる!」
今度は、マルダー部隊が攻撃する番だった。
マルダーの中口径電磁砲とビーム砲が胴体側面を晒して低空飛行するサラマンダーガンシップに次々と浴びせられた。
胴体側面のバルカンファランクスが破壊され、ビーム砲を受けた左のガンポッドが脱落する。
「よし!」
「落ちろ!デカブツ」
マルダーのパイロット達は、中口径電磁砲の発射ボタンを押し、ビーム砲のトリガーを引き続けた。
サラマンダーガンシップは、飛行ゾイドとは思えない耐久力で低空を飛び続けた―――――――だが、それも1発のビームが命中するまでだった。
マルダー部隊が乱射したビームの1発が、サラマンダーガンシップの左翼のマグネッサーウイングを撃ち抜いた。
推進力を失ったサラマンダーガンシップは、暫く低空をよろめく様に飛び続けたが、地面に激突して大破した。
激突時の衝撃で巨大な両翼………マグネッサーウィングは吹き飛び、頭部コックピットは潰れていた。
「………よし!サラマンダーを撃墜したぞ……!」
荒野の上で土色の煙と黒煙を噴き上げる巨体を見つめ、ファルケンバーグ大尉は、言った。
彼の声色には勝利の喜びはなく、敵を倒した事への安堵だけがあった。
サラマンダーガンシップとの交戦で受けた損害を考えれば、当然であった。
サラマンダーガンシップ1機の為だけに3機のマルダーを失い、3機が何らかの損傷を被った。
補給部隊のザットンとモルガが、損傷を受けていないのが不思議なくらいだった。
部下達の心中も敵を倒したことへの喜びよりも、全滅を免れた事への安心が優っていた。
「クルツ少尉」
「はいっ!」
指揮官に呼ばれ、クルツは恐縮した。
やはり勝手にミサイルを発射したのは不味かったのだろうか。彼はそう思った。
「何でありますか?ファルケンバーグ大尉殿!」
「お前は、先程の戦闘で敵機の予想進路上に無誘導にしたミサイルを発射したな」
「はい!大尉殿がそうされたので………」
「……‥‥よくやってくれた。感謝するぞ」
「………!」
予期せぬ言葉にクルツは、困惑した。
規律に煩い大尉は、命令違反で自分を叱責すると思っていたからである。
「……だが、命令違反は慎めよ!」
「………はい!指揮官殿!」
負傷者の救助と隊形の修正を行った後、補給部隊と護衛のマルダー部隊は、進撃を再開した。
サラマンダーガンシップは、現実のガンシップをモデルにしたオリジナルゾイドです。