とあるゆっくりプレイスに、1ゆの風変わりなゆっくりが居た。
ゆっくりれいむ。
人語を操る不可思議生首饅頭のうち、数多く生息している「通常種」と呼ばれる中でも特にポピュラーな存在である。
能力的にはゆっくり種の中でも最下層に位置する一方、その総個体数が最も多いと言われており、この群れも例外では無かった。
一口に風変わりと言っても、もみあげがウザい「わさ種」でもゲスの代名詞たる「でいぶ」でも無く、おりぼんが青い訳でも無い。見た目は何処にでも居る凡百の紅白饅頭だ。
では、一体何が変わっているのかと言えば、彼女は赤ゆの頃から「おとうさん」になりたがった。
だがそれは、れいむ種の数少ない取り柄である、母性(笑)を真っ向から否定する思考。
普通の母れいむなら何とか自分に負けないぐらいの「りょうっさいけんぼ!」にすべく「せいっさい!」も辞さずに厳しく育てようとするのだが、
「このむれのれいむは、すこしぐらいぼーいっしゅ!なほうが、とかいはよ」
と、自身の愛すべき番(つがい)は我が子の個性を尊重すべきとだと反対し、その理由を「ゆっくりりかい」した彼女は、渋々ながらに容認した。
これはゆっくりの常識を超越した、天文学的な確率で起こった奇跡。
カカア天下の番なら否応も無く叩き潰すだろうし、そうで無くとも取り合えず上辺だけ話を合わせて夫婦仲を保ち、躾と称して我が子を「えいえんにゆっくり」させる。
他の家族に「ぎゃっくたい!」と悟られずに事を成せれば、その母親はゆっくり基準で間違いなく良妻賢母だろう。
ママありすの言葉に一理あると納得させられるだけの背景と、人間的価値観では優秀な部類に入る個体だったからこそ、この物話も生まれたのだ。
先にも触れたれいむ種の多さについてだが、この群れでは全体5割前後を占める。お尻に前後と付くのは、本当にどうでも良い理由で死んでしまう(我侭を言う=ゲスなので制裁した、チョット目を離した隙に…ウッカリ踏み潰していた)から。
出産ラッシュの影響で6割を突破しても、3日と持たずに4割台まで落ち込んでいるのもザラ。それも、天災等は一切発生していないにもかかわらずに。
子育て上手が聞いて呆れる有様だが、他の種より「おちびちゃん」を求める傾向が強く、寂しさを埋め合わそうと早々に次の子を成すので、数の力によって虚構のイメージを植え付けているのだ。
彼女達のパートナーとして代表的なまりさ種が個体の多さではそれに続くのだが、その数は精々2割程度に過ぎず、この群れにおけるれいむ種の異常な繁殖力がお分かり頂けるだろうか。
男親としての役割を果たす事が多いまりさ種(ありす種との番に限り、その立場が逆転しているケースが少なくない)は比較的人気が高く、この群れの中でのまりさ種の需要は、人間が「希少種」に求めるソレに匹敵する。
そうした事情を裏付けるかの様に、この群れを率いる「長」は、本ゆんかその番がまりさ種でなくてはならないとする掟まで存在していた。
詰まるところ、れいむ種は滅茶苦茶余る。
完全無比の買い手市場、24時間365日大バーゲンセール開催中。通常ではまず有り得ない、れいむ種同士の番もこのゆっくりプレイスでは珍しく無い。
それでも独ゆんよりは遥かに「しあわせー!」らしく、独り身の寂しさから番を求めて旅立ち命を落としたり、中には単為生殖に励んでしまう喪れいむまで居た。
だから大抵のれいむ種は、赤ゆの頃から「年の近いまりさが居れば、餡を分けた姉妹を押し退けてでも自分を売り込め!」と、教育されている。
その為、狩りの達ゆんである親に何不由なく育て上げられた「美ゆ」なら話は別だが、亜成体ともなれば自ら「まむまむ」を開いて誘惑するビッチれいむの出現が後を絶たない。
そして若さ故の過ちを犯し、将来を誓い合った筈の「ふぃあんせさん」を泣かせてしまう若まりさは、3より「たくさん」数えられる長ですら、途中で投げ出してしまうほど多かった。
そう、母れいむが母親になる前は、そこら辺に生えている「にがにがなくささん」みたいにありふれた話の中の1ゆで、詳細は省くが紆余曲折あってママありすと番になっている。
新婚生活を迎える準備は万端に整っていたので、母れいむは破局の辛さから逃れようと余計に「すーりすーり!」を繰り返し、互いの額に「おちびちゃん」が実った茎を生やした。子が2倍なら、幸せは更にその倍になると言う寸法だ。
「ゆわーん、ありすのおちびちゃんたちはすっごくゆっくりしてるよ~」
「うふふ、れいむのおちびちゃんもとってもとかいはよ!」
ゆらゆら揺れるだけでもゆっくり、声は出ないが何か呟いてるみたいでまったり、徐々に大きくなって自分似のおちびが出来たと判明してすっきり。
一時はゆん生の終わりだと悲嘆に暮れていたが、その寝顔を眺めているだけで悲しみもどこかに吹き飛ばしてくれる、1粒1粒がキラキラと輝く宝石達だった。
各々4匹ずつ、合計8ゆ。ありすとれいむが均等に実っていた。なお、この時はまだ風変わりなれいむもお父さんになりたい、などとは欠片も思ってない。
「ゆゅーん!きゃわぃーれぇむが むのうなしまいにさきがけまっちゃきにうみゃりぇるよ!みんなれぇむをいっとうかゎ――“ぽいん”ぐぴょッ!」
「ゆゅ!まけにゃいよ!せかいのあいどるたるれーみゅがごのせんをとってうみゃれ――ゆわっ?じめんしゃんっれーみゅはきょーろきょーろちたくにゃいよぉぉぉ?やめちぇぇ“ぶちゃ”ぇ…」
『どぼぢでおちびちゃんがづぶれでるのぉぉおぉ!ありす(れいむ)がぢゃんどうげどめでなぎゃだめでしょをぉぉぉぉぉ?!』
ありすの第1子は生れ落ちた勢いそのまま元気良く地面に跳ね返り、不幸にも先の尖った小石に突き刺さった為、敢え無く絶命。
れいむの第1子は、落下地点が(子ゆでも何とも無い緩やかな)傾斜だった為、転がり落ちた先に生えていた木に勢い良く「ちゅっちゅ」して潰れてしまった。
どちらも偶々運が悪かった。
おうちの「ふかふかなべっとさん」の上であればこんな悲劇(笑)は起こり得なかったのだが、ぽかぽかな陽気に誘われて、お散歩に出掛けていたのだ。
まったり「じめんさん」を「ずーりずーり」していたら運良く生えたばかりのツクシを見つけたのも、思えば不幸の始まりだった。
その場で「むーしゃむーしゃ」していたら物足りなくなって「ぽんぽん」が一杯になるまでその辺のタンポポも貪り、そのままお昼寝と洒落込んだのがいけなかった。
「れいむがもうすぐうまれそうだからおうちでゆっくりしようねってゆったのに、ありすがむりやりつれだしたのがいけないんでしょぉぉぉ!」
「みつけたごはんさんはおうちにもってかえりましょうっていってるのに、いなかもののれいむがいやしくがーつがーつしはじめちゃったのがわるいのよぉぉぉ!」
大声で誕生を予告をする我が子を余所に、ゆぴゆぴと涎を垂らしながらグースカ眠りこけていた無能さを棚に上げ、互いに相手の配慮不足を非難する番共。
れいむの言う通り外出を控えるのが一番無難だったが、それではゆっくり出来ない。ありすの提案に従い、その場で食べずに持ち帰れば事無きを得ていたが、やはりそれもゆっくり出来ない。
結局のところ、彼女達自身がゆっくり出来るか否かが重要なのであって、我が子の安全性云々なんぞ2の次3の次に過ぎないのだ。
「ゆぎぎぎ、ちょっとありす、きんぱつのきっもちわるいおちびちゃんをかわいいれいむのおかおによせないでねっ、ふかいだよ!」
「れいむこそ、ぶきみなわさわさのかたまりをありすのめのまえにぶらぶらさせないでくれない?はきそうよ」
共に己の非を認めようとはせず、醜い罵り合いはやがて争いへと発展。顔面を鍔迫り合いの如く突き付けるうち、擦り合わさった茎から第2子が、第3子がと次々こそげ落ちる。
そして自分を命に代えても愛し、全身全霊で祝福すべき両親に、その誕生を気付いてさえ貰えないままどこかへ弾き飛ばされり、踏み潰されたりしていた。
「もっちょゆっぐちしちゃかっ‥‥‥ぐべぇぇ!」
「ゆはーゆはーっ、ありす、いちじきゅうっせん!だよっ、あささんがきたら、ゆっっくりおはなしあいするからね?」
「えぇ、そうしましょう、もうおかざりのいちをなおすきりょくもないわ…」
死力を尽くした婦々喧嘩も双方に成ゆんを永遠にゆっくりさせる程の殺傷能力が無い事が幸いし、ドローのまま折り合いを付けた。
疲れ過ぎて、赤ゆ達のおかざりを形見に持ち帰るも忘れて巣穴に帰り着くと、そのまま泥の様に眠ってしまった。
「ぴゅきゅ~!ありちゅのみゃみゃたちはちっともゆっきゅりちてにゃい いにゃかものよっ」
「ゅぅ、れいみゅちゃちうみゃれてるにょに じぇんじぇんきぢゅいてきゅれないよぉ」
停戦合意前から意識はハッキリしていたのだが、必死に茎にしがみついて嵐が過ぎ去るのを待っていた、最後に残った赤ゆ達。
恐怖のあまり、ギュッと目を瞑ったまま産声を上げることも無く耐え抜いていたのが災いし、まだ生まれていないと判断されてしまったのだ。
お腹が空いたと泣き喚けば良かったのだが、不甲斐ない両親への憤りが先立って、赤ありすは思いがけない行動に出る。
「ちょうよ、ぴゃぴゃがいにゃいのがいけにゃいんだわ!ありちゅはぴゃぴゃをちゃがちにいっちぇきゅるきゃら、いもーちょはゆっきゅりまっちぇちぇね!」
「ゆ?おねーちゃ?」
止める間もなくベットから転がり落ちると「ゆっち!ゆっち!」と一晩掛けておうちを飛び出してしまう。
そして2度と帰って来なかった。
「どぼぢてありすににだどがいばなおぢびぢゃんだげいなぐなっでるのよぉぉぉ!どごにやっだんだぐぞれいむぅぅぅ!」
「しらないよっ、そんなことよりこのうちゅういちきゅーとなおちびちゃんにくきさんをたべさせるのがさきでしょ!ばかなの?しぬの?」
「おねーちゃにょゆーちょおり、おちぉーしゃがいにゃいとゆっくちできにゃいんだね…」
赤れいむが頼もしい父性を自分に課すに至った要因は、此処にあったのかも知れない。