お父さんになりたいれいむ   作:兼久

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とぉ、はんっこうき?

「まりちゃゎまりちゃぢゃよ!ゆっきゅちしちぇいっちぇにぇ!」

 

『ゆっくりしていってね!』

 

パパありすから生えた茎を持ち帰って3日後。

 

不要なありす種が間引かれて1ゆっきりになっていた事も手伝い、極めて良好な栄養状態を保っていたママありすと母れいむの「妹」は、通常と比較してかなり早めの誕生となった。

 

経緯はどうあれ愛くるしいおちびちゃんの誕生に、一家は仮初の幸福に包まれる。

 

「ゅ?‥‥‥おかーちゃ?おとーちゃわどきょ?」

 

「ゆわぁ~~ん、なんてとかいはなあかちゃんなのかしらっ!ありすがまま‥‥‥がわりのおねえさん、よ?」

 

番の鋭い視線を感じ、即座に発言を修正するママありす。

 

建前上は預かりモノでも、自ゆんの餡を養分にして産まれた子。赤れいむの時は(自業自得の)ドタバタでまともなご挨拶も出来なかったので、喜びも一入といった感があった。

 

「れいむもおちびちゃんのおねーちゃんだよっ」

 

「れいみゅわ おにーちゃ ににゃるよ!」

 

『‥‥‥‥‥‥。』

 

母れいむも直感的に餡統の繋がり嗅ぎ取ったが、自ゆんの父と夫がふりんっ!した線が消えた訳では無い。それでもゆっくり出来るおちびちゃんは掛け替えの無い宝。まりさ種であれば尚更だ。

 

我が子の相変わらずのお父さん志向に呆れつつ、ママありすの意を汲んで額から茎を引き抜いて舌の上に乗せてやると、彼女はじっくり丁寧に咀嚼し始めた。

 

「しゃーくしゃーく!さぁ、あーんしてね?」

 

「ゆぴ?ごはんしゃん?まりちゃ ぁーんしゅるよ!」

 

優しい声色と共に差し出された、エメラルドグリーンに輝くペースト状のごはんさん。

 

どういう訳か両親も一緒に生まれて来る筈だった姉妹も居ないのだが、優しくて頼もしそうな姉達が笑顔で迎えてくれている。

 

自ゆんの誕生が祝福されている事に安堵した赤まりさが、促されるまま大きく口を開いた。

 

「むちゅ~~~っ!」

 

「まっ、まりちゃにょふぁーしゅとちゅちゅ???‥‥‥あみゃあみゃちあわちぇ~~~っ!」

 

「ゆゆ!? にゃんかれいみゅにょときちょちぎゃうよ?!」

 

舌先が触れ合った瞬間、妹まりさを食べてしまいたいくらい可愛いママありすが感極まって吸い付き、口移しで茎を食べさせる。

 

不意にファーストキスを奪われたショックも束の間。何時如何なる場合でも味蕾への刺激が最優先されるゆっくりに、甘味に勝る物は無い。

 

シャクシャクとした歯ごたえを残しつつ、ママありすの唾液で甘味が増しており、抜きたて新鮮1本丸ごと愛情タップリ。ゆっくりが出来る最高の調理が施されている。

 

瞳をキラキラと輝かせ、今は穢れの無きブロンドのお下げをブンブンと振り回し、うれしーしーを撒き散らしながら全身で喜びを表現する。きっと彼女のゆん生でも屈指の絶頂期だろう。

 

「ゆふふっ、ぺーろぺーろしてあげるからころーんしてね?おわったらとかいはなべっとですーやすーやしましょうねっ」

 

「ゆきゃきゃ♪ みゃみゃくちゅぐっちゃい♪ 」

 

幼い頃から想いを寄せていた従姉妹まりさとは結ばれなかったが、代わりに授かった天使。

 

ようやく掴んだこのしあわせー!を邪魔するゲスは、たとえ誰であろうと絶対に許さない。熱烈なちゅっちゅは彼女からすれば、その決意表明みたいなモノだった。

 

「ゆっ?! まりちゃのみゃみゃじゃにゃいよ!れいみゅのだょ!ていっせいしてねっ!? ぷくーっ!!」

 

「ゅぇ?‥‥‥ゆっ、ゆ、ゅ、ゆんやーぁぁ!! 」

 

赤れいむのゆん生初「ぷくー」に驚き、ご機嫌が一変した赤まりさが狂ったように泣き喚く。

 

碌に心の準備も出来ないまま、家族が増えるから自分の優先順位が下がるのを黙って受け入れろ、と言っても無理な相談だろう。

 

このままではママを盗られてしまうのでは無いか?人間でも抱く嫉妬や焦燥感に駆られての行動だった。

 

「おにぃちゃきょわぃぃぃ!みゃみゃ~~っ」

 

「ゆゆっ?! れいみゅちゅよしゅぎちゃってごめんにぇ?でみょまりちゃがわりゅ…」

 

「うまれたばかりのあかちゃんにぷくーするなんて、いなかもののすることよっ!ありすはおちびちゃんをそんな げす にそだてたおぼえはないわよ!? 」

 

だが「しまった、やりすぎた!」と後悔しても後の祭り。縋り付く赤まりさを庇い、ママありすは怒りで真っ赤になった顔を膨らませながら、赤れいむを怒鳴り飛ばす。

 

排除の対象となるのは、我が子であっても例外では無かったらしい。

 

「ごごご、ごめんにゃしゃぃぃぃ、れいみゅがわるきゃったでしゅ~っ!」

 

「ゆん、おちびちゃんもはんせーしてるみたいだし、ありすもいもーとも ゆるしてあげてね?」

 

ビリヤード玉サイズの、ほぼ「子ゆっくり」まで成長した赤れいむだが、ママありすには窘められることはあっても本気で叱られたのは初めてな上、烈火の如く怒っているのだから堪らない。

 

思わず「ぷしゃ!」っとおそろしーしーを垂れ流しつつ、涙ながらに土下座して謝ったが、ママありすは赤れいむを一顧だにしなかった。

 

ひたすら泣きじゃくる赤まりさをあやすのに注力し、泣き疲れて寝入った後も片時も傍を離れようともしない。その態度がまだ甘えたい盛りの赤ゆの心を、深く深く傷付けようとも。

 

母れいむの取り成しもあり、翌朝にはママありすの機嫌もようやく収まったが「まりちゃ」の誕生を境にして、親子の関係には明確な変化が生じていた。

 

「じゃあ、れいむはかりにいってくるよ!」

 

「いってらっしゃい、きをつけて」

 

『いってらっちゃい!』

 

赤まりさはママありすを母と慕う為、必然的に彼女が赤ゆ達の面倒を看て、母れいむが狩りに行くスタイルがそのまま定着しつつある。

 

番を見送ると、ママありすは赤まりさを生活の中心へと据えた。当然不満は燻り続けているが、中枢餡に刻まれた優しいママが豹変する恐怖が先に立ち、赤れいむは何も言えない。

 

それを良い事に、ママありすは自ゆんの躾が姉(でも兄でも無く姪なのだが)としての自覚を促し「とかいはなれでぃ」へとまた一歩成長させたのだと解釈。

 

そして甲斐甲斐しく赤まりさの世話を焼き、赤れいむがストレスにより比べ物にならないほど臭いうんうんしても無関心で、我が子同然に――否、愛娘そっち退けで溺愛した。

 

「ゆわ~~ぃ♪ おしょらをとんじぇりゅのじぇー!」

 

「ょ、よかっちゃにぇまりちゃ…」

 

遊ぶのも。

 

「ちゅっちゅ!ごはんしゃんちゅっちゅでたべちゃい!」

 

「まぁ♪ あまえんぼうさんね?かーみかーみっ」

 

食べるのも。

 

「べっとしゃんやぢゃー! みゃみゃといっちょにしゅーゃしゅーゃにゃの~!」

 

「あらあらあら」

 

寝る時まで、全て。ママと一緒の時間がたっくさん増えたのに、全然ゆっくりさせて貰えない。

 

腹いせにまりちゃへ意地悪の1つもしてやりたくなるが、目を離したフリをしながらシッカリ監視の目を光らせているのが、お下げに取るようにわかる。

 

特訓の成果が如実に現れていたお陰で、赤れいむは余計に哀しい思いをさせられていた。

 

「みゅぎ!みゅぎ!ひじゃり!みゅぎ! ゆっきゃっきゃっ、おにーちゃおもちろ~ぃ♪ 」

 

「もぉ!まりちゃはでたらめさんすぎて、ちっともとっくんさんにならないよっ」

 

一般論として脆弱な幼生が庇護されるのは極自然な話しなのだが、このナマモノは祖先からの記憶を中途半端に受け継ぐ特異性により、自我の発芽が異常に速い。

 

そのせいで自ゆんは可愛いから、選りすぐりのエリートだから、特別扱いされて当然なんだと過信し易くなる。

 

地位、能力、容姿…他と比較して優遇されるのには、何かしらの理由があるだろう。そしてそれが積み重なれば、神仏でさえ尊大な振る舞いをする。ゆっくりが増長するのは、自明の理だ。

 

「おひめちゃまがあしょんであげちぇるのに、にゃにいちぇるの?ばきゃにゃの?ちぬの?」

 

「ゆぎぎっ‥‥‥ままぁ~」

 

姫まりさとして蝶よ花よ甘やかされ、まりちゃは生後数日の赤ゆながら、早くもゲス化の兆候を見せていた。

 

もしも赤れいむが母れいむの厳しい指導を受けていなければ、我慢の限界を超え、ゆっくり殺しの凶行に及んでいたかも知れない。

 

「おちびちゃんはおにいさんなんでしょう?いもうとをゆっくりさせられなきゃ、とかいはにはなれないわ」

 

「しょーだしょーだぁ~」

 

人間でも母親と云う生き物は、とかく長子に対してコントロールし易い従順さを求める傾向にある。ソレが可能であるのかどうかが「良い子」の判断基準に直結するのだ。

 

幸か不幸か赤れいむは立派なお父さんになる為の試練なのだと己に言い聞かせ、耐え忍んでしまった。

 

「ゅ、ゆっくりりかいしたょ…」

 

「そう、さすがありすのおちびちゃんね♪ じゃあ、こんどはままとぴょんぴょんしてあそびましょう!」

 

こうなると我が子が何を訴えようとお構いなし。何せれいむ似のおちびちゃんが狩りに連れ出せるようになったら、すっきりー!を解禁するとの約束を取り付けている。

 

今度こそ自ゆん似の赤ちゃんを最低2ゆ産んで、まりちゃのお嫁さんとお婿さんにするのだ。そしてたっくさんの孫ゆ達に囲まれて――嗚呼、なんて都会派なゆん生!

 

ママありすとしては、1日でも早い方が良い。暇さえあれば「あんよ」を鍛えさせるべく、おうちの中を這わせるか跳ねる練習をさせ、期待に応えようと赤れいむは一生懸命頑張った。

 

その努力が決して報われないのに気付かぬまま。

 


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