お父さんになりたいれいむ   作:兼久

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ごっ、おうちせんげん!

生後から1週間が経過――

 

母れいむとママありすの間に生まれ、最後に残った赤れいむはスクスクと順調に育っていた。

 

「みゅーぎにぃ、ひじゃりに、ゆーりゃゆっ――ゆぎああぁ!いぢゃいいぃ」

 

「もぅ、なんどいったらわかるの?みぎとひだりがはんたいっこだよ!やりなおしっ」

 

とは言えお外に出すにはまだまだ早過ぎるので、巣穴では母れいむが左右の概念を叩き込んでいる。狩りの最中に危険が迫った時、そんな事もわからないのではお話しさんにならないからだ。

 

間違える度に、罰として鞭のような細い枝で軽く打たれる。やり直しの回数を物語るように、まだ白くてモチモチの赤れいむの皮は、ミミズ腫れだらけになっていた。

 

余談だがゆっくりは痛覚が異常なまでに発達しており、例えるならRPGで言う「1のダメージ」を0.1刻みで、0.8~1.2までなら正確に感じ取れる。

 

そして余程訓練を積むか、不幸にも虐待生活が恒常化して心を閉ざした個体を除けば、有らん限りのオーバーリアクションで自身の負傷を猛アピールするのだ。

 

これは種としての脆弱性をカバーする為の防衛本能であると推察され、人間の赤子が泣く事で親の庇護を求めようとするのと何ら変わりが無い。

 

ゆっくりが持つ他への依存性は尋常では無く、幼少期に親・姉妹に頼るのは勿論の事、成体になっても番に、群れの長や仲間達に、果ては自身の命を奪おうとしている相手にさえ縋ろうとする。

 

己の弱さを本能的に悟りながら、その一方で自ゆんは強い・賢い・美しいと誇張しがちな二律背反性は、種の保存にはそれなりーに役立っている。自然界の厳しい生存競争をハムスターにも劣るナマモノが生き抜くには、思い込みの力でアイデンティティを確立する他無い。

 

番や子供達に頼りになる存在と誤認させ、能力的には庇護される側でしかない存在を無自覚に奮い立たているのだ。時には本ゆんすら欺き通し、結果として一家や群れを破滅に導いてしまうのもご愛嬌、である。

 

赤れいむがゆっくりまったりな日と、えいっさいきょーいく!の日を交互に繰り返していた頃、群れではチョットした騒動が発生し、ゆっくり達の間ではその話題で持ち切りとなっていた。

 

「もっど、もっどじっがりざずれぇぇ、ごのぐぞばばぁ~~っ!」

 

「ごめんね、ごめんねれいむ、もうすこしだよ、もうすこしだからゆっくりだしてね?」

 

姑であるママまりさのおさげで腹を摩ってもらいながら、悪態をつくビッチれいむ。

 

居候中に喰っちゃ寝を繰り返して完全に「でいぶ」化しており、母れいむとママありす達とは異なる胎生にんっしん!をしていた裏切り者まりさの花嫁は、出産の時を迎えていた。

 

「ゆっぎぃぃぃ、うっ、ぶばれるぅぅぅ!ふごぉぉぉぉ!!」

 

獣の如き咆哮。眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、汗と涎と涙を汚らしく振り撒きながら息んでいる様は、醜いの一言に尽きる。

 

事の発端は、彼女の号砲から始まった。

 

「おーとしゃおかーしゃはじめまちて♪みゃりさがもーしゅぐうみやれゅるよ!ゆっくちうけちぇめてにぇ?」

 

そのまむまむから、赤まりさが少し顔を出す。善良で利発そうな子だった。

 

少し離れた位置では不安げな夫のまりさと、ママまりさのお帽子を借りたパパありすが、飛び出して来る赤ゆ達を受け止めようとスタンバっている。

 

「れいむ!ゆっくり、ゆっくりだよ!もうおちびちゃんのおかおがみえてるから、だーりんのおぼうしにひょーじゅんをあわせないと!」

 

「ぶるざぃぃぃ!でいぶざまにざじづずるなぁぁぁ!ふんぬぅぅぅ…」

 

ママまりさの助言を無視して、でいぶが“すぽーん!”と第1子を世に送り出す。

 

ナスビ型に膨れ上がった図体は下腹部の角度が斜めに上向いており、出産時に勢いを付け過ぎないよう加減が必要だった。緩やかに、放物線を描くのが理想である。

 

何も考えず力一杯ひり出せばどうなるのかは、容易に想像出来た。

 

「みゃりさわてんちのちゅばしゃをしゃ“ぶちゅ”」

 

赤まりさの口上が、途中で途切れる。

 

「?‥‥‥おちびちゃん、どこにいるの?だぜ」

 

幾ら構えたお帽子を覗いたところで「中に誰も居ませんよ」でしか無い。

 

「ぶぎぃぃぃ、まだうばれるぅぅぅ」

 

そんな状況なぞお構い無しに、でいぶは第2子をお空にリリースしようとしている。

 

「――まりさっ!」

 

このままでは、おうちの天井に餡の染みが増えるだけだ。それを悟ったパパありすは愛する妻に声を掛けると、咥えていたお帽子を愚かな娘嫁のまむまむに引っ被せた。

 

以心伝心。夫の意図を汲み取ったママまりさが、でいぶに覆い被さる自ゆんのおかざりの反対側の鍔を、ぎゅっと噛む。

 

「ゆっぷっぷっ、ひきゃりきゃぎゃやきゅまーちゃにょたんぢょーにちっとちて、たいよーしゃんぎゃいにゃいいにゃにゃいしちゃのじぇー“しゅぽん!”ーふぎょお?!」

 

夫婦の共同作業で見事、孫まりさをお帽子の中に収めていた。

 

「さいごぉぉぉ!ざっざとぢぢおやらじいどごろぉみぜろっ、ぐずばりざぁぁぁ」

 

「かちゅもくしぇよ!まんをぢしちぇびーにゃすしゃまがげんしぇにしゃいりんしゅるよ!」

 

「ゆゆっ、まかせてね!だぜっ、まりさはだでぃとしてのはつしごとをかんっぺき!にすいこーしてみせるのぜ?」

 

長女の出産に失敗し、次女はアレコレ口喧しい舅・姑に救われた。

 

せめて末っ子ぐらいは自ゆん達でどうにかしなければ、格好が付かない。産みの苦しみにも終わりが見え始めたところで、でいぶは己の面子を保つ為に愚図亭主を叱咤した。

 

我が子の誕生に感動し、スッカリ惚けていた裏切り者まりさ。喝を入れられたお陰でようやく使命を思い出し、キリリとお帽子を構え直す。

 

「にかいもうめばようっりょうはりかいしたよ!まりさはかまえてるだけでいいから、うごかないでね!」

 

でいぶが「噴っ!」と壱ひりすると、赤れいむが“ぽーん!”とお帽子に向かって綺麗なアーチを架けた。

 

『ちぇーのぉ、ゆっくちしちぇいっちぇね☆』

 

『ゆっくりしていってね!』

 

銘銘に決めポーズを取りながら挨拶をする赤ゆ達。パパありす達のおうち中に、久方ぶりとなる「しあわせー!」な空気がもたらされる。

 

娘夫婦は結果として2ゆ、1まりさ1れいむを授かった。ゆっくり的に長女の件は事故と言うより死産に等しく、カウントには含まれない。何時間かすれば、うんうんと共に忘却の彼方へと葬り去られるだろう。

 

全滅したのなら話は別だが、基本的にポジティブ思考の塊であるゆっくり達にとって、可愛いおちびちゃんと一緒にゆっくり出来る時間があるのなら、そうでは無くなった同族の死を悼む暇が惜しいのだ。

 

――そして、その翌日。

 

『ゆっきゅちりきゃいしちゃよ!』

 

「いくよおちびちゃんたち?せーのっ、ここをでいぶたちのゆっくりぷれいするよ!」

 

パパありすがゆっくりする間も惜しんで孤ゆん奮闘し、数日前には娘夫婦が孫と暮らせるおうちをどうにか完成させていた。

 

我が家の都会派なコーディネートとは比べ物にならない簡素な造りだが、ふかふかの干し草で作ったべっとさんを用意したし、狭いながらも食事の団欒と貯蔵スペースも確保した。当然、雨さんが多い日でもおうちに流れ込まないようキチンと設計してある。

 

出産が近いからと何かと理由を付けて引っ越さずに居座り続けたが、ママまりさの茎に実ったおちびちゃん達だってもう生まれていても良い頃なのだ。そろそろ落ち着かせてあげたい。

 

愛娘を半ば強引に説得し、嫁に出した娘ありすと身重の妻まで引越しを手伝いをしている最中に、事件は起きた。

 

『なにをゆってるのぉぉぉ!ここはありす(とまりさ)のおうちでしょおお!』

 

「はぁぁ~~ん?ありすたちはしんっちく!におひっこしするからこのぷれいすはいらなくなったんでしょ?あきすでおうちせんげんをしたんだから、ここはもうでいぶたちのおうちだよっ!」

 

「そうなの?まりさゆっくりしてないおうちにおひっこししなくもいいの!? ゆわわーぃ♪」

 

自慢の「まいすぃーとほーむ」が乗っ取られてしまったのだ。信じられない事に、犯人は留守を任せた筈の嫁でいぶと可愛いお孫ちゃん達。

 

餡の繋がった愛娘は咎めるどころか同調する始末で、親ゆ達はここに来てようやく自ゆんの子がゲスであると思い知らされていた。

 

「りきゃいしちゃら しゅぐにきぇちぇにぇ?れーみゅぴゅきぅしゅるよ?」

 

「しょーにゃのじぇ~♪じじーちょばばーわちゃっちゃとじぇちぇいくにょじぇ~♪」

 

『ゆがーん!』

 

ゆっくり話し合おうとしても埒が明かず、已む無く事の顛末を長に訴えたのだが、他ゆん同士での諍いならともかく親子間の問題なら「みんじ!ふっかいにゅー」だとマトモに取り合って貰えない。

 

この群れでは、空の巣穴は共用物として長が管理しており、パパありす(本来なら裏切り者まりさ)が1から作ったケースは例外として、原則「おうち宣言」は認められていなかった。

 

だが抜け道として、老ゆっくりが番に先立たれて独ゆんになったり、大家族用に増改築していたから2ゆで住むには広すぎる、とワザと空き巣にしたフリをして子や孫ゆ達のおうちと取替えっこする「せいっぜんぞーよ!」のケースに限ってお目溢しをしている。

 

今回はソレに該当すると言うのだ。後付けの理由になるのだが、裏切り者まりさの家族は生まれたばかりの赤ゆ達を含めて4ゆん。パパありす達は茎の子を含めても3ゆんじゃないか、と。

 

安住の地を愛する子と孫達に奪われたショックから来るストレスにより、ママまりさの額に実っていた3つの実まりさのうち、2つが黒ずんで腐り落ちてしまったと言うのに!だ。

 

長や幹部達も実情は何となく察してはいたが、滞納状態だった税も(しんぐるまざーでいぶ一家の分も合せて)一括納付され、群れの財政は一気に潤った。今更仲裁に入ってパパありす夫妻に味方をしたところで、何の旨味も無い。

 

それに、しっかり者の彼女達なら冬さんが来る前にはそれなりーに備蓄出来るだろうから心配御無用。などと勝手に結論付けると、お見舞い代わりとしてママまりさの白いおりぼん返還でお茶を濁している。

 

結局パパありすとママまりさは、裏切り者まりさ一家の為に掘った粗末な巣穴に棲む他無く、多くのゆっくりした宝物を失った。

 

けっかい!を彩る紅葉のカーテン、すべっすべの石さん製の豪華なテーブル、パパありすが「ぷろぽーずっ!」の為に鳥さんの羽根を集めて作った渾っ身の「ふーわふーわべっとさん」も、みんな盗られてしまった。

 

ママまりさが大のお気に入りの、おそとまで運ばなくても済む超画期的な「ぼっとん!」式おといれは、巣穴の立地条件的にたくみっ!のリフォームでも再現は困難だった。

 

赤ゆの頃からずっと姫まりさとして野生のゆっくりとしては破格の温室育ちだったママまりさには、耐え切れない転落ゆん生。その心労は、残された一粒種にもしっかりと伝播した。

 

「ゆぴぴぴっ、ゆっ、ゆくっ、ゆくち!ゆくくっ」

 

おかざりの無いゆっくりと並んで忌み嫌われる「足りゆ」と呼ばれる未熟児・足りないゆっくり。

 

おといれにも利用されていた「うんうん奴隷」を自分が産んでしまった事に絶望したママまりさは「非ゆっくり症」を発症。負の連鎖は何処までも留まる所を知らなかった。

 

愛する妻だけは失いたくない一心で、義姉(ママまりさの姉であり、母れいむの父親)に「ろーんさん」をして群れに伝わる秘薬「おれんじゅーすのもと」を得て治療に使ったが、その甲斐も無くおそらのゆっくりぷれいすに旅立ってしまう。

 

自暴自棄になったパパありすは「おたべなさい!」を試みたが、何遍やってみても悉く失敗。仕舞いには義姉の御世話係として一緒に暮らし始め、群れのゆっくりからは「めかけありす」と呼ばれるようになっていた。

 

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