朝ごはんさんは、さっきまで貯蔵庫でモゾモゾしてた芋虫さん。
優しいママが「さぁ、おちびちゃんが食べ易いようにしましょうね」真っ二つ!にしてから綺麗な葉っぱさんのお皿に並べてくれた。心なしか、大きいけど1つしかないお母さん達よりお得な気がする。
舌の上でもちもちとした弾力を愉しみ、むーしゃむーしゃすると、ぷりっぷりでジューシーな味わいがお口の中一杯に広がる。これメッチャ旨ぇ、パネェ、家族揃ってしあわせー!の大合唱をせずにはいられない。
もうすぐお母さんが狩りに出掛けるから、そしたら今日は都会派なママとゆっくりの日♪
一緒にお歌を唄いたい。ポンポンの上で跳ねるのも楽しい。沢山遊んだら最後に体中を綺麗にぺーろぺーろして貰おう。それから、それから~
赤れいむの心はウキウキと弾み、ピコピコしゃんでお空も飛べそうな勢いだった。
「にゃんで!? どぅちて?! きょーわみゃみゃちょゆっくちのひじゃよ?」
なのに何故?どうして自ゆんを置いてお出掛けするの?
この世の終わりみたいな顔をした赤れいむが、ママありすの行く手を遮ろうとする。確かに婦々間で取り決めたローテーションでは、ママありすが育児を担当する日であった。
赤れいむは生まれた時から「ゆんやー!」と「しあわせー」な日が交互に訪れていた為、ゆっくり出来なかったらその次の日は、必ずゆっくり出来るものだと思い込んでいたのだ。
「こらっ、ありすをこまらせちゃだめだよ!」
「ごめんねおちびちゃん‥‥‥いってきます」
ママありすは母れいむに頭を垂れると、後ろ髪引かれる思いでおうちを出る。
狩りに行く訳では無い。彼女はゆっくり出来ない親ゆを介護する為、俗に言う養育権(※)を一時的に放棄していた。
【民法上における親権のうち、子供に対する身上監護権に相当すると思しき俗称】
「さぁ、きょうもおかあさんとぴこぴこげーむだよっ」
「やじゃああぁ!! みゃみゃとゆっくち!ゆくっちしちゃい!いかにゃでぇぇ~」
赤れいむが泣いて縋るのはただただ寂しいから、なんて理由じゃないのは良ぉ~くわかっている。番の教え方はハッキリ言って「ぎゃっくたい!」に等しいのだから。
だがボーイッシュな方が都会派と言ってしまった手前、れいむの中では1番の狩ゆである彼女の教育方針に、異を唱えられなかった。
その分、自ゆんが面倒を見る日はトコトン愛情を注いでるつもりだ。その日どんなに辛い目に遭っても、明日はタップリ甘えられると信じていたからこそ我慢出来たに違いない。
そんな状況を承知の上で、どうして親孝行を優先するかと問われれば、全てが無償の愛とは言い切れない。当然ながら打算は有る。
妹だ。新たに生まれて来る妹まりさを、1ゆで良いから預けて欲しい。その子を自ゆんに似たおちびちゃんの許婚(※)として育てたいのだ。
【3以上は全て沢山になるので、叔母-姪(3親等)もハトコ(6親等)も同レベル。なお、他に候補の居ない環境下であれば姉妹でも何ら忌諱感を持たずに番となる】
1、2、たくさん。沢山居るのだから1ゆぐらいは分けてくれる筈。
両親達は承知するどころか相談すらされていないのだが、ママありすの頭の中では既に赤まりさと赤ありすを愛情一杯に育てる妄想で膨れ上がっている。
――お蔭で赤れいむのクシャクシャの泣き顔なんか、綺麗サッパリ忘れられた。
「ありずぅぅぅ、ばりざのっ、ばりざのおぢびぢゃんがぁぁぁ!」
少々辺鄙な所にある新しい実家から、生まれてこの方聞いた憶えが無いママまりさの絶叫が響く。おちびちゃんが、一体どうしたと言うのだ?
「ぱぱっ、ままっ、どうしたのっ!?」
慌てて巣穴に駆け付けると、腐り落ちて真っ黒になった塊をぺーろぺーろするパパありすと、ゆんゆん泣き喚くママまりさが視界に飛び込んで来た。
1つ、2つ。妹の成り損ないからは強烈な死臭が漂っており、思わず顔を背ける。ママまりさの額に残っているのは、たったの1ゆ。これでは計画が台無しではないか?
「おはかよ!ぱぱ、おはかをつくってあげてっ‥‥‥まま?ゆっくりよ、とかはいなままはゆっくりしていってね!」
「ゆぅぅ‥‥‥ありす、まりさをゆっくりさせてね?」
ゆっくり出来ない物の片付けは父親に任せ、母親にすーりすーりを繰り返す。取り敢えずゆっくりさせておかないと、大事な大事な妹まで死んでしまうのだから。
親ゆ達のおうちを取り返せれば全て丸く収まるとは思うのだが、多分難しいだろう。
妹として中立的な立場でお話しさんをしよう、と此処に来る前にもあんよを運んでみた。だが、姉まりさはブルブル震えながらも枝さんを咥え「さっさとかえってね!だぜぇ」と門前払いの姿勢を崩さず、まるで聞く皮を持たない。
中にはでいぶと姪っ子達の他にも誰か居るみたいだったが、本当にぷーすぷーすされそうだったので諦めるしかなかった。
「ゆんやぁぁ、まりさはおちびちゃんとゆっくりしたいだけなのにぃ~もうおうちかえるぅぅ!」
「ここだってすめばみやこよとかいはよ?いもーとがうまれれば、きっとゆっくりできるわ」
「――そうだよ!おちびちゃんはゆっくりしないでうまれてきてねっ、すぐでいいよ!」
「まま?どうしたのきゅうに?」
幼児退行が進み、駄々っ子のようにグズるママまりさ。
辟易しながらあやしていると、突然何か閃いたのかニコニコ微笑みながら額の実ゆっくりに声を掛け始めた。天啓でも下ったのか?不思議に思って話を聞いていみると、思いも寄らない答えが返って来る。
「みんなをゆっくりさせられるのは、まりさににたおちびちゃんだけだよ!だからとっくべつにまりさのまりさのまりさになおちびちゃんを、このこのおむこさんにしてあげるっていえば、きっとかんしゃしてまりさにおうちをかえしてくれるよっ♪」
「まま…」
近頃ゆっくり出来ないのは、おちびちゃんが居なくなったのが原因だと推論したママまりさ。そこから導き出される答えは1つ。最高にゆっくりできる自ゆん似のおちびちゃんさえ生まれてくれれば、万事目出度く解決するのだ。
そんなおちびちゃんと番になれる権利まで授けるのだから、あのゲス嫁だってこれまでの非礼を詫びながら、泣いて土下座するだろう。本気でそう思い込んでいるらしく、ママまりさの表情は自信に満ち溢れていた。
安心したらお腹が空いたので、娘ありすが持って来たおべんとさんを1ゆでがーつがーつ平らげると、そのままベットでゆぴゆぴし始める。
「ゆふぅ、まりさはおちびちゃんとすーやすーやするから、おちびちゃんじゃなくなったありすはもうかえっていいよ♪」
(まま‥‥‥なにをいってるの?このいなかもの、なかになにがつまっているの?あんこのうなのかしら?)
ママまりさはゆっくりしている自ゆんの姿を見せてあげる事によって、他ゆんをゆっくりさせてあげるのが大変得意な美ゆっくりだったが、それ以外は殆ど何も出来なかった。そして純天然ツンデレだった。
今のも「自分はもう大丈夫、ありすにも自分の家庭があるんだから、早くおうちに帰ってあげて」的な、労いの言葉なのだ。
「ごめんなさい、ありすのまりさはいまとってもつかれているの‥‥‥げんきになったら、きっととかいはなれでぃーにもどるから、ゆるしてあげてね?」
「わかってるわぱぱ、ありすはおうちにかえるけど、ままとゆっくりしていってね?」
だが理解したとしても、納得するかどうかはまた別の話。
本当におちびだった頃は、傍に居てくれるだけで充分しあわせーだった。姉まりさと一緒に、サラサラなきゅーてくるさんに埋もれてすーやすーやするのは大好きだった。
でも、他のおうちの子みたいにお帽子の鍔に乗って遠くを眺めてみたいとお願いしても「おかざりが汚れるのはゆっくり出来ない」と絶対に登らせてはくれず、トランポリンさんだってパパに頼めと相手にもされなかった。
気付けば狩りの仕方から都会派なコーディネートまで、生きるのに必要な術は全て父親に教わっていた。
あのゲスがした許婚への裏切りにも「あのれいむはゆっくりしてなかったから…」と、彼女にも非があるのと言わんばかりの台詞を吐いた時には、本当に驚かされたものだ。
お墓に向かってお祈りを済ませると、明日も顔を出すと父親に言い残し、すーりすーりしてから家路に着く。ママありすの中で、ママまりさは最早妹まりさを産む道具に成り下がっていた。
「ゆふん?どうしたのありすたち?まりさのおちびちゃんはとってもゆっくりしてるでしょ♪」
「ゆぴぴぴっ、ゆっ、ゆくっ、ゆくち!ゆくくっ」
『たっ――たりゆだこれーっ!! 』
その翌日。ママまりさの要望に応えたのか、妹まりさは早速生まれ落ちていた。
毟られたように少ない髪の毛には、最初からお下げが無い。お帽子も異様に小さかった。お目々はギョロギョロ動いて視点が定まらず、口からは舌がだらしなく垂れ下がり、何を言っているのか良くわからない。
ママまりさがのほほんとしていてるのは生まれてくるのが少し早かったからで、もう少し大きくなれば普通になると思っていたから。
箱入り娘の姫まりさは「足りないゆっくり」を見る機会が1度も無かったらしい。
「たりないゆ?このこが?‥‥‥うそだよ、まりさのおちびちゃんがそっんなことあるはっずがないよっ!こんなにゆっくりしてるんだよ!? いいっかげんなこといっわないでねっ!!」
「おじゃまするわよ?」
本当に邪魔と言うか、見計らったかのようなタイミングで訪れた幹部ぱちゅりーと、護衛みょん。
取り込み中だと追い返したい所だが、2ゆの用向きはパパありすが長に直訴していた、ゲス娘一家が仕出かした掟破りの件についてだった。
「ぱちゅりぃぃ!きいてね?きいてねっ!ありすたちがまりさのかわいいおちびちゃんをたりないゆだなんてゆーんだよ!? ごっくあくひどーなゆっくりどもをせえっさいしてね!」
「むきゅん?‥‥‥じじつじゃないの」
「みょーん」
「――っ!?」
幹部ぱちゅりーは足りゆまりさを一瞥すると、ママまりさの訴えをバッサリと切り捨てた。後ろの護衛みょんもその言に頷く。
驚きのあまり声も無く固まるママまりさを余所に、長の裁定とその理由を事務的に、淡々と述べる幹部ぱちゅりー。パパありす達の訴えは、無情にも退けられてしまった。
「おーぼーよっ!さいっしんっをようきゅうするわ!」
「それはおさにじゃなくてえーきさまにでもしてちょうだい、おやこ3ゆんでくらすのなら、このおうちでもじゅうぶんでしょう?それと…」
幹部ぱちゅりーがチラリと目線を送る。
護衛みょんが咥えた「はくろーけん」の先に括り付けられた葉っぱの包みを降ろすと、中からは税の担保として差し押さえられていた、ママまりさの白いおりぼんが現れた。
「まりさのっ、それはまりさのおぼうしのおりぼんさんだよぉぉぉ!」
「これはおさからのはいりょ、うけとってちょうだい‥‥‥もちろんこのさいていをうけいれれば、のおはなしさんだけど」
「ままっ、おちついて!ひきょうよぱちゅりー、こんなやりかたぜんぜんとかいはじゃないわっ」
久し振りに自ゆんのおかざりの一部を目の当たりにしたママまりさは、半狂乱になって取り返そうとするが、護衛みょんがはくろーけんを構えてソレを制していた。
長の権限ではおうちは戻らない。生まれてきたのは足りないゆ。目の前にぶら下げられた愛する妻のおかざり。ママありすが幹部ぱちゅりーを非難するが、こんな状態では取引にもならない。
「かえしてねっ!ひどいよひどいよっ、どうしてみんなまりさにいじわるするの?まりさがかわいいからってしっとしてるの?! 」
「まりさ…」
「むっきゅん、きまりのようね?」
まるで子ゆに戻ったかのように泣きながら突っ伏して、おさげをビタンビタンと地面に叩き付けるママまりさ。
その様子に勝ち誇ったかのような薄ら笑いを浮かべる、幹部ぱちぇりーと護衛みょん。貧すれば鈍す。パパありすには、もうどうする事も出来なかった。
「ゆわぁぁぁ、おりぼんさん!まりさのすてきなおりぼんさんおかえりなさいだよっ♪」
「ところでこのたりゆはどうするつもりなのかしら?なんならぱちぇがひきとってあげてもかまわないわよ?」
「ゆぴぃ?おぴょりゃー♪」
片側のもみあげで、足りゆまりさを物扱いで持ち上げる幹部ぱちぇりー。済し崩し的に取り戻したおりぼんを娘のありすに巻き直して貰い、ホックホクのママまりさが再び固まった。
幹部ぱちゅりーにさほど悪意は無かった。幾らうんうん奴隷ぐらいにしか使い道の無い足りないゆでも、一応我が子としての情もあるだろう。
他のゆっくりに知られては体裁も悪いだろうし、自ゆん達の目の届かない所であれば養子にでも出したつもりで割り切れる。それも考慮に入れての提案だった。
「ぱっちぇ、うぉしゅれっと、さいしんもでる!」
『ゆぅぅぅ?! 』
「むきゅーーーっ!? 」
真っ青になり、莫迦と叫びたいのを必死に堪える幹部ぱちぇりー。賢者の巧みな交渉術によりロハで奴隷をせしめるつもりだったのに、間抜けのせいで一瞬にしてご破算となってしまった。
彼女のおトイレは穴に捨てたうんうんを処理させるだけのぼっとん!式とは異なり、あなるさんを穴に近付けるとうんうん奴隷の舌先がギリギリ届く設計になっている。
その代わり、自由に動き回れるスペースが無いので例え足りないゆっくりであってもストレスが溜まり易く、そろそろ交換が必要な時期を迎えていたのだ。
「うんうんどれい‥‥‥ありす、まりさのおうちのおといれにはたりないゆがはいってたの?どうしておしえてくれかったの?そんなのゅ――ゆっくり!ゆくっ!ゆっく!! 」
「ししし、しつれいするわ!はやくきなさいっ、このおおばかみょん!」
「み、みょおぉぉん!」
そんな事も知らない?どうしようもないお姫様ね…と小馬鹿にするつもりが、ママまりさの徒ならぬ気配を敏感に察知した幹部ぱちぇりー。
厄介事に巻き込まれるのは御免だとばかりに足りゆまりさを放置して、一目散に撤退した。
「まりさっ!? しっかりしてぇぇぇ!! 」
『ゆっく!ゆっくち!ゆっくぴぃぃぃ!』
非ゆっくり症を罹患したママまりさが遊んでくれていると思ったのか、一緒になってピチピチと飛び跳ねる足りゆまりさ。
どうしてこんな事になってしまったのか?つい最近まで「とれんでぃーどらま」みたいに理想的な一家と褒め称されていたのが嘘のようだ。
あまりに非・現実的な光景にママありすは良く似た親子だなぁ、と思う程度でパパありすまで発狂寸前で慌てふためいているのも気にせず、ただ茫然と眺めていた。