ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート) 作:闘牙王
今、世界は混沌の中にあった。その原因、諸悪の根源ともいえる存在が
『リーシャ・バレンタイン』
唯一DBに対抗できるとされる聖石レイヴを生み出した少女。その代償に命を落としたとされている存在。彼女が五十年の時を超え、現代にやってきていることを。それだけではない。彼女と共に世界を救うために動いている少年がいた。
『
DBを操るDBを極めし者。それを超え、さらに先へ至らんとしている存在。
人々はまだ知らない。アキとエリー。二人が世界に何をもたらすのかを――――
多くの人々でにぎわっている街中に一人の女性の姿があった。だがそれはただの女性ではない。まずその容姿。長い髪に煌びやかなドレス。およそ街中で歩くには不釣り合いだと思えるような格好。だがそれは恐ろしく絵になっていた。むしろその姿こそが女性には相応しいと言えるほど。すれ違う男性が思わず振り返ってしまうほどの美貌を持った女性。
『六祈将軍 レイナ』
レイナはどこか楽しげな笑みを浮かべながらも気配を消したまま何かを追うように歩き続けている。それは尾行。その対象はレイナから離れた前方にいるローブを被った人物。
『売人のアキ』
それがローブの人物の名前。DCの幹部である十四歳の少年。レイナとは少なからず縁がある人物。だがレイナはアキに気づかれないように気配を消し、距離を開けながらその後をつけていた。しかしそれは特に珍しくもないこと。レイナはアキと会うときにはアキを驚かせるためにわざといきなりちょっかいをかけるという行動に出る。ある意味お約束のようなもの。
アキが大通りを外れ人気が少ない路地裏に入っていくのを確認し、自らが持つDBに力を込める。
『ホワイトキス』
それがそのDBの名前。無から有を生み出す六星DB。銀術師である自分が使うことによって本来の力を発揮できるDB。笑みを浮かべながらその力によっていつかのようにアキを捕えんとした瞬間
まるで凍り付いてしまったかのように、ホワイトキスの力を使うことができなくなってしまった。
「え……?」
思わず声が漏れてしまう。当たり前だ。自分の相棒とでもいえるDBの力が突然使えなくなってしまったのだから。ホワイトキスだけではなく、それ以前からDBを使っている自分でも今まで経験したこともない状況。すぐに確認するもDBに変化はなし。ちゃんと装備している。なのになぜ。そんな混乱をよそに
「……何の用だ、レイナ?」
背後から突如声が掛けられる。まるで最初からそこにいたかのように。咄嗟に飛び跳ねながら大きくその場から距離を取る。まるで戦闘さながらの動き。だが自身自分の行動に驚いていた。それは自分に声を掛けてきたのがアキであることを知っていたから。自分の前方にいたアキが突然後ろに現れたのだから驚いて当然。恐らくそれがアキの持つDBの力。もっともどんな能力なのかまでは見抜けてはいなかったが。だが驚いているのはそこではなかった。
(この感じ……まるで……)
それは気配、いや雰囲気と言ってもいいもの。自分の背後を取られた瞬間、アキから放たれたプレッシャーこそがレイナが取り乱している理由。それは殺気や敵意の類ではない。キングのような絶対的強者が放つ重圧でもない。もっと根源的な恐怖。この感覚を自分は知っている。そう、まるで初めてDBを手にした時の、人を超える力を目の当たりにした時の――――
「……残念、せっかく驚かせようと思ったのに」
「…………」
そんな自らの戸惑いを悟られまいとするかのようにレイナは悪戯が失敗してしまったような笑みを見せながら改めてアキと対面する。ローブによって表情を窺うことはできないがその雰囲気は明らかに不機嫌になっていると分かるもの。その姿に微笑ましさを感じながらもすぐにDBが使えるようになっていることに気づく。一体何だったのか。もしかしたら焦ってDBの操作を間違ってしまったのかもしれない。
「もう、そんなに怒らないでよ。久しぶりね、アキ。ちょっと見ない間に少し雰囲気が変わったんじゃない?」
「お前は全然変わってないみたいだな……レイナ」
どこか溜息を吐きながらアキは呆れ気味にぼやく。内心安堵していた。既に先程まで感じていた重圧もなくなっている。いつも通りのアキの姿。相変わらずのぶっきらぼうな態度。まるで先程の感覚は気のせいだったのかと思えるほど。そう自分に言い聞かせながら普段通りにアキに接することにする。
「褒め言葉として受け取っておくわ♪ それにしても今までずっとどこにいたの? 全然居場所が分からなくて探すのに苦労したんだから」
「……まあ、色々だ」
色々、の部分にそこはかとなく漂ってくるオーラに恐らく苦労があったのだろうと見て取れるがあえて触れることもないだろう。それはそれで楽しそうだがあまりやり過ぎるとまたアキの機嫌を損ねかねない。一応アキはDCにとって最重要レベルの協力者なのだから。
「そう、苦労しているのね。その年からその調子じゃこの先やっていけないわよ?」
「余計なお世話だ……それで、何の用だ? 用がないならもう行くぞ。俺も暇じゃないからな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 全く、取りつく島もないんだから……はい、これを渡すためにわざわざ来てあげたんだから感謝しなさい」
そのまま踵を返して立ち去ろうとするアキに慌てながら手に持っていた手紙を手渡す。前々から思っていたが六祈将軍でもあり、間違いなく美女である自分に全く興味を示さないのはどういうことなのか。DC内で流れているアキはDBにしか興味がないという噂も満更冗談でもないのかもしれない。
「これは……?」
「忘れたの? 前に頼まれてた賞金首の情報よ。今はそこに書かれてる砂漠にいるみたいね。結構強いって有名な奴らしいからちょっかい出す気なら気をつけなさい」
あからさまに怪訝な顔をしながら手紙を受け取るアキにあきれながらそう伝える。以前、アキに頼まれたある賞金首の居場所情報がそこには書かれている。賞金稼ぎの間ではそこそこ有名な相手だったらしく探すのに苦労はかからなかったのだが、アキからの頼まれ事は珍しく貸し一つということで引き受けた形。
「……そうか、助かった。このことは」
「心配しなくても他の奴らには漏らしてないわ。私も賞金稼ぎには興味はないし、でも意外だったわ。あなたが賞金稼ぎをするなんて……DCからは結構お金をもらってるでしょうに」
「…………」
自分の言葉にそのままアキは黙り込んでしまう。どうやら触れてほしくないことらしい。しかし疑問は尽きない。アキはDBを供給することでDCから多額の報酬を得ていたはず。賞金稼ぎを狙わなければいけないほど困窮しているとは思えない。かといってベリアルのように戦闘狂にも見えない。
「まあいいわ。でも不安なら一緒について行ってあげてもいいわよ、アキ?」
「いらねえよ……っ! なんだこりゃ!?」
「私なりのサービスよ、感謝しなさい」
ぶっきらぼうな態度をとっていたアキが手紙に残した自分のキスマークに気づいて赤面している。大人ぶっているようだがまだまだウブなのは変わらないらしい。一応人間の女にも興味はあるようで一安心といったところ。
「そういえばハジャがあなたに会いたがってたわよ? 最近会ってないんでしょ?」
「……ああ、別にこっちは用事がないからな」
「そういえば貴方、ハジャを苦手にしてたっけ。協力者とはいえ一応相手は六祈将軍のリーダーなんだから気をつけなさいよ」
不意に思い出したハジャからの伝言を伝えるもアキは黙り込んだまま。どうやらハジャが苦手なのは変わっていないらしい。気持ちは分からなくもないが無視し続けるのはいただけない。ただでさえ最近はアキはDBをDCに供給していない。あまりにも非友好的であれば背信だとキングに捉えられかねない。
「そのハジャも最近キングとやりあって大変だったみたいよ」
「ハジャがキングと……?」
「ええ、やり合ったって言っても意見がぶつかってって話だけど。ほら、最近解放軍の奴らが活気づいているでしょ? それで南の方が苦戦してるみたいで新しい六祈将軍を招集するかしないかで揉めてたらしいわ」
自分は人づてに聞いただけなのだがもしその場にいたら自分も今のアキと同じようになっていたかもしれない。解放軍は民衆で構成されている組織だがある意味帝国よりもDCにとっては厄介な相手。戦力では自分たちDCの方が圧倒的に上なのだが解放軍はゲリラ的戦法を得意としておりどうしても後手に回らざるを得ない。切り札である六祈将軍もその限りではない。
「……そうか」
「ま、非戦闘員の貴方には関係ない話だったわね。でも興味があるなら私が六祈将軍に推薦してあげてもいいわよ? ちょうど席も余ってるし」
「お断りだ。今以上にお前らの相手をさせられるなんてな」
「あらそう、残念♪ 気が変わったらいつでも言いなさい」
からかい半分で誘いをかけるもすぐさま振られてしまう。もっとも半分以上は本気だったのだが仕方ない。
「それよりもせっかくだしどこかでお茶でもしない? お姉さんが相談に乗って」
仕事モードから切り替えてアキをお茶に誘う。今を逃せば次に会うのはいつになるか分からない。それに自分としてもアキに協力してほしいこともある。だがアキがそれに答えるよるも先に
「あ、やっと見つけた! アキー!」
往来の人々が全て振り返るような大声と共に一人の少女が大きく手を振りながらこちらに向かってくる。年は十五歳ほどだろうか。誰か見ても美少女だと思えるような顔立ちに金髪のショートヘア。見事なプロポーションとへそ出しファッションにミニスカート。何よりもその天真爛漫さには女の自分から見ても生まれ持ったアイドル性を感じてしまう。
「っ!? え、エリー……? お前どうしてここに」
「忘れ物届けに来たの! はいこれ、お弁当! ちゃんと渡したからね!」
「わ、悪い……でもわざわざ渡しに来なくても別に……」
「あ、ひどい! あたし、頑張って作ったんだからね! それに今日もパパさんを探すんでしょ? ならちゃんと食べないとお腹減って倒れちゃうよ?」
「そんなわけないだろ……それにもう大丈夫だ。居場所は分かったし……」
「え、ほんと? よかった! じゃああたしも一緒に行っていい?」
「な、何でそうなる!? お前、自分が狙われてるって分かってんのか!?」
「えー? だってその時はアキが守ってくれるんでしょ?」
そんな自分を完全に無視したままアキと少女はそのまま痴話喧嘩、ではなくイチャつきはじめてしまう。もっとも少女に一方的に振り回されてアキがタジタジになってしまっているだけなのかもしれないが。いつもぶっきらぼうなアキが右往左往している姿は見ていて面白いがどうしたものかと考えていると
「あ、ごめんなさい。あたし、エリーって言います。アキがお世話になってます」
ようやく自分に気づいたのか、慌てて少女、エリーちゃんはあたしに向かってぺこりと頭を下げてくる。見た目からもっとギャルっぽい性格をしているのかと思ったがどうやらそうではないらしい。
「ええ、こちらこそ、私はレイナ。宜しくね、エリーちゃん」
「うん、こっちこそよろしくレイナさん! レイナさんはアキとはどういう知り合いなの?」
「お、おいエリー!?」
「私? そうね……いわゆる仕事の同僚ってやつかしら。エリーちゃんはアキとはどういう関係なの?」
どこか興味津々に尋ねてくるエリーちゃんに若干押されながらもとりあえずはそう答える。からかってもよかったのだがからかうべきアキももう十分だと言わんばかりに疲れ切っているので今回は勘弁してあげることにしよう。しかし
「むー……」
エリーちゃんはそのまま固まったまま動かない。その大きな瞳がじーっとあたしを凝視している。どうしたのか。そんな中ようやく気付く。その視線が自分の胸に向けられていることに。男性からその視線を向けられることは何度もあるが、女の子からこんなに胸を見つめられたことは初めて。しかも何故かエリーちゃんは自分の胸と私の胸を見比べている。そういうお年頃なのだろうか。そんなことを考えるのも束の間
「はい、あたしはアキの愛人をやってます! よろしくお願いします!」
エリーちゃんは信じられないような宣言をしながら再び自分に向かって頭を下げてくる。もちろんさっきと同じぐらいの大声で。自分はもちろん辺りの人たちはその言葉に固まってしまう。
「お、おまっ!? いったい何の話をしてるんだ!? いつお前が俺の愛人になった!?」
「え? 違った? じゃあ、アキは五股を計画してるクズさんなので近づかないでくださいの方が良かった?」
「な、なんじゃそりゃ!?」
「ママさんに言われたの。もしアキがあたしと同じぐらいおっぱいが大きい女の人と会ったらそう言いなさいって。それがアキのためだって」
「あ、あの野郎余計なことを……マザーの奴はどこにいる!? 一緒じゃないのか!?」
「今は家にいるよ。でも怒っちゃダメだよ、アキ。今ママさん、アキのためにすごく頑張ってるところなんだから!」
そのまま再びぎゃあぎゃあとアキとエリーちゃんは騒ぎ始める。付き合い始めのカップルがいちゃいちゃしているのをまざまざと見せつけられている気分。どこか微笑ましさも感じるが、当のアキはそんな余裕もなさそうだ。五股云々は置いておいてもママさん、マザーなる他の女性がいるのは間違いないらしい。普段の姿からは想像もつかないがどうやらやっていることはやっているらしい。
「そう……もっとお淑やかな娘がタイプかと思ってたけど、違ったみたいね。でも気をつけなさい、女を甘く見ると全方位から刺されるわよ?」
「う、後ろからだけじゃねえのかよ……」
ちらりと自分が嵌めている銀の蛇を見せつけながらそう忠告する。ホワイトキスを使った銀術にかけた皮肉、ではなく忠告。
「それと心配しなくて私はアキを盗ったりしないわ。からかって遊んだりはするけどね」
「よかった! ならママさんと一緒かも! 今度一緒に女子会しませんか?」
「や、止めろエリー! もういいだろ! さっさと帰れって!?」
「むー、アキのいじわる。いいもん、カジノで遊んでくるから! ではエリーはこのまま軍資金を調達してきます! じゃあまたねレイナさん、シロちゃん!」
おー! という声と共にエリーちゃんはそのまま来た道を走り去っていってしまう。元気の塊のような娘。自分以外の誰かにも挨拶しているように見える、いろいろ規格外の娘だが悪い娘ではないのは間違いない。
「色々苦労しそうね、ボウヤ?」
アキが言っていた色々の意味を悟りながらそうからかうも既にその姿はない。これ以上からかわれるまえに退散したに違いない。そんな弟のような臆病者に呆れながらもレイナは去っていく。六祈将軍として。そして銀術師として、師であり父の遺した銀の船を取り戻すために――――
見渡す限りどこまでも続く広大な砂漠。照り付ける太陽だけが全てを支配する世界。その中を一つのローブを纏った男が進んでいく。こんな砂漠にいったい何があるのかと問いかけたくなるような光景。だがその先に、砂以外の物があった。オアシス。砂漠から見ればちっぽけなものだが、砂漠で生きる生き物にとっては欠かすことができない楽園。だがローブの男にとって、そのオアシスすら目指すべきものではなかった。
それは一人の男だった。座り込み、体を休めている男。だがその腕には二本の剣が抱えられている。その男が紛れもない剣士である証。それを示すようにその男からは既に凄まじい重圧が放たれている。後ろから近付いているローブの男に気づいているからこそ。剣士には見間違うことない特徴が二つがあった。
一つが額にある大きな傷跡。一度見れば絶対忘れることがないであろうもの。そしてもう一つが
「……オレに何の用だ?」
世界において他にない、
今、本来あり得なかった