ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第二話 「最悪の契約」

 

拝啓 どうも。母さん、父さん、元気ですか。僕は……まあ元気です。とりあえずは元気、無事です。五体満足です。生きてます、はい。何とか自分のおかれた状況もおおよそ理解できました。でもこの状況は一体何なのでしょうか。

 

 

コンクリートの床に何故か正座した自分とその前に置かれている石。

 

 

めちゃくちゃシュールな状況です。しかもその石、宝石はまばゆい光を放っています。それはもう禍々しい光です。もしこの場に植物でもあれば一気に枯れてしまうほどの邪悪な力が滲みでています。そしてそれが何故か自分に話しかけているのです。はい、宝石がです。間違いなく人間ではなく、未知の存在です。しかも声を出すわけではなく、直接頭に話しかけてきます。俺はそれをただ黙って聞き続けています。というかただ呆然としていました。

 

 

俺、ラスボスになっちゃいました。

 

 

一言でいえばそういうこと。一体何を言っているのか俺も分からん。頭がおかしくなりそうだ。もうこのまま横になって深い眠りに就きたい。そして目覚めればきっと元の世界に、日常に戻っているんだ……うん、とりあえず落ち着こう。現実逃避していてもなにも解決しない。まずは一つ一つ状況を整理していこう。

 

 

まずは目の前にある宝石。偶然見つけた石。それを俺は見つけることができた。一体いつからあったのかはわからない。だが俺は喜んだ。何故ならその石は光を放っていたから。それはまさに俺にとってはまさに希望の光。この何も見えない程の暗闇の中でそれはまさに救いの光だった。そう……それを手に取る瞬間までは。

 

それを手にした瞬間、悟りました。これはまじでヤバいと。もう何がヤバいのか分からない程ヤバい物を自分は手に取ってしまったのだと。咄嗟にそれを捨てようとするも身体が動かない。まるで金縛りにあってしまったかのように。自分の体が自分のものではなくなってしまったかのような感覚。それに驚愕し、混乱する中、さらにそれ超える超常の事態が起こる。しゃべったのである。話しかけてきたのである。間違いなくその石が。頭の中に。まるで機械的な声で。およそ感情というものが感じ取れないような声で。

 

 

自分はマザーシンクレア、ダークブリングと呼ばれる魔石だと。この時を待ちわびていた。自らのマスターとなれと。それがお前の運命だと。

 

 

そう簡潔に告げた。

 

 

俺はただ黙ってそれを聞いたまま固まってしまった。それを肯定と取ったのかマザーシンクレア……めんどくさいのでマザーでいいか、うん、マザーは淡々と今の状況を俺に向かって話しかけてくる。だがそんなことは何一つ俺の頭の中には入ってはこなかった。

 

 

何故なら俺は目の前の存在、マザーのことを知っていたから。それは知識として。それも漫画の中の一つとして。間違いなくそれはRAVEと呼ばれる少年漫画の世界。自分はどうやらその世界へと紛れ込んでしまったらしい。どう考えてもあり得ないような、頭がおかしくなったかのようなお伽噺。いや、それが夢であったならどんなに良かったか。厨二病の妄想として笑い飛ばすことができただろう。だがそれはできなかった。まず目の前のマザーの存在。それは間違いなく人智を超えた存在。これが夢ではない、現実である証。そして何よりも明らかな理由。それは

 

 

自分が子供に、金髪の子供になってしまっていたこと。それまで暗闇で確認できなかった姿がマザーの光によって映し出された。

 

 

それはルシア・レアグローブと呼ばれる人物。RAVE世界における正真正銘のラスボスだった―――――

 

 

ふざけんなああああああっ!?!? なんで俺、こんな身体になっちゃってんの!? 一体何がどうなってんの!? ああそうだよ、何となくそんな気はしてたよ? 子供の体になっちまったんだと薄々は分かってた。でもこれ、想像の斜め上どころか一周回って裏返るぐらいのでたらめぶり、めちゃくちゃな展開なんですけどっ!? どういうことっ!? 憑依するのも、RAVE世界に来るのもまあいいとしよう。まったくよくはないのだがそこはいいことにする。この世界って剣と魔法のファンタジー、愛と勇気と友情の物語だし、やはり好奇心はある。普通に転生でもよかったのだが憑依もまあ、ありだろう。もし物語の主人公であるハルや、その仲間たちになれたら、なんて妄想したこともある。実際にはそんなこと出来るはずもないし、戦うことなんてできっこないのだが。そんな子供じみた発想ぐらいは許されてもいいだろう。そしてどうやらどういうわけかその機会が訪れたらしい………

 

 

いやちょっと待てええええっ!? 何でルシアなのっ!? 何でよりによってルシアなの!? だってこいつって敵だよ!? もうどうしようもないくらいの悪役、RPGで言うなら魔王役じゃんっ!? もう既に死亡フラグが立ちまくってんじゃねえか!? 主人公に、ハル・グローリーに、レイヴにボッコボコにされる未来しか見えないんですけど!? まだ名前のないモブの方が百倍マシだっつーの!? しかも何でシンクレアなのっ!? ただのダークブリングでもヤバそうなのにシンクレアっ!? 完璧に悪の根源じゃないっすか!? 

 

 

凄まじい混乱状態、極限状態によって俺は正座したまま固まってしまう。だがその脳裏は走馬灯のように様々な思考が入り乱れていた。そんな俺の姿に気づいたのかマザーがさらに詳しく状況を説明してくる。頼んでもいないのに。なんかそう……あれだ。RPGの街の住人、NPCみたいに機械的に、事務的に。

 

 

五十年前、ダークブリングであるマザーは世界を滅ぼそうとした。だがそれはホーリーブリング、レイヴと呼ばれる聖石によって阻まれてしまった。だが何とか一命を取り留めたもののマザーは五つのシンクレアとなって世界へ散らばってしまった。その中でも自分の前にいるマザーは大本らしい。そして五つのシンクレアたちはそれぞれ新たな所有者、自らの主に相応しい存在を探し求めているらしい。それは先の大戦での経験。その戦いにおいてマザーは、ダークブリングは敗北してしまった。だがそれはレイヴだけの力ではない。その担い手、レイヴマスターであり、剣聖とまで呼ばれたシバ・ローゼスの存在があったからこそ。それに後れをとってしまったと考えたシンクレアは対抗するべくダークブリングを統べるに相応しい主を探し、そしてルシア・レアグローブ、呪われたレアグローブと呼ばれる血を持ち、金髪の悪魔と称される存在に目を付けたらしい。だが本来の流れとは違ってしまったのかルシアは既にマザーが来た時には命を失ってしまっていたらしい。そこでマザーはその大本の力、時空操作の力によって適性のある魂を呼び寄せたらしい。何でも死者を蘇生することは不完全な今の状態ではできなかったため。

 

 

そんなこんなで俺はめでたくこの世界へ召喚、もとい巻き込まれることになったのだった。

 

 

「ふう……」

 

 

大きな溜息を吐いた後、ゆっくりと立ち上がる。ゆらりと、まるで亡者のように。完璧な無表情。そのままその手にマザーを拾い上げる。手のひらに収まってしまうほど小さな石。だがそれはかつて世界を滅ぼしかねない程の力、大破壊を行った存在。世界の敵、まさしくこの世界を、並行世界を消滅させんとする意志。それを分かった上で

 

 

「ふざけんなあああああっ!?」

 

 

俺は力の限り、プロ野球投手顔負けの勢いでマザーを壁に向かって投げつけた。

 

 

『っ!?』

 

 

瞬間、初めてマザーがどこか驚いたような気配をみせる。どうやらいきなりの俺の行動に戸惑ってしまっているらしい。当たり前だ。マザーからすれば何故そんなことをされたのか見当もつかないはず。というか拒絶されるなんて展開なんてこれっぽちも考えていなかったに違いない。

 

 

ああそうだろう。こいつからすれば当たり前のことなのだろう。うん、別に世界を滅ぼそうとすることを止めはしないよ? 元々こいつはそういう存在なんだろうし、知識としてそれは知ってるから驚きはしない。でも……でもな……それに俺を巻き込むんじゃねええええっ!? 何? 何様なのこいつっ!? 勝手に呼び出しといて何ちょっとそこのコンビニまで行ってきてみたいなノリで世界滅ぼせとか言ってんの? やるんなら一人でやれっつーの!? っていうか他をあたれっつーの!? 何? 適性があるから? 知るかそんなもん!? 魔王の適正ってなんだっ!? こちとら訳の分からない謎パワーもなければドンパチしたことすらないわっ! そこいらのおっさんにも負ける自信がある! そんな俺が世界を滅ぼす? 魔王になる? 冗談じゃない! ゲーム開始十秒でやられる自信があるわ! だいたいどうやってもお前ら負ける運命にあるんだっつーの! レイヴに勝てるわきゃねえだろ!? 悪は正義に負けるって昔から決まってんだよ! そんな負けが決まってるような、死亡フラグたちまくりの誘いなんて受けるか――――!?

 

 

俺はありったけの罵詈雑言をマザーに向かって叩きつける。声に出さずとも念じるだけで通じるらしいがこちらの頭の中、考えていることまでは読みとれないらしい。とにかくこんな奴に関わるわけにはいかない! 唯でさえルシアというこれ以上にない厄介な、死亡フラグの塊のような身体になっちまってんだ!? 加えてシンクレアまで持ってみろ!?  もうレイヴによって、エーテリオンによって星の彼方にまで吹き飛ばされるのが目に浮かぶわっ!? そんな命を張ったギャグをかます気は毛頭ないっ!そのまま一目散にその場を退散しようとした瞬間、

 

 

「っ!? 痛てえええええっ!? な、なんだこりゃあああっ!?」

 

 

凄まじい頭痛が俺に覆いかかってきた。突然に、何の前触れもなく。本当に頭が割れてしまうような頭痛がいきなり起こりはじめる。その痛みに場に蹲ることしかできない。だが頭を抱えながらも俺はその光景を目にした。そう、マザーが妖しく光っている。まるで何かの力を放っているかのように。間違いなく俺にむかって。どうやら俺を汚染しようとしているらしい。俺が予想外に反抗したために実力行使に出たらしい。血も涙もない存在。まさに悪の権化ともいえる魔石の為し得る技、理不尽だった。それはまさに洗脳に近い物。ダークブリングは持つ者に超常の力を与える。だが心の弱い物はそれに取りつかれてしまう。まさに悪魔の存在。そして目の前にいるのはその母なる存在、マザーシンクレア。その力は他のダークブリングとは文字通り桁が違う。その汚染から、洗脳から逃れることなどできない。だが

 

 

「こ……このやろう……人間様をなめんじゃねええええっ!?」

 

 

それを覆すことができる、まさしく常識外れの存在がここにはいた。

 

 

あろうことか目の前の存在は自分の洗脳をはじのけながら自分を何度も壁に叩きつけ始めたのだった。およそ考えられない前代未聞の事態だった。

 

 

『っ!?』

 

 

その事態に流石のシンクレアも焦りを隠しきれない。当たり前だ。まさか自分の支配を逃れる存在がいるなど想像もしていなかった。それはマザーのミス。マザーはその力でルシアの身体に適性がある魂を呼び出したつもりだった。だがマザーは自分でも気づかない内に間違いを犯してしまっていた。マザーはルシアではなく、自分自身に適性のある魂を、マスターを呼び寄せてしまったのである。

 

 

「おらああっ! この石ころ風情が! なめてんじゃねえぞ!」

 

 

そんな事情など露知らず、少年はマザーを何度も何度も壁に叩きつけまくる。力の限り。これまでのうっ憤を晴らさんと、恨みを晴らさんとするごとく。だが洗脳が、汚染が全く通じていないわけではない。事実その力によって絶え間ない頭痛が襲いかかってくる。だがそんなことなど頭にはなかった。ただこのふざけた石ころに身の程をわきまえさせてやるという感情だけ。もはや目の前の存在が何であるかもすっかり忘れ去ってしまっていた。本当ならマザーはその力で少年を消し飛ばすこともできるのだがやっと見つけた担い手足りうる存在、そして何よりもこの訳が分からない状況に翻弄されてしまいされるがまま。だがマザーには傷一つ付かない。ダークブリングは単純な力では破壊できない。それを破壊することができるのはレイヴ、そしてプルーだけ。さらにシンクレアであるマザーを破壊するには完全なレイヴかエーテリオンを以てしか破壊することはできない。しかしそんなことは少年とて知っている、分かっている。だがそれでも少年は止まらない。一応闇属性の適性を持っている、その片鱗が垣間見えるかのよう。ダメージは受けないものの、何度も壁に叩きけられるのはマザーも堪えるのか制止の声をあげるもそれは止まらない。

 

 

ただの人間が最強最悪の存在である魔石をボコボコにするという、知る人が見れば目を疑うような光景がしばらく続いたのだった―――――

 

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……」

 

 

ち、ちくしょう……何だか勢いに任せて暴れてしまったがとにかく落ち着こう。やっぱ物理ではどうにもならんか。とにかく困った時は物理を上げて殴ればいいと聞いていたがまだレベルが足りなかったか……し、しかし結果的には助かった。もうさっきまでの頭痛はなくなった。どうやらこいつもあきらめたらしい。どういう理由かは知らんが俺には通用しなかったらしい。もっとも頭痛は凄かったし、あのままずっと続けられたら流石にヤバかったが……というか俺、後一歩で死ぬところだったんじゃねえ? だってこいつ、あのシンクレアですよ? 漫画で言えば黒幕、ゲームで言えば隠しボスみたいなもんですよ? そんな奴に喧嘩売るなんて正気の沙汰じゃない。俺は既に正気でなくなってしまったのか……いや、そんなことはない! 俺は一般人だ、ノーマルだ! 

 

 

そんなことを考えているとしばらく黙りこんでいたマザーが再び話しかけてくる。どうやら何かを考え込んでいたらしい。一体何なのか。とうとう実力行使に出るつもりなのか。これはもう土下座するしかないかと戦々恐々としていると想像もしていなかった言葉が告げられる。

 

 

『自分と契約すれば何でも願いをかなえてやる』と。

 

 

そんなどこぞの白い営業マンのような謳い文句を。どうやら強制的ではなく、契約を結ぶ形にしようと考えたらしい。先程までと比べれば随分常識的だった。もっともそれでも十分以上ではあるのだが少しはマシになったといえるだろう。

 

 

だが怪しさ満点だった。これを簡単に信じれるほど俺は馬鹿ではない。どうみても罠だった。確かにこいつにはそれだけの力を持っているのかもしれん。しかしそれが真っ当に叶えてもらえるのかすら定かではない。どっかの黒い願望機ばりに悲惨な目にあいかねない。っていうかそれなら俺を帰してくれません? あ、それはダメ? ちゃんと契約を果たしてから? そう……え? でもそれって世界を滅ぼした後ってこと? それって矛盾してない? そうなったら願いもくそもあったもんじゃないだろっ!? は? 心配することはない!? 何で!? おい、ちゃんと答えろっつーの!? 

 

 

何とか会話を試みようとするも上手く疎通ができない。あっちが一方的に用件を伝えてくるだけ。会話のキャッチボールが成り立たない。元々会話などしたこともないのだろうから無理はないのかもしれないが。だが何にしても契約なんてするわけにはいかない。間違いなくロクな目に合わない。というか死ぬに決まってる。ルシアの身体にシンクレアとか無理ゲーすぎる。何としてもこいつを追っ払わなければ! そうなれば俺はただの子供。ダークブリングにもデーモンカードにもレイヴや主人公たちにも関わらずにひっそりと暮らすことができる……はず……

 

 

あれ……? 俺、なんかとんでもないこと忘れてるような気がするんだけど……うん、そう、確か俺って今……

 

 

そのまま改めて辺りを見渡す。マザーの光によってうっすらとではあるが周りの景色が見える。それは監獄だった。もうどうしようもないくらい分厚く、巨大な監獄だった。そう、今の俺は子供のルシアになってしまっている。それはつまり、俺は今、金髪の悪魔として幽閉されてしまっていると言うことだった。

 

 

その事実に息を飲み、冷や汗が流れる。そう、確かルシアは十六、七歳になるまで、正確にはDCの司令官であるキングが敗北するぐらいまではここに留まっていたはず。しかもこの監獄、確かなんかすごい代物だったはず。子供の俺がここから脱出できるはずもない。もしかしたら成長すればルシアの身体だし何とかなるのかもしれない。でもどう考えてもその前に俺、精神的に死んじゃいますよ? こんな暗い空間で、誰もないところで、ずっと閉じ込められるなんて……

 

 

悟るしかなかった。自分には既に選択肢など無かったのだと。目の前の魔石と、悪魔と契約することでしかこの暗闇から脱出することができないのだと。

 

 

幸いにもマザーはそのことにはまだ気づいていないらしい。それは好機でもある。もしそのことに気づかれれば脅迫されてしまうかもしれない。そうなれば無理な条件を飲むしかなくなってしまう。今ならまだ対等……とはいかないまでも一方的に強制されたり操られたりするような状況にはならない。それにこいつの言うことを素直に聞く必要もない! とにかくここを脱出できればいいんだ! その後には用済みとばかりにそこらへんに投げ捨てればいい! うん、それで行こう! 

 

 

「分かった、契約してやる。だが俺の言うことには従ってもらうからな。いいな?」

 

 

俺の言葉にマザーは何度か点滅しながら応える。どうやら了承のつもりらしい。ちゃんと話しかけてこないところにそこはかとなく不安を感じるがまあいいだろう。俺は改めてシンクレアをその手に掴む。

 

 

瞬間、凄まじい力が、波動が巻き起こった。

 

 

その強力さに、禍々しさに目がくらみそうになる。その力が自分になじんでいくのを感じ取る。この世界を滅ぼすことができるほどの力を持つ存在が、自分と一体になっていく。まるで生まれ変わるかのような感覚とともにそれは収まって行く。自分の姿には何の変化もない。その手にあるマザーもそのまま。だが確かに俺はこの瞬間、マザーシンクレア、ダークブリングと契約を結んだのだった。その力、感覚にも戸惑いながらも俺はとりあえず最初の命令を、力を振るわんとする。

 

 

「よし、まずはここから出るぞ。マザー、そこの壁を壊してくれるか?」

 

 

俺は何の気なしにマザーへと告げる。とにかくここからでなくては。いつまでも暗闇の中にいるのは御免だ。だがどうやって力を使えばいいのか分からない。ここはひとまずマザーに任せることにしよう。何でも俺を呼び寄せるため、そして五つに別れてしまっているため全盛期の力はないらしいがそれでもこの壁に俺が通れるぐらいの穴は開けれるだろう。仮にもマザーシンクレアなんだし。そんなことを考えた瞬間

 

 

この世の物とは思えないような爆音と、衝撃が巻き起こった。

 

 

「………え?」

 

 

そんな声をあげたことすら俺の頭にはなかった。ただそこには穴があった。いや、何もなかった。消え去ってしまっていた。その何重にも重ねられていた、絶対に脱出することができないはずの壁が。まるでゼリーを切り取るかのように。あっさりと、無造作に。

 

自らの手にあるマザーが光り輝いている。まるで喜びを現すかのように。自らの求める、相応しい主を得られたことによって。そしてかつての雪辱を、レイヴを葬り、世界を破壊することができる喜びによって。少年は気づくのが遅すぎた。

 

 

自分が絶対に結んではいけない悪魔との契約を結んでしまったことを。

 

 

 

追伸   母さん、父さん……俺、ダークブリングマスターになりました。

 

 


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