ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第三話 「運命の出会い」

どうも、ダークブリングマスターです。なんでこんなことになったのかよく分かりませんがマザーシンクレアと呼ばれるダークブリングと契約し、マスターになりました……

 

 

どうしてレイヴマスターではなくダークブリングマスターなのか、もうこれはいじめなのでは、いやがらせなのではないだろうか……まあそれはともかく置いておいて、今、俺は真っ暗な監獄の中にいる。何も見えない。かろうじてマザーの光があるだけ。

 

 

え? お前は前話で脱出したはずじゃなかったかって? そう、その通りだ。俺はあの時、マザーの力によってこの監獄の壁を破り、脱出することができた。そこまでは完璧だった。そのあまりに凶悪な力にドン引きしながらもとりあえずは自由な身になれたことで喜び、そのまま意気揚々と脱出した瞬間までは。

 

 

まばゆいほどの太陽の光、そしてどこまでも続く果てしない砂漠。地平線の果てまで続くような真平な世界を目の当たりにするまでは。

 

 

「………」

 

 

それを前にして少年はしばらく呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。当たり前だ。やっとあの訳が分からない暗闇から、監獄から脱出できたと思ったら何故か出た先は一面砂漠だったのだから。ここに至ってようやく少年は思い出した。そう、この監獄、メガユニットは砂漠にあったのだということを。流石にそんなことまで覚えていなかった。いくら知識があるといっても何でも知っているわけでも、覚えているわけでもない。

 

 

ははっ……どうなってんのこれ……? やっと脱出できたと思ったらこれ? ダメじゃん? いくら出れてもこんな砂漠があるんじゃどうしようもねえぞ? いくらルシアの体だとはいってもまだ恐らくは四、五歳。こんな砂漠を横断できるはずないっつーの!? ち、ちきしょう……これじゃあ何のために悪魔に魂を売ってまでマザーと、ダークブリングと契約したのか分かったもんじゃない! わかってりゃこんな奴と契約なんて……

 

 

少年が絶望に打ちひしがれ、その場にがっくりと首を垂れていると、手に持ってたマザーが光りながら話しかけてくる(といっても頭の中にだが)どうやら少年の様子がおかしいことを気にしているらしい。

 

 

ん? 何? 何でそんなに落ち込んでいるのかって? 見りゃ分かんだろうが!? 辺りが砂漠で困ってんだよ!? え? お前そのこと知ってたって? あ、そう………

 

 

「ふざけんなああああああっ!? 知ってたんならさっさと言えやああああっ!?」

 

 

少年は魂の叫びを上げながら力の限りその手にあるマザーを砂漠の彼方に向かってぶん投げた。それはもう盛大に。全ての恨みを、うっ憤を晴らすかの如く。そのままマザーは美しい流線形を描きながら広大な砂漠へと投げ捨てられる。もう用はないと、役立たずはいらないと言わんばかりの勢いで。少年は何とか息を整えながらもそのままその場を離れて行く。

 

 

ったく……酷い目にあったぜ。何が聞かれなかったから答えなかった、だ。詐欺師の典型みたいな言い訳しやがって。もうあんな奴に用はない。元々こうする予定だったんだからそれが早まっただけだ。まさか契約して数分の内に解約することになるとは。クーリングオフを遥かに超えるスピード解約だ。さて……これからどうすっかな。理想としてはこのままこの施設を行き来している飛行機なり、車なりに身を隠して乗り込ことなのだが上手くできるだろうか。というか早く隠れないと警備に見つかってしまう。あんな大きな穴開けたんだし、今頃大騒ぎになってしまっているはず。そうと決まればさっさと施設に戻って身を隠すことにしよう。

 

 

少年がそう判断し、踵を返そうとした瞬間、ふと違和感に気づく。それは自分の掌。何もなかったはずの場所。

 

 

そこにまるで当然のようにマザーの姿があった。

 

 

「なんじゃこりゃああああっ!?!?」

 

 

少年はそのあり得ない事態に驚き、悲鳴をあげる。だがそれは無理のないこと。さっき確かに捨てた筈のマザーが何故か自分の掌にあるのだから。もうちょっとしたホラーだった。混乱している少年をよそにマザーがいつもと変わらない機械的な声で話しかけてくる。何でも自分とマザーは契約をしたことでダークブリングの力を、様々な感覚を共有できるようになったらしい。そしてシンクレアは自らの定めた主が死ぬか、他に相応しい主が現れるまでは絶対に傍から離れないようになっているらしい。これでもし、シンクレアが何者かに盗まれたとしても心配はない。それと許すのは今回だけ。もし今度同じように自分を捨てようとすればどうなるか分かっているな。要約するとおおよそこのような内容をマザーは少年へと伝えてくる。だがやはり怒っているのか心なしか声に凄味が、放っている光に怒りが込められているような姿。それを前にして少年は顔を引きつかせ、背中に冷や汗を流すことしかできなかった。今更ながらの後悔していた。マザーと、ダークブリングと契約してしまったことを。その辺りに捨てておけばいいと甘く考えていた自分自身に。そんな訳がなかったのだ。言うならばこれは呪いのアイテム。自分では捨てることができない、どうすることもできない悪魔だったのだ―――――

 

 

 

「はあ……」

 

 

溜息を吐きながらも俺はそのまま自分の前にあるマザーへと目を向ける。今、俺とマザーは監獄の中にいる。マザーは光を放ちながら俺に向かって話しかけてきている。いや、正確にはこの世界の情勢や、知識を教えてくれている。元々違う世界の存在である俺に知識を与えることが目的らしい。もっとも本物のルシアであっても子供であるため教えるつもりだったとのこと。流石はダークブリングの母なる存在。およそ知りたいことの全て教えてくれる。頼んでもいないのに。俺が表面上はやる気をみせているのも理由だろう。明らかに機嫌が良さそうだ。まだ出会って三日ほどだがそれぐらいは分かるようになってきた。一応意志のようなものはあるらしい。だがその力はまさに神の、悪魔の力と言ってもいい物だった。何故俺達がまだこの監獄の中にいるのか。それはこいつのせいだった。

 

 

あの後、マザーと言い合っている間に俺は警備たちに囲まれてしまった。当たり前だ。唯でさえ異常事態を引き起こしてしまったのに、そのすぐ傍で馬鹿みたいに言い争いをしてしまっていたのだから。俺は考えた。このまま投降するべきか、抵抗するべきか。相手は複数。しかも銃を持っている。しかもさらに応援が向かってきているらしい。対してこちらは子供。確かにダークブリングマスターの力は手に入れたものの、その使い方も分からない。何よりもここで抵抗しても得るものはほとんどない。砂漠を脱出できなければ意味がないのだから。ここは方針を立て直す意味で大人しく捕まっておこう。もし死ぬような目にあわされるならその時には悪いけどマザーに頼んで、そこまで考えた瞬間、

 

 

凄まじい力がマザーからまさに放たれんとしていることに気づいた。しかも間違いなく先程壁に大穴を開けた時以上の力が。

 

 

「ちょ、ちょっと待てえええええっ!?」

 

 

突然の事態に驚愕しながらも何とかそれを抑えようとするも抑えきれず、その力が放たれてしまう。だがマスターとしての力を知らぬ間に使っていたのか、それは本来の軌道をそれ、あさっての方向に放たれていった。まさに間一髪。それが収まった後には二十メートル程のまるで大きな球体が物体をえぐり取ってしまったかのように、何も無くなってしまっている建物だった場所があった。

 

 

空間消滅 『ディストーション』

 

 

それがマザーのダークブリングとしての能力。作り出した球体内にある全ての物質を、空間を消滅させてしまうというデタラメな力。かつて世界を震撼させたシンクレアの力の一端だった。

 

 

それを目の当たりにした警備兵たちは、その力に恐怖し、悲鳴を上げながら、大混乱をおこしながら我先にと逃げ去っていく。その絶対的力の差を本能的に感じ取ったが故の行動。だがそれを逃がさないとばかりにマザーが再び力を放とうとするのを何とか少年は必死に抑える。というかもはや何がどうなっているのか分からない中で少年はただ力任せにマザーを止めようと悪戦苦闘している。端から見れば石と戯れている小さな少年なのだが本人は命がけ、必死だった。

 

 

ちょ、ちょっとお前何やってんの!? 何普通に大虐殺をしようとしてんの!? え? 俺を狙ってたから? そっか、俺のために……じゃなくてっ!? いいからやめろっつーの!? ここで暴れても何の意味もないだろうが!? そんなことしたらここから脱出する方法が無くなっちまうだろうが!? え? 何人か生き残りがいればいいって? 何なのその思考っ!? 一かゼロかしかないのかお前かっ!? とにかく俺の言うこと聞けっつーの! 大体、契約の時に俺のいうこと聞くって約束したじゃねえかっ!? そんなこと言ってない? この野郎……やっぱあの時、声を出さなかったのはそれが狙いか! 汚えぞこんちくしょう! 分かった、ここでどっちが上かきっちり分からせてやる! 覚悟しろよこらああああっ!!

 

 

少年とマザーはそのまま醜い仲間割れを起こしながらその場を転げまわっていく。もっとも少年が一方的にマザーに殴りかかっているだけ。しかもマザーには何のダメージも与えられないと分かっているにも関わらず少年は向かって行く。子供以下の精神年齢といってもいい有様。だがその間に監獄にいた警備員たち、そして囚人たちはあっという間に逃げ去って行ってしまう。気づいた時には既にこの監獄には少年とマザーだけ取り残されてしまっていた。少年はその状況に途方に暮れることしかできなかったのだった―――――

 

 

 

そんなこんなで少年とマザーは結局監獄の中に戻り、時間を過ごしていた。マザーの攻撃によって施設は半壊し、設備が使えなくなってしまったこと、砂漠の暑さを凌ぐため結局監獄の中に戻るしかなかったのは皮肉としかいいようがない。飛行機や車の類も全てなくなってしまっていた。もっともあってもこの体では使えるはずもなかったのだが。幸いにも食料と水はあったためそれに困ることがないことだけが救いだった。だが少年もただ無意味にここでじっとしているわけではなかった。それはあるものができるのを待っているため。

 

 

新たなダークブリングをマザーが作ってくれるのを待っているためだった。

 

 

作り出すと言うのは語弊がある、生み出すと言った方が正しいだろう。少年はマザーから知識を得ている中でそれを知った。マザー、そして他の四つのシンクレア達からダークブリングは生まれているのだと。故にシンクレアたちは母、マザーと呼ばれているらしい。そのことをこの時、少年は思い出した。確かキングもエンクレイムと呼ばれる儀式でダークブリングを生み出していた。もっともそれは大量のダークブリングを作り出すため。少量のダークブリングは常にシンクレアから生まれ続けているらしい。その瞬間、少年は閃いた。そう、マザーにこの状況を解決できるダークブリングを作ってもらえばいいのではないかと。

 

恐る恐る少年はそれをマザーに尋ねてみた。何も本気にしていたわけではない。もしできたらいいなあ、くらいの、軽い冗談のつもりだった。だが何でもないことのようにマザーは答えた。できると。狙った能力を生み出すのは少し時間はかかるが可能だと。

 

はっきり言って反則にも程がある、言うならば助けて○ラえもん状態である。だが俺にとってはまさに光明が差した瞬間だった。それができるのならばこの状況も何とかできる。問題はその能力。頼むにしてもやはり元々RAVEの世界に出てきた能力にした方がいいはず。それならきっと生み出すこともできるだろう。俺は悩んだ末に一つのダークブリングを生み出してもらうことにする。

 

それは『ワープロード』と呼ばれる瞬間移動のダークブリング。人や物体を呼び寄せたり、送ったりする能力を持つ、かつてキングが持っていたダークブリングだ。これが手に入ればここから脱出することもできるし、これからの生活で役に立つはず。ダークブリングを使うことに思うところ、抵抗が無いと言えば嘘になるが背に腹は代えられない。結局死んでしまえば何の意味もない。何よりもマザーと契約してしまった以上、避けては通れない道だ。

 

 

そう、俺は覚悟していた、いやあきらめたと言ってもいい。自分がこのマザーと離れることができなくなってしまったのだと。それは先日、いくら投げても手元からなくならなかったことからも明らか。もはや逃れることはできないと悟るしかなかった。だがそれでもこのままこいつの思い通りに世界を破壊する気など毛頭ない。いくら漫画の世界だからといっても俺が今いる世界だ。無くなってもいいなんて思っちゃいない。だが俺ではこいつを倒すことはできない。できるとしても少し抑えるのが関の山だろう。だが希望はある。

 

 

ハル・グローリー。

 

 

主人公であり、二代目レイヴマスター。シンフォニアの末裔。RPGでいえば勇者にあたる存在。

 

 

そう、ハルに助けてもらえばいいのだ! 名実ともに主人公であり、ダークブリングの対となるレイヴを持つ存在。彼ならきっと俺を助けてくれるはず。その力でマザーを、シンクレアを倒してくれるはず。俺ではなくマザーを。俺ではなくてマザーを。大事なことなので二度言いました。これならば何とかなるはず! 他人任せだと言う声が聞こえてきそうだがあえて無視する!

 

だが大きな問題がある。それはまだ今ハルは子供であるということ。ルシアと同い年なのだから恐らくはハルもまだ四、五歳のはず。レイヴマスターにすらなっていない。ならばハルが成長しレイヴマスターになるまで俺は待たなければならない。いや、正確にはハルがシンクレアを倒せる強さになるまで。

 

うん……それってめちゃくちゃ先だよな……少なく見積もっても俺の身体が、ルシアが十七歳ぐらいなるまでか。それまで時間稼ぎをするのが俺の役割というわけだ。でもちょっと待ってくれよ? ハルたちが成長したのって間接的にルシアっていう存在が、ライバルがあったからだよな? ということは何か? 俺がその役割を果たさなきゃならんわけ? ははっ……冗談だろ……まるで自分を倒しに来る勇者を魔王自身が育てなければいけないような意味不明の状況。い、いや! 倒されるのはマザーであって俺ではないのだが! だ、だがやるしかない……じゃなきゃこの世界がどうなるか分かったもんじゃない!? 俺が来たせいで世界がバッドエンドになりましたなんて洒落にならん!? 

 

 

そんなこんなでとりあえず俺は方針を決めた。『ハル助けて!』という何とも情けない作戦ではあるが仕方ない。他に方法もないのだから。

 

 

いや、もう一つ、方法を思いつきはした。それはマザーを他の誰かに渡すこと。それができれば俺は晴れて釈放、自由の身という悪くない手だった。

 

だがふと気づいた。一体誰に渡せばいいのかと。マザーの話ではシンクレアは自らの主に相応しい者にしか持てないらしい。ならば渡せる、もとい押し付けれる相手は限られる。

 

 

『ドリュー』 『オウガ』 『ハードナー』 『アスラ』

 

 

この四人が原作の時点でシンクレアを持っていた人物たち。こいつらならきっとマザーを持つこともできるだろう。だが渡した後が問題だ。そう、そうなれば間違いなくこいつらは力を増してしまう。当たり前だ。シンクレアを二つ持つことになるのだから。そうなればどんな不測の事態が起こるか分からない。誰かがシンクレアを独占してしまうかもしれんし、ハル達が原作通りなら全滅してしまうことだってあり得る。もしかしたら主人公補正が働いて何とかなるかもしれんがあるかどうかもわからない補正に賭けるなんて怖すぎる。

 

 

そしてもう一人が『キング』

 

 

言うまでもなく第一部のラスボスであり、ルシアの実の父。間違いなくキングならシンクレアを持つ資格があるだろう。だが原作ではキングの強さは凄まじく、ハルとその父であるゲイル・グローリーが二人がかりでやっと倒したほどの化け物。そんなキングにシンクレアが渡ってしまえば間違いなくハル達に勝ち目はない。というかキングと会うこと自体が自分にとっても死亡フラグだ。一応身体は実の息子なのだから。しかも本物の息子では、ルシアではないと知られればどうなるか。想像するだけで死んでしまいそうだ。

 

 

結局、自分が持つしかないのだという結論に至るしかなかった。だが持っているだけでも危険があることに今更ながらに気づく。そう、シンクレアを狙う者は文字通り山のようにいるのだということ。先程挙げた人物達がその最たるもの。四天魔王のアスラはともかく他の奴らは間違いなくシンクレアを、俺の命を狙ってくるはず。原作でも最強クラスの連中が命を狙ってくるなんて怖すぎる。

 

何? この四面楚歌? 絶望しかないんだけど? マザーだけでも精一杯なのに命を狙われながら、ハル達を導く……だと……? 過労で死にそうなんですけど……っていうかそんなことできんの……?

 

 

そうなれば自衛するしかない。当たり前の、当然の結論である。死ぬのはごめんである。いくらラスボスの身体だからといっても殺されるのはごめんだった。本当ならマザーに丸投げしたいところだがそうはいかない。さっきの惨状を目の当たりにしたのだから。

 

空間消滅。それがマザーの力。それがあればキング級の相手でない限り後れを取ることはまずないだろう。だがそれがあまりに強力すぎる。触れたものを全て消滅させる力。例えるならダイの大冒険の魔道士、ポップが使っていたメドローアという呪文に近い。使われた相手はほぼ確実に死、もしくは身体の一部を失うことになる。即死魔法に近い反則具合。いつまでもこのままにしておくわけにはいかない。この辺も何とかしなければ。幸いにもマザーは他のダークブリングも生み出せるようだからそれで何とかするしかないかもしれない。あれ? 俺、もしかして引き返せないところまで来ちゃってる……?

 

 

とりあえず、俺はこれからのことについてマザーに説明した。一言でいえば成長するまでは力を蓄えるということ。もちろん時間稼ぎが本当の狙いなのだが口には出さない。

 

この身体のままでは十分には力が発揮できないこと。そして他のシンクレアの所有者に命を狙われるかもしれないこと。もし派手に暴れればレイヴマスターであるシバ・ローゼスがやって来るかもしれないこと。もっともらしい理由を挙げた。

 

もっともシバは既に年老いており全盛の力はないためマザーには敵わないだろう。レイヴマスター選定の儀の時のように若返る薬を飲めばその限りではないが。それによってレイヴがハルの手に渡らなくなってしまえばおしまいだ。絶対にシバには接触するわけにはいかない。どうやらマザーもシバに対しては、レイヴマスターに対しては思うところがあるのか簡単にそれを了承した。助かった……ここで今のレイヴマスターなど敵ではないとか言われたらどうしようかと思った。やっぱ五十年前にやられたのはトラウマらしい。もっともまだ俺が小さな子供なのも理由だろうが。

 

だが悲しいかな、俺自身が力を付けなければいけないのは本当だ。命を狙われていることもだが、マザーにばかり任せていたら大変なことになる。襲いかかって来る奴みんな皆殺しになりかねん。まあ自業自得かもしれんが。そしてハルたちに強くなってもらうためにもある程度の強さはどうしても必要になってくる。

 

うん……俺、戦えるのかな? 一応ルシアの身体だし、何とかなるのかもしれんが……不安しかない。だが心なしかマザーが楽しそうだ。何かノリノリになってるような気がする。あの……何か邪悪なこと考えてませんか? マザーさん……何か光の妖しさが五割増しぐらいになってるんですけど……

 

 

ま、まあそれは置いておいて、やっとできました、ワープロード! どうやって生むのかと思ったら何かマザーが光った瞬間、コロンと落ちてきました。そんな飴が出来たみたいなノリでいいのかと突っ込みたいところだがまあいいだろう。

 

とりあえずそれを手にとってみる。大きさはマザーと変わらない。ただ石に刻まれているマーク、紋様がある。これがダークブリングを区別するためのものらしい。だが驚くべきことがおこる。そう、いきなりダークブリングが、ワープロードがしゃべってきたのである。マザーのように、頭の中へと。どうやらこれがダークブリングマスターとしての能力らしい。確かにマスターに相応しい力かもしれんがもっと他に何かなかったのか

 

……え? ダークブリングの力を百パーセント引きだすためには必要な能力だって? あっそう、何? 心を通わせると力が増すんですか? それってまるっきり正義側の論理じゃない? あっ!? い、痛てててっ!? やめろ、分かったから頭痛を起こすのをやめろっつーの!?

 

 

そんな理不尽なマザーのお仕置きを受けている中、ワープロードが挨拶をしてくる。とても礼儀正しい青年の様な声だ。思わずこちらまで背筋を伸ばしてしまった。どうやらダークブリングにも性格やらなんやら色々あるらしい。性別もあるのだろうかと思ったが聞くのをやめた。石ころの性別を気にするとか訳が分からん。そんな趣味はないし持つ気もない。とにかくまじめに話を聞くことにする。

 

 

どうやらワープロードは任意の人や物を瞬間移動させることができるらしい。もっとも移動させることができるのは自分自身、またはその所有物だけらしい。まあ当たり前か。相手を飛ばせたらどんだけ反則だっつー話になる。

 

そしてもう一つ、これは一度行ったことのある場所にしかいけないらしく、もしそれがない場合は完全にランダムになるらしい。なるほど……確かに俺自身はここ以外どこも行ったことがないしな……だがいつまでもここにいるわけにはいかない。どんな場所でもここよりはましだろう。とりあえず人がいる場所には出れるように調整してくれるらしいし、後は出たとこ勝負だっ! 今より状況が悪くことなんてあるわけないしなっ! では――――!

 

 

俺はそのまま手に持つワープロードに力を込める。瞬間、未知の力が俺たちを包み込む。まばゆい光によって思わず目を閉じてしまう。だがそれが次第に弱まって行き、何とか目をこすりながらも、目を開けたそこには先程までの暗闇の監獄はなかった。あるのは

 

 

水平線の彼方まで広がっている、青い海、そして澄んだ青空だった――――

 

 

「おお!!」

 

 

その光景に思わず歓声をあげてしまう。さっきまでとの光景の違い、そして本当に瞬間移動をすることができた感動からだった。辺りを見渡してみる。どうやらここはどこかの海岸らしい。いきなり街中にでも瞬間移動したらどうしようかと思っていたので好都合だろう。今は布切れ一枚しか着てないし、ボロボロの恰好をした金髪の子供とか怪しすぎる。

 

とにかくここがどこかを確認しないとな。手にあるワープロードは疲労しきっている。どうやらまだ生まれたばかりのせいか、力を使い果たしてしまったらしい。確かに生まれたばかりの子供の様なもんだしな、声は青年だったけど。そんなことを考えていると

 

 

「あれ? お前誰だ?」

 

 

そんな子供のような声が後ろからかけられる。思わずその声にのけ反ってしまうものの、何とか平静を装う。

 

 

だ、大丈夫だ……子供に見つかっちまっただけ。何も慌てることはない。適当にごまかしてからすぐに逃げてしまえばいい。うん、そうだ、そうしよう!

 

 

少年はそのまま何食わぬ顔で自分に声をかけてきた子供に向かって振り返る。だが瞬間、少年の顔は驚愕に染まる。その子供の姿によって。

 

 

小さな子供。歳は恐らくは自分と同じぐらいだろうか。活発そうな子供だ。だが何よりも目を引くのはその髪。

 

 

銀髪だった。

 

 

もうこれ以上にないくらい完璧な銀髪だった。自分の金髪とは何もかもが対照的な髪。それを前にして少年は口を開けたまま、ただその場に立ち尽くすことしかできない。

 

 

 

それが少年、ルシア・レアグローブ(仮)とハル・グローリー。二人の運命の子供の定められた出会いだった―――――

 

 


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