ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第三十三話 「予定調和」

時が交わる日。エンクレイム。その祭壇であるジンの塔の最上階で今、二人の王が激突していた。

 

ゲイル・グローリーとゲイル・レアグローブ。奇しくも同じ風の名を冠する二人の男。まさに世界の命運を決するに相応しい戦い。そしてもう一つの戦いがジンの塔のふもとで行われていた。

 

六祈将軍。キングの見出したDCの最高幹部たち。一人一人が一国に匹敵するといわれる強さの持ち主。まさにDCにとっては全戦力を投入した総力戦。そこに間違いはない。ただ誤算があったとするならば、相手となる者もまた王に匹敵、凌駕する実力を持つ者であったこと。

 

 

(ふぅ……ま、こんなもんかな……)

 

 

一度大きな溜息を吐きながら周りを改めて見渡してみる。大地は崩壊し、爆発が起こったようなクレーター、鉤爪のような爪痕も残っている光景。まるで戦争でも起こっていたかのような有様。それでも自分にとってはそう驚くような光景でもない。むしろいつも見慣れていると言ってもいい。この半年続けてきたマザーの鬼畜ともいえる修行の後の光景。違うとすればその中に四人が倒れこんでいるということ。レイナ、ベリアル、ユリウス、ジェガン。四人はそのままピクリとも動かない……ではなく動けない。まともに立ち上がれないダメージを与えたのに加えて拘束しているのだから当たり前といえば当たり前だが。そんな風に一息ついていると

 

 

『ふむ……ここまで鮮やかに拉致監禁をこなすとは……流石の我もドン引きするレベルだぞ、我が主様よ』

 

 

そんないつもの煩わしい声が聞こえてくる。その発言もそうだが、声のトーンがマジ過ぎる。本当にドン引きしているのが丸わかりの声色。

 

 

『だ、誰が拉致監禁なんかするか!? 単に無力化して拘束しただけだろうが! 人聞きが悪い事言うんじゃねえ!?』

『この惨状を見てお主が犯罪者でないと信じてくれるのはエリーぐらいのものじゃろう……うむ、魔石殺しより売人の方が二つ名としては合っていたのではないか?』

『お、お前な……』

 

 

本気で砂漠に送ってやろうかと思うほどの失礼過ぎる扱い。こいつはいったい自分を何だと思っているのか。というかそんな言葉どこで覚えてきたのか。間違いなくエリーの影響だろうと突っ込みたいところだがそれどころではない。せっかく売人なんて不名誉な二つ名を返上できたのに冗談ではない。あれだろうか。人身売買的な意味での売人扱いなのか。

 

 

(こ、こいつ……人を犯罪者みてえに……ま、待てよ……確かにここだけ見られたら……いや、しっかりしろ、俺!? 俺は何もやましいことはしてないはず!)

 

 

ふと我に返って自分の行動を振り返る。相手を痛めつけて拘束。確かにそこだけ見られれば誤解されかねないヤバい奴でしかない。そんな風に流されかけるも何とか自分に言い聞かせる。そう、自分は何も間違ったことはしていないはず。間違っているのはこの駄石だけ。もはや存在すら間違いのレベル。

 

 

『それにしても……精神的寝取りはともかくとして、まさか物理的な寝取りまでやってのけるとは。流石は魔石殺しなだけはある。もはやお主の事はヘタレとは呼べんの……クズめ』

『さらっとクズ呼ばわりするなっ!? 油断せずに全力でやれっていつも言ってんのはてめえだろうが!? 望み通り完封したのに何が不満だってんだ!?』

『いやなに、あまりにも一方的な蹂躙で見ていてつまらんかっただけじゃ。やはり右往左往しているお主を見る方が愉しいからの』

『お、お前な……』

 

 

つまらん、とばかりに吐き捨てるマザーにもはや言葉もない。いつもヘタレだのクズだの言いたい放題。油断をするな、慢心するなと耳にタコができるほど叱責され続けてきた。仕方なくそれに応じる様に修行をやり抜き、実戦でもその通りにやったはずなのにそれが気に入らないとかどういうことなのか。理不尽の塊でしかない。間違いなくこいつはシンクレア。それはともかく

 

 

(ちょ、ちょっとやりすぎた気もするけど……いや、相手は六祈将軍なんだ! やってやりすぎってことはないはず……!)

 

 

マザーに言われたわけではないが、少しやり過ぎた気もする。六祈将軍から六星DBを強奪……ではなく回収。混乱しているところを各個撃破。ベリアルは魔界の住人であり、DBがなくとも問題なく戦える実力の持ち主だが、ジ・アースの前では無力。散々叫んでいたが大地に飲まれて戦闘不能。ユリウスに関しては顔を傷つけられたことで激高していたが、アマ・デトワールの行動停止(フリーズ)で動きを止めバレッテーゼフレアで吹き飛ばした。ジェガンについてはユグドラシルの能力で身動きを封じ、そのまま拘束。レイナについてはゼロ・ストリームでシルバークレイマーの力を操り、ホワイトキスの力と併用して全方位から銀で拘束、行動不能に。その後、暴れて抵抗できないようダックスドルミールにて強制的に眠らせている。最低でも半日は目覚めない状態。念のため封印剣にてレイナの銀術師の力とユリウスの魔導士としての魔力も封印を施した。これで万が一ということもないはず。ヘタレだとと言われればそれまでだが仕方ない。相手は六祈将軍なのだから。

 

 

(っていうか、六祈将軍よりも六星DBの奴らに悪いことしちまったかも……うん、本当はこんなつもりじゃなかったんだけどな……)

 

 

自分的には六星DBについての方が重要だった。本当なら六祈将軍に持たせたまま戦っても問題はないのだが、回収することが出来るのにわざわざナメプする必要もない。そう思ってのワープロードによる回収だったのだが六星DBたちにとっては六祈将軍はマスター。ショックを受けて泣き出す物もいる始末。流石に加えて六祈将軍を攻撃させるわけにもいかず、自分が元々持っていた六星DBを使う羽目に。自分がダークブリングマスターであるばっかりにDBに気を遣わなくてはいけない現実。何よりも

 

 

『なんだ、今更寝取ったことに後悔しておるのか? 情けない、そんなことでは他のシンクレアたちを堕とすことはできんぞ?』

『うるせえよ!? そもそもその寝取りっていうの止めろって言ってんだろうが!?』

 

 

まるで自分が極悪人だとばかりに煽ってくるマザーのせいで余計にそれがひどい事になっている。他人のDBの操作については実は自分としては結構気に入っていた。初めて自分だけができる能力に加えて、相手の力を利用するというちょっと厨二心がくすぐられるもの……だったのだが実際に使ってみたらそれどころではない。DBの声が聞こえる自分からして見れば大参事でしかない。しまいには寝取りなんて不名誉過ぎる奥義に命名される羽目に。自分にとっては洒落にならない冗談だった。

 

 

(ったく……それはともかく、ハジャの奴をまた逃がしちまったな……俺がエンクレイムの阻止に来るのも読まれてたってことか……?)

 

 

心を落ち着かせながら戦況を分析する。今一番の問題はハジャの存在。その目的からどう動くのか全く読めない危険人物。それ故に真っ先に撃破したかったのだが案の定逃げられてしまった。単に逃走しただけならいいが、いつちょっかいを出してくるとも限らない。特にキングとゲイルさんの戦いを邪魔されるようなことがあっては全てが台無し。そういう意味ではまだ気を抜くわけにはいかない。そんな風に考えていると

 

 

『また何やら考え込んでおるようじゃが……よいのか、まだ六祈将軍が一人眠っておらぬようじゃが』

『ん? ああ、それはいいんだよ。あいつにはちょっと用があるからな』

 

 

気になっていたのかマザーはそう自分に問いかけてくる。言われた通り、六祈将軍の中でジェガンだけは眠らせていない。忘れているわけではなく、わざとそうしているのだが。

 

 

「…………」

 

 

当のジェガンは鋭い目つきでこちらをにらみながらも無口のまま。抵抗しても無駄だと悟っているらしい。それだけの力の差を見せつけたのだから当然と言えば当然。それでも自分に屈していないのはやはり六祈将軍である所以といったところかもしれない。

 

 

『なんだ、そんなにそやつのことが気に入ったのか? あまりいい趣味とは言えんの、エリーに知られれば魔導精霊力でお仕置きされかねんぞ』

『なんでそこでエリーが出てくるんだよ!? 俺が用があるのはジェガンが連れてるドラゴンの方だっつーの!』

『なるほど……あの男からドラゴンまで寝取ろうというのか……もはやクズですらないな』

『い、いいからてめえはもう黙ってろ……マジで』

 

 

どうやっても自分をクズにしたいらしいマザーの言動に言葉が出ない。何で自分がドラゴンを寝取らなくてはいけないのか。そもそもドラゴンではないのだが言っても仕方がない。石よりはマシだろうと思ってしまうあたり自分も末期なのかもしれない。そんな中

 

 

「き、貴様は……ジェガン……!? なぜこんなところに……!?」

 

 

驚愕の声と共に、倒れ伏していたはずのレットがいつの間にかこちらにやってきている。その胸には自分が切り裂いた斬撃の跡。しばらくは起き上がれないはずのダメージを与えたつもりだったが流石はレット、といったところか。だがレットの視界に自分は映ってはいない。

 

 

「……ふん、まだ生きていたかレット」

「それはこちらの台詞じゃ……貴様は……貴様だけはこの手で殺す……!!」

 

 

映っているのはジェガン唯一人。今すぐにでも飛びかからんとする殺気を漲らせながらレットはジェガンを睨みつける。対してジェガンはそんなレットをどこか侮蔑するように挑発するのみ。一触即発。そのままレットが拳を握りそのまま殺し合いにならんとするのを

 

 

「――――っ!?」

「……ごちゃごちゃうるせえぞ、てめえら」

 

 

デカログスを地面に突き立て、威嚇することで制止する。瞬間、まるで蛇ににらまれた蛙のようにレットはもちろん、ジェガンも身動きを止めてしまう。自分としては単にキングの真似事をしただけなのだが効果はあったようだ。いつも臭い臭いと馬鹿にされる自分の気配だが初めて役に立った気がする。そんな風に思いながらそのまま二人を無視したまま自分は黒龍へと近づく。手加減はしたが疲れてしまっているのかドラゴンは動こうともしない。

 

 

「ジュ、ジュリアに近づくな……!?」

「ジュリアじゃと……? 貴様、一体何を言って」

 

 

それまでの不敵さは、寡黙さはどこに行ったのか。ジュリアに近づこうとする自分に向かって激怒し、怒号を上げる。対してレットにあるのは困惑のみ。自分は両者の反応の意味も理由も識

っているがわざわざ口にする必要もない。

 

 

「黙ってみてろ……」

 

 

そのまま腰に携帯している袋から一つの瓶を取り出す。それこそが自分がこんな面倒なことをしている理由。そのままドラゴンの口に向かって瓶を放り投げる。動物的な本能か。ドラゴンはそれをそのまま口にし、飲み込んでしまう。

 

瞬間、それは変化した。

 

人間の何倍もある巨体は縮み、その巨大な羽根も、尻尾も、牙も。その全てが消えていく。だがそれは消えているのではない。ただ元の状態に戻ろうとしているだけ。

 

『霊薬エリクシル』

 

それが自分がドラゴンに飲ませた物の正体。あらゆる傷、体力さえも回復させてしまう物。だがその効果はそれだけではない。今重要なのはその者の状態を正常な状態にすること。

 

 

「え……? あたし……まさか、戻ってる……?」

 

 

それを示すように、そこには一人の女性の姿があった。見るものを魅了して余りある美貌と力強さを兼ね備えた女性。

 

『ジュリア・ライン・ドラグーン』

 

それが彼女の名前。レットにとっては幼馴染であると同時に恋人でもあった存在。解竜の儀に失敗し、知性のないドラゴンへと変貌してしまっていた彼女の本当の姿だった。

 

 

(よし……ちょっと心配してたけど、何とかなったか……)

 

 

知識としては理解していたがやはり実際に成功するとは断言できなかったものの、成功してほっとするしかない。だがそれも束の間

 

 

「ほんと……? あたし、戻ってる! ほんとに戻ってる――――!!」

「ぶっ――――!?」

 

 

声をかけるよりも早く、ジュリアにもの凄い勢いで抱き着かれてしまう。いつかの記憶が戻った際のエリーを彷彿とさせる勢い。だが

 

 

「すごいすごい! あんたどうやったの!? あたし、もう元に戻れないって思ってたのに! ありがとう、ほんとにありがとう!」

「うぷっ!? わ、分かった!? 分かったから、も、もう離れてくれ……し、死んじまう……!」

 

 

その力の強さは桁外れ。下手をしたらそのまま首が折られてしまいかねない怪力。ジュリアもまたレットと同じく竜人である証。その危険さもあるが何よりもまずいのはその恰好。

 

全裸だった。紛れもない、一糸纏わぬ女性の裸体。当たり前だ。ドラゴンの状態で服など着ているわけがない。その結果がこれ。エリーに勝るとも劣らない豊満なプロポーションを誇る肢体に抱きしめられるという男ならご褒美と言ってもいい出来事。その胸に顔を挟まれて窒息しそうな有様。だが何よりも

 

 

『ア、アキ!? どういうことじゃ!? さ、さては貴様最初からこれが狙いでエリクシルを集めておったな!?」

『ん、んなわけねえだろ……!? 俺だってこんな機会でもなけりゃ……痛てててて!? とにかく頭痛は止めろ、死んじまうだろーが!?』

 

 

間違いなく、今まで自分が受けてきた中で最大の頭痛が襲い掛かってきている事の方が問題だった。おかげで喜んでいいはずの感触も何もあったものではない。マザーからすればこれを狙ってエリクシルを集めていたのだと思われても仕方ない状況。だが言い訳をするなら自分は最初からそのためにエリクシルを集めていたわけではない。ジュリアについては知ってはいたものの、積極的に自分がどうこうする気は正直なかったのが本音。結局これはジュリアたち三人の問題なのだから。エンドレスを倒す……もといエリーを守るという意味では意味がない行動ではあったのだが奇しくも今、三人が揃うという状況ができた。結果強引に行動しただけ。貴重なエリクシル一本に見合う価値があるのかと問われれば返答に困るしかないが。

 

 

「あ、あんた大丈夫……? 今にも倒れそうだけど」

「い、いや……大丈夫だ。それよりも、これを使ってくれ……いつまでもその恰好じゃあれだし……」

 

 

どうやら頭痛で意識が飛びかねなかったらしい自分を心配したのかジュリアはようやく自分を解放してくれる。同時に頭痛からも。お礼を言うべきか文句を言うべきか分からないがそのまま自分が身に着けているマントを差し出す。流石にそのままではまともに話もできやしない。しかし

 

 

「あら、案外紳士なのね。でも心配しなくてもいいわよ。見られても減るもんじゃないし。なんならお礼にちょっとぐらい触ってもいいわよ?」

「……いい。気持ちだけ受け取っとくわ……」

 

 

当の本人は全く気にしている素振りを見せない。どころかそのままセクシーなポーズを取りながらこっちに見せつけてくる始末。どれだけ漢らしいのかと驚愕するほどの姉御っぷり。本当ならお願いしますというべきところなのだろうがこの状況でそれができる度胸は自分にはない。色んな意味で。そして

 

 

「ジュリア……本当に、ジュリアなのか……?」

「レット……」

 

 

ようやく落ち着いたのか。それとも混乱は続いているのか。まるで信じられないものを見たとばかりにレットは驚愕し、声を震わせている。当たり前だ。レットはジェガンによって幻を見せられ、ジュリアは殺されたものとばかり思っていたのだから。対してジュリアもそんなレットに気づき、言葉を失っている。何年かぶりの、会えるはずがなかった恋人同士の再会。

 

 

(ふぅ……とりあえず、これで一件落着かな? まあ余計なお世話だったかもしれないけど……)

 

 

そんな二人の様子を見ながら安堵するしかない。自分の行動のせいで、もしかしたら二人が再会することなく終わってしまう可能性をなくせたのだから。少し肩の荷が下りた気分。しかしそんな感慨は

 

 

「……今までいったい何してたのよ、あんた――――!?」

「ぐほっ!?」

 

 

これ以上ないジュリアのドロップキックによって粉々に砕け散ってしまう。今の自分の格好がなんのその。レットは顔面に直撃を受けてすっ飛んでいく。百年の恋も冷めかねないひどさ。

 

 

「ジュ、ジュリア……待てワシはお主がてっきり死んで」

「そんなことは聞いてないわ! あたしがいなくなってから何してたかって聞いてんのよ!? どうせ働かずに修行ばっかしてたんでしょ!? 働かんかい!」

「い、いや……ワシはただ……」

 

 

先ほどまでの武人然とした振る舞いはどこにいったのか。完全に女房に尻を敷かれる夫のごとくレットは無様を晒している。情け容赦のないジュリアの制裁にレットはボコボコにされていく。下手したらそのまま帰らぬ人になりかねない勢い。

 

 

『ほう……中々漢気がある女ではないか。我とも気が合うやも知れぬな』

『勘弁してくれ……ハァ……』

 

 

どこかシンパシーを感じたのか、マザーはそんな感嘆を漏らしているが寒気しかしない。というか目の前の光景にいつもの自分とこいつがダブって見えて仕方がない。悪夢でしかない。そう辟易していると

 

 

「…………ジュリア」

 

 

ぽつりと、そんなジェガンの声が響く。瞬間、レットはもちろん、ジュリアの動きを止める。その視線が交差する。言葉にすることができないほどの因縁がある三人の再会。

 

 

「ジュリア……オレは……」

 

 

ジェガンは俯いたまま力なくそう絞り出すことしかできていない。顔を見る事すらできないのだろう。ジェガンがしてきた行いを考えれば当然の事。

 

 

「……あんたがしたのは女をモノか何かだと勘違いした、最低の行為だよ、ジェガン」

 

 

淡々と、どこか吐き捨てる様にジュリアは告げる。ジュリアとレット。その関係に嫉妬し、ジュリアを手に入れるために催眠術によって我が物としていたジェガン。罵倒され、軽蔑され、復讐されても、殺されてもおかしくない所業の数々。それを許すことなどあり得ない。許されることはない。それでも

 

 

「昔っからそうよ。そんなにあたしが欲しいなら正面から奪って見せな。あんた男だろ、ジェガン」

 

 

真っ直ぐにジェガンを見据えながらジュリアは告げる。許したわけではない。それでも幼馴染としての、ジェガンを知っているジュリアとしてのこれ以上にない叱責。レットとジェガン。二人の男から愛されたジュリアの在り方。

 

 

「…………済まない、ジュリア」

 

 

それを思い出し、ジェガンは頭を下げ謝罪する。自分が恋い焦がれ、愛していたのはそういうジュリアだったのだと。ドラゴンになっても自分はジュリアを愛していける。そう思い込んでいたのはただの自分の自己満足でしかなかったのだと。レットもそんなかつての親友の姿に黙り込む。長かった三人の因縁もここに終止符が打たれたのだが

 

 

「そこが男らしくないって言ってんだろ! もっと大きな声ではっきり言いなさい! 飯食ってんの!?」

「……っ!?」

「も、もうよさぬかジュリア……それ以上すると本当に」

「あんたはどっちの味方なのよ! そのふざけた面は何のつもり!?」

 

 

ジュリアにとってはそうでなかったのか。それともそんなことはもうどうでもいいのか。さっきのレットの代わりのごとく今度はジェガンがボコボコにされている。その有様にさっきまで仇を殺さんとしていたはずのレットが本気で止めに入っている。滅茶苦茶な状態。惚れた男の弱みとでも言うのか。これから先の二人には同情を禁じ得ない。だがいつまでもこうしているわけにはいかない。

 

 

「取り込み中の所悪いが……そろそろいいか?」

「ん? 悪かったね、うちの男どもが迷惑かけたわ」

「それはいいんだが、ちょっと頼みたいことがあって」

「頼みたい事? いいわよ、ちょっとぐらいならエッチなお願いでも聞いてあげるわよ?」

 

 

少しはスッキリしたのか、どこか満足げにジュリアはそう答えてくれる。後ろには正座している竜人が二人。色々突っ込みたいところはあるが今はそれどころではない。

 

 

「ごほんっ……まだここは戦闘中だからな。俺の力で全員を安全な場所に瞬間移動させるから、ここで横になってる奴らをお願いしたいんだ」

 

 

それが自分のお願い。今この場には六祈将軍に加えて王宮守五神も倒れ伏している。流石にそのまま放置しているわけにもいかない。先のハジャの件もあるのでなおの事。そのまま帝国に引き渡すのが筋なのだろうがそうなれば全員処刑は確実。王宮守五神やベリアルはともかく、レイナとユリウスは根っからの悪人というわけではない。勝手な判断だが、力を封じられて一般人として生きる……辺りで許されるのでは。

 

 

「そう、要するにこいつらが暴れないように起きたらボコボコにすればいいわけね?」

「ま、まあそんなとこかな……ボコボコにはしなくてもいいが……」

「すまぬ……ジュリアについてはワシに任せてくれ。世話をかけた……剣士よ」

「迷惑をかけたのはあんたでしょうが!」

 

 

そんなこちらの思惑を見事に自己流に解釈するジュリアさん。もう姉御と呼んでもいいかもしれない。一抹の不安を覚えながらもレットたちをワープロードでアジトの一つに送る。細かい事はこの戦いが終わった後ですればいい。

 

 

(これでとりあえず六祈将軍は片が付いたかな……あとは……)

 

 

自分以外誰も居なくなった荒野を見渡す。これで自分はひとまず役目を果たした。あとは二人の戦いの決着を待つのみ。だが

 

 

瞬間、凄まじい魔の力がすべてを支配した――――

 

 

(これは……まさか……!?)

 

 

その力の根源はジンの塔の頂上。これほど離れているにも関わらず、まるで目の前で起きているかのような魔の、DBの力の本流。それに呼応するようにデカログスが震えている。同時に全てを悟る。今上で何が起きているのか。予想することができていなかった、最悪に近い状況。

 

 

『ふむ……やはりこのまま予定通りにはいかなかったようだな。どうする我が主様よ?」

「決まってんだろ……行くぞ、マザー!」

 

 

アキは考えるよりも早く階段を駆け上がる。目指すは頂上。その先に待っている結末を覆すために――――

 


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