ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第三十八話 「開催」

(どうしてこうなった……?)

 

 

ただただそう心からの本音を漏らすしかない。時の交わる日。エンクレイム。決してそれを侮っていたわけではない。闇の頂きとまで呼ばれるキングとの戦い。そのためにこの半年準備を行ってきた。想定外の事が起きても対応できるように。油断、慢心をせずに。そのおかげでキングの羅刹剣の使用という事態にも綱渡りではあったが対処できた。なのにどうして。

 

 

(なんで他の全ての闇の組織がここにやってきてんだ……!? いくら何でも予想できるわけねえだろうが!?)

 

 

どうしてこんなことになっているのか。BG、鬼神、ドリュー幽劇団。残る全てのシンクレアの担い手達がこのジンの塔に集結してしまった。まさに悪夢でしかない状況。しかもキングとの死闘に続く連戦になりかねない事態。できるならこのままワープロードで瞬間移動して何もかも見なかったことにしたい心境。

 

 

『どうしたアキ、封印剣を握ったままそんなに怯えて。情けない、我が主ならもっと堂々と構えんか』

『やかましい!? この状況でそんなことできるわけねえだろ!? いつまたシルバーレイみたいな攻撃があるかも分からねえだろうが!?』

『なるほど、それでデカログスにしがみついておるわけか。あんな物に恐れをなすとは。大破壊に比べればあんなもの紛い物にすぎんだろうに』

『お、お前な……大陸が消滅する兵器を紛い物って……』

『もう少し自分の力を客観的に見直してはどうじゃ。同じことを行うことはお主にも容易いのじゃぞ。もっとも我がいてこその話じゃがの』

 

(こ、こいつ……! ただ単に自慢したいだけじゃねえか!)

 

 

ふふん、とばかりに自慢げに語るマザーに顔を引きつかせるしかない。レイヴの時といい、こいつは負けず嫌いの塊のような性格をしている。だがその言葉にも一理あるのは事実。いきなりの事態に戦々恐々としてしまったが悲しいかな、マザーの言う通り自分にもシルバーレイの真似事、もといそれを超える破壊を行える力がある。自分もいつの間にか常識がおかしくなってきてしまっているのかもしれない。それはともかく

 

 

『それよりも……今外がどうなってるか分かるか、マザー?』

『ふむ……お主の期待に沿えぬようで悪いが、我にも分からぬ。もう気づいておろうがジンの塔……いや、この大陸全土がエンドレスの力で満たされつつある。我らが四つ集まった影響かの……今この一帯は一種の異界のような状態になっておる』

『そうか……くそ……!』

 

 

分かっていたこととはいえ、キングの時とはまた違う意味での袋小路に陥っている今の状況に焦燥するしかない。

 

 

(シルバーレイの攻撃があったとこまでは何とか感じ取れたんだが、それ以降はDBの気配が感じ取れねえ……いや、それどころか戦闘の気配すら感じられないのはどう考えてもおかしいだろ!?)

 

 

突然の三勢力の乱入。そして恐らくはシルバーレイの攻撃が放たれ、それが突然消え去ったところまでは自分はDBの気配探知によって戦況を把握できていたのだがそれ以降は全くそれが感じ取れない。シンクレアが四つ集まった影響か、数え切れないほどのDBが一か所に集まっているが故か。散々酷い酷いと言われてきた自分の体臭、もとい気配がかき消されてしまうほどの邪悪な力がジンの塔を中心に蔓延している。それからしばらく時間が経過しているが外がどうなっているのか全く掴めない。戦々恐々としても仕方ない現状。何よりも

 

 

「ディープスノー……キングの容態はどうだ……?」

「今のところは変わりありません……ですがこのままでは……」

 

 

倒れ伏し、意識を失ってしまっているキング。羅刹剣のよる浸食を全身の受けた代償。本来ならとうに命を落としておかしくないはずの状態でありながらまだ息があるのはキングである所以。しかしこのままではどうなるか分からない。一刻も早く治療しなければならないが今自分たちはここから動くことができない。いや、正確には自分以外は。

 

 

「アキ様……このままここにいるのは危険です。アキ様だけならこの場を脱することは容易いはず。どうか私たちを置いて退却を」

「そうだ……悪いがオレたちは足手纏いにしかならねェ……先に行ってくれ」

「そ、それは……」

 

 

それを理解しているディープスノーとゲイルさんは自分にここから離脱するように言ってくる。そう、戦略的に考えるならそれが最善手。本来であればワープロードの瞬間移動によって退却することができるのだが今はそれが叶わない。マザーが言っていたようにこの一帯は既に異界の近い。それに加えて魔術的な結界が張られているのか瞬間移動を行うことができない。故に選択肢は物理的にこの戦場を突破するしかない。だがディープスノーたちはみな満身創痍。とても戦場を突破する力は残っていない。頼みの綱のエリクシルも残っているのは一本だけ。

 

 

(これをみんなで分ければ……いや、ダメだ! そんな中途半端な回復じゃ焼け石に水にしかならねえ! あの時使わずに残しとけば……いや、今更そんなこと言っても仕方ねえ……!)

 

 

あるのは焦燥感と後悔だけ。ああしていればこうしていれば。だがそんなことを考えても意味はない。どうにか今ある手札だけで全員が生き残る策を。しかしいくら考えても思い浮かばない。自分だけなら確かに突破することは容易い。全員を守りながらの脱出はどう考えても不可能。どうやっても他のシンクレアの担い手との戦闘は不可避。かといってここに立て籠もっていても結果は同じ。そんな中

 

 

『全く……右往左往するのは見ていて愉しいが度が過ぎておるぞ、アキ。何もする必要はない。お主はただここにおればよい。それで万事上手くいく』

 

 

やれやれとばかりに溜息を吐きながらマザーはそう告げてくる。この状況でいつもと全く変わらないマイペース、もとい唯我独尊っぷり。

 

 

「何もせずにって……お前この状況が分かってんのか!? このままじゃ」

『とりあえず声を出すでない。我にだけ聞こえるように話せ。気づいておらぬのか? ここは奴らに盗み見られておる』

『盗み見られてる……?』

『そうじゃ。DBに一つ、魔法に二つ、機械に一つ。全部で四つじゃな。我も気づいたのはキングとの戦いが終わってからだったが恐らく最初から見られておる』

 

 

マザーのあまりに意外過ぎる指摘に思わず声を上げそうになるのを耐える。同時に神経を研ぎ澄ます。魔法と機械については分からないが、DBについては微かにだが感じ取れる。恐らくは千里眼の類の能力を持つDB。

 

 

『ちょっと待て……最初からってことは、ここでエンクレイムがあることも、俺たちが来ることも全部筒抜けだったってことか?』

『恐らくの。他の担い手達に情報を流したのも同一人物の仕業じゃろう。エンクレイムや我らのことを知っており、そんなことができる人物など一人しかおるまい?』

『……ハジャか』

 

 

まるで推理を披露する探偵の様に得意げなマザーに応えるようにその名を口にする。自分たちの存在に加えエンクレイムという極秘情報を知っており、それを拡散させるなどハジャ以外考えられない。そうであればこのあまりにもできすぎた状況も理解できる。

 

 

『ほぼ間違いなくの。恐らくキングとの戦いで我らが敗れればそれで良し、もしそうならずとも他の担い手達をここに誘き寄せることで消耗させ、最後に全てのシンクレアを手にする……そんなところかの。小物らしいみすぼらしい姦計じゃの』

 

 

心底気に入らんとばかりにマザーはそう吐き捨てる。そこにはハジャに対する侮蔑に加えて、それに良いようにされている自分たちに対する苛立ちがある。その気持ちは分かるがそれでもやはり脅威でしかない。間接的であれど自分たちは追い詰められてしまっているのだから。

 

 

『待てよ……じゃあこのままじゃヤバイんじゃねえか!? 俺たちが疲労し切ってるのもバレてるってことだろ!?』

 

 

そこでようやく気付く。そう、今こっちの状況が三勢力にはバレてしまっている。このままでは集中的に狙われかねない。それを牽制する意味でもエリクシルで自分が回復するところを見せるべきでは。そう思いエリクシルを取り出しそうになるも

 

 

『いや、それには及ばぬ。むしろこのままの方が我らにとっては都合が良い。そう……あれじゃ、撒き餌とかいうやつじゃ』

 

 

まるで愉しくて仕方がないと言った風に邪悪な笑いを見せながらマザーはそう自分を止める。もはや嫌な予感しかしない。ある意味自分たちが平常運転になりつつある証拠。

 

 

『ま、撒き餌……?』

『うむ、まあ分かりやすく言えば囮みたいなものかの。この戦い、いや大戦とでも言おうか。アキ、この大戦での勝利条件は何だと思う?』

『勝利条件って……そりゃ、全部のシンクレアを集めることだろ……?』

 

 

調子に乗ってきているマザーに突っ込みたいのを我慢しながら仕方なく付き合う。シンクレアを集めること。自分としては個人的に絶対に御免なのだがそれが勝利条件なのは間違いない。それは他の担い手達も同じはず。

 

 

『その通り。他の有象無象が勝とうが負けようが些事に過ぎぬ。全ては担い手が他のシンクレアを手に入れれるかに懸かっておる。さて、ヘタレであるお主に相応しい質問じゃ。お主なら他のシンクレア、担い手をどういう順番で倒そうとする?』

『どういうって……そんなのに決まってるだろ。弱い奴から狙うに決まって……あ』

 

 

そこまでいってようやく気付く。マザーが何を言わんとしてるのか、何をしようとしているのか。ある意味ヘタレである自分に相応しい戦法。

 

 

『ようやく悟ったか。そう、この戦場の担い手で今一番弱っているのはお主。ならお主は満身創痍な振りをしてここで奴らを迎え撃てばよい。どうじゃ、お主に相応しいじゃろう?』

『お、お前な……でもそんなことになったら俺、全部の担い手と戦わなきゃならなくなるぞ? 流石にそんな力は……』

『ふむ、確かに我にはもうほとんど力は残っておらぬし、デカログスたちも疲弊しておるが心配はいらぬ。一対一であればお主は他の担い手に負けることはない』

『え……?』

 

 

マザーの言葉に二つの意味で驚くしかない。一つはマザーが自分を褒めていること。油断や慢心をさせないためなのか、ほとんどマザーは自分を持ち上げるような言動はしたことがない。二つ目が自分の強さが既に他の担い手たちを超えている、ということ。

 

 

『その様子ではまだ気づいておらんかったか……全く。よいかアキ、今のお主は先の戦いで壁を一つ越えておる。いうならば(キング)の領域をの。まだかつての四天魔王の領域には至っておらぬがそれでも一対一ではもはやキングやゲイル、担い手たちではお主の相手にはならぬ』

 

 

呆れながらもそうマザーは告げてくる。自分の強さが王の領域を超えたのだと。自分としては無我夢中で戦っていただけで全く実感がわかないのだがマザーがそう言うのならそうなのだろう。自分を調子づかせるためにこんなことを言う奴でないことは分かっているのだから。

 

 

『そ、そうか……全然実感わかねえけど……ならこっちから仕掛ければ良いんじゃねえのか?』

『お、お主は……息を吐くように油断をしおって……! 分かっておるのか? これから戦う相手は今までの相手とは違う。我と同じシンクレアなのだぞ!? あまり言いたくはないが……うむ、奴らも我ほどではないが他のDBなどとは比べ物にならん力を持っておる。特に極みは次元が違う』

 

 

油断しているわけではなくただ単に聞いてみただけなのだがマザーはいつもの調子で怒り心頭。だがそれでもマザーが侮るなというのは正しい。担い手自身の強さもそうだが、何よりもシンクレアたちの力の方が脅威なのだと。その一端を自分も目にしている。マザーの極みである『次元崩壊』そしてシルバーレイの攻撃を無効化した力。恐らくは物理ではない力を無力化する極み。

 

 

『分かった……とりあえず他のシンクレアの一発芸に注意すればいいんだろ?』

『な、何でそうなる!? 我らは芸人集団ではないぞ!? そもそも我らの極みに対抗できる者など数えるほどしかない! それを毎回毎回引き当てるお主の方が!』

『分かったわかった……とりあえずここにやってきた担い手から順番に倒しておけばいいってことだろ?』

『ふん……まあそういうことじゃ。一つでもお主がシンクレアを手に入れればそれで全て決まる。残る二つを同時に相手してももはや相手にもならん。シンクレアを二つ持つとはそういうことじゃ』

『そんなに凄いのか……まあそれはいいとして、他の奴らに互いに潰し合ってもらって最後に全部頂くってのはどうだ? ヘタレの俺らしい戦法だと思わねえか?』

『お、お主な……』

 

 

いつもとお返しとばかりに意趣返しの意味でそう告げるとマザーは言葉を失ってしまっている。ヘタレ云々はともかくとして戦力としては間違っていないはず。発想がハジャと同じだというのは気になるがそれでも一番リスクが低いのではないか。

 

 

『確かにお主らしいヘタレな戦法じゃがそれはできん。もしそのまま担い手の誰かがシンクレアを複数手にすればお主でも打つ手はない。それと同じくこの場から逃げ出すのも無しじゃ。シンクレアを三つ持った担い手を相手にするなど不可能。もっともゲイルたちを置いて逃げるなどお主の選択肢には元々ないじゃろうがの』

 

 

そんな自分の案は呆気なく却下されてしまう。漁夫の利を得るのはあまりにも危険が高すぎるということらしい。シンクレアを三つ持つことの危険性はマザーほどではなくとも自分も分かる。その能力もだがダークブリングマスターはシンクレアを手に入れるほどに力を増す。マザー一つでこれなのだ。それが三つ、四つになればいったいどれほどの力が手に入るのか。文字通り神にも等しい力が手に入るに違いない。

 

 

『とりあえずお主は物理的に他の奴らを寝取ればよい。流石に精神的寝取りはまだ奴らには通用せんからの。体を奪ってしまえばこっちの物じゃ。後はお主好みに調教してやれば問題ない』

『ひ、人聞きが悪いこと言うんじゃねえよ!? お前ら同じシンクレアなのになんでそんなに仲が悪いんだ!? 前々から思ってたんだが、そもそも儀式なんてせずに全員が協力すれば簡単に並行世界なんて崩壊させれるんじゃねえのか……?』

『っ!? な、なるほど……確かにその通りじゃの……流石は我が主様。天才的な発想じゃ……! だが……うむ、やはり無理じゃの。奴らと仲良くすることなど壊れてもできん。そもそもこの儀式は互いに自分が見初めた担い手を自慢し合う場でもある。ククク……お主を手に入れた我を前にした奴らの悔しそうな姿が目に浮かぶの……』

『お前らって……本当に馬鹿なんじゃねえのか……?』

 

 

儀式という言葉にあてられたのか、マザーは今までで一番興奮した様子で気色悪い笑みを見せている。ドン引きするしかない。まだこんなのが四つもいるという現実。悪夢でしかない。お仕置きでもないのに頭痛がしてくる。とにもかくにも方針は決まった。餌……ではなく、自分が囮になりやってきた担い手を順に各個撃破。単純だが分かりやすくていい。マザーが使えないのは一発芸的な意味でも痛手だが仕方がない。そんな中

 

 

『―――――ふむ、認めたくはないが奴らは我が思っている以上に馬鹿だったらしい』

「え?」

 

 

マザーはそんな心底呆れ切った本音を漏らす。一体何の話を。そう問いかける間もなく、感じ取る。今まで感じ取れなかったエンドレスの力の奔流。それすらも超える母なる闇の使者の気配を。ジンの塔のふもと。そこにその気配がある。何よりも問題なのはその数が三つであったこと。そしてその三つが今、争っているであろうこと。今まさにジンの塔の入り口で戦闘が行われている。そこにこれから乱入しなければならない事実から目を背けるように、栄養ドリンクを飲むかのようにエリクシルを一気飲みする。もはや前提は崩れ去った。

 

 

『さて、口説き文句は考えたか、我が主様よ? 喜べ、これから愉しい女子会の始まりじゃ』

 

 

今五十年の時を超え、シンクレアによる女死会が開催される時が来た―――――

 

 

 

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