ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第四十六話 「必然」

(ん……?)

 

 

まどろみから徐々に意識が戻っていく。そこでようやく気付く。自分はどうやら眠ってしまっていたらしい。瞼の裏から感じる日の光からするに日中だろうか。だがどうにも意識がはっきりしない。というか自分がいつ寝たのかも何をしていたのかもおぼろげ。その全てをとりあえず置いておいて目を開ける。そこは

 

 

(どこだ……ここ……?)

 

 

知らない場所だった。分かるのは空が青いことと自分が地面という名の土の上に寝そべっているということだけ。訳が分からない。一体何がどうなっているのか。慌てて起き上がった瞬間

 

 

「っ!? ~~~~っ?!?!」

 

 

今度はその場に蹲ってしまう。体中を襲う激痛によって。もしかしたらそのまま気を失ってしまいかねないほどの痛み。見れば自分の身体は傷だらけ。満身創痍もいいところ。全治数か月間違いなし大怪我。だがそれに何とか耐える。耐えることができるに自分の呆れながらも同時に感謝するしかない。幸か不幸か、その痛みによって寝ぼけていた頭はすっかり現実に引き戻されてしまったのだから。

 

 

(っ!? 何で俺気を失って……じゃなくて、エンドレスはどうなったんだ!? エリーとシバは……!?)

 

 

瞬時に臨戦態勢になりながら辺りを見渡す。今はジンの塔でのエンドレスとの最終決戦の真っただ中。にも関わらず自分は気を失ってしまっていたらしい。情けなさの極み。それを恥じながらも状況を把握せんとするもそこには何もなかった。エンドレスも、エリーも、シバも。それどころではない。そもそもジンの塔の跡地すら見当たらない。あるのは周りに生い茂っている森林と雲一つない蒼天のみ。それを目の当たりにしてただただ立ち尽くすしかない。一体何がどうなっているのか。もしかしてまだ自分は夢を見ているのではないか。だがそんな疑問は

 

 

『ふむ、ようやく目が覚めたか我が主様。その右往左往ぶりを見るにとりあえず命に別状はなさそうじゃな』

 

 

聞き飽きたはずの口うるさい声によって消し飛んでしまった。

 

 

『ま、マザー……本当にマザーなのか!?』

『我以外の誰に見えるというのか。だがまあ驚くのも無理はない。かくいう我が一番驚いておるのだかの。まさかエンドレスに直接乗り込んでいくとは、魔石殺し様様といったところかの?』

『エンドレスに……そっか、俺、あの時……!』

 

 

本気で驚いているのか呆れているのか。マザーの言葉によってようやく思い出す。エンドレスに取り込まれたマザーを取り戻すために自分がやったことを。冷静に考えたら無謀どころかただの自殺にしかならない行為。無我夢中で気が触れていたのかもしれない。しかしその甲斐はあったらしい。右手にはもう嫌というほど慣れ親しんでいる自分にとっての相棒であり共犯者の魔石があるのだから。

 

 

『くくく……どうした、安堵した赤子のような顔をしおって。そんなに我が恋しかったのか?』

『ばっ!? そ、そんなわけねえだろ!? 俺はただ……そう、お前がいないと俺が死んじまうから焦っただけだっつーの!?』

『まあそういうことにしておいてやろうかの。だがうむ……中々情熱的な口説き文句ではあったの。じゃが勘違いするでないぞ、我はお主の物ではなくお主が』

『何を気色悪いこと言ってやがる……大体こんなことになってんのは全部お前の自業自得じゃねえか。散々状況を悪化させやがって……お前、呪われてんじゃねえか、シンクレアなだけに』

『ど、どの口でそんなことを……!? そもそも呪われているのも自業自得なのもお主の方であろう!? 我がどれだけそのせいで苦労していると』

 

 

売り言葉に買い言葉。ある意味いつも通りの流れに懐かしさすら感じてしまう今の自分はどこかおかしくなっているのだろう。残念ながら自分とこいつはどこまでいっても変わらないらしい。だがいつまでもこのまま意味のない言い合いをしていても仕方ない。確認しなければいけないことが山積みなのだから。にも関わらず

 

 

『もう、マザーったら照れちゃって可愛いんだから! でもこういうのもいいわよね、主従を超えた関係ってやつ? やっぱりこの世は愛なのよ、愛♪』

 

 

そんなこの場にいるはずのない、いてはいけない存在の声を再び耳にしてしまった。

 

 

「…………へ?」

 

 

ぎぎぎ、とそのまま首をロボットの様に動かしながらその声の主へと目を向ける。きっと今の自分の顔はこの上ないほどの間抜け面に違いない。その顔のまま自らの左手を覗き込む。そこには

 

 

『久しぶりっていうのもおかしいけど、また会えたわね、金髪の悪魔さん。いいえ、アキって呼んだ方がいいかしら? あんまり似合ってなかったけど、白馬の王子様になった気分はどうだった?』

『お、お兄ちゃん……からだはだいじょうぶ……? それと、そのいっしょについてきちゃってごめんなさい……』

 

 

バルドルとラストフィジックス。マザーに勝るとも劣らない個性の塊のようなシンクレアの姿がある。それだけではない。その数は四つ。ヴァンパイアとアナスタシスも一緒。理解できない。むしろ夢であったならどれだけよかったか。悪夢でしかない現実。

 

 

『うむ、そういえば忘れておったの。喜べ、主様。余裕があったのでな、ちょっとついでにこやつらも引っ張ってきた。これで五股のクズ計画を実行できるじゃろう?』

 

 

本当に忘れていたのか。おまけといった、スナック感覚でマザーはそんな意味不明なことをさらっと口にしてくる。そんな駄石の言動のもはや開いた口が塞がらない。一体こいつはどれだけ厄介事を持ち込めば気が済むのか。むしろ厄介事以外を持ち込んだことがない気がする。だが今回はいくら何でも度が過ぎている。ちょっとコンビニ行ってくるぐらいのノリで世界を震撼させる母なる闇の使者を四つ引っ張ってきたのだから。

 

 

『五股って……お前まだエリーが言ってた世迷言を……!? そ、そんなことよりどういうつもりだ!? こいつらを引っ張ってきていったい何を』

『なに、単純な話よ。あのままではこやつらはエンドレスに取り込まれたままじゃったからの。それを奪えばエンドレスの力を削ぎながらお主の力を高められる。一石二鳥という寸法よ。だがその点に関してはお主の力があってこそじゃの。褒めて遣わす。火事場の馬鹿力ならぬヘタレのクズ力と言ったところかの』

『お、お前な……』

 

 

くくく、と自らの目論見が成功したことに邪悪な笑みを見せている我が魔石様。あの一瞬でそんなことを思いついて実行できるあたりやはりこいつもクズに違いない。だがその目論見自体は悪くない。むしろウルトラCと言っても過言ではない。厄介事を差し引いてもエンドレスの力を削ぐことには成功しているのだから。だがどうしても見過ごせない問題があった。それは

 

 

『そ、それはともかく……こいつら全部一緒に持ってて大丈夫なのか? 五つ集まったらまたエンドレスが復活しちまうんじゃ……?』

 

 

シンクレアが五つ揃ってしまうこと。それはエンドレスの復活、襲来を意味する。そうなればまた先と同じような事態になってしまう。さっきはたまたま上手くいったが今度もそうなるとは限らない。一刻も早くシンクレアを別の場所に移動させるべきでは。今この瞬間にもエンドレスがやってくるかもしれない。しかしそんな自分の焦りを知ってか知らずか

 

 

『その心配はない。ふむ……これは少し言いにくいことなのじゃが、まあよいじゃろう。我らはあの時既にお主によってお主色に染め上げられておる。故に我はもうエンドレスに奪われることはない。そういうことじゃ』

「…………は?」

 

 

何故かもじもじしながらマザーはそんな意味不明事を口走っている。一体目が覚めてから自分は何度フリーズすればいいのか。冗談は存在だけにしてほしい。

 

 

『悪い……もう一度言ってくれ。意味が分からなかった……』

『な、何度も言わせるでない! お主がエンドレスから我らを略奪したときに我らはお主の力によって染め上げられてしまったのじゃ。もうお主以外の物にはなれぬ。本当ならもっと順を追ってステップアップする予定だったのじゃが、精神的寝取りだけでなく肉体的寝取りもやってのけたということじゃ、それも五つ同時にの……この魔石殺しめ』

『ひ、人聞きが悪いこと言うんじゃねえよ! それじゃ本当に俺がクズみたいじゃねえか!?』

『今更何を言っておる? 疑っておるようじゃが、ほれ。そこにいる二人が黙り込んでおるのがいい証拠じゃ』

 

 

見て見ろといわんばかりのマザーの言葉通りに左手に収まっている残る二つ、ヴァンパイアとアナスタシスに目を向ける。自分に対しては反発していたはずの二人が黙り込んでしまっている。本当にエンドレスがやってくるならアナスタシスはともかくヴァンパイアが煽ってこないのは考えにくい。つまり、本当に五つのシンクレアはエンドレスから自分の物になってしまっているらしい。その対価としてゴミを見るかのような二人の冷たい視線を受けながら。

 

 

『ご、ごほんっ! それよりもここはどこなんだ!? エンドレスはどうなって』

『少し落ち着くがよい。焦っても結果は変わらぬ。そうじゃの……場所については我にも分からぬ。我が目覚めた時には既にここにいたからの。エンドレスについても同様じゃ。ただ恐らくお主に我らを奪われた衝撃で再び眠りについたか、時空の杖で飛ばされたと言ったところじゃろう。この星がまだ残っているのがその証拠じゃ』

『そ、そうか……』

 

 

今にも飛び出しかねない自分をたしなめるようにマザーは順に答えてくる。とりあえずエンドレスについては直近の脅威はなさそうで安堵するしかない。自分の記憶が確かならエンドレスとの戦いの時は深夜。今は恐らくは昼を回っている。最低でも半日経っている。それだけの時間があればエンドレスがこの星を破壊するのは容易い。この星がまだ無事だから、という恐ろしい理由なのはさておきひとまずは危機を脱したらしい。

 

 

『とにかく、なら早くエリーたちと合流しねえと心配かけちまってるだろうし……みんなもどうなったか』

『もっともな意見じゃが……それもすぐには難しいじゃろうな。今はワープロードも使えぬしの』

『ワープロードが……? でもエンドレスもエンクレイムも終わったはずだろ? なのに何で……?』

『マーキングが意味を為しておらぬからの。さしものワープロードとて時間移動はできぬ。我らであってもそれはできぬしの』

『時間移動……? いったい何の話だ?』

『こっちの話じゃ。我が直接伝えるより実際に目にした方が面白……早いじゃろうしの。とにかく情報収集が先決じゃの。全ての基本じゃ。アキ、さっさとその傷を治すがよい。致命傷ではないが放置してよい傷ではないぞ』

『治すったってどうやって……? もうエリクシルは持ってねえぞ?』

 

 

さっさとしろ捲し立ててくるマザーに首をかしげるしかない。治せるのならとっくに治療している。もしかしたらエンドレスから引っこ抜いたショックで頭がおかしくなっているのでは。しかしそんな心配は

 

 

『お主こそ何を言っておる? アナスタシスで再生すればよいだけじゃろう』

『そ、それは……』

 

 

お前こそ何言ってるんだとばかりのマザーの突っ込みによって消え去ってしまう。あまりにも当たり前すぎて気づけなかった盲点。そう、それは正しい。自分としてもできるならさっさと回復したいのは山々。だがはいそうですと言えない事情が自分にはある。

 

 

『…………気遣いなど無用です。私は既にシンクレアですらないのですから』

 

 

事ここに至って一言も発することがなかったアナスタシスが口を開く。だがその声色も内容もただ事ではない。まるで捕虜になってしまった、人質のような空気。まるで自分が極悪人になってしまったかのような気すらしてくる。

 

 

『え、えっと……』

『ですが勘違いしないように。いくら私の能力を好きにできたとしても、私の心まで奪うことはできませんよ、下郎』

『…………はい』

『ふむ……実際に目の当たりにしてみると想像を絶するクズっぷりじゃの』

 

 

一体自分は何をしているのか。というか何をさせてしまっているのか。クズどころか犯罪者になってしまった気分で初めてマザー以外のシンクレアの能力を扱う。瞬間、満身創痍だった体はあっという間に再生してしまう。まるで何もなかったかのように。再生を司るアナスタシスの能力。その反則さを改めて体感する。というかこの力を好き放題使えたハードナーによく勝てたもんだと感心するほど。もっともそんなことは自決しかねない覚悟を決めているアナスタシスの前では口が裂けても言えないのだが。とりあえず当分、できればもう再生を使う機会がないことを祈るだけ。

 

 

(と、とにかくここがどこか調べないとな……あそこに村が見えるし、あそこで聞いてみるか……)

 

 

気を取り直しながらとりあえずの行先を見定める。自分がいる山中から見える場所に一つの村がある。そこに行けば情報収取もできるはず。いざ出発と足を踏み出した瞬間

 

 

「――――へぶっ!?」

 

 

自分は地面に転んでしまった。それはもう盛大に。顔面から受け身もなく、みっともなく。その痛みに思わず悶絶してしまう。せっかく再生してもらったばっかりなのに一体何の冗談なのか。いくらドジな自分だとしてもあり得ない転び方。

 

 

『あら、ごめんなさぁい。あんまり久しぶりだったから力の使い方を忘れちゃったみたぁい』

 

 

そんな自分を心底嘲笑いながらヴァンパイアはクスクスとこちらを見つめている。もはや考えるまでもない。ヴァンパイアによる引力支配。それによって自分は地面にダイブをかましてしまったのだと。記念すべきヴァンパイアの初能力発動がこんな子供の嫌がらせになるなんて誰が想像できるというのか。

 

 

『お、お前な……一体何のつもりだ……?』

『何のつもりも何もいつも通りよぉ? 担い手遊びは私の趣味だしねぇ。もっとも今度のおもちゃは前より壊し甲斐がなさそうだけど……覚えておきなさい。私はアナスタシスみたいに優等生じゃないわぁ……せいぜい楽しませて頂戴』

『ふむ、精一杯の抵抗が担い手を転ばすこととは……主様に負けず劣らずの残念っぷりじゃの』

『何を感心してやがる!? お前も止めろっつー……ぶっ!?』

 

 

言いようにされている自分の姿が面白いのか、それともヴァンパイアの醜態っぷりが可笑しいのか。マザーはヴァンパイアの嫌がらせをどうにかする気はないらしい。主導権はこっちにあるもののやはり腐ってもシンクレアはシンクレアなのか。一瞬でも気を抜くと引力斥力が襲い掛かってくる。一体何の罰ゲームなのか。というかこれがずっと続くとか冗談ではない。そんな自分の隙を見逃さなかったのか、一際強く今度は後ろから引っ張られて地面に激突してしまう。だが、いつまで経っても痛みが襲ってこない。一体何故。

 

 

『だいじょうぶお兄ちゃん……? もういたくないでしょ?』

『あ、ああ……これって、もしかしてお前が……?』

『う、うん! あたしのちからがあればおにいちゃんはころんでもさされてもへいきなんだよ! あたし、シンクレアだから!』

『そ、そうか……ありがとな、ラストフィジックス』

 

 

理を司るラストフィジックス。その能力である物理無効によって自分は転んでも全く痛みもダメージも受けることがなくなっているらしい。実際に体感してみても信じられない。オウガが無敵の肉体だと豪語していたのも頷けるチートっぷり。どうやらラストフィジックスは自分を主だと認めてくれているらしい。それは本当に嬉しいのだが、刺されても大丈夫という例えはどうなのか。純粋故の危うさ、シンクレアの片鱗を垣間見たような気がする。

 

 

『ふん、相変わらずのお子様っぷりね、反吐が出るわぁ。新しいご主人様に尻尾を振って可愛がってもらおうってわけぇ?』

『ち、ちがうもん! ぎしきはもうおわったんだし……もうママとはいっしょにいられなくなっちゃったんだから、みんなでなかよくしたいって』

『ヴァンパイアの肩を持つわけではありませんが貴方は優しすぎます、ラストフィジックス。私は認めるわけにはいきません』

『ああ、いいわねこの感じ。そうよ、あたしが求めてたのはこれなのよ! 担い手や他の娘たちと一緒にこうやって騒ぐのがやっぱり一番ね! あの何もかも凍り付く世界はきっと夢だったのよ!』

 

(こ、こいつら……)

 

 

自分の掌の上でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てているシンクレアたち。頭痛を通り越して吐き気すら感じてしまう。マザーだけでも手いっぱいだったのにそれが四つ。協調性も何もない芸人集団。その主になってしまっている自分。これからが思いやられる。

 

 

『うるせえぞお前ら……とにかくちょっと静かにしてろ。邪魔だからな』

 

 

げんなりしながらもとりあえず村へと向かう。静かにしてろ言っているのに全く聞かない駄石たちを無視しながら意識を切り替える。そう、とにかく今は一刻も早く状況を把握しなくては。エンドレスもいつまた動き出すか分からない。みんなの安否も気にかかる。いざ、情報収集へ。旅の、RPGのお約束。だが自分はすっかり忘れてしまっっていた。

 

自分が一体何者なのか。その本当の意味を。

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

ただ溜息を吐きながら地面に座り込み、そのまま俯くしかない。現在自分は村の外れ。人気のない場所、草原で日光浴中。だが誰も好き好んでそんなことしているわけではない。それ以外、何もできることがなくなってしまっただけ。

 

 

『いやー凄かったわね。まさかあたしも開始数分でことごとく村人から逃げられるなんて光景見せられるなんて思ってもなかったわ。あれね、本当にアキって大魔王の素質があるわよ』

『当然じゃ。大魔王を超えることこそがアキの終着点なのだからの。臭いだけで村人を逃げ惑わせるなど朝飯前よ』

『うるせえよ……ほっとけ』

 

 

ぐもーんとうなだれながらそれ以上反論する気も起きない。そう、こうなることは分かり切っていたのに何故忘れてしまっていたのか。自分の臭い、ではなく気配の問題を。シバをして吐き気を催すほどの邪悪な気配を自分は振りまいているらしい。そのせいで今までも初見の相手には警戒されっぱなし。いつもならゲイルさんに仲介に入ってもらって何とかなっていたのだが今はそれもできない。どころか状況は悪化していると言ってもいい。

 

 

(まさか話すらできないなんて……もしかして俺の臭い、悪化してるんじゃ……?)

 

 

自分の姿を見た瞬間、村人たちは恐怖と共に逃げ去って行ってしまった。今までは何とか話ぐらいはできたのにそれすら不可能。しまいには悲鳴を上げられ警察、兵隊を呼ばれる始末。明らかに以前よりも悪化している。それに加えて今の自分は五つのシンクレアを所持している。言うならば完全装備の大魔王が村にやってきたみたいな感じなのかもしれない。そりゃ逃げるしかない。俺でも逃げる。でもこんな危険物をその辺に置いておくわけにもいかない。もっともシンクレアがなかったとしても結果が同じなのは目に見えてる。

 

 

(おかしいな……俺、魔王になってもおかしくないほど強くなってるはずなのに、このままじゃ下手したら飢え死にしちまうんじゃ……?)

 

 

そのままお手上げとばかりに草原に横になりながらげんなりするしかない。どんなに低く見積もっても今の自分はキング以上。闇の組織のトップに立てるであろう強さと五つのシンクレアを手にしている魔石殺し……のはずなのだがこの詰んでいる状況は何なのか。このままじゃ野宿は確定。というかまともに飲み食いできるかどうかも怪しい。最悪このまま飢え死にしかねない。これでもかとばかりにDBは持っているがどれも自分のお腹を満たすことができるものではない。

 

 

(俺って……一人じゃなにもできなかったんだな……)

 

 

そんな今更なことにこの期に及んでようやく気付く間抜けっぷり。どんなに強くても、DBを扱えても一人では食事一つ満足に取れない現実を突き付けながらも知らず目を閉じてしまう。そういえば気を失っていたとはいえ、まだ体力は回復していない。アナスタシスは傷を再生はできても体力は回復できない。とりあえずはここで野宿して後のことは明日考えよう。そう思いながら眼を閉じようとした瞬間

 

 

「こんなところで何してるの?」

 

 

そんな声が自分の上から聞こえてきた。ただ目を開けてその光景に目を奪われるしかない。それは女の子だった。年は十四ほどだろうか、まだ幼さが残る顔立ちに腰よりも長い金髪。白い民族衣装を着た女の子。好奇心からなのか、興味津々にしゃがみ込んでこっちを覗き込んでいる。それを目の前にしてただ呆然とするしかない。何故なら自分はその女の子を知っていたのだから。

 

 

それがアキとリーシャ・バレンタインの初めての出会い。そして五十年の時を超えた再会だった――――

 

 




作者です。第四十六話を投稿させていただきました。

今回で第二部は終了となります。ようやくここまで辿り着くことができたといった気持ちです。

読者の多くの方にはもう予想されていましたが次話からが第三部、過去編でもあるシンフォニア編となります。ある意味では今回のエピソードがエリールートの第一話にあたります。しばらくはバトルよりラブコメ要素が強くなる予定です。第三部の前にもう一度読み直していただければ新しい発見があるかもしれません。

次回は今までより少し間が空くかもしれませんがお待ちいただければ嬉しいです。では。

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