ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

5 / 63
第五話 「夢の終わり」

 

まばゆい朝日が新しい一日を告げ、小さな島であるガラージュ島を照らし出している。いつも通りの静かな、それでも穏やかな一日の始まりを告げるはずの光景。だがそれを目にしても金髪の少年、アキはどこか沈んだ表情を浮かべたまま。まるでこの世の終わりが訪れたのではないかと思えるようなひどい有様。今、アキはいつも修行に使っている秘密の洞窟の中にいる。だが既に時間は早朝。いつもなら既に家に戻っているはずの時間。しかしアキは家には戻らずそのままそこに留まり続けていた。座りこんだアキの前には人影はない。あるのは小さな石達。だがそれは普通の石ではない。DBと呼ばれる魔石。マザーシンクレア、デカログス、イリュージョン、ワープロード。四つの魔石がアキの前にいながらどこか楽しそうにおしゃべりを、交流を図っている。もっともその声は常人には聞こえない。聞こえるのはDBマスターの力を持つアキだけ。だがそれはアキにとってはどうでもいいことだった。確かに色々と思うところがないわけではないが既にこの光景は六年前から見慣れている日常の様なもの。既に常識がどこかにいってしまっているような気がするが気にしたら負けだろう。しかし、そんなアキでもどうしても見逃せない、いや、頭を抱えるしかない問題が目の前にはあった。

 

 

六星DB。六つの新たに生まれたDBが今、自分の目の前にあった。

 

 

あの……これ、一体どういうこと? 何がどうなったらこんなことになるわけ? うん、とりあえず整理しよう。昨日、俺はいつものように修行をしにここにやってきた。そこまではいつも通り。何もおかしいことはなかった。でもそこからだ。マザーの様子がおかしかった。まるで熱を出しているかのように。今思えばこの時点でおかしかった。DBが熱を出すなんてあり得ない。そして突然光を放ったと思ったらめでたく新たなDB、しかも六星DBが誕生したというわけだ。そう、ただそれだけ……

 

ってなんじゃそりゃああああっ!? どうなってんの!? 何いきなりとんでもないもん生み出してんのっ!? DBを生み出すだけでもめちゃくちゃなのに六星DBっ!? しかも全部っ!? それあれだよ? 六祈将軍オラシオンセイスっていうDCの最高幹部、RPGで言えばボスキャラ、四天王のような奴ら持ってたDBですよっ!? 何でそんなもん生み出してんだよ!? え? 俺のため? 俺がなかなか最後に持つ五つ目のDBを決めないから最高傑作を生み出してみたって? どれでも好きなものを選べって? なんなら全部使ってもいいって? そ、そうか……俺のためにあんなに苦しんでこんな凄い奴らを生み出してくれたのか……マザー、そんなにも俺のことを……ってちょっと待て―――っ!? 何普通に感動してんだ、俺っ!? 気をしっかり持てっ!? 喜ぶべきところじゃないぞ、そこ!? むしろ恐怖するところだっつーの!? こ、これって……と、とんでもないことになっちまったんじゃ……

 

 

アキはそのまま改めて目の前に入る六つのDB、六星DBに目を向ける。どうやら生まれたばかりであること、そしてマザーであるシンクレア、そしてそのマスターであるアキがいるので大人しく静かに待っているようだ。流石はシンクレアを除けば最上位に位置するDB。貫録があるといってもいいかもしれない。そしてその力は桁外れだ。マザーには及ばないものの、それは間違いなく他のDBとは一線を画している。その強さをアキは知っていた。

 

『六祈将軍オラシオンセイス』

 

原作でハルたちを何度も苦しめた強敵達。一人で一国に匹敵する戦力を持つ化け物達。だがアキはそれを恐れているわけではなかった。確かに六祈将軍オラシオンセイスは怖いがそれよりも深刻な問題があった。

 

そう、今、本来六祈将軍オラシオンセイスに渡るはずだった六星DBがここにあるということ。自分というイレギュラーのせいで。そしてマザーの親バカ、過保護とも言える行動によって。

 

 

アキはめまいを起こしそうになりながらも思い出す。そう、それは六年前。ハルたちと暮らし始め、この洞窟で修行を始めるようになった当初の話。嫌々ながらもアキはマザーの訓練を受けていたがそれはまさに鬼のような修行だった。スパルタという言葉が可愛く思える程の厳しさ。主にマザー、ワープロード、そして新たに生み出してもらったイリュージョンの力の制御の訓練を行っていたのだが流石に愚痴の一つも言いたくなると言うもの。アキは座学をマザーから受けている中であるいやがらせを、当てつけを行った。それはレイヴを褒めること。レイヴっていいよなーとか、結局負けちまったんだろーとか散々馬鹿にし続けた。(当然、頭痛によるお仕置きを食らった)まあアキにとっては酷い目にあわされていることへの意趣返し、それほど深い意味はなかった。だがその次の日、アキはそれを目にした。

 

 

黒い巨大な剣がさも当然のように修行場に置かれていたのである。これ見よがしに。言うまでもなくそれは魔剣デカログス。レイヴの剣、TCMと同じ能力を持つDB。その隣にはドヤ顔をさらしている(ように見える)マザーがいる。どうやらアキがレイヴのことばかり褒めるため、対抗して生み出したらしい。単純というか、ある意味恐ろしい親バカぶり。隣の家の子供が新しいおもちゃを買ってもらっていたから自分の子供にも同じものを買い与えるかのようなもの。要するにアキにはだだ甘なのだった。

 

 

もっとも、当時のアキは六歳だったので自分よりも大きな剣を扱えるはずもなく、最近になるまで実際に使うことができなかったという間抜けなオチまでついた。アキとマザーが無言で互いを見つめ合っていた光景はシュールそのものだった。

 

 

そういやそんなことがあったけな……まさかここまで予想の斜め上の行動をしてくれるとは思っていなかったが……それはともかく、俺は当初、デカログスを使う気も、作ってもらう気もなかった。確かにルシアの身体になったものの、そこまで同じにすることはない。というかナイフも持ったこともない俺があんな大剣振りまわせるわけない。そんなこんなで俺はイリュージョンを生み出してもらった。イリュージョンはその名の通り、幻を、幻影を生み出すDB。相手をだましたり、何かを隠したりすることに使える能力だ。言うまでもなく戦闘を避けるための、逃走を主眼に置いたDB。マザーの力で遠距離から攻撃を加え、イリュージョンで相手を欺き、危険がある場合にはワープロードで瞬間移動しその場を離脱する。ヒットアンドアウェイ、一撃離脱の戦法を考えていた。

 

チキンだと何だと言われようが構わない! 近接でドンパチするなんて怖すぎるっつーの! まあマザーの力が強すぎるんでもう一つぐらい、遠距離で使えるDBを生み出してもらおうと思ってたらこれですよ。何? やっぱ剣を使わなきゃだめですか? ハルと、TCMと斬り合わないとだめってことですね、分かります。でも俺だって必死に抵抗した。第一にどうやって剣を、戦い方を覚えるのかということ。DBの使い方ならともかく、マザーだってそんなこと知っているわけもない。だがそんな甘い希望は一瞬で消え去ってしまう。それはデカログス。どうやらデカログスはその声の通り、戦い方については知識があるらしい。流石は最上級DBといったところか……俺にとっては悪夢でしかなかったのだが。いや、これは悪夢の始まりでしかなかった……

 

それは修行の方法。とりあえずデカログスが俺に戦い方を教えてくれることになったものの、その当時の俺はまだ六歳。デカログスを持ちあげることすらできない。どうやって修行するんだと思っていると何故かイリュージョンがその役を負うことになった。そう、簡単にいえばイリュージョンの幻によってイメージトレーニングを積むことになったのである。まさかそういう風に能力を使うことになるとは……その時、ちょっと生み出したことを後悔したのは内緒だ……と、とにかくイメージトレーニングは開始された。だが大きな疑問があった。イメージトレーニングをするのは構わないが一体誰が相手をしてくれるのか。あいにく俺は実戦の経験はないし、誰かが戦っているのを見たこともない。だがその疑問は驚愕に、恐怖に変わる。目の前に現れた人物、いや幻影によって。

 

 

『アルパイン・スパニエル』 『ディアハウンド』 『クレア・マルチーズ』 『ダルメシアン』

 

 

蒼天四戦士。かつて王国戦争において、シンフォニア王国最強の戦士と呼ばれた四人が目の前に現れたのである。

 

 

え……? なにこれ……? 何でこの人達がこんなところにいるんですか? え? マザーの記憶から再現した? すげーなイリュージョン! そんなことまでできんのか! 何気に汎用性が半端ない。で、この方々は一体どうしてここに? ん? 俺がこの四人と戦うの? 一人で? マジで? ははっ御冗談を。俺、ただの子供だよ? こんな歴戦の戦士達とやりあえるわけないじゃん。心配するな、最初は一対一? いやいや何言ってんの? すぐ殺されちまうって。は? イメージトレーニングだから死にはしない? 存分にやれって? ふ、ふざけんなああああっ!? そういう問題じゃねえだろうがっ!? 最初から難易度高すぎんだろうがっ!? そこらへんの雑兵でいいだろうがっ!? なあ、イリュージョンも何とか言ってくれよ!? え? ごめんなさい? そ、そんな……デカログス、お前も何とか言えよ!? え? 遅いか早いかの差だって? そういう問題じゃねえだろうっ!? え、ちょっ待……ぎゃあああああああっ!?

 

 

それから俺のまさに地獄とも言える修行という名の虐待が始まった。もう何度殺されたかも分からない。数えるだけ無駄だった。っていうかマジで蒼天四戦士半端ない。確かに俺は何の経験もない素人だがそれでもシンクレアと契約しているおかげで人間離れした力を発揮できる。しかも最初はDBありで勝負させてもらったのだが全く歯が立たない。開始十秒も持たない有様。間違いなく六祈将軍オラシオンセイスと互角、いやそれ以上の強さ。レイヴもDBも持っていないのにまさに反則と言ってもいい強さだった。未だに一回も勝ててません。しかも最近は剣の相手をシバ相手にさせられています。

 

はい、あのシバです。初代レイヴマスターです。まあ、まだ二代目はいないので現レイヴマスターですが……化け物です。それしか言葉が出てきません。ほんとに同じ人間なんですか、この人? 動きが見えないんですけど……? 剣を合わせることすらできないんですけど……? そういえばジークが言ってたっけ? 剣では魔法には勝てないとか何とか……嘘つけやこらああああっ!? 魔法があってもどうしようもないわっ!? 剣聖なめすぎだっつーのっ!? 魔法唱える前にやられるっつーか唱えても当てることすらできないほどのデタラメさ。実力で言えばキングやゲイル・グローリーを超える男。しかもTCMの能力なしでも一太刀も浴びせられません。これが全盛期のシバの力……世界を背負った男の強さなのか……あの、もう俺、帰ってもいいですか? 無理です。こんなの相手に勝てる気がしません。シバ相手に戦うわけじゃないが最終的にはハルもこれに近い実力になるはず。どうしようもない……ん? ま、待て俺っ!? 何かおかしくないかっ!? 何普通にハルを倒すこと考えてんのっ!? 思考がおかしくなってんぞ、落ち着け、落ち着くんだ俺、深呼吸深呼吸……ん? 何だよマザー? この程度で根を上げるなって? は? 最終的には羅刹の剣サクリファーを持つシバに勝てるようになってもらうって? そうか……寝言は寝てから言えやこらあああああっ!? 何? 俺に闘神にでもなれっつーのか!? 海に投げ捨てられたいのか!? いいぞその喧嘩買ってやる、表に出ろや! 今日こそ白黒付けてやんよ! え? デカログス? あ、はい、すいません、取り乱しました……ちょっとカッとなっちゃって……え? 焦ることはない? 俺には才能があるって? そんな、ほんとに俺にそんな力が……はい! すいませんでした! これからもお願いします、師匠!

 

 

それが俺と師匠の慣れ染め……じゃなかった出会い。まああれから六年、実際に剣を使い始めたのは一年だが少しはマシになってきた。まあ、シバには遠く及ばないが……というかまだ十二歳だしな、俺。追いつけるわきゃないだろ、常識的に考えて……DBありなら少しは善戦できるかもしれんが……あ、あくまでもTCMの能力なしのシバ相手ならね。TCM使われたら一瞬で惨殺されます。いやマジで。っと話が脱線しすぎたな……

 

 

つい余計なことを考えていたアキが改めて振り返る。そこにはまるで捨てられまいとするような六星DBの姿があった。

 

 

RPG風に言うなら『六星DB達が仲間にしてほしそうにこっちを見ている』状態である。

 

 

ぐっ……そんな目で俺を見るんじゃねえ……まるで俺が悪人みたいじゃねえか。確かにこいつらの能力は半端ない。一つでも持ってりゃ随分な戦力アップだろう。だがそうなればそのDBを持っていた六祈将軍オラシオンセイスにはそれが渡らないことになってしまう。それはまずい。確かに俺がルシアに憑依している時点で既に原作通りに行くわけがないのだがそれでも六祈将軍オラシオンセイスがいなくなったり、少なくなったりするのは影響が大きすぎる。なんだかんだあいつらがいたからハルたちは成長できたようなもんだからな……ん? 何だよマザー? 悩んでんなら全部持てばいいって? 無茶言うなっ!? んなことできるわけねえだろうがっ!? 完全に俺の限界を、キャパシティを超えとるわっ! は? 修行すればどうとでもなる? 俺はDBに愛されてる? なんじゃそりゃ!? そんな魅力これっぽっちもいらんわ!? そんなもんがあるなら百分の一でもカトレア姉さんに愛される魅力が欲しいわ!? ん? じゃあ誰か配下になる奴に渡したらどうかって? うっ……やっぱそうなるか……

 

 

アキはそのままどこか憂鬱になりながら洞窟の隅に目をやる。そこには大きな風呂敷のようなもので包まれた包みがいくつも並んでいた。中にはまるで石の様な物が一杯に詰まっている。

 

 

はい、あれ、全部DBなんです。数がいくつあるかは知らん。っつーか数える気も起きん。言うまでもなくマザーがこの六年間生み出し続けたDBです。まあ当たり前っちゃあ当たり前。シンクレアはDBを生み出す存在なんだし。と言ってもそれをどうするかが一番の問題だった。海にでも捨てようかと思ったがマザーがいる手前そんなことはできない。人間でいえば子供を海に投げ捨てられるようなもんだ。どんな極悪人になるんだ俺? そしてマザーは当然それを世界にばらまくように俺に言って来た。しかし俺はこの島から出たくないし、そんなことしたくもない。まあある程度は仕方ないかもしれないが、あまりにもヘンな動きをすればマザーに疑われる。それでも妥協案として俺は提案した。

 

俺が将来組織を作った時に配下にDBを与えるためにとっておくと。かなり苦しい言い訳だったがなんとかそれで話はついた。それ以来、大量のDBたちは袋に包まれたまま放置されている。DCが見れば卒倒ものの光景だった。たまに開けようとするのだがめちゃくちゃやかましいのであきらめた。俺にとっては何百もの声が聞こえてくるのだから迷惑以外の何物でもない。中には原作で見たようなDBがあったような気もするが気のせいだろう、そこまで面倒見切れん。しかもどうやらみんな俺の五つ目のDBの座を狙っているらしい。大人気だな、俺……DB限定で。DBだけが友達とか悲しすぎる……ん? ああ、大丈夫だよ、イリュージョン……お前だけだよ、俺のこと心配してくれんのは……後で綺麗に磨いてやるからな……

 

 

まあそれは置いといて、うん……やっぱ原作通りにDCに、六祈将軍オラシオンセイスたちの元に渡るようにするしかないか……あまりにもリスクが大きすぎる。全部俺が持って四天魔王アスラごっこも楽しそうだがあきらめよう。やりすぎは宜しくない。どんな反動があるか分からんし……だけど……

 

うん、正直怖い。できればDCには近づきたくない。少なくても原作キャラには。まだ六星DBを持っていないとはいえ間違いなくその実力は折り紙つき。キングはもちろん、ハジャとかに接触したら命が危ない。冗談じゃなくてマジで。理想としてはそっと、誰にも気付かれることなく、サンタクロースのように六星DBたちを本部の前に置いてくることだ。何か猫を、犬を捨ててくるみたいで嫌だがそうするしかない。後はマザーに適当な言い訳しとかねえと……うーん、DCを大きくさせてから乗っ取るためとか何とか言っとけばいいか。あいつ、結構騙しやすいしそれぐらいでいいだろ。すまんな……お前達。期待してる所悪いが奉公にいってくれるか? 大丈夫、きっとお前達に相応しい主に出会えるはずだ。馬鹿が一人混じってるが気にするな。頑張れよ、アマデ・トワール……

 

 

さて、とりあえず方針が決まったところで一旦家に帰るとするか。島から出るとなると準備も必要だし。最短で戻ってきても一週間くらいはかかるかな。言い訳はどうするか。うーん……親父を探すためとでもしとくか、そういう話は六年前からしといたし。流石俺、抜かりはない。ハルの奴が付いてくるって駄々こねそうだけど。あいつ、シスコンだけじゃなくブラコンの気もあるもんな……

 

 

そんなことを考えながらも洞窟を出た瞬間、大きな爆発音が響き渡る。同時に煙のようなものが村の方向から上がり始めているのがアキの瞳に映る。知らず口は開きっぱなし、その表情は絶望に染まっていた。それは悟ったから。本能で、直感で。

 

 

 

自分にとっての安息の時間がついに終わりを告げたのだと―――――


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。