ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第五十三話 「手紙」

「むー……」

 

 

頬を膨らませながらムシャムシャとお昼ごはんを口にする。あたしの得意料理の一つでもあるサンドイッチ。その味もバッチリ。なのに全然美味しくない。サンドイッチが悪いわけではない。あたしの体調が悪いわけでもない。場所もいつもと同じあたしの秘密の遊び場所である草原。悪いのは

 

 

「もー! アキったら一体どこに行ったの? いないならいないって返事してくれないとサンドイッチもったいないのに!」

 

 

ここにいない、ここ一週間ほどやってこないアキ。二、三日で戻ってくるって言っていたのにそれからも全然音沙汰無し。おかげで毎日ここにやってきても無駄足、二人分のお昼ごはんも無駄になってしまう。いくらあたしでも二人分のごはんを毎日食べてたら太ってしまう。もしかしたらあたしを太らせようとするアキの悪戯なのかもしれない。

 

でも誰の返事も返ってこない。今日で五日目。どうやら今日もアキはやってこないみたい。

 

 

(アキ、一体どこで何してるんだろう? 何か用事があるって言ってたけど……)

 

 

もうお手上げとばかりにサンドイッチを全部食べるのをあきらめて草原にダイブ。そのままいつものように草原の上をごろごろ転がっていく。温かさと草原の匂いを感じれて、ついでに虫っぽいものを見つけられるかもしれないあたしの大好きな遊び。もしアキに見つかったらはしたないとか食べてすぐ横になるなんてよくないって言われてしまうに違いない。まるでママみたいだねって言ったらアキは変な顔をしてたっけ。何でだろう。パパの方が良かったのかな。

 

 

(でも……うーん、あたしも調子が悪いのかな? 村のみんなにも機嫌が悪そうって言われたし……)

 

 

そのまま仰向けになって空を見上げながらうーんと首を捻るしかない。確かに最近の自分は変かもしれない。何だろう、何だが面白くない。胸がもやもやする。体の調子はどこも悪くないのに。うん、やっぱりアキが悪いに違いない。こんな風になっているのはアキが来なくなってからなんだからちゃんと文句を言わないと。

 

 

(そういえば……結局アキってどんな人なんだろう? 記憶喪失だから全然分からないし……)

 

 

ふとそんなことを考える。突然現れた記憶喪失の男の子。年はあたしよりも少し上ぐらい。金髪に全身真っ黒の格好。綺麗な宝石をいっぱい持ってて大きな剣も持っている。どうしてかあたしのことをエリーと言い間違える。もしかしたらあたしのことを知っているかもしれないが、あたしは会ったことはない。考えれば考えるほど変な、村のみんなが言う不審者みたいな男の子。

 

 

(記憶喪失かー……どんな感じなんだろう? 自分のことも、みんなのことも全部忘れちゃうんだよね……)

 

 

目下一番の問題である記憶喪失。そのせいでアキは何も思い出せない状態。アキは平気そうにしてたけど、きっと本当はそんなことはないはず。夜寝る前に何度も考えてみた。もし自分が記憶喪失になってしまったらどうなるのか。自分の名前も、パパやママのことも、村のみんなのことも、何もかも忘れてしまう。怖かった。考えただけで怖かった。何も分からないまま、何も知らない場所に一人きり。あたしならきっと耐えられなくて泣いてしまうに違いない。

 

 

(……うん! やっぱりそうしよう! ただそうなるとアキの臭いが……)

 

 

アキには断られてしまったけどやっぱりその方がいいに違いない。ただ自分は大丈夫だが村のみんなはきっと反対するはず。どうすればいいのか。うんうん唸って考えるも答えが出ない。だが

 

 

(そっか! なら!)

 

 

ついに解決策を思いつく。ううん、思い出した。あまりにも当たり前すぎて思いつかなかった方法。そう、あたしにはアキにも、村のみんなにも知られていないとっておきがあるのだから。うん、何だか楽しくなってきた。パパやママには内緒にするように言われてたけど、きっと許してくれるはず。

 

 

(でもそうなると……アキの臭いがどこかにあれば……そうだ! ならアキの家に行っちゃえばいいんだ!)

 

 

ちゃんと上手くできるかどうか確認するためにもアキの臭いがいる。でもアキはいない。ならアキの家に行くしかない。実はアキがどこに住んでるのかはおおよそ分かっている。アキの臭いというか気配のような物があたしには分かる。何でかは分からないけど、それが今回は役に立つはず。アキはいつもここから一つ山を越えた場所に住んでいるはず。アキには付いてこないように言われてしまったがこれは付いて行くわけではないから約束を破ることにはならない。

 

 

「よーし、じゃあ出発!」

 

 

善は急げ。そのままぴょんと立ち上がり、ランチバスケットを片付けて出発する。もう胸のもやもやも消えてなくなっている。目指すはアキの秘密のアジト。

 

 

リーシャ・バレンタインは無邪気さそのままに秘密の遊び場所からアキの秘密の隠れ家にお宅訪問するべく、出発するのだった――――

 

 

 

深い山の中、馬に跨って進む人影があった。その馬の馬具には紋章が刻まれている。それはシンフォニア王国の国旗。その跨っている者が間違いなくシンフォニアの兵士である証明。だが何よりも目を引くのはその容姿。それは女性だった。褐色の肌に長い黒髪。しなやかさを感じさせる容姿。だがそれだけではない。女兵士という珍しさ以上に彼女にはもう一つの特異点がある。

 

『蒼天四戦士』

 

王国最強の四人に与えられている称号。その紅一点。それがクレア・マルチーズその人だった。

 

 

(南か……全く大雑把に言ってくれる。おかげでこっちはいい迷惑だな……)

 

 

ただ太陽の位置を確認しながら南へと進む。これがいつものように敵兵へと攻める行軍であればどれだけ楽だったか。ある意味それ以上の苦行を今の自分は強いられている。当てのない旅人、旅芸人にでもなった気分。唯一の救いは自分は今一人きりであるということ。部下を連れてであれば今以上に心労を感じるのは間違いなかったはず。

 

 

(予言者サガ・ペンドラゴンか……国王の手前大っぴらには言えなかったが、信用していいもんかねェ)

 

 

 

思い出すのは王都で受けた密命。それ自体は珍しいことではない。過ぎた評価であると思うが、蒼天四戦士の称号を受けた自分であれば国王からそういった命令を受ける機会も幾度もあった。だが今回の密命はいつものそれとは明らかに違う。

 

『予言者サガ・ペンドラゴン』

 

大預言者であり、あの黙示録を記した人物。このシンフォニアでも知らぬ者はいない存在。そのサガ・ペンドラゴンがその場にはいた。そう、率直に言えば今回の密命はマラキア国王からではなく、彼からの密命、いや予言だった。

 

 

『蒼天四戦士の一人、クレアよ。南に向かえ。そこで運命に連なる出会いがあるであろう』

 

 

そんな、ある意味予言らしい予言。悪く言えば荒唐無稽な内容の予言に基づいて今自分は南へと向かっている。表向きはレアグローブからの侵攻が激しい南を強化する目的だが、真の目的は別。顔も名前も分からない誰かとの出会いを求めて自分は今彷徨っている。

 

 

(運命に連なる出会いねェ……運命の人を探せって冗談じゃないことを祈るしかないか)

 

 

そんな冗談を考えてしまうほどには自分はサガ・ペンドラゴンを信用はしていなかった。いや、そもそも予言というものがどうにも受け付けない。自分の運命を他人に預けるようなことは自分の性分ではない。そう他の三人に漏らしたが、アルパインは大預言者を侮辱する気かと激高し、ディアハウンドは当たれば儲けものではないかと笑い飛ばし、ダルメシアンは無言でパイプをふかすだけ。結局は国王であるマラキア様が予言に傾倒しているのが大きい。あまりのめり込みすぎないようにして頂きたいというのが本音。もっともレアグローブ相手に日々劣勢を強いられている現状で占いに頼りたくなる気持ちは分からなくもないが。

 

 

(とにかく任務は任務。とりあえずはここから一番近い拠点へ向かうか……)

 

 

いつまで考えてもらちが明かない。とりあえずは南に向かいながら各地の軍事拠点を回っていくことにしようと馬を走らせようとした瞬間、

 

 

全身が悪寒で総毛だった――――

 

 

(何だこれは……? 臭い……いや、気配なのか? まるで腐敗し切った沼があるのかような……!?)

 

 

思わず口元を手で覆いながら戦慄する。それは臭いだった。一瞬毒ガスの類かと思えるような悪臭が辺りに蔓延している。それを感じ取ったのか馬は暴れだし、見ればその悪臭の影響なのか草木が変色し、枯れ腐ってしまっているものまである。明らかに異常な状態。だが何よりも気になるのは

 

 

(この気配は……間違いない、DB……!)

 

 

この気配がDBより生まれる物であること。レアグローブ兵が装備している兵器であり魔石。人の力を超えた超常を与える代償に心を蝕む悪魔の石。戦で幾度もそれと戦ってきた自分にはそれが分かる。だがその気配は常軌を逸している。これまで戦ってきたDBのどれとも比較することができないほどの邪悪さ。知識として知っているDBの泉なるものがこの先にあるのか、それとも。

 

 

「――――」

 

 

瞬時に思考を戦闘態勢に切り返し、馬から飛び降りその手に双剣を握りしめる。この場を放置することはあり得ない。予言に傾倒するわけではないが、蒼天四戦士として見逃すことはできない。

 

そのまま息を殺し、気配を絶ったまま進む。目指すはその気配、臭いの元凶。そしてついにその元凶と思われる場所にたどり着く。そこは洞窟だった。何の変哲もない、天然の洞窟。もしかしたら未だに判明していないDBの生み出される場所なのかもしれない。もしくはその人物の隠れ家。一気に突入すべきか、それともしばらく様子を見るべきか。だがすぐさま感じとる。それは人の気配だった。間違いなくあの洞窟には人がいる。ならば先手必勝。速さを武器とする自分にとっては機先を制し、先の先を取ることこそが最善。

 

瞬間、己の最速の足で洞窟へと突入し、目を凝らす。明るい場所から暗い場所へと移ることで視界がぼやけるも誤差の範囲。

 

 

「動くな!! 動けば命はないと思え!!」

 

 

そのまま抵抗する間を与えず双剣を突き付ける。完全な王手。少しでも妙なことをすれば始末できる位置関係。極限状態にも似た空気は

 

 

「きゃっ!? え? だ、誰!?」

 

 

可愛らしい、こっちの毒気が完全に抜けてしまうような焦った少女の声で霧散してしまった。

 

 

(っ!? お、女の子……? 何でこんなところに……罠か? いや、しかし……)

 

 

想像だにしていなかった展開に一瞬戸惑うもすぐさま我を取り戻す。年は恐らく十五歳ほど。長い金髪に白い民族衣装を着た少女。その物腰もただの民間人のそれ。剣やDBといった武器も所持している様子もない。だが困惑しているのか、自分以上に怪訝そうにこちらを見つめている。そこでようやく自分が少女に剣を突き付けてしまったままであることに気づき、距離を取る。これではどちらが不審者か分かったものではない。

 

 

「すまない、驚かせてしまったな。怪しい洞窟に人の気配がしたのでてっきり不審者かと思ってね」

「不審者……? あたしが? あたしは不審者なんかじゃないよ? ちょっとここに……じゃなくて!? あたし何も悪いことはしてないよ?」

 

 

ようやく状況が飲み込めたのか、少女は慌てながらそんなことを口走っている。警戒を解いたわけではないがやはりただの一般人でしかない。剣を突き付けられていたのに全く物怖じしていないという点では普通ではないが、そこはまあどうでもいいだろう。

 

 

「そうか、ならいい。それにしてもここで何をしていたんだ? いや、そもそもここにいて何も感じないのか!? 吐き気や頭痛は!?」

 

 

だがそこでようやく気付く。この洞窟の異常性。この洞窟内には先ほど外で感じたものとは桁外れの邪悪な気配が充満している。もはや瘴気と言ってもおかしくないレベル。蒼天四戦士の自分であってもこの場から一刻も早く離脱したいと思うほどの物。そこに一般人が踏み入ればどうなるか。最悪それだけで気を失ってしまってもおかしくない。にもかかわらず

 

 

「え? うん、全然平気だけどどうして?」

 

 

少女は全く意にすることなくケロッとしている。むしろ自分が何を言っているのか分からない。そんな風ですらある。あり得ない対応。

 

 

「平気だと……? お前はここにいても何も感じないのか?」

「うん。あ、でもちょっと臭いはきついかな? でも我慢できないって程じゃないし。お姉さんの方こそ大丈夫?」

「そ、そうか……ならいいんだが」

 

 

そう言いながらすんすん臭いを嗅いでいる少女。どうやら言っていることは本当らしい。どころか自分の方が心配される始末。出会ってまだ間もないが色々と規格外な女の子であるのは間違いない。

 

 

「それはともかく、こんなところで何をしていたんだ?」

「え? そ、それはえっと……そう! 探検してたの! あたし、森の中を探検したりするのが好きなんだー!」

「探検か……その恰好を見るに本当みたいだね」

 

 

慌てふためきながらも元気いっぱいに手を広げながら少女はそう宣言する。若干隠したい何かがあるのは感じ取れたが探検云々は嘘ではないのだろう。その証拠に身に纏っている白い装束は泥や埃にまみれ、山道を歩いたからだろう、スカートの裾は所々破れている。お転婆と言っても差し支えない無邪気っぷり。年の差もあってどこか妹でも前にしているかのような感覚すら湧いてくる。生まれ持っての偶像性とでもいうのか、天真爛漫さに満ちている。自分が男であれば運命の出会いだと信じても良かったかもしれないがあいにくこちらも女。

 

 

「あ、あーあ……これじゃまたおばさんに怒られちゃうかも……あ、そうだ! そういえばお姉さんは誰なの? その恰好ってやっぱり兵隊さん?」

「そういえばまだ名乗っていなかったね。あたしはクレア・マルチーズ。シンフォニア王国の兵士だよ」

 

 

出会いが出会いだったからか、まだ自分の素性も明かしていなかったことに気づき頭を掻きながら名乗ることにする。もっとも兵士であることはもう分かっていたようだがこれでとりあえず不審者ではないことは証明できるだろう。だが

 

 

「クレア・マルチーズ……? それってもしかして蒼天四戦士のクレア・マルチーズってこと!?」

 

 

それは自分が思っている以上の効果を発揮してしまう。

 

 

「あ、ああ……確かにそうなんだが」

「すごーい! 村のみんなも言ってたの! 蒼天四戦士の四人はこの国で一番強くてあたしたちを守ってくれる凄い人たちなんだって! こんなところで会えるなんて嬉しい! あ、そうだ! えっとえっと……あの、サインください!」

「……すまないが今は字を書けるものを持ってなくてね。それと流石にはしたないからそれは止めときな」

 

 

目を輝かせながら少女はこっちに迫ってくる。どうやら自分が思っているよりも蒼天四戦士の名声は轟いているらしい。国の戦意高揚のためもあるのだろうが対応するこっちとしてはもう少し抑えてほしい。そのせいだけではないが、少女はサインを書いてもらえるものがないか必死に探した挙句、スカートをたくし上げてこっちに向けている。そこに書けということなのだろうか。そもそもそのせいで下着が見えるギリギリまで生足が見えてしまっている。同じ女として思わず窘めずにはいられない。

 

 

「そっかー残念。みんなに自慢したかったのに……あれ? そういえばそんな人がどうしてこんなところにいるの?」

「いや、この洞窟から発せられてる臭いが気になってね。悪い奴がいないかどうか調べに来たのさ」

「悪い人が……?」

 

 

DBのことなどは伏せて、あえて少女にも通じるように明かす。あまりにも詳細を話すと変な噂が流れて面倒なことになりかねない。だがその瞬間、明らかに少女が動揺し始める。さっきまでとは打って変わって黙り込んでしまうほどに。できるだけオブラートに包んだつもりだったが不安にさせてしまったのかもしれない。

 

 

「でも心配いらないよ。そのためにあたしたち王国兵がいるんだからね。それで聞きたいんだけど、この近くで怪しい奴は見かけなかった?」

「え? う、うん全然そんな人は見てないよ! この洞窟にも誰もいなかったし……そ、そうだ! あたし、そろそろ帰るね! 早く帰らないと村のみんなが心配するし」

 

 

そう言いながらいそいそと少女はその場から立ち去ろうとする。平気そうにしていたがやはり洞窟の邪気はきつかったのだろうか。だが流石にここから一人で少女を帰らせるわけにはいかない。

 

 

「ちょっと待ちな。村まであたしが送るよ。悪い奴がこの近くにいるかもしれないから」

「だ、大丈夫! あたしが住んでるエリー村はすぐ近くだから! それじゃあさよなら、クレアさん! お仕事頑張ってね!」

 

 

そう言い残し、とても女の子とは思えない足の速さで少女は洞窟からいなくなってしまう。一瞬呆気に取られるもすぐに追いかけるが時すでに遅し。辺りを見渡しても少女の姿はどこにもない。一体どこに行ってしまったのか。しばらく周囲を探すも見つけることができない。

 

 

(本当に不思議な娘だね……名前も聞きそびれちゃたし……エリー村って言ってたけど……)

 

 

出会いから別れまで振り回されっぱなし。おかげで名前すら聞きそびれてしまった。住んでいる村の名前は聞かせてもらったから無事を確認することはできるはずだが、そもそも無事を確認する必要がないと感じてしまうほどの天真爛漫、もといお転婆ぶりだった。

 

 

(とにかく今はこの洞窟を調べないとね……)

 

 

予定外の事態はあったがとにもかくにも今はこの洞窟の調査が第一。そう意識を切り替えながら洞窟内部を調べる。だが残念ながら収穫はほとんどなし。怪しい人影はおろか物一つない。だが唯一分かるのはつい最近までここに何者かが住んでいたということだけ。しかもここまで痕跡を残していないということはもう移動してしまっている可能性が高い。

 

 

(もぬけの殻……か。この様子じゃ、待ち伏せしても戻ってくる可能性は低いだろうね)

 

 

改めて洞窟内を捜索しながらも手詰まり感は否めない。ただ当人がおらず、DBらしきものも無いにもかかわらず、残り香だけでこの惨状。とても看過できる存在ではない。そんな中、ふと目に留まる。あまりにも小さく、細い洞窟の中の隙間。そこから僅かに覗いている白い何か。自分ですら見逃してしまいかねない、僅かな痕跡。細心の注意を払いながらそれを手に取る。DBなどの危険物ではない。それは

 

 

「手紙……?」

 

 

手紙だった。何の変哲もない、白い便箋。ただ妙なことは宛名も何も書かれていないこと。罠か偽装か。様々な可能性が頭をよぎるが結論は決まっている。ここでこれを確認しないなどあり得ない。

 

 

「――――」

 

 

クレアは無言で、ただ何度もその文面を読み返しそのまま立ち上がる。その瞳は蒼天四戦士のそれ。ただその瞳にはそれまで以上の懐疑の光が灯っている。それには二つの理由があった。

 

一つがその筆跡。手紙の筆跡にクレアは覚えがあったからこそ。だがそれこそが問題だった。何故ならその筆跡は紛れもないクレア自身の物だったのだから。もう一つがその文面。

 

 

 

蒼天四戦士クレア・マルチーズへ

 

ダークブリングの秘密が知りたければ指定の場所まで来られたし

 

ダークブリングマスターより

 

 

 

挑戦状とも取れるような不敵な招待状。その招待を断ることなどクレアにはあり得ない。クレアはそのまま手紙を手に馬を走らせる。手紙に記された場所へと。まだクレアは知らない。その場所で何が待っているのか。

 

 

クレアは知る。その意味を。五十年後、ラーバリアにて魔石殺しと再会するその時に――――

 

 

 


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