ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第七話 「エンドレスワルツ」

天気は快晴、休日ということもあり街は人々によって賑やかさに包まれている。買い物を楽しむ家族連れに食事を楽しむカップル。それぞれに日常を、平和を謳歌している。だが住民たちは知っていた。それが決して長くは続かないであろうことを。自分たちがこうしていられるのがまだこの街に帝国軍の基地があるおかげだということを。だがそれすら必ずしも安心できるものではない。

 

『DC(デーモンカード)』 

 

DB(ダークブリング)と呼ばれる魔石を使い人々を不安と恐怖に陥れる悪の組織。その目的は知られていないがその行為は無差別テロとなんら変わらない。そしてその組織の規模、力はどんどん拡大の一歩を辿り留まるところを知らない。当然ながら政府の軍、帝国軍がそれを防がんと対抗してはいるものの持つ者に超常の力を与えるDBの力の前に劣勢に陥ってしまっているのが現状。今は何とか硬直状態、小競り合いだけで済んでいるがいつ大きな戦争が始まるか分からない。そんな漠然とした不安を抱きながらも世界の人々はどうすることもできない。だがわずかずつではあるがある噂が流れるようになりつつあった。かつてDBに対抗するために造られた聖石があったのだと。

 

その名は『RAVE(レイヴ)』

 

五十年前、リーシャ・バレンタインがその命と引き換えに造り出した平和への意志。それを扱う者はこう呼ばれた。『レイヴマスター』と。それが真実なのかどうか、今となってはそれを知る人間は少ない。だがそれでも人々は願うしかなかった。レイヴマスターの再来を―――――

 

 

 

 

賑やかな街の中心部から離れた閑散とした道を一つの人影が歩いている。だがそれが男なのか女なのかすら分からない。何故ならその人物はフードを深くかぶり、顔を隠していたから。まるで自分の顔を、姿を見られたくないかのように。人影はそのまま誰もいない道を進みある場所に向かっていく。そこは廃墟。かつては街の中心であったがDCの破壊行為によって廃墟にされそのまま放置されている場所。今、同じような場所が世界には溢れかえっている。ここはそんな場所の中の一つ。フードの人物はそのまま一度辺りを確認した後、廃墟の中へと足を進めて行く。まるで誰にも見つからないようにするかのように。そして開かれた一角に辿り着いた途端、フードの人物は何かに気づいたかのように突然足を止めてしまう。そして次の瞬間、フードを被った人物は突如襲われる。

 

それは鎖。

 

いきなり何もなかったはずの場所から、空中から銀色の鎖が現れ蛇のように縦横無尽に動きながらフードの人物を絡め取っていく。それはまさに蛇に捕まってしまった獲物そのもの。フードの人物はあり得ないような事態に身動き一つ取れないのかそのまま為す術もなく捕まってしまう。

 

 

「ふふっ、捕まえた♪」

 

 

そんなフードの人物を嘲笑うかのように一人の女性が廃墟の影から姿を現す。どうやらずっとこの廃墟に身を潜めていたらしい。だが驚くべきはその容姿。まさにそれは絶世の美女とも言っていいほどのもの。長い髪に見事なプロポーション。身につけている派手なドレスがその美貌をさらに引き立てている。すれ違えば男なら間違いなく振り返ってしまうほどの美女。女性はそのままどこか満足気に、優雅に歩きながら鎖によって拘束されているフードの人物へと近づいて行く。そしてその手がフードに触れようとした瞬間、それは空を切った。まるで幻を掴もうとしたかのように。

 

 

「あら?」

 

 

女性が驚きの声を上げると同時に目の前にいたはずのフードの人物が消え去ってしまう。文字通り霧のように。残ったのはフードだけ。その動きを縛っていたはずの銀の鎖も為すすべなく地面へと音を立てながら落ちて行く。そして

 

 

「……何のつもりだ、レイナ?」

 

 

男の声が突如女性、レイナの背後から放たれる。それはどこか不機嫌そうな雰囲気を持つ声だった。レイナは一瞬驚いたような表情を浮かべるもののすぐに楽しげな笑みを浮かべながら振り返る。そこは先程まで誰もいなかったはずの場所。しかしそこに一人の男が、少年がいた。黒い短髪にどこかぶっきらぼうな表情をした少年。黒を基調にした服装をした全身黒づくめの容姿。

 

 

「久しぶりね、アキ。元気そうでよかったわ」

 

 

それが十四歳、成長したダークブリングマスター、アキの姿だった――――

 

 

 

「もう、そんなに怒ることないじゃない。ちょっとしたおふざけよ」

「そうか……てめえ俺に喧嘩を売ってんだな……」

「まさか。それにしても流石ね。どんなDBを使ったのかしら?」

「………」

 

 

レイナがどこかからかうようにアキに向かって話しかけるもアキは無表情のまま。だが不機嫌であることは誰の目にも明らか。いきなり攻撃を仕掛けられたのだから当然だろう。しかしレイナはそんな視線をうけながらも何のその。むしろ楽しむようにアキに向かって笑みを浮かべている。それは男なら向けられれば心を奪われる程の笑顔なのだがアキは冷たい視線で応えるだけ。

 

 

「分かった分かった……悪かったわよ。久しぶりだったからちょっとからかってみただけ。だからそんなに睨まないで頂戴。せっかくのイケメンが台無しよ?」

 

 

流石にやりすぎたと感じ取ったのか手をひらひらと動かしながらレイナは謝罪する。レイナは改めて目の前の少年、アキと対面する。今年で十四歳になったらしい少年。だがアキはただの少年、子供ではない。なぜならアキは非公式ながらもDCの一員なのだから。もっとも外部協力者と言った方が正しいかもしれない。自分とは二年前からの付き合いだった。

 

 

「それにしても本当にいい男になってきたわね……どう? この後お姉さんと一緒にデートしない? 大人の世界を教えてあげるわよ♪」

「……そんなことを言うためにわざわざ俺に会いに来たのか?」

「もう、ちょっとは乗ってくれてもいいじゃない。あんまり根暗だとジェガンみたいになるわよ」

「……どうやら六祈将軍オラシオンセイスってのはよっぽど暇らしいな。用がないなら帰らせてもらうぜ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! ほんとに真面目なんだから……ちゃんとするわよ。DBを受け取りに来たの。ほんとは別の奴が来る予定だったんだけどちょうど近くに寄る機会があったら私が来たってわけ。これはホントよ?」

 

 

光栄に思いなさい、とでも言わんばかりのレイナの態度に一度溜息を吐きながらもアキはそのままどこからともなく小さな袋を取り出しそのままレイナへと手渡す。その瞬間、袋からジャラジャラとまるで石がぶつかり合うような音が響き渡る。それは袋の中身、DBが擦れ合う音だった。

 

 

「確かに受け取ったわ。お金は例の口座に振り込んでおくそうよ」

「分かった」

「それにしても本当にお金だけでいいの? 本当ならDCの幹部にだってなれるでしょうに……」

「興味はない。金だけもらえれば十分だ」

「ふーん、でも結構戦えるんでしょう、あなた? 最初の頃はウチの兵士を随分やってくれたそうじゃない。なんなら私が六祈将軍オラシオンセイスに推薦してあげてもいいわよ。まだ席は空いてるしね」

「断る。団体行動は苦手なんでな」

「あらそう、残念。あなたが六祈将軍オラシオンセイスになってくれれば話相手もできてよかったんだけど……まともな男が一人もいないのが致命的ね。今度いい男をキングに頼んでみようかしら……」

「………」

 

 

本気か冗談か分からないようなことを言いながらもレイナは受け取ったDBをしまいながらそのままその場を後にしようとする。忙しいこともあるがこれ以上アキが不機嫌にならない内に退散しようという配慮だった。だがレイナはふと気づく。それは視線。アキの視線が自分の腕、いやDBに向けられている。

 

『ホワイトキス』

 

それがそのDBの名。六星DBと呼ばれる六祈将軍オラシオンセイスだけが持つことを許されるDB。何でも目の前のアキがそれをDCへ持ちこんだらしい。それ以来アキは定期的に多額の金銭と引き換えにDBをDCに提供し続けている。だがアキがどうやってそれを手に入れているかは誰も知らない。それについては触れないことがアキとDCの契約の一つ。破ればアキからDBの提供が受けれなくなること、捕まえようにもアキが身を隠すことに長けていることからDCは外部協力者としてアキを扱っているのだった。

 

 

「どうしたの、やっぱり気が変わったのかしら?」

「いや……レイナ、ホワイトキスの調子はどうだ?」

「……? 変なこと聞くのね。問題ないわ。そもそもDBにそんなこと関係ないでしょう?」

 

 

レイナはアキから珍しく話しかけられたことに驚きながらもその内容に首をかしげることしかできない。当たり前だ。レイナ自身の調子を尋ねるならともかくそのDBの調子を気にするなど意味が分からない。もしかしてこの男は女である自分よりもDBに興味があるのだろうか。

 

 

「そうか……ならいい」

 

 

そんなことを思われているとは知らないままアキはDBを見続けている。まるで久しぶりに会った友人を見るかのように。ある意味ドラゴンだけが友達のジェガンを超える人見知りぶり、そして嗜好だった。もっとも会話ができる分マシかもしれないが。

 

 

「じゃあね、アキ。あとデートの誘いは嘘じゃないから気が変わったらいつでも連絡しなさいよ♪」

 

 

ウインクをしながらレイナはそのまま廃墟を去っていく。その容姿に相応しい優雅な身のこなしを見せながら。その後ろ姿が見えなくなるまでアキはそのままずっとその場に立ち続けるのだった―――――

 

 

 

 

 

 

ぶはあああああああっ!?!? 何っ!? いきなり何なんだよっ!? 六祈将軍オラシオンセイスが来るなんて聞いてないっつーのっ!? 間違いなく寿命が縮んだわっ!? 来たのがレイナだったのはまだマシだったが……

 

 

と、とりあえず落ち着け、俺! 深呼吸深呼吸……ふう、あ、お久しぶりです。アキです。ダークブリングマスターです。いきなりですが十四歳になりました。子供から大人になろうとしている最中です(肉体的な意味で) 随分時間が飛びましたが一応元気にやってます。厄介事は山積み、むしろ三年前よりも悪化しつつあるのだが。特にジークとかジークとかあとジークとか……ちくしょうあの疫病神め……っといかんいかん、とりあえず何から話したものか……そうだな、まずは今の俺の状況をざっくりと。

 

俺は今、DCの一員になっています。うん、何でこうなっちまったのか……俺でもよく分からん。いや、ならざるを得なかったというか……ガラージュ島を出てからすぐある問題に直面した。それはお金。そう、何をするにしてもお金が必要だった。金がなければ衣食住すらまともにできない! だが子供の俺に出来ること仕事なんてほとんどない。だが今更島に帰ることなどできない。そんなことをするぐらいなら野たれ死んだ方がマシだ! そんなこんなでなけなしのお金で路上生活をしていたのだが何故か今度はDCにつけ狙われることになった。理由は言うまでもなく俺が金髪の悪魔だとバレたから。どうやら懸賞金がかけられているのは本当らしい。そして金髪で顔に切り傷がある子供なんてそうはいない。俺は何とかそいつらを追い払い続けただが一向に追っ手の気配はなくならない。いやむしろ酷くなる一方。マザーが暴走しそうになるのを文字通り抑えながら戦うというめちゃくちゃな状況。しかしある時ようやく気づいた。

 

そう、自分が狙われるのはその容姿のせいだと。

 

そんな当たり前のことに気づくのに一カ月近くかかってしまった。今思えばそうとうテンパってたんだな……俺。それから俺は髪を黒に染めました。言うまでもなく金髪を隠すために。黒にしたのは特に理由はない。目立たなければ何でもよかった。そしてもう一つの問題。顔の傷。これについてはイリュージョンに協力してもらった。その力で傷を隠してもらったのだ。マジでイリュージョン万能すぎ! 何気に一番世話になってるのはこいつかもしれん。マザーなんて足元にも及ばないな……口が裂けても言えないが。と、とにかくそれによってDCに、賞金稼ぎたちに狙われることはなくなった。そこからようやく本来の目的、六星DBの問題を解決することになった。そしてそれは一瞬で失敗しました、はい。もうこれ以上にないくらいに。

 

見つかったんです、ハジャに。

 

そう、あのハジャです。無限のハジャです。DCの副官、頭脳とも言えるハジャに見つかってしまったんです。はっきり言って漏らす寸前でした。いや本当は……ゲフンッ、とにかく手には既にワープロードを握りしめいつでも逃げれるように準備はしていたものの、その隙があるかどうかも怪しい。しかも隠し持っていたマザーもその気配を感じ取ったのか臨戦態勢。まさに一触即発。まさかのDCとの全面戦争開始一歩手前の状況。マジでこの時のことは思い出したくもない。だが何とかそれを乗り切ることができました。

 

六星DBを渡すこと、そしてこれからもDBを定期的に渡すことを条件に。

 

それは俺からの提案。元々六星DBについては渡す気だったし、他のDBについてもマザーの手前ずっと保留するわけにはいかなかったので考えていた案のひとつであった。まさかこんな形で実現する羽目になるとは思ってもいなかったが。もしそれでも見逃してもらえないようなら悪いがマザーの力を使ってでも脱出させてもらうつもりだった……あ、あとになって気づいたんだけどあのまま戦闘になってたら多分ハジャが死ぬことになってただろう。ハジャはその体に六十一式DBと呼ばれる人工のDBを埋め込んでおりそれが無限の魔力を持つ理由。だがマザーならば自らの意志でそれを破壊、いや自壊させることができる。すなわちマザーを持つ俺はDBを持つ相手に対しては無敵といってもいいことにようやく気付いた。もっともシンクレアを持つ者、DBを持たない者はその限りではないのだが。そのことを何故教えてくれなかったのかあとでマザーに問い詰めたがどうやらそれを言えば俺がまともに修行をしなくなるかもしれないと思ったらしい。ちくしょう……覚えてろよ……

 

まあそんなこんなで俺はDCの外部協力者になった。もしかしたらハジャは俺が金髪の悪魔だということに気づいていたのかもしれん。そのうえで手元に、目が届くところに置いておこうとする算段とか……?

 

あれ、俺、もしかして選択肢間違っちゃった……?

 

そんなことを今更ながらに後悔しながらも俺はそれから定期的にDBをDCへと渡していくことになった。これについてはマザーはご機嫌だった。DCとはいえ結果的にはそれでDBが世界に出回ることになるのだから。そのことについて思うことがないわけではないがこればっかりは仕方ない。元々いくらかは流す予定だったし、できるだけ渡す奴を考えるようにだけはした。ま、しょうがいないだろ。終わっちまったことをいつまでも気にしても仕方ねえ。問題はこれから先のことだろ、うん! 後、一応報酬という形でお金がもらえることになりました。これが一番嬉しかったのは内緒だ。何はともあれ生活に困ることはなくなったわけだ。何か子供を売りさばいて生計を立ててるみたいでいい気はしないがマザーも満足しているのでよしとしよう! なんか俺、感覚がおかしくなってきてるような気がするけど気のせいだよな、きっと……

 

それから俺は世界各地を回って自分の拠点、アジトを作って行きました。主にワープロードの能力を最大活用するため。DCはもちろん、他にもシンクレアを狙う連中から、ある人物から身を隠すための場所を多く確保するのがその理由。DCの連中も一応協力関係にあるが隙があれば俺の居場所を探ろうとするので油断ならない。流石はハジャといったところか。その最中にとんでもないことがあったのだが……

 

ん? ああ、大丈夫だって。すまねえなイリュージョン、ワープロード。助かったわ……っ!? 師匠っ!? 油断大敵? はい、おっしゃる通りです! 精進します! え? すぐに対応できたのは評価してくれるって? あ、ありがとうございます! ふう、やっぱ俺もまだまだだな……あ、そうそう。マザーはこの場にいません。アジトでお留守番です。理由は簡単。持ち歩いてると狙われる可能性が増えるから。やっぱある程度のレベルの奴はシンクレアの気配が分かるらしい。しかもマザーは俺が狙われると暴走がちになるから余計タチが悪い。そんなこんなで特に戦闘の危険がない場合はアジトで留守番がデフォになっています。緊急時にはワープロードで呼び出せるので無問題。当初はぶつぶつ文句ばかり言ってたが最近はあきらめようだ。まるで子離れできない母親だな……あれ、俺の方がどっちかって言うと保護者のような気がするんですけど気のせい? もっとも本当はこれからのことを考えての作戦でもある。

 

今、俺は十四歳。原作通りであれば十六歳の時、およそ二年後にハルがレイヴマスターになり物語が始まるはず。そうなれば俺もある程度はその動向を知る必要が、場合によっては介入する必要がある。本当は第一部、キングが死ぬまでは何もしないつもりだったのだが……その……楽観視できないほどの、むしろ爆弾級の、原作崩壊級の事態を起こしてしまった手前そういうわけにもいかなくなってしまった……

 

な、何でこんなことに……俺のせいっちゃあ俺のせいだけどさ……でも元はといえば、っていうかあんなことになるなんて予想する方がむりだっつーの! 

 

 

しっかし俺、結局六祈将軍オラシオンセイスと接触する羽目になっちまったな……

 

 

レイナはさっきの通り。何か結構気に入られてるっぽい。ていうかエロスが色気が半端ない。ぜひ今度大人の世界を教えてほしいのだが色々な意味で恐ろしくて手が出せない。デートのお誘いもお断りしている。なんかそのせいで余計に絡まれてるような気もするが……

 

ユリウスは馬鹿だった。それだけ。

 

ジェガンとは結構仲がいいです。無口だけど。何かドラゴンがかっこよかったので褒めたら仲良くなれました。何か一匹くれるって言ってくれたんだけど飼う場所がないので断った。ちょっと残念だったが……まあ、根っからの悪人じゃないしな。ジュリア関連になるとちょっとあれなだけで。

 

一番苦手なのがベリアルだ。何か生理的に受け付けない。何かと喧嘩吹っ掛けてくるしな……

 

そしてまだキングとは接触せずに済んでいます。いや、接触するわけにはいかないと言うべきか。ともかく今は準備が必要だ。色んな意味で。

 

心の中で今日何度目になるか分からない溜息を吐きながらこの街にあるアジトへと辿り着く。どうやら今日は尾行もついてきていないようだ。まあもしかしたらレイナなりの気遣いなのかもしれんな。うむ、流石いい女は違うな。ぜひお付き合いしたいぐらいだ……冗談です。俺にはカトレア姉さんという心に決めた人がいるんだっ! まあ俺の一方的なあれなんだが……

 

アキはそのまま一度大きな深呼吸をしたあとアジトへと入って行く。そこは大きな地下室。元々デパートの地下だったモノを買い取ったもの。それが簡単にできるほどの額をアキはDCから報酬としてもらっていた。もっともDBの価値からすればそれでも安すぎるぐらいなのだが。

 

 

「ただいま……」

 

 

そう言いながら勝手知ったる我が家のようにアキが留守番をしていたマザーに声をかける。同時にマザーも点滅しながら返事を返してくる。

 

 

え? 今日は遅かったな? いつも通りだろうが、だいたいもう出歩いても心配されるような年じゃないっつーの! ん? 誰と会って来たのかって? だ、誰でもいいだろうが、関係ないだろったく……

 

 

この通り、マザーはいつも通りです。もはや厄介物以外の何物もない。少しはマスターの言うこときけっつーの……あ、あと声が変わってるんです。今までは機械のような音声だったのが女性の声に。恐らくは二十代前半の女性の声だろうか……これにも理由があるのだが

 

 

「あ! おかえり、アキ!」

 

 

アキがマザーと会話をしているとドタバタと誰かが騒がしくそこに割って入って来る。アキはどこか呆れた表情を見せながらもその人物へと目を向ける。

 

それは少女。歳は十五、六歳程。金髪に見事なプロポーション。それをさらに際立たせるような露出が多いラフな格好。少女はどこか嬉しそうにしながらアキの元へとやってくる。その勢いに思わず気圧されながらもアキは応える。

 

 

 

「ああ……ただいま、エリー……」

 

 

『エリー』

 

それが少女の名前。いや、今の少女の名前。何故なら少女には少女自身も知らないもう一つの名前があった。

 

『リーシャ・バレンタイン』

 

魔導精霊力エーテリオンと呼ばれる力を持つ、レイヴを作り出した少女。

 

そして今は全てを記憶喪失によって忘れてしまっている少女。原作における最重要人物でありヒロインでもある少女。

 

 

アキはどうしようもない、どうにかしなければいけない同居人に頭を抱えることしかできなかったのだった―――――

 

 


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