1組の入り口に立ち、鈴は自分が中国の代表候補生で、さらにはクラス代表に就任したことを高らかに宣言した。そして、それを見ていた一夏の言葉で鈴がキレて、その後教室にやってきた織斑先生に出席簿アタックを喰らった。
最近こういう原作であったイベントを見ると、とても懐かしく感じる。小さなころの体験を思い出してデジャブを感じるようなものだ。
その後、午前の授業を終えて昼休みになったので昼食を取るために学食へと向かった。
ちなみに今日は学食で食べるが、刀奈が弁当を作ってくれて生徒会室で一緒に食べることもある。基本的に俺の味の好みを熟知している刀奈が作る弁当は本当に美味しいから毎日食べたいが、生徒会長としての仕事や、楯無としての仕事などやることが多いことは知っているので、たまにでいいとは伝えてある。
「お、今日は翔平は学食なんだな。一緒に食べようぜ」
「俺はいいけど、例の中国の代表候補生はいいのかよ」
「みんなで一緒に食べればいいだろ」
そう言って学食へと向かう一夏と、何とも言えない顔で後を付いていく箒とセシリア。
「お前らも大変だな」
「……あぁ」
「……そうですわね」
なんだか見ていて可哀想になってくる。相談ぐらいなら乗ってやろう。力になれるかわからないけど。
「あ、翔平」
食堂に到着して、先に到着していた刀奈と合流した。俺と同じように一夏も鈴と合流したようだ。箒とセシリアはとりあえず様子を見ることにしたのか、2人から一歩下がった位置から付いて行っている。
「あの子が転校してきた中国の代表候補生?」
「みたいだな」
「なんだか小さくて可愛い」
「それ絶対に本人に言うなよ」
ただでさえスタイルの良い刀奈からそんなことを言われたら、鈴は必ずブチギレるだろう。
「そういえば、虚は?」
「今日はクラスの友達と一緒に食べるそうよ」
「なるほど。簪と本音は整備室で食べるらしい」
簪の専用機開発は順調に進んでいるようだ。予定では夏休み前には完成しそうだと言っていた。分からないところは楠姉妹に質問しているようだし、俺や刀奈が手伝えるところは手伝っているので原作よりも早く完成するだろう。
それは嬉しいのだが、最近簪たちと食事をとったり、一緒に行動することが少なくなった気がする。そのことについてこの前それとなく聞いてみたところ、「付き合いだしてからお兄ちゃんとお姉ちゃんを見てると、料理が全部甘くなる」と言われた。俺も刀奈も、そこまで人前でイチャイチャしてないと思うのだが、その時の簪のどこか諦めたような表情を見て何も言い返せなかった。
他愛もない話をしながら食事を続け、2人が食べ終わったので食器を返しに行こうとしたとき近くから"ガタッ"っという音を立てて箒とセシリアが立ち上がった。
ついに我慢できなくなったか。
先ほどから隣のテーブルで、仲良さげに話す一夏と鈴を見て"ぐぬぬぬ…"といった表情を受けべながら睨んでいた箒とセシリアが、とうとう我慢の限界に達したらしい。一夏に詰め寄る2人を見て、とりあえず刀奈の方を見て確認した。
--どうする?俺は別にスルーしてもいいんだけど
--折角なんだし、あなたも自己紹介しておけば?
--そうするか 刀奈は?
--私も軽く挨拶しておくわ。どうせ例の新聞のせいで私のことも知ってると思うけど
刀奈と目線だけで会話し、とりあえず鈴に自己紹介することに決めた。
「あの2人、今目だけで会話しなかった?」
「久しぶりに学食でお昼食べてるの見れたからラッキーと思ったけど…」
「このままじゃ私達糖尿病よ」
「…私コーヒー買ってこよ」
「…私も」
「あ、さっき見たけどブラック売り切れだったよ」
「「…嘘でしょ」」
周りの人達が何か話しているが俺は気にしない。
最近学園内のブラックコーヒーの購入率が倍増しているらしいが、それも俺は気にしない。女子高だったんだし、もともと少なかったんだろう。きっとそうだ。
食器を返して戻ってくると、さっきよりも鬼気迫る雰囲気で箒とセシリアが一夏に詰め寄っていた。何でも誰が一夏にISの操縦を教えるかということで言い争っているらしい。
先日俺が一応教えてみたが、やっぱりというか何というか、一夏は俺の言うことをほぼほぼ理解できなかったので、ある程度の練習メニューだけ渡しただけだ。まぁそれも、箒とセシリアの影響でほとんど出来ていないとは思うが。
付き合いの長い刀奈や簪だったら俺が言いたいことを何となく理解してくれて、それを脳内で整理して一般的な言葉に直して聞いてくれるので、ある程度教えることができる。といっても俺が教えることもあまり無いが…。
それが、出会ってからあまり時間が経っていない人だと、やはり俺が勝手に脳内変換した言葉は受け入れてもらいえないのだ。一生懸命教えても、「ごめん、意味わかんない」といわれた時は結構悲しくなる。まぁ刀奈が慰めてくれるからいいんだけど。
白熱する言い争いを少し離れていた場所から刀奈と傍観していると、ようやく話が落ち着いてきたので一夏達に近づく。すると、俺と刀奈に気付いた一夏が声をかけてきた。
「翔平、ちょうど良かった。紹介するよ」
「お前、俺と一緒に飯食べようって言ったの忘れてただろ」
「あ……悪い」
「まぁいいけどさ」
やはり俺の存在を忘れていたようだ。まぁ久しぶりの幼馴染との再会だったんだから仕方ないとは思うけど。
一夏に呼ばれたので俺と刀奈はセシリアの横に並ぶ。俺たちを見た鈴の第一声は、「あ、新聞に載ってた人達だ」だった。今日転校してきた生徒にまで知られているのか。まぁクラスに配られた例の特別号の新聞は、大半のクラスが掲示しているらしいので目には入るし、クラスメイトに詳細は聞くだろう。
ひとまず、一夏がそれぞれ簡単に紹介する。まぁ俺は知ってたんだけど。その後、本人同士で自己紹介した。
「まぁいろいろと知ってるだろうけど、1組の上代翔平だ。年齢は1つ上だけどタメ口でいいぞ」
「この学園の生徒会長をしている更識楯無よ。よろしくね」
「2組に転校してきた凰 鈴音よ。あの新聞も見たし、カミングアウトのこととかあなた達のことはいろいろと聞いてるわ」
やはり、いろいろと聞いているようだった。まぁでも、尾ひれがついたような噂は今のところ流れてないようなのでいいか。
薫子に頼んで新聞の一部に、俺が刀奈をナンパしようとした連中を病院送りにしたエピソードと、"事実無根な噂を流したらどうなるかわかってるよな?"という脅しを俺のコメントとしてそれとなく記載してもらった。
その影響が今のところは表れているようだ。
俺達が自己紹介を終えたタイミングで予鈴がなったことで、この場は解散となった。
その日の放課後、俺はベンダバールの定期メンテナンスのために出雲へと向かっていた。
出雲に到着して中に入って受付のお姉さんと挨拶をかわす。ニヤニヤしていたのは俺と刀奈の話を聞いたからだろう。刀奈と恋人となってから出雲を訪れるのは今日が初めてである。
その後も、すれ違う様々な人からニヤニヤされたりおめでとうと言われたりした。……もしかしてここの職員全員知ってるんじゃないか?
嫌な予感を感じながら、俺は楠姉妹が待つ第一研究室に到着して、端末で一言挨拶してから入室する。
「「やぁ翔平君」」
「こんにちは、華さん、彩さん」
挨拶を済ませて俺はベンダバールを2人に預けた。
この2人もニヤニヤしているが、無視する。いちいち反応していても疲れるだけだと分かっている。
「じゃあメンテナンスするからどっかで時間つぶしといて」
「多分1時間ぐらいで終わると思うから」
「了解」
メンテが終わってからじっくり話聞くからという言葉は聞かなかったことにして、俺は第一研究室から出た。
さて、時間を潰すと言ってもここでできることなんてたかが知れている。とりあえず、俺は近くにあるラウンジに向かった。
「あ、翔平さん」
ラウンジのニヤニヤしている職員からコーヒーを受け取ったタイミングで後ろから声をかけられた。
「よぉ豊、久しぶり」
「はい、お久しぶりです」
豊は現在出雲が引き取っていて、藤丸さんが実質的な保護者という扱いとなっている。当初は、別の施設に預けるということになっていたのだが、楠姉妹が豊を気に入ったのだ。
一時的に出雲で保護していた時に、豊が暇と言って施設内を散策していた時に第一研究室を訪れた。その際豊は楠姉妹がやっていたISの整備を見て興味を抱いたようで、その事に気を良くした楠姉妹は、簡単ではあるがプログラミングを教えた。そこまでは微笑ましい光景だった。俺や楠姉妹が驚いたのはその後だった。豊は教えられたことを瞬く間に吸収していった。基礎を教えると自分で勝手に応用まで覚えていったのだ。一目見て分かった、豊は天才だ。俺と同じように驚いていた楠姉妹と同じように技術者としての才能があるとすぐに分かった。
結局、「キャー何この子凄い!!可愛い!!!」「この子出雲で引き取りましょう!!!」と興奮した楠姉妹が半ば一方的に決めて、藤丸さんにはほぼほぼ事後報告になった。まぁ藤丸さん本人が別にいいと言っていたので大丈夫だったんだろう。
そんな経緯があり、今では豊は楠姉妹の弟子となっている。
「今日はベンダバールのメンテですか?」
「そう。お前の師匠たちにテキトーに時間潰しておけって言われて暇してるんだよ」
俺と同じように、職員から飲み物を受け取った豊と一緒に、近くのソファーに座る。ここのラウンジでは、施設関係者であればコーヒーといったドリンクが無料でもらえる。
「今日は彼女と一緒じゃないんですね」
豊の言葉に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになるも、何とか耐えた。
「なぁ、ここの職員ってみんな知ってるわけ?」
「翔平さんと楯無さんのことを知っている人ならそうだと思いますよ」
「何でそんな知れ渡ってるんだよ……」
「それは、やっぱりあれじゃないですか?」
豊が指さす方向を見ると、そこには例の特別号の新聞が貼ってあった。
「何でここに貼ってあるんだよ!?」
「師匠たちが貼ってるのを見ましたよ」
「何で奴らが持ってるんだよ!?」
よりによってあの2人が手に入れていたとは……。そりゃ知れ渡るだろう。このラウンジは出雲で働く人の大半が利用する場所なので必然的に多くの人が目にする。まぁたまたま訪れたお客さんとかには見られないからまだ良かったけど。
「なぁ豊。華さんと彩さんはあの新聞を誰から手に入れたか言ってなかったか?」
「『ほんと、本音ちゃんには感謝ねぇ』と言ってたのは聞きました」
「………」
あいつ、まだ懲りてなかった。また簪に協力してもらわないと。
そのまま豊と、途中からラウンジに来た藤丸さんと話して時間を潰した。
一時間ほど話した時、携帯に華さんから連絡が来たので豊と一緒に第一研究室へと向かった。
「メンテ終わったよー。あ、豊君も一緒だったんだ」
「あ、翔平君ちょっといい?」
第一研究室に入ると、華さんからメンテが終わったことを伝えられ、彩さんに呼ばれた。
「どうしました?」
「シールドビットなんだけど、言ってた通りに調整しておいたから」
ベンダバールのシールドビットは、相手からの攻撃を防ぐ際、エネルギーシールドを展開して防御する。この動作を行うのに、少量だが自分のシールドエネルギーを使用するので、俺は相手からの攻撃が当たる瞬間のみエネルギーシールドを展開するようにしている。しかし、この前試合をしたセシリアのブルー・ティアーズのようにそこそこの威力のビームなどを受けると、それだけ消費エネルギーも多くなった。
俺が今回彩さんに頼んだのは、これまで全体に展開していたエネルギーシールドを半分にしてもらい、より強力なシールドにしてもらった。これで360°防げていたのが、前方180°のみしか防げなくなった。その分、省エネになったので、俺としてはありがたい。
「ディフェンスモードも調整したから、今度試しといてね」
「分かりました、ありがとうございます」
シールドビットは4基あるが、それらを連結させることができる。4基全てを連結させた状態をディフェンスモードと呼んでいる。敵の攻撃が強力であれば、ディフェンスモードを使う機会もある。今度のクラス対抗戦で
メンテが終わったベンダバールを受け取ってとっと帰ろうとするも、楠姉妹に捕まった。
「さて、じゃあ楯無ちゃんとの話をゆっくりと聞かせてもらおうかな」
「私たちの連絡無視ったんだから、覚悟してね」
「あ、僕も聞きたいな」
俺が解放されたのはそれから一時間後だった。
「本音、あなたまたやらかしたのね」
「……お菓子ぃ」
「自業自得よ。私はまたプラモ買ってもらったから良かったけど」
「かんちゃん酷いよぉ」
感想評価等よろしくお願いします。