深夜。人気もなくどこの家も電気を消して就寝しており外灯だけが辺りを照らしている。その中で一人の男が壁に手をつけながら歩いていた。パーカーを深くかぶって息を苦しく吐き、口から血が流れている。左手はダラリと垂れ下がり左足はズルズルと引きずっていた。顔は血が通ってない死人にような肌で片方の眼球は白く濁り光を宿しておらず顔の半分はマヒしているのか唇が半分空いていた。その男、間桐雁夜は拠点である実家を目指して歩いていた。
(くそ…! たった一回の戦いでこの有様か…)
雁夜は歩みを止め先刻の戦いを思い出す。 アーチャーにバーサーカーをぶつけて撤退させたのは良かったがバーサーカーが突如、暴走してセイバーに襲い掛かったせいで体内にいる刻印蟲が躰を蝕み始めた。あの時、ライダーがバーサーカーを攻撃していなければ雁夜は確実に死んでいただろう。
(だが聖杯を手にするまで俺は死ぬわけにはいかない…!)
雁夜は聖杯を絶対に手にしなければいけなかった。聖杯を手にし大切な思い人の子を地獄から助け出さなければいけないのだ。そうして雁夜は再び歩き出そうとした時…。
「使い魔で見ていましたが直に見ると本当に酷い有様ですね。間桐雁夜さん」
後ろから女の声が聞こえた。雁夜はすぐに後ろ振り向くとそこに数人の男を引き連れた女性が立っていた。
「だ、誰だ! どうして俺の名を!!」
雁夜は叫び、警戒する。聖杯戦争の関係者か? どうする!?
「失礼しました。自己紹介をしましょう。私はカロリーザ・クエンスと言います。
後ろにいるのは私の部下です。 私達は貴方と戦いに来たわけではありません」
カロリーザは手を上げ戦う意思はないと見せる。
「戦いに来た訳じゃないのなら俺になんの用だ?」
雁夜は警戒しながら問う。
「率直に言えば貴方と協力関係を結びたいのです」
「協力…? 同盟を結びたいと言うのか?」
「はい。」
雁夜は目の前の女に警戒から疑問が湧いていく。なぜ自分なのだ? その目的は? その真意はなんなのか?
「しかし、ここではなんですから一旦、場所を変えませんか? 安心してください。先ほど言ったように我々は貴方を害を与える気はありません」
カロリーザはにこやかに笑みを浮かべるが雁夜は信用できなかった。
「ふざけるな…! そう言って俺を殺す気なんだろう!」
雁夜はバーサーカーを実体化させようとしたがそれより早くカロリーザの前にアヴェンジャーが実体化し剣を抜く。
「なっ!首無し騎士…!」
「バーサーカーを実体化させますか? その体が問題ないというのならどうぞ」
「うっ…」
今、雁夜は埠頭の戦いで酷く消耗している。バーサーカーを実体化させてもすぐに魔力切れを起こして終わりだ。
または体内の刻印蟲に躰を食いつくされて絶命するかのどちらかだ…。
さらに言えばバーサーカーはライダーによって大ダメージを負っているためまともな戦いにもならないだろう。
手詰まりだった…。
「分かった… 付いていけばいいんだろう」
「ありがとうございます ではこちらへ。」
カロリーザに言われるまま黒いバンに乗り込む雁夜。
「申し訳ございませんが目隠しさせてもらいます。」
目に布を巻かれ何も見えない中、車が走り出した。
走り続けて30分は経つ頃、車がゆっくりとスピードを落としていき停車する。
雁夜は目隠しされたまま車を降りカロリーザの部下達に引っ張られるように歩かされた。ガラガラと門が開く音が聞こえる。どこか建物に入ったのか外の空気とはまた違う空気を感じる。そこからほんの数分は歩いただろうか?
急に歩みが止まり目隠しの布を外される。視界が自由になって雁夜は辺りを見渡す。そこはそれなりに広く上と下はコンクリートで出来ていて窓は一切なかった。おそらく地下室だろう。部屋の中央には椅子とテーブルがありテレビが設置されていた。
「どうぞお座りくいださい」
カロリーザに言われるまま椅子に座る雁夜。カロリーザの部下達はテレビの横にある機械を構っていた。
「準備ができました」
部下の男性はカロリーザにそう言い。
「始めて」
「はっ」
男がスイッチを押すとテレビが付き画面にマスクをかぶった男性が映し出された。
「司令官。間桐雁夜様をお連れしまいした」
『ご苦労だった。
始めまして間桐雁夜。 このような所に連れてきて申し訳ない。本来なら直に会って話をしたかったのだが画面越しで話をする事を許してほしい」
男は雁夜にそう謝罪した。
「お前は誰なんだ…? 目的は何なんだ?」
意を決して雁夜は画面の男に話しかけた。
『まず自己紹介をしよう。私の事は
「どうして俺と手を組みたいんだ?」
『あの黄金のアーチャーを倒すためだ。君も知ってると思うがアレは間違いなく今回の聖杯戦争に於ける最強のサーヴァントだ。 何しろあのギルガメッシュ王だからな。君も名前ぐらいは聞いたことがあるだろう』
アーチャーの真名を聞かされた雁夜は驚愕した。まさかあのアーチャーはそんな大英雄だったとは…。
『君のバーサーカーは強力な英霊だがこのまま挑んでも間違いなく負けるぞ。断言してもいい』
「そんなこと…!」
そんなことはない!と叫びたかったがあのアーチャーがあのギルガメッシュ王だとするならそうは言えなかった。今思えば埠頭での戦いでは自分は本当に勝ったのか? 冷静に考えればアーチャーは去らずあのまま戦っていたら間違いなく自分は蟲達に食いつくされて死んでいた…。あの時、アーチャーは全力ではなかっただろうし、さらにひとつのダメージも負ってない。対し自分は文字通り死にかける程の消耗してた…。
バーサーカーだってもしもアーチャーが本気をだして星の数ほどの武器で攻撃してきたならいくら神業の等しい技量をもつバーサーカーでも捌き切るのは無理だろう。
はっきり言ってあの時は見逃されただけだ。アーチャーから見ればバーサーカーはいつでも始末できる存在なのだ。
「ッ…!」
雁夜は歯ぎしりする。画面越しの男、コマンダンテの言う通りこのまま一人で挑んでも確実に負ける。アーチャーを倒すのには他の陣営の協力が必要だ。そう必要なのだが… 懸念がある。
「あんたの言う通り、俺だけじゃ時臣を…アーチャーを倒すの無理だ…。あんたのサーヴァントと協力すれば勝てるかもしれない。だけど…。」
『アーチャーを倒したら自分は用済みとして消されると言いたいのかな?』
「ッ…! そうだ…。」
雁夜の懸念はソレだった。仮に協力してアーチャーを倒したらすぐさま彼らは自分を殺す気なのではないかと疑っていた。聖杯戦争は最後の一組になるまで潰し合う儀式だ。共通の敵がいなくなれば最早、互いに用はない… 即座に殺し合う関係になるのだ。
「その事は心配しなくていい。 我々に敵対しないかぎり君に危害を加えないと誓おう。どうしても心配ならば
「自己強制証明…? なんだそれは…」
魔術世界に疎い雁夜は分からないようだ。そばにいたカロリーザは雁夜に説明する。
「魔術師達が使う呪術契約です。分かりやすく言うと決して違約不可能な取り決めを出来る代物で貴方を【殺す事を禁じる】と契約するとコマンダンテは
とんでもない代物だ…。だがこれがあれば自分は殺される事はないという事だ。雁夜が安心してるとコマンダンテはさらに驚愕の事を告げる。
『そして聖杯だが手に入ったなら
「なっ!!」
コマンダンテの発せられたとんでもない言葉に雁夜は椅子から起き上がり目を丸くしてた。今、この男は何て言った?理解ができない。聖杯戦争に参加してるのなら目的は聖杯のハズだ! なのにこの男は自分に譲ると言ったのだ。
「ま、待て! あんた達は聖杯を手に入れてる為にこの儀式に参加したんだろう! なのに…なのにどうして俺に譲るんだ! い、いや…確かに俺は聖杯を必ず手に入れなけばいけないが…。」
『言った通りの意味だ。
雁夜は考える。雁夜は魔術師としての実力は三流に近いと言っていい。 故に協力者が欲しいのは事実…。そして聖杯をこちらに譲るという条件付きだ。はっきり言えばこの同盟を結ぶのはリスクはあるがメリットは破格だ。
『どうする? 我々と協力すればアーチャーを倒せる。勿論、アーチャーのマスターもだ』
アーチャーのマスター…!
(遠坂時臣…!! 桜ちゃんを地獄に追いやり葵さんに涙を流させたあの人でなしに引導を渡さなければならない!)
雁夜の心に潜む憎悪の炎がふつふつ燃え上がる。そうだ…あの男だけは許してはならない! 迷ってる場合じゃない、危険はあるだろうが構うものか!
「わかった。 俺はあんた達と
迷いを振り切り、間桐雁夜はコマンダンテと同盟を結ぶ事を宣言した。
『結構。 今から我々は盟友だ。互いの目的の為にこの戦争に勝利しよう』
「他のマスター共はあんた達に任せる。ただし、アーチャーのマスター、
憎悪も滾る眼を見せながら雁夜はコマンダンテに言った。
『君は随分と遠坂時臣に執着してるな。 彼とは何があったのか?』
すると雁夜の貌は激しい憎悪に塗れていく…。
「そうだ…! アイツは葵さんに悲しませ、桜ちゃんを間桐に売り飛ばしてあの子を絶望に叩き落したんだ!
あぁそうだ…あの時、彼女は微笑んでいた。だから身を引いたんだ! だから敗北を受け入れた!なのに…!なのにあの男は…!時臣は!!」
一度、吐き出した憎悪の言葉が次々と出されていく。雁夜は怨嗟の言葉をブツブツと喋り出していた。
(相当なものだな。 それに女絡みときた。まぁ利用出来ればそれでいいが)
マスクの男コマンダンテと名乗っていたリカルドはそんな雁夜の様子を静かに見つめていた。
『君が遠坂に対して強い憎しみは分かった。遠坂時臣だけは君の前に連れてこよう。
ただ資料を見た限り、遠坂時臣は一流の魔術師でそれなりの抵抗はされるだろう。安全の為に多少は傷みつけなければいけないが構わないか?』
「生きていればそれでいい。」
『分かった。 では早速、これからの事を話そうか』
リカルドはこれからの方針を話すことにした。
『まず、君の肉体を何とかしなければいけないな…。 どうも君は魔力を使うたびに死にかけるそうじゃないか。
大事な時に突然、あの世に逝かれるというのは困る』
最初の問題は雁夜に躰だった。間桐雁夜はいつ死んでもおかしくない状態でそんな有様で敵と戦ってる途中でポックリ逝ってしまうのはリカルドからすれば堪ったものではない。
「それは分かっているが…だが俺はこうでもしなければマスターになれなかったんだ…。」
雁夜自身もそれを分かっているがどうしようもなかった。何しろ魔術に嫌悪して家を飛び出したので当然ながら魔術の鍛錬などしてこなかったのだ。だから体内に刻印虫という魔蟲を入れ魔術回路を拡張し肉体の崩壊という代償にマスターの資格を得たというのだ。
『なんと無茶をしたものだ。とにかくまずは君の治療からだな』
「無理だ…もうこの躰は死んでいる。治せないんだ…。」
『安心したまえ。私は治癒に特化した魔術師を多く連れてきている。そこにいるカロリーザもそうだ。君の躰は通常の医療だけでは無理だ。だがそこに魔術を加えれば治せる。』
「ほ、本当なのか…? 本当にこの躰が治るのか?」
もう長生きしようなど捨てていた雁夜だがコマンダンテの言葉に揺れ動く。
「完全とまではいきませんが少なくとも人並みに生きられる躰に戻してあげます」
カロリーザはそう宣言した。
それを聞いた雁夜は決心した。今の躰ではいつ死んでもおかしくない。怨敵に引導を渡すまで死ぬわけにはいかない。
「俺を躰を治してほしい あんた達の言う事も聞く。」
雁夜は頭を下げ頼んだ。
『ではカロリーザ、あとは頼んだぞ。それでは間桐雁夜、近いうちにまた会おう』
モニターに電源が切れ画面は真っ黒になった。
「では間桐さん 早速、移動しましょう」
カロリーザに連れていかれ雁夜は部屋を後にする。
こうしてリカルドはバーサーカー陣営と同盟を結ぶ事に成功した。
大統領陣営は無事に間桐雁夜と同盟する事が出来ました。
※間桐雁夜
小説とアニメを見ていて、聖杯戦争中の彼って桜を救うというより遠坂時臣に引導を渡したいという考えが強いって感じがします。
原作で埠頭の際、バーサーカーを出す必要なんてなかった思うんです。運よくバーサーカーの技量が凄かったから良かったけど、もしアーチャーが全方位から発射してきたからいくらバーサーカーでも脱落してたとじゃないかと…。よしんぼ防げても雁夜が持たなかったと思いますし…。
キャスターが巨大な海魔を召喚して他陣営達が必死に何とかしようとしてるのに彼だけアーチャー陣営に特攻していて「あんたはアレが(巨大海魔)見えないのか!? 空気読めよ!」って言葉が出ちゃいましたね…w
なんというか間桐雁夜は考えなしのイメージがあるんですね…。
雁夜好きの人は気分が害したら申し訳ありません…。
次回も気長にお待ちください