無限魔力の少女は12歳から人生を謳歌する~特異体質の最強少女~ 作:ぬこだいふく
「ぬぅぅ…。」
少女がゆっくりと体を起こしつつ目を開くと、部屋の異様さが目につく。
部屋の家具や天井から床、壁に至るまで白一色で統一されている。所々は銀細工が入っているために完全に白一色ではないが、ここまで統一されているのには勿論理由がある。
少女は現在12歳になろうとしている。そして、7日前に救い出されるまで光など一切ない暗闇で6年間生きてきた。そのせいか白がお気に入りになりつつあったのだ。
ごく普通に生きていても、奴隷のように生きていても、一度くらいなら太陽を見る機会があったかもしれない。しかし、彼女は6年間一度も日を見ることはなかった。その為、光に耐性がなくなり日光が当たるだけで肌は痛みを発するし眩しくて目を開けられなくなる。
少女が5歳のとき、住んでいた森が焼き払われその際に逃げる途中で気絶してしまい、人ならざるレベルの魔力を所持していたが為に拉致され、王都を守る為のモンスターを退ける障壁を強制的に作らされたことにある。
障壁は常に魔力を注ぎ込まなければならない為に彼女には魔導具を用いた。肉体と意識を分離させることで、睡眠を不要にする魔導具だ。その状態で6年、睡眠を必要としていたら起きていた時間は9年間分に相当する。
その間、少女はただひたすら魔力を消費し障壁を維持してきた。この王都に連れてこられた時に出会った男から聞いた「王都の皆を守るために君の力を貸して欲しい。」という言葉を信じて。
障壁を維持する為には膨大な魔力を必要としていたが、少女には苦にもならなかった。それよりも一人だという孤独の方が辛かった。
暗闇に閉じ込められて一年が経ち、少女はあることを発見した。
少女は王都の街並みをまるでテレビで映像を見るかのように眺めていた。今までは上空からの視点でしか見ることができなかったのだが、意識を集中させると王都の隅から隅まで視点を移動させ、好きな所を見ることができるようになっていたのだ。
それどころか、頭のなかで強く念じることで話しかけることができるようになった。人々は誰も居ないところから声がすると不気味がっていたのだが、このお陰で助け出されることになったのである。
12歳になる一月ほど前、少女は市民のほぼ全員に話しかけていた。驚いて辺りを見回す、恐怖で逃げ出す、誰だと叫ぶ等反応は様々だったが、こちらに気付いてくれる人はいなかった。
いつものように空から王都全体を眺めていると、見慣れない女性を目にする。魔法使いらしくローブを身にまとい、長く美しい黒髪は艶がある。顔は整っており非常に美人であった。親しげに人々と話す様子からこの都市に住んでいる人だと思うのだが、今まで見たことがなかった。
彼女が一人になった時を狙って話しかけてみると、最初は驚いていたがすぐに目を閉じて魔法を行使した。こちらの『目』がある場所に気付いたのか、しっかりと『カメラ目線』になった。
そして彼女に暗闇に閉じ込められ、障壁を維持し続けていることを告げた。彼女は「すぐに助ける。」そう言って少女を探し始めた。
少女についての情報の隠蔽は完璧であったが、少女と彼女が会話できることが突破口となった。すぐに黒幕を突き止め国王に報告。都市長と言われた男はすぐに捕まり処刑された。
その後は障壁の代わりとなる魔導具の開発や防衛部隊の設立、少女に対しての賠償などが行われた。
賠償の内容としては、彼女のありとあらゆる要望を可能な範囲で叶えるということになった。
コンコンとドアをノックする音がする。
「入るわね。」
ドアを開けた人は、助け出してくれた彼女。ウィルノーラ・ラングフォードだった。
「ウィル…。」
まだ少し眠い。目は開いてはいるがうっすらとほんの少しだけでこのままではまた眠ってしまうだろう。
「ラヴィ!そろそろ起きなさい!…ってまたなの?」
起こすためにシーツを剥ぎ取ると、長袖のシャツ一枚と下着だけであった。しかもボタンを掛け間違えていた。尚下着の上は付けていなかった。勿論原因は食事が十分に与えられない状態で閉じ込められていたせいでほとんど成長していなかったことにある……はずだ。
長く伸びた銀色の髪はウィルノーラが魔法で体を完治させたため、美しく手入れされたような状態になっていた。ほのかに光っているかのようにも見えるほどに。しかし、ほとんど動くこともなく閉じ込められていた為に筋力が落ちており、僅かではあるが体も成長していた為に6年前とのギャップでうまく体を動かすことができなくなっていた。少しあるけば何もないところで躓いてしまう有様である。
「今日はこの前私が教えたお店に行くのでしょう?お昼も近いからせっかくだし何か食べていらっしゃい。『マーロン料理店』っていうお店がオススメよ。私も時々食べに行くしね。それにリハビリにはもってこいだろうし。」
「さっさと着替えて行きなさい?私は会議があるから夕方までいないわよ。」と言ってさっさと出て行ってしまうウィルノーラを見届けると何もない空中に手を伸ばす。
何もない空間に手が入っていく。そして水の中に手を入れたように手を入れた場所から波紋が広がって消えていく。
そして手を引き抜くと、クローゼットから衣装を取り出したかのように服が何もない空間から現れた。その服は、ウィルノーラが学園長を勤めている学園の制服だ。
手が入っていった空間をインベントリと呼んでいるが、その実態は高次元の空間を発生させ瞬間移動すら可能にする『次元の門』の応用である。高次元の空間を完全に制御できなければ使えない無尽蔵に物をしまえる便利な魔法である。
もぞもぞとシャツのボタンを掛け直し、制服に袖を通す。今度はしっかりと掛け間違いのないように注意する。そして、ニーソックスに足を入れ、引っ張ろうとする。しかし、筋力が衰えたせいかうまくいかない。結局制服を着終えるまでに20分ほど時間がかかった。
着替えるだけで結構時間をとってしまった為、髪を魔法で梳かして洗面台までフラフラと歩いていく。顔を洗い、歯を磨く。そして完全に身支度を終える頃には起きてから1時間を過ぎていた。
ラヴィの部屋は最上級寮の本来上級生の取りまとめが使用するもっとも出口に近い部屋である。その為寮の管理人の部屋も近く、軽く挨拶を交わし数時間で戻ることを伝えて寮を出る。
本日は快晴なり。強い日差しはまだ太陽の下での生活に慣れないラヴィにとっては苦痛であった。皮膚に突き刺さるかのように痛みが走る。目は眩しくてとても開けてはいられない。制服を大幅に改造し綺麗な白い肌はほとんど隠してしまっている。見えるのは顔とニーソックスとミニスカートの間の絶対領域のみ。本来制服の改造は校則違反であるが、ラヴィの場合はそうしなければ現在外に出ることもかなわない為仕方が無いと言える。
学園を出て、大通りを歩くと自然と注目を集める。可愛らしい顔に加え、日差しで髪がキラキラと輝き美しい。しかも学園の制服を着ているとあって注目の的なのである。あの美少女は一体誰なのかと。
以前視点を移動して街を隅々まで見ていたはずなのだが、実際に歩いて見てみると違って見えてしまい、大通りから路地に入った為途中道に迷ってしまった。優しそうな散歩中のおじいさんに助けてもらいなんとかウィルノーラの言っていた洋服店に到着した。道中成長した体に慣れず躓いて転びそうになったりしたが、おじいさんはその度に繋いでいた手を引いて起こしてくれた。おじいちゃんは、店の前にあるベンチで休憩だ。
中に入ると、様々なデザインの服が並んでいた。どれも超が付くほどの高級品である。一度は綺麗なドレスを着てみたいなぁと思いつつ店員に話しかける。店長は不在らしく店員に学園長から事前に予約してあったことを伝えると。店の奥から白を貴重としたドレスローブを持ってきた。銀で装飾が程よくされており、派手すぎることもなく落ち着いた雰囲気を出している。露出は改造制服同様ほとんどなかった。
日差しよけの為に大きめの帽子があるか聞いてみた所、奥から一つの帽子ももってきた。
「も…モフモフだ。これがいい!」
即決であった。しかし、帽子の形状は日差しよけの効果は期待できそうになかった。見た目はベレー帽に近く頭を覆うだけのものでツバなどはついておらず、日差しが顔に直接降り注いでしまうだろう。しかし、ここまで歩いてくる過程で顔はさほど痛みを感じなくなっていた。まだ、目は少し辛いが酷くなりそうな場合は魔法でなんとかすることにする。
お代は学園長が既に支払い済みらしく。せっかくなので着ていくことにする。帽子のお代も既に支払い済みであった。どうやら学園長はこの帽子を買うことを読んでいたようだ。
その後、店員は試作の服の試着をお願いしてきたりしつこかったのだが、丁重にお断りする。制服を袋に入れてもらって店を出る。
おじいちゃんに見せてみると、「おー。かわいいねぇ。うちの孫の嫁になってくれんか。」と言い出す始末である。ちなみに孫は16歳で許嫁がいるらしい。
付き合ってくれたお礼にと食事に招待する。おじいちゃんは喜んでくれた。学園長にオススメされた料理店はすぐ近くにあった。それでもおじいちゃんとラヴィの歩く速度が遅いために結構時間がかかってしまった。
カランカランとドアに付けられた鈴が店内に響くと受付の奥から一人の男が出てきた。
「いらっしゃいませ。失礼とは思いますが、当店の料理は値段が高いものばかりです。お代はお持ちですか?」
ウェイターと思しき男は、至って平民のような格好のおじいさんとラヴィを見て入る店を間違えたと思ったらしい。
「お金なら有り余るほど持ってる。だからだいじょーぶ。」
「そうでしたか、一応確認させていただいでも?」
ラヴィの発現だけでは信じきれないのだろう。インベントリから革袋を取り出し、中から金貨の上に位置する白い硬貨を取り出す。
「ミスリル硬貨…。失礼いたしました、すぐにご案内いたします。」
いきなり手首から先が消えて革袋が出てきたことに驚きつつも、手のひらに出したミスリル硬貨を見て納得してくれたようで奥のVIP用の個室に案内された。どうやら本当にお金持ちと思われたらしい。本当にお金は有り余るほど持っているわけだが…。
この料理店は魚の料理がとても人気らしい。オススメと書かれた欄には、この都市の地下にあるダンジョンから取れた美味しそうな魚の料理が書かれていた。おじいさんも魚料理が好きなようでとても楽しみらしく、少しよだれが出てきている。
「すまんのう、こんなに高そうなお店に連れてきてもらって。」
「お礼なんですから遠慮しちゃダメです。遠慮されたらこっちが困ってしまいます。」
「なら遠慮なく。」
運ばれてきた料理はどれもとても美味しそうであった。
二人で料理を満喫していると、部屋の外から怒鳴り声が聞こえた。
「うるさいのぅ。飯のときくらい静かにできんのか。迷惑な奴め。」
「そうですねぇ。お店の人がなんとかしてくれるだろうし、美味しい料理に免じてこれくらいは許してあげましょ。」
「そうじゃのう。」
ハハハと笑って料理を一口。すると突然ドアが勢い良く開く。
「貴様らか、わしの特等席を勝手に使いおって!」
見るからに貴族の格好をした男がズカズカと入ってくる。お腹の周りはしっかりと余計なお肉がついておりさぞ栄養のあるものをたくさん食べたのだろうと見当がつく。後ろには慌てふためく先程のウェイターと男の執事であろう老人の姿があった。
読んでくださってありがとうございます。次は説明回となります。地道に書いていきますのでお付き合いください。