狩場の明日を駆け抜けて   作:布団男爵

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第一章
捜索


 

 朝日が心地よく照らしている広場で、大まかな買い物をして武具を整え点検し、一段落着いてベンチに腰掛けた。そろそろ朝の散歩も終わりだ。太陽は見上げる高さに近づいている。

 早起きは三文の徳とはこの事か、とても気持ちがさっぱりとして爽快感に満ち(あふ)れている…などとまどろみながら考えていると、おや、慌ただしく広場を駆けていく人影がいる。この方向は…大老殿だろうか。俺は腰を浮かせてその様子を伺った。その姿は完全に野次馬のそれであるが…。人影が過ぎ去った後、少し気になり始めた俺は大老殿に足先を向けた。殿に続く階段を上るとき、守護兵が俺を横目で流しながら退屈そうに欠伸(あくび)をしていた。

 

 殿の広間に入ると何やら騒がしい。ギルド受付の前にいる2人の女性ハンターが騒ぎの発端のようだ。

 どうやらクエストから帰ってきたばかりの様子、1人は重症のようで介護医師が付き添っている。さっきの人影は介護医師だったのか。

 もう1人の状態は酷くないようだ。受付嬢に詰め寄っているが…あの真剣な眼差しはなんなのだろう。

「なんでもいいので雪山のクエストをください!」

そんなことを言っている。今帰ってきたばかりなのに、だろうか。彼女は一刻の猶予もない様子でこう言った。

 

「もう1人のハンターが雪山に残されたままなんだ!早く助けないと!」

 

広場にいたハンターやその他諸々の視線が彼女の方へ向いた。

「でもあなたも怪我してるでしょう!?」

「じゃあどうすればいい!?」

かなり気が立っている。

「他のハンターに頼むしかないでしょうね…。とりあえず病院に!」

 

 2人が診療所へ運ばれた後には、忙しく職務をこなすギルド嬢達が残されていた。早速クエストボードに大きい捜索願が貼られている。

<狩人1名雪山ニテ遭難。捜索者求ム!>

 

 

 

 突然だが、この世の中には二種類のハンターがいる。自分の信念や目的の為にハンターになった者と人を助ける為にハンターになった者。俺はどうやら後者らしい。あるギルド嬢に声をかける。

「なあイズミ、忙しいところすまないけど、今捜索中のハンターの情報くれない?」

「あ、お久しぶりです。えっと?情報ですか?」

少し驚いた顔をされた。無理もない。赤の他人の捜索に手を貸すようなモノズキはそうそういないだろう。

「今のところ、これぐらいしか…。ごめんなさい。」

「十分ですよ。」

ざっと目を通すと、名前、容姿、武具種などの概要が書かれていた。

「捜索に行くんですか?それなら気を付けてくださいね。最近、変な乱入モンスターが多いんです…。」

「…了解。」

そうなのか?最近雪山に行かないから分からない。

「探索協力どうもありがとうございます。一応、特殊クエストとしてギルドに報告しておきます。くれぐれもお気をつけて。」

「どうも。」

受付を離れて、持ち物を確認した後、飛行船場に急いだ。

『アリミネ マコト』か…。無事だろうか?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 俺が今向かっているのは大陸最北端に近いフラヒヤ山脈、通称を雪山という。近くには小さめの村があるそうだ。行ってみたいのは山々だが、今は到底叶いそうにない。飛行船の中で武具の整備をした。

 

 雪山のキャンプに着いたのは、昼前だった。山間部を見ると吹雪が酷いようだ。モンスターに襲われているとしたら、間に合うだろうか?遠くの気配を感じられるように千里眼の薬を飲んだ。

 はっきりいって手掛かりなど皆無に等しい。だが山の方に向かって走りながら考える。風がキリリと冷たく吹き(すさ)んでいる。

 千里眼の薬をあらかじめ飲んでおいたものの、この吹雪の中ではあまり効果が期待できない。というかこのような吹雪の中、そのハンターが外にいるとは思えなかった。洞窟の中だろうか。

 一番近場の洞穴からお邪魔する。少し暗いので松明をつけた。奥から耳を擦るような不協和音。そしてぼんやりとして冷めた空気が流れてくる。

そして奥に進むとやはり、かすかではあるが人の気配がした。だが、その近くには何匹かモンスターもいるような気配もするし。助かるだろうか。自然と冷や汗が背中をつたう。

 大きなクレバスが広がる場所まで来ると一層それらの気配が濃くなった。

「…下か?」

確かに気配はクレバスの下からする。まさかハンターはこの下に落ちたのだろうか。

 俺がここを安全に降りられる保証はない。だが…

「…行ってみるしかないか。」

安全なルートを探してから、腰を低くして足を降ろした。

 

 

足場が時折崩れてヒヤリと寒気が襲う。この調子だと自分も帰ってこれるとは限らない。傾斜のきついクレバスにしがみついて3分ほど経った。

 突如視界が揺れて、身体に違和感が走った。それが痛みだと分かるのに数秒。どうやら落ちたらしい。浅目の穴で良かったな、もう少し深かったら死んでいた。

 

 そしてその穴の奥に見えたのは…ギアノスの群れに囲まれている1人のハンターだった。

「…!」

資料で見た武具種だ。間違いない。

 彼女はギアノスに怯えている為か、はたまた寒さで力が出ない為か壁の隅に座り込んでギアノス達をあまり生気の無い目で睨んでいた。だが大丈夫だ、彼女は助かる。

 足が痛かったが、無理をして立ち上がり走った。ギアノスは今にもハンターに襲いかかろうと身構えている。

 ギアノスは鳥竜種であるランポスの亜種で、集団で行動する狡猾な小型モンスターだ。主に寒い地域、特にここ、フラヒア山脈に群れをなして現われる。だがそう強い敵ではない。

 脚が跳ねて、ギアノスとの距離が縮まる。背中に背負っていた大剣に手をかけて1秒。

「ギャウイ…!!」

1匹が空に弧を描く。彼女を(かば)うように大剣をかざしてギアノス達を睨んだ。仲間を一匹ぶっ飛ばされた鳥竜種達は少し俺達から離れた。逃げるチャンスだ。

「今のうちだ!立てるか!?」

「へええ!?は、はい!!大丈夫です!」

酷く怪我している訳ではないのか。だが防具の損傷は目立つ。

「行くぞ!」

彼女に先を行かせてその後を走った。俺は近づいてきたギアノスを凪飛ばしながら前に進んだ。

 

 洞窟を抜け吹雪の中に出た。はっきり言って久しぶりの狩場で全力疾走はキツイ。女ハンターもだいぶ疲れているようだ。

「はあ、ふう…大丈夫?」

自分でも愚問だと思った。防具の傷付き具合を見れば、無傷な訳がない。それで今の全力疾走だ。

「…ぜえっ…っだ大丈…うう…っ……」

「っ!?おい!」

案の定、膝から崩れた彼女。抱き抱えて揺さぶるが、意識はとうにこの場から去ってしまっていた。

 少しまずい。景色を見るにここは山の中腹より上の辺り、1人の人間をおぶって下山するのはそう簡単なことではない。それにモンスターも沢山いる。安全ルートを考えながら彼女を背負った。

 モンスターの巣窟である洞窟はできるだけ避けた方がいい。傾斜が急なルートを進むのも無謀だ。この吹雪の中、俺の足取りは重かった。

 

 

 少し経って修羅場である傾斜や段差をやっと乗り越え、小型モンスターの小賢しい攻撃をかわして山の麓付近に来た。後はキャンプまですぐ行ける。

 とそう思ったそのとき、後ろから独特な声が聞こえた。

 ハッとして後ろを振り返ったその先。直後にそいつの咆哮(ほうこう)が待っていた。

 

 

「グオオアアアアアア!!」

 

 

 俺は耳を塞いだ。

 耳を貫く咆哮の持ち主はリオレウス。別名『空の王者』と言われる飛竜種。これはおそらくG()()()()…。

 

これは神様の挑戦状だろうか?

 

「世界一にハードでクールなリハビリだな。」

 この状況で燃え上がる馬鹿?俺のことだ。

 

「やるっきゃないなあ!?」

 大剣に手をかけてリオレウスを睨み返す。

 

 

 

 

 さあ来い。狩猟場救助人数67人の意地を見せてやる‼︎

 

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