怠慢な博愛主義者が誰かを救いに来るそうですよ? ………誰かって誰さ 作:ファルコン・Σ
………………何時からだろうか。
誰かが、呼んでいる。
その声に聞き覚えはある。だが、分からない。
誰だと問い掛けても、返事は無い。
投げかけられる言葉は一方的な語気で、且つ身勝手な内容で、それでいて、哀しい声だった。
だとしても。
否、
だからこそ。
応えなきゃいけない。そう心が、本能が訴えている。
だって、その声は。
助けを求めていたのだからーーーーーー
*********
少年は、気付けば遙か上空に居た。
「ーーーーーはァ!?」
別にスカイダイビングをした訳でもない。
ましてや投身自殺でもない。
そも、少年はつい先程まで部屋に居た筈なのだ。
彼の名は“
都心部に住む独り暮らしのごく普通の16歳の少年だった。
ーーー否、訂正しよう。
普通
とはいえ、生活は近くの高等学校に通う、在り来たりな日常を過ごしていた。
そんな彼が何故パラシュート無しのスカイダイビングをしているのか。
本人に聞けばこう返ってくる。
『部屋に置いてあった手紙を開けたら空から落ちてた』と。
見ると自分以外にも三人………………プラス一匹。
彼と同じくらいの年の少年一人と少女二人、そして三毛猫一匹。
眼下には湖。手紙を寄越してきた以上、殺すつもりはないのだろうが、それでもこのまま素直に落ちてずぶ濡れになるのは癪だった五月雨は、
「銀翼剣フライガー!!」
飛んだ。文字通り。
何処からか四対八枚の剣で構成された翼を背中に装着して滞空したのだ。
ひとまず落ちていく三人+αに心の中で謝罪すると地表に向かって降りていく。
ふと周りを見渡せば、地平線で途切れる断崖絶壁。
巨大な天幕に覆われた都市。
どうやら彼は、彼らは、異世界へ飛ばされてしまったらしい。
*********
水柱四本と着地音一つ。
もう使わないであろう剣の翼を片付け始めた五月雨の横から罵詈雑言が聞こえてきた。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「………………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
石から出てくるって孫悟空かよ。とか身勝手で済む問題か?。とか、そういった諸々をツッコミたい五月雨だったが敢えて無視した。
この高飛車そうなお嬢様と傲慢そうな不良に絡まれたら面倒だと本能で察知したが故の行動である。
もっとも、
「それに、そこの貴方は飛べたのにどうして助けてくれなかったのかしら?」
結果的には絡まれる宿命だったらしい。
「時間が無かった。次があれば優雅に華麗に大胆に助けてあげるから許せ」
「次が無いことを祈るけど期待しとくわ」
確かにあんな人生を何度も振り返るような経験はごめんである。
一方、そんなやりとりに無関心だった三毛猫の飼い主らしき少女は、
「ここ……どこだろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
「そんなインドか何かみたいな世界があってたまるか」
今度はツッコんだ。どうせ一緒に落ちてきた者同士付き合いは長くなりそうだと判断したようだ。
諦めたともいう。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「ああ。確かに読んだぞ。『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その
なんて巫山戯た文章だ。というのが五月雨の感想だった。
望むなら等と謳いつつ問答無用で突き落としたあたり尚更質が悪い。
「そうだけど、まずは“オマエ”とか“あんた”って呼び方を訂正して。ーーー私は
「……
「そう。よろしく春日部さん。次に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な
思わず吹き出した。よくもまあ自己紹介一つで此処まで個性が出るものだ。
「取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様。そんじゃ最後にイキナリ空を飛ぶなんて面白いもんを見せてくれたお前は誰だ?」
「大層気に入ってくれて何よりだ。俺は五十嵐五月雨。此処に来るまでは面倒臭がりのビックリ箱なんて呼ばれてたな。適度に楽しむ事が接するコツなんで遵守してくれたまえ」
「ヤハハ。お前も中々面白い名乗りだな?」
「お互い様だ。あんたとは気が合いそうだな十六夜」
どうやらシンパシーを感じ取ったらしい。出会って早々にこのやり取りなのだからこの二人の相性は中々良いのだろう。
さて。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」
「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」
「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「おうブーメランって言葉知ってるか猫のご主人ちゃんよ」
しかし耀の言い分ももっともで、四人が四人とも全く焦ったり慌てたりする様子が無い。
実際この空気が十六夜の言う説明役の出るタイミングを失わせていた。
「ーーー仕方ねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも聞くか?」
その唐突な十六夜の発言に彼の背後の茂みがガサッと揺れた。
「なんだ、貴方も気づいてたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいてたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でも分かる」
「えー全然分かんなかったなー!! 三人ともスゲー!!」
「くっそ棒読みじゃねぇか」
「一人気付かない奴がいたっていう隠れてる奴への俺の気遣い台無しにしないでほしいなぁ」
「言ってる時点で気遣いもクソもねぇぜ?」
軽薄そうな笑みを浮かべてはいるものの、十六夜の目は笑っていない。
四人は理不尽な招集を受けた腹いせに、殺気の籠った冷ややかな視線を物陰に向ける。
観念したのか、草影から戯けた声と共に隠れていた人物は姿を見せた。
ーーーーー人と言うにはおかしなパーツが着いていたが。
「へぇ。ガチなウサギ人間か」
そう。
予め言うと飾りでは無く、頭から直接生えていた。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「出直してこい」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
両手をあげて、降参とでも言うようなポーズを取る黒ウサギと名乗る少女。
直後、耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立って、黒いウサ耳を根っこから鷲掴む。とーーー。
「えい」
「フギャ!」
力任せに引っ張った。
黒ウサギから情けない悲鳴が上がる。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心のなせる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「………じゃあ私も」
今度は十六夜が右から掴み、耀が話した反対の耳を飛鳥が掴む。
「ちょ、ちょっと待ーーーそ、そこの方、助けて下さいませ!!」
「面倒だからパス!!」
「そん………フギャアアアアアァァァァァァ!!」
哀れな兎の悲鳴が湖の畔に響き渡った。
*********
「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「後で俺にも是非」
「もうやらせません!!」
最後まで触らなかった五月雨は機会を逃した模様。
本当に無念そうである。先を譲る気質が裏目に出た。
「いいからさっさと続けろ」
一時間くらい経って黒ウサギはなんとか話を聞いてもらえる状況を作る事に成功した。
四人は黒ウサギとほど近い岸辺に思い思いに腰かけ、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
黒ウサギは気を取り直してコホンと一つ咳払いをして、両手を広げた。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
黒ウサギは大きく両手を広げて箱庭をアピールする。飛鳥が質問の為に挙手した。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「だが断る」
ヘラッとした十六夜と無駄にキリッとさせた五月雨の茶々入れにウサ耳を逆立てて叱る黒ウサギ。
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”が提示した商品をゲットできるというとてもシンプルな構造となっております」
此処で今度は耀が挙手して質問。
「……“主催者”って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが“主催者"が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“ギフト”を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね……チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」
愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる黒ウサギ。
挑発的にも見えるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥が問う。
「そう。なら最後にもう一つだけ質問。ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模なゲームを開催しているので、よかったら参加していってくださいな」
飛鳥は黒ウサギの説明に片眉を上げた。
「……つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
飛鳥の指摘に、お?と少々大袈裟とも思える程に驚く黒ウサギ。
「ふふん。なかなか鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰します――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手に入れるシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」
「そう。中々野蛮ね」
「ごもっとも。しかし、“主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌なら初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」
一通りの説明を終えたのか、黒ウサギは一枚の封書を取り出した。
「さて、皆さんを召喚依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらを全て語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが……よろしいですか?」
「待てよ。俺達がまだ質問してないだろ」
今まで静聴していた十六夜が、威圧的な声を上げて立ち上がる。ずっと浮かべていた軽薄そうな笑顔が消えている事に気付いた黒ウサギは、構える様に姿勢を正した。
「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「あ? いや別に俺からは特に無いな。てことで十六夜どーぞ」
「なら遠慮無く。ーーーゲーム? ルール? そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのはたった………一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回して、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
「この世界は………面白いか?」
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。
彼らを呼んだ手紙には、確かにそう書かれていた。
それに見合うだけの催し物があるかどうか。それこそが、四人にとって最も重要な事だった。
「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
ーーー、一つ。補足するならば。
五月雨にとってはこの世界の面白さは確かに大事だった。
あの平凡な日常やくだらない雑談が出来る友人の居る世界から移ってきたのだからその分の対価は必然である。
しかし、
五月雨が質問しなかったのは、単にその答えを黒ウサギは持ち合わせていないだろうと判断しただけのこと。
彼はーーー誰かを、救いに来たのだから。
・銀翼刃フライガー
背中に装着する八枚の羽型の剣。
引き抜いて攻撃する事も出来るが専ら飛行する為の武装。最大速度マッハ1