怠慢な博愛主義者が誰かを救いに来るそうですよ? ………誰かって誰さ 作:ファルコン・Σ
少し時を遡るーーー
「成る程ね。大体理解したわ。つまり、ジン君のコミュニティは魔王の玩具として潰された。そういうこと?」
ガルドからコミュニティ、ノーネームの現状の説明ーーー若干やっかみや嘲笑はあったが、ほとんど正しいーーーを、受けた女性陣の内、飛鳥がそのように纏めた。
「名も旗印も主力も奪われ今や、失墜した名もなきコミュニティでしかありません。そもそも名乗ることの出来ないコミュニティに何ができます? 商売?主催者?名もない組織など相手にされません。ギフトゲームに参加しようにも優秀な人材が失墜したコミュニティに加入すると思いますか?」
「誰も入りたがらないでしょうね」
それは事実、黒ウサギ達が詐欺紛いの交渉で彼等を自陣に引き入れようとしていたことからも明らかだ。
コミュニティの現状を知られているからこそ、魔王に滅ぼされて以降、箱庭では一向に人材を得られなかったのだろう。
「そうでしょう。もっと言えば彼はコミュニティの再建を掲げていますが、リーダーとは名ばかりで実際のところ黒ウサギにコミュニティを支えてもらっているだけの寄生虫。ウサギはコミュニティにとって所持してるだけで大きな“泊”が付き、どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられます。なのに彼女は毎日毎日糞ガキどもの為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀でやりくりしている。本当に不憫ですよ。」
ワザとらしく額に手を当てヤレヤレといった感じに首を振る。
その隣でジンは悔しそうに唇を噛んで俯いていた。
「なるほど。貴方のおかけで大体把握しましたわ。ところで、態々ご丁寧にそのような説明をしてくれるとは、貴方は目的があるのではありませんこと?」
その質問を待っていたとばかりにガルドはニヤリと笑う。
「単刀直入に言います。黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですか!?」
ガルドの提案に驚きジンがテーブルを叩き声を荒げる。
しかし、それをガルドは獰猛に睨んで黙らせた。
「黙れ。そもそも、お前が名と旗印を改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろが。それを、お前の我儘でコミュニティを追い込んでおきながらどの顔で異世界から人材を呼び寄せた」
「そ………それは」
「何も知らない相手なら騙せれると思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんならこっちも箱庭の住人として通さなきゃならん仁義があるぜ」
ジンも飛鳥達に対する後ろめたさと申し訳なさがあったのだろう。その罪悪感に駈られ再び黙り込んでしまう。
「どうですか?返事は直ぐにとは言いません。コミュニティに属さずともあなた達は箱庭で三十日間の自由が約束されます。彼のコミュニティと私のコミュニティを視察して検討してからでもーーー」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
は?とジンとガルドは飛鳥を信じられないように見つめる。
その張本人は当然、といった風に既に冷めてしまったティーカップを口に運ぶ。
「春日部さんは今の話、どう思う?」
「どうとも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら意外。じゃあ私が春日部さんのお友達一号に立候補してもいいかしら?私達、性格は正反対だけど上手くやっていけそうな気がするの」
「…………うん。飛鳥は私の知ってる人とはなんとなく違う気がするから」
小さく微笑んで耀はその申し出に応じた。
そんな彼女に笑みを返し、飛鳥は星にも問い掛けた。
「星さんはどうするのかしら?」
「どうもこうも、私はマスターの従者ですからマスターの御心に従いますわ。ただ、マスターはジンさんのコミュニティを選ぶでしょう」
確信のあるような、断言するような声。実際、五月雨は黒ウサギのコミュニティを選んでいる辺り、彼に対し星の理解の深さが分かる。
信じられないとガルドは慌てて詰め寄る。
「し、失礼ですが理由をお聞きしても?」
「だから間に合っているのよ。春日部さんは聞いての通り友達を作りに来ただけ。私―――久遠飛鳥は、裕福だった家も約束された将来も全て投げ打って箱庭に来たのよ。それを今更、小さな一地域を支配してるだけの組織の末端に加えてやる、と言われて喜ぶとでも思ったかしら?」
「そうですわね。私はマスターの言いそうな事を代弁致しますわね。貴方色々言ってますが実際の所、やたらと黒ウサギを話題に出す辺り、目的は彼女でしょう? 私達を出しにして欲望を満たすなんてよっぽどの小物ですわね。あわよくば私達も玩具にしようと? 考えが甘すぎて砂糖吐きますわよ似非虎紳士?」
底意地の悪い笑みと毒舌全開でガルドをせせら笑う星。この容赦ない毒吐きが彼女の特徴である。
神経を逆なでする言葉にガルドは沸騰しかける理性をなんとか抑えいい返す。
「お、お言葉ですが」
「“
ーーー事は出来なかった。
飛鳥の一言でガルドの口は不自然に閉じられる。
しかもそれだけでは終わらない。
「まだ聞きたい事がいくつかあるの、貴方は“そのまま座って、私の質問に答え続けなさい”」
ガタン!!と、椅子が壊れるような勢いで座り込むガルド。
立ち上がろうとしても手足が拘束されたか、或いは自分の物ではないかのように動かない。
これが飛鳥のギフト。
十六夜が圧倒的な身体能力。
五月雨が武具の召喚。
耀が動物との会話。
そして彼女は、言葉で他者を支配することが出来る。
「お、お客さん!当店でもめ事は控えてくださーーー」
「丁度いいですわ猫耳の店員さん? 貴方にも証人になっていただきますわ」
首を傾げる猫耳の店員にクスクスと笑う星。
「貴方はこの地域のコミュニティに"両者合意"で勝負を挑み、そして勝利したと言っていたわ。だけど私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うの」
ガルドのコミュニティ。フォレス・ガロはこの近辺のコミュニティにギフトゲームを仕掛け、そのものを吸収して大きくなったという。
「コミュニティのゲームとは"主催者"とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行うもののはず。………ねえ、ジン君。コミュニティそのものをチップにゲームをすることは、そうそうあるものなの?」
「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」
「そうね。だからこそ“主催者権限”を持つ魔王が恐れられるはず。その特権を持たない貴方がどうしてコミュニティを賭けあうような大勝負を続けることができるのかしら? “教えてくださる”?」
必死に口を閉じて喋らないようにするガルドだが、その抵抗もーーー否、抵抗すら出来ずに言葉を紡ぐ。
「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まあ、そんなところでしょうね。遣り口もますます小物のやる手口ですわ。しかも三流の」
「そんな違法で吸収した組織が思い通り動いてくれるのかしら?」
「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質にとってある」
ピクッと飛鳥の片眉が動く。
彼女のみならずコミュニティに無関心な耀ですら不快そうに目を細めた。雰囲気が変わらないのは星だけだ。
「………そう。ますます外道ね。それで、その子供達は何処に幽閉されているの?」
「もう殺した」
その場の空気が凍りついた
ジンも、店員も、耀も、飛鳥でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させ、星は侮蔑の視線が絶対零度にまで落ちる。
だがガルドは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。
「初めてガキを連れて来た日に、泣き声がうるさくてイライラしたから殺した。次は自重しようとしたが、コミュニティに返せとうるさかったからやっぱり殺した。それ以降は捕まえたガキ共はその日の内に殺すことにした。死体が残らない様に部下に食わせ」
「黙れ」
舌を噛み千切る勢いで閉じられるガルドの口。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いた様な外道がいるなんて、流石は箱庭と言うべきかしら……ねえ、ジン君?」
「彼の様な悪党は箱庭でもそうそういませんよ」
「あら。それで、この外道を箱庭の法で裁く事は出来るのかしら?」
「難しいですね。コミュニティから人質を取ったり、身内となった人間を殺すのは違法ですが………彼が箱庭の外へ逃げ出してしまえば、それまでです」
それは残念と飛鳥が指を鳴らすとガルドの束縛が解けた。
「この、小娘がァァァァァァァァァッ!!」
咆哮と共にガルドの身体が倍以上に膨れ、身体に虎柄が浮かび上がる。そしてその勢いのまま、飛鳥へと跳びかかる。
が、
「“
金の空間の歪み。即ち五月雨が使うものと同じゲートから四本の鎖が飛び出し、ガルドを雁字搦めに縛り上げる。
「ぐ、が!?」
「おいたが過ぎましてよ? 獣風情が。縛れている方がお似合いですわ」
冷たく笑う星。その微笑みは見るものの心を凍て付かせる程に冷酷だった。
「く、テ、テメェら、どういうつもりか知らねぇが、俺の上に誰がいるのかわかってんのか……! 箱庭第六六六外門を守る魔王が後見人だぞ! 俺にケンカを売るってことの意味が」
「弱い獣はよく吠える。能無しは五月蠅いことこの上ありませんわ」
「全くね。それに私は貴方の上に誰がいようが気にしません。それはきっとジンくんも同じ。だって彼の最終目標は旗を奪った"打倒魔王"ですもの」
飛鳥がジンの方を向くと彼もまた力強く頷いた。
「く……そぉ……!」
「だけど、私はコミュニティの瓦解では満足できないわ。貴方のような外道は罪を後悔し、懺悔する余裕もなく罰せられるべきーーーそこで皆に提案よ」
皆は顔を見合わせ、首を傾げる。飛鳥はその指でガルドの顎を掴み、
「私達とギフトゲームをなさい。貴方の"フォレス・ガロ"の存続と、我々"ノーネーム"の誇りを賭けて…………ね」
*********
「な、なんであの短時間で”フォレス・ガロ”のリーダーと接触して喧嘩を売る状況になったのですか!?」
「しかもゲームの日取りは明日!?」
「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」
「準備の時間もお金もありません!」
「一体どういうつもりがあってのことです!」
「聞いてるのですか三人とも!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「だまらっしゃい!!!」
飛鳥、耀、ジンは戻ってきた黒ウサギに怒濤の勢いで怒られていた。
「マスター? 私もお叱りになりますか?」
「ん? いやグッジョブ。俺が居たらその場でぶん殴ってたわ」
「何サラッと許してるんですか五月雨さん!?」
その後ろで大爆笑から復帰した十六夜が未だ怒っている黒ウサギを宥める。
「別にいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「い、十六夜さんは面白ければいいでしょうけど、このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」
黒ウサギの言う通りだ。あの後、ゲームの報酬を取り決めた”
「時間さえかければ、必ず彼らの罪は暴かれます。だって肝心の人質は、その…………」
「ええ。もうこの世にはいないわ。その点を責めたてれば必ず立証できる。だけど、あの外道を裁くのに時間をかけられないの」
もしもここで時間をかけてしまえば、ガルドはこの都市から逃げ出すだろう。そうなればもう箱庭の法律では裁けばくなる。
悪党、及び犯罪者には決して時間の余裕を与えてはならないのだ。
「ここであの獣畜生を逃せば、また奴の犠牲になる人間が出ますわ。それに報復として”ノーネーム”のメンバーに危害を加えるやもせれません。今ここで、確実に叩いておくのが最善ですわ」
「僕も賛成です。彼の様な悪人を野放しにしちゃいけない」
筋の通った正論である。反論も出来なくなった黒ウサギは今日何度目か分からない溜息をついた。
「はぁ……仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう。もしもの時は五月雨さんも居ますし」
確かに十六夜の力ならばガルド程度ならあっという間に蹂躙できるだろう。
五月雨でもまぁ、楽勝は出来るはずだ。
しかし、十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、
「何言ってんだよ。俺は参加しねえぞ?」
「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」
フン、と鼻を鳴らす二人。やはりこの二人、どうにもお互いに喧嘩腰だ。
黒ウサギは慌てて二人に食ってかかった。
「だ、駄目ですよ!
御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そういうことじゃねえよ黒ウサギ。いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
先程の蛇神との一戦と同じ理屈。十六夜は、その点においては頑ななのだ。
よく言えば責任。悪く言えば自業自得。ギフトゲームに挑むということを早くも理解していた。
「あら、わかってるじゃない」
「そ、そんな………さ、五月雨さんもなんか言ってくださいよ」
「面倒臭い」
即答である。
「二言目にはそれですか!! どれだけ怠慢なんですか…………」
と、そこまで怒鳴った黒ウサギはハッと気付いた。
ーーー五月雨の手から血が滲んでいたのだ。
見ると目も憤怒に染まっている。
彼も、飛鳥達と同じく………いや、それ以上に、ガルドの非道な行いに怒っている。
「まあ、星が喧嘩を売った一人である以上、直接は参加しないが必要に応じて俺の武具を貸すさ。その代わり…………絶対に勝て。負けることは許さないからな」
最早睨みに近いレベルで飛鳥達を見る。
自らの手で叩きのめしたい所を飛鳥達の面子を護るために耐えているのだ。
「…………ええ。分かったわ」
「頑張るよ」
「はい。必ず勝ちます」
その答えに五月雨は満足そうに頷いた。
「うふふ。私もマスターの代理として精一杯戦わせて頂きますわ。マスターの怒りは私が倍にしてぶち込んでやりますので」
「ああ。頼んだぞ」
*********
「それで、今日はどうする? コミュニティに帰る?」
「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら゙サウザンドアイズ゙に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な゙瞳゙のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全て精通する超巨大商業コミュニティです。
幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフト鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の 力の出所は気になるでしょう?」
十六夜・飛鳥・耀の三人は複雑な表情で返し、五月雨は相変わらずの面倒そうな顔である。
思うところはそれぞれあるのだろうが特に反論は無かった。
その途中、並木道に桜の木のようなものがあり、それを見た飛鳥がとても不思議そうに呟く。
「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「……今は秋だったと思うけど?」
「ふわぁ…………」
意見がかみ合わない。なお五月雨に至っては
どういう事だと顔を見合わせて首を傾げれば、前の方から笑い声が聞こえた。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているです。元いた時間軸以外にも歴史、文化、生態系などなど、所々違うところがあるはずです」
「へぇ?パラレルワールドってやつか」
「近いですね。正しくは立体交差平行世界論というものなのですけども、今からコレの説明を始めると1日2日では説明しきれないのでまたの機会に」
何時かは説明してくれるのだろうと言うことでその話題を区切る。
が、その前に耀が、
「そういえば五月雨は此処に来た時、元の世界の季節はどうだったの?」
「……………さあ、どうだろうな?」
含みのある笑みではぐらかす五月雨。
理由は分からないが語りたくない模様。十六夜が問い詰めようとするが………。
「あ、皆さん! 見えてきましたよ!」
先に目的の店に着いたらしい。
故に、星が悲しそうな顔をしていることに気付かなかった。
黒ウサギが指さす先。そこには和風の商店があり、商店の旗には、蒼い生地に互いに向かい合う二人の女神像が記されている。おそらく"サウザンドアイズ"の旗印なのだろう。
だが、店を見ると割烹着を着た女性店員が看板を下ろしているところであった。
「まっ」
黒ウサギは滑り込んでストップをかけ…………、
「待ったなしですお客様。うちは営業時間を延長したりしませんので」
………られなかった。
水を流すかのようにきっぱりと断られてしまった。流石は超大手の商業コミュニティ。断り方に一部の隙もない。
「なんて商売っ気のない店かしら」
「全くです! 閉店時間5分前に客を締め出すとは!」
「文句があるなら他所へどうぞ。その代わりあなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」
「うるせー………」
キャーキャー喚く黒ウサギと鬱陶しそうに耳を塞ぐ五月雨。
しかし店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。入店許可を伺いますので、コミュニティの名前を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「・・・・・う」
一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし何も躊躇わずに十六夜は告げた。
「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」
「ほほう。ではどこの"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
"名"と"旗印"がないとこういった場面でも弊害が出てくる。黒ウサギたちはよほど肩身の狭い想いをしていたのだろう。
力がある店は客を選ぶ。大型コミュニティであるこの店が信用できない客を扱うリスクを彼らが冒すはずもない。
どうするのか。全員の視線が黒ウサギがに集中する。
「その・・・・あの・・・・・私達に旗はありま」
黒ウサギが口を開いた…………次の瞬間。
「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」
「キャアーーーーー!!!?」
黒ウサギに向かって着物風の服を着た白髪の少女がとてつもない勢いーーーもはやフライングボディーアタックレベルーーーで抱きついて腹に突っ込んで行った。
悲鳴を上げながら少女と共にクルクルと回転して道の向こうにある浅い水路まで吹き飛ぶ黒ウサギ。
流石の問題児達も予測出来なかった事態に五月雨も目が冴えた。
「・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
真剣に頼む十六夜と真剣に断る店員。
やれやれと頭を振った五月雨はそんな巫山戯ている十六夜に一言………。
「おい十六夜。アンタこの世界のお金持ってないから有料バージョンは出来ないだろ」
……………違う。そこじゃない。
「し、白夜叉様!? どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに! フフ、フホホフホホ! やっぱりウサギは触り心地からして違うのう! ほれここか? ここが良いかここが良いのか!」
そして謎の白い幼女は可愛らしい容姿に反して中身は変態親父だった。流石箱庭色々と酷い。
「し、白夜叉様! ちょ、ちょっと離れてください!」
黒ウサギは真っ赤になりながら白夜叉と呼ばれた胸に顔をスリスリと擦り付けてくる白夜叉と呼ばれた少女を無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつけた。
くるくるくるくると縦回転しながら飛んでくる少女を十六夜は、
「五月雨。パス」
「ゴバァ!?」
五月雨に向かって蹴り飛ばした。
「は~? 面倒くさっ」
今度は網を取り出した五月雨。最初は掌サイズだった網は投げられると白夜叉を包み込むのに丁度良いサイズに広がった。
そしてゴールに突き刺さるサッカーボールかのように、
「ナイスシュート」
「のわぁ!? お、おんしら! 初対面の美少女を蹴り飛ばした挙げ句、漁獲が如く捕らえるとは何様のつもりじゃ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく、和装ロリ」
「魚じゃねぇだろアンタは。ついでに五月雨さんですよ」
それぞれ笑いながら、そして平坦な声で応じる二人。
殊更五月雨は関わるのも億劫なのかやる気の無さに拍車が掛かっている。
「ええと、貴女はこの店の人?」
なんとか縄を解いた白夜叉に飛鳥が尋ねた。
「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様の白夜叉様だよ御令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育のいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ?」
「マスター。喧嘩を売られましたわ」
耀よりも更に胸部が薄い星がピキピキとこめかみを鳴らしながら告げた。
「ん? あー………後始末面倒くさいからやめろよ?」
「ぐぬぬ」
それを止める理由が面倒臭いであるのは最早明白である。
既に箱庭に召喚されて何度目か分からない怠慢宣言である。
そんな主従二人を含めた五人を見渡す白夜叉。
「ふむ、お前達が黒ウサギの新しい同士だな? そして異世界の人間が私の所に来たということは…………遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません! どういう起承転結があったらそうなるのですか!」
「むう、残念だの。まあいい、話があるなら店内で聞こう」
「よろしいのですか? 彼等は旗を持たない"ノーネーム"の筈、規定では」
「"ノーネーム"だと分かっていながら名を訪ねる性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても責任は私が取る。良いから入れてやれ」
上司である白夜叉の方が発言権は強い。
真面目に規律を守っていた女性店員は、むっ、と拗ねる様な顔をする。
そんな彼女を見て五月雨は金の門から瓶を取り出すと店員に渡す。
「苦労してんだな。ほら、この胃薬をあげるからアンタも頑張れ」
「…………ありがたく頂きます」
怠慢な五月雨だが、それなりに憐れみの情は持っているようだった。
・
全部で八本ある鎖。全て使用すると捕らえられないものは無いとされる。鞭のような扱いも可。
星が多用する武具。五月雨も使用頻度は高い。
・無尽ネット
対象の大きさに合わせて伸縮する網。
どんなに巨大な生物でも、どれだけ大量の軍勢でも捕縛する。
・胃霊薬
胃を整える薬。速効で効能も高い。錠剤タイプ。
ストレス性の胃痛には特によく効くが服薬しすぎると腹を壊す。