怠慢な博愛主義者が誰かを救いに来るそうですよ? ………誰かって誰さ   作:ファルコン・Σ

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第五話「生身で空を飛ぶのと道具で空を飛ぶのは訳が違うんだよ!」by五月雨

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

サウザンドアイズに入ることを許された六人は和室に案内され、腰を下ろしていた。

一流店なだけあり、私室とは思えない程に雅かつ豪華な作りになっていた。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりな態度で受け流す黒ウサギ。世話にはなってはいるのだろうが、それ以上に先程店前で繰り広げられたようなセクハラ行為をされてきたのだろう。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

 黒ウサギが上空から見た箱庭の図を書いて見せてくる。

幾つもの輪っかが重なったようなその見た目は、

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「食べ物に例えるな食い意地張ってるのか?」

 

「では、私はダーツの的と例えておきますわ」

 

身も蓋もない感想にがっくしと肩を落とす黒ウサギ。

逆に白夜叉は面白い例えと哄笑した。

 

「そういうことだ。ダーツの的と言うよりはアーチェリーの的じゃな。外側の方は点数、つまり価値が低く、中央に近づくに連れて価値も上がる。更に詳しく説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞーーーその水樹の持ち主などな」

 

白夜叉が指さしたのは黒ウサギが持つ水樹ーーー蛇神から貰った賞品である。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

ふふんと胸を張る黒ウサギ。

アンタの手柄じゃないだろ。とか俺の活躍は無視か。等のツッコミが喉まで出掛かった五月雨だが、白夜叉の驚いた声で飲み込まされた。

 

「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。いや、そうでもないのかもしれんな……。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

そもそも神核というのは、その種族のランクそのものをあげるギフトの一つである。

蛇なら蛇神。

鬼なら神鬼。

人なら神人。

といった感じである。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

何百年、と聞いて余計な事を口走りそうになる星を五月雨が制する。

女性に年を聞くのは失礼だ。

だが、十六夜は白夜叉のその発言を聞き物騒に瞳を光らせる。

 

「へぇ? てことはオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東の"階層支配者"だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだから」

 

"最強の主催者"―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせる。

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいたようにからからと笑う。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと? しかし、お主はよいのか?」

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様?」

 

なお尋ねられた五月雨は勿論一言。

 

「ちょーめんどくせー………」

 

「言うと思ってましたこのお馬鹿様!! せ、せめた三人を止めてください!!」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

 白夜叉は着物の袖から向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出しーーー

 

少女とは思えぬほど壮絶で、かつ妖艶な笑みを浮かべ、こう尋ねた。

 

 

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か―――もしくは、"決闘"か?」

 

 

ーーー回り、

ーーー周り、

ーーー廻り、

ーーー輪る。

 

世界が何度か反転した後に目を開けば、彼等は屋外に居た。

それも、ただの屋外ではない。

 黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。白い雪原と凍る湖畔。

 

そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は"白き夜の魔王"―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への"挑戦"か? それとも対等な"決闘"か?」

 

何処かで、魔王という存在を彼等は軽く見ていたかもしれない。

百聞は一見にしかず。実際に魔王である白夜叉の力は、ガルドはおろか、蛇神すら容易く上回っていた。

 

「水平に廻る太陽………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現しているってことか」

 

白夜とは、ヨーロッパ北部などで見られる現象。

太陽が沈まず、昼が続くのみの時間。

そして夜叉とは、森林に住まい、水をもたらす善性と悪性を併せ持つ鬼神。

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」

 

魔王ともなれば、自分の領域を作り出せる。

白夜叉は、その規模の桁が違った。

 

「して、おんしらの返答か? "挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――だがしかし"決闘"を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「…………っ」

 

三人は即答できなかった。

これだけの実力者相手に、三時間前に来たばかりの箱庭初心者ではどう見ても勝ち目が無いことは一目瞭然だ。

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。ーーーいいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

試されてやる、というプライドの高さをなんとか及第点まで抑え込んだ上での十六夜の譲歩。

ただ、その目には「何時かお前をこえてやる」とでも言いたげに闘志が残っていた。

 

「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。

 

「ふむ。さて、最後にお主はどうする?」

 

「俺は面倒臭いと言った筈だが?」

 

「誤魔化せると思っとるのか? この世界に来てから好奇心が抑えきれておらんぞ?」

 

軽く舌打ちして立ち上がる五月雨。

面倒臭がりとはいえ、この辺りの好奇心の高さは彼もまた問題児であることの証拠だった。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください! "階層支配者"に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う"階層支配者"なんて、冗談にしても寒すぎます! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「はてはて、どうだったかな?」

 

「一杯食わされたか………食えない幼女だ」

 

やれやれと五月雨。

 

「さて、では試練を始めるとするか」

 

 白夜叉の声に反応するように、湖畔の向こう岸にある山脈から何かの獣のような声が響いた。

 

「………何、今の声。初めて聞いた」

 

「ふむ。あやつか。おんしらの試練の相手としては相応しかろう」

 

あらゆる動物と会話できる耀ですら聞いたことのない声。一体どんな猛獣が現れるのか………。

 

巨大な翼を広げた獣が空を滑空し、こちらの方へ駆けて来る。

その勇姿を視界に捉えた耀が歓喜と驚愕の声を上げた。

 

「グリフォン……!! 嘘っ………本物!?」

 

「如何にも。こやつこそ鳥の王にして獣の王――――グリフォンだ」

 

空の王、鷲と地上の王、獅子を併せ持つ幻獣、雄々しい姿を見せたグリフォンは

白夜叉の隣に降り立つ。

と、一枚の羊皮紙………“契約書類”が出現した。

 

 

『ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

 ・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                            “サウザンドアイズ”印』

 

 

「おい白夜叉。俺の名前が書いてないのはどういうことだボケか?」

 

「ん? ああ、おんしには別のゲームを受けてもらう」

 

は? と目を見開き納得出来ない顔を見せる五月雨。

 

「私を前に面倒臭いなどと抜かした者は初めてでの。ちょいと仕返し………ではなく、試してみたくなったのじゃ」

 

「私怨丸出しじゃねぇか!!」

 

「マスター。自業自得ですわ。諦めてくださいまし?」

 

怠慢気質が祟った瞬間である。

肩を落としている五月雨の後ろで恙無くゲーム準備は進行していく。

 

「私がやる」

 

手をピシッと上げたのは耀だった。

三毛猫の心配そうな鳴き声にも大丈夫と答える辺り、よっぽど楽しみなのだろう。

 

 

「ふむ、自身があるようだがこれは結構難物だぞ?失敗すれば大怪我ではすまんが?」

 

「大丈夫、問題ない」

 

頑として引かない耀。

というより全意識がグリフォンに集中している。

 

「…………1+1は?」

 

「大丈夫、問題無い」

 

駄目だこりゃ、と判断する十六夜。何を言っても聞きそうに無い。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ?」

 

「気を付けてね春日部さん」

 

十六夜と飛鳥の激励を受けてグリフォンに近づく耀。

と、その耀にポスッと布が被せられた。

 

「わぷっ……何これ」

 

「“近衛の(センチネル)マント”だ。マント自身が保つ限りは温度やダメージをカットできる。着とけ」

 

「五月雨………うん、ありがとう」

 

マントを羽織った耀は改めてグリフォンに話しかけた。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

『!?』

 

ビクリと跳ね上がるグリフォンの肢体。その瞳からは警戒心が薄れ戸惑いの色が浮かぶ。

 

「私を貴方の背に乗せ・・・・・誇りを賭けて勝負しませんか?」

 

『何・・・・・!?』

 

総じて幻獣というのはプライドが高い。

その誇りを掛けろというのは挑発としては十分過ぎた。

 

『娘よ。お前は私に"誇りを賭けろ"と持ちかけた。お前の述べる通り、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう・・・・・だがな娘。誇りを対価に、お前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

耀は迷いなく即答した。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!?本気なの!?」

 

耀のあまりにも無謀な返答に黒ウサギと飛鳥は驚きの声をあげる。

しかし耀はそんな静止にも動じず、更に告げる。

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります・・・・・それじゃあ駄目?」

 

『・・・・ふむ』

 

どの道、勝たねば死ぬ賭。

尚も止めようとする黒ウサギ達を五月雨が止める。

 

「止めとけ。怠慢以前にこれは耀の覚悟だ。邪魔することは彼女の信念に泥を塗ることになるぞ」

 

「ああ、これ以上は無粋だぜ?」

 

「私は大丈夫だよ」

 

耀自身も黒ウサギと飛鳥の方に振り返り頷いた。なんの気負いもない余裕の表情だ。

 

『乗るがいい若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』

 

グリフォンは頭を下げて背に乗るようにと促した。

マントを羽織り直し、跨がる耀。

 

「始まる前に一言だけ・・・・・私、あなたの背に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『・・・・・そうか』

 

その一言を残し、グリフォンは勇ましく飛翔した。

 

 

*********

 

 

 

「大丈夫かしら、春日部さん」

 

「・・・・・心配です」

 

耀を背に乗せて空を舞うグリフォン見つめて飛鳥と黒ウサギは心配そうな声を上げた。

 

「マトモな人間なら一瞬でぺしゃんこになる衝撃なんだがのう・・・・あの娘よう耐える」

 

グリフォンのスピードに耐えている耀を見て白夜叉は思わず感嘆の声を上げた。

そもそもこの世界自体の気温は低い。加えて超高度かつ超高速で飛ぶグリフォンの背中に乗っている耀は凄まじい寒波と圧力が掛かっている筈だ。

 

耀自身のみではそれなりにキツい筈だが、かなり余裕はありそうだ。

 

「ふむ………あのマントも中々優れた物のようだな。おんし、あれは何処で手にした?」

 

「詮索無用ですわ白夜叉さん? 教えたところでどうにかなるとでも?」

 

「ふむ。確かに一理あるの」

 

どうせこの後は五月雨のゲームなのだ。その時にじっくりと観察すれば良いと白夜叉は結論付けた。

 

折り返し地点の山脈を迂回してきたグリフォンはその勢いを殺さずに戻ってくる。耀はまだ存命だ。

そして、

 

「!! 来ました! ゴールです!」

 

「春日部さんの勝ちだわ!」

 

耀の勝利に声を上げて喜ぶ黒ウサギと飛鳥。

グリフォンも振り返って耀に勝利を告げようとした。

 

 

その時

 

 

急ブレーキによる慣性の衝撃か。はたまた遂に握力が底をついたのか。

 

耀はグリフォンの背からずり落ちて真っ逆さまに転落した。

 

飛鳥の悲鳴、駆け出す黒ウサギ。そして彼女を止める十六夜。

 

「は、離し」

 

「待て! まだ終わってない!」

 

ーーーグリフォンは立派な翼を持つが、その巨躯故にそれで空を飛ぶことは叶わない。

その翼では、己の重さを浮かすには非力すぎた。

故に彼等は、別の選択肢を選び、進化した。

もう一つの立派な体………四本の強靱な足で、空を踏みしめる術を覚えた彼等は、文字通り空を奔るのだ。

 

そして、耀もまた………。

 

「なっ・・・・」

 

フワリと、空中に浮かぶ。

さながらグリフォンがしていたのと同じように足で風を踏みしめ、掌で風を掴むように宙に留まった。

 

そのまま、フワフワと不慣れながら降りていく耀。

だがまだ万全に歩ける訳にはいかず、ガクッと足を踏み外す。

 

「っ」

 

「よっと」

 

そこを待っていたように待機していた五月雨が彼女をお姫様抱っこの要領で受け止めた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。ありがとう五月雨」

 

「気にするな。ケガしなくて何よりだ」

 

ゆっくりと下ろされた耀はマントを脱ぐと五月雨に返却。

 

「ありがとう。体は全然寒くなかったし、苦しくもなかったよ」

 

「そういうマントだからな」

 

五月雨がマントをたたんでいる間に十六夜は近くに落ちていたグリフォンの羽を拾い上げながら軽薄な笑みを浮かべて言った。

 

 

「やっぱりな。お前のギフトって他の生き物の特性を手に入れる類のものだったんだな」

 

「・・・・違う。これは友達になった証。けどいつから知ってたの?」

 

「ただの推測だ。お前黒ウサギと出会った時に"風上に立たれたら分かる"とか言ってたろ?そんな芸当は普通の人間にはまずできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく他種のギフトを何らかの形で手に入れるものなんじゃないか・・・・と推察したんだが、どうやらそれだけじゃなさそうだな。五月雨のマントが防ぐのはあくまで寒さとダメージだけで、あの速度に正気で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

「本格的にアンタどんな頭の回転と記憶力をしてるんだよ」

 

素直に感心している五月雨に“もっと褒めてもいいんだぜ?”と張りにドヤ顔を見せる十六夜。

 

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』

 

「ありがとう。大事にするね」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。・・・・・ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性のものか?」

 

パチパチと拍手を送りながら白夜叉は耀に尋ねる。。

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

五月雨や十六夜達には分からないが三毛猫ご鳴いて白夜叉に説明している。

どうやら彼女も猫の言葉を解することが出来るようだ。

 

「ほほう、彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

耀は頷きながらペンダントにしていた丸い木彫り細工を首から外して白夜叉に渡す。

一見年輪のような、しかし幾何学模様にも見える模様が刻まれた楠の神木で作られたというペンダント。意味はあるらしいが耀がこれを貰ったのは大分昔なので忘れてしまったのだという。

 

 

「…………もしかして系統樹か? 耀、アンタの父親には生物学者の知り合いがいなかったか?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

系統樹といえば、生物学者チャールズ・ダーウィンが提唱した進化論で有名だろう。

しかし、耀のペンダントに刻まれているのは円形だ。

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとる! 実にアーティスティック! おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

何を言っているかは分からないがとりあえず欲しがっていることは分かった耀は即拒否。

玩具を買ってもらえなかった子供のような、それこそ見た目相応にションボリする白夜叉だったがすぐに気を取り直した。

 

「まあよい。では、おんしのゲームを始めるとするかの」

 

其処に来て思い出したかのようにゲッとなる五月雨。

 

「えー………マジでやるんスか?」

 

「無論だとも」

 

見るからにやる気の無さそうな五月雨。

これが他人の為のゲームなら寧ろ率先して挑んでいただろうが、今回に関しては違う。

 

「筋金入りの面倒臭がりがだよなアイツ」

 

「本当ね。なんか私生活でも隙が多そうだもの」

 

「人に対してはお人好しなのにね」

 

後ろで好き勝手言ってる三人のことは軽くスルー、挑発にも乗らないのが五月雨のタチである。

 

「あの、星さん、あの怠慢さはどうにかならないのでしょうか?」

 

「そうですわね。案外簡単ですわよ?」

 

そう言って星が四人に何やら耳打ちする。

 

「…………は? いや待て待て。本当にそんなんでやる気出すのか?」

 

「本当ですわよ? 疑うならやってご覧なさい」

 

半信半疑ながらも耀が未だやる気の無さそうな五月雨に声を掛けた。

 

「五月雨。やってみてよ。私だってやったんだよ?」

 

「いやまぁそうだけどさぁ」

 

 

「それに、五月雨の格好いいとこ見てみたいな」

 

 

ピクッ、と、五月雨の動きが停止した。

 

「ああそうだな。お前だって俺らみたいにスゲェ奴なんだろ? 見てみてぇよなぁ」

 

「ええ、どんな力を持っているのか興味が尽きなくて今から期待しちゃうわ」

 

「YES! 五月雨さんの力が見られるとなるとワクワクするのですよ!」

 

十六夜、飛鳥、黒ウサギの追加攻撃に、五月雨はプルプルと震える。

そしてガバッと声を張り上げ、

 

 

 

「よろしい! そのオーダーに答えようか!!!」

 

 

 

やる気とテンションが一気に100%になった。

それを見て白夜叉を含めた一行の思考が一致した。

 

 

『あ、コイツチョロい』

 

 

五十嵐五月雨。

お人好しの彼は、期待を裏切れない性格でもあった。




近衛の(センチネル)マント
耐久値の限界まで攻撃を遮断するマント。直接的な斬撃や銃弾。火や雷は防げるがそれによる衝撃までは防げない。
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