Pの日常SS   作:天河 龍汰楼

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宝くじでスカチケ当たったらほしいアイドル①


ゆるふわといっしょ (高森 藍子)

 

チックタックチックタックと、腕時計が音を立てている。

少女が、僕の肩に頭をのせて、スヤスヤと眠っている。

どうにも、この少女は、一緒に居ると時間の感覚が狂うと言われている。

僕はそう感じたことは無いのだけれど。

まぁ、彼女と一緒ならどれだけでも過ごせそうだとは思う。

夏も半ば過ぎ去り、木漏れ日が柔らかくなってきたこんな季節には、特に。

中庭の陽気は丁度良く、こんなゆっくりとした時間は、とても惜しい。

だけれども、時間とは人を待たずに過ぎるものだ。

 

「撮影の時間だよ、藍子。ほら、起きて」

「……むにゅ、あれ。……私、寝ちゃってましたか?」

「うん」

 

そう言って、彼女の頭を持ち上げる。

そうでもしないとキミはなかなか起きないんだから、そうむくれないで。

言葉に出すことは無く、さっさと立ち上がる。

もしかしたら、こんな人間だから、彼女とゆっくりできないのかな。

 

「ほら、行くよ」

「あ、ちょっと待ってくださいぃ」

 

まだ寝ぼけている彼女の手を引いて、スタジオまで歩いた。

ゆっくりできる時間をとっている分、スケジュールは過密気味だ。

移動時間までゆっくりしている暇はない。

スタッフと直前の打ち合わせをして、撮影に入る。

彼女らしい、自然体の姿にピントを合わせて、フィルムに焼き付けられていく。

成長したな。なんて、年寄りみたいに思う。

彼女らしさは、アイドルらしさに。アイドルらしさが、彼女らしさに。

アイドルの藍子と、いつもの藍子に、隔たりはもうほとんど無い。

高森藍子というアイドルは、ほぼ完成していると言っていいだろう。

だが、まだ足りない。人気が、ではなく、何かパーツが足りない。

まるでピカソがキュビズムを使っていないような、そんな違和感。

彼女の魅力を、僕は完全に引き出せていない。

……いっそ、担当をおりてみようか?

考えるまでもなく、馬鹿らしい。他に誰がやれるというのか。

首を振って思考をリセットして、撮影の終わった藍子に近寄る。

 

「次は、ポジパでラジオだから」

「あ、はい。じゃあ、ありがとうございました!」

 

スタッフ一人一人に挨拶していくから、その分もスケジュールには入っている。

放っておくと会話を始めるので、その前に連れて行かないと。

次のスタジオからはユニットでの行動になるから、僕はいったん離脱。

あとは本田Pに任せて、僕は事務所に戻ってスケジュールの調整をする。

できる限り藍子と一緒に行動してるから、スキマ時間で仮組みしている。

藍子のスケジュールは1週間単位で微調整を繰り返している。

実際にスタジオ入りの時間などを変えているわけじゃないけど。

僕が藍子と一緒に行動できる時間を主に調整している。

他の人に任せると、俗に言うゆるふわ空間に取り込まれてしまうから。

僕自身の事務仕事もあるので、結構大事なことなのだ。

 

「プロデューサーさん、藍子ちゃんが帰ってきましたよ」

「ん、ありがとう」

 

ちひろさんに言われて、モニターから目線を上げる。

時間は予定よりちょっと遅いくらい。

これから仕事は入れてないし、予想内なので問題は無し。

 

「おかえり」

「はい、ただいまです。プロデューサーさん」

 

ニコッと笑いながら、返事をする藍子。

 

「帰りだよね。送ろうか」

「……プロデューサーさん。一緒に、散歩に行きませんか?」

 

突然の申し出に、少し驚く。

脳内で事務仕事の進捗を確認。うん、問題ないかな。

いいよ、と返すと嬉しそうにトイカメラを取り出して、僕の手を取った。

 

「さっきそこの公園に可愛いネコちゃんがいたんです。早く行きましょう♪」

 

返事する間もなく、僕はなされるがままに彼女についていく。

こんなに急いでいる彼女は初めてだ。そんなに撮りたかったのなら帰り道に……。

そう思っていると、彼女が急に止まった。

 

「……?」

「プロデューサーさん、何か悩んでますよね」

 

僕も足を止めると、彼女は振り返ってそう言った。

悩み……? どういう事だろうか。

 

「今日の撮影の時、難しそうな顔をしてませんでした? 私が力になれるなら、何でも言ってくださいね」

 

手を腰に当てて、どこか怒ったようにそんなことを言う。

これは参った。撮影しながら他のことに気をとられていたのか。

少し呆れながら、気にしなくていいと首を振る。

 

「きっと、大丈夫」

「そう、ですか? ううん、プロデューサーさんが言うなら、そうですよね♪」

 

ニッコリと笑って、恥ずかしいことを言ってくれる。

信頼されているのは嬉しいけれども、流石に無条件すぎやしないだろうか。

 

「藍子」

「何でしょう?」

「どうしたい?」

 

藍子は顎をつまんで考え込む素振りを見せ、すぐにやめた。

困ったように笑って、もう一度僕の手を取りなおした。

 

「いつかも言いましたけど……私、プロデューサーさんの手が好きです」

 

僕は身長が低いせいか、体温が高い。

年中を通して温かい僕の手を、藍子は陽だまりのようだと言ったことがある。

 

「温かいのはもちろんですけど。なにより、私をどこへだって連れて行ってくれるんです。アイドルの世界に、ステージの上に、仲間たちの所に、私の知らない所に」

 

確かに、僕は良く彼女の手を引いて連れていく。

いつぞや渋谷Pに「犬の散歩じゃあるまいし」などと言われたが。

そういえば、初めての時もそうだった。

事務所の色んなものに興味を示す藍子の手を握って、中庭に連れ出した。

 

「だから、プロデューサーさんのしたいようにして、良いんですよ♪」

 

その時も、とても嬉しそうな顔で、僕の手を握り締めていた。

 

「藍子」

「どうしました?」

「今度の撮影、中庭でやろう」

 

僕の唐突な提案に、彼女は眼を大きく見開いて驚いた。

と思ったら、すぐに笑顔になって、嬉しそうに「はい」と言った。

 

「連れて行って、くれるんですね」

「うん、きっと」

 

何となくわかった。

僕は、彼女のゆるふわ空間に頭まで浸っていたらしい。

彼女の一番魅力的な姿に気づくのが、あまりに遅すぎるのだから、間違いない。

 




当たらないかなー
いつかは買うけど、当たったら嬉しい
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