不幸、と言っても人それぞれ。
「それでも、不幸か?」
遣らずの雨に降られて、二人で事務所のソファーに陣取っていた。
いつでも眉をハの字して、所在なさげにしている儚げな少女。
白菊ほたるの黒髪を撫でながら、なんとなく聞いてみた。
「……すぅ」
答えは返ってこなかった。
そりゃそうか。さっきまでレッスンだったもんな。
不幸な人生だったと、聞いているが。
さっきまでの彼女を見れば、それだけではなかったこともわかる。
「なぁ、ほたる?」
不謹慎だろうか。
努力しても報われなければ、不幸だろうか。
成功しなければ、不幸だろうか。
何もなければ、不幸だろうか。
「……んぅ? あ、すみません……寝ちゃってましたか……?」
「気にするな。あれだけ頑張ってたんだ、当然だろう」
寝ぼけながら、俺の肩から頭をはなす。
もう一度聞いてみようか、やめておこう。
「ほたる、今のところは幸せか?」
「ふぇ? は、はい。幸せ……です。……とても」
「どうして?」
「……プロデューサーさん?」
ほたるがコテンと首をかしげて覗き込んできた。
怪訝そうな顔に我に返る。
デリカシーが足りんな、まったく。
「すまん、別にお前を責めるわけじゃなくてな。もちろん、事務所が倒産することも無いぞ? 心配かけさせたか?」
「いえ、プロデューサーさんは……不幸を気にしないですから」
「そんなことはないさ。俺だってツイてないと思うことくらいある」
レジで1円玉が足りなかったり、仮眠室のベッドが空いてなかったり。
そんな些細なことでも、人は不幸だ。
「俺が気にしないのは……ただ、自信があるからだ」
「自信、ですか?」
あぁ、と静かにうなずく。
「そんな不幸くらい、俺なら吹き飛ばせる」
いつだって自信がある。
それだけの努力もしてきた自信がある。
どんな時でも大丈夫だと自信を持っている。
だから、不幸があっても気にしない。
「……すごい、です」
「お前もだよ、ほたる。ほら、もっとシャキッとしろ」
初めて会った時のように。
あの時のように強い意志を、また見せてほしい。
そんな思いを込めて、彼女の頭を少し強く撫ぜた。
「あぅ。でも、私なんか……」
「幸せも、不幸せも、大して変わらん。心の持ちようだろう? だったら、一片に片づけた方が得だ。トップアイドルになりたいってんなら、後ろ向いてる暇はもったいないしな」
そして、不幸を不幸のままにさせないのがプロデューサーの役目だ。
「ありがとうございます……。とってもとっても、嬉しいです……」
またウトウトとし始めた彼女の髪をとかしながら、少しばかり微笑む。
すこし、いや。かなり不幸だとして、何が問題だろうか。
この諦めの悪い少女一人、トップまで連れていけなくて、何が自信家か。
酸いも甘いも、花弁の一片ごとく蹴散らしてみせよう。
かつてないほどの自信をもって言える。
彼女は……俺の担当は、絶対トップになれる。と。
調べている最中に見つけた 神よ、足だけは引っ張らないで というセリフに痺れました。薄幸に見えて芯の強いほたるちゃん可愛い。
(ヴォヤージュ・ブレイバーが来るまでクールだと思ってました)