お祈りするまでもなく267回目で来てくれました。
べったりと、デスクに突っ伏しながら唸る。
いや、実際には唸る気力もなく、ほぼ死に体である。
「まぁ、そう気を落とさないで下さい。他のプロデューサーさんも、スカウトには苦労してましたから」
コトリと、お茶を置かれた音がしたので、顔を上げて礼を言う。
ちひろさんにそうやって慰めてもらうのも何度目だろうか。
「やっぱり、僕みたいな暗い人間にスカウトは無理でしょう」
「私はそんなに暗いとは思わないですよ?」
そうだろうか? この本ばかり読んで生きてきた人間が暗くないはずがないと思う。
そう反論しようとも、別に自分の評価を下げなくてもいだろうとも思う。
結局、どっちつかずの曖昧な返事をすることになる。
「そうでしょうか……」
「はい。きっと、すぐに良い子が見つかりますよ」
きっと、ときたか。
そこまで言われてくすぶっているのも、なんだか悪い気がする。
「昼から、また行ってきます」
「その意気ですよ」
ズズ、とお茶をすすって、一息つくのだった。
夏も終わり、風に冷たさの混じる中で歩き回る。
ぶっちゃけて言うと、まずピンとくる子がいない。
一応これからのパートナーなのだし、もっと良い子を……と思ってしまう。
自分でも夢見すぎだとは思うけれども、事務所の子たちを見てるとなぁ。
「……あほらし」
ここでスカウトは無理と判断して切り上げる。
可愛いとか、綺麗とかじゃなくて、もっとこう……。
そう、高森のような穏やかさと、高垣さんのような美しさを兼ね備えたような……。
まるで、『ぼくのかんがえたさいきょうのアイドル』。
いや、そうまで言わなくとも素晴らしい原石がどこかに居ないかなぁ。
ただ、僕がそれを見抜けるとも思わないけど。
「やっぱり、僕にスカウトは無理だよねぇ……」
ネガティブなのかポジティブなのか。
少なくとも、スカウトは難しい。どこかで妥協も必要だろうか。
無期限とはいえ、あまりちひろさん達を待たせるわけにもいかないし。
「どのあたりで妥協するのかが問題だよねぇ」
ぼそぼそと独り言を言いつつ、あてもなくさまよっていると、それを見つけた。
……本屋だ。しかも個人経営の古本屋かな。
この電子書籍の時代に、珍しいものだ。……ちょっとくらい、いいかな。
「……失礼しまーす」
小声で挨拶しつつ、中へ入っていく。
カウンターに人がいない? 不用心だけど、まあ有ることか。
息を吸えば、古本の醸しだす独特の匂いが、心地よく感じられる。
僕にとっては、懐かしい匂いで、落ち着くことこの上ない。
「わぁ、すごい。古いのばっかりでもないし、いい蔵書量だなぁ」
やばい、心が躍る。
事務所からそんなに遠くもないし、最高かよ。
人も少なくて、静かな雰囲気。こんなにいい場所があるなんて。
書架を挟んで人の気配がして、いい場所を見つけた仲間に不思議な親近感。
と言っても、今の僕は仕事中だし、長居はできない。
ちょっと惜しみつつ、3冊ほど手に取ってカウンターに向かう。
「あ、これお願いします」
「……? あ、はい」
はてさて、この瞬間に僕を襲った衝撃については、筆舌にしがたい。
カウンターには、髪の長い女性が座っていた。
ストールを肩にかけ、一心に本を読んでいた。
その人が顔を上げたとき、僕の心臓は鷲掴みにされた。
長い前髪の隙間から覗いた蒼い瞳に、魂が吸い取られたような錯覚。
「……あの?」
「へぁ。あ、すいません! えっ、あはい。お金……」
完全に放心していた僕に、いぶかし気な顔をする彼女。
急いで財布を取り出そうとして、手を滑らせてポケットの中身を落としてしまう。
名刺入れが衝撃で開いて、中身がばらまかれる。
ふと、冷静になる。そうだ、この人をスカウトしよう。そうしよう。
「あぁ、ほんとすみません。取り乱してしまって」
「いえ……構いませんが」
あれ、スカウトってどうすればいいんだ?
財布からお金を取り出しつつ、そんなことをふと思う。
なんかこれまで言い訳ばっかりでまともにスカウトしてない気が……。
さりげなく取り出そうとした名刺をそそくさとしまって、本を受け取る。
「あの、えっと。また、ここに来れば……会えるかな?」
「……? 講義のない時は、ここに居ますが……?」
「そっか、それならよかった。また来るよ」
「はい……? またのご来店、お待ちしております……?」
彼女を困惑させる言動をして店を出る。
ナンパのような何かだと思い至って悶え苦しむのは後の話。
今はただ、スカウトのコツを教えてもらうことを心に決めるのだった。
途中で限定志希にゃん、恒常ほたるも来てくれて幸せ。
せっかくなので天井できらりもいただきました。やったぜ。