Pの日常SS   作:天河 龍汰楼

8 / 16
今回は独自解釈注意です。ふみふみおめでとう。


空想いを真に実らす(鷺沢 文香 ②)

新人プロデューサーは悩んでいた。

やっとの思いでアイドルをスカウトして、やっと1年は経とうかという時期のことだ。

スカウトしたアイドルを担当し、この一年間がむしゃらに頑張ってきた。

自分の担当が世界一だと思えなくてなにがプロデューサーか。

などと先輩に言われるまでもなく、彼は彼女が最高のアイドルだと思っている。

現状のところ活躍は順調。ちょっとどころではない人気アイドルになった。

当たり前だが、1年でこれは破格と言っていい。

なにより、話題性だけでは終わらない魅力が彼女にはあるのだから。

デビューしたての物珍しさだけではない。それは彼も十分理解していた。

このままいけば順当にトップまで行けるだろう。

 

では、なぜプロデューサーは頭を抱えているのか?

簡単だ。

 

彼が思う世界一のアイドルに対して、最も熱心なファンの一人だと自称する彼は、誕生日プレゼントの一つも用意していないのである。

しかし、彼を責めることはできないだろう。

何より彼女がここまで有名になったのは彼の手腕によるものが大きい。

多くを語らずとも、多忙を極めたのは想像にがたくない。

そして、そのことを誰よりも理解しているのは担当アイドルだった。

 

話は変わるが、彼女には自信がなかった。

書架に囲まれた、どうしようもなく古びた紙の匂いが染みついた女性であった。

彼女自身が、それを理解していた。むしろ、そうあることを求めていた。

本がある限り、彼女は独りではなかった。そして、万能だった。

それが仮初めであると知っていても、平凡を自称する彼女にとってひと時の自由。

誰かの投影、感情移入、追体験だとしても、それは文字を通した真実。

あるいは、そう押し隠して、書架の殻に閉じこもっていた女性であった。

殻を破ったのが彼であることは、言うまでもない。

そして、彼女のアイドルという名の旅路の道案内は、彼が務めている。

 

”ファンタジー”を”現実”に変えてくれたことに、彼女は例えようもないほどの感謝を抱いている。

それにさえ多大な労力がかかっているというのに、その上に誕生日プレゼントなど貰った日には、彼女には返せるものが無くなってしまうと思っている。

 

こうして、彼と彼女は少々のすれ違いをそのままに10月27日を迎えた。

 

「おはよう、文香」

「おはよう、ございます」

 

朝の挨拶もどこかぎこちないままに、彼は機会をうかがっていた。

なんとか用意できたのは、一日のオフ。そして、古本市のポスターだった。

 

「アー、文香って今日誕生日だったよな。そういうわけで今日のレッスンはオフにしておいたからこれに行ってみたらどうだ」

「はい……?」

 

結局何も思いつかなかった彼は直球に言った。早口になりながら。

唐突な言葉に、彼女は困惑しながらもポスターを受け取る。

 

「ほら、あれだ。いつも行きたいって言ってたろ。アイドルになってから趣味の本屋巡りも満足にできてなかっただろうし、今日は羽を伸ばしてこい」

 

今更ながら、これを誕生日プレゼントと言い張るのは苦しいだろうか。

などとという彼の思考はあまり意味がなく、彼女はしっかりと受け取っていた。

彼女は、黙り込んで考え込んだ。これを受け取っていいものか。

 

「では、一緒に……?」

「あ、あぁ。そうだな、それ……でぇ?」

 

彼女は、決して鈍いわけではない。

彼から向けられている恋慕の情にも、もちろん気づいている。

つまるところ、考え込んだ末に、彼への恩返しも兼ねようと思い至ったのだ。

もちろん、彼女自身が彼と共に行きたいという感情は多分に含んでいる。

ただその感情が恋愛に発展するものかどうかは、彼女には判断がつかない。

彼の方はと言えば、奇声を上げたかと思うと、そのままフリーズしていた。

予想もしなかったわけではない、思った以上にうまくいっていることが問題だった。

同時に、これは悪くないチャンスだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

言うやいなやパソコンに向かいシャットダウンを済ませる。

今日の分の仕事は昨日、明日に分割してある。抜かりはなかった。

 

「よし……じゃぁ、行こうか」

「はい。楽しみですね」

 

無意識にネクタイを締めなおし、彼は彼女と共に古本市に向かった。

 

日中の出来事に関しては、特筆することは無い。

本の虫二人が古本市に行ったとして、会話が弾むことがあろうか。いや、ない。

 

真っ暗になった道の上を、二人は大きな紙袋を持って歩いていた。

充実した一日を過ごした二人は、どこか気分よさげに肩を並べていた。

 

「今日は……ありがとうございます」

「気にすんな、俺もかなり買い込んだことだしな」

 

言葉を交わして、また沈黙。今度はまるで、探るような。

彼は、瞳に影を落とした彼女にかける言葉を持っていなかった。

彼女は、この一瞬すらも仮初めであるような気がしていた。

ただ、二人して時間を踏みしめるようにゆっくりと歩いた。

 

「なあ、文香」

 

沈黙を破ったのは彼だった。彼女に呼び掛けて、足を止めた。

どうしようもなく気がかりで、いつかは解決するべきことだった。

 

「俺はプロデューサーだ。新米だ。スカウトもへたくそで、正直なところ、お前のことを今担当できていることが不思議でならない。だから、聞かせてくれ――」

「プロデューサーさん……」

 

彼の言葉を遮って、彼女はぽつりとつぶやいた。

彼女にとっては一大事で、彼にとってはおかしなことを今は確かめなければならなかったから。

 

「もしかすると、私は今でも……ファンタジーの中にいるのではないでしょうか」

 

彼女は珍しく、空を仰いだ。青空はそこに無く。

 

「……んなわけないだろ」

 

彼女の青い瞳には、銀色に輝く月が映りこんだ。

 

「お前、まだ自分が何もできない。だなんて思ってるんじゃないだろうね」

 

さっきまで言おうとしていたことはどうでもよくなった。

しかし、彼には言わなければならないことができた。

彼の目に映る彼女は、そんな女性では無いのだから。

 

「お前はアイドルだ。アイドルになった。それは、お前が選んで、決然と歩いてきた、間違いのない真実だ。俺は、何よりもその強さを知っている。お前はもう、明日への切符を持ってるんだ」

 

鷺沢文香という女性の魅力を語りつくすことなど、彼にはできない。

変わりたいと思うことが、一歩踏み出すことが、どれだけ難しいかを彼は知っている。

だからこそ、彼は強く彼女に惹かれ、熱情を注いでいた。

 

「俺は、お前をプロデュースしたい。他の誰でもない、鷺沢文香を」

「……私は」

 

彼女には、実感がなかったのだと彼女自身が気付く。

アイドルになって1年。彼や、周りに流されるがままのような気がしていた。

自分は何も変わっていないと、心の片隅にわだかまっていた。

それを、どうすればよいのか。彼女は、よくよく知っていた。

 

彼女は、決して鈍いわけではない。

だからこそ、彼女の中に生まれた”本物”を見逃すことは無かった。

 




Pは担当に似る。なるほど、真理だ。
決して文香がポエミィというわけではないですが。
ただ、まあ。君に会えてよかったと、デレステに会えてよかったと。
それだけ思って書きました。

せっかくの記念なので、裏話。
このシリーズは基本一発殴り書きです。実は推敲すらしてないのです。
もともとお祈り用だったからね、仕方ないね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。