魔剣物語外伝 語られざる物語   作:一般貧弱魔剣

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今回は、他の二次創作様のキャラを一部お借りしております。


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草原の広がる国、ここはドラグナール大陸でも大国の一つであり七星国家(セブンスターズ)と呼ばれる大国郡の一つでもある。

 

「……そうか、そんなことが」

 

「うん、けどかばんちゃんのお陰で助かったんだー」

 

「かばんが?」

 

「すっごく頑張ったんだよ! でも凄く無茶しちゃって、一緒に怒られちゃった!」

 

広大な草原の一角、この国の首都に聳える城砦の一室で、二人の少女が話している。一方はこの国の女王である獣人サーバル、もう一人はかつて魔王を目指した少女、エックス。

 

「口惜しいものだな、邪竜が押し寄せることを理解して国境で待機していたというのに、むしろ内部のほうが激戦になっていたとは」

 

「ううん、エックスちゃんが数を減らしてくれてなかったらもっと大変だったかもしれない。エックスちゃんはとっても頑張ったと思うよ?」

 

「そう言って貰えるとありがたいが……まさか多方面から攻め込んでくるとはな。おまけに、私を避けるようにして城砦級(ルーククラス)騎士級(ナイトクラス)を送り込んでくるとは」

 

「それから、咎人(ネフィリム)っていう邪竜の新種も一緒にいたの」

 

サーバル曰く、騎士級との連携で手傷を負わされたのだという。少なくとも、考えるだけの知恵がある可能性が高いとエックスは判断し、サーバルもそれに同意した。

 

(おまけに輪をかけて巨大な城砦級か、随分と本格的なことだ)

 

城砦級を個人で相手どれる者は少ない。それはその巨大な図体が原因だからだ。単純な質量は、いかに個人の武勇が優れていようと覆し難い。だからこそ、エックスやサーバルのような英雄級という例外が相手取るべきなのだが、その7倍の大きさとなれば最早手に負えない。無事だったのは奇跡としか言い様がないだろう。

 

「それで、かばんはどうしている?」

 

「えっとね、今日は左近ちゃん達のところに差し入れ!」

 

「む、そうか。ならば稽古を見るついでに会いに行ってこよう」

 

「あんまり厳しくするのはダメだからね? 左近ちゃん達がへばっちゃったら、狩りごっこをする人がいなくなっちゃうんだから」

 

「分かってる分かってる、加減はするさ」

 

 

 

 

 

(……邪竜のあの組織だっての行動、いよいよ奴も本格的に動かすようになってきたか)

 

城を出て、左近達が訓練をしている練兵所へと足を運ぶエックスは、内心で思案していた。ここまで複雑な指揮系統を構築することができるのは、文字通り邪竜の総統括者である三大魔王の一角ぐらいだろう。つまり、あれはその上位者からの指示によるものに違いない。

 

気づけば、自分の指先が若干震えていることに気づき溜息をこぼす。

 

(……情けないことだ、友人の助けになるため己を叩き直したというのに)

 

逃げ出した自らを乗り越えるため、何よりサーバルの助けになってやりたいと思い、自らを鍛えるため各国の前線を渡り歩いたが、未だ同位体たる存在に対して薄ら寒いものを感じてしまう。

 

(いや、否定しても仕方がないな。私は一度逃げ出した敗走者だ、この弱さと付き合っていく必要がある)

 

それでも、以前に比べれば随分とマシな心構えを持てるようになったとエックスは考えている。あの傲慢でちっぽけな自分のままだったなら、恐怖で縮こまったままに違いない。

 

(本当に、私はいい出会いをしたものだ)

 

こうして前向きになれたのは、偏にサーバルとの出会いがあってこそだろう。初めての挫折、それに絶望していた自分に手を差し伸べてくれた彼女。そして、再び挫折する怖さを払拭し、一緒に考えてくれると言ってくれた大切な友人。

 

(だが、いつまでも彼女に甘え続けるのも考えものか……)

 

数年の戦いは自分に自信をつけたが、相変わらず彼女によりかかり気味であるという自覚もある。支えるのであれば、まず自分が自立するべきだ。それはただ力があればいいだけではない、心の強さが必要となるものだ。

 

「……まだまだ未熟、だな」

 

反省すべき点は多い、だがだからこそ改善していけるものも多い。それは、知能のない兵士級の邪竜や、知能があっても元々が強い騎士級にはできないことだ。結局のところ、邪竜の全ては三大魔王の実力へと帰結しているのだから。

 

「……よし、偶には己を鍛え直すとしよう」

 

 

 

 

 

「ひぃ、ひぃ……もう一歩も動けん……!」

 

「だから言ったのだ左近、エックスちゃんの鍛錬に付き合うのはやめておけと」

 

荒い息をなんとか整えようとする左近。その原因は、エックスの並ならぬ鍛錬に付き合ったせいだった。

 

「おい達と稽古した後にぶっ続けで自分の鍛錬をすうとは、おっそろしか密度じゃ……」

 

最初は彼も余裕があったのだが、さすがに5時間ぶっ続けのそれについていこうとしたせいで完全に息が上がってしまった。

 

「あれはサーバルちゃん考案の超ハードトレーニングだからな。前回はサーバルちゃん指導の元全員参加したが、ついていけたのは俺かエックスちゃんぐらいだぞ」

 

一方で、先輩の狩人である男はそれほど疲れたわけではないといった風だ。ただ、やはり彼もその額に多くの汗をかいている。彼がまだ余裕を持てているのは、ひとえに彼女と共に鍛錬をやった経験が生きたからだ。ようはペース配分が分かっていたから、ということである。

 

「うむ、こうして鍛錬を積むのはやはりいいものだな。あとでもう1セットやっておこう」

 

「恐ろしかちゅうこつをゆうちょる……」

 

「あれでまだ追加する余裕があるのか……」

 

「皆さーん! 差し入れの果実水です!」

 

エックスの発言に戦々恐々とする面々に、かばんは水差しを持って回る。注がれた水はよく冷えており、火照った体をよく冷やした。

 

「ふぅ……」

 

「心地よか冷たさにごわす」

 

それぞれが一息ついている中、エックスは岩に腰掛けて目を瞑っていた。これは鍛錬後の精神統一をするためのもので、邪竜との戦いでシェオールの前線に赴いた際、鎧の騎士に教わったものだった。

 

(少し振り幅に乱れがあった、いざ戦場で硬いやつと当たったら致命的だな。癖になる前に矯正するべきか……)

 

力は大きくとも経験の少ない彼女にとっては、敬意を払うべき先達からの教え。冷静に自分の鍛錬や戦闘を見つめ返せるこれを、彼女は欠かさず行っている。それはかつて、人間全てを見下していた彼女が大きく成長した証左であった。

 

暫し瞑想を行ったあと、目を開けると目の前にはかばんの姿が。

 

「はい、エックスさんもどうぞ」

 

「む、かたじけない」

 

どうやら、彼女はエックスが精神統一を終えるまで待っていてくれたらしい。気の利く少女だと、エックスは渡された水を嚥下しながら思う。

 

「ありがとう、私の邪魔にならないよう話しかけないでくれたのだな」

 

「ええと、すごく真剣そうな雰囲気でしたから……」

 

「気を使わせてすまない」

 

少しおろおろとしつつ、返却されたコップを受け取るかばん。彼女はどうにも、エックスのことが少しだけ苦手であった。雰囲気的に近寄りがたい印象があるのもそうだが、この国に来てまだ日の浅いかばんは、エックスのことをあまりよく知らないのだ。

 

(サーバルちゃんのお友達だから、悪い人ではないんだろうけど……)

 

知っているのはサーバルの友人であること、大食らいであること、そして恐ろしく強いということだけだ。そしてそれは、大抵の草原の国の民が知っていることでもある。

 

「? どうした?」

 

「あ、いえ。ぼく、エックスさんとあまりお話したことがなかったなぁって」

 

「……そういえばそうだな」

 

顔を合わせることは割とあったのだが、大抵は間にサーバルが入っているかそれぞれの用で話しかけたりした程度だ。

 

「丁度いい、ここに来たのはお前に会うためでもあったのだ。少し話でもするか」

 

「は、はい」

 

とはいえ、いざ何か話をしようとすると話題などないことにエックスは気づく。思えば、戦場で仲を深めた者はいても銃後の者達とはまともに話したことがない。草原の国ではその限りではないが、それでもやはり会話は少ない。

 

「かばん」

 

「は、はい」

 

「話題をくれ」

 

「えぇ……」

 

話をしようと言いだした当人が、まさか話題すら考えていなかったことにかばんは困惑した。少々気まずい沈黙が二人を包む。

 

「えっと、エックスさんは諸国の前線で戦ってたんですよね?」

 

「そうだが、それがどうかしたか?」

 

「あの、その時のお話を聞かせてほしいです」

 

「別にいいが、そんなことでいいのか?」

 

「ぼくはこの国の外へ出たことがないんで、興味があるんです。それに、エックスさんのこと、ぼくはまだ全然知らないですから」

 

「……分かった。まずはそうだな……ギムレーで、妙な笑い方をする世話焼きな男に会った話でもするとしよう」

 

彼女は自身の数年間の軌跡を、かばんに話し始めた。ギムレーで出会った、王女に仕える妙な笑い方が特徴的な魔道士の青年や、個性的が過ぎる七十二臣。特徴的な黒い外套を纏った規格外の英雄と、その攻撃に巻き込まれながら生還する白長の男。

 

シェオールの前線では、自身が師事した鎧の騎士に、男なのか女なのか分からない顔つきの騎士。そして体を鉄や油に置き換えて、なおも戦い続ける者たちなどもいた。恐らく、エックスが最も影響を受けた者達ばかりだっただろう。

 

ほかにも船乗りを名乗っていながら船を持たず、前線に迷い込んでいた変人やら、冒険者を名乗る一党などとも共同戦線を張ったこともあった。あと、邪竜相手に突撃する伸び縮みする黄色いナマモノや、クマっぽい見た目で邪竜のブレスを打ち返すよくわからないものもいた。

 

そうして日が傾くまでの間、エックスは話をした。

 

 

 

 

 

「まあ、私から話せるのは大体こんなところか」

 

「す、すごいですね……」

 

「文字通り死線を越えてきたわけだからな、嫌でも希少な体験はするものだ」

 

(各国の食事の話が度々挟まってたのは、お腹が減ってたからなのかな……?)

 

時にはかばんの質問に答え、自身が出会った人々について、また巡った国々について彼女は語った。妙に力が入っていたのが各国の食事について話していたときだったのが、なんとも彼女らしいと言えるだろう。

 

「……いい顔をするようになったな、かばん」

 

「えっ?」

 

「以前のお前であれば、力を持ち戦功を立ててきた私を羨んでいたかもしれん。だが、今のお前は純粋に私や戦友の戦いに敬意を持ってくれている」

 

「そう、なんでしょうか」

 

恐らくは、先日の一件が大きく関わっているのだろうとエックスは当たりをつけた。こうして話をできてるのもそうだ。あの臆病だった彼女が、自分へ積極的に話しかけるなど、以前ではあり得なかったかもしれない。

 

「かばん、お前は強いな」

 

「え? でもぼくは、サーバルちゃんたちみたいに力もないし……」

 

「そうではない、お前の心の強さを賞賛しているのだ」

 

「心の強さ、ですか?」

 

「そうだ。お前は力は弱くとも、それを恥じていない。だが弱いままでいたくないとも思っている。お前からは、乗り越えようという意志と勇気が感じられる」

 

力が強いだけでは意味がない。それを、エックスはかつて嫌というほど思い知らされた。真の強さというものは、その心のあり方にこそ宿るのだと、戦友たちの背中を見て理解した。

 

「それは、人の強さだ。弱いからこそ向上心があり、乗り越えようと努力する。弱いままでいたくないから勇気を以て一歩を踏み出せる。私には、それがとても好ましく思う」

 

「人の強さ……」

 

「生きることは戦いだ。この一千年人は戦い続けた、過ちも繰り返したしそれを改めることだってあっただろう。そしてそれら全ては、人が生き続けた証でもあると私は思う。かばん、お前もまたフレンズ達やサーバル、あるいは私と同じように戦い続けている」

 

共に生きているのならば、それは等しく生存という戦いだ。力でも、知恵でも、悪あがきでも。戦場は違えど、戦っているのだ。そして、そのために尽力するかばんがエックスには眩しく見えた。きっと、彼女もまたサーバルのように輝きを持つ者なのだろう。

 

「だからかばん、お前はサーバルを支えてやって欲しい。私はまだまだ、彼女に支えられる側だからな。お前なら、きっと彼女と支え合いながら戦っていける」

 

「……はい!」

 

かばんの力強い返答を聞くと、エックスは満足そうな顔をして立ち上がり、その場を去ろうとする。

 

「あの!」

 

そして、かばんはその背に待ったをかけた。

 

「どうした?」

 

「ぼくはエックスさんとも、フレンズのみんなとも一緒に支え合っていきたいです!」

 

「……!」

 

「きっと辛いことだって、悲しいことだってある。けど、貴女をのけものになんてしたくない。それはきっと、みんなが思ってることだと思うから――」

 

――だから、ぼくは貴女とお友達(フレンズ)になりたい。

 

「……ああ。こんな私でよければ、よろしくな。かばん」

 

振り返りながらそう言った彼女は、微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……友達、か。サーバルや戦友以外では、初めてだな」

 

きっと、戸惑うようなことだってあるだろう。喧嘩をするようなことだってあるだろう。だがそれは、決して嫌なことでも、悪いことでもない。もっと心を温かくしてくれるものであるはずだ。

 

「本当に、私はいい出会いに恵まれた」

 

善き人々がいる。こんな自分を友だと言ってくれる人がいる。それを害する邪竜が、いる。だからこそエックスは、自分以外の邪竜を許せない。だからこそ、絶対に絶滅させてやると誓ったのだ。

 

「人の今日を守るのは人であるべきだ、そして明日を紡ぐのもまた、人であるべきだ」

 

きっと、その未来に自分は必要ないだろう。最後に自分が残った暁には、自らを葬り去る覚悟もある。だがせめて、この微かな灯火の行く末ぐらいは見届けたい。遠く空に輝く星を見上げながら、エックスはそう願った。

 

 

 

 

 

「おかわりだ」

 

「もう食べないでください!?」

 

「かれぇの鍋が空っぽにごつ……」

 

「エックスちゃん、明日の朝飯は抜きだ」

 

「そうか、ならば食いだめするべきだな。おかわりを要求する」

 

「……サーバルちゃんに言うぞ」

 

「片付けの時間だな、皿洗いぐらいは手伝おう」

 

「はぁ……」

 

「あ、あはは……」

 

翌日。朝食を抜かれてぐだぐだになった彼女に、サンドイッチを差し入れる帽子の女の子がいたようだが、それはまた別のお話。




かばんちゃんの話を衝動的に書きたくなったので。他の方のキャラを使うというのは、毎度のことながら緊張する。

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