魔剣物語外伝 語られざる物語   作:一般貧弱魔剣

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3(後編)

魔剣のある国へと到達するには、いくつかの国を経由する必要がある。どうやら現在は、巨大な7つの国家が同盟を築いているらしく、国家間の移動は楽であった。

 

最初の国は、見渡す限りの平原が広がっていた。軍事訓練を行っているようで、一糸乱れぬ行軍はアルトリア・オルタも感心した。

 

「兵力は少ないが、その分質が高いと見える。特にあの獣人、奴は私より強いか」

 

彼女が興味を抱いたのは先頭に立つ獣人だ、どうやら女王であるらしい。笑顔を浮かべて天真爛漫にブンブンと手を振っているが、その一挙一動には隙が見当たらない。

 

(この国自体は大した脅威ではないが、あの女王には気をつけるべきだな)

 

平原国家を越えると、今度はかなりの発展を見せる国へ入った。

 

「ほう、この国には名君がいるらしいな」

 

商業、工業ともに高水準、治安に至っては他の国から抜きん出ていると言っていい。為政者が敏腕を振るっていると見て間違いないだろう。遠目に、民衆へと手を振っている姫君が見えた。

 

(ふん、才気はあるが夢見がちな女か。魔剣の呪いには耐えられんだろうな)

 

あれは本当の穢というものを知らない、本当に姫君でしかない女だと彼女は断じた。

 

(軍備は相当なものだが、頭抜けた英傑がいない。それさえ現れれば変わるかもしれんが、そんなものはお伽噺の中だけだ)

 

文化的な国だけあり、食事も非常に美味であったことが、彼女を多少満足させた。が、最終的に最も彼女の口にあったのは大衆向け屋台で買った味付けの濃い料理であった。

 

「農業地帯が多いな、魔剣による被害で空白になったためか?」

 

次に通ったのは、肥沃な穀倉地帯と思しき国。街を歩けば、国王と息子の話題が聞こえてくる。

 

「うちの王様はこう、どうにも威厳がないのがねぇ……」

 

「王子様も戦うのは得意みたいだけど、政(まつりごと)は不得手らしいし」

 

「まあ頑張り屋なお人らだってのは分かるんだが、他の国の王様方と比べると、ねぇ」

 

「なんであれ国が治まってるんだし、それでもいい気がするけどねぇ……」

 

どうやら、凡人に毛が生えた程度。どちらも大した器ではなさそうだ。事実、町中を駆けていった軍隊の先頭にいた男が王子だったようだが、あれはただのボンボンだろうと判断した。

 

(魔剣を扱えるだけの大器はいないようだ。優先して警戒するほどのものではないな)

 

国境を目指し、歩みを続ける。だが、ここで一つ問題が発生した。

 

「む、この先は山岳地帯か」

 

猛々しい岩峰の連なる山脈は、まさに峻嶺。他者を寄せ付けぬ絶対的な大壁であった。この山の向こうが魔剣のある国のようだが、これを越えるのは時間がかかる。

 

「やむを得ん、三国を経由して大回りする他あるまい」

 

山を切り崩して進んでもいいが、それでは目をつけられる。いかにアルトリア・オルタが強者とはいえ、さすがに今の彼女ではかの赤薔薇には勝てないのだから。

 

隣国へと足を向けると、再びの農業国家。こちらも治安は悪くなく、長閑である。

 

(小国が寄り集まってできた国か。それぞれの都市が同等の地位を有しているらしいな)

 

七十二の都市国家群から代表者を選出し、それらが各々の意見を出し合い協議するという形態は、人間は大昔からいがみ合いを続けてきたという彼女の認識からすれば、少々興味がある。

 

(そんなものを纏め上げられる手腕か、凄まじいな。政ではこの国の王が最も優れて……ん?)

 

「この街路は手狭過ぎる、馬車の往来を考えると非効率的だ。拡張工事を具申するとしよう」

 

街の通りを見ながら何かを書き込んでいる男をみて、民衆がひそひそと話しているのが聞こえた。

 

「またゼパル様の視察か……」

 

「あのお人、凄い賢者様だってのにどうしてこう人間味がないんかねぇ」

 

「七十二臣のお一人だし、俺もお世話になってる頭痛薬の開発者なんだがなぁ……」

 

「あっ、マシュ王女が駆け寄っていったぞ。相変わらずお美しい……」

 

黙々と作業を続ける男へ、駆け寄っていく少女がいた。この国の王女であるようだ。身のこなしは素人ではない、一流以上の戦士だろう。実力は自分をしのぎ、かの平原国家の女王をも超えると見ていい。

 

(だが、余りにも無垢だ。魔剣など持てばたちどころに憎悪で染め上げられるだろうよ)

 

立ち寄った喫茶店は、食事は平凡であったが甘味が中々のものであった。男にも人気があるのか、後ろのテーブルにはくせ毛の優男と眼鏡を掛けた小太りの男がワイワイ言いながらケーキを食べている。

 

「いいのかね、後で彼らにどやされても私は知らんぞ?」

 

「たまには息抜きもしないとね。それに、新作のケーキが出るとなれば行くしかないじゃないか!」

 

「ああ、そうだな!」

 

「見つけたぞ兄者! また城を抜け出してこんなところにおって!」

 

「「げぇっ! ゲーティア!?」」

 

(騒がしい奴らだ……)

 

次の国家は、商業と工業の盛んな国であった。その活気は、二つ前の国以上だろう。

 

「ほう、魔術の施された武具に、錬金術が応用された大筒か。中々の業物も多い」

 

他国から商人が集まり、市場は人で溢れかえらんばかりだ。人の数が鬱陶しいが、なんとかそれをかき分けながら進んでいく。

 

(治安はいいが、軍備はほとんどしていない。魔剣を抑止としていたためか?)

 

かすかに残る魔剣の瘴気から、魔剣が安置されていたのはこの国だったと考えていい。ならば、あの脆弱な魂の持ち主こそが当代魔王でありこの国の頂点だったのだろう。

 

(フン、惰弱な魔王などいらん。魔剣は私の手にあって然るべきだ)

 

途中、何度か食事を摂りつつ隣国へと向かう。そこは、彼女の最も警戒する人物が治める国だ。

 

「……ローズレッド・ストラウス、まさしくこの時代最強の存在だろう。だが、奴は今魔剣の近くにいる。この国を留守にしているはずだ」

 

魔剣の近くから感じる魂に、強大なものを感じていた。間違いなく、赤薔薇のものである。彼女にはそう断じられるだけのものがあった。

 

(奴も私と同じ、ペンドラゴンの血族。聖王、そして初代魔王と大きく関わっている血筋である以上、私には容易に感知できる)

 

誰も知らない、それこそローズレッド・ストラウスのみが胸のうちに秘めるもの。かの『薔薇の皇帝』にして『暴君』と呼ばれた者の異母兄弟、そこから生まれたのが彼である。アルトリア・オルタの素材となった邪竜にも、そのペンドラゴンに連なる者の細胞が含まれている。彼女が彼を感知することができるのは、そのためだ。

 

「待っているがいい、千年の守護者よ。貴様の負債を、私が請け負ってやろう」

 

 

 

 

 

赤薔薇の国を通り過ぎ、いよいよ国境に差し掛かった。

 

「この先が、魔剣のある国というわけか」

 

七星国家(セブンスターズ)最後の一国。奴隷を用いての農地運営によって発展を遂げ、七星国家入りを果たした国だという。当時、各国の民衆は難色を示したらしい。

 

「治安は相当に悪いらしいと聞いたが、私を殺せるだけの英雄もいない国。何も警戒するものはないな」

 

そうして、彼女は領内へと踏み込もうとした。その時。

 

"ドクン"

 

「がぁっ!?」

 

彼女の心臓が、突如大きく脈動したのだ。その痛みで、彼女は足を止めた。

 

「な、何が……うぐっ!」

 

再びの鼓動。それはゆっくりと早鳴りはじめ、ドクドクと間隔を短くしていく。

 

(私の肉体は、未完成な部分などないはず……!?)

 

肉体の不調か、あるいは生まれた時に何らかの病を患ったかと思ったが、それはない。そんな不完全品を、あの狂気に取り憑かれた男が完成品と認めるはずがなかった。

 

(なん、だ……魔剣の波長が……?)

 

魔剣から感じる波長が、自分の心臓と同じように昂ぶっていたのだ。まるで、彼女と共鳴を起こしているようであった。

 

(馬鹿な、私はまだ魔剣からかなり離れているのに……!?)

 

彼女は一つだけ見落としていた。彼女から魔剣を辿れるということは、魔剣からも彼女を辿れたということを。そして、彼女がやってくるのを待っていたのだ。

 

(!? 魔剣に、罅が……?!)

 

魔剣の刀身に、罅が入るのを感じ取り、驚愕する。何をしても折れることのなかった魔剣に罅が入るなど、有り得ないことだった。だが、それは魔剣という強大な魔具を打ち破れるものがなかったためであり。

 

今の魔剣の力そのものに、耐えられるとは限らなかった。

 

(そう、か……奴の記述……溜め込んでいた呪詛と憎悪、魂が……!)

 

千年にも及ぶ負の連鎖、憎悪と魂を啜り呪詛を振りまいた魔剣は、ついに内より暴発する寸前まで来ていたのだ。そして、その最後の引き金となったのは、彼女。

 

魔剣の同位体との共鳴により、魔剣は内より外へと飛び出すきっかけを手に入れたのだ。

 

「ア、ガアアアアアアァァァァァ!?」

 

共鳴する、魂がその繋がりを以て魔剣という殻を破る。

 

共振する、内より這い出たものが彼女のように姿を取った。

 

震撼する、生まれいでし者の息吹で世界は灼熱に包まれる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

鼓動が弱まる、痛みが引いてゆき頭が冷えてゆく。だが、呼吸はまだ荒く、彼女は震えていた。遠目には、夜空が燃え盛る炎で赤く染まる光景が見えた。

 

「なん、だ……あれは……」

 

共鳴していた魂の先から見えたもの、それは歴代の魔王を容易く超えるものだった。それが、三つの姿を持って顕現した。そして、都市一つを溜息代わりに吐き出したブレスで焼き尽くした。

 

「あんな、あんなものが生まれるなんて……」

 

大魔王、まさしく魔王を超える魔王だ。勝てない、勝ち目などない。彼女には分かってしまった、あれは世界を滅ぼせる。魔剣のようなただ破壊と殺戮を行うものではない、この星そのものを鏖殺できるものが生まれてしまったのだと。

 

「う、ぁ……おえ゛ぇっ」

 

吐き気がする。胃から内容物全てが逆流して吐き出された。ビチャビチャと水音を立てながら、地面を広がっていく。全てを吐き出し終えてもなお、吐き気が治まらない。

 

「ひ、ぃ……」

 

最早、そこに魔王を完遂する人形の姿はない。彼女は確かに強かった、確かに冷徹な思考で、一切の情はなかった。だが、心がないわけではなかったのだ。

 

生まれたばかりの少女には、経験も、誇りも、意地も、勇気も、強固な意志もなかった。心が折れてしまうのは必然である。一人の哀れな小娘がそこにはいた。

 

そして、彼女は背を向けて逃げ出した。あの邪悪から少しでも遠くに逃げたくて。

 

 

 

 

 

一年後。彼女は諸国を彷徨い続けていた。最早その目に生気はなく、小さく縮こまりながら世界を放浪し続けていた。肉体はエネルギーを効率的にコントロールしていたらしく、この一年間飲まず食わずでも死ななかった。

 

(私は、何のために生きている……)

 

魔剣も手に入れられず、心は折れ、挙句魔剣より生まれたものに怯えて逃げ出した。使命を果たせず、失ったのだ。自らが生まれた唯一の理由が消し飛んだ。生きる意味を失った。

 

人間は、それでもなお三大魔王へ抵抗した。大国一つが滅びても、彼らは逞しく生きていた。生み出される邪竜たちにも屈せず、最後の生存圏を死守しながら必死に歯を食いしばっていた。

 

彼女には、それができなかった。

 

(あの王子は、どうして対峙できたのだろう……)

 

先日あった事を思い出す。魔剣との繋がりがあった彼女は、必然三大魔王との繋がりも残っていた。そして、見たのだ。父親を裏切り、三大魔王の一人、ジャンヌ・ダルク・オルタに降伏を申し出たのだ。自国民の安全を保証することと引き換えに。

 

三大魔王の一人と、唯一取引をした者。怖かったろう、恐ろしかったろう。自分を遥かに上回り、気紛れで国を滅ぼせる相手を前にして、それでも彼は取り引きを持ちかけ、成功させた。逃げ出した自分とは大違いだと、彼女は自嘲する。

 

(ああ、ああ……私は、塵芥にも等しいじゃないか……)

 

赤薔薇は、最前線に防衛を敷いて生存圏を守護し、人々を庇護している。

 

最後の魔王は、その赤薔薇を補佐しながら、必死に打開策を考え続けている。

 

儚き王女は、誰かの為に役立ちたいと奮い立ち、前線で戦い続けている。

 

善良な姫君は、強く頼もしき英雄を迎え、成長しうる可能性を得ている。

 

平原の長は、数少ない精鋭たちとともに邪竜を撃退し、平和を願っている。

 

凡俗な王子は、人類と父を裏切ってまで、弱き人々のための国を治めている。

 

(私は、その誰一人にも届かなかった……)

 

赤薔薇の如き強さも、魔王の如き知恵も、王女の如き心も、姫君の如き才気も、長の如き優しさも、王子の如き意地もない。

 

(何も、私には何もなかった……)

 

パタリと、彼女は倒れ込む。最早、気力が尽きた。蓄えられていたエネルギーも底をついてしまった。

 

(……もう、どうでもいい。このまま朽ちてしまいたい……)

 

目をゆっくりと閉じる。何の意味もない生だった。その生涯もたったの一年、余りに惨めが過ぎる。だが、生き恥をさらし続けるよりはいいかと、受け入れる。

 

最後に聞こえたのは、誰かが呼びかける声だった。

 

 

 

 

「……あ、れ」

 

もう開かれることはないと思っていた目が、再び開かれた。最後に倒れていたのは土の上だったはずだが、今はベッドに横たわっている。上半身を起こし、彼女は周囲を見渡す。

 

(どこだ、ここは……)

 

「あっ、やっと目を覚ましたんだね!」

 

「ヒッ!?」

 

急に扉が開かれ、誰かが飛び込んでくる。思わず悲鳴が漏れ、ビクリと体が動いた。

 

「あ、ごめんね? 驚かせちゃったかな?」

 

「だ、だいじょう、ぶ……」

 

耳をしょんぼりと倒しているのは、見覚えのある獣人。平原の広がる国の女王が目の前にいた。名前は確か、サーバルだったかと彼女は思い出す。

 

「びっくりしたんだよー? 国境の近くで、貴女が倒れてるのを見つけたの」

 

「え、あ……え、と」

 

「いいのいいの、無理に理由なんて言わないで。きっと何か事情があるんでしょ?」

 

そう言いながら差し出されたのは、器と匙。中には野菜と干し肉の入ったスープだ。

 

「お腹すいてるでしょ? いっぱい食べて、元気にならなきゃね!」

 

「――――っ!」

 

手渡された食器を受け取り、スープをかき込んだ。温かいスープはじんわりと胃を、体を温め、活力を体へ供給する。無心だった、無心にスープを飲み干した。少ししょっぱいスープ、それが今の彼女には涙を流すほどのご馳走だった。

 

あっという間に飲み干し、涙としゃっくりでせぐりあげてしまう。

 

(温かい……)

 

こんな気持は初めてだった。彼女は試験管から生まれたものだ、創造主である父はいても母はいない。彼女は温もりを知らなかった。

 

「うぅ、ひっく……」

 

「よしよし、辛かったんだね。いっぱい泣いて、全部発散しちゃおっか」

 

頭を優しく撫でられる。その温もりに、彼女の心は決壊した。

 

「うああああぁぁぁぁぁ……!」

 

サーバルに抱きしめられながら、彼女は暫し泣き腫らした。

 

 

 

 

 

彼女はひとしきり泣いた後、すべてを話した。自らの成り立ちも、製造目的も、そして逃げ出したことも。

 

「私は、アルトリア・ペンドラゴンにはなれなかった……私は、作られた目的を失ったんだ」

 

「そっかー……」

 

「……幻滅しただろう? 私は数多の命を犠牲とし、その屍の上で生まれたのに、使命すら果たせなかった。あまつさえ、力を持っていながらより強大なものに怯えて逃げ出したんだ」

 

彼女の顔が暗くなる。辛かった、胸の内を全て吐露して楽になりたかった。だが、こんなことを知られれば幻滅されることぐらい分かっていた。

 

「ううん、そんなことないよ!」

 

しかし、サーバルが返した言葉は彼女が予想もしていなかったものだった。

 

「な、なん、で……」

 

「だって、オルタちゃんはまだ生まれたばかりなんでしょ? 辛いことも悲しいことも、全然知らなかったんだから。逃げ出しちゃっても仕方ないなって思うな」

 

彼女はまだ、何も知らない。人生の酸いも甘いもまだまだ知らないことばかり。赤ん坊と一緒なのだ。

 

「それが悪いことだと思ったなら、反省して次に繋げていけばいいんだよ。オルタちゃんの人生はこれからなんだから!」

 

「でも、次に倒れた時はどうする……その次だって……!」

 

「その時は、嫌なことを全部吐き出して、美味しいものをたっくさん食べよ! それから――」

 

――答えが出るまで、一緒に考えてみよっか!

 

「一緒、に……」

 

「一人じゃわかんないことも、何とかなるかもしれないよ!」

 

それは、彼女が本当に誕生した日。誰かに想われ、誰かに認められた日。それが、彼女にとって初めて世界へ迎え入れられた本当の日だった。

 

 

 

 

 

そして、更に数年の月日が流れた。

 

「なんとしても食い止めろ!」

 

「負傷したやつは下がれ! 動けるやつは動けないやつを担いでいってやるんだ!」

 

「飛んでいる司祭級(ビショップクラス)を優先して撃ち落とせ! 奴らさえいなくなれば兵士級(ポーンクラス)は大きく鈍る!」

 

相変わらず三大魔王は健在で、邪竜にその生存圏を脅かされ続けていた。文字通り無尽蔵の量を誇る邪竜達は、前線各国へと流入し、踏み荒らそうとしていた。それはこの平原国家、ジャパリパークも例外ではない。

 

国境付近、鉱山地方の谷間に建てられた砦を、突如大規模な邪竜の群れが襲いかかったのだ。何とか粘っていたが、如何ともしがたい数の差によってジリジリと迫られてしまい、巨大な邪竜を止められないままでいた。

 

「隊長! 城砦級(ルーククラス)の接近を止められません!」

 

「マズイ、このままじゃ砦ごと……!?」

 

城塞へと一直線に向かってくるのは、城砦級の巨大な邪竜。その巨大な顎が開かれ、今まさに砦を丸ごと噛み砕かんとしていた、その時であった。

 

「ギュオオオオオオオ!」

 

邪竜が、突如悲鳴を上げながら大きくのけぞった。見れば、その前両足は寸断されており、収納していた邪竜たちを吐き出している。

 

「なっ、一体何が……!」

 

「隊長! 外壁の下に誰かいます!」

 

城壁から身を乗り出して下を覗く。そこには先程まではいなかったはずの、青い衣を身にまとった何者かがいた。

 

「あの姿、もしやエックス殿!? 戻られていたのか!」

 

「せやぁっ!」

 

マフラーと帽子で顔を隠した女性、エックスは手に持った剣を大きく振り下ろした。その一刀は、巨大な魔力刃を生み出して邪竜へと飛来し。巨大な城砦級を一撃で両断してのけた。いや、その中に含まれていた邪竜や、射線上にいた邪竜も巻き添えにしていった。

 

「す、すげぇ……」

 

「城砦級が真っ二つとは……」

 

兵士たちは、感嘆の声を漏らして目の前の光景を見つめていた。

 

(ふぅ、何とか間に合ったか……)

 

一方でエックス、かつてアルトリア・オルタと名乗っていた少女は内心で一息つく。彼女は名を改め、各国の前線を渡り歩きながらこの数年戦いを続けていたのだが、久々にジャパリパークへと戻ってきたところで邪竜の群れに襲われる砦を見かけたのだ。

 

(ええい、里帰りぐらい楽にさせろ邪竜共め!)

 

エックスはご立腹だった。何せ久々の帰国だったのだ、戦い詰めで友の顔を見たくなったから戻ってきたのに、なんでまた奴ら邪竜の顔なんぞを見なければならんのだと。

 

「全く、私以外の邪竜ホント死ね。……む、生き残りがいたか」

 

横たわる邪竜の中から、一体の異質な邪竜が這い出てきた。全身が無骨な殻で覆われ、突起からは火が噴き出している。

 

「騎士級(ナイトクラス)か、面倒な」

 

邪竜を統率していた前線指揮官は、他の邪竜が盾になったことで先程の一撃を躱したらしい。邪竜は唸り声をあげると、その図体に似合わない速さでエックスへと肉薄する。頑健な殻は、鱗を遥かに上回る強固さを持っているだろう。

 

「だが生憎だな、お前の弱点は分かっている(・・・・・・)」

 

彼女は襲いかかる邪竜へと駆け出していき、その交差する一瞬に首筋へと深々と剣を突き立てた。そして剣は、両者の勢いのままに邪竜の体組織を切り離していく。あとに残ったのは、哀れな骸をさらけ出す邪竜の姿と、剣を振って血糊を落とす少女だけだった。

 

「知能があるというのも問題だな。固有能力と高い知能こそ騎士級の真髄だが、そのせいで私には手に取るように弱点が分かる」

 

邪竜もまた、三大魔王の一人から生み出されたものであり、その血肉はある意味でエックスと同じもので構成されている。ならば、彼女がその魂を通じて思考を感じ取るなど容易い。

 

「騎士級を一瞬で……!」

 

「さすがは、『邪竜必殺(グラム)』の剣士だ……!」

 

兵士たちの声が聞こえてくる。邪竜も今ので最後らしく、襲い掛かってくるものはない。エックスは兵士たちから御礼の言葉を受け取ると、その場を後にして首都への旅路を再開した。

 

(さて、サーバルは元気だろうか。前に会ったのは一年前だったか?)

 

久しく会えていない友人を思う。人の温もりを教えてくれた、生きる目的を一緒になって考えてくれた偉大な友人だ。

 

『新しい名前?』

 

『ああ、私はもうアルトリアを継ぐ者でもなければ魔王を目指すものでもない。だから、心を新たにするため名前を捨てようと思う』

 

『そっかー……でも、新しい名前はどうするの?』

 

『私は、エックス(無銘)でいい。不明なもので、いい。私はもう誰でもない、誰にもなれないものだから』

 

過去の自分と訣別するため、名を改めた。そして未熟な自分のままではいたくないと、各国前線へと飛び出していき助太刀をするようになった。初めは恐怖もあったが、様々な経験は確実に少女を成長させていった。

 

(サーバル、私はまだ生きる目的を見つけられていない。だが、なぜかそれでいいと思っている自分がいる)

 

これから先、自分自身へとずっと問いかけることになるだろうと彼女は思っている。でも、今はそれが苦痛じゃない。相変わらず分からないことばかりで、辛いこともたくさんあるが、今は不思議とそれらを受け入れられる。

 

「……お腹がすいたな」

 

大立ち回りを演じたせいか、空腹を感じる。とりあえず、帰ったらあの塩辛いスープが飲みたいなと、エックスは思いを馳せた。




ダイスによるステータス
武勇:95(邪竜素体クローン+30(大天才ダイス)により125)
魔力:87(邪竜素体クローン+30(大天才ダイス)により117)
統率:13
政治:42
財力:32
天運:82
年齢:01

時間軸:魔剣物語AM(アフターモードレッド)の大魔王誕生少し前辺り、あるいは平行世界

人物背景
史上唯一、魔剣を完璧に制御しきった聖王アルトリアを目指して作成されたクローン。過去に魔王が生成した邪竜の肉を利用したことにより、偶然にもアルトリアの家系の細胞を取り込みアルトリアと似た姿を形成した。
ただし、完成したのは劣化版アルトリアであり性格も全くの別人。生まれたばかりであるため精神も未熟である。
後に名前をエックスと改め、諸国を渡りながら邪竜と戦い続けている。ジャパリパーク女王のサーバルとは友人であり、唯一頭の上がらない相手でもある。
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