魔剣物語外伝 語られざる物語   作:一般貧弱魔剣

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遠く語り継がれる、古の時代。かつて古竜と呼ばれていた者たちによって支配されていた大陸に今、彼らの姿はない。強大な力を有し、永遠不滅の魂を持っていた彼らがなぜ消え去ったのかと問われれば、それは子供でも知っている話だと笑われてしまうかもしれない。

 

古竜戦争、それは大陸全土を巻き込んだ凶悪なる謀略より始まった大戦争だ。古竜最古にして最強、最悪とも呼ばれたニコル・ボーラスによって引き金を引かれたそれは、多くの戦いと悲劇を生み出した。

 

だが、それを終結させた者がいた。善なる竜王バハムートの祝福を受け、その手に『聖剣』を携えて、狂乱する古竜を尽く打ち倒した伝説的人物、『聖王』である。清廉にして潔白、崇高にして最優。才色兼備とはまさにこれ、黄金とはまさにそれであると彼女は謳われた。

 

ドラグナール大陸がいかにして人間の手に落ちたかと問われれば、それは『聖王』によるものであると、人々は言うだろう。

 

「まあ、後世の評価は凡そこんなものであろうよ」

 

「美化されすぎじゃないですか!?」

 

「戯け、言ったはずだ。強すぎる光は多くのものを照らすが、それ以上にその目を眩ませる。貴様はそういうものとなったのだ、これも避け得ぬことよ」

 

「いやいやいや、私はそこまで言われるような人間じゃないですし……」

 

「オイラはいいと思うけどなぁ」

 

ある国、とある場所。貴賓客を饗すために用意された屋敷、その部屋の一角に一組の男女と亜人らしき者がいた。

 

「吾輩の見解は大体そのようなものだ。よかったな、お伽噺の英雄殿?」

 

「むむむ……」

 

「アルトリアは十分頑張ったんだし、少しは報われてもいいと思うぞ」

 

「然り。苦難の旅路の果てにあるものは、それ相応の報酬であるべきだ」

 

難しい顔をしている彼女はアルトリア・ペンドラゴン。史上最大の戦い、古竜戦争を終結させた英雄にして勇者。何者にも語られぬ"星の剣士"すら打ち破った、人類の最高峰である。

 

「何が不満だ、貴様の選んだ道であろう?」

 

「それは、そうですけど……」

 

「ならば胸を張るがいい、貴様は確かに偉業を成した。お前がよく思おうが悪く思おうが、誰も否定はできぬ。貴様自身でさえもだ」

 

「アルトリアは、もうちょっと自信を持っていいと思うぞ?」

 

彼女を諭すのは、灰色のローブに身を包んだ老人。体格はやや背が高く、痩せぎすな印象を受ける。横にいる亜人種のように見える者は、子供ぐらいの背丈をしていた。

 

「謙遜は美徳であるが、過ぎれば醜悪よ。貴様の誇りは虚飾ではないだろう?」

 

「……分かりました、これ以上は駄々をこねる赤子と同じ。私が討った者たちへの侮辱でしょう」

 

「その素直さは美点だ、努々忘れるなかれ。諫言に耳を傾けぬ王は国を傾ける」

 

「……やはり、ここにきて正解でした。私はまだまだ学ぶことが多い」

 

アルトリアがここへとやって来たのは、彼に意見を求めるためだった。彼女は王となり、政を行うようになったのだが、それが正しくできているか不安であった。また、自分が王として民草からどのように思われているかも気になった。

 

それを確かめるべく、彼女はそういったことで相談できる相手の元へとやって来たのだ。即ち、彼女の眼の前にいる男の元へ。

 

「師よ、有難う御座いました。マーリンに王としての教育は施されましたが、治めるための心得ごとはやはり貴方に聞くべきですね」

 

「……頭を下げなかったのは及第点だ」

 

「あ、そこも見てたんですねやっぱり」

 

前回訪れたとき、お礼とともに頭を下げたときに怒られたことを思い出す。王たるものがたかだかその程度で頭を下げるなと、さんざんお説教をされたのだ。それを覚えていてよかったと、アルトリアは心中で胸をなでおろした。

 

「今は王で、優れた教育を施されたとはいえ、貴様もかつてはただの小娘。それが偶然にも資質があったに過ぎぬ」

 

「……はい」

 

「だが、貴様は民より求められた。ならば存分に王権として奴らを使ってやれ。貴様も彼奴らも同じ人間、利用しあってこそよ」

 

「そこはせめて信頼し合うとか言うべきだとオイラ思うぞー」

 

さて、既に民衆から尊崇の念を受ける大英雄アルトリアと忌憚なく話をするこの男は何者であるか。彼はアルトリアの政治における師であり、彼女とともに大陸を旅した同行者の一人でもあった。

 

隣りに座って菓子を貪っているのは、今となっては最後の古竜であり善なる竜王、バハムートの変身体。アルトリアを見出し祝福を与え、共にニコル・ボーラスを討ち取った彼は、戦争の終わった今余計な力は必要ないと力を抑えており、それによって今の姿となっている。

 

「旅でも散々見てきただろう、人とは業を背負った生き物だ。清濁双方が揃ってこその人よ」

 

「ジジイは汚れ過ぎなんだよ、人はきれいなものだって確かにある。それを見せてくれたのがアルトリアだったしなー」

 

「……そうだな。国すら失った我輩に場所を与えてくれたことに、感謝はしている」

 

男はかつて、この王国があった場所にて政治屋をしていた者であった。古竜の一体が暴れたおかげで国が滅び、国土は荒廃した。奉仕する国がなくなった彼は、賢者の真似事をしながら放浪していたが、それを聞きつけた魔術師マーリンによって拉致されたのだ。

 

最初は教えるのを嫌ったのだが、最後には根負けしてしまい、結果的には彼女に同行することとなってしまった。どうにも、アルトリアは押しの強い娘であった。

 

(あの小娘が、よくぞここまで賢しくなったものよ)

 

馬鹿ではないが、まだまだ精神的には幼さの残っていた彼女がこうして王らしい顔つきになっていることに、男は感慨深いものを感じていた。

 

「ところで、食事と運動はしっかりされているんですか? また痩せたように見受けられますが」

 

「食事は吾輩の数少ない娯楽よ、言われずともだ。それから運動なぞこの歳でやる必要もなかろう、既に老いた身だ」

 

「もう、貴方はひ弱なんですからせめて体を動かすぐらいはしないとダメじゃないですか。旅路でもすぐにバテていましたし、私達程とはいいませんがもっと鍛えるべきではないですか?」

 

「舐めるなよ、吾輩は元々貴様らどころか一般兵相手ですら瞬殺されるクソ雑魚だ。今更鍛えても一分も強くなることはない自信がある」

 

「それ誇らしげに言うことじゃないですよね?」

 

理知に富んではいるが、アルトリアは割りと直線的だ。嫌味のない真っ直ぐさは稀有なものだが、どうにもパワフルが過ぎるのは困ったものだと彼は内心で嘆息した。

 

「少しは体を厭うようにしてください、私にはまだまだ貴方が必要なんです」

 

「最近は寒さも厳しくなってきたからな、せめて体は温めるようにしとけよー」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

二人が屋敷を出た後、男は椅子の背もたれに寄りかかりながら深呼吸を一つした。

 

「まだ必要、か。アルトリアよ、お前は既に我輩を超えたであろうに」

 

政治屋として、必要なものは全て叩き込んだ。もう勘弁してくれと泣き喚こうが机に縛り付け、詰め込めるまで詰め込んでやったなと男は回顧する。今となっては、善政を敷く彼女に負けたと正直に言えるだろう。

 

(時代はもう新たな兆しを見せ始めている、老いし者にはついてゆけぬであろう)

 

この大陸に訪れた、久方ぶりの平和。もう十分に享受し、十分に働いた。

 

(……無駄に生き延びたかと思ったが、我輩にとっての天命とはこれであったのかも知れぬな)

 

まぶたを閉じれば、今も鮮明に思い出せるあの日の悲劇。古竜が襲いかかった恐怖の夜。天は赤く燃え盛り、空が厚い雲に覆われていたのを覚えている。

 

逃げまどう民、地獄のような光景。城壁が砕かれ、住家が焼かれ、夥しい人々が死んでいった。ブレスに巻き込まれ、悲鳴を上げる間もなく焼かれてゆき。その中に、彼の妻や息子もいた。

 

夜が明け、目を覚ましたときに残っていたのは自分と幾ばくか生き残った市民、そして瓦礫となった街であった。王城も崩れ去り、王族は全て息絶えてしまった。聡明な王も、将来を期待した王子も、儚くも気丈であった王女も。

 

(生きがいなどとっくに失ったと思っていたのだがな……)

 

残された住民をなんとか隣国へと避難させた後、彼は瓦礫の街で一人何をすることもなく佇んでいた。幸いにも貯蔵していた保存食があったため生きるのに苦労はなかったが、生きることそのものが苦痛になり始めていた。

 

だがこのまま死ぬのだけは納得できなかった。生き残ったのであれば、その生命をやすやすと捨てることはできない。それが、生き残った者の務めだと。彼は街を離れ、放浪しながら人々へ助言をするようになった。それらは噂となって広まり、やがて彼は賢者と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

「やあ、君が噂の賢者くんだね?」

 

ある日、花の匂いを纏った男が現れた。普段やってくる農民や騎士、或いは魔術師のどれとも違う雰囲気をしていた。

 

「……世間ではそう呼ばれているらしいな。して何用か、我輩に知恵でも借りに来たかね、『花の魔術師』殿?」

 

「おや、僕のことを知っているんだね」

 

「伊達に長生きはしておらんよ、我輩の耳は遠く千里先の情報とて聞き逃さぬ」

 

政治家として、世間の情報は敏感に察知し、どれほど微かな情報であれ逃さぬようにしていた。染み付いた癖というものは、早々簡単に抜けるものではなかったらしい。

 

「お察しの通り、僕はマーリンその人だよ。君が人々へと助言をしながら彷徨っていると聞いて、興味を抱いてね。ちょっと話でもしようかと思って来たんだ」

 

「話、だと?」

 

「ああ、質問と言うべきだったかな。君はなぜ、人々を教え導くんだい?」

 

「……それが我輩の成すべきことだからだ。生き残った我輩の務めであるとな」

 

彼の回答に、マーリンは期待はずれだったかと内心で肩を落とす。彼には目の前の老人が、国を失ったために生きる目的をただ無理やり自分に言い聞かせているのだろうと思えたからだ。

 

「成すべきこととはなんだい? もう君の国は滅んでしまったというのに」

 

「我輩は確かに国を失った。だが民へと奉仕する身であったことまで忘れたつもりはない。我輩が助言をするのは、人の営みの中で苦悩する者の問題を解きほぐし、より良き方へと導くためだ。それこそが成すべきことよ」

 

「それが徒労に終わるものだとしてもかい?」

 

「そうなるかもしれぬ。我輩など、人間全体から見れば小さな波紋を起こすだけの小石よ。だが、それがやがては大きな波へと変ずるかも知れぬ。次の悲劇を防ぎ、次の痛みを乗り越える一助となるかも知れぬ。それだけで、十分な理由となる」

 

成る程、とマーリンは感心する。思っていたよりもこの男は面白いかもしれない。ならば、次の質問にどう答えるか試してみることにした。

 

「では、今の悲劇をどうする? そんな小さなことを積み重ねてもどうにもならないと思うけどね」

 

「前提からして違うな。人は小さくか弱い、誰もが強くあることはできぬ。できうることなど、それこそどれも小さなことばかりよ。だが、それら小さきことこそが大切なのだ」

 

「へぇ……」

 

「人は思いやる心がある、一方で人を貶める悪意がある。どちらも必要で欠けてはならぬし、どちらも尊ばれるべきものだ。それらすべてを以て人々は歴史を積み重ねたのだからな」

 

思いやる心は誰かを救い、悪意は害を見出す。生きるうえで無くてはならないものだ。善に寄り過ぎず、悪に傾き過ぎず。人間はそれらに苦悩しながら戦い、勝利しては敗北した。

 

「人はどうしようもないほどに愚かではあるが、学び反省し、信頼することができるものと我輩は信じよう。そして我輩の起こす小さきことが、やがて誰かを救うと信じよう」

 

薄れていた興味が、沸々と戻ってくる。奇しくも、その回答は彼が見出した少女のそれと似ているところがあった。マーリンはこの男を彼女へ引き合わせればどうなるかが気になった。

 

「……ふぅむ、これは想像していた以上の当たりを引いたかもしれないな」

 

「何?」

 

「君、ちょっと私についてきてくれないかい? 是非会って欲しい人がいるんだ」

 

「……断る。我輩は道楽に付き合うほど酔狂ではない」

 

男は花の魔術師が、一人の少女を弟子にしたという情報を掴んでいた。恐らくはそれに引き合わせる腹づもりなのだろう。他者へと知恵を貸すのは構わない、だが下らない道楽に付き合ってやるほど暇ではない。だから彼は断った。

 

「成る程、じゃあ仕方ないな」

 

「ああ、それ以外の用がないならば早く……」

 

「ちょっと強引な方法を取らせてもらおう」

 

瞬間。マーリンの展開した魔術が男を絡め取り、一瞬で拘束を完了する。そしてマーリンが何らかの呪文を唱えると同時に、二人は高速で空を駆けていった。

 

 

 

 

 

「というわけで、君の師となれる人物を連れてきたよ」

 

「いやいやいや、これどう見ても拉致じゃないですか! というか死にかけてるじゃないですか!? お爺さん、しっかりしてください!」

 

超高速の空の旅から十分程。目的地に着いた彼は低温と疲労で虚ろな目になっていた。少女はマーリンに拳骨をかまして彼に回復魔術をかけるように言った。

 

「酷い目にあった……」

 

「すみません、マーリンには私からよく言って聞かせますんで……!」

 

「あたた、最近僕の扱いが雑じゃないかなアルトリア?」

 

「貴方が問題ばかり起こすからですよ、ご老人をあんな方法で拉致するなどよくないことです」

 

アルトリアと呼ばれた目の前の少女を、男は観察する。彼女が、恐らくは噂に出てきた魔術師の弟子なのだろう。性根は真っ直ぐなタイプと見え、凛とした佇まいは独特のオーラすら感じる。

 

「しかしだね、彼に一度断られてしまった以上はこうする他なかったんだ」

 

「むしろそこで諦めるべきでしょう!?」

 

「いいや、そうもいかないんだ。彼は君に高度な政治や交渉事、そして心構えを教えられるだろう人間だ。この大陸を見渡しても彼ほどの人物はそういないんじゃないかな?」

 

「……貴様が教えればいいことだろう、花の魔術師」

 

「生憎、僕は魔術や戦い方、或いは知恵を貸すことはできても、人間の感情を理解して察したり、その機微を見て交渉するといったことは不得手でね。かといってそれらをおざなりにすることは、僕らの目的上できないわけだ」

 

意外な答えだ、と男は思った。正しく真の賢者と言うに相応しいだろうこの魔術師が、そういったことが苦手であるなど。

 

「一応別の宛もあるにはあるんだけど……」

 

「ならばそちらにすればよいではないか」

 

「彼は今忙しくてね、とてもではないが頼るのは躊躇われるんだ。何せ『黒衣の大賢者』様だからね」

 

想像以上の大物が出てきたことに、男は驚いた。ナザリック大地下墳墓の長、恐らくは魔術師でも最強の一人でありまさに大賢者と呼ばれるに相応しい智謀の持ち主。交渉事で一度だけ会ったことはあったが、その威容は彼でさえ圧倒された。

 

「尚更、我輩を選んだ理由が分からん。それだけの伝手があれば、もっと協力的な相手を見つけることなど容易であろうに」

 

「君ぐらいなんだよ、私情を挟まずに彼女を教育できるのは。こう言っては何だが、君は既に亡国の民だからね。下らない政治闘争や国への奉仕を強制するなんてこともないだろう?」

 

「……成る程な」

 

しかし、だからといってそれで納得できるかといえば話は違う。

 

「そこの少女は、正しく大器であろうよ。だが、彼女は導き手である。自ら壁を打ち砕き、先頭を征く者である。我輩の助言など必要としない王の気質を持つ者である」

 

彼女は未完の大器であるが、しかしその完成には手助けなど必要ない。彼の見立て通りならば、彼が手を貸す理由がないのだ。

 

「完成の見えるものなど詰まらぬだけだ、手を貸すというだけ無駄というものだ。ならば市井の人々へと教え導くほうが余程有意義というもの」

 

「では君の見立で、将来彼女は古竜を屠るに足る者と成りうるかな?」

 

その言葉に、男は目を見開いた。無謀、最初に頭をよぎったのはその言葉。古竜は人知の及ばぬ領域に座すある種の極点だ。それに挑むのは正しく無謀といえる。だが、男はアルトリアを一瞥して顎に手を当てた後。

 

「……できるかもしれんな」

 

肯定の意を述べた。

 

「おや、意外な回答だね。てっきり矮小な小娘には無謀なことだとでも言うと思ったけど」

 

「彼女を直接見ていなければ、そう言ったかも知れぬ。彼女はその無謀へ挑むに足る気質を有している」

 

「気質、ですか?」

 

彼らの話を聞いていたアルトリアが、老人へと尋ねる。

 

「貴様には意志がある、己の挑戦を以てこの悲劇に終止符を打つという意志がその瞳に見える。ただの小娘にそのような目はできん」

 

「ですが、やはり無謀であることには変わりないのでしょう?」

 

「然り。古竜とは即ち災害、打倒など不可能も同然。だがな、不可能に挑むのもまた人の業よ。それが例え億千万の果てだろうとも挑戦するのが人よ。そして、その奇跡を引き寄せる者とている」

 

「私は、その奇跡を掴むことができるでしょうか?」

 

「知らん。だが、貴様にはその資格がある。ならば思うままにやってみるのもいいだろうよ」

 

知らぬ間に助言をしてしまったことに、内心で後悔した。どうにも、年を取ると若い者に講釈を垂れてしまうのは悪い癖であると反省する。兎に角、これ以上彼らに付き合わされるのはごめんだと、踵を返して早々に立ち去ろうとする。

 

「……離してくれないか?」

 

「すみません、このまま別れるわけにはいかなくなりました」

 

裾を引いて手を振り払おうにも、彼女の細腕からは信じられないような力がそれを阻む。むしろ貧弱な老人である彼の方が、逆に引き摺られてしまう始末であった。

 

「貴方だけなんです、私達の無謀を笑わなかったのは! 旅を初めたばかりではありますが、仲間を求めても皆、私達を笑うか恐れて去ってゆくばかりだったんです! まして貴方のような賢人を逃がすわけには……!」

 

「ええい、知るか離せ!」

 

「はーなーしーまーせーんー!」

 

「やれやれ、強情だね君たちは」

 

その後。アルトリアがついに泣き落としまでしてきた辺りで老人のほうが折れ、彼女の師となる事を了承した。加えて、何故か彼も旅に同行する羽目になったが。

 

 

 

 

 

「……眠っていたか」

 

懐かしい、というにはまだ新しい数年前程度の記憶。その旅路は険しいものだったが、彼女は不屈の意志でそれらを踏破し、時に仲間らに助けられながら、ついにはあの最強の古竜を討ち取った。まさに、輝かしいまでの旅路である。

 

「年甲斐もなく、心躍る旅であった……」

 

男はいくつになろうとも冒険心を忘れないものだと、かつて仲間の一人が言っていたのを思い出す。あの弓の名手は今、何をしているだろうか。

 

「……フ、もう死ぬのも悪くはないと思ったのだがな」

 

全力で駆け抜けていった彼らを思い出してしまっては、仕方ない。後もう少しだけ、頑張ってみるのもいいかもしれないと、彼は腰を上げる。外は、もう夜を過ぎて空が白み始めている。

 

「まあ、とりあえずまずは……」

 

――運動でも、するか。

 

竜の時代の終わりに、二人の賢人があった。一人は『花の魔術師』、もう一人は『黒衣の大賢者』。いずれも『聖王』を助成しその旅路を守ったとされている。だが、後年一つの疑問が大きな波紋を生んだ。それは、『聖王』に政治を教えたのはどちらの人物であるかということだ。

 

『花の魔術師』は政治を苦手とする人物であったとされ、『黒衣の大賢者』が『聖王』と出会ったのは後々のことである。しかし、彼女は旅を始めた当初から交渉事を上手く纏め、仲間の意見をよく取り仕切ったという。ただの村娘であった彼女がそういった才に溢れる人物だったのか、或いは誰か別の師がいたのか。今なお判然とはしていない。




ダイスによるステータス
武勇:10 魔力:14 統率:12
政治:93 財力:28 天運:94
年齢:84

時間軸
本編時空より遥か以前、古竜戦争終結から数年程、あるいは平行世界

人物背景:古竜戦争で滅した国の生き残り。元は政治家だったが国が滅んでしまい流浪の身となり、民草へ知恵を授ける賢者紛いのことをしながら放浪していたが、花の魔術師に目をつけられてしまい強制的にアルトリアの政治における師となって同行。国家との政治的取り引きや交渉事などで活躍し、一般兵にも劣る弱さなのに何故か最後まで生き延びた老人。

彼の功績は、後年書物の焼失などで詳しい記述が消えてしまい、マーリンのものとして統合された。
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