2285年1月6日09時05分 アメリカ合衆国 コモンウェルス レッドロケット・トラックストップ コンコード支店
「クリア!」
地面から無数に飛び出してきたように見えたモールラットたちは、ようやく品切れになったようだ。
彼らはハダカデバネズミのミュータントであるが、犬ほどの大きさがあり、更に文字通りモグラのように地中を進んでこちらの背後から襲ってくる。
自分の射撃の下手さには驚いたが、同時にブレイク・アバナシー氏の射撃の上手さにも驚かされた。
「こちらもクリア、制圧できたようだな」
サンクチュアリ周辺だけでも治安を回復したいという俺の要望に、アバナシー氏はこちらが驚くほど前向きな姿勢で賛同してくれた。
今の我々はたったの五人と一機、一個分隊にも満たない武装集団であるが、十分な武装と防具、速やかに拠点化を行えるシステムと物資の支援を受けた集まりだ。
その戦闘能力は、この連邦という地域で見た場合、それもごく限られたエリアだけで見た場合、一個中隊に匹敵すると個人的には思う。
実働戦力である彼と俺が今ここで新たな居住地の制圧に乗り出している間にも、タレットと防壁で守られたサンクチュアリでは、アバナシー家の人々が食糧の増産に励んでいる。
連邦各地を彷徨う人々を呼び寄せるラジオビーコンの設置には一家への説得が必要であったが、それでも設置できた以上は人員の追加を期待できる。
人間のふりをし、殺害して特殊なコンポーネントを見つけない限り識別のできない危険な人造人間『シンス』が来てしまう脅威はある。
だが、その危険性を加味しても、働き手の追加は必要だ。
「すぐにワークベンチを起動させましょう」
少しだけ様子を伺った後、速やかに拠点化のための行動を開始する。
Vault-Tec社の生み出した簡易G.E.C.Kとでも呼ぶべきワークベンチを探す。
いや、この居住地で置かれている場所は知っているが、不信感を抱かせないためにも探している振りは必要だ。
ワークベンチさえ起動させる事ができれば、影響範囲内の俺は無敵の存在だ。
防壁を建設し、衣食住を用意し、電力系統を整備して防衛設備を稼働させることができる。
「ジョン、あったぞ。これだろう」
二手に分かれる際にワークベンチがある方を探すように示した甲斐があり、アバナシー氏は速やかにワークショップを発見してくれた。
赤いペンキで彩られた、旋盤と万力と作業台が合体したように見えるそれは、荒廃した世界において生存のための拠点を設けるための切り札だ。
「アバナシーさん、ありがとうございます!」
すぐさまピップボーイを用いてアクセスする。
恐らくだが、俺や一年後に出てくる主人公が装備している物は特殊仕様なのだと思う。
誰でも気軽にこのレベルのDIYが楽しめたのであれば、今のボストンはとうの昔に復興を完了していなければおかしいからな。
それはさておき、あっさりと認証が完了し、ピップボーイの画面が建設作業のための表示に切り替わる。
「よかった、こいつはまだ生きている」
そうに決まっているのだが、説明は必要だ。
アバナシー氏は今のところこちらの指示に従って行動してくれているが、明らかに怪しい素振りを見せ続ければ、確実にどこかで不信が頂点に達するタイミングを迎える。
ゲーム本編でたまにやらかした、誤射などのこちらに落ち度がある理由で住民が敵対化し、それをタレット防衛網が速やかに鎮圧するという悲劇は繰り返したくはない。
まあ、バグで何時間やっても拠点開放クエストが発生しない場合の非常手段は例外だが。
「あとは廃材をかき集めれば何でも作れるんだったな?
まあ、サンクチュアリの様子を見れば疑うまでもない事実なんだろうが、Voult-Tecっていう会社はトンでもない存在だったんだな」
アバナシー氏の理解力に感謝だ。
あと、Vault-Tec社といえば何でも納得してもらえるこの世界にも。
「システム起動を確認。
アバナシーさん、防壁を立てるのでその間の護衛をお願いします」
実際の作業を行うところは見せたことがなかったため、念のために説明しつつ護衛を依頼する。
「ああ、任せてくれ。
そのための銃も貰っているしな」
供与した銃を持ち上げ、笑顔で答えてくれる。
実にありがたいことだ。
「とりあえず、斜面側を全部防壁で囲って、それから周囲にも配置していきます」
トレーラーや車両の残骸が転がっている方へ足を進める。
「とりあえず、邪魔な廃材を消します。
驚かないでくださいね」
配慮に配慮を重ねてから、残骸にピップボーイを向ける。
「分解」
声に出す必要はないのだが、アバナシー氏への配慮で声を出しておく。
その瞬間、残骸たちは一瞬で消滅する。
あらかじめそうなるので驚かないように言っておいたアバナシー氏の両目が見開かれ、油断なく構えられていた銃がだらしなく地面へと向けられる。
だが、そんな当たり前の反応を楽しんでいる時間はない。
「戦前の技術って本当に凄いですよね。
こんなものを作れる技術力で戦争をするんですから、世界が滅んでしまうわけだ」
余計なことを考えさせないように声をかけつつ、作業を継続する。
斜面というより小さな崖とでも呼ぶべき周囲に次々と防壁を立てる。
土嚢要塞というMODで追加された陣地用防壁だ。
ゲーム中は木製の防壁で囲っておけば問題なかったが、もしある程度現実的な要素が反映されてしまうのであれば、襲撃の時にあまり面白くないことになってしまうからな。
「ポン、ポン、ポンと。
はい、完了。斜面側はこれでいいですね」
どこからどう見ても立派な防壁だ。
重火器でも持ち出さなければこいつをどうこうすることは出来ないだろう。
「続いては、高所足場を置きます」
これはDLCで追加されたものだ。
簡単に表現するのであれば、ビルの外壁工事で外側に張り巡らされるあれだ。
がしゃり、がしゃりと金属音を立てて足場が出現する。
この上に板を敷いて、トドメだ!
「ヘヴィマシンガンタレット!」
繰り返しになるが、音声入力の必要はないし、そもそもそんな機能はない。
でも良いじゃないか。
Fallout4をやったユーザーの実に10割が、クラフトモードでタレットを設置した瞬間に笑みを浮かべたという俺調べの調査結果もある。
それが目の前で、自分の手で行っているのだから、思わず調子に乗ってしまっても問題はない。
「お、おい、タレットも作れるのか?」
アバナシー氏の驚きは良く分かる。
今までも十分驚きっぱなしだっただろうが、確かにタレットはちょっと別格だ。
これは、重要な防御拠点に特別に設置するようなもので、戦前から稼働し続けているものを除けば、ごく限られた数量しか利用されていない。
それを、俺は今、なんでもないように生み出したのだ。
正確にはピップボーイが、であるが。
「制限や限界は色々ありますが、その範囲の中なら何でも出来るのがウリなんだそうですよ、この装置は」
嘘は言っていない。
ワークショップが開放されていて、戦闘中ではなく、必要な材料があって、決められた範囲の中で、建設を許可されているものだけ、俺は建築行為を行うことが出来る。
とはいえ、MODてんこ盛りの状態は反映されているはずなので、建築範囲は広がっているだろうし、建築高度制限も解除されているはずだ。
作ることが出来るもの自体も、DLCやMODで追加された様々なものがある。
「なるほど、その腕に付いているのは大した装備なんだな」
俺の腕に付けられたピップボーイを、アバナシー氏は羨望の眼差しで見る。
無理はない。
どう考えても魔法の道具だ。
しかも、拾って腕を通して、留め金を絞めれば動き出す程度の入手難易度だ。
そもそも見つからないという点を除けば、連邦で生きていくためには随分と役に立つアイテムだろう。
2285年1月6日19時00分 アメリカ合衆国 コモンウェルス レッドロケット・トラックストップ コンコード支店
「俺たち以外に人がいない事を除けば、随分立派になったな」
この世界では珍しい電気による照明で照らし出された室内で、アバナシー氏はそう言った。
自画自賛になるが、彼の言っていることは正しい。
俺の知る限り、ダイヤモンドシティとグッドネイバー、そして生まれ変わったサンクチュアリを除けば、ここまで安全で快適な居住地はないだろう。
まあ、インスティテュートの本拠地はこれ以上だが、あれは例外だ。
「そうですね、なので人を呼び込みましょう」
そう返し、屋上へ通じる壁面貫通型送電管に繋がるスイッチを入れる。
このスタンドの屋上には、なんとなく思い付きで作った複合建造物がある。
複雑に組み合わせた足場、そこに設けられたヘヴィレーザータレット、MOD建造物の重機関砲タレット、サーチライト、そしてラジオビーコン。
完成した時には思わず唸り声が出たそれは、通電と同時に稼働音を奏でだす。
「あれ、本当に動いたんだな」
天上を恐る恐る見上げつつアバナシー氏が呟く。
敵対していないにもかかわらず彼が恐れを抱いた理由は予想がつく。
建設作業中にタレット防衛網に飛び込んできたレイダーたちが、悲鳴だけを残して肉片に変えられる姿を何度も見てきたからだ。
せいぜいが数門の一斉射撃でそうなるのであれば、十数門が敷地全周に睨みを利かせているアレが動けば、どんな酷いことが発生するかは想像に難くない。
「いやいや、敵対していない相手には絶対に撃ちませんから安心してください」
安心するように言い聞かせつつ、もともとこのスタンドに置いてあった無線機のスイッチを入れる。
もともとは電源を入れても一瞬起動するだけの物であったが、いつだかに入れたMODの効果で、ラジオビーコンから流されている内容が流れ出す。
<<こちらはサンクチュアリヒルズ自治体放送です。
当方は、生活を再建するための支援の準備があります。
当方は、善良な市民を受け入れる準備があります。
この放送に興味を持った方は、サンクチュアリヒルズ、もしくはレッドロケット・トラックストップ コンコード支店までお越しください。
繰り返します、こちらはサンクチュアリヒルズ自治体放送です…>>
ホロテープに吹き込んだ音声が自動で繰り返される。
民兵組織であるミニッツメンを名乗りたいところであるが、現段階ではクインシーの虐殺がまだ発生していない。
そのため、勝手に名乗ることは許されないだろうと判断したために怪しげな自治体名をでっち上げている。
こんな怪しげな放送につられて本当に人がやってくるのかはわからない。
だが、そこまで資源に困っているわけでもなし、やってみる価値はあるだろう。
「なあジョン、考えてみたんだが、ミニッツメンとコンタクトを取るというのはどうだろう?」
塔を見上げつつ考え込んでいると、アバナシー氏からありがたくない提案が寄せられた。
別に、年表のとおりに物事を進めたいと考えているわけではないのだが、残念なことに彼の提案に乗ることは出来ない。
「考えなくはなかったのですが、一つ大きな問題があります」
塔の完成度に思わず浮かべていた笑みを消してアバナシー氏を見る。
「広域無線でミニッツメンに来てくれと呼びかければ、こちらの防御力に不足があるという意味になります。
そうなれば、まず間違いなくレイダーどもがやってきます。
正直なところ、この防衛設備があればどうにでもなるとは思いますが、ガンナーが来てしまえばそこまでです」
臆病者と罵られても、これだけは出来ない。
レイダーであれば、数十人が相手でも何とか出来るだけの防御はある。
だが、ガンナーはダメだ。
MODが適応されている以上、奴らは爆発物やミサイルランチャーを装備しているはず。
そうなると、外周から順にタレットを潰され、最終的には突入されるという未来がありえてしまう。
「あー、なるほど、その可能性は考えていなかったな。
いいアイデアだと思ったんだがな」
忘れてくれと言い残して、アバナシー氏は歩哨へと戻っていく。
後ろ姿を見送りつつ、内心でクインシーの人々に詫びる。
具体的に何日に発生するかはわからないが、とにかく一つの街を狙ってガンナーの集団が動こうとしている。
そんな時に、こちらに注意が向くようなことをするわけにはいかないのだ。
命惜しさの情けない振る舞いを笑ってくれてかまわないので、どうか成仏してくれ。
2285年1月11日11時00分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード市街
「よし、これで東西の出入り口はそれぞれ一箇所になったな」
タレットたちの奏でるエンジン音の多重奏に聞き入りつつ、廃墟と廃墟の間に張り巡らされたコンクリート製の防壁を見上げる。
周囲には武装した入植者達が詰めており、彼らは安全確認が完了していない路地や建物を警戒している。
「疑っていたわけではないが、こうして見せられたというのに、未だに信じきれない自分がいるな」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにはミニッツメン大佐であるエズラ・ホリスが立っている。
もちろん彼一人ではない。
ジョッシュ、エマ、アンソニーといった、名前を聞いたことがある連中。
その武装の強さから考えるに、有象無象としか言いようがない一般ミニッツメン。
そして、もう一人。
「プレストン!あとはお前だけだ!
見張りはジョッシュたちと交代して挨拶に来い!」
ホリス大佐が声を張り上げる相手。
みんな大好きプレストン・ガービーである。
どうしてこうなった。