2285年1月11日11時01分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード市街
「プレストン・ガービーです、コモンウェルス・ミニッツメンのホリス隊に所属しています。
この度の非戦闘員の受け入れ、誠に感謝いたします」
敬礼する男性を前にして、内心だけでため息を漏らす。
クインシーで発生した事、正確にはこれから発生する事件を考えるに、今のミニッツメンには三つの問題がある。
一つ目、組織としての統制が取れていない。
彼らは連邦全体という規模で言えば、相当な人員を抱えている。
だが、それぞれは各指揮官が掌握できる範囲の部下を抱えて各地に点在しており、最大限好意的に解釈したとしても、戦力が無駄に分散している。
二つ目、装備が酷い。
主兵装は威力もなく連射能力に乏しい低改造のレーザーマスケット。
運が悪いとパイプライフル。
それ以外には何もない。
これで連邦の治安が守れるはずもない。
そして三つ目、最初のものに繋がるが、内部に裏切り者を抱えている。
ゲームをやっていた時の微かな記憶しかないが、クインシーの失陥は、たしかクイントとかいう奴がガンナーに通じていた事が大きな理由の一つはずだ。
そして、それ以外の部隊も、民間人の防衛を拒否するような振る舞いを見せているんだったな。
おいおい、護民という最後の一線すら捨ててしまうのであれば、それはもう単なる武装集団じゃないか。
「ジョンと申します。ただのジョンです。
よろしくお願いします」
表情だけはにこやかに右手を差し出すと、彼も笑顔を浮かべて手を差し出してきた。
愛想が良いのはありがたいことであるが、それはどうでも良いとして、現状を何とかしなくてはならない。
当初の計画では、Vault111が内部から開かれるその日までミニッツメンとの接触は避け、ごく限られた地域だけの安全を確保するはずであった。
だが、現状は予想外に多く押し寄せた総勢180名ほどの入植者たちと、それを護衛してきた大隊規模のコモンウェルス・ミニッツメンとの共同作業の真っ最中だ。
放送を開始してすぐに最初の5人が来た時、俺の顔に浮かんでいたのは本心からの笑みだった。
敵対的な人造人間であるシンスを見分けるためのサングラス(MOD装備)を身に着けているため、彼らが生身の人間であると即座に確認し、笑みを浮かべたまま受け入れを行えた。
一人ひとりの配置の話をしても仕方がないのでざっくりと言うと、彼らはサンクチュアリの警備および農作業の任務に就いた。
アバナシー家の人々ももちろん従来の仕事を続けてくれているが、拡大できるのであればそれを行わない理由は何処にもないからな。
それから数時間後、第二陣が来た。
今度は子供も含む18名。
やはりシンスはいない。
この人々は、サンクチュアリとレッドロケット・トラックストップに半数ずつに分けて配属となった。
一度に来た人数としては予想外であったが、来てくれた事自体は非常にありがたい。
何しろ、人手はいくらあっても困らないのだ。
例えば室内の清掃などといった住環境の整備。
排せつ物の処理、路上の清掃、倉庫内の整頓、食事の準備など、ゲーム内では省略されていた事柄全てへの対応が必要なため、人手は本当にいくらあっても困らないのだ。
そしてこの世界ではある意味最も重要とも言える警備業務。
ゲームのようにたった一人で24時間365日の間ずっと警備を行うなどという事はできないのだ。
交代要員が必要であるし、贅沢を言えば休養、訓練、配備というローテーションを組ませてあげたい。
居住地だけではなく、可能であればその間の交易路にもパトロールを出したいところである。
つまり、養うための基盤を設けるにしても、それを防衛するためにも、人手はいくらあっても足りない。
そして第三陣。
先に到着した人々の受け入れが完了する前に訪れた彼らは、驚くべきことに37名という大所帯であった。
幾つもの家族、採算度外視で護衛する傭兵、スカベンジャー、奴隷的な立場の荷物持ちからなるその集団は、マガジンを外した銃火器を空に向けてこちらへの合流を申し出てきた。
もちろん断る理由はないので受け入れたのだが、この時点で、ゲームであれば終盤レベルの人口が狭い居住地の中にひしめき合うこととなっている。
いや、正直に言えば、サンクチュアリヒルズ現実世界準拠バージョンは、これだけの人数を受け入れてもまだ農地の拡大が余裕でできる程度の面積を誇っていた。
しかしながら、それでもさすがにあと50人も来れば限界だろうと思う程度には上限が見えてきている。
そこへやってきた、50名超の避難民たち。
この時点で、俺が取れる選択肢は三つだけだった。
二つの居住地に高層建築物を用意する。アバナシーファームを制圧して整備する。そして、最寄りにある使えそうな廃墟を何とかして確保する。
この三つである。
高層建築物については、資材が不足しすぎているために断念した。
アバナシーファームの制圧については、いずれはやらなければならないとして、偵察もせずに突撃できるものではないので諦めた。
建設自体はすぐに終わるので良いのだが、俺とアバナシー氏以外に戦闘要員がいない現状で、積極的な戦闘はできれば避けたい。
そうなると、最後の選択肢となるわけであるが、ここで俺は致命的な間違いを犯した。
レッドロケット・トラックストップから近いコンコード市街は、ワークショップは無いものの、原型を保った建築物が多くあった。
もちろん、恐るべき殺戮生物デスクローが生息し、レイダー達が多く存在するという欠点はある。
だが、前者についてはこちらの防衛網までおびき出せば何とかなるという確信があったし、後者については時間軸上で考えるとまだ来ていないはずという思い込みがあった。
結論からいれば、デスクローはタレット防衛網まで誘導できたために瞬殺された。
見せ場らしいものは何もなかった。
そして、案の定レイダーたちはいなかった。
大喜びでMODアイテムのポータブルワークショップを設置し、市街地の制圧に取り掛かったのだが、そこで俺は恐るべき存在と出会ってしまったのだ。
手動クランクが取り付けられたレーザーライフルというハイテクなのかローテクなのかわからない銃を装備した、ボロボロの民兵服に身を包んだ集団。
コモンウェルス・ミニッツメンの大隊と、それに護衛された180名ほどの民間人たちである。
警報機代わりに設置したタレットが反応しないために至近距離までやってこれた彼らは、俺に対して民間人の引き渡しと、受け入れ準備が整うまでの護衛を申し出てきた。
極めて遺憾なことに、民間人の受け入れについてはリスクを承知で広域無線を発信する程にこちらが求めており、後者については、断ることが出来る根拠が存在しない。
俺が持っている原作の展開をできる限り壊したくないという勝手な考えを除いて、無料で護衛を申し出てくれる善良な人々の申し出を断るに足る理由が無いのだ。
そういうわけで、大喜びのブレイク・アバナシー氏に複雑な感情を込めた視線を送りつつ、想定外のミニッツメンとの共闘が始まってしまった。
「よろしく、ガービーさん。
このあたりを開拓しているジョンと申します。
ホリス大佐殿の部隊に護衛いただけるので、安心してこの場所の開拓を進めることができます。
最低限の防衛設備が整うまでの間ではありますが、よろしくお願いしますね」
量産品、と呼ぶには少しばかり頼りない民兵服を着ている連中とは異なる格好をした彼は、笑顔を浮かべつつも左手に持ったレーザーマスケットを手放そうとはしていない。
こういう世の中であることを考えれば、実に正常な思考である。
「それにしても、その、Vault-Tecワークショップ?だったか?
凄い性能だな」
建物の隙間や使う予定のない道路を封鎖するコンクリート壁、睨みを利かせるタレット、張り巡らされた送電網、こちらの警備要員が使用する装備を眺めつつ怖いことを言われてしまう。
原作での彼の様子からして、他意はなく純粋に感心しての言葉なのだろう。
だが、護衛についてきてくれたアバナシー氏と数名の入植者達がかすかに身じろぎをする。
彼らはフル改造された衣服にこれまたフル改造されたヘビーアーマーを装備し、フル改造されたアサルトライフルで武装している。
そのため、不幸にも戦闘になった場合、おそらくこの場にいるミニッツメンたちは皆殺しになるだろう。
おまけに、設置途中とはいえ、タレットによる防衛網もある。
下手をしたら、こちらは数名程度の死傷者で相手を圧倒できるかもしれない。
「おいおいプレストン。
それではまるで、彼の持っている道具にだけ興味があるみたいじゃないか」
こちら側の態度の変化に一部のミニッツメン隊員が気づき、一触即発に近い空気が流れたところで、苦笑しつつホリス大佐が会話に割り込んできた。
「申し訳ないな。こう見えて彼はまだ若いんだ。
とはいえ、これだけ立派な居住地を見れば、感心する言葉の一つぐらいは出てくるというものだ。
できれば許してやってくれると嬉しい」
このホリス大佐殿は、総体としては既に崩壊しつつあるミニッツメンの中で曲りなりにも一つの部隊を率いているだけはあるな。
全く逆らおうという気持ちがわいてこない。
「いえいえ、大佐殿の仰ることは良くわかります。
連邦の大きな緑の宝石とまではいかないものの、ここの安全さは結構なものですからね」
実際にはこの先の二つの居住地も結構な重防御であるが、それをわざわざ教える必要はない。
遠回りな謝罪をさっさと受け入れて、彼らには外周の防御でもやっていてもらおう。
「ひとまず、ビルを一つそちらの拠点として開放します。
内部には照明を付けて、いくつかの収納とベッドは用意しました。
護衛いただけるとは言っても皆さんにも休憩は必要でしょうし、ぜひご利用ください」
もちろん水は無料です、と付け加えることを忘れない。
本来であればMODで追加された生産設備から吐き出された豊富な酒類も振舞いたいところであるが、今の段階ではそこまでの手札の披露は控えておいた方が良さそうだ。
2285年1月15日09時30分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード市街 ミニッツメン臨時オフィス
「これは?」
ホリス大佐は卓上に置かれたそれを眺めてから口を開いた。
周囲からは物音ひとつしない。
「ミニッツメンの皆様の護衛に感謝しての、こちらからの報酬とお考え下さい」
こちらが提供したビルを臨時オフィスとして使用している彼らは、実によく働いてくれた。
タレットによる防衛網は、先日遂に完成した。
ヘヴィマシンガンタレットを主力とし、索敵装備代わりのヘヴィレーザータレット、決戦兵器としてのミサイルタレットまでを取り揃えたこれらは、驚異的な射程と破壊力で市街全域を完全に防備している。
もちろん、警備隊による巡回も行っているぞ。
彼らはブラザー・フッド・オブ・スティール、自分たちでBOSという略称を名乗るこの世界有数の戦闘集団ですら羨むレベルの武装をしている。
そこに豊富な弾薬と、優れた防具を身に着け、集団でタレットの防衛範囲内を巡回するのだ。
正直なところ、ここを落とすことのできる存在がいるとは思えない。
ティルトローター機のベルチバードが大編隊でやってきても叩き落せるし、パワーアーマーの大隊が襲ってきても同様だ。
生身の人間であれば、それがレイダーだろうとガンナーだろうと、もちろんミニッツメンであろうとも、寄せ付けることすら許さずに粉砕するはずだ。
「護衛に対する、感謝?」
ホリス大佐は聞きなれない言葉を確認するかのように、感謝という言葉を口にした。
どうやら、彼の部隊は随分と辛い目にばかり会ってきたのだろう。
まともな規律を持つ武装組織に護衛をしてもらえれば、普通であれば大なり小なりの感謝は示されてしかるべきだ。
だというのに、彼は不思議そうな表情を浮かべている。
「そう、感謝です。
確かに、今のこの町はいかなるものも寄せ付けないだけの防衛力を手にしています。
キャッスルを襲ったとかいう伝説の化け物が相手でも、全く問題が無いでしょう。
ですが、その防衛体制が整うまでの貴重な時間を、皆さんは稼いでくれました。
これに感謝の意を示せないほど、私は人間を辞めてはいませんよ」
苦笑しつつ、入り口に合図を出す。
様子をうかがっていた数名の入植者が、大きなボックスを持って次々に入室してくる。
「皆さんがレーザーマスケットを使われているので、ひょっとしたらこれは不要かもしれませんが、もし必要であれば遠慮なく持って行ってください」
ボックスが次々と床に置かれ、蓋が開かれる。
先ほどまでは静かだった室内が、俄かに騒がしくなった。
「コンバットライフル、サブマシンガン、もちろん拳銃、アサルトライフルやミサイルランチャーもあります」
もちろん弾薬も、と続けつつ、追加で運び込まれた弾薬箱の方を指す。
開かれたそこには、この世界で言えば宝石に匹敵する価値のあるピカピカの弾薬が詰め込まれている。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。
もちろん感謝を示してくれることはありがたい。
報酬をくれるというのならば喜んで貰う。
だが、これは少しばかり大きすぎる」
まったく、この大佐殿は随分と常識人過ぎるな。
だからこそ、長生きできなかったのだろう。
「どうせ拾い物です」
その言葉に大佐の表情は少し和らぐ。
「戦前の軍隊だと思うのですが、こんな街中に武器庫を作って放っておくとは、実にもったいない話です。
彼らは、よほどキャップが余っていたんでしょうね」
戦前の軍隊が遺していった手つかずの武器庫。
市街地の整備の中で発見されたそれは、一つの街を軍隊に変えてもなお余るだけの在庫があった。
そういうストーリーだ。
「ああ、気分を害さないで聞いてほしいのですが、正直に言ってしまえば、実はこちらの警備隊とスカベンジャー要員の全員に予備を渡してもなお余った。
そういうものです。
残しておいても無駄な火種にしかなりません。
ですので、どうぞご笑納ください」
俺しか入れないようにした秘密の工場で生産した新品であることは内緒である。
この先、いつになるかはわからないが、経済圏としてこの地域が機能するようになった時にはショップに並べるが、今は流通自体が存在しないのでこうして配る程度にしか用途が存在しないのだ。
ついでに言えば、調子に乗って完璧な製造ラインを作ったために、今ここにある武器弾薬は試運転でとりあえず作っただけのものに過ぎない。
まあ、真摯に防衛を続けてくれた、そしてこれから行く先で絶望的な籠城戦に巻き込まれることになる彼らに対しては、対価として十分すぎるものだろう。
だからこそ、変な後ろめたさなど感じずにさっさと受け取ってほしい。
「ありがたく、受け取らせてもらう。
困ったことがあったらこのフレアガンを使ってくれ。
近くにミニッツメンがいれば、必ず駆けつける」
これは俺が受け取ってもいいものなのだろうか悩むが、それでこのやり取りが終わらせられるのであればと思い受け取る。
正直な話、この街にいてこいつを使わなければならない事態が発生したら、ミニッツメンをいくら呼び寄せても弾除けにしかならないとは思うが。
「ありがとうございます。いざという時には頼らせてもらいます」
笑顔を浮かべて握手を申し出ると、大佐はそれをしっかりと握りしめ、力強い笑みを返してくれた。
そして、歓声を上げたミニッツメンたちによって、豊富な武器弾薬は一瞬で分配された。
2285年1月15日13時00分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード市街メインゲート
「行ってしまったな」
いまだに最後尾の何人かがこちらに振り向いて手を振っているミニッツメン一行を見送っていると、隣のアバナシー氏が呟く。
「行ってしまいましたね。
まあ、彼らには彼らの仕事がありますから、仕方ないですけど」
手を振り返しつつ、彼に言葉を返す。
点呼を装備の点検を済ませると、彼らはすぐに出発した。
なんでも、定期巡回を行うために、ずっと一か所に留まるというのはできるだけ避けたいのだそうだ。
確かに、この街を彼らが防衛する意味は失われている。
市街内部の建物は全てクリアリングされ、外周については十分すぎる防衛網が構築された。
ここはもう、自立してやっていけるのだ。
「さて、新しい入植希望者も来たようですし、私たちも仕事に戻りましょうか」
アバナシー氏を促しつつ、メインゲート横に設けた一時受け入れ施設へと足を向ける。
のんびりと要塞建設に勤しんでいる間にも、放送を聞きつけた人々がここへ続々と集まってきていた。
建物にはまだまだ余裕があるし、開墾できていない土地の方が多い。
そうだとしても、人が多すぎるな。
大変に面倒だが、受け入れのためにもう一つぐらいは入植地を作らなければならないかもしれない。