ボストンの守護者   作:JD

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第五話

 

 

2285年1月18日09時11分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード郊外 アバナシー・ファーム

 

「Contact!」

 

 歩哨から上がった警告の叫びに、全員が一斉に武器を構える。

 

「東の斜面から来ている!10以上!多いぞ!」

 

 襲撃個所の報告と同時に銃声が響き渡る。

 こちらの人員は総勢39名。

 全員が連射可能な火器を装備し、一部には軽機関銃すら持たせてある。

 例えガンナーが相手だったとしても、そうそう簡単に押し負けることはないはずだ。

 

「敵はフェラルだ!押し寄せてくるぞ!」

 

 銃声に交じって聞こえてくる報告は、安堵感を強化するものだ。

 失礼な言い方をすれば走るゾンビであるフェラル・グールたちは、銃を使わないしとびぬけた耐久度もない。

 銃弾をかわしつつのダッシュは怖いものの、こちらに連射火器が揃っていればそれすらも恐ろしくはなくなる。

 

「弾幕を絶やすなよ!」

 

 タレット設置前の足場に軽機関銃を装備した数名がよじ登って簡易機関銃座を構成。

 敵が飛び道具を持たない以上、実に良い判断だ。

 

「リロード!」「援護しろ!」

 

 建築中の防壁の隙間を守っている連中のやり取りは軽快だ。

 一度に全員で射撃しているように見えるが、再装填を一斉に行わないように適度に発砲頻度を分散させている。

 さらに言えば、リロードの申告とその間のカバーもバッチリである。

 

「周辺の警戒を怠るな!弾薬が足りないものは下がれ!」

 

 戦闘は明らかにこちらの優位に進んでおり、入植者たちから聞こえてくる言葉も頼もしいものばかりだ。

 武装した民間人というよりも、私服の陸軍歩兵といった感じだな。

 ああそうだ、そろそろ全員にコンバットアーマーを装備させよう。

 攻撃面だけではなく防御面へも目を向ける余裕が出てきたからな。

 

「後方の警戒を怠らないように!特に防壁の向こうには注意を!」

 

 訓練未了の歩兵見習いの俺としては、建設中の防御陣地だけを気にしていれば良い。

 39名でこの地に訪れた俺たちは、38名の護衛と一人の建設従事者という歪な編成の部隊だが、ピップボーイの超常的能力はそれを最適解とする。

 もし現実世界で、いや、ここも現実としか思えないが、とにかく普通にやろうとすれば、最低でもトラックの数台は必要だっただろう。

 前日にレッドロケット・トラックストップを出発した俺たちは、午前7時ごろに到着。

 住み着いていたレイダーたちを瞬殺し、8時ごろには敷地を覆う防壁の建設を開始。

 途中何度か発生した野生生物の襲撃を退けつつ、午前9時11分現在では、敷地の四分の二を覆う防壁の建造を完了できている。

 このペースでやっていくと、唯一の生存者がVault111から出てくるころにはワシントンDCに星条旗が翻っている気もするが、まあ、その時はその時だ。

 ちなみに、牛のクララベルはBBQの具材にされる寸前であったがなんとか無事であった。

 

 

「数が多い!回り込んでくる奴がいないか警戒!」

 

 絶え間なく射撃を繰り返す前列から警告の叫びが再び上がる。

 確かこの近くにはウィケッド・シッピング社の倉庫があったので、恐らくはそこにいるフェラルグールの一団が、敵増加と感知範囲増大のMODの力を借りて襲ってきているのだろう。

 ああ、居眠りしながらもクリアできるようなMODだけで構成された世界に飛ばされたかったな。

 

「タレットの前に立たないで!射線に注意してください!」

 

 建設担当としての警告を行っておくが、彼らはその要素を十分理解した行動を取っているので、それほど気にする必要はないだろう。

 その証拠に、敵の接近に合わせて警告音を発したタレットたちが発砲を開始していく。

 設置しているものは主にヘヴィマシンガンMarkⅦと重機関銃タレットであるため、攻撃力とマンストッピングパワーを両立できる。

 威力で言えばミサイルタレット一択ではあるが、こいつは防衛設備として用いるには周辺への被害が大きすぎる代物なので断念した。

 タレットは設置する地域やその時のレベルと連動してランダムな性能のものが製造できるが、俺はMODの力で最上位機種を選択できる。

 そのため、絶えずタレットたちから放たれる銃弾は全てが爆裂弾だ。

 フェラルグールたちは、周囲の地面や遮蔽物全てを巻き添えにしつつ文字通り爆ぜて活動を停止していく。

 

「撃ち方止め!撃ち方止め!」

 

 その掛け声が必要となるのは直ぐだった。

 護衛たちが発砲を止めたとき、既に周囲は待機モードのタレットたちが奏でるエンジン音以外は何の音も存在しない死の世界だった。

 

「残敵に注意!」「ちゃんと殺しているか確認を徹底しろ!」「確認した死体から穴に放り込んで燃やすぞ!」

 

 日が沈むまでにここを要塞化する必要があると熟知している入植者たちの行動は早い。

 自分たちの知覚範囲内で動くものがないことを確認すると、すぐさま死体の焼却へと移る。

 別に放っておいたところでまた悪さを始めるということはないのだが、奴らの死体は非常に臭うからな。

 

「ジョン、建設を再開しても大丈夫だぞ」

 

 いつの間にか指揮官になっているブレイク・アバナシー氏に作業再開を促された。

 あの日、彼の家族がサンクチュアリ・ヒルズに来ることを思いつかなかったら、ここでの最初の仕事は彼の家族の埋葬だったんだろうな。

 それにしても、好き好んで護衛を申し出てくれたので遠慮なく使いまわしている人々だが、射撃の精度といい、身のこなしといい、どう見ても軍人にしか見えないのだがどうなっているのか。

 役に立ってくれるのは間違いなくありがたいので、それについて文句を言うつもりは無いが。

 

「それじゃあ二人ほど護衛に付いてください。

 他の方は引き続き警戒を」

 

 そこから先は、特筆することがなにもない平和な建設活動となった。

 まず防壁、続いて監視塔とタレット。

 かつてはアバナシー家が住んでいた送電塔の基部に設けられた住居を改造し、必要な設備を整える。

 送電設備、MODで導入した水道設備、キッチン、人数分のベッドにリビングルーム。

 一階だけでは足りず、二階、三階と階層を行う。

 ゲーム内では高度制限や建材同士の干渉で限界があったが、この世界において制限は無い。

 重力とかどうなっているのだろうか、いや、きっとワークベンチがきちんと計算しているのだろう、角度とか。

 

 

 

2285年3月29日09時00分 アメリカ合衆国 コモンウェルス クインシー

 

「ここは、クインシーの街、です」

 

 口下手らしい守衛に苦笑とともに手を振りつつ街に入る。

 ホリス大佐が自主的に行っている連邦巡回任務もそろそろ四周目になる。

 それを行うと最初に聞いたときは自殺の婉曲表現かと思ったが、続けてみるとなかなかに魅力的な任務だった。

 連邦は、死と破壊が支配する、どうしようもない場所だ。

 そこで必死に暮らす人々が命をかけて守るに値する存在であることは否定するつもりもないが、居住地を一歩出れば、なかなかに素敵な場所が広がっている。

 かつて、ミニッツメンに参加する前の自分が懐かしい。

 あの頃は、規律ある民兵が銃を持てば、連邦はもっと良い場所になるはずだと信じていた。

 だが、現実は厳しかった。

 ミニッツメンは何よりも人々を守るための組織であったが、連邦はそう決意した男女が少しばかりいたところでどうにかなるレベルではなかったのだ。

 かといって、手に持ったレーザーマスケットの引き金を引くことで解決できる問題は呆れるほどに多かった。

 では、それが10人であれば?50人ではどうか?

 20人単位で駐屯させ、30人単位で巡回し、あるいは10人を追加で貼り付けで警戒させる。

 相変わらず手のひらから零れ落ちる人命は後を絶たなかったが、それで救える人数は、数えれきれないほどあったのだ。

 

「プレストン!コンコードからの定期便がもうすぐ到着する!

 済まないが受け入れをやってくれ!」

 

 先に街へと入っていたホリス大佐の命令が聞こえる。

 口の端に苦笑では無い笑みが浮かんだ。

 コンコード。

 またの名をサンクチュアリ自治体連合。

 ジョンに率いられた、高度に文明化された武装集団の名前である。

 彼らは豊富な水と、食料と、武器弾薬を持っていた。

 巨大な住宅地であるサンクチュアリヒルズ、皆の胃袋を支えるアバナシー農場、そして連邦の新たな商工業の拠点であるコンコード。

 その目的は彼ら曰く単純で、安全で豊かな合衆国の再建だという。

 噂ではVault-Tec製の特別な装置を持っているらしいが、とにかく、その能力は凄まじいの一言だ。

 なるほど、このまま任せていれば、彼らは本当にかつての偉大なるアメリカ合衆国を再建しかねない。

 

「了解しました大佐殿!直ちにキャラバンの受け入れ準備を整えます!」

 

 復唱しつつ、近くにいた数名に目線を向ける。

 かつてのミニッツメンでは、巡回から帰ったメンバーは控えめに言って負傷者の集団でしかなかった。

 ロクなアーマーもなく、大した武装も持てず、おまけにスティムパックが少ない。

 それで連邦中の面倒に顔を突っ込んでいたのだから無理もない。

 

 だが、彼らがそれを変えた。

 サンクチュアリ自治体放送とやらを初めて聞いたのは1月の6日ごろ。

 それから三か月弱で、彼らは連邦の一区画を完全に安全な場所へと変えていた。

 サンクチュアリヒルズからレッドロケット・トラックストップ、そしてコンコードへ。

 アバナシーファーム、サンシャイン・タイディングスCo-op、スターライト・ドライブイン。

 定期的にグールが集まってくるウィケッド・シッピング・フリート・ロックアップを占拠したと聞いた時には驚いた。

 もっと驚いたことは、彼らはその全てに何らかの役割をもたせ、経済活動を行わせているという事だ。

 住宅地、商業地区、工業地帯、農場。

 それは、かつてこの地にあったというアメリカ合衆国の再現にほかならない。

 

 強大な軍事力と豊富な経済力を持つ個人が主導しているそれは、失敗に終わった連邦暫定政府とは異なる結果を生み出すことが期待できる。

 言い方を変えれば軍事独裁国家であるが、正直なところ、問題を感じることができない。

 親子が安全で快適な家で平和に暮らし、農作物が、工業製品が次々と生み出され、そしてそれが適正な価格で必要な場所へと供給される。

 兵士たちは十分な訓練と装備を与えられ、任務に邁進していた。

 そして呆れたことに、連日押し寄せる難民を次々と吸収し続け、拡大を続けているのだ。

 既にいくつかの放棄された居住地を再開発する計画が進められており、その進捗は順調だという。

 慈悲深く民主的な手続きを重んじるが明日の朝食も用意できない議会と、豊かで安全な生活を実現してくれる独裁者。

 そのどちらに価値があるのかなど、考えるまでもない。

 

 

 

2285年4月1日11時38分 アメリカ合衆国 コモンウェルス クインシー

 

「アサルトライフル、マシンピストル、コンバットライフル、ショットガンにレーザーライフル。

 軽機関銃どころか重機関銃にミサイルランチャーまで。

 なんでもあります。使ってください」

 

 周囲からは着弾音、タレットの銃声、クランクを回す音、レーザーマスケットの発砲音が絶え間なく聞こえていた。

 入植者達がその左右に弾薬箱を次々と重ねていく。

 開けられたそこには、あらゆる種類の弾薬が満載だ。

 

「襲ってきているガンナーたちはこれを奪いに来たのかもしれません。

 何しろ、一財産という言葉では済まないレベルですよ、これは」

 

 これらの品々は、指導者であるジョンの指示でミニッツメンへの防衛協力費用として輸送されてきたものだった。

 受け渡しのための検品の最中ではあったが、今のこの場においては使用できる銃火器があるということが何よりも重要である。

 どうせ全てを受け渡すのだしと、受け渡しは即座に完了したものとされた。

 

「協力感謝する!全員聞け!サンクチュアリから武器の支援だ!

 好きなものを好きなだけ持っていけ!!」

 

 ホリス大佐と輸送隊のやり取りに全神経を集中していたミニッツメン達が、次々と駆け寄り武器を持っていく。

 奪い合いなど発生しない。

 なにしろ、サンクチュアリから送られてきた武器弾薬は明らかに人数分以上あり、持っていくそばから次々と追加の品が補充されていくからだ。

 

「すまないが防衛に参加してもらいたい。

 武器の使い方は、いや、聞くまでもないな」

 

 輸送隊のメンバーはホリス大佐が質問する必要を認めないほどに重武装であり、そして聞かれる前に戦闘準備を始めていた。

 

「断られても参加しますよ。

 みなさんが負けてしまったあと、我々だけが安全に帰れるとは到底思えないですからね」

 

 ゴテゴテにカスタマイズされた小銃らしいものを持った輸送隊指揮官がそう答えた時、ミニッツメン側の火力が増大した。

 MODで追加されていた軽機関銃を持ち去った一団が、一斉に射撃を開始したからである。

 たちまちのうちに、敵の一角が制圧される。

 

「高所を抑えろ!ミニッツメンを支援するんだ!」

 

 相手の圧力が弱まったことを敏感に察知した指揮官は、素早く部下たちに指示を出しつつ駆け去っていく。

 ここはクインシーの街。

 現在、多数のガンナーに襲撃を受けている。

 そこには経験豊富で重武装のミニッツメンが駐屯しており、さらに少数であるがサンクチュアリの武装輸送隊が訪れていた。

 敵にとって、大変に厳しい状況であると言える。

 

 


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