……今日は、どこか知らない世界に行こうかな。
そんな思いつきで、今日の夢は始まった。
―――
夜景の見えるベランダから、いつものように自室へ入っていった。
独りでに付いているパソコンや、貯金している覚えなど無いのに、何故だか落ちている豚の貯金箱がある。
一見すれば変な状況なのだろうけどけれど、”こっち”の自室では当たり前の光景だった。
そう、ここは夢の世界。そんな場所に、私はやってきたのだ。
さて、普段ならば真っ先にこの扉を開いて、多くの世界へと繋がる部屋に行く所なんだけれど…。今日に限っては、椅子に座ってぼんやりと考え事をしてみる。
なんというか、毎回同じ世界に行っては飲んではを繰り返すのは、少しどうかな、と思った。
同じ世界、と言うと、昭和の日本を思わせる世界のことだ。
バスを待ち続ける男性、幻のように表れては消える女の子。
郵便局の青い…人っぽい生き物。
そんな人たちが住んでいる。
そんな世界に、私はいつも通っている。たまに違う世界に行くけど、8割ぐらいはこんな感じ。
だってさ。
昭和の世界なんて、他の世界と違って生活感があるし、昭和の時代を生きたことのない私にさえ、懐かしさを感じさせるんだ。
そんな場所に魅力を感じるのは、もう当たり前だろう。そうに決まってる。
あと、バーがあるのもポイント高い。
…ただ、この昭和の世界以外にも、数えきれない程の世界がある。
ファミコンのような世界、図書館に珈琲店、その他諸々。まだまだ行ったことのない世界は沢山ある。
だから一つの世界を行き来しているのは、なんだか勿体ないような気がする。
そして、その”勿体ない”という気分が、今回の唐突な思い付きの原因だ。
ということで、今日は遠くまで行くことにする。
遠くの奥深くの世界まで。
そう決意して、私は扉を開き、足を踏み入れた。
……と、意気込んでみたのは良いんだけど。
「ワオーン」
迷った。
ちなみに、この寂しそうな遠吠えは、雨に濡れた私の声である。
いや、もともと明確な行く当てがないのだから、迷った……とは少し違うかもしれない。
こう、道が見つからない。といったほうが近い。
いや、道路はある。あるんだけど、その道路は何処にも繋がっていないから、道と言うには少し違う。
いま私が居るのは、灰色と白と黒という無彩色だけで彩られた、道路の世界。
高架線路もあるけれど、電車が走っている様子はない。ついでに車も走っていない。
殺風景な世界の上を、バイクを全速力で走らせる、が、なーんにも見えてこない。
退屈な気分を表情に出しながらも、次へとつながる世界を探すために、遠くのほうをきょろきょろと見渡す。
別の世界に移る為には、その”シンボル”に手を触れるか、何かしらの”入り口”に入らなければいけない。
それは奇妙な形の街灯かもしれないし、それは普通の扉かもしれない。
けれど、ここから見た限りじゃ、そういったものは見つからない。何処かにあるんだろうけど、雨のせいで少し視界が悪い。
…何も見つからなかったら、また違う世界から出かけた方がいいかもしれない。と、”めだまばくだん”を用意しようとまで考える。
…さて、突然だけど、バイクの運転手はマジメに運転しなければ、普通に危険に晒されることになる。常識だ。というか車も同様の筈。
そんな常識を、今一度意識して私の様子を見てみよう。
全速力のバイクに乗ったまま、目的のものを求め、右へ左へと目線を動かしている。
しかも、探索をあきらめようかな、とかいう考え事によって集中力は皆無。最早安全第一とは程遠い運転をしていた。
その報いだったのかもしれない。
バイクの前輪が浮いたような感覚を受け、ビクリと心臓が跳ねると同時に、私は半ば本能的に身を屈めるように身を守る体勢をとった。
進路上に階段があったことに今ようやく気付き、そして驚いたのである。
重力が傾く。否、私自身が傾いている。
地下への階段に落下する私は、ごろごろと転がり落ちて……。
ドンッ
と、私は”現実世界の自室”で、床に背中を打ち付けた。
……見慣れた天井だ。
何時もと違う点があるとすれば、その天井への距離が幾分か遠いというぐらいか。
「」
みっともない、はずかしい。
私はベッドから毛布を引きずり下ろすと、それを身に巻き付けるように地面を転がりまわった。
□day 65.txt
「いつもと違うところに出かけようとしたら、バイクで階段から転げ落ちて起きた。恥ずかしい」
個人的に一番好きな世界までの道筋を書く予定だったけど、途中で面倒になったのデス。