機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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某オークがエルフの国を滅ぼす話を読んでおけば良かった


第29話

バグラチオン作戦その9

 

さてユライア・ヒープ中佐改め、グラナダ防衛軍ウォルター・カーティス少将付き後方幕僚に加わった彼は着任早々にその日の内から仕事に取り掛かった。

 

何しろ時はC.E.(コズミック・イラ)71年の年始、此処から約5ヶ月弱で全ての計画を達成しなければならず計画の壮大さと比較して時間的余裕は全く無いと言ってよかったのである。

 

彼は昔の伝手や自身に与えられた過大な権限を使い兎に角人を集めることから始めた、どんな計画もそれを実際に立案し協議し修正し実行するには人がいなければ始まらないのだ。

 

人の問題がある程度解決したら今度は集まった人材毎に必要と思われる部署に振り分ける作業が始まる、並行して計画実行にあたり会議を何度も開きその度に修正や再検討を重ね少なくとも大枠での全体像を構築し、後は随時修正すると言うやり方に落ち着くまで数多くの試行錯誤を必要としたのである。

 

その間にも必要とされる物のリストはうず高く積み重なり、これを「絶対にいる物」「ないと困る物」「あると嬉しい物」の優先順位順に分け、更にそれが何時何時何処何処にどれ位の数必要なのか或いは必要と思われるかの計算をし、時間軸と距離との相関関係からそれらを輸送するための手段は宇宙航路か月面陸路かコンテナのスペースどれ程必要か、また実際に用意できる輸送船や貨物列車、トレーラーの数はどうなのか?それが実行可能なのか実行可能だとしてコンテナ一つ一つの積み下ろしする為の所要時間はどれ位かかるのか?

 

ハッキリと言えば、到底文章にして書き切れない膨大な作業が行われていたのである。

 

幸にしてグラナダはNJ(ニュートロンジャマー)の影響が少なく、各種の電子計算機機や量子コンピューターも問題なく機能した為、一々全ての作業を人間の手で計算すると言うハメにならずにはすんだ。

 

仮に全てを手作業した場合、集められるだけの人間を集めて計算が終わるまでザッと100年単位の時間は掛かるはずであり、これ程の規模の作戦は最早人間の頭脳を超えていたのである。

 

これらの作業に従事した人々は形の上ではカーティス少将麾下のグラナダ防衛軍統合輸送計画部隊所属とされ、実際にはユライア・ヒープ中佐の指揮の元各地に散って様々な作業に従事していた。

 

この部隊の事を通称「オクトパス」と言い、指揮官であるヒープ中佐本人も含めて昼夜問わず(宇宙でこの表現は適当なのかは分からないが慣用表現として)月面中を駆けずり周り、現場の視察や指示などの作業に追われていたのである。

 

今日も今日とて月面を通信機を満載した指揮車両で駆け回るヒープ中佐は、ある問題に直面していた。

 

即ち指揮する部隊と人数が余りに膨大になってしまった為だ、月面は言うまでもなく広大であるその輸送網の各所に必要な人員を配置し一々指示していたのでは効率が悪い。

 

事実、この所ヒープ中佐は忙しさの余り仮眠する時間もなく時折微睡むように椅子にもたれ掛かっている姿を見せるも、次の瞬間には何処かから通信が入り気を休める時間さえ無かった。

 

「兎に角、責任を分担しなければこのままじゃ過労死一直線だ。輸送各部門の専門家を責任者に任じるとして、またあの『お嬢様』に頭を下げなきゃな…」

 

色々と考えあぐねた結果、そう結論づけたヒープ中佐は大胆な組織改変に乗り出し輸送船部門、陸上トレーラー部門とに組織を分け特に膨大な輸送量を誇るが極めて専門性の高い月面リニアレールの鉄道部門責任者に、個人的に訳ありな関係であるマヤ・コイズミ大尉を任じた。

 

 

 

「大尉、司令部から新しい辞令が送られてきました」

 

その『お嬢様」ことマヤ・コイズミ大尉であるが、ヒープ中佐からの辞令を副官のエイドリアン少尉から受け取り、読み終えた彼女はげっそりとした表情を浮かべた。

 

「あいつ、いくら忙しいからって私に月面鉄道全部の指揮権を渡すって、一体どう言う根性してるのよ」

 

「ですが大尉、これは大抜擢です。いち輸送大隊の指揮官から、大尉は今から数百両からなる貨物列車隊の指揮官ですよ」

 

「不正解、正解はその100倍以上たった一枚の辞令で私はこれから数万両を超える車両を動かさなければならなくなったの」

 

エイドリアン少尉は「まさか」といった表情を浮かべるも、大尉が差し出した辞令書を読み進めていく内に段々と顔を真っ青に染めていく。

 

「これは本物の命令書ですか?何かの間違いだったり敵の謀略だったり…」

 

「残念ながら本物よ、本部に何度も確認を取ったしそれに確かにカーティス少将の署名もある。つまり私達はこれからデスマーチ確定って事ね」

 

そう悪戯っ子のようなウィンクをするコイズミ大尉、しかしそれに付き合わされる部下は堪った物ではない。

 

先ほど大尉が言った通り、月面鉄道こと*1リニアレールは月面を縦横無尽に走る大陸間鉄道ならぬ衛星鉄道であり、その総延長は地球を*210回周回しても尚余る程である。

 

地球とは違い基本的に地続きな月面は鉄道敷設の障害となる様な川や海といった地形的制約がなく、リニアレール自体も電磁力で車体をレールから浮かせているので*3月震によって発生する砂埃(レゴリス)にも強い。

 

一々物資を輸送船に乗せて月面軌道に輸送船を打ち上げるよりも、各都市各工場から直接貨物を輸送できるリニアレールは、月面開拓初期より重要な基幹インフラとして重宝されてきた。

 

今現在このリニアレールは互いに相手に利用されぬ様に前線の各所で寸断されていたが、それでもグラナダを中心に伸びるリニアレールとそこを走る貨物車両は、途轍もない量の貨物を満載し月面を走り続けている。

 

それを僅か大隊の人員で指揮統括せよと司令部は言うのだ、出来るかどうかは別として予想される作業量は正に殺人的であった。

 

「大尉、実は故郷の母が急病らしく看病の為に転属願いを出したいのですが…」

 

「あら少尉、その故郷のお母さまから先日手作りのお菓子が届いたのでなくて?あれ美味しかったわねバターたっぷりのクッキー」

 

しまったせめて父親にしておけば良かったとエイドリアン少尉は後悔するも、既に時遅しであった。

 

「さあ、漫才やってないで仕事に掛かるわよ。取り敢えず線路補修隊のエリカ・バッツ大尉に連絡をとって頂戴、何はともあれ分かれた月をもう一度繋ぎ直すわよ」

 

こうしてユライア・ヒープ中佐率いる「オクトパス」は月前線各所に物資を敵に悟られぬ様入念な隠蔽を施してた上で複数箇所に分けて集積し、本国とグラナダから送られてくる膨大な量の資材を捌き続けていく。

 

多くの人員の犠牲と献身により何とか作戦開始前には概ね準備を完了したが、しかし彼らに休息を取る暇など無く寧ろ本当の仕事はここからであった。

 

「B号作戦」発動により前線を超え敵領地へと侵攻していく友軍の後を追い、「オクトパス」が編成しコンテナを満載した補給船団や砂埃を巻き上げるトレーラー群が次々と出発し、繋ぎ直されたリニアレールからは長大な貨物車両を繋いだ列車が走っていく。

 

当然前線を超えた先は何があるのかまた起きるのかも分からない戦場であり、不測の事態に備えて「オクトパス」の隊員達が実際に戦地に赴きヒープ中佐自らも前線にまで出向いて指示を行っていた。

 

敵の撤退に際し、当然共和国軍の追撃を防ぐべく破壊された道路やリニア鉄道に宇宙港などの各種インフラを急いで復旧し、また解放した月面都市をこれらの輸送路へと繋ぎ直し補給計画に組み込む作業に忙殺されていく。

 

幸いだったのが前線を超えてからの連合軍の抵抗が弱体であり、心配された敵の焦土作戦などによるインフラに重大なダメージを与える様な事は起きず、寧ろ共和国軍が事前に潜入させた特殊コマンド部隊とレジスタンス達の破壊工作によって壊されたインフラ施設の方が問題であった。

 

中には自分達が生きるのに必要な都市の貯水タンク層を爆破した愚か者もおり、「オクトパス」の隊員達は共和国軍への補給任務だけでなく、解放した月面都市の復旧作業にまで駆り出される様になる。

 

被害を受けた都市の復旧は当然重要な事だがそれでも優先順位というものは存在し、侵攻作戦を続ける共和国軍への補給を続けるために宇宙港やコンテナヤードにリニアレール駅の復旧が優先され、それについて文句をいう地元住民やレジスタンス達との交渉事までこなす必要があったのだ。

 

しかしそれでも作戦開始から最初の2週間は実に順調に物事は運んでいた、このまま当初の目標通りリニアレールのターミナル駅がある物流の結節点たるシャワルを陥すことが出来れば、補給事情は一層の改善をされる筈であった…そして時は現在に戻る。

 

 

 

 

ユライア・ヒープ中佐がその報告を聞いたのは、前線に程近い月面陸戦艇ギャロップの指揮所での事であった。

 

危険な前線での任務という事もあり、グラナダ防衛軍司令ウォルター・カーティス少将が気を利かせて自身の乗艦である*4ギャロップをヒープ中佐に貸し与え、以後彼はこの機動力と充実した指揮通信機能を持つギャロップで前線と後方の補給を一手に管理していたのである。

 

「まさかこのタイミングで連合軍の補給線への襲撃と後方爆撃が行われるとは…クソ、今までが順調過ぎたんだ」

 

指揮所で受け取った後方からの報告にヒープ中佐は思わずほぞを噛んだ、この時月面都市シャワルに籠る連合軍第10艦隊は司令官のジョージ・モゴメリー提督が仕掛けた罠に共和国軍を誘い込むべく、後方の補給線への襲撃を繰り返していた。

 

ヒープ中佐が確認した限りは被害それ自体はそこまで大きくない、しかし巧妙なモゴメリー提督は襲撃部隊に敢えて一撃離脱を徹底させ、オマケに特殊工作員を降下させてリニアレールの破壊や後方月面都市インフラへの破壊工作を行い、例え敵に被害を与えずとも連合軍の存在それ自体が大きな脅威となり共和国軍の補給線に大きな負担を与えるだろうと読んでいたのである。

 

それは間違いなく当たっていた、連合軍の襲撃部隊の噂は既に輸送部隊に広く浸透してしまいこれまで護衛を殆どつけなくても平気だった輸送部隊は、見えない敵の姿に怯え彼方此方で護衛を付けてくれとの要請が引っ切り無しにヒープ中佐の元に送られてきていた。

 

中には出航スケジュールそれ自体を見送る者も現れ始め、特に民間から徴用した船舶やトレーラーはそのまま元の民間人が運用している事も多くその傾向が強かった、その中で唯一まともに稼働しているのはリニアレールくらいであったのである。

 

これまでの連戦で少なくない疲弊をしている共和国軍は、補給が滞るだけで無くさらに後方まで気を回さねばならず、長大な補給線を全て守る為には前線から多くの部隊を引き抜く必要があったが当然ながらそんな余裕はどこにも無かった。

 

攻勢開始から凡そ2週間で史上稀に見る軍事的成功により月面の多くの都市を解放し領土を切り取った共和国軍であったが、既に当初の攻勢発起点より遠く離れグラナダと本国間との距離は離れる一方であり、攻勢限界が近づきつつあったのである。

 

「ヒープ中佐、グラナダのカーティス少将に増援を頼んでみては如何でしょう?グラナダ防衛軍は全体の戦略予備としてまだ後方に待機しています」

 

敵の襲撃問題にどうすべきか悩んでいるヒープ中佐に、カーティス少将から自分に就けられた副官のアリソン・ハニンガム大尉がそう提案するも、ヒープ中佐は即座に「いや」と言って首を横に振り否定した。

 

「今から部隊を回してもらっても、遠過ぎたり広過ぎたりして全体をカバーするのには到底間に合わない。シャワルを陥さない限り根本的な補給問題の解決にはならないんだ」

 

「要は敵の襲撃がやめば良い、いやこの際その可能性が限りなく低くなるでもいい。見たところ敵襲撃部隊それ自体の規模はそこまで多くないように思う。規模が大きかれば前線の警戒網を抜けて後方に浸透する時に、存在を察知される危険性が高くなる。逆にこの手の任務なら例え戦力は小さくとも、そこに“いる“かもしれないと思わせるだけでこちらの大きな負担となる」

 

自分で説明しておいて何だが、改めてこの襲撃計画を練った男は嫌がらせの天才だとはっきりと分かる。

 

極少数の小規模部隊を浸透させ攻撃は後方へのハラスメント攻撃程度に留めつつも、実際にこちらに与える脅威は侵入した敵の規模の何倍にも相当し、巧妙に人間の心理をつきこちらの選択肢を狭めていくそのやり方は、悪魔的であり寧ろ呆れを通り越して関心さえ覚える程であった。

 

「幸い手持ちの物資と陸上げしてない物も含めれば、今いる3個連合艦隊は暫くは持つ。後はせめて明確な“敵を排除した“という確証が得られれば何とかなるかもしれないが、小規模で移動し続ける敵を一体どうやって見つけて捕まえるか」

 

ああでも無いこうでも無いと頭を悩ませ続けるヒープ中佐、しかしそんな彼の元に新たな急報が届けられた。

 

「ヒープ中佐、リニアレール統括司令部より新たな報告です…これは!?」

 

常に冷静で理知的なハニンガム大尉の唯らなぬ様子に急な不安を覚えたヒープ中佐は、報告書を半ば彼女からひったくる様に受け取って内容を読み進めた。

 

そのに書かれた内容を読み進めていく内にヒープ中佐は眉間の皺を深くし、表情の険しさを増す一方であったがその中にとある名前を見つけて思わず狼狽えた。

 

「コイズミ大尉の部隊が襲撃された!?…しかも指揮官が負傷したと言うのか…」

 

月面リニアレールを統括し、また自身と色々と浅はからぬ関係のあるその人物の名を見つけてヒープ中佐は暫し呆然と立ち尽くすしか無かった。

 

時にC.E.(コズミック・イラ)71年5月22日の事であったとされる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
本当にNASAでも磁力で浮かせる鉄道ことFLOATの開発が進められている

*2
現実の鉄道の総延長は地球約3週半程度らしい

*3
月では度々地震が起こり、舞い上がった砂埃が落ちずその場に滞留する。磁力を帯びた砂埃は機械や精密部品に入り込んで吸着し様々な問題を引き起こす

*4
見た目ジオリジン版ギャロップ

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