機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第30話

バグラチオン作戦その10

 

「ああもう!痛いったらありゃしないわ。レールの復旧はまだかかるの?」

 

前線と後方とを繋ぐリニアレールの丁度中間点にて、マヤ・コイズミ大尉を乗せたリニア列車は物資を満載して前線の集積所に向かう途中であった。

 

しかし敵の工作員によってレールを破壊され、危うく脱線し重大事故になる寸前に車両を緊急停車させ何とか最悪の惨事を防ぐ事が出来たが、その代償にマヤ・コイズミ大尉は突然の急ブレーキに対応できず頭を強かに壁にぶつけてしまったのである。

 

「大尉あまり動かさないで下さい。軍医の話では大した事は無いそうですが、それでも脳震盪を起こしている可能性もあります」

 

列車の執務室で軍医に処方された湿布をおでこに貼られた大尉は、復旧はいつかと苛立たしげに歩き回るのを嗜めるエイドリアン少尉に逆に食ってかかった。

 

「私は良いの!それよりもこんな所でモタモタしている暇は私達には無いのよ。タダでさえ彼方此方で遅れが出てるのに、これ以上輸送が滞ると本当に補給計画全体が麻痺しかねないわ」

 

それを考えるだけで頭が痛いと、ぶつけた事による痛みとも心配による頭痛ともその両方からくる頭痛に悩まされる摩耶・コイズミ大尉。

 

現在共和国の補給ラインが連合軍の襲撃部隊による攻撃に遭っている事はコイズミ大尉も知っていた、その為多くの輸送部隊が浮き足だち中には予定の出発時間を過ぎても中々輸送船やトレーラーを出さず、後方の月面都市や物資集積拠点から動かない者も多い。

 

これは今次作戦において特に後方輸送は軍の輸送部隊だけでは到底手が足りず、ヒープ中佐達の「オクトパス」は早くから民間の会社と契約し彼等の輸送力を当てにしていたのだ。

 

無論戦火の届かない一時保管所や安全が確保された航路のみと限定していたものの、それでも彼等の存在と全体に占めるパーセンテージは無視出来ない物であったのである。

 

これらの輸送船団や輸送車両への護衛は襲撃事件が発生する前から付けてはいたものの、実際に襲撃されたのは前線に近い補給部隊や各種インフラ施設であり民間船舶への被害は実は多くない、しかしながら一度広まってしまった噂の前では戦火から遠く離れた場所であっても、輸送に携わる人々に大きな動揺と不安感を与えていたのだ。

 

その中でマヤ・コイズミ大尉率いるリニアレール鉄道部隊は所属部隊の多くを軍あるいは軍属で占められていた為、襲撃事件発生以降も何とか計画通りの運行を続けていたのである。

 

元々連合軍の襲撃部隊もリニアレールよりも輸送艦やトレーラーへの攻撃を優先していた為、当初よりあまり被害を受けずまた仮に敵の妨害でレールそのものが破壊されても、優秀な鉄道補修部隊を多数抱える共和国軍リニアレール部隊は直ぐ修復し運行を再開できていた。

 

「でもここに来て敵もやり方を変えて来たわね。明らかにこれは車両それ自体への攻撃だわ、それもこちらの運行時間や予定通過点を読んでの攻撃…今までと違うわね」

 

漸く湿布の鎮痛効果が効いていたのか、冷静な判断が出来る用になったコイズミ大尉は敵の襲撃の変化に気づく。

 

「大尉、偶々偶然じゃあ無いんですか?確かに気づくのがあと一歩遅ければ脱線して我々も物資も台無しになっていたかも知れませんが、敵がこちらの動きを読んで攻撃を仕掛けてきたなんて…」

 

「いえ、エイドリアン少尉。この所頻発するリニアレールへの攻撃、しかもその前後でこちらの車両が通過しているのよ。今まで脱線事故が起きなかったのはそれこそ偶々こちらの運が良かっただけ、明らかに敵は狙いを絞ってきているわ」

 

 

エイドリアン少尉はまさか、といった表情を浮かべるがコイズミ大尉の表情は真剣そのものであった、事実コイズミ大尉が言うとおりこの所リニアレールへの妨害が頻発しているのは事実であったのだ。

 

「しかし敵は何故このタイミングで鉄道への攻撃を始めたのでしょう?手頃な獲物なら他にもあると思うのですが」

 

「それは…」

 

とコイズミ大尉が説明しようとした所で通信機の音が鳴り、話を中断されたコイズミ大尉は仕方なさげに通勤回線を開いた。

 

「ええ、そう分かったは、後は彼女達に任せましょう…」

 

回線を切り終えると話は終わりとばかりにコイズミ大尉は肩を竦めた、彼女が待ちに待ったリニアレールの補修部隊がたった今到着したからだ。

 

 

 

 

 

共和国軍グラナダ防衛軍の補給と輸送を統括する部隊「オクトパス」の、リニアレール鉄道部隊所属リニアレール補修部隊は、コロニー国家である共和国にとって鉄道任務を行うという極めて特異な組織である。

 

この作戦の前月のリニアレール全てを指揮することとなったマヤ・コイズミ大尉は、リニアの円滑な運用の為に特に線路の補修任務を重視していた。

 

一度に大量の物資を輸送できるリニアレールだが、レールがなければ単なる置物に過ぎずまた鉄道という施設は敵の妨害に弱いという事もあって破壊されるのをある程度は許容し、後は如何に素早く補修し任務に復帰させるかどうかにかかっていたのである。

 

その中の一つ共和国軍エリカ・バッツ大尉率いる部隊は腕利として、コイズミ大尉から大いに頼りにされていた。

 

連合軍の襲撃部隊により破壊されたレールの残骸を撤去し、また敵の罠が仕掛けられていないのかの調査を終えた補修部隊は、既存の軌道に沿って新しくレールを敷設していく。

 

通常では何日もかかるようなこの任務を、エリカ・バッツ大尉率いる部隊はある特殊な作業機械によって極めて短時間で行う事ができた。

 

「しかし大きい機体ですね、あんなの見たことありませんよ」

 

「今回みたいな事が起きると予想して、予め用意させてた物だけど…私も実物を見るのは始めただわ」

 

伏線化されたリニアレールを跨ぐ様に巨大なキャタピラと、車体の上には人型の上半身と各種の作業用アームが忙しなく補修業務を行なっていた。

 

補修部隊のエリカ・バッツ大尉自らが操るそれは、今回の任務の為特別に特別に改造されたリニアレール補修点検用の作業用重機である。

 

「大尉、しかし何でキャタピラにMSの上半身が付いているんです?」

 

「あんたちゃんと士官学校出たの少尉?元々MSは土木作業用の重工作機械でしょう、こういった任務にはまさにうってつけって訳」

 

安全の為列車を降りたエイドリアン少尉とマヤ・コイズミ大尉は、ノーマルスーツに身を包み月面の大地に立って補修作業を監督もとい見物していた。

 

彼女達の眼前には見上げるような巨体が聳え立ち、巨大なマゼラベースの車体に旧式化して久しい*1ザクの上半身が乗っており次々と月面にリニアレールを敷設していく。

 

これ1機だけで補修点検だけでなく新規のレール敷設業務も出来、既存の作業機械よりもその効率は何倍にも上ったのである。

 

現在コイズミ大尉指揮下の補修部隊はこの様な作業用重機が既存のパーツや機体を改造して手配されており、リニアレールの活動効率を大いに高めていた。

 

「大尉、先ほどの話の続きなのですが敵は何故急にリニアに攻撃を仕掛けてきたのでしょう」

 

「少尉あなた人に尋ねてばかりでなくて、少しは自分の頭で考えてはどう?」

 

「ええですから考えた結果、知ってそうな大尉にこうして尋ねているんです」

 

コイズミ大尉はやれやれとばかりにヘルメットの中でため息をつく、怠け者の部下を持って自分はなんて大変なんだと思っているが、その部下たるエイドリアン少尉も普段からコイズミ大尉に振り回されっぱなしである為実はどっちもどっちであったりする。

 

「理由の一つは襲撃対象の減少とこちらの護衛強化ね。護衛の強化は当然として、後方から物資が送られて来ない以上前線への輸送は出来ない。必然的に輸送船団やトレーラーは少なくなるわね」

 

「獲物が少なくなったから岸を変えた、ていう程度なら話は簡単ですね」

 

「そうね、それなら大した問題じゃあないんだけど。気になるのはリニアレールのレールだけを狙って車両には手を出して来ない事よ」

 

それこそが今コイズミ大尉が一番気にかかっている事であった、態々用意周到にレールを破壊しているのに肝心の車両それ自体には攻撃を行なって来ないのは、何か敵には別の狙いがあるのではないか?

 

そういった疑念がコイズミ大尉の頭を占めていた、そうこうしている内にレールの補修が終わり作業員達がレールから離れ始める。

 

「大尉、どうやら終わった様ですね。我々も中に戻りましょう」

 

「そうね」とエイドリアン少尉に答えを返そうとして、マヤ・コイズミ大尉のヘルメットに通信回線から慌てた声が割り込んできた、。

 

周囲を偵察に出ていた部隊からこちらに近づいてくる敵MSを確認したと、ヘルメットのスピーカー越しでもわかる程焦った声で報告してきたのである。

 

「敵の詳細を報告しなさい、数と報告それと距離は!?」

 

「大尉、急いでこの場を離れましょう」

 

エイドリアン少尉の焦った声を無視して偵察部隊からの報告を聞き終えたコイズミ大尉は、瞬時に逃げられないと判断した。

 

連合軍のMSストライクダガー3機が、巧妙にも月面の荒れた荒野に点在する岩の影に隠れながこちらに気づかれぬ様接近してきており、偵察部隊が発見できたのは本当に偶々偶然であったのだ。

 

重く積荷を満載した貨物車を繋げたまま逃げ出すには十分な距離と速度を稼ぐ時間が足りず、貨物を捨てて自分達で逃げるのだけはギリギリで可能かもしれないが、それではエリカ・バッツ大尉達の補修部隊を置き去りにする事となる。

 

そこで漸くコイズミ大尉は敵の狙いにハッと気づく、敵襲撃部隊の狙いは最初から満載された貨物そのものであったのだ。

 

レールだけを破壊して車両を直接狙わなかったのは積荷がダメになるのを嫌った為であり、連合軍の襲撃部隊は幾つかのレール上で同様の破壊工作を行い、その内成功したものにMS部隊を差し向けてきたのである。

 

「やられた連中こっちの積荷を奪う気だわ、ここにある物資だけでも相当量の武器に弾薬がある。それを敵に奪われたら襲撃は益々激化するわ」

 

「大尉、もうこの際積荷は諦めて爆破放棄するしかありません」

 

「ダメよ、爆弾を仕掛けるだけの時間も人員もこっちには足りない。今すぐバッツ大尉の補修部隊に連絡を、彼女達も急いで逃さないと」

 

コイズミ大尉は歯を食いしばりながら苦渋の決断を下した、まんまと敵の策略に乗せられた挙句に積荷まで奪われたとあっては輸送部隊の名折れであったが、部下の命には変えられないとばかりにそう命令を下すしかなかったのである。

 

これで物資を得た敵襲撃部隊は益々勢い付き、反対に前線に届かなかった武器弾薬に燃料食料の所為で味方の兵士達が犠牲になるのをコイズミ大尉は覚悟せねばならなかった。

 

仮にこの場を切り抜けられたとしても任務を放棄し、敵に物資を奪われた罪で軍法会議は確実であったが責任を取る者がいなくては部下に塁が及ぶ、例え敵前逃亡の汚名を被ってでも彼女には果たすべき責任と役割があったのである。

 

「大尉、バッツ大尉から通信が届いています」

 

「時間が惜しいわエイドリアン少尉、直ぐに繋げてちょうだい。…バッツ大尉こちらコイズミ大尉よ、文句なら生き残った後にたっぷりと聞かせてもらうわ」

 

『バッツ大尉です、コイズミ大尉少しだけでもいいんです、私の話を聞いてくれませんか?』

 

「バッツ大尉こちらもそうしたいのは山々だけど時間がないの、用が無いのなら貴方も避難の準備を…」

 

『この状況を何とか出来るかもしれないんです!』

 

通信回線越しにバッツ大尉の大声が響き暫し唖然としたコイズミ大尉であったが、直ぐに目を細めると真剣な表情で通信回線に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

連合軍の襲撃部隊、月面都市シャワルを防備する連合軍第10艦隊より派遣された彼らは幾重にも仕掛けた罠に漸く獲物がかかった事で高揚を隠せない風であった。

 

襲撃部隊は当初こそ敵の輸送船やトレーラーを襲って戦果を上げていたが、元来の目的が敵後方の混乱でありまた敵地に潜入という任務の特性上部隊規模も小さく、補給のアテも当然なかったのである。

 

特に共和国軍が輸送船団にしっかりと護衛部隊を貼り付ける様になると襲撃の頻度は低下し、逆に共和国軍の哨戒部隊が連合軍を見つけようと躍起になって探し回っていた。

 

その為、襲撃部隊は一日の多くを隠れて過ごさなければならず、いつ敵に見つかるのか敵に攻撃されるのかと怯え身を潜めながら、物心共に疲弊していたのである。

 

持ち込んだ武器弾薬に水や食料も底をつきかけており、それらを解決すべく襲撃部隊が目をつけたのがリニアレールであった。

 

トレーラー輸送では一度に獲得する物資はたかが知れており、輸送艦隊には護衛が張り付いていて襲撃は困難を極めたが、リニアレールならば一度レールを破壊しさえすれば後は列車が脱線するなり停車すれば良く、身動きの出来ない敵から一度に大量の物資を獲得出来る目があったのだ。

 

腹を空かせた狼が丸々と太った羊を壁際に追い詰め後は美味しく頂くだけ、襲撃部隊のMSに乗るパイロット達はそんな心境で獲物の前に踊り出たのである。

 

しかし彼等を待ち構えていたのは怯える羊などではなく、狼に向かって角を立てる雄山羊であったのだ。

 

『今だ、撃てぇぇぇぇ!!』

 

停車する車列を見下ろす岩影の裏から現れた連合軍のMSストライクダガーに向かって、コイズミ大尉の号令のもと積荷で武装した輸送部隊や補修部隊の兵士達が貨物車両同士の隙間や扉の影に隠れて敵を攻撃する。

 

手持ち式対MSミサイルや重機関銃にライフル、兎に角使える物は何でも使って敵MSを迎え撃ち対する敵襲撃部隊のMSはまさか反撃されるとは思わず、咄嗟にシールドを掲げて防御の姿勢をとった。

 

「敵MSの関節や装甲の薄いメインカメラを狙いなさい、出なきゃ歩兵の携行火力じゃ有効打は与えられないわ」

 

コイズミ大尉が通信回線で繋がった部下達に全員にそう指示を出すも、大半の部下は長く後方勤務の者達ばかりであり今回が初の実戦で、兎に角撃つ事に夢中で指示を聞く余裕などない様子であった。

 

それはコイズミ大尉も承知であったが、敵の注意を少しでもこちらに引かせるべく相手にとってこの攻撃が脅威であると思わせる必要があったのである。

 

その願いが届いたのかライフルの銃弾が偶々敵MSのメインカメラに当たり小さな火花を散らせた、運よく当てた兵士は思わずガッツポーズをするもストライクダガーは反撃とばかりに頭部に装備された75mm対空バルカン砲「イーゲルシュテルン」を掃射した。

 

貨物列車の天井にいた部下達は逃げる間も無く一瞬で無惨な挽肉へと変わり果てた、コイズミ大尉が悔やむまもなく前身を再開した敵MS達は急速に貨物列車との距離を詰めていく。

 

恐らく貨物への被害を嫌ったのか機体の右手に持ったビームライフルこを使ってこなかったものの、時折立ち止まってはイーゲルシュテルンを掃射し目の前で戦友が無惨な姿に変わり腰が引けた部下達の中には、思わず持ち場を離れて逃げ出そうとする者も現れた。

 

このままでは全滅するとコイズミ大尉が覚悟を決めようとしたその刹那、巨大な一条のビームの光が先頭を走っていた敵MSを吹き飛ばす。

 

『遅れて申し訳ありませんコイズミ大尉、エリカ・バッツこれより戦闘に参加します』

 

味方に繋がる通信回線を全てオープンにしたリニアレール補修作業用重機ザクタンクに乗って現れたエリカ・バッツ大尉、その機体には幾つもの動力ケーブルで繋がれた巨大なバストライナー砲がザクに抱えられる様にして搭載されており、砲口と動力ケーブルからは溢れたエネルギーがプラズマとなって周囲に放電していた。

 

バッツ大尉がコイズミ大尉に提案した策とは、つまり偶々貨物リストにあったバストライナー砲を使えないかと言うものであり、その提案を受けてコイズミ大尉は暫し考えた後全て自身が責任を取ると明言した上で貨物防衛を決断したのである。

 

バッツ大尉のザクタンクの準備が整うまでの間敵を引き付けつつ、準備が出来次第リニアレールから直接電力を供給されたバストライナー砲の一撃で敵を退ける、と言うのがコイズミ大尉が建てた作戦であった。

 

リニアレールから直接取り出した電力ではバストライナー砲を完全に動かす事は出来なかったが、それでも発射されたプラズマはMS1機を吹き飛ばし行動不能にさせるだけの威力を持っていた。

 

仲間を一撃でヤられた事でバッツ大尉のザクタンクを脅威に思ったのか、敵MSは向きを変え今度は容赦なくビームライフルを向けて排除しにかかる。

 

慌てて撃った為か狙いが外れて見当違いの方向に着弾する敵のビーム、ザクタンクの正面にはサブアームで接続したハイザックのシールドが守りを固めていたがそれでも直撃すればひとたまりも無いのは誰の目にも明らかであった。

 

「急げ、急いでくれ。敵がもう来ちまうよ!?」

 

ザクタンクのコックピットで焦るバッツ大尉は、モニターに表示されたエネルギーチャージのゲージを祈るように見つめた。

 

リニアレールから何とか動力ケーブルを繋げて直接電力を供給する関係上、どうしても正規のものと違ってチャージに時間がかかってしまいしかも完全充電には途方もない時間がかかる。

 

その為先程の砲撃は出力にして30%以下で発射された為単なるプラズマビームを発射したに過ぎず、それでも敵MSを撃退するには十分すぎる威力ではあった。

 

そうこうしている内に段々と敵との距離が縮まり、狙いも正確になってきたのかサブアームで掲げたビームシールドと敵のビームがぶつかり、周囲に弾け飛んだプラズマが飛散する。

 

飛び散ったプラズマの熱で動力ケーブルが切断されないかとヒヤヒヤするバッツ大尉であるが、しかし等々念願のチャージが発射出来る限界ギリギリにまで充填された。

 

2度目の砲撃はプラズマの火球が敵MSの全体を包み込み、運悪く推進剤に引火したのか大爆発を起こす。

 

「やった!」と思わずバッツ大尉はコックピットの中でガッツポーズを取るが、爆炎の向こうから炎の壁を切り払う様に敵MSストライクダガーが飛び掛かってきた。

 

「バッツ大尉脱出を!」

 

マヤ・コイズミ大尉が通信回線に向かってそう叫ぶも、バストライナー砲のチャージは到底間に合う訳もなく、また動きも足も遅いザクタンクでは到底敵の攻撃を避けられる距離では無かった。

 

目の前で胴体をビームライフルの一撃で撃ち抜かれて爆発するバッツ大尉のザクタンク、対する敵MSは脅威をこれで排除したとばかりに今度はビームライフルの銃口をコイズミ大尉達に向ける。

 

最早万事急須かと思われたその時、コイズミ大尉は通信機に向かってボソリと呟いた。

 

「今よ少尉!!」

 

ザクタンクを排除したことで背を向けたストライクダガーの背後で、貨物車両の外装がパージされそこから一門の砲身が敵の背中にピタリと狙いをつけて現れた。

 

単なる貨物コンテナだと油断していたストライクダガーのパイロットは慌てて振り返ろうとするも、既に時遅く発射された240mm砲が火を吹き敵MSを背中から胴体中央を撃ち抜く。

 

コクピットに大穴を開けられたストライクダガーは糸の切れた人形の様に月面の大地に倒れ伏し、敵が完全に沈黙するのを確認したコイズミ大尉は生き残った部下達に向けて作戦の終了を宣言した。

 

生き残った輸送部隊とレール補修部隊の兵士達は雄叫びを上げて互いに勝利を分かち合った、後方部隊として実戦に出る事など無かった彼等がこの戦争で初めて挙げた勝利に湧き立たないはずがなかったのである。

 

その様子を240mm砲で敵にトドメを刺したエイドリアン少尉はボーッと眺めていた、今だに自分が生きていることまた戦いに勝利したことに実感が湧かないのである、少尉もまたこの戦いが初の実戦でありまた初の戦果をあげその相手が敵MSであったのだから致し方ない一面もあった。

 

最もこれも最悪の場合を想定して予め備えておいたマヤ・コイズミ大尉のおかげではあった、大尉はバッツ大尉とバストライナー砲だけで敵を撃退できなかった場合を想定して、エイドリアン少尉に貨物のハイザックキャノンがバックパックに背負う240mmキャノンの砲手を任せていたのである。

 

何故自分がと最初は難色を示したものの、コイズミ大尉が万が一に備え士官ら指揮系統は分散して配置すべしとの説明を受け、渋々戦闘が始まっても参加せずコンテナの中で身を潜めていたが結果としてそれが功を奏した形だった。

 

さてこの後の指示を大尉に請うかと通信回線を開くエイドリアン少尉、しかしその通信機からは先程の歓声とは打って変わって誰かの悲鳴が響いたのである。

 

何事かと周囲を確認するエイドリアン少尉、そして少尉の背筋をゾクリと冷や汗が流れ背後を振り返った。

 

そこには新たに敵MS3機がレールを挟んで反対側から現れていたのだ、敵は1部隊だけでなく左右から挟撃する為に2部隊MSを6機もこの戦場に放ってきていたのである。

 

新たに現れた死神の群れた容赦なくビームライフルの銃口を列車に向け、一条の光が放たれた…。

 

 

 

 

 

*1
ハイザック採用前に共和国で試作された最初のMSの一機、所謂旧ザクである

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