機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第31話

バグラチオン作戦その11

 

共和国軍グラナダ防衛軍所属MSパイロットのヴィッシュ・ドナヒュー中尉は『荒野の迅雷』と言う異名を頂く、敵味方の双方から畏怖と尊敬を集める月面きっての腕利(エース)パイロットであった。

 

ドナヒュー中尉は前線と後方の丁度中間地点に置かれた物資集積所(デポ)で、新しく受領したMSのコクピットの中で機体の調整を行なっていた。

 

「どうですか中尉?新型機の調子は」

 

「こいつは凄いぞパワーはハイザックとは大違いだ。操縦系統も素直でこちらの操作に機敏に反応する」

 

「しかも新型の癖に機械的信頼性も折り紙付きだと言う、地上軍様々だな」

 

話を聞いていた部下は「いいなぁ」と呟いた、彼も新しくハイザックの最新モデルである『K型』を受領していたが、矢張りマイナーチェンジでは無い完全な新型機に憧れる気持ちはドナヒュー中尉も痛い程わかっていた。

 

『荒野の迅雷』事ヴィッシュ・ドナヒュー中尉の新しい乗機、アナハイムエレクトロニクス社製重MS『MS-108マラサイ』は今の共和国軍が用意できるMSの中で最高の性能を誇っている。

 

機体の信頼性も先に配備された地上で十分にテストされており、整備性にも優れ操縦系もハイザックに準じ機種転換の訓練も容易と正に文句なしの名機であった。

 

部下との雑談を終えドナヒュー中尉は手早く機体の最終調整を終わらせていく、いつまた出撃命令が来るのか分からない為、依然として状況は予断を許さなかったのである。

 

グラナダ防衛軍ウォルター・カーティス少将の元で、連日ドナヒュー中尉率いる部隊は戦場の彼方此方を駆けずり周り敵と戦い続けていた。

 

共和国軍が編み出した連続攻勢作戦は優れているもののパイロットや機体に大きな負担をかけており、先日も乗機の整備不良からくる不調によりハイザックを撃破されてしまい、本人は無事脱出する事が出来たのは前もってこれら不調の前兆を感じ取っていたからである。

 

通常ならば乗機が撃破されたパイロットは後方で休養を取り疲労の回復に務めると共に、再訓練並びに乗機が撃破された状況の詳細を記したレポートの作成などそれらの仕事を終えた後、再度戦場に復帰するのが常であった。

 

共和国はインジェクションポッドも兼ねた全天周モニターと重装甲により、MS被撃破時の生存率は他国に比べて高い、その為生き残ったパイロットから貴重な戦訓を吸い上げる為にこの様な方法が取られているのである。

 

しかしながら現在の様な大規模作戦中にはその様な事は言ってられず、機体を撃破されパイロットが無事なら新しい機体を与えられて次の日から或いはその日の内に再出撃するのは、最早通例となっていた。

 

特に連続攻勢作戦は敵に休む暇も後退して再編する隙を与えずに文字通り“相手が消滅するまで“、攻撃を続けるこの戦法のお陰で共和国軍のパイロット達は四六時中出撃させられている。

 

パイロット達は冗談めかしに『休息が欲しければあの世でしろ』とまで言い、この人材を使い捨てるやり方はドナヒュー中尉は好きでは無かった。

 

無論彼の上司であるウォルター・カーティス少将もこのなりふり構わない犠牲を厭わない作戦には、内心では反感を持っていたものの今の共和国軍にはこれ以上の戦略はあり得ない事も十分承知していた。

 

故に1人でも多くの部下が生き残れる様なるべく最新鋭か最良の物を前線に送るように努めており、麾下の「オクトパス」がどういったルートで入手したのかマラサイを手に入れた際、最も信頼する部下の1人であるドナヒュー中尉に機体を手配したのである。

 

そのドナヒュー中尉宛に、前線で補給作戦全般の指揮を執っている筈のユライア・ヒープ中佐からの直接通信が入った。

 

直ちに機体の通信回線を開き、直ぐにコクピットのモニターに真剣な表情の中佐の姿が映し出される。

 

「ヒープ中「すまないが挨拶している時間は無い」は?」と敬礼して挨拶しようとするも、それを遮ってヒープ中佐は本題を進めた。

 

中佐の唯ならぬ様子にドナヒュー中尉も自然と背筋を正した、軍人が手続きを省略するのは単なる物臭かそれとも格好をつけてはいられぬ程重大事項がどこかで進行中の証左である。

 

「ドナヒュー中尉、マヤ・コイズミ大尉の事は知っているな?」

 

コイズミ大尉の名前を聞いて「また何かをやったのか!?」と頭痛がする頭を手で押さえたくなるのを何とか堪えつつ、真剣な表情のまま中佐の話を何とか聞き続けるも段々とドナヒュー中尉の視線は険しくなり、話が終わった時彼の形相は凄まじい事になっていた。

 

「中佐、直ちに出撃し事の真相を明らかにして欲しい。尚これは事の重大さを鑑みて極秘作戦とする、この通信も当然記録には残らない。私と中尉はここで一切会話などしていない」

 

それもそうだろう、まさかリニアレールを統括するマヤ・コイズミ大尉の部隊と連絡が取れなくなっただけでなく、直前まで繋がっていた通信で指揮官が負傷したというのだ。

 

唯でさえ連合軍の襲撃部隊によって補給が滞りつつある前線にとって、輸送部隊の指揮官とその部隊の消息が不明になったなどと知られれば、どれ程作戦と将兵の士気に影響するか分からない。

 

しかも今回の積荷は単なる補給物資だけでなくとある極秘物資も載せられていたのである、ドナヒュー中尉が険しい表情を浮かべたのは無論コイズミ大尉を心配する気持ちが半分でありもう半分は積荷の中身にあったのである。

 

「分かりました、しかし部下達には何と伝えればいいんでしょう」

 

「こちらで、新型機受領に伴う完熟訓練を兼ねた哨戒任務を司令部から出してもらう様手配した。しかし正式な命令書は今からでは間に合わないため、後日という事になる」

 

つまり哨戒任務に託けたマヤ・コイズミ大尉と補給物資を満載した輸送車両の捜索任務が彼に与えられた任務であり、何事もなければそれで良ししかしながら上は“荒野の迅雷“を派遣する以上そうでは無いと見ていると言う事である。

 

極秘物資の中身、それは南極条約で禁止されている化学兵器通称「G3ガス」であり、コロニー内での暴動鎮圧用の催眠ガスという触れ込みであったが、実態は呼吸器や神経系に作用を及ぼす凶悪な毒ガスであった。

 

万が一これが連合軍に奪われれば共和国軍の南極条約破りとして国家の汚点となり、最悪敵に使われた場合1000万人クラスの月面都市やコロニーの住民を一瞬で殺戮されるかもしれない。

 

そうなれば戦争どころの騒ぎではない、何故そんな物を輸送していいるのだと言う疑問はこの際脇に追いやってこの極秘作戦に失敗すれば最悪責任は全てこちらの所為になるかもしれないし、そんな任務に果たして部下を連れて行っていいものか悩むが、指揮官とは時に部下に恨まれてでも果たさなければならない責任というものがあった。

 

「分かりました、しかし何かあった場合全て私の独断で行ったという事にして頂きたい。その確約さえ得られればこの任務喜んで引き受けましょう」

 

「すまん中尉、なるべくこちらでも出来るだけのサポートはする。吉報を期待する」

 

こうしてドナヒュー中尉が部隊を率いて哨戒と言う名のコイズミ大尉と輸送列車捜索任務を行なっている間に、彼女達は連合軍のMS隊と激闘を続けていたのである。

 

 

 

 

 

リニアレールの線路沿いに哨戒任務もといマヤ・コイズミ大尉と輸送列車の捜索を続けるドナヒュー中尉のマラサイと部下のハイザックK型2機は、通信が途切れた地点へとホバー走行で急行していた。

 

ここはグラナダのある月の裏側とは違いNJ(ニュートロンジャマー)の影響が強い月面表側でありその為通信状況は劣悪であったが、しかし共和国軍はリニアレール沿いに光ケーブルによる前線と後方を繋ぐ長大な蜘蛛の巣の様に張り巡らされた有線通信網を設置している。

 

その為ドナヒュー中尉らはリニアレールから遠く離れない限りヒープ中佐の「オクトパス」と更に後方のカーティス少将の司令部から最優先に情報が回ってきており、そこからコイズミ大尉の部隊が敵の襲撃にあっている事を知り急いで向かっていたのだ。

 

現場にはマヤ・コイズミ大尉の輸送列車部隊だけでなく線路補修部隊のエリカ・バッツ大尉の部隊もおり、敵の破壊工作によってリニア列車が止まり敵に貨物を奪われそうになっていた。

 

しかも当の大尉は急いで脱出するのでも降伏するのでもなく、手持ちの部隊だけで積荷を奪われまいと抵抗しようとしているだ、その余の蛮勇さにドナヒュー中尉は呆れを通り越して少しでも早く救援に向かうべくコクピットのスロットルレバーを全開にしたいという欲求を何とか堪えていく。

 

如何に部下達が最新バージョンのハイザックK型とは言え、マラサイとの速度差は否めず仮に機体の性能を全開にしてドナヒュー中尉単独で突出したとしても、それでは敵に袋叩きにされるのがオチであった。

 

その為、彼は自制心を最大にして何とか部下達との編隊を組んだまま戦場に向かわねばならなかったのである。

 

「ドナヒュー隊長、もう間も無くで目標が視認出来る筈です」

 

「分かった、しかし敵の待ち伏せが予想される。我々はこのまま線路沿いに真っ直ぐとは進まずに、一旦レールから離れて隠れながら目標に近づく」

 

部下からの通信にドナヒュー中尉は務めて冷静に指示を出す、「荒野の迅雷」は単なる個人の戦技と戦果に優れるだけで無く、良く部下と協力しチームワークを重視した戦法を部隊に徹底させていた。

 

時にそれは慎重すぎると部下達から不満に思われる事もあったが、集団戦を旨とする共和国軍にあって彼と彼が率いる部隊のチームワーク戦術の練度は非常に高く、これまでにも多くの戦果をあげている。

 

有線通信で「オクトパス」と後方の司令部に一旦レールを離れる事を伝えると、ドナヒュー中尉率いる部隊は線路を離れて月面の荒野へと躍り出ていく。

 

月面は常に真っ平などではなく、隕石の落下や地球との重力の関係に月震と呼ばれる地震の影響で彼方此方にクレーターや洞窟、川や谷と呼ばれる複雑な地形があり時としてそれは敵の目から姿を隠す絶好の隠れ場所を提供していた。

 

ドナヒュー中尉のマラサイや部下のハイザック達は先ほどまでのレール沿いを猛スピードで走り抜けていたホバー走行では無く、スラスターを切って岩陰から岩陰へと移動する徒歩での歩行に切り替えていた。

 

地上軍で発想され生まれた共和国式高速移動術ことホバー走行は、機体のエネルギーと推進剤を消費してMSを浮かせて地表を高速で滑空する共和国独特の移動技術である。

 

これのメリットは荒野や砂漠に沼地などの地形的制約に縛られる事なくMSを高速で移動させることが可能な反面、デメリットとしてバッテリーのエネルギーと推進剤を大量に消費しホバーによって発生しる土埃は遠目にも目立ち、」また滑走を始めてしまうと一旦立ち止まるのに苦労しその再始動若干の時間を必要とする点であった。

 

地上軍は宇宙軍とは違い戦力も限られ地球と言うコロニーや宇宙とは全く異なる環境で戦い続ける為、MSを有りとあらゆる戦場に素早く移動させる必要がありその為に生まれたホバー走行技術であるが、グラナダ防衛軍や火星師団の一部パイロットにも知られているのである。

 

月面の低重力下では砂埃(レゴリス)を大量に巻き上げ機械的故障を頻発させる恐れがあったが、そこは各関節部への防塵カバーと各種フィルター技術によって解決しており月面上での行動半径の延長と走行速度の上昇が見込まれ幾つかの部隊ではこの技法は取り入れられていた。

 

前述の通り月面の複雑な地形をある程度無視出来る利点があり、ドナヒュー中尉も部隊戦術研究の一環として試行錯誤を続けていた、しかしながら非常に目立つ走行法の為敵に気づかれずに近づくには従来の通りMSの歩行移動は依然として現役であったのである。

 

リニアレールから離れ大きく遠回りする形で現場へと辿りついたドナヒュー中尉達の目の前では、今まさに貨物車両の偽装が解かれ中から現れた240mmキャノンによって敵MSが背後から撃ち抜かれるところであった。

 

「どうやら彼らだけで片がついたようですね」

 

通信回線から部下の安堵した嬉しそうな声が聞こえたが、ドナヒュー中尉はより詳細を知る為にハイザックの頭部バイザーの裏に隠されたモノアイカメラよりも性能の良いマラサイの光学観測機器を操って、貨物の無事を確認する。

 

(良かった、取り敢えず例の積荷は無事そうだな)

 

最悪の事態を想定して彼には輸送部隊そのものが“居なかった“事にする命令も降っており、部下の目の前で味方殺しと元恋人殺しをしなくて済んだ事に、現場に間に合った事よりもそちらに安堵を覚えるドナヒュー中尉。

 

しかしながら事態は完全には収束してはいなかった、部下のハイザックが輸送列車と通信を繋ごうと周波数を合わせた時、通信機越しに響いたのは歓声や安堵でもなく悲鳴であった。

 

連合軍の襲撃部隊は別の方向からも迫っており、今まさにビームライフルの銃口を輸送列車に向けつつあったのである。

 

「全機フォーメーションA、戦術パターンFで行くぞ!」

 

頭で判断するよりも先にドナヒュー中尉は反射的に部下達に指示を飛ばし、味方を救援すべく隠れていた岩陰から飛び出し部下達も中尉の声に反射して素早く陣形を組んだ。

 

上空から見ればドナヒュー中尉を先頭に置き左右に等間隔に相互援護出来る距離に開いた鏃に似た陣形、アルファベットの『A』に準えた共和国軍MS基本の陣形で敵へと進んでいく。

 

幸にして新手の敵MSストライクダガーから見てドナヒュー中尉達のMSは丁度死角となる岩陰にあり、彼らは敵の背後という優位にポジションから攻撃を仕掛ける事ができたのである。

 

しかし如何に優位とは言え彼我の距離の差から敵の第一撃が輸送列車を襲う方が早い、しかしドナヒュー中尉は構わず移動の振動で振れる中コクピットのスコープを覗き込みマラサイのビームライフルの照準を合わせた。

 

NJの干渉と敵味方から発せられるジャミングにより電子機器とセンサー類は役には立たず、あるとすればマラサイの高性能な光学観測機器と自身の目視に頼る他無い。

 

しかしながらドナヒュー中尉は迷わずトリガーを引き絞った、一条の真っ直ぐなビームがマラサイの右手にもつビームライフルから伸びて、まるで吸い込まれるかの様に今まさに攻撃せんとライフルを構える敵MSの胴体に命中した。

 

ドナヒュー中尉が頂く異名「荒野の迅雷」は月面と言う荒野でまるで敵が雷にでも撃たれたかの様に倒される素早く正確な射撃から来ており、コクピットのスコープ越しに敵の機体がグラリと傾き、次の瞬間には推進剤に引火したのか大爆発を起こす。

 

敵の無力化を優先してコックピットを狙った筈が思わぬ爆発と火災が起きた事でドナヒュー中尉は、連合軍のMSは量産性を優先して本来なら備えて然るべき安全装置や防火耐爆シャッターが無いのでは?と言う疑問が湧く。

 

しかしそんな事を考える暇も無く、味方を目の前でヤられてドナヒュー中尉達に漸く気がついたのか敵MSが後ろを振り返る。

 

ここでドナヒュー中尉は敢えて目立つようにマラサイを月面より飛び上がらせ、の頭上へと躍り出た、普段スタンドプレーを固く戒める中尉あるまじき大胆な行動に敵は挑発されたのか2機のストライクダガーはスラスターを全開にしてマラサイの後を追う。

 

如何にドナヒュー中尉が優れたエースパイロットでありしかも最新鋭機マサライに乗っているとは言え、一度に2機のMSを相手にするのは無謀には全然思われなかったがしかし敵はまんまと中尉が仕掛けた罠に引っかかった。

 

敵は味方がヤられた事に動揺し相手の戦力把握を怠った、しかも態とドナヒュー中尉が目立つような行動に出た事で頭に血が上った敵MSは仲間の敵討ちをしようと追ってしまったのである。

 

それはドナヒュー中尉が月面に潜ませた部下のハイザック達に、最初の奇襲同様またしても無防備な背中を晒す事を意味していた。

 

2機がかりでマラサイを追うストライクダガー、しかし宇宙に上がった事で身を隠す遮蔽物を失いしかもスラスターを全開にして戦場の空に目立つ噴射炎を上げる彼等はドナヒューの部下達にとって格好の獲物であった。

 

光学観測と赤外線によって正確に照準され同時に二つのビームがストライクダガーの背後を貫く、バックパックと胴体を撃たれた敵MSはそのまま姿勢を崩して月面にガラクタ人形の如く落下する。

 

NJにより有視界戦闘を強制される戦場にあって、先に敵を見つけ先制攻撃奇襲を仕掛けた方が優位であるが、奇襲により位置を晒した事で失ったアドバンテージを僚機によって補完する、現在共和国軍で研究が進められている編隊戦術の一つを彼らは披露したのだ。

 

残る1機は完全に頭上のドナヒュー中尉のマラサイと背後のハイザック2機に挟まれ、投降も抵抗も出来ず味方の後を追った。

 

こうして事件そのものはドナヒュー中尉の活躍と、何よりもマヤ・コイズミ大尉とエリカ・バッツ大尉等リニアレール鉄道部隊決死の抵抗により収束したのである。

 

少なくない犠牲は出たもののコイズミ大尉は軽傷であり、エリカ・バッツ大尉も操縦席はザクではなくマゼラベースにあった事で負傷するも生命を落とす事はなく、暫くして任務に復帰したと言う。

 

積荷は戦闘で使用した物以外無事であり、件のG3ガスはそもそもその存在をコイズミ大尉や部下達は知ってはおらず、輸送任務も別の鉄道部隊が引き継ぎカーティス少将の強い反対もあってガス兵器はグラナダの秘密武器庫に封印される事となった。

 

また連合軍の襲撃部隊の目的が単なる物資強奪だったのか、それとも別の目的があったのかは後に慎重な捜査が行われていく。

 

事の発端である何故共和国軍が南極条約で禁止した筈の化学兵器を持ち込んだのかは今尚もってその理由は不明だが、一説には連合軍月面基地プトレマイオスクレーターに使用する予定であったと言う噂が立ったが依然として詳細は不明である。

 

 

 

 

 

関係者報告書第◾️項 以下主要人物の抜粋

 

 

グラナダ防衛軍司令ウォルター・カーティス、当時少将だった彼は本件に最初から強い反発を示しており全てが偶然にしては余りに出来すぎている部分が多い為か、事件の黒幕として秘密警察による捜査を受けるも確たる証拠は出ず捜査は手詰まりとなっている。尚戦後に別件で収賄容疑をかけられるも、本人と当事者間の認識の食い違いが大きく結果裁判で無罪が確定している

 

ヴィッシュ・ドナヒュー中尉、事件後前線に復帰するも、真相を知りすぎた為か今まで以上に過酷な戦場に投入されるようになり、数多くの激戦を繰り広げる事となった。

 

ユライア・ヒープ中佐、不必要な情報を漏洩したとして作戦終了後軍事裁判に掛けられたが、本件そのものが機密事項に類する為証拠不十分で釈放されている。戦争終結後民間に復帰するも依然として要注意人物として監視は続行されている模様。

 

マヤ・コイズミ大尉についてであるが本件に重要参考人の1人であるヴィッシュ・ドナヒュー中尉とは以前交際関係にあり、またもう1人のユライア・ヒープ中佐とも非常に親しい中である。本件をこの3者が当時グラナダ防衛軍カーティス少将の指示で行った狂言見る向きもあるが、現在も詳細は不明である。尚本件終了後に起きたパフォーマンスについては…

 

 

 

 

「コイズミ大尉こんな事して怒られないんですか?」

 

「良いのよエイドリアン少尉。ドナヒュー君も話したい事があったのにさっさと帰っちゃうし全く、こっちは仕事が遅れて良い迷惑よ」

 

「でも輸送任務は別の部隊が代行してくれますし、さっさと基地に戻りましょうよ大尉」

 

「コイツを乗っけたらね」

 

コイズミ大尉が子供っぽく笑みを浮かべるのを、エイドリアン少尉はやれやれとばかりに頭を押さえた。

 

貨物車両を別の列車に繋ぎ替えて身軽になった車両に、コイズミ大尉の指示で完全に機能を停止した敵のMSがクレーンで吊るされ車体にワイヤーで固定されていく。

 

まるで昔読んだ事のある巨人と小人の童話の様な光景に何の意味があるのかと大尉に目を顰め少尉は、昔っから突拍子も無い事をする人だったとは思っていたが、今回は特にとんでも無い事をしでかしていた。

 

「どうせ上は今回の件を一切無かった事にするつもりよ、これ以上後方の輸送と補給問題に上も関わってはいられないからね。だけど彼等がここで立派に戦ったと言う証拠だけは、持ち帰らせてもらうわ」

 

コイズミ大尉は汚れたドッグタグの束を握り締めながら、そう強い意志を込めた声で言った。

 

戦闘終了後に犠牲となった全員の分は到底集められなかったが戦場に立つ以上ある程度は覚悟の上であった、それでも部下の生命に責任を持つ以上指揮官として彼等が何を成しそして死んでいったのかを、家族や周囲に知らせる義務をコイズミ大尉は負っていたのである。

 

誰にも知られぬよう毅然とした態度をとりつつも、震える肩をエイドリアン少尉は見逃さなかったが、同時にそれを指摘するような野暮な精神も持ち合わせてはいなかった。

 

こうして基地に敵MSの残骸と共に帰還した彼等は驚きを持って迎えられたのは当然として、これを面白がった軍の広報が(勿論G3ガスの件とは一切無関係に)その日の内に彼等の“戦果“を取り上げたのである。

 

最初こそマスコミの取材を忙しいと取り合わなかったコイズミ大尉であるが、その内話に尾鰭がつき彼等リニアレール部隊だけで敵MS一個大隊を撃滅したという所まで話が膨れ上がり、結果としてこの件は軍の戒厳令とは全く別の形で広く知られる様になった。

 

つまり輸送部隊の奮闘により積荷を奪わんと襲撃を仕掛けて来た敵MSが、逆に返り討ちにあったという痛快な手柄話として全軍どころか民間の輸送業者にまで広がった結果、徴用された輸送船団やトレーラーのオーナー達が奮起して再び輸送業務を活発に行う様になると言う副次効果も生まれたのである。

 

逆に連合軍が単なる輸送部隊に新鋭のMSを撃破され、しかもその残骸を晒された事で大いにその武威を落とす結果となった。

 

本件以降連合軍の襲撃は低調となり、また想定よりも早くグラナダ防衛軍が後方補給線の護衛を行う様になった事で攻撃それ自体が不可能となっていく。

 

これを受けてシャワルの守りを固める連合軍第10艦隊提督ジョージ・モゴメリー提督は襲撃部隊の撤収を命じるも、既に妨害によって共和国軍の進撃スピードは落ちており侵攻作戦に大きな影響を与えていた。

 

 

 

 

 

…以上で本件についての報告を終えたいと思う。尚現在も関係者への監視及び捜査は軍情報部主導で続行中であり、引き続き真相究明について更なる予算の増額を求める物である。

 

 

報告者:共和国軍情報部◼️◼️◼️◼️◼️◼️中尉

 

 




今回のまとめ:いつもの内輪揉め、トカゲの尻尾切り、脚本の人そこまで考えてないと思うよ。
以上
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