バグラチオン作戦その12
時に
議題は無論月面都市シャワル攻略についてなのだが、その前に彼らはある重大な問題に直面していたのである。
「既にお集まりの貴官らも存じているように、現在艦隊は重大な危機に瀕している。即ち補給の問題と時間の問題である」
旗艦タイタンの作戦会議室に集まった連合艦隊の諸提督達をの前で、第1連合艦隊提督と共和国軍宇宙艦隊司令長官とを兼任するマクファティ・ティアンム大将が上げた第一声を前に、皆一応に頭を悩ませた。
補給の問題はこの後「オクトパス」とグラナダ防衛軍司令ウォルター・カーティス少将らの活躍で、ある程度の解決を見るが今現在それを知る由もない共和国軍は補給不足という問題に直面し各艦隊の責任者は頭を抱えていたのである。
「現在各艦隊の残りの物資を計算した結果のですが、このまま補給を受けられないままでは後3日で我々は作戦行動が出来なくなると出ました。無論節約し切り詰めれば日数自体は伸ばす事は可能ですが、それでは肝心のシャワル攻略は覚束無い」
共和国軍第3連合艦隊提督ヴォルグガング・ワッケイン中将が、集まった諸将が持つ情報端末に詳しいデータを表示し艦隊の物資量と作戦行動可能距離を示した相関グラフは3日目を境に急速に下降線を辿っていた。
当然戦闘ともなれば物資の消費量はこのグラフの比ではない、しかしこのまま手をこまねいていても破綻は目前であったのである。
「補給の問題についてじゃが月面上の物資集積所が無事な以上、それほど心配はいらないと儂は見ておる。艦隊のコロンブスを総動員してピストン輸送させておる、しかし問題は鬱陶しいことこの上ないあの機雷原よ」
ジーン・コリニー提督が忌々しげに言う“機雷原“とは、連合軍第10艦隊提督ジョージ・モゴメリー提督が派遣した機雷敷設艦によって敷設された、重層的な機雷原のことであった。
一つ一つの層は薄く当初各艦隊は掃海艦を派遣して簡単に除去していたが、それが何重にも組み合わさり共和国軍の侵攻方向を塞ぐように何枚もの機雷で出来たカーテンが敷かれており、除去しても除去しても追いつかなかったのである。
当然共和国軍は問題の根を叩こうと少数の部隊を派遣して機雷敷設艦を排除しにかかったが、幾つかの船を沈めるもその都度別の方向から新しい機雷敷設艦が現れ、一向に妨害が減る様子はなかった。
実は連合軍は敷設艦の被害を織り込み済みで配置しており、輸送船やドレイク級護衛艦を改装したもので消耗を補っていたのである。
無論これらの改修艦は機雷敷設能力は低いものの、兎に角敵の進行方向にばら撒くように散布して妨害を続けており、その度に共和国軍は侵攻スピードを落とさねばならなかった。
何度か敵の機雷原を大きく迂回するか艦隊を一旦月軌道上まで浮上させその後再び月面に降下する案も検討されたが、そうすると都市制圧用の陸上部隊を見捨てる形となり何よりも、事前の補給路から離れれば離れる程補給が痩せ細っていくのは自明の理であった。
共和国軍連合艦隊の諸提督達とその幕僚がああでも無いこうでも無いと議論を続けていく中、1人の幕僚が思いつきといった風にある提案をする。
それは連合艦隊と比べて補給状況がマシな火星師団を先行させ、一気に陸路から月面都市シャワルを陥とそうと言う野心的な計画であった。
共和国軍が今次作戦「B号作戦」において採用し各艦隊および参加部隊に訓練と周知を徹底させた全縦深同時打撃
その原則を破り単独で火星師団を進出させる事に不安を覚えずにはいられない諸将であったが、元々火星師団は地球圏から遥か遠くの火星やアステロイドベルトで活動する軍であり、艦隊の支援がなくとも単独でやれる可能性も十分あったのである。
他にマシな案もなくこうして共和国軍は火星師団のみによる月面都市シャワル攻略を決定した、しかし敵艦隊が未だ健在な中で果たして陸上戦力のみで都市を攻略が出来るのか?
その疑問には最後まで誰も答える事は出来なかった…。
月の宇宙から眼下の大地を疾走していく火星師団を見送る諸提督達の胸の内は、今はまだ誰にもわからなかったのである。
月面都市シャワルを陥落させるべく進発した火星師団は第44独立混成旅団を先頭に都市前面を蛇行する窪地、川状リルを目指し部隊を進めていた。
火山噴火によって流れた溶岩の跡に出来る“リル“蛇行した川状の底を浚い、レアメタルやレアアースを採掘する都市として建設された月面都市シャワルは岸辺に沿ってへばり付く様に都市が形成されている。
総人口は凡そ200万程の中規模都市であり、月面開拓中期から月面最大都市「フォン・ブラウン」と「グラナダ」とを繋ぐ月面リニアレールの重要な中継地点でもあった。
その歴史的にも地理経済的にも重要な都市を手中に収めるべく進撃する第44混成独立旅団は、MSと機甲部隊との混成旅団でありその指揮官はミケーレ・コレマッタ少佐である。
ホバートラックに自ら搭乗し前線で指揮を取る彼の頭上を、共和国軍のMA編隊が通過して次々と爆弾やミサイルが投下され、月面の地平線の彼方で幾つもの爆発と砂埃が立ち上り、後方からも間髪入れず重砲とハイザックキャノンやカチューシャロケット装備のハイザックにマゼラアタック自走砲など1000門近い砲が次々と火を吹き、混成旅団の侵攻方向を耕していく。
その様子をホバートラックから身を乗り出し、ノーマルスーツを着ただけのコレマッタ少佐は双眼鏡越しに次々と爆ぜる月の大地を見て、興奮気味に高笑いし旅団に前進を命じた。
「ターリホー!!旅団前え、一気にファーストダウンだ!!」
コレマッタ少佐の命令で第44混成旅団所属のMSや機甲戦力は月の大地に砂埃レゴリスを巻き上げながら前進を始め、ホバー移動するMS部隊が上げる砂煙に巻き込まれたコレマッタ少佐は慌ててホバートラックの中に避難する。
事前の準備砲撃と空爆により敵の抵抗を粉砕したと思い込んだ共和国軍は、これが連合軍が仕掛けた罠とも知らずどんどんと奥へと侵攻していく。
その様子を巧妙に偽装が施され隠蔽されたトーチカの中から監視していた連合軍兵士は、敵が予定のラインを通過した瞬間に手元の2つあるスイッチの内1つを押した。
ホバー走行するMSハイザックの足元が突如として爆ぜ、猛烈な勢いで砂と岩が濁流の如く吹き出し機体を襲い、崩落した大地によってホバーの浮力と推力を失ったMSは、スラスターを全開にして逃れる暇もなく敵が仕掛けた落とし穴、対MS塹壕に落ちていく。
岩の下敷きになり砂埃に塗れるハイザック、しかし何機かはそれでも穴の底で機体を立ち上がらせ再び戦線に復帰しようとする。
しかし巧妙にも連合軍は予め塹壕の底にも地雷を仕掛けていた、連合軍兵士はもう1つのスイッチを押し再び月の大地が爆ぜて今度は逃げ場のないハイザック達は、崩壊した土砂と岩に飲み込まれ生き埋めにされていく。
「ええいMS隊は何をやっとるか!?敵の塹壕を迂回して先に進まんか」
ホバートラック内の通信機に向かって金切り声を上げてそう叫ぶコレマッタ少佐、通信を繋いでいた部下のMSパイロットは思わずノーマルスーツのヘルメットを抑え渋々といった風に支持に従っていく。
これによって第44混成旅団は当初のルート迂回し頭上から俯瞰して見れば、進行方向から左に旋回して川状リグの岸辺を目指すルートを取る。
しかしこれは同時に敵に側面を晒す事となった、最早偽装の必要は無いとばかりに一斉に連合軍のトーチカが火を吹き第44混成旅団を十字砲火の中に閉じ込めた。
旅団の両側面からの攻撃によって次々とマゼラアタック自走砲やマゼラアイン装甲車は撃破され、重装甲とシールドを持つタフで頑丈なハイザックも四方から撃たれては耐えられる筈もなく、1機また1機と月の大地に倒れ伏していく。
旅団の危機を知った火星師団は麾下のロイ・ジューコフ大佐率いる機甲師団を直ちに派遣し、苦戦する第44混成旅団の救援に向かわせる。
しかしこれによって戦列は弧を描く形で縦に伸び敵に側面突破される危機を与えた、そして当然これを見逃す程連合軍は甘くなく虎の子の
「戦車隊、MS隊と共に前え。スペースノイドの連中に本物の陸戦を見せてやれ」
今までじっと偽装を施されたシートの下で隠れていた戦車隊各車とMS達が偽装を脱ぎ払い、砂埃を巻き上げながら突撃していく。
この時、敵の出現を全く予想していなかった共和国軍は完全な側面奇襲をモロに受け、多くの戦車やMSが敵の出現に気づかずに正面を向いたままであった。
その隙を逃すまいと一台の戦車が放ったレールガンが側面を向けたマゼラアタックを打ち抜き、砲塔部のマゼラトップは何とか浮き上がって脱出を図るも別の車両から攻撃を食らい呆気なくスクラップと化す。
「戦車は宇宙なんか飛ばないんだよ。連中を教育してやる」
マゼラアタックの飛行機能も一度タネが割れてしまえば、連合軍にとって単にデカい戦車(共和国軍では自走砲と呼ばれるが連合軍では戦車と区別している)でありザフトの戦車擬ことザウート同様に戦場ではいいマトであったのだ。
一方月面上空ではこれを察知した共和国軍のMAガトルやコアファイターとビグロが連合軍への阻止攻撃を図るも、新型MAコスモグラスパーが割り込んで制空戦闘を行い、MS並みの機動力と運動性能を誇る敵機の性能の前に、有効な攻撃を行う事が出来ずに後退するはめとなる。
共和国軍はならばとMS部隊を月の宇宙に飛ばし相手の後方への躍進攻撃を図ろうとするも、事前の偵察で発見できなかった連合軍の重層的な対空砲陣地からレールガンやミサイル、イーゲルシュテルン果はビーム砲によって次々と撃ち落とされ攻撃は失敗に終わった。
その間にも連合軍の反撃は火星師団側面に深く食い込み、両軍の兵士や兵器が入り乱れて混戦状態に陥り戦闘によって発生した敵味方の残骸を含む砂埃は戦場全体を覆いセンサー類を狂わし、益々航空支援を難しくしていく。
「砂埃で何も見えないぞ!?センサー類も全部オシャカだ」
「戦列がグチャグチャで敵味方の判別もつかん。これじゃ迂闊にビームライフルが使えないぞ」
「戦車隊は後退しろ、足元で動き回られて邪魔だ!」
「クソ味方とハグれちまった。今そこにいるのは敵か味方か?誰か答えてくれ」
「距離が近すぎて敵の通信と混線してるぞ!?誰も気づいてないのか」
連合軍に脇腹を突かれた共和国軍のパイロット達は、不慣れな混戦で視界や僚機との通信が絶たれまた得意の中遠距離射撃戦を封ぜられて不得意な近接戦闘に持ち込まれてしまった為、鮮烈が崩れ敵味方双方が入り乱れて益々混乱を助長した。
対する連合軍は最初から共和国軍相手に砲射撃戦を挑む気など更々無く、逆にザフトのMSパイロット達の様な近接格闘戦を挑んでいく。
「連中は乱戦に不慣れだ、ストライクダガー全機ビームサーベルを掲げろ!それで敵味方の識別は十分だ」
「幾ら*1ドンガメの装甲が固くとも、ビーム兵器の前には無力だ。恐れず切り込め!!」
「月面戦車隊は後方で支援に徹する。敵の逆包囲を警戒しつつ、MS隊の突破を援護するんだ」
ハイザックの装甲をビームサーベルで切り裂き、足元をウロつくマゼラアタック自走砲を蹴り飛ばし連合軍は共和国軍の戦列に楔を打ち込んでいく。
その戦い方は数に任せた従来の連合軍と言うよりも白兵戦を重視するザフトMS戦術のそれに近く、互いに憎み合う者同士が相手の戦術を研究しその回答が同じMSによる白兵戦闘であったと言う点で、やはりナチュラルとコーディネイターは祖を同じくする人類であった。
互いが互いを突破し包囲殲滅を図らんと旋回機動を続けるその様は、まるで2匹の蛇が相手を飲み込まんと両者の尾を咥えて離さない姿に似ており、戦局は機動戦から熾烈な消耗戦へと陥っていた。
しかしここまでの道中で補給が途絶えがちであった共和国軍と都市から近く万全の体勢で迎え撃った連合軍とではやがて両者の継戦能力に差が出始め、物資や兵士の気力体力共に限界の近い共和国軍と違い連合軍は今までの敗走続きの鬱憤を晴らすが如く旺盛な士気で果敢な攻撃を仕掛けていく。
特に先鋒の第44混成旅団と増援のロイ・ジューコフ大佐の機甲師団の消耗は激しく、月面上空からの爆撃と四方からの熾烈な十字砲火によって彼らの足は完全に止まり、守りを固めて防戦一方に陥っていた。
今や戦局は巨大な袋小路の中に嵌り込み、その気を逃さず連合軍第10艦隊提督ジョージ・モゴメリー提督は麾下の艦隊を出撃させ、事前の計画通り火星師団の完全な殲滅を企図した立体的な包囲網を形成しにかかる。
「敵の機動は完全に止まった、これより艦隊を出撃させて敵を完全に包囲殲滅する。総員戦闘配置、スペースノイドを皆殺しにしろ!!」
提督の命令によって月面都市シャワルの宇宙港から続々と連合軍第10艦隊が出撃し、都市前面に広がる川状リグで激闘を繰り広げている両軍の頭上を覆う様に艦隊を展開させていく。
本来ならば敵を完全に包囲下に置いて出撃する予定であったが、思った以上に敵の抵抗が激しくこれ以上時間をかけては敵艦隊が到着する危険性もある事から出撃を命じたのである。
月面に対して並行で平らかな陣形を組み絨毯爆撃体勢を整えていく連合軍の艦隊、対する共和国軍は陸戦に気を取られて自分たちの頭上に敵艦隊が布陣し始めているのに気付くのが遅れ、逃げようにも最早どこにも隠れる場所は無かった。
頼みの綱の共和国軍連合艦隊本隊は未だ機雷原の足止めに手間取っており、共和国艦隊が到着する前に火星師団が持ち堪えられる見込みは
火星師団の将兵らは自分達の運命が極まった事を悟り、逃れられぬ破滅の時をただ待つのみしかなかった…。
旗艦と共に出撃した連合軍第10艦隊提督ジョージ・モゴメリー提督は手を振りかざし、後はそれを勢い良く下せば彼の艦隊は月面の敵に向けて猛爆撃を開始し、あっという間に敵を殲滅出来る筈であった。
しかし、彼が手を振り下ろそうとしたその刹那、旗艦のオペレーターから緊迫した声が艦橋に響く。
「新たな敵艦隊出現!こちらに真っ直ぐ向かってきます」
艦隊右翼より突如として現れた新たな艦隊、しかしその方面は連合軍と協力を結んでいる月面都市「エアーズ市」のある方角であり、そんな報告を一切受け取っていないモゴメリー提督や連合軍将兵の混乱は大きかった。
果たして一体どうやって共和国軍は敵とその同盟都市の監視網を抜けてここに来る事が出来たのか?
話は少し遡らなければならない…。