第37話
プトレマイオス基地攻囲戦その1
時に
共和国本土ズムシティでは先のコンペイトウの戦い以来の慣例となった大規模な花火が打ち上げられ、作戦の成功と都市の開放を祝い5月25日は国民の祝日として記念される事となる。
共和国本土コロニーと月の解放された都市の市民達は勝利の美酒に酔いしれ、彼方此方で戦勝祝賀ムードのパレードや行事が計画されて通りには屋台や出し物が立ち並び、着飾った人々は今が戦時だと言うことを一時忘れ笑顔で通りに出て行く。
一方で連合軍の月本部ことプトレマイオス基地の司令部は完全にお通夜ムードを漂わせていた、僅か2週間余りで連合軍は4個宇宙艦隊とシャワルを始めとした重要都市を失い、並びに月の支配領域の大部分を奪還されてしまっていた。
無論今だに月面最大の都市「フォン・ブラウン」は連合軍の支配領域にあり、月面各地の拠点及び地球軌道上より呼び戻した第1、第2宇宙艦隊と合わせて200隻を超えプトレマイオス基地の守りを固めてはいるものの、月の連合軍の敗退は誰の目にも明らかであり各地でレジスタンスや連合からの離反などの反乱の目が燻り始めていたのである。
早急に月の連合軍は威信を回復させ動揺する月の支配領域を安定させなければならなかったが、しかし更に追い討ちをかける様に今現在連合軍はザフトによりパナマが攻略されてマスドライバーを失い、地球からの補給に頼っていたプトレマイオス基地は生命線を絶たれ早々に干上がる危機を迎えていた。
一応月の連合軍は長らく各月面都市に対する圧政と搾取を続けた結果基地に内部には大量の物資を蓄えてはいたものの、共和国、ザフトと度重なる敗北によってこれまで通り武力を背景とした強制徴発を行う事は難しく、また仮に略奪を行った場合今度こそ月全土での一斉蜂起の可能性が予見されていたのである。
つまり今のプトレマイオス基地は補給を絶たれ周囲の安全すら覚束ず、全くの孤立無縁の状況に陥っていた。
そしてその状況を見過ごすほど、共和国軍もティアンム大将も甘くは無かったのである…。
解放した月面都市シャワルで万全の補給を受けられた共和国軍は戦力を回復し、また後方予備に当てられていたグラナダ防衛軍や本土からの更なる増援部隊も合流して、今やその兵力は全軍の半数に当たる1000万を数えていた。
結成当初の地球連合軍が保有する宇宙軍の総兵力が600万人程度であった事を考えると(プラントは最盛期でも200万人程度がザフトに参加、無理をしても300万人に満たない数であった)、共和国一国で数カ国が加盟する連合軍を兵力で大きく圧倒するまでに、途方も無い苦労と努力に夥しいまでの犠牲(主に難民からの志願兵達)を払った結果である。
無論これは地球上の国家である地球連合とコロニー国家である共和国との環境に由来する“選択と集中“の違いによるものであり、連合軍がザフトと地球のマスドライバーを巡り熾烈な地上戦を繰り広げ(オマケにNJ被害による膨大な難民や被災地域を抱えつつ)ていた間に共和国は地上戦線を必要最小限に納め、国力の全てを宇宙軍の拡大と育成に注ぎ込んでいた。
当然かなり無理をして作り上げた宇宙軍は、今の規模を維持したまま戦争が長引けば2年で国家が破産するほどであり、故にティアンム大将は今年中に宇宙での決定的な勝利を目論んでいたのである。
共和国史上初の4つの連合艦隊が一つの戦場に集まり月面上空を圧する800隻を超える大艦隊と、月の大地を進撃する火星師団を中核とする陸戦部隊が、連合軍月本部ことプトレマイオス基地を目指し進撃を再開していく。
「復讐は神聖なり!スペースノイドの神の加護は我等にあり!この戦いをもって月を連合の支配の軛から解き放ち、圧政に晒された同じ
出撃前のティアンム大将が行った演説により将兵達の士気は否が応なく高まった、この頃には連合軍が月で行った数々の蛮行はその証拠と共に共和国軍兵士達が知る所となり、同じ宇宙に生きる同胞が受けた恨みを晴らすべく怒りと復讐心に燃え上がっていたのである。
共和国軍将兵達は「復讐は神聖なり!」を合言葉に猛進撃を進め、当然連合軍は共和国が再び侵攻を再開した事を察知しプトレマイオス基地に篭って徹底抗戦の構えを見せていた。
基地に籠る連合軍第1、第2そして新設されたばかりの第11宇宙艦隊が共和国軍を待ち構え、対する共和国軍は3方向よりプトレマイオス基地を包囲し、ここに両軍の月と宇宙の覇権を巡る最後の決戦の火蓋が切られのである。
時にC.E.6月1日、地球では連合軍による中立国に対する連合加盟キャンペーン「ワン・アース」が始まり、メディアやネットを通じての世論工作の裏で軍事力を背景としそれまで以上の恫喝を行なっていた。
しかし同時に中立国の多くは月での共和国と連合軍との決戦の様子に大いに注目し、仮に連合軍が宇宙での拠点を失った場合マスドライバーも失い宇宙に上がる手段を失った連合の敗北は明らかであった。
この為スカンジナビア王国や赤道連合、汎ムスリム共同体などの中立国は(この内後者2カ国は裏で共和国で繋がっている)、宇宙での結果が出るまでのらりくらりと連合の加盟要求を躱す構えである。
反対にオーブ連合首長国はマスドライバーカグヤと技術力に優れるモルゲンレーテ社、並びに南太平洋の火山諸島と言う立地がザフトの地上拠点カーペンタリア基地の目と鼻の先であり、これら上記の理由から他の中立国以上に地球連合からの厳しい圧力に晒されていた。
当然の事ながらオーブへの圧力は地上のザフト並びに共和国地上軍も大いに注目するものであり、ザフトは公的に大使館を通じて軍事同盟を打診し共和国軍は赤道連合領土内に密かに建設中のニューギニア基地から、オーブ国内及び連合軍への諜報作戦を行いその結果連合軍によるオーブ併合作戦が近いとの情報を察知した。
諜報員が潜入した連合軍太平洋のハワイ基地では大西洋連邦の第4洋上艦隊が出撃準備を進めており、同艦隊は先のパナマ基地防衛戦にも参加しなかった為高い戦闘力と規模を維持し、オーブ一国程度なら簡単に捻り潰せるだけの戦力を保有していたのである。
更には連合軍の新兵器が配備されるとの噂もあり、共和国地上軍はこれらの情報を纏めたものを本国へと送り、連合軍によるオーブ侵攻近しとの報はティアンム大将が早急とも言える再侵攻を始めた理由の一つであった。
しかしジャブローに籠る地上軍は太平洋に注目する余り自分達の足元への注意が疎かになっていた、先のパナマ防衛に失敗した連合軍であったが戦力の大部分は無事なままであり彼らは名誉挽回の機会を伺っていたのである。
そして最も手頃な目標として彼等は南米にその目を向けようとしており、水面下で密かに準備を進めていくのであった…。
一方月のプトレマイオス基地を包囲した共和国軍は、3方向より連合軍の守りを打ち崩さんと攻め寄せていた。
「ありったけのビームとミサイルを撃ち込め!!数でも火力でもこちらが上だ」
「弾を惜しむなよ、必要なら後方から幾らでもおかわりがある」
アレキサンドリア級重巡洋艦の主砲から敵艦目掛けてビームが放たれ、側面援護をするサラミス級巡洋艦からミサイルの弾幕射撃が敵の戦列に殺到し、対する連合軍はアンチビーム爆雷と迎撃ミサイル、イーゲルシュテルンで防ごうとする。
「アンチビーム爆雷、アンチミサイル投下!敵を近づけさせるな」
「護衛艦は密集してコンバットボックス隊形を組め。弾幕を集中して艦隊への被害を防ぐんだ!」
しかし圧倒的な火力投射量を誇る重砲兵師団の援護を受ける共和国軍艦隊の火力は、最早月面上空を貫く巨大な光の柱でありビーム撹乱膜は僅かな抵抗も出来ずに剥がされ、数百数千を超すミサイルの飽和攻撃は連合軍自慢の対空兵器を無力化し敵艦隊に次々命中していく。
ネルソン級宇宙戦艦に施されたラミネート装甲は集中されたビーム砲撃によってあっという間に限界を迎えて自壊し、懸命に迎撃を試みたドレイク級護衛艦は何も守れず対艦ミサイルが突き刺さり敢えなく爆沈する。
周囲の護衛を失ったアガメムノン級宇宙空母は逃げる間も無く共和国軍の砲火の飲みこまれ出撃を待っていた艦載機ごと宇宙の塵へと変わり、共和国軍の猛攻によって連合軍の前線に穿たれた穴に向かってムサイ級軽巡洋艦が突入し、傷口を深く抉ると共に戦線に明けられた穴を更に拡大していく。
激しくも一方的な艦隊戦が行われている向こうで両軍のMSやMAが制空戦闘を繰り広げられ、数千を超す共和国軍MSの圧倒的な数を前に、地の利を活かし尚且つ基地の備蓄を切り崩してMSを量産し前線に逐次投入して対抗するしかない連合軍。
「マラサイ部隊は敵の攻撃を受け止めつつ前進!ハイザックは戦線の維持ゴブリンは側面からの強襲を警戒」
隊長機を示すブレードアンテナを頭部に装備したマラサイが部下達に指示を出し終えると、自らも前線の戦闘に加わって敵と激しい攻撃とビームの応酬を行う。
連合軍MS部隊は共和国軍の数の圧力に対抗すべく密集陣形を組み、互いに機体を庇い合う様にシールドを前に突き出しビームの弾幕を放っていく。
「撃て撃て撃て!1機でも敵を多く減らすんだ」
「シールドの影から機体を出すなよ、2、3発程度ならこの距離でも耐えられる」
戦場を貫く無数のビームの雨、宛ら五月雨の如く敵を一切近づけまいと放たれる攻撃はザフトのジンでは手も足も出なかっただろう、しかし共和国軍MS部隊の弾幕はそれ以上であり彼等は敵数百機のMSと同数のビームライフルに対して数千の機から数千門のビームライフルでもって応じ、五月雨どころか戦場を吹き飛ばすハリケーンであった。
連合軍MSは吹き飛ばされまいとシールド必死に構えて耐えようとするも、しかし火力至上主義の共和国軍にあってこの攻撃は敵への単なる牽制に過ぎず、メガランチャーやバストライナー砲を持ち込んだハイザックやゴブリンらが陽電子砲で敵の戦列を薙ぎ払っていく。
MSのビームライフルに耐えられても不可能を可能にする男意外に戦艦や要塞の主砲クラスの火力を受けきれる筈も無く、シールドを構えたストライクダガーの戦列は機体を分子レベルにまで分解され、連合軍のパイロット達は悲鳴を上げる間も無く宇宙に散っていった。
「陽電子ビームなんて聞いてないぞ!MSを戦艦の主砲で撃つなんて卑怯じゃないか!?」
味方が目の前で陽電子ビームに飲みこまれ、塵一つ残さず消滅したのを目の当たりにしてストライクダガーのパイロットは通信回線をオープンにして思わずそう叫んでしまう。
最もその共和国軍からすればビームを防ぐ盾を持ってるから仕方の無い事であり、敵が幾ら卑怯と叫んでも相変わらずメガランチャーやバストライナー砲の砲撃を辞めないのであった。
連合軍MS部隊は甚大な被害に堪らず砲撃を阻止しようと精鋭パイロットが乗る105ダガーと支援機コスモグラスパーを差し向けるも、共和国軍MS部隊の分厚い壁を前に目標に辿り着く事すら出来ずに貴重な精鋭戦力をすり潰されていく。
無論個々人や小規模な戦いレベルでは連合軍MSも善戦した、時に数倍の敵を撃退する事もあったがそれらは戦局に微々たる影響を与える事もなかったのである。
最早MS戦は個々のMSの性能やパイロットの技量を超えて単純な数と火力のぶつけ合いになっており、無慈悲で容赦のない暴力の応酬の前では小手先の戦術など簡単に飲みこまれてしまうのであった。
ここに例えザフトの核動力MSがあったとしてダース単位で用意しても、共和国軍の暴力の大津波を完全に防ぎ切る事など出来なかっただろう。
しかも今此処にいるMSは共和国軍の全力では無かった、同規模の部隊がまだ交代要員として待機しており月の大地では火星師団所属のMS達が連合軍の月面戦車を蹴散らしていたからだ。
戦列を並べたカチューシャロケット装備のハイザックやゴブリンから数百発を超えるロケット弾が推進剤の尾を引いて大地を耕し、240mmキャノンを構えたハイザックキャノン部隊からの砲撃によって連合軍月面戦車が吹き飛ばされ、トーチカや陣地はロケット弾の集中豪雨を受けて爆炎に包まれていく。
味方の戦車やトーチカがヤられ塹壕を捨てて逃げ出そうとする連合軍兵士達を、突進するマゼラアタック自走砲やマゼラアイン装甲車の履帯が引き潰し、車体正面の35mmバルカンの掃射を受けて月の灰色の大地に赤い飛散物を撒き散らす。
火星師団の攻撃は他の戦線と比べても容赦の無さで遜色がなく、連合軍兵士達は降伏する暇さえ与えられず砲弾で吹き飛ばされるか、ロケットで焼き殺されるか、履帯で轢き潰されるか、捕まって嬲り殺しにされるかの何れかの運命を辿った。
彼ら火星師団をはじめ月面各所の都市を直接開放してきた陸戦部隊達は、当然ながら連合軍が各地に残した強制収容所や強制労働の現場を目撃しそれらを解放してきた為、一際連合軍に対する攻撃が激しかったのである。
共すれば現在連合軍を攻撃している共和国兵士達の戦意を支える憎悪と復讐心の源泉は、連合軍が過去に蒔いた種にこそありそれはナチュラルとコーディネイター間の憎悪よりも激しいものであった。
それでも連合軍はプトレマイオス基地という地の利と援護を受けて善戦しており、特に基地の支援を受けられる範囲では連合軍宇宙艦隊は完全に崩れる事は無かったのである。
彼等もここが正念場だと認識しており、それまで加盟国同士でのいがみ合いや主導権争いにブルーコスモスとの権力闘争を繰り広げていた連合軍が、自分達の危機に瀕して漸く一致協力した姿勢を見せ始めていた。
プラントのコーディネイターと言う脅威にさえ協力する事が出来なかった連合軍が、何故此処に来て過去の蟠りを捨てたかと言うとそれは自らが月で起こした過ち故であった。
加盟国の国軍からなる連合軍は結成当初こそ愛国心や地球防衛と言う高い志を持つ地球圏屈指の軍隊であったが、初戦の大敗とエイプリルフールクライシスによる被害並びにブルーコスモスの浸透によって人的な劣化が急速に進み、*1士気やモラルはドン底をつき結成当初の高い理想は見る影もなかったのである。
特に月の連合軍は上は将官から下は末端の兵士に至るまで腐敗し月で数々の蛮行を行い、各月面都市で金品の略奪、理由の無い暴行、コーディネイターやその家族への殺戮、婦女子への強姦、無抵抗な者への虐殺を欲しいままにし月市民からその恨みを一身に受けていたのである。
例を挙げればとある都市で平和デモ行進を行なっていた市民グループに対し、鎮圧に出た部隊は銃弾で持って応じ多数の市民を虐殺した「血のデモ行進事件」、夜中に住宅地に押し入って住民を拉致し強制収容所に連れ去った「ナイトレイド」、コーディネイター系住民が経営する店舗が多い通りに連合軍兵士達が押し入って商品を略奪し、店主とその家族に激しい暴行を加えた末にスパイ容疑で逮捕拘束し最後には通りに火を放った「炎の夜事件」などこの他書ききれない様々な事件を引き起こしていた。
それ故例え降伏したとしても彼等が犯した数々の罪や乱暴狼藉、戦争犯罪、ジェノサイドの証拠が明らかにされ戦争犯罪者として裁判にかけられ極刑に処されるのは無論の事、怒りと復讐心に燃える月市民達からの凄惨な報復が待ち構えていた。
自業自得の末に月の連合軍には降伏の道はなく、彼等には勝って勝者として全ての罪を逃れるしか生き残る道は無かったのである。
つまり共犯者同士の負の紐帯が結果として真の意味での“連合軍“を結成せしめ、月市民の怒りを背負う共和国軍の猛攻を何とか堪える力を発揮していたのであった。
思わぬ敵の奮戦に数で勝る共和国軍は更なる攻勢を加えようとするも、包囲網の一角をになる共和国軍第4連合艦隊提督ジーン・コリニー中将は対面する敵第11艦隊の動きが鈍いと見ると、艦隊に徐々に後退する様に指示を出す。
「敵をプトレマイオス要塞から引き離す、徐々に艦隊を後退させ予定ポイントまで誘き出すのじゃ」
今まで敵の圧力に晒されてきた連合軍第11艦隊は特に徴兵されてまもない18歳の少年兵士達と敗残兵の集団で構成されており、到底戦力としては数えられない艦隊であった。
しかし今の連合軍にはこんな部隊でも矢面に立たさざる得ず、精々敵の弾除けとして役に立ってくれればそれで良いと半ば司令部や他の味方艦隊から、見捨てられた立ち位置にあったのである。
それ故に鬱憤が溜まっていた彼等がコリにー艦隊が徐々に後退したのに釣られて、艦隊を段々と前のめりにさせ敵を深追いしてしまったのは致し方のない事であった。
基地の司令部で戦況をモニターしていた月の司令官達は、持ち場を離れ基地から引き離されていく第11艦隊を見つけて慌てて引き返す様に命令を出すも一歩遅かった。
「今ぞ、重砲兵師団前え!」
月面の伏せられてい重砲兵師団は、コリニー提督の命令により今まで自分達を覆っていた偽装用のカバーを脱ぎ払いその姿を露わにする。
まさか自分達が罠にかけられたと知らなかった連合軍第11艦隊は重砲兵師団に柔らかな腹部を晒し、既にエネルギーの充填を終えていた同師団は敵艦隊を真下から串刺しにする様に砲撃を加えていく。
レールガンやキャノン、ミサイルにビーム砲が剣山の如く敵艦隊の真下に突き刺さり、戦艦や空母が次々と爆沈していきマトモな訓練を受けて来なかった未熟な兵士達と士気の低い敗残兵達は碌な対策も打てず、重砲兵師団に一方的に狩られていくばかりであった。
慌てて基地を守る他の連合軍第1、第2艦隊が両翼を伸ばして救援部隊を差し向けようとするも、そうはさせじと対峙する共和国軍のティアンム、ワッケイン両提督の艦隊が激しい砲撃を加えて妨害する。
「敵の伸ばした両翼の頭を叩け、戦列の薄い敵艦隊はそれ以上部隊を割けず直ぐに引っ込めるはずだ」
ティアンム提督旗艦タイタンや他のアイリッシュ級宇宙戦艦から敵艦隊の両翼先端部に向けて長距離ビームが放たれ、薄く伸ばされた戦列を濃密な火線が飲み込み敵艦隊に少なく無い被害を与えていく。
「マズイ、このままでは被害が大きくなるばかりだ。致し方ない一旦後退させ、艦隊を再編する」
ティアンム提督の的確な指示により対峙する連合軍第2艦隊のルホール提督は第11艦隊救援を諦め、同様に連合軍第1艦隊シドマー提督もワッケイン提督の巧みな艦隊運動と火力の集中で同様に阻まれた。
「敵両翼の薄い箇所を突破したまえ、ムサイ戦隊を紡錘陣形で突入」
「敵将はこちらの薄い箇所の突破を狙っている、両翼を戻して陣形を再編する」
ワッケイン提督の企みに気づいたシドマー提督は慌てて伸ばした両翼を引っ込め、もし気づかなければ両翼の薄い所を突破され艦隊中央を危険に晒してしまいかねなかった。
シドマー、ルホール両提督は地球軌道上の守りを任されまた相手の策を見破るなど決して無能な軍人では無かったが、しかしながら数と戦力で劣りまた足手纏いを抱えたままでは両提督はその手腕を思う存分発揮出来なかったのである。
その間にも連合軍第11艦隊の被害は増し、月面からの砲撃といつの間にか「U字」型に包囲するコリニー提督の艦隊によって立体的な十字砲火を浴びせかけられ、半数以上が撃破されて堪らず味方を置き去りにしたままプトレマイオス基地内部へと逃げ帰ろうとした。
「今じゃ、同時並行追撃作戦開始!」
しかしそれこそコリニー提督の狙いであった、提督は逃げる敵艦隊の後尾に自らの艦隊を突入させてわざと混戦状態を生み出し、追い立てられた敵艦隊と渾然一体となってプトレマイオス基地防空圏内にまんまと侵入する事に成功する。
当のプトレマイオス基地メインゲートを守る防空指揮所は、突入してくる共和国艦隊を手ぐすね引いて待ち構えていた。
基地を守るのは何も宇宙艦隊とMA、MSだけでなく大型対空ビーム砲、レールガン、ミサイル、レーザー、イーゲルシュテルンなど大小様々な砲座と銃座が合計で1万機以上が配備されていたのである。
これらの援護を受けて、連合軍は3倍以上の共和国艦隊に何とか拮抗する事が出来ていたのであった。
其々重要区画を守る各防空指揮所は一斉に各砲門を基地防空圏内に侵入する敵艦隊に向けようとしたが、しかしレーダーや赤外線に光学観測からのデータや映像から敵味方の反応が入り乱れ、指揮官は思わず攻撃指示を出しあぐねた。
「クソ、味方が邪魔で狙いがつけられない」
「11艦隊の穀潰し供め、味方の足を引っ張る事しか出来ないのかよ!?」
苦労して照準を合わせても味方艦が重なってしまい、各防空砲座の砲手達は味方の無能ぶりに怒りを露わにし罵ったが、これはあまりに無慈悲と無理解に過ぎた。
第11艦隊司令部は混乱する状況で何とか味方艦隊を基地メインゲート内部に退避させようと、犠牲を出しながらも懸命な努力を行なっていたからだ。
しかも混戦状態とは言え半減した第11艦隊とその倍以上の戦力を誇る共和国軍コリニー艦隊が入り乱れ混戦状態に陥っても、敵の方が相対的に多く基地からの支援攻撃は着実に被害を与えていたのである。
またこの様な混戦状況では宇宙戦艦よりも小回りの効くMSやMAの方が活躍し易く、連合軍の主力量産MSストライクダガーはバズーカやで武装しMAメビウスやコスモグラスパーも大型対艦ミサイルを腹に抱えて敵艦目掛けて突撃して少なくない損害を与えていく。
しかしその彼等の努力を嘲笑うように、コリニー提督は混戦状態の自艦隊を予め定められた作戦行動に移させた、その結果戦況は一転し見事な艦隊運動と統率を持って共和国軍第4連合艦隊は連合軍第11艦隊の上方を占有し、プトレマイオス基地の各対空砲座と自艦隊の間に敵艦隊を挟み込んだ。
連合軍プトレマイオス基地防空司令部は頭上の味方艦隊が邪魔で敵を攻撃出来ず、反対に共和国軍は敵艦隊を上方より押し潰すように圧力を加え敵をメインゲートへと追い込んでいく。
更にはオマケとばかりに共和国軍の流れ弾は基地に降り注ぎ、ビームが砲座を吹き飛ばし迷い込んだミサイルをイーゲルシュテルン対空砲が迎撃し何とか撃墜するも、高速で飛来するレールガンの弾は防げず基地の施設に大穴を空けられる。
破壊された施設からは中に居た兵士達が虚空へと吸い出され、ノーマルスーツを着用していなかった者は突如として真空の宇宙に放り出され、呼吸も出来ず血液が沸騰し強烈な放射線に被曝して無惨な亡骸を晒していく。
当然ながら他の連合軍宇宙艦隊も手をこまねいていた訳ではなく、何とか第11艦隊から敵を引き離そうと努力したが、コロニー提督が独自に立案した同時並行追撃作戦に触発されて功績を独り占めさせまいとティアンム、ワッケン両提督の両艦隊は苛烈な攻撃を繰り返した。
元々全体の兵力差と艦隊数でも負け、その中で何とか善戦していた連合軍第1、第2艦隊は危機に瀕する第11艦隊を救う余力は無く、このままではメインゲート陥落は時間の問題かに思われた。