機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第38話

プトレマイオス基地攻囲戦その2

 

戦況はプトレマイオス基地外縁部から基地中央のメインゲート周辺に移り変わり、共和国軍第4連合艦隊を率いるジーン・コリニー提督は自艦隊下方の敵連合軍第11艦隊に対する攻撃の手を一旦緩め、敵艦隊を盾にしてMSやMA部隊をゲート周辺部に降下させる。

 

既に艦隊に取り付いていた敵MSやMAは重い対艦装備が災いして、動きが鈍った所を迎撃のハイザックやガルバルディによって粗方駆除されており、また提督の指示で敢えて敵艦隊の砲座やミサイル発射管を潰して戦闘力を奪う事に止め、敵艦隊を肉壁として敵対空砲を防ぎつつ共和国軍はまんまと部隊を基地に接近させる事に成功した。

 

ハイザックの一団がメインゲート周辺を守る無数の対空砲座やミサイルで構成された塔の様に高い防空司令部に向けて、一斉にシールド裏に装着したシュツルムファストを撃ち込み、炸裂した弾頭が基部に命中し破片を周囲に撒き散らし周辺施設に被害を与えながら司令部は倒壊していく。

 

生き残りの対空砲が強力なビームで反撃し、離脱しようとするハイザックの背中を撃ちぬき一瞬で敵機を火の玉に変える。

 

即座に別方向から侵入したハイザックがカバーに入り味方をヤった対空砲を血祭りにあげるも、更に横合いから連合軍MSストライクダガーが迎撃に入り両軍のMSが基地上空で入り乱れ、ドックファイトを繰り広げていく。

 

その隙に月面降下に成功したMSマラサイは持ち込んだメガランチャーを1機だけで構える。

 

本来MS2機がかりで運用し1機が射撃をもう1機が運搬兼射撃時に必要なエネルギーを供給する役目を負うが、しかしマラサイの優れたジェネレーターはただ1機で必要な電力の供給を可能とした。

 

コックピットでパイロットがトリガーを引き絞り、メガランチャーの砲門から強烈な陽電子ビームが地表を抉りながらメインゲートへと突き進む。

 

周辺に甚大な被害を与えながらメンゲートの一部を破壊する事に成功したマラサイを脅威に思った連合軍は、大型対空ビーム砲で対抗し味方の施設を巻き込むのも構わず周囲を焼き払っていく。

 

慌ててメガランチャーを捨ててスラスターを全開にして月面の虚空に舞い上がったマラサイを、今度はコスモグラスパーが旋回式ビーム砲と大型機関砲で攻撃し、盾を構えたマラサイは敵の攻撃を防ぎつつビームライフルをマシンガンの様に連射し迎撃を試みようとする。

 

その2機の頭上から燃え盛る戦艦が月面の重力に引かれて基地に落ち、慌てて避難した彼等の目の前で墜落した戦艦は激しい閃光で周辺を一瞬白く染め爆発を起こし、無機質な機械と鉄で覆われた基地の一部地形をクレーターに変えた。

 

プトレマイオス基地の地下に設置された月総司令部では、総司令官が巨大なスクリーンに映し出された月面の様子に歯噛みしていた。

 

「クソ、艦隊の侵入を許したばかりかMSの降下まで許すとは…こんな事は基地建造以来初めてのことだぞ」

 

今まで一度も敵の侵入を許した事の無い月本部は今や彼方此方で爆発や火の手が生じて破壊と混乱の渦中にあり、共和国軍によって自分達の庭どころか家を乱暴に踏み荒らされていた。

 

「しかしメインゲートの突破は許してはおりません。ここを守りきれればまだ逆転の目はあります」

 

参謀の1人が総司令官を宥める様に言った通り今だにメンゲートは健在であり、メインシャフトから通づる地下都市には無数の地下ドックや兵器生産工場が戦闘中でも問題なく稼働を続け、続々と前線に戦力を供給し続けてけている。

 

プトレマイオス基地の心臓部である地下都市が健在であれば、地表の被害など皮膚に傷が付けられたに過ぎず連合軍に致命傷を与えるには不十分であった。

 

無論このまま大量出血を続ければやがてプトレマイオス基地も耐えられない時が来るかもしれないが、基地には予め籠城を想定して最低半年は立て篭もる事が可能な物資がありまた大規模な遠征艦隊である共和国軍の方が、長大な本国とグラナダとの補給線の問題から先に限界が来る公算が高いと連合軍参謀本部は計算していた。

 

しかし連合軍が籠城し持久戦を仕掛けてくる事は共和国軍も事前の作戦会議で想定しており、その為共和国軍は自軍の攻勢限界が来る前に速攻を仕掛けようとしていたのである。

 

そうして同時並行追撃によってまんまとメインゲートにまで肉薄したコリニー艦隊と提督は、この日の為に用意したとっておきの作戦を実行に移していく。

 

「敵メインゲート周辺の対空砲座は粗方叩いた、今じゃ無人艦を突入させるのじゃ」

 

ジーン・コリニー提督の命令一下、爆弾を満載した無人の旧式艦や輸送艦がメンゲート目掛け一斉に突入を開始する。

 

高速でメンゲートに向かって落下もといわざと墜落していく敵艦を見て連合軍は即座に共和国軍の目論見に気がつくも、既に先んじて降下したMS部隊によって周辺の対空砲座や陣地は破壊ないし無力化されており、味方のMSやMAはドックファイトで忙しく彼等に迎撃する手段は残されてはいなかった。

 

「ぶつかるぞ!」

 

誰かが通信回線に向かってそう叫んだと同時に、ぶつかった敵艦が船首を分厚い装甲板に覆われたメインゲートに船体を突き立てその姿は奇妙な塔型のオブジェクトを思わせ、次の瞬間満載された爆発物が一斉に炸裂し赤いとオレンジの爆炎が強烈な衝撃と共に構造物の一部を抉り取っていく。

 

基地全体を震わせる程の衝撃は地下都市にまで響き、総司令部は思わぬ振動で踏み堪えるのもやっとであった。

 

「メ、メンゲートに着弾!?着弾点表面11%が融解ないし完全に破損しています」

 

「第3装甲板までの被害を確認、完全に貫徹されました」

 

「更にメインゲート頭上より新たな敵艦を確認!?今度は2隻づつ第2波、第3波、第4波…まだまだ来ます」

 

難攻不落を誇るプトレマイオス基地のメインゲートは5重の装甲に守られ、その1つ1つが厚さ数mにも達し核弾頭の直撃にすら耐えられる強度を誇っていた。

 

しかし共和国軍の自爆特攻作戦によって装甲板の半分が突破され、しかも敵の攻撃は1隻で終わる事はなく続々と無人艦が突入しその度に連続する爆発によって地下都市は揺れ、基地内には怒声と悲鳴が鳴り響き一部狙いを逸れた無人艦によってプトレマイオスクレーター内に新たに小規模なクレーターを生み出していく。

 

「致し方ない、月面軌道掃滅レーザー砲『オプティクス』用意、目標メインゲート直上!」

 

総司令官の命令に、思わずオペレーター達や参謀達が驚きの声をあげる。

 

「総司令官閣下、しかしメインゲートと敵艦隊との間には我が方の味方が…」

 

「この状況ではやむおえまい。これは勝利の為の致し方のない犠牲なのだ!?」

 

「そもそもこの状況を引き起こしたのは上の艦隊が無能な為であり、我々はその尻拭いをさせられているのだ!」

 

総司令官の本音と入り混じった乱暴な声と爛々と輝く瞳を見て、本来指揮官が下す用兵の邪道を諌めるべき立場にある参謀達は総司令官の狂気に飲み込まれてしまい、唯々諾々と命令に従ってしまう。

 

味方殺しを命ぜられたオペレーター達は顔面を蒼白にしながら月面軌道掃滅レーザー砲『オプティクス』のシステムを立ち上げ、プトレマイオス基地を囲むクレーターの縁から巨大なレーザー砲の砲身が現れエネルギーをチャージしていく。

 

元々は敵の核兵器による飽和攻撃を想定しその迎撃の為に建造された巨大なレーザー砲システムであり、普段はプトレマイオス基地をぐるりと囲むクレーターの縁に隠す様に配置された合計で12基の巨大な砲台が、今その秘密のベールを脱ぎ去ろうとしていた。

 

準備が整い最終セーフティーロックのカバーを外した総司令官は、発射トリガーに指をかけ引き絞った。

 

「スペースノイド共め、目にもの見せてくれる!オプティクス発射」

 

エネルギーを充填されメインゲート頭上に向けられた12基の巨大レーザー砲から一斉に強力なレーザービームが照射され、敵味方双方を巻き込んで12本の青白く輝く巨大な光の柱が一瞬で複数の艦を切り裂いていく。

 

基地上空で激しい艦隊戦を行なっていた共和国軍と連合軍の宇宙艦隊それに月面で陸戦を行なっていた両軍の将兵達はその時だけは誰しもが頭上を見上げ、青白い輝きが虚空に突き抜けるのを黙って見ていた。

 

破壊の光が通り過ぎた後には、ただ四角く切り取られた虚無だけが漂っていたのである。

 

「い、一体何が起きたのじ…!?誰か状況を報告せい」

 

ジーン・コリニー提督が乗る旗艦の直ぐ側を通り過ぎたレーザービームの発振が終わるまで、眩しさに目を覆っていた提督は漸く視界を取り戻して被害状況の確認を急いだ。

 

目の前のスクリーンには先ほどまで旗艦の護衛についていたアレキサンドリア級が真っ二つに切り裂かれて宇宙を漂っており、巨大なレーザーが通り過ぎた空間はまるで巨大で鋭利な刃物が通り過ぎた後かの様に無数のバラバラに切り裂かれた敵味方の残骸が散らばっていたのである。

 

「今の攻撃で艦隊に被害多数、戦力の凡そ10%を損失した模様!」

 

「発射の直前月面で高熱源体を複数確認、恐らくは敵の新兵器によるものと思われます」

 

オペレーターからの報告にコリニー提督は喉を唸らせた、敵は味方の犠牲も顧みず新兵器を使ってきた以上このまま敵地に止まるのは危険であったからだ。

 

「あともう少しでメンゲートを陥せたものの…致し方ない、敵第2射が来る前に速やかに攻撃発起点まで後退するのじゃ。急ぎ味方を収容せい、遅れた者は階級関係なく見捨てる」

 

コリニー提督の速やかな決断により共和国軍第4連合艦隊は当初の攻撃開始地点まで後退を始め、基地に降り立ったMSやMAは取り残されまいと味方艦隊に追い縋り或いは機体を捨てて味方にワイヤーで牽引して貰いながら陣地まで戻っていく。

 

この時連合軍が反撃に出ていれば共和国軍に甚大な被害を与えられただろうし、当然コリニー提督もそれを警戒し覚悟していたがその当の連合軍は自分達が行なった味方殺しの衝撃からの立ち直りと、巨大レーザー砲の再チャージに時間がかかってしまった為である。

 

これは防衛作戦に予備戦力まで駆り出してしまったが為に様総司令部の命令に従える部隊が枯渇しており、仮にこの時プトレマイオス基地内に戦略予備部隊があれば速やかにこれをメインゲートより出撃させ、コリニー艦隊を追撃し散々にこれを打ち破れる可能性を連合軍は棒に振ってしまった。

 

しかし敵を撃退した事には変わらず、どんな形であれ連合軍の勝利は勝利であった。

 

共和国軍は連合軍の新兵器を警戒してコリニー提督の艦隊が後退したのを機にプトレマイオス基地を包囲する第1、第3連合艦隊を率いるティアンム、ワイアット両提督も艦隊を一時後退させる。

 

共和国軍が後退したことで連合軍は漸く残存艦隊をメインゲート内に収容でき、一旦の補給と休養を受ける事が出来たが味方から撃たれ甚大な被害を受けた元第11艦隊の将兵達は今後の戦いで使い物にならない事は明らかであり、連合軍は残る2艦隊だけでプトレマイオス基地を防衛せざるお得なかった。

 

こうして激しくも両軍共に相手に決定的な打撃を与える事が出来ないまま初戦は終わり、長い1日が漸く終わりを迎えたのである。

 

 

 

 

 

共和国軍はこれ以降連合軍の新兵器を警戒して艦隊戦を仕掛けるのを躊躇い、基地包囲を継続しつつ代わりに基地へと続く幹線道路やリニアレールなどの補給路遮断し、並びに基地上空の地球から打ち上げられる物資を受け取るキャッチャーネットを破壊して兵糧攻めに切り替えていく。

 

補給を断たれた連合軍だがそれ以前の戦闘で戦力を大きく消耗して艦隊保全主義に走り、巨大レーザー砲「オプティクス」の射程範囲より外に艦隊を出撃させる事は初戦以降は無くなる。

 

こうして両軍共に持久戦を選択し戦況は完全に膠着し、時折境界線で小競り合いが生じるも無為に時間が過ぎていく。

 

無論持久戦となれば遠征軍である共和国軍は日数と共に衰弱していくの将兵の誰もが知っており、連合軍も共和国軍が遠征の疲労がピークに達するその待ってから反撃に出るのは誰の目にも明らかであった。

 

その前に決着をつけるべく共和国軍は攻撃の焦点を宇宙における艦隊決戦から、今度は月面上での陸上戦へと変えていく。

 

最大の焦点となったのは如何に敵新兵器巨大レーザー砲を無力化するかであり、その為共和国軍が目をつけたのはプトレマイオスクレーターを見下ろす地点、通称ポイント201、203の高地であった。

 

両高地は丁度敵巨大レーザー砲の死角に位置し、ここを占拠し観測拠点を設けて新兵器攻略の橋頭堡にしようと目論んだのである。

 

直様行動は開始されて、火星師団所属の第3軍が差し向けられ同軍は高地占領を目指して進発し、連合軍も当然この動きを察知して先の高地を抑えるべく、MS部隊と月面戦車隊を基地より出撃させた。

 

両軍は高地を挟んで対峙し戦いの行方はどちらが先に高地頂上を占めるかにかかっており、こうしてプトレマイオス基地を巡る戦いその第二幕は両軍の進撃を援護すべく、互いの砲兵部隊からの支援砲撃により始まった。

 

両軍の自走砲が多連装ロケットが大型ミサイル発射機から持てる限りの火力を投射し、相手を叩き潰すべく月面上に紅蓮とオレンジで彩られた爆炎と破壊の痕跡を刻んでいく。

 

その光景を砂埃(レゴリス)を巻き上げながら疾走するマゼラアイン装甲車の天井から半分身を乗り出し、光学スコープを覗き込む若い男性こそ共和国軍第3軍の司令官であった。

 

共和国軍火星師団所属第3軍を率いるギュスターブ・ノーム少将はこの時30代と若く、先の大粛清の影響で連合やザフトに比べて士官以上の階級の平均年齢が低い傾向にある共和国軍にあっても、更に若輩と言える若さである。

 

彼は1年前、月面での訓練中の事故により片方の足首から先を失うという災難に見舞われ本来なら戦時中故傷痍軍人として退役し、本国でリハビリと療養に専念する筈であった。

 

しかし、彼に襲いかかった不運は彼のみならず寧ろ本人は幸運の内に入るものであり、事故当時彼とその上司の他第3軍の主だった将官や参謀を乗せた装甲車が訓練中の味方が設置した地雷原に誤って侵入してしまい、結果装甲車は味方が仕掛けた地雷を踏んで大破。

 

運転手と第3軍司令官と側にいた副官は即死し、他の者も首の骨を折ったり激しく床や壁に叩きつけられたりと重傷を負う中で、片足を負傷しただけのノーム当時大佐は真に幸運であったと言える。

 

事件発生時敵の破壊工作や反戦主義者など国内不穏分子によるテロが疑われたが、関係者への聞き取りと入念な調査の結果単に装甲車の運転手がナビゲーションシステムの操作を間違い、本来の予定ルートを外れて演習地域に気付かぬ内に侵入してしまっていた。

 

実はこのナビゲーションシステムは以前から度々運転中に誤操作を起こし易いという報告が上がっていた曰く付きの物であり、しかし軍の納入担当と製造会社の癒着により根本的なシステムの改善や業者の変更が行われる事なく運用が続けられた結果、今回の事故に繋がったと言う訳である。

 

当時共和国軍上層部の特に不正に関わっていた者達は自分達に責任追及の手が及ぶ事を恐れて事実の隠蔽を図り、数々の隠蔽工作の一つとしてノーム当時大佐を軍に留め彼を『不幸な事故からの奇跡の生還者』として祭り上げ、美談として軍内外に喧伝しまた彼を准将に昇進させ第3軍の臨時指揮官の職に就かせる事で事件への注目を逸らそうとした。

 

しかし当然の事ながらこの様な稚拙極まる工作が蛇蝎蠢く共和国軍で上手く行く筈もなく、この後ナビゲーションシステムを卸していた業者及び軍の納入担当者は人知れず姿を消し、不正に関わり或いは隠蔽に加担した軍人達もその後全員が軍中央から左遷或いは*1どこかへ遠くの宇宙へと離れなければならなかった。

 

軍内部での極秘裏の粛清の手は無論准将に昇進したばかりのギュスターブ・ノームにも疑惑の目を向けていたが、彼本人は穏やかな人柄と負傷をおして任務に実直な軍人であり、不正や隠蔽といったモノにこれまで一度も関わった事のない人生を送っている事が既に事故調査時に判明してい他のである。

 

また隠蔽工作の一環とは言え彼の名は少なからず軍内外で有名となり、本人の妻であるノーム夫人が夫の軍への慰留を求める手紙を共和国首相バハロに直接送っていた為、政府内でもある程度の知名度がありこれ以上のスキャンダルの拡大を嫌った軍上層部は彼を正式に第3軍の司令官に任じ、並びに少将に昇進させたのであった。

 

こうして共和国軍でも珍しい30代での将官が誕生する事と相なったのである、因みに件のナビゲーションシステムの納品会社は事件発生後しばらくしてグラナダのアナハイムエレクトロニクス社に吸収され、以降軍の主な卸し業務をアナハイム社に変わった事をここに記しておく。

 

装甲車に乗ったノーム少将は着込んだノーマルスーツのヘルメット越しに覗き込んでいた光学スコープを下ろし、今彼等が登っている斜面の先共和国軍が203ポイントと名づけた高地頂上を見る。

 

「あれか」と高地を見上げたノーム少将は、誰とも無しに呟く。

 

宇宙から直接降下すればなんて事ない距離でも、碌に舗装されていない荒れた月面の大地をタイヤやキャタピラ、ホバーで進まなければならない彼らにとってその頂上までの距離は途方もないものに思われたのだ。

 

この少し前彼は自軍を高地麓に展開して陣地を構築すると見せかけ、それに釣られた連合軍は高地頂上がまだ手付かずだと誤認し先に共和国軍を排除すべく攻撃を仕掛けたが、それはノーム少将が仕掛けた罠であった。

 

実際には陣地はもぬけの殻であり、後方で有線ケーブルによって遠隔操作された少数の砲兵部隊が敵軍の砲兵と砲撃戦を繰り広げている間に、ノーム少将が乗る装甲車を先頭に共和国軍第3軍は一気に駆け上がり201と203両高地を占領していく。

 

月面での移動時に際発生する砂埃は両軍の砲兵部隊が巻き上げる爆炎が掻き消してしまい、連合軍が事態に気付いた時には砲撃開始から3時間余りも過ぎていたのである。

 

その間に機動力のある装甲車部隊で先に高地を抑えたノーム少将は、頂上からの観測データを麓に展開する重装備の重砲兵部隊に送り、正確な指示によって連合軍が頭上から次々と砲弾やミサイルの雨が降り注ぐ。

 

連合軍陣地の彼方此方で爆発が生じ至近弾で戦車は横転し、MSストライクダガーミサイルを迎撃しようとビームライフルや頭部イーゲルシュテルンで撃ち落とそうとするも、圧倒的な火力を前には焼石に水であった。

 

特に連合軍の砲兵部隊への被害は甚大で、ノーム少将の策略にまんまと引っ掛かり自分達の位置を晒してしまった彼らは陣地を移動する暇も無く、徹底的な砲爆撃を受けて壊滅してしまう。

 

当然連合軍も黙って攻撃されていた訳では無く、高地を取り返さんと機甲師団を前に出して斜面を登り始めるも、その姿は高地からは丸見えであり丁度反対側の斜面に展開する共和国軍からの砲撃に晒されて行く。

 

図らずも高地を挟んで反射面陣地の形となった第3軍は、201、203両高地頂上の観測所から互いに頂上を奪還せんと登っていく敵機甲師団の正確な座標を伝えて敵軍に痛打を与え、弾け飛んだ砲弾の破片と共に荒れた斜面はますます進撃を困難にし、着実に敵の戦力と勢いを削ぎついには進撃そのものを停止させる。

 

「こちら第61戦車中隊!?敵の砲撃が苛烈でこれ以上進めない、至急援護を求む」

 

「誰でもいい上の観測所をどうにかしてくれ、出ないと俺たちはこのまま立ち往生で全滅だ!?」

 

通信機から引っ切り無しに届く悲鳴の様な味方機甲師団からの救援要請に応えるべく、連合軍は観測所を先に排除すべくMS部隊を月面の宇宙へと飛び上がらせて直接頂上に降下しようとする。

 

ここ月面は地球とは違い重力は1/6しか無く、MSの機動力ならば機甲師団の進撃を阻む斜面や敵の砲撃を無視し宇宙からの強襲を可能とした。

 

連合軍MS部隊ストライクダガーは高地麓から勢いよく飛び立ち、スラスターを全開にしてノーム少将ら第3軍装甲車部隊が占拠する201、203両高地頂上をビームライフルの射程に収めようとする。

 

しかし…!?

 

「何だ敵がいないぞ」

 

「まるでもぬけの殻だ、奴ら逃げ出したのか!?」

 

ビームライフルを構えたMSのパイロット達は、コックピットのスコープを覗き込んで見た光景に思わず我が目を疑った。

 

つい先程まであれ程熾烈な砲撃を行なっていたはずの敵が、その要となる観測所を放り捨ててどこかに隠れてしまったのである。

 

無論ストライクダガーのパイロット達は罠を疑ったものの、このまま無血で高地頂上を奪還出来ると言う誘惑に堪える事が出来ず頂上に降下していく。

 

着陸した瞬間MS部隊は敵の奇襲を警戒してシールドを掲げて周囲の様子を伺うも、一向に敵の反撃は疎か姿を現す事も無く高地頂上はすんなりと連合軍の手に落ちたのである。

 

「何も出てこないぞ?」

 

「あるとすれば敵が置いていった装備と…恐らくあれは観測用のレーザー測距儀か?敵さん大分あわてて逃げ出したようだな、あちこちに置き去りにされてるぜ」

 

あっさりと高地を奪還出来たことに連合軍MSパイロット達は拍子抜けするも、相変わらず斜面を登ろうとする味方機甲師団への砲撃は続行中であり、彼らは味方を救うべく頂上から麓の敵砲陣地に向けて一気に逆落としをかけようとする。

 

「今だレーザー照準器を作動させろ」

 

ノーム少将は敵MS部隊が高地頂上を占領したのを確認すると、装甲車の通信機に向かって作戦の開始を伝えた。

 

回収せず頂上の観測所周囲に置き去りにしたレーザー照準器が稼働し、照射されたレーザーは麓の敵機甲師団ではなく今度は頂上のMS部隊に向けられる。

 

その瞬間連合軍パイロット達は自機のコックピット内に突然アラームが鳴り響き、それは敵からのレーザー照準を告げるものであったと気付いた時には既に遅かった。

 

レーザー誘導に従い麓の共和国軍砲陣地から発射された砲弾やミサイルが進路を変えて今度は高地頂上に降り注ぎ、連合軍MS部隊ストライクダガー達を爆炎が飲み込んでいく。

 

至近距離からのレーザー照準によって精密に誘導された砲弾とミサイルの数々は、奇襲を受けた事を鑑みてもMSの運動性を持ってしても回避する事は難しく、連合軍MS達は次々と破壊され残骸へと変わっていった。

 

無論全てのMSが砲撃で撃破された訳ではなく一部はシールドを真上に掲げて砲撃を凌いでいく、しかし油断した所に砲撃を受け混乱する彼等に対しノーム少将は一切の容赦を見せる事なく、予め伏せていた部隊に攻撃を命じる。

 

「全機攻撃を開始」

 

頂上を3方向から囲むように隠れて配置されていた共和国軍MSハイザックやゴブリンが姿を現し、手に持った120mmライフルやPPh短機関銃で攻撃を開始し多くの連合軍MSが真上にシールドを向けていた為、無防備な胴体や背中を撃ち抜かれた。

 

この時、特に活躍したのがMSが両手に抱えるように構える大型の重機関銃、DK-対MS用汎用重機関銃であり127mmの高初速を誇る徹甲弾はシールド事敵機を穴だらけにし、他のライフルや短機関銃と比べても一度に発射できる弾数の多さからまるで曳航弾の光がウォーターカッターの如く伸びて周囲を薙ぎ払って行く。

 

これは余りの発射速度故にMSのカメラが誤認して見える現象であり、薙ぎ払われた敵MSは砲弾が命中した部分から木がチェーンソーで切り倒される様に、胴体部分がもぎ取られ上半身と下半身でなき別れていった。

 

この特徴敵な被害故、以降DK-対MS用汎用機関銃は「電動ノコギリ」として悪名を轟かせて行く事となる。

 

「よし、敵を掃討して高地を取り戻すんだ!」

 

粗方敵MSを排除し終えた共和国軍MS部隊は残敵を掃討しつつ、高地頂上を再び自軍のものとして行く。

 

連合軍が高地頂上を奪還してから10分にも満たない出来事であり、作戦を実行した共和国軍MSパイロット達はその余りの手際の良さにコックピットで冷や汗をかいていた。

 

共和国軍火星師団第3軍司令ノーム少将は30代という若さと繊細な「芸術家風」という顔立ちから、将兵から全幅の信頼を寄せられていたとは言い難く逆に若すぎる新司令官の経験不足を、どうやって補うのかと前線指揮官達は頭を悩ませていたのである。

 

しかしその心配は今回で全て吹き飛んだ、ノーム少将は敢えて最重要拠点である高地頂上を放棄して敵の手に委ね、自軍の被害を最小限に減らしつつ誘い込まれた敵MS部隊をまんまと3方向より包囲し一方的に殲滅したのだ。

 

(普段なあんなに大人しそうに見えるのに、やる事は相当えげつない)

 

戦いに参加したMSパイロット達は心の中で深くそう思い、これ以降第3軍の兵士達は決して司令官に逆らうまいと固く誓うのであった。

 

山頂を取り戻した共和国軍は再び観測所を設けて麓の敵軍への砲撃を開始し、砲兵部隊が壊滅され機甲師団は斜面で立ち往生し頼みの綱のMS部隊までも失った連合軍はこの時点で兵力の47%以上を喪失していた。

 

連合軍は高地奪還を諦め、残存部隊を纏めて無様に撤退を開始して行く。

 

通常部隊の30%を失った時点で壊滅判定され戦闘能力を喪失したものと見做され、指揮官はその前に部隊を撤退させ再編し立て直さなければならない。

 

これを指揮官の有能無能の判断基準とするならば、201、203高地を巡る戦いは連合軍の記録的大敗で終わったと言える。

 

ノーム少将はこの戦いで大いに武名を挙げるも、彼の戦いは奇想天外なものでもまた天才的な発想によるものでもなく、理論と基本に忠実でありつつも決して原則に拘泥するような頑迷さもなく、敵の殲滅に固執することもなく当初の戦略的優位な地形を保って成すべきを為したに過ぎない。

 

彼の本質は官僚的な技術者であり浪漫に溺れず、守っては破綻を見せずミスを少なくし勝因を自らで作るよりも敵軍に敗因を作らせる。

 

こうして高地を巡る戦いは終わり、共和国軍は本来の目的であるプトレマイオス基地を守る敵大型レーザー砲台攻略作戦を始めるのであった。

 

 

 

*1
第2部16話参照

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