機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第40話

プトレマイオス基地攻囲戦その4

 

2機の量産型ビグ・ザムから発射された陽電子砲が開けた巨大な穴に向かって、共和国軍は工兵部隊を先頭に戦車や自走砲などが続きMSやMAがそれを援護しながらプトレマイオス基地内部への侵入を図る

 

「工兵部隊は素早く瓦礫を撤去するんだ、味方部隊の進路を確保しろ」

 

工兵部隊指揮官ソコフキーが部下達を急かし、ショベルを機体全面に取り付けられたザクタンク(ハイザックの胴体に下半身をマゼラベースの工作用MS)が陽電子砲によって抉られた、半円状の穴の底に降り立って瓦礫を撤去していく。

 

ここで障害物の撤去に時間をかけ過ぎれば敵がわんさかと突破口に集まり、守りを固めてしまう。

 

そうなる前に基地内部へと侵入し、橋頭堡を築かなければならなかったのだ。

 

既に工兵部隊の頭上では護衛のMSやMA達が工兵部隊を排除しようと、近づく敵機の群に対処している。

 

護衛のハイザックが右手にビームライフルを、左てに120mmライフルを持って敵機を近づけまいと弾幕を張り、曳航弾とビームの光の尾が虚空を切り裂く。

 

「怯むな、敵の本隊はまだ遠い!叩けるだけ叩くんだ」

 

「スペースノイドの連中を皆殺しにしろ!!」

 

プトレマイオス基地から出撃した迎撃機(インターセプター)達は、怯まず弾幕の中に突っ込み何機かはそのまま火球に姿を変え、幾つかの機はハイザックに向かってガトリングやミサイルを放つ。

 

背後に味方を抱えたハイザックは回避する訳には行かず、敵機の攻撃をモロに受けて至近距離からのガトリングガンが装甲表面で弾け、そこに必殺のミサイルが殺到し直撃を受けて爆炎に包まれるハイザック。

 

護衛のハイザックを抜けて工兵部隊に近づこうとする連合軍の迎撃機たち、しかしハイザックを抜けた先にはまた別のハイザックが現れその後方には何処からか持ち込んだのか、浮遊砲台まで設置されている始末である。

 

共和国軍がいかにこの突破口を守のに力を尽くしているのか、それが視覚的にも分かるがしかしだかと言って連合軍が諦める事は無い。

 

ここで敵に橋頭堡を確保されてしまえば、折角大型レーザー砲台「オプティクス」のお陰で膠着状態に陥った現状がひっくり返り、再び敵の大攻勢を呼び込みかねなかった。

 

それを防ぐ為にも、連合軍はどれ程の犠牲を払おうとも敵を排除せねばならなかったのだ。

 

「クソ、敵の迎撃が激しい!このままでは突破されるぞ、ザクタンク!まだ作業は終わらないのか?」

 

前線指揮車両の中でソコフキーは通信回線に向かってそう叫ぶ、作戦の成否も彼等の命運も作業の完了にかかっていたからだ。

 

『あと5分保たせてください、それまでに完了します』

 

「2分だ!そこまで味方は持たん」

 

通信回線を荒々しく切るとソコフキーは危険を顧みず車外に出て、光学スコープで頭上の様子を覗き見た。

 

どうせ流れ弾1発で装甲もない工兵部隊の指揮車両など吹飛んでしまうのだ、それなら最期に自分達を殺すかもしれない敵の顔を拝みながら死んでやる、そう言った気持ちで彼は外に出たのである。

 

ソコフキーが見上げた月面の空では、共和国軍はますます不利な状況になっていた。

 

連合軍は余程基地内部に入られのが恐ろしいのか続々と頭上には敵機が集結し、共和国軍も負けじと援軍を次々と送り込み月の宇宙は両軍兵器の品評会の様相を呈している。

 

味方の1機のハイザックが3機のストライクダガーに追い回され、撃墜されて火球に変わる姿を見てソコフキーはニヤリと不適な笑みを浮かべた。

 

別に気が狂った訳ではない、火星内戦の時から危険な砲弾飛び交う前線で任務を行なってきた彼が今更この程度で狂うほど細い神経などしていない。

 

いや寧ろとっくに狂っているからこの程度なのか?とふと自分でも疑問に思うがそんな彼の頭上を突然巨大な影がさした。

 

連合軍が誇る全長250mを超す巨大艦、ネルソン級宇宙戦艦がその巨体を月面上に横たえ今まさに月面の彼等を薙ぎ払おうと、主砲を向けその砲門から怪しく光エネルギーを充填しはいじめていたからだ。

 

光学スコープを下ろし戦艦の船底を見上げた時、さしもの彼も等々年貢の納め時が来たのかと観念する。

 

不思議とその時を迎えて彼には恐怖は無かった、戦場に立つ以上これくらい覚悟はしていたし部下達もまた同様であったからだ。

 

せめて自分でも望んだ通り自分を殺す相手の姿を見たまま死んでやろうと、ソコフキーは逃げることも隠れることもせず大胆不敵にその場で仁王立ちして、最期の瞬間を待つ。

 

次の瞬間眩いばかりの光がノーマルスーツのヘルメットの中に入り込み、思わず彼は右手で顔を覆ってしまう。

 

(チクショー、思わず目をつぶってしまったじゃないか!?)

 

しかし不思議と痛覚は無かったビームで焼き殺されるのだからてっきり物凄く痛い熱いは覚悟していた、いやひょっとしたら余りの高熱で痛みを感じる前に体が溶けて蒸発してしまったのかもしれない?

 

ソコフキーは恐る恐ると言った感じで漸く視界が晴れると、ヘルメットには相変わらず自分のノーマルスーツの右手が見え5体のうちどこも欠けてはいなかった。

 

拍子抜けした彼は自分が何故助かったのかと疑問に思うも、もう一度頭上を見上げた先でついさっきまで自分達を殺そうとした敵艦が大炎上を起こしているのを目にした。

 

よく見ると敵艦の周囲を小さな光が幾つも飛び回り、それらから時折光が発せられる度に敵艦の銃座や砲台が破壊され炎が吹き上がる。

 

小さな幾つもの光の内その中の1つが進路を変えて急速にこちらに向かってくる、段々と近づいてくるそれはソコフキーが乗る指揮車両の頭上本の10m〜20mの所まで降りてきた。

 

スラスターの逆噴射で舞い上がる砂埃レゴリスが外にいた彼を襲い、思わず身を低くして衝撃になえるなかヘルメットをガードすべく掲げた右手指の隙間からハッキリとその姿が見えた。

 

一見すると軍の広報で見た共和国軍最新鋭機マラサイに似ていたが、共和国軍では珍しいパーソナルカラーと思わしき青と水色に塗装されしかし所々パーツは違っており右肩シールド上にはミサイルポッドや増加されていると思わしき正面装甲の膨らみ、脚部には明かにてスラスターが増設されており、見えない所を含めてそれが軍の改修機(カスタム)だと見てとれる。

 

『大丈夫かあんた達?俺達がいなかったら危なかったな』

 

突然軍の回線から戦場に似つかわしくない若い声が響いた、恐らくは目の前の機体のパイロットの声と思われるが、いきなり軍の通信に割り込んできた以上に自分達を結果的に助けた相手がまさか明かに子供の声をしていたことに面を食らう。

 

「お、おおう大丈夫だ、助かった」

 

と思わずそんな情けない返事をしてしまうソコフキー、いまだに目の前の現実と通信機から聞こえる声のギャップに脳内が戸惑っていたのである。

 

敵対する連合軍では、あまりに人手が足りずに18歳の子供(共和国では15歳から法的には大人だが、実際には20までは飲酒も喫煙も許可されない)までも戦場に駆り出していると噂では聞いていたが、しかし現実には自軍は明かに18歳未満と思わしき子供をMSに乗せているのだ。

 

しかも明かにカスタムされた最新鋭の高級機に乗って!

 

『ユーマ!一体いつまで油を売ってるんだ、早く戻っていこい』

 

『分かったよ、おっさん!すぐ戻るって』

 

「それじゃ」とでも言いたげに機首を翻して再びスラスターを全開にして上空の戦闘に参加していくマラサイのカスタム機。

 

その様子を、最後までソコフキー達はポカーンと見つめていた。

 

 

 

 

 

突破口を巡る戦いは当初こそ続々と増援を送り込んだ連合軍が優位であったが、しかし共和国軍は珍しく数よりも“質“をとってハイザックやゴブリンではなくマラサイやガルバルディで構成された精鋭部隊を投入した。

 

これは火星師団所属の機甲師団の指揮官であるロイ・ジューコフ大佐たっての願いであり、彼は上申して曰く。

 

『無駄に数を送って犠牲を増やすよりも、最初から精鋭部隊を投入して目的を素早く完遂する方が効率的である』

 

と火星師団上層部の前で宣い、これを受けて共和国軍各連合艦隊から精鋭部隊が集結しプトレマイオス基地突破口確保に送られたのである。

 

参加した著名な部隊だけでもマラサイ重装高機動型を装備する「キマイラ隊」、ガルバルディの練達「ライラ隊」、グラナダ防衛軍の「荒野の迅雷」ビッシュ・ドナヒューに共和国軍開発局肝入りのユウ・カジマ少尉率いる実験小隊(モルモット)部隊等々、これ程の精鋭部隊が集まるのは先のコンペイトウの戦いで起きた「円卓」以来であった。

 

「…」

 

胴体を蒼に塗ったマラサイがビームライフルの一撃で敵機を撃墜し、中のパイロットは特に反応する事もなく次素早くその場を移動して次のターゲットへと照準を合わせる。

 

「カジマ隊長待ってくださいよ!僕達を置いてかないで」

 

「ユウ少尉、そんなせっかちじゃあ愛しのモーリンちゃんに嫌われちゃうぜ」

 

部下達の軽口にも反応せず、共和国軍第11独立部隊通称実験小隊(モルモット)部隊隊長であるユウ・カジマは、淡々とロックオンしたターゲットに向けてトリガーを引き絞っていく。

 

また1機モニターの画面に閃光が生じ、哀れな敵機が撃ち落とされる。

 

「そこ」「そこダァ!」

 

追いついた部下達も負けじと2機で1機の敵機を落とし、これでこの小隊だけで合計6機の敵を撃墜したことになる。

 

同じ様に周辺では敵機の撃墜を知らせる閃光や爆発が次々とコックピットモニターに表示され、自分達と同じ様に派遣された別部隊もまた、凄まじい勢いで敵を駆逐しつつあった。

 

『隊長、既に予定宙域より敵は駆逐されつつあります。本部からは残敵の掃討は後方の部隊に任せつつ、小隊は更に前進せよとのことです』

 

「…」

 

後方で部隊を指揮するオペレーターのモーリン・キタムラ伍長からの指示が伝えられ、ユウ・カジマは相変わらず無口であったが部下達は逆に不平を漏らした。

 

「相変わらず俺達モルモットに上層部は優しくないね、ちったあ労ってくれてもバチは当たらんのに」

 

「仕方ありませんよフィリップ少尉、それが僕達の任務なんだから」

 

「へいへいサマナちゃんはお利口ですこって」

 

『2人とも聞こえているわよ、後で誰かに密告されたくなければ命令には従いなさい』

 

オペレーターを交えた部下達の相変わらずのお喋りは戦場でも変わらず、これが彼らなりの生き延びる“コツ“なのかもしれないとユウ・カジマは思っていた。

 

戦場と言う極限のストレス下にあって如何に正気を保ち、また生き延びるかは自身がどれだけ心身の健康と均等が取れているかに大きく左右されるからだ。

 

「モルモット小隊」と言う不名誉な渾名を頂戴する彼らにとって、この程度の軽口が寧ろ丁度良いのである。

 

命令に従い3機のMSは戦場を移動し、同じように周囲でも戦っていた味方機もそれぞれの方向に散っていく。

 

中にはユウ達と同じ戦場に向かうのか、幾つかの機体が接近し機体のメインカメラは素早く近づいてくる味方を素早く判別して、相手の機体と所属に搭乗者の名前をコックピット画面の隅に表示させる。

 

しかしユウ・カジマは興味なさげに画面を切り替え、再びコックピットモニターには戦場の風景が映し出された。

 

当初星々の瞬きよりも多く思われた敵機は、今や機体のメインカメラが捉えた機だけ見ても数える程に減っており、着実に増援を送る勢いも衰えつつあった。

 

自分達の部隊を含め今回増援に送られた機体は全体で60機にも届かないだろう、対する敵機は少なくともMAを含めても300機近くはいたが、先ほども言った通り粗方味方機によって排除され突破口の安全は確保されようとしている。

 

(連合軍は数の割に動きが半ば機械的、それに明かに慣れていない風だった)

 

内心で敵をそう評価するユウ・カジマ、最も実験小隊として直属の上司共和国軍開発局局長のジョン・コーウェン准将から様々な困難な任務や危険な実戦テストを課せられて、当初10名いた小隊が3人にまで減ってしまう中で生き延びてきた彼等は平均的な共和国軍MSパイロットよりも明かに上澄であった。

 

今では半ば便利屋の様に扱われる彼等だが、しかし数々の試作兵器や実験機に携わっていたからこそ機械的な面で敵機の動きのパターンや、中のパイロットの動きの悪さに気がついたのである。

 

(何か策があるのかもしれない、気をつけなければ!)

 

しかしこれが連合軍の作戦ではと疑うユウ、最もこれは酷な話であった連合軍が漸く自分達でMSの量産機を開発して作り始めてからまだ日が浅く、当然の事ながらそれに乗るパイロット達も機体に習熟しているとは言い難かったのである。

 

連合軍は来るべき反撃に備えて、各地の前線から熟練兵やベテランのパイロット達を引き抜きMSへの操縦訓練を行なっていたが、当然の事ながらパイロットの機種転換訓練が追いついているとは言えず、またOSの問題もあって中々上手くは行ってはいなかったのだ。

 

これはザフトが開発したMSジンは使われている技術こそ既存のモノの集合体であるが、しかし唯一点OS(オペレーション・システム)が問題であった。

 

プラントは地球圏唯一のコーディネイター国家であり、したがって国民はほぼ全て(第一世代の親やハーフに移民を除いて)コーディネイターである。

 

ナチュラルよりも遥かに能力の高い、特に視神経や反射能力学習速度に優れるコーディネイター用に調整されたOSはナチュラルでは扱えず、当然の事ながらコーディネイターを排斥する連合軍では機体を作れても肝心のパイロットが用意できなかったのだ。

 

(この為ブルーコスモスは非人道的な実験の結果、強化人間こと後のブーステッドマンやエクステンデッド等を生み出す事となる)

 

そのOS問題が何とか解決したのが連合軍の「足付き」ことアークエンジェルがアラスカ基地に到着して以降の事であり、つまり月の連合軍パイロットは一か月に満たない訓練期間で実戦に駆り出されているのだ。

 

しかも共和国軍による「B号作戦」発動以降これまでの戦いで連合軍は敗北を続け、折角集めたベテランや熟練兵の大半を失い、代わりに新兵を送り出して穴埋めしようとして更に損害を増すと言う負の循環に陥っていた。

 

実際の所大戦初期から生き残っている連合やザフトの一部ベテランパイロットを除けば、平均的なMSパイロットの技量(難民上がりも含めて)は既に共和国軍の方が高かったりしている。

 

これは後に語ることになるが共和国軍MSの高い生存率とそれに搭載された学習型コンピューターによるものであり、ザフトや連合で採用されるコーディネイター用M.O.S(MS専用OS)と、その改良版であるナチュラル用のMOSとは全く違うシステムで動いているためだ。

 

しかし相変わらず共和国軍パイロット達は自軍兵器への信頼感は薄く、どれ程アナハイム社やペズンが性能をアピールしようとも、一度植えついたイメージは中々払拭できなかったりするもので、『国力や技術で上=機体性能でもパイロットの技量でも上』と言う考えは大戦中ずっと続く根深い問題であった。

 

故に共和国軍精鋭部隊には油断も隙もなく、かえって連合軍の被害を増大させ少数の敵機に多数の味方部隊が撃墜されるという、大戦初期の1機のジンに10機のメビウスが追い回されると言うトラウマを刺激された連合軍上層部は、これ以上の増援を送るのを出し渋み結果として突破口は呆気なく共和国軍の手に落ちる。

 

こうしてプトレマイオス基地に穿たれた突破口を巡る戦いに勝利した共和国軍であるが、連合軍はこれで諦める事なくプトレマイオス基地地下の総司令部は徹底的なゲリラ作戦を打ち出していく事となった。

 

 

 

 

 

 

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