ジャブロー降下作戦その4
「お見事ですマ・クベ司令!これで潜入した敵は全滅です」
「連合め思い知ったか!」
ジャブロー地下作戦司令部にてマ・クベ大将直々の敵潜入部隊撃滅作戦を見た参謀達は、口々に賞賛の声を贈った。
マ・クベ大将は本国では次期後方勤務本部長と期待される軍政家であったが、しかし今まで彼の実戦における指揮を見た者は無く今の今までその指揮能力には部下達の多くは疑問符を持っていたのである。
それは今や払拭され、自分達の司令は本国の提督達に負けず劣らずの戦巧者であると将兵達は大いに誇りに思うのであった。
だがここに副官のウラガン少尉がいれば彼の上官の常ならぬ態度に疑念を思った事だろう、態々自ら陣頭指揮に立って作戦指揮を取るなど常のマ・クベ大将なら決してしなかったであろう姿であり、それは戦況がそれだけ追い詰められている証拠でもある。
「残敵の掃討は適当に切り上げておけ、まだ戦いは始まったばかりだ」
そんな中でもマ・クベ大将は常の冷静な態度を崩さず、ジャブロー地下作戦司令部にて戦況の様子を写し出すモニターをじっと見ていた。
既に連合軍は地下へと侵入しつつあり、坑道の各所で地上軍と激しい戦いを繰り広げていたのである。
「カラス大尉、既に敵降下部隊の相当数が地下に突入した模様。ここも長くは保ちません」
停電により防衛施設が一部稼働できなくなった隙を突かれ、ジャブロー防空司令部は頼みの綱のフラックタワーと陽電子砲を失い既に防空司令部にも敵の手が迫ってきていた。
「く、停電が無ければもう少し粘れたものの…!」
敵の攻撃によって施設が揺れる中、アントニオ・カラス大尉は口惜しげに拳を握り込んだ。
手持ちの兵力も火器も底を尽き、このままでは座して死を待つのみであった。
そんな中、防空司令部の通信回線が開きモニターにマ・クベ大将の姿が映し出される。
マ・クベ大将の姿を認め、アントニオ・カラス大尉以下司令部の要員達は一斉に敬礼しようとしたが、それをモニターのマ・クベ大将は「そのまま」の一言で制した。
「単刀直入に伝える、只今よりジャブロー地上部を放棄し地下へと撤退する」
その命令を聞いて、アントニオ・カラス大尉は「やはり」と内心でそう思った。
既に彼らには抵抗する力も手段も失っており、全滅を命じられるよりはマシだと彼は素直にマ・クベ司令の判断を指示した。
「分かりました、これより施設を放棄し地下に撤退します「それと」?」
「それと貴官らは撤退後宇宙港にて守備を命じる。別名あるまでそこで待機せよ」
命令を受けてアントニオ・カラス大尉は今度こそ混乱する、一体それにどんな戦略的な意味があると言うのか彼には全く分からなかったからである。
当然マ・クベ大将は理由を説明する事なく、そのまま通信回線は閉じモニターは再び外の戦況の様子を表示し始めた。
防空司令部の中の面々が混乱する頭で撤退の準備を進めていく中、地下坑道に侵入した連合軍MS部隊と防衛する共和国地上軍は激しい戦いを繰り広げていく。
「爆発物を使うな、下手に使うと双方生き埋めだぞ!」
両軍は共に岩や鍾乳洞の柱に隠れながら爆発物が使えないはハイザックや小型MSゴブリンがライフルを連射し、対するストライクダガーは盾を構え防ぎながら進軍を続けようとする。
「クソ、狭い坑道じゃあ長いDKは使い難い!?」
「連中の『電ノコ』もこの狭い空間じゃあ使い辛いみたいだ、今のうちに押し込め!」
業を煮やしたハイザックの1機が対MS重機関砲を構えようとするも、岩や柱が邪魔となって上手く射角が取れず、それを見てとった連合軍は一気に距離を積めるべくスラスターを全開にして突進した。
盾を構えたストライクダガーの一団の中からスラスターを全開にしたMSが飛び出し、敵中に躍り出てハイザックに切り込む。
元来近接戦闘を忌避し格闘戦を不得意とする共和国軍パイロット達は、この突飛な動きに対応できずにストライクダガーのビームサーベルの前に切り伏せられていく。
戦列に割って入られ陣形が乱れた所を連合軍は一気に突破しにかかり、その度に共和国軍の防衛線は下がる一方であった。
無論共和国軍とて無策では無く、地の利を活かして挟撃や敵を迷路のような地形に迷い込ませようとするも、連合軍は圧倒的な数で坑道の一つ一つを制圧し事前情報から得た詳細な地図で迷う事なく先へと進む。
しかし途中からはアリの巣の様に幾つも枝別れした穴が広がり、それまでの様に数を頼みにしていた連合軍も此処から先は部隊を少数に分けて進ませなければならず、ホールにレーザー通信の中継機を設置した彼等は小隊ごとに穴へと突入していく。
穴へと突入した連合軍のMS小隊だが、しかし想定された敵の罠や待ち伏せなどに合うことなく不気味な沈黙を保ったまま先へと急ぐ。
そんな中、1機のハイザックが柱の影に身を潜め敵の様子を伺っていた。
「パッシブソナー起動…距離100…90…80…50…30…20…今!」
柱の角を丁度曲がろうとして姿を現したストライクダガー、その胴体に予め来ると分かっていたかの様に照準を合わせていたハイザックのライフルから砲弾が発射され、大穴を開けられて倒れふす。
ハイザックに装備されたパッシブソナーによりモノアイカメラで敵を認識出来ずとも、相手の出す音や振動によって大まかな位置を把握する事が出来たのだ。
先頭の味方をヤられた事で残りの2機のストライクダガーが仲間の仇を討とうと踊りかかったが、その背後から別の攻撃を喰らい仲間の後を追った。
角待ちしていたハイザックのパイロットは角から機体を乗り立たせ、敵の背後にいた連合軍からは単なる壁としか認識されていなかった壁の窪地に機体を潜めさせていた味方に合図する。
「上手く行ったなヘープナー少尉」
「油断しないでよニッキ、連中まだまだ来るんだから」
「へ、こんくらいの敵今更怖くも何ともない」
「全く、あんた直ぐ調子に乗って…」
2機のハイザックの肩には共和国軍でも珍しい狼のパーソナルマークが刻まれており、彼等こそ名高き「闇夜のフェンリル隊」の一員であった。
この「闇夜のフェンリル隊」とは指揮官のゲラート・シュマイザー少佐の提案で設立された特殊部隊であり、その任務はNJ環境下における様々な装備の有効性の検証及びその戦術の研究である。
彼等は宇宙や地上で活動を本国にデータを送り続け、それらの幾つかはその後のMS開発に取り入れられたり参考にされたりし、今もジャブロー防衛任務を受けて自分達の特殊装備を用いて坑道内でゲリラ戦を演じていた。
「ニッキ・ロベルタ少尉、シャルロット・ヘープナー少尉、次のポイントに移動だ」
ル・ローア少尉からのレーザー通信が入り、2人は直さま軍人の顔に戻り移動を開始する。
部隊の指揮官であるゲラート・シュマイザー少佐の指揮のもと、彼等はアリの巣の様に張り巡らされた坑道の各所に潜伏し単に敵を待ち伏せするだけで無く、横穴や縦穴を使って縦横無尽に機動し侵入してきた敵軍を後方から撹乱していた。
共和国軍は坑道全域に強力なジャミングを張り連合軍の通信を妨害していたが、その連合軍は各所にレーザー通信の中継機を設置して部隊間の通信を何とか保とうとしていたのである。
それを破壊し坑道内に侵入した連合軍を孤立させようと言うのが、ゲラート・シュマイザー少佐の立てた作戦であった。
「へ、
スコープを覗き込んだレンチェフ少尉のハイザックJ型が構えたライフルの銃口から何度かマズルフラッシュが瞬き、暗闇に包まれた坑道内を明るく照らしたかと思うと、広場で炎を上げレーザー中継機が松明の様に燃える。
如何に共和国軍に地の利があっても、狭い坑道からMSの半分の大きさもない中継機を狙い撃つなどレンチェフ少尉の非凡な射撃センスが光った。
直後に機体をその場から移動させるレンチェフ少尉、彼が姿を眩ませた後押っ取り刀で駆けつけた連合軍は潜伏箇所と思わしき場所にビームライフルの嵐を見舞ったが、その頃にはまた別の場所に彼は機体を潜ませ間抜けな敵兵を嘲笑する。
「間抜けめ、俺がいつまでも同じ場所にいるか」
再び機体のスコープを覗き込み、周囲に指示を飛ばしていると思わしき隊長機に照準を定め再びトリガーを引き絞った。
撃った後彼はスコープを引っ込めて、再び射点を移動し機体を眩ませる。
突如として隊長機の胴体に大穴が空いて大混乱に陥る連合軍に背を向けて、レンチェフ少尉は遊撃戦を展開していくのであった。
「うおおお!」
狭い坑道内でビームサーベルを抜いたストライクダガーが敵機に向かって飛びかかった、互いにMS1機分もすれ違えない狭い空間で連合軍のパイロットは勝利を確信していた。
(この狭さだ、右にも左にも逃げられない。後ろに引いたらビームライフルをお見舞いしてやる!)
連合軍のパイロットがそう思ったのかは定かではない、しかしビームサーベルで斬りかかられた共和国軍の機体MSマラサイGこと陸戦型マラサイを操るソフィア・フラン少尉は左右でも後ろでもない第三の道を選んだ。
突如として敵MSが両足のホバーを全開にして前へと飛び出し、間合いを思いっきり外されたストライクダガーのビームサーベルが空を切る。
しかし例え懐に入られたとて、今度はビームライフルで焼き殺してやろうと連合軍のパイロットが照準を合わせようとして…突如としてそのパイロットの目の前に巨大な鋼鉄の指先がコックピットのメインモニターを突き破って現れた。
「は?」
それがパイロットの最期の言葉であった、ソフィア・フラン少尉は空手で言う「貫手」を使ってマラサイの右手マニュピレーターでストライクダガーのコックピットを貫き、引き抜いた濡れた腕部からは敵機のオイルが滴った。
共和国軍は格闘戦に不得手と聞いていた連合軍のパイロット達は、味方の胴体から突如敵機の腕が突き抜けてきた事に動揺し、怯えて後ずさりしようとする。
「!?」
しかし狭い坑道が災いし縦並びになっていた連合軍の小隊は直ぐに後ろの味方をつっかえ、互いに機体が接触し装甲が引っかかって益々離れようともがくなか、ソフィア・フラン少尉の陸戦型マラサイは幽鬼の様に彼等の眼前に立ち現れる。
「うふふふ、残念ですが逃す訳にはいかないの」
「!??????!?!!」
余りの恐ろしさに声にならない悲鳴をあげる連合軍のパイロット達、その後救援要請を受けて連合軍の部隊が現場に到着した時には、既に敵の姿はなく唯坑道内にはコックピットに奇妙な大穴を開けられた味方機の残骸が転がるだけであった。
フェンリル隊の活躍で坑道に突入した連合軍は散々に翻弄された挙句、部隊間の通信ケーブルやレーザー中継機を破壊され内部で孤立し立ち往生していく。
如何に大軍を誇ろうとも満足に指揮統制が出来なければ烏合の衆に変わりない、ホバートラックの通信機の前で部隊の指揮を執るゲラート・シュマイザー少佐は、入ってくる情報から敵軍の混乱ぶりが手に取る様に分かった。
最終防衛ラインにはフェンリル隊の残るメンバーであるリィ・スワガー曹長にマニング軍曹並びにル・ローア少尉とオット・マースティン軍曹が合流し守りを固め、万全の備えを見せている。
後はここと同様に他の侵入された箇所でも上手くやれば何とか敵の侵攻を阻止できる筈であったが、そんな彼の元にジャブロー作戦司令部からの緊急通信が届いた。
そしてその内容を確認したゲラート少佐は思わず天を仰いだ、彼が読んだ通信文にはこうあったのである『既に他戦線で突破され侵入した敵MSは宇宙港に接近しつつあり。直ちに持ち場を放棄し宇宙港まで撤退せよ』。
この瞬間、ゲラート少佐は自軍の負けを悟ったしかし彼には悲嘆に暮れる時間は無かったのである。
グズグズしていては別の方角から侵入した敵軍に挟み撃ちに合う、その前に部隊を撤収させ再編成しなければならなかった。
撤退戦の困難さを思うと体が重くなったが、しかし彼は部隊の指揮官としてやるべき義務と責任がありそれを投げ出すような男では決してなかったのである。
こうして「闇夜のフェンリル隊」は撤退を命ぜられ、突然の命令に部下達からも不満の声があがったもののそれを諌め、撤退戦を開始したが敵軍の追撃の手は思ったほど激しくなく寧ろフェンリル隊が引くに任せていた。
その為犠牲を覚悟していたゲラート少佐以下フェンリル隊のメンバーは敵の行動を訝しむも、考えても仕方ないと宇宙港での守りを固めていく。
実はフェンリル隊が余りに暴れすぎた為、連合軍は部隊に追撃命令を出すのさえ躊躇い彼等が引いた後に陣地を占領するなどの消極ぶりであり、一重にこれは連合軍内でもフェンリル隊の威名が轟いていた証拠である。
この戦いをもってフェンリル隊の名前は広く敵軍に知られる様になり、後には賞金まで課せられる様になるがそれはまた別の話であった。
別の戦線では連合軍の圧倒的な数の暴力の前に共和国軍は押される一方であったが、しかしそんな彼らに突如として作戦司令部からの撤退命令が届く。
「なに!?間違いじゃないのか。分かった」
隊長機が機体の手を振って合図し生き残りにの部下達を戦場より離脱させ、地下の奥へと引いていく。
当然連合軍はその動きを不審に思い一時進撃スピードを抑えるも、敵が潰走に転じたのだと思い直し進撃を再開した。
しかし共和国軍は撤退に先んじて坑道の各所に爆発物を仕掛け天井をわざと崩して追撃の手を防ぎ、連合軍も少なくない犠牲を出し再び進撃スピードを落とす。
その間にジャブロー地下作戦司令部でも動きがあった…。
「部隊の撤退率60%を超えました、また撤退先の宇宙港での防衛準備も順調に進んでいる模様」
オペレーターの報告によりマ・クベ大将は満足げに頷くと、次なる指示を出す。
「よし、次は…」
その裏では作戦司令部要員達が慌ただしく撤退の準備を進めていた、彼らは必要な資料をまとめ機密データを処分し最後に司令部の自爆機能をセットすべく働き続けていたのである。
この少し前、ジャブローに敵が侵入した時点でマ・クベ大将はジャブローの放棄を決定していた。
「諸君、残念ながら要塞を放棄する。急ぎ司令部より撤収し残存兵力を宇宙港に集結させる」
突然のマ・クベ大将の指示に一時作戦司令部は騒然となるも、司令はそれを手で制し自身の考えを明らかにした。
「既に当初の目的である敵の誘引する義務は十分に果たしたと私は判断する。この旨はむざむざ悪戯に犠牲を増やす事なく如何に戦力を今後に残すかである」
マ・クベ大将の言うことも一理あると参謀達は唸った、頼みの綱であるフラックタワーを失った以上圧倒的戦力を持つ連合軍を前に、ジリジリと後退戦を演じるしかなかった。
だが脱出するにしても懸念事項があった、上空の制空権は連合軍が握りつつあり現在は残りのコアファイターが優先しているがそれもいつまで保つか分からないのが1つ、もう1つはジャブロー天文台が察知した敵の軌道封鎖艦隊の存在である。
連合軍は先のパナマにおける失態を繰り返すまいと、ジャブロー上空を連合軍第4宇宙艦隊を使って封鎖しHLVユニットやザンジバルの脱出を阻んでいたのだ。
例え打ち上げに成功しても軌道上で待ち構える敵艦隊に捕捉され、簡単に撃ち落とされてしまうのは目に見えていたのである。
「敵の封鎖に対しこちらは事前に打ち上げデータは打ち込んでいる。これに従い我々は宇宙への脱出するように見せかけ、アフリカと東南アジアに弾道飛行で敵勢力圏を離脱するのだ」
マ・クベ大将は手元のコンソールを動かして、司令部の巨大なモニターにジャブローから放物線を描くように東西に散るHLVユニットの図と計算結果を表示させる。
それは巧妙に敵の防空網を躱しつつ、味方勢力圏まで脱出する見事な計画であった。
「キリマンジャロとニューギニア基地には既にこの事は通達済みである、諸君らはジャブローを脱出し地上での交戦を継続せよ」
だがここにきてもまだ懸念点が参謀達にはあった、一体誰が脱出までの時間を稼ぐのか?である
ジャブローを放棄する以上、誰かが殿に立たねばならず誰がその役目を負うかであったが連合軍の圧倒的物量を時間まで押し留められる部隊など、彼らには見当もつかなかった。
「殿にはMAアッザムを出撃させる。あれならば敵の注意を引けよう」
マ・クベ大将の口から思わぬ存在が出て参謀達も思わず唸った、このMAアッザムは共和国地上軍が開発した最初の巨大兵器の1つである。
共和国お得意のホバー技術で空を飛べるものの開発当初の性能はお世辞にも高くなく、ここジャブローでも細々とした改修が続けられていた。
一応兵器として使えなくはないものの、こんな物を引っ張り出さねばならぬ程自分達は追い詰められているのかと、作戦司令部の将兵達は天を仰ぎたい気持ちで一杯になる。
「あの〜所でパイロットの方は誰に?」
そん中でも部下の1人が仕事を果たすべく殿に立つ不幸な兵士の名を聞いた、任務の都合上生存率は雀の涙ほどにも無かった。
マ・クベ大将はそう尋ねられしばし顎に手を当てて考えたあと2名のパイロットの名を挙げた、参謀達は内心でこの不幸なパイロット達の幸運を祈ったが、しかし次に上がった名前については流石に面食らう。
「最後に私も直接アッザムから指揮を執る」
まさかの共和国地上軍総司令官直々の出陣に、彼らは驚きの余り空いた口が塞がらなかったのである…。