機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第49話

第二次軌道上会戦その2

 

共和国軍宇宙艦隊司令長官マクファティ・ティアンム大将が乗る旗艦タイタンの作戦会議室では、集まった参謀達が膠着した戦況を打開すべく「あーでもない」「こーでもない」と頭を悩ませていた。

 

「まさか自分達も使えなくなるのを承知でビーム撹乱膜を広範囲に展開するとは…」

 

「しかしそのお陰でこちらからの援護は出来ず、反対に連合は実体弾装備で攻撃してくる」

 

「報告では、ネルソン級は愚かムサイがドレイク級やメビウスにもヤられたと聞いたぞ?」

 

その話を聞いて、集まった参謀達は「まさか」とお互い顔を見合わせた。

 

共和国軍は大火力主義突撃一辺倒と思われがちだが、その本質は縦深防御による防衛的軍団である。

 

現宇宙艦隊司令長官であるマクファティ・ティアンム大将の元、それまでの各要塞に籠る鎮台的な時代遅れの運用を改めて連合艦隊を結成し、また縦深攻撃と連続攻撃ドクトリンと言う新たな戦法まで確立した。

 

しかしながらこれらの新戦法を支えるのは偏に共和国軍のタフな装備と分厚い装甲であり、MSハイザック然りアレキサンドリア級重巡洋艦然り、兎角共和国軍の兵器は頑丈である事が求められたのである。

 

その為、同格や格上相手は兎も角明らかに格下や旧式のドレイク級護衛艦やMAメビウスに共和国艦がヤられた事に、彼等は信じられない気持ちであった。

 

「兎に角、援軍を出さない事には始まらないな」

 

微妙な空気を払拭するように、無理やり話の軌道修正を図り当面の問題を解決しようとする参謀達。

 

「重砲兵師団が実質遊兵化しているのが痛い、いっその事連中を投入するか?」

 

無論冗談である、砲兵を直接前線に投入するなどナポレオン戦争以降、全く考えられない事であった。

 

「それよりも、残る艦載MSの装備変更はどうだ?ビームから実体弾に変えるくらい直ぐだろう」

 

ティアンム艦隊には、まだ出撃させていないMSが何百機と残っており、それらの武装を換装して投入すれば連合軍に対してもまだ優位に立てる目があった。

 

しかし、それは直ぐ別の参謀によって否定される。

 

「そんな簡単な話じゃないぞ、我が軍は今後ビーム兵器メインで運用すると決まったばかりだ。実体弾の多くは月の包囲部隊に渡して、艦隊の兵器庫は殆どビーム兵器ばかりだ」

 

元々ビーム兵器のメリットは実体弾よりも強力と言うのもあるが、共和国軍が採用するEパック式ビームライフルは使い切っても、再度チャージすれば再び使えるメリットがあり、スペースの圧縮という面で優位であった。

 

無論実体弾の有効性は認めてはいたがしかし、当初艦隊戦が想定されていた以上わビーム兵器の集中運用は理にかなっていたのである。

 

「なら少数でも実体弾装備の増援部隊を出そう、それとレールガン装備のアレキサンドリア級も前に出して…」

 

「あれはそもそも月面攻略用の対地装備だぞ?動かない目標は兎も角、艦隊戦には向かん。ジャブロー援護の為に連れて来たは良いが、現状は宝の持ち腐れだ」

 

『会議は踊るされど進まず』、の言葉の通り参謀達の話し合いは一向に進展を見せなかった。

 

その間にも、彼等の元には先鋒艦隊から悲鳴のような救援要請が引っ切り無しに入って来た。

 

このまま彼等を見殺しにすれば自分達の無能を晒す事になり、彼等とて軍大学を卒業したエリートであり参謀達は自分達の存在意義をかけて、何とかして知恵を振り絞ろうとする。

 

最もこれは共和国軍上層部の政治屋気質の弊害によるものが大きかった、彼等は派閥政治や工作に邁進し蛇蝎の巣を生き抜く軍エリート達にとって、軍人としての能力よりも政治力が何よりもモノを言った。

 

その為、ティアンム大将や他連合艦隊諸提督などの軍政両面で才を発揮する例外を除いて、共和国軍上層部の質と言うのはこの程度のものであったのである。

 

分厚い中堅やベテランが多い前線部隊と、極一部際立った将官クラスを除いて層の薄い軍上層部、長年の粛清と密告の結果共和国軍の変質は表面化しつつあった。

 

だがこの場には小吏の参謀達だけでなく、後に共和国軍の「至宝」とまで呼ばれる男がいた。

 

ティアンム大将は参謀達が一向に対策案を上げない間に、麾下のコロンブス級改装空母からなる機動艦隊に命じ戦線を大きく迂回させ、敵中枢を直接叩く作戦を計画していたのである。

 

コロンブス級輸送艦を縦に2つ重ねた様な船体を持つ改装空母「ビーハイブ」は、極少数の護衛とともに戦線を迂回し連合軍第4艦隊後方に陣取った。

 

「ティアンム提督直々のご命令だ、我らムーアの力を今こそ見せる時だ」

 

艦長であるクローディア・ペール中佐は特徴的なリーゼントをノーマルスーツのヘルメットに押し込み、同胞団に指示を飛ばす。

 

格納庫のハッチが開かれると、続々とMS(ref)月のもう一つのアナハイムことフォン・ブラウンアナハイム社で開発されたMS 詳しくは第一部48話参照《/ref》GM《ゲム》が出撃し虚空に編隊組んでいく。

 

彼女達は大戦勃発後初期にL1で連合軍とザフトとの間で行われた「世界樹攻防戦」の結果、同国際宇宙ステーションである世界樹が崩壊し同コロニー「ムーア」も戦災にあい、彼女達は生まれ故郷を捨てねばならなかった。

 

出自的にはどちらかといえば連合よりであった彼女達が、現在こうして共和国軍に身を寄せているのは結局の所、スペースノイドに対して手を差し伸べてくれる相手が同じスペースノイドしか居なかったからである。

 

世界樹崩壊後ザフトは地球にNJを投下して「エイプリルフール・クライシス」を引き起こして、地球圏全体で人口の1割を虐殺し同様に、連合軍も宇宙では劣勢で地球に降下したザフトと激しい戦いを繰り広げて故郷を失ったコロニー市民に、関心を寄せようとすらしなかった。

 

結果として故郷奪還を目指すムーアコロニーの残党達は、共和国に身を寄せながらもしかしながら、彼等は他の戦災にあったスペースノイドとは違い金だけはあった。

 

長年地球と宇宙との中継地として利益を貪ってきた彼等は、困窮する他のスペースノイドとコロニーを傍目に繁栄を謳歌し、コロニー崩壊後もその多くが資産と共に月の中立都市コペルニクスに逃げ込み、優雅な生活を送っていたのである。

 

その彼等が故郷奪還を目的とした「同胞団」を結成し、「ムーア同胞団」として共和国軍の一翼を担う様になったのは、つまりは金の力であった。

 

態々グラナダのアナハイム社との伝を使って装備を用立てて軍団を結成し、共和国軍と政府に多額の献金をして軍に属しながらも独自の命令系統を持つなど、要はその実態は成金集団の私兵組織である。

 

当初は共和国軍に協力しつつも、連合軍との両天秤を画策していたが、しかし月での「B号作戦」によって状況は一転した。

 

連合軍の影響力が大きく削がれた以上、同胞団にはそれまでのコウモリは最早許されず、彼等は自らの価値を証明しなければならなくなったのである。

 

その為、若い女性軍人のペール中佐を艦長に任じ生き残りのエリート達の師弟と下層階級出身者や、あろう事か少年少女兵までも動員して共和国への忠誠を示そうとしたのだ。

 

仮装空母ビーハイブから出撃したMSゲムにパイロット達の多くは、つまりは年端もゆかぬ子供達であり、その事実に内心ペール艦長は心を深く傷つけていたのである。

 

彼女自身自分がお飾りの艦長であり、実際の戦闘指揮を行う副長のグラハムが常々部下の前で、艦長の陰口を叩いている事も知っていた。

 

(ティアンム大将の期待に応えてこの任務を成功させ、共和国軍を勝利に導きさえすればこれまでの苦労は全て報われる)

 

そうすれば子供を戦場に送り出すという罪の意識からも逃れられる、彼女はそう自信を勇気づける事でしか、士気を保っていられなかったのである。

 

無論これまで碌な実戦も積んでいなかった彼等が、敵の後背を突いたとてどの様な結果になるのかは、火を見るよりも明かであったのは言うまでもない。

 

出撃したMSの数はビーハイブだけでも30機、他2隻の仮装空母も含めれば80機以上ものMSが連合軍の背後から襲いかかった。

 

当然その大群故に、早々に連合軍の哨戒網に引っかかり、盛大な歓迎を受けた後ムーア同胞団のMS隊は、碌な抵抗も出来ずに潰走していく。

 

GMの性能は、初期のハイザックとどっこいどっこいの物でしかなく、ナチュラル用OSを備えたストライクダガーの敵では無かったのだ。

 

「踏ん張れ!ここで我らの意地を見せねば、明日は無いんだぞ」

 

ビーハイブの艦橋でペール艦長は、逃げ出す部隊をなんとか押し留めようと通信回線を開いてそう叱咤するも、一度崩れてしまった部隊が再度統制を取り戻すことが出来ず、逆に連合軍の逆襲を受けて同胞団の機動艦隊は半包囲下に置かれた。

 

同胞団は尚も果敢に抵抗するも、数と練度火力で劣り結果旗艦ビーハイブを残して壊滅する事となる。

 

一方ムーア同胞団を撃退した連合軍では、敵の機動戦力を完全に撃滅したと思い更なる攻勢の為に、温存していた予備戦力を戦線に投入しようとした。

 

「先ほどの敵、苦し紛れの一手か。今こそ好機だ、予備戦力を投入して一気にケリをつける」

 

ニーミッツ提督の指示で、旗艦周辺の予備部隊が次々と戦線に投入されていく。

 

当然、旗艦周辺の守りは薄くなるがムーア同胞団を撃滅した事で、共和国軍には碌な機動戦力は残っていないと思われた為、連合軍は一斉攻撃に移ったのだ。

 

その動きは両軍のレーダー観測手や光学観測で確認され、漆黒の宇宙を彩る宇宙戦艦達が移動するスラスター輝きが集まり、一気に共和国軍へと迫っていく。

 

ダイナミックな破壊の星々の煌めきは、戦いの決着を告げる合図に思われた。

 

しかし、1人ティアンム大将だけは敵軍が想定通りの動きをした事で、彼が仕掛けた活路が漸く開かれたのである。

 

「至急電文を出せ。内容は『トラ・トラ・トラ』繰り返す必要はない」

 

旗艦タイタンより発せられた『トラ・トラ・トラ』の電文を受けて、それまでひっそりと無灯火航行で戦場をムーア同胞団とは別方向から迂回した共和国軍の機動部隊は、コロンブス級改装空母のカタパルトから勢いよくMAビグロを虚空に打ち出していく。

 

その内の1機であるカタパルトから発艦したビグロから伸びるワイヤーを掴み、マラサイのパイロットが接触通信で交信する。

 

「世話になる、ケリー大尉」

 

「ガトーか、気にするな。それよりもコイツの加速で振り落とされるなよ」

 

見れば自分達と同じように発艦したビグロから垂らされたワイヤーを掴み、ハイザックやマラサイといった共和国軍のMS達が牽引されていく。

 

嘗て共和国地上軍で試されたデサントと呼ばれる戦法があり、それを真似してMAデサントとしてビグロにMSを戦場まで運ばせようと、共和国軍は目論んだのである。

 

「しかし、一体全体誰がこんな馬鹿げた事を考えついたんだろうな?」

 

「それは我々も思いましたよ、ガトー大尉」

 

「カリウスか?」

 

ビグロの両脇から垂らされる2本のワイヤー、そのもう片方にガトーの僚機であるカリウス軍曹がいつの間にかいて、接触回線を開いていたため彼にも聞こえてしまっていたのだ。

 

「何でも、例のペズン計画の試作品を真似したみたいですよ。“あの“ジーン・コリニー提督の事件」

 

カリウス軍曹のいう“あの“ジーン・コリニー提督の事件と言うのは、提督のミスにより貴重な重砲兵師団が危うく全滅しかけ、その時は分艦隊司令のエイノー提督が危機をペズン計画の試作品を使って部隊を救い、何とかなったという話である。

 

当然軍は緘口令を敷いて情報統制を図ったが、人の口には戸は建てられぬもの噂は彼等の耳にも届いていた。

 

最もガトーからすれば開戦以来の部下でありその性格を熟知しているカリウス軍曹の口から、“あの“と言う表現が出た事に内心苦笑を隠せないでいた。

 

兎角共和国軍上層部は癖の強い将官が多く、その中でもジーン・コリニー提督は軍人としての能力は疑いようが無いが、しかし強力な派閥主義者である事は公然の秘密であったのである。

 

コリニー提督が自らの不祥事を隠す為に、一体どんな手を使ったのか?それを思うと、彼の下で働く部下達の心労はどれ程のものかと思うガトー大尉であった。

 

「おしゃべりは良いか?お客さん方、そろそろ加速に入るぞ」

 

ビグロのケリー・レズナー大尉からの通信で会話を打ち切ったガトー大尉とカリウス軍曹は、口を閉ざし再度コックピットシートと体を固定するシートベルトを確りと締め、機体とワイヤーとの強度と接続を確認し最後に操縦桿を強く握りしめた。

 

MAビグロの最大加速時に機体と体にかかる加重は10G近く、ワイヤーでMSとMAが繋がれているとは言え万が一にでも振り落とされたり、ワイヤーが外れてしまえばたった1人で虚空を彷徨う事になる。

 

そもそも、機体も中のパイロットも耐えられる保証はどこにも無かった、最悪機体諸共ブリキ缶の様に潰れてしまうかもしれない。

 

そうならない様、彼等は入念なチェックを怠らなかったのだ。

 

現在宙域には20機余のビグロにそれぞれ4機のMS計80機がワイヤーで牽引され、これから守りの手薄になった敵旗艦に殴り込みを掛けようとしていたのである。

 

作戦を立案したティアンム大将の計画は実に巧妙であった、彼は敵将が入念な準備をして戦場を選んだ事を悟り、慎重な敵に隙を作るべくとある計略を仕掛けた。

 

わざと一隊を割いて敵後方を脅かす様に見せかけ、その実、別方向から本命の部隊を送り込んで敵中枢を奇襲する気を伺う。

 

ムーア同胞団はその為に選ばれた言わば生け贄であり、また色々と軍事的政治的にも扱いの難しい同部隊を、共和国の将来の禍根とならぬ様に鉄火場に送り込み、この気にに始末してしまおうとの魂胆も働いていた。

 

常々、共和国軍では珍しい清廉実直な軍人と見られるティアンム大将であったが、裏では共和国の敵や将来の脅威になり得るモノに対しては、一切の容赦をしないのである。

 

ゴップ元帥を筆頭とする、蛇蝎の巣とも言われる共和国軍中にあって、ティアンム大将もまた立派な共和国軍人の一員であった。

 

計略の結果、連合軍はティアンム大将が放り込んだ餌に食いつき、共和国軍の機動部隊を撃破したと思い込んだ敵軍は、中枢を周辺を手薄にしてでも予備兵力を動員して、戦いにケリをつけにかかったのである。

 

その際に生じた前線と敵中枢との空隙に乗じて、ティアンム大将は本命のMAデサント部隊を投入したのであった。

 

20機のビグロとワイヤーに牽引された80機のMS達は、守りの手薄となった敵旗艦の上方より奇襲攻撃を仕掛け、この全く予想だにしていなかった攻撃に連合軍第4艦隊は大混乱に陥る。

 

「艦隊、天井方向より新手です!」

 

「何だと、数は!?いや今すぐ迎撃を、それと前線の部隊を呼び戻せ」

 

ニーミッツ提督は共和国軍の奇襲に素早く反応するも、しかし旗艦を守る少数の護衛はそうではなく反応が遅れてしまう。

 

その隙に猛スピードで突入してくるビグロの編隊の先頭を行く数機から、腹に抱えた大型ミサイルが発射される。

 

MSの2倍にも達しようかという大型ミサイルは、直撃すれば戦艦などイチコロであったが、しかしこのミサイルの役割は敵艦を倒す事では無かった…。

 

途中で大型ミサイルの弾頭が分離し、中から無数の子機が敵艦上方全体に広がると太陽光と見紛うような、強烈な閃光を発して連合軍の目を潰す。

 

「きょ、強烈な閃光弾です。同時にジャミングの展開も確認!」

 

「共和国軍め、古い手を」

 

モニターの光量を最低にしてでも、尚眩しさで顔を手で覆わなければならなかったニーミッツ提督と連合軍は、これにより彼等はビグロ編隊の侵入をまんまと許してしまう。

 

連合軍が閃光とジャミングによって一時的に視界が麻痺する中、旗艦の護衛する1隻が飛び出してきたビグロのビーム砲攻撃を、モロに喰らってしまう。

 

「花火の中に飛び込むぞ!」

 

ケリー大尉は最大戦速のまま敵陣の真っ只中に飛び込み、連合軍が盲打ちする花火のような対空砲火をものともせず、旗艦を護衛する艦の狙いを定めた。

 

対空砲の至近弾と加速の衝撃で揺れるコックピットの中で、両手で操縦桿を握りしめたケリー大尉は、歯を食いしばってモニターの照準器を覗き込む。

 

「まだ…まだまだ」

 

敵が画面一杯に広がるまで撃ってはならない、MAビグロ部隊に転属となった時に隊長にトクワン大尉より言われた事を、ケリー大尉は思い出していた。

 

どんなに苦しくとも、怖くとも、決して速度を緩めてはならず、攻撃は必ず一撃必殺でなければならない。

 

トクワン大尉からの教えをケリー大尉はこれまで固く守り、それ故結成当初200機を数えたビグロ部隊が、今では20機にまで減ってしまった中でも、彼はここまで生き延びる事が出来たのだ。

 

画面一杯に敵艦の姿が広がり、ケリー大尉は操縦桿のトリガーを引き絞り、同時にビグロから全武装の砲門が開放される。

 

機首開口部から砲身を迫り出したビーム砲から、ジェネレーター直結式の強力なビームが解き放たれ、30mmカノン砲が唸り声を上げ連続発射されたミサイルが敵艦に殺到していく。

 

至近距離から、船体の中央に集中攻撃を受けた敵艦は、耐え切れず被弾した箇所から火を吹き大爆発を起こす。

 

ケリーはほんの少し操縦桿を傾けて爆破炎上する敵艦とギリギリの距離で躱し、ビグロが猛烈な速度で過ぎ去った後に機関部にまでダメージがいったのか、大きな閃光と共に虚空に消えた。

 

同じように突入したビグロ達攻撃しつつも敵艦隊を突き抜けて、地球軌道上ギリギリまで降りた後、再度反転して反復攻撃を仕掛けようとした。

 

基本的に大推力大火力でMSの様な運動性を持たないビグロは、この一撃離脱戦法を徹底されていたが、しかし連合軍も黙ってやられるのを見ている訳では無かったのである。

 

突然コックピット内でレーザー照射を受けたというアラームが鳴り響き、慌てて操縦桿を引き倒したケリー大尉は、ビグロのすぐ側を掠めるようにビームが横切るのを見た。

 

レーダー上では、いつの間にか連合軍の部隊がケリー達を取り囲み、ビグロを左右から襲いかかってきたのである。

 

「クソ、罠か!」

 

ケリー大尉は必死に操縦桿を右へ左へと倒し、何とか敵の囲みを突破しようとするが、反転する為一旦速度を落としてしまったビグロの動きは鈍く、中々思う通りに動かない。

 

ニーミッツ提督は共和国軍の戦法を研究する傍ら、共和国軍が月の戦線で投入した新型MAビグロの対策も十分に練っていた。

 

連合軍から戦艦キラーとして恐れられるMAビグロは、MSを超える大火力と圧倒的加速力に弾幕をモノともしない頑丈な装甲を、正面と機体下部に備えている。

 

しかしながら決して無敵の兵器などではなく、特に運動性や旋回性能ではMAメビウスにも劣る事が判明しており、また基本的に一撃離脱戦法しか取らない事からその対策は容易であった。

 

ニーミッツ提督率いる連合軍第4艦隊は、予めビグロ対策のエールストライカー装備のコスモグラスパー隊を配備し、彼等はビグロの出現が確認され次第迎撃が困難なら、敵の反対方向に展開する様に命令を受けていたのである。

 

それによって、まんまとビグロ達は連合軍の待ち伏せに自ら飛び込み、反復攻撃すべく速度を落として旋回を始めた所を狙い撃たれたのだ。

 

「“鳥籠“を突破させるな!ここで全機仕留めろ」

 

ビグロを包囲するコスモグラスパー隊の隊長機が、部下達にそう命令を伝え、速度の鈍ったビグロの内1機をエースストライカー装備に機体下部に抱えた「アグニ」で完全に破壊する。

 

如何に弾幕をモノともしない重装甲を誇るビグロとて、コロニーの隔壁に穴を開けるアグニの一撃に耐えうるはずもなく、機体の半分を失って爆散した。

 

隊長機と同じ様に、連合軍のコスモグラスパーは数で敵を圧倒すると同時に、複数のストライカーパックの装備を組み合わせていたのである。

 

元々連合軍が開発したMSストライクとの連携を前提にした次世代MAコスモグラスパーは、しかし連合軍の量産MSがストライカーパックシステムを排除したものと決まり、一時は正式配備すら危ぶまれた。

 

だがMS共和国軍が配備したマラサイの高性能が明らかになると、高コストを理由に量産が見送られたストライクの量産機こと105ダガーの再生産が決まり、同時にコスモグラスパーの正式配備も復活したのだ。

 

想定された戦場でしか運用で出来ないビグロと、様々な戦況に応じて装備を変えられるコスモグラスパー、この両者の戦いは始まるより前に結果は決まっていたと言える。

 

然し乍ら、ビグロ部隊の役割は既にその半分を終えていた。

 

連合軍はビグロが放った目眩しに目を奪われ、彼等が牽引したMS部隊の存在に全く気がついてはいなかったのである。

 

「敵の目はビグロ部隊に向いている、今こそ敵旗艦を叩きこの戦いに決着をつける時ぞ!」

 

アナベル・ガトー大尉は、麾下の中隊と共に真っ直ぐに連合軍第4艦隊旗艦へと踊りかかる。

 

共和国軍はムーア同胞団同様に二重三重の囮と策を講じており、先行したビグロ部隊が敵の注意を惹きつけて本命のMS部隊を隠し、その間にまんまとMS部隊は敵の懐に入り込む事に成功した。

 

「焦るな、相手はコーディネイターとは違う同じナチュラルだ。艦同士の幅を狭めてコンバットボックスを形成すれば怖くも何ともない」

 

ニーミッツ提督が冷静にそう判断する様に、懐に入られ直掩のMSを発艦するタイミングを失ったとは言え、連合軍には不思議と焦りは無かった。

 

事実、彼等は今日まで共和国軍MSが敵艦を撃沈したなどと言う話を、一度たりとも聞いた事がなかったからである。

 

従来ら共和国軍MSパイロットは格闘戦に不慣れであると言うのは有名であったが、それと同じくらい対艦戦闘に不得手であった。

 

基本的に共和国軍の従来戦術はMSハイザックが戦列を維持し、弾幕を形成して敵機を受け止める壁であり、敵艦や拠点への攻撃はMAの役目でり事実ビグロという新型MAを戦線に投入した事からも、共和国軍ではMSとMAの棲み分けは徹底されているかに見られていた。

 

が、ハッキリと言ってしまえば要は訓練不足と言う事である。

 

大戦に半ば巻き込まれる形で開戦して以降、共和国軍は兎に角MSパイロットに求められる能力と任務を限定し、訓練期間を圧縮して数を揃える事を念頭に置いた軍の配備計画の弊害であり、それが機体特性と重なって共和国MSの対艦戦闘下手に繋がっていたのだ。

 

故に、連合軍は弾幕を重ねて敵機を近づけなければ、どれほど共和国MSの数が居ようとも怖くも何ともないと思っていたのである。

 

それはある一面では当たっていた、確かに共和国軍パイロットの平均的対艦攻撃は低く、MSハイザックはお世辞にも対艦任務に向いている機体ではなかった。

 

MS用の対艦装備もザフトのジンに比べれば少なく、だから共和国軍MSには戦艦は撃沈できないと言うのは、些か誇張が過ぎる表現であった。

 

「ガトー大尉、敵は密集して弾幕を形成しています」

 

「ふ、連合軍はこちらを侮っているな。ならばその慢心のまま冥府に送ってやろう」

 

ガトー大尉率いるMS中隊と同じ様にビグロによって運ばれたMS60機近く(それ以外は途中で落伍したりパイロットがビグロの加速に耐えられず離脱している)は、一斉に散会して敵艦に取り憑こうとする。

 

連合軍は近づけまいと対空砲火の嵐で迎え打ち分厚い弾幕を重ねようとするが、しかし共和国軍のMS部隊は敵艦1隻に対して10機以上のMSで同時攻撃をかけた。

 

10機のハイザックがシールド裏に装備したシュツルムファストと、両腰に装備した3連装ミサイルポッドが発射される。

 

連合軍はイーゲルシュテルンで叩き落とそうとするも、四方からの同時飽和攻撃によって対処が追いつかず被弾を重ね遂には機関部に被弾してしまう。

 

激しく炎をあげ、断末魔の如く船体の各所から爆発を生じさせる護衛艦、次の瞬間には動力炉に直撃を受けて大爆発を起こして、地球の重力に引かれて大気圏へと落ちていく。

 

「護衛艦ソーンが爆沈」

 

オペレーターの声が無くとも、今しがた連合軍が構築したコンバットボックス陣形の一角が崩された事は、誰の目にも明らかであった。

 

最初連合軍はそれをまぐれだと思った、撃沈された護衛艦はコンバットボックスの末端部であり、弾幕も薄く破られても仕方のない場所である。

 

それに、内側より新たな艦が直ぐにその穴を塞ぎ、陣形は元通りになる筈であり全く問題は無いと彼等は考えていた。

 

しかし、それが大きな間違いだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

「護衛艦更に2隻被弾!戦艦アイダホにも被害発生」

 

「コンバットボックス陣形が次々と崩されていきます!」

 

共和国軍の猛攻によって、連合軍ご自慢のコンバットボックスが崩壊し、一体自分たちはどこで間違えたのかと将兵達は混乱し頭を抱えた。

 

その間にも、マラサイがハイザックカスタムのビームランチャーを抱えて単騎で戦艦に取り付き、艦橋と機関部を破壊して見事に攻撃を成功させて去っていく。

 

別の場所ではハイザック同士が連携して弾幕を掻い潜り、3機一組で縦に並び先頭の1機がビームライフルで牽制し、真ん中の機が対空砲を破壊して防衛力が弱まった所に、最後尾の1機が攻撃を弱点に集中させて艦を沈める。

 

後に、共和国式対艦攻撃戦法こと「ジェットストリームアタック」と、呼ばれる攻撃法であった。

 

連合軍第4艦隊旗艦には、悲鳴の様な報告が次々と入り込み、将兵達はその対処で手一杯になっていく。

 

「敵を侮ったか、共和国軍の練度は確実の向上している」

 

敵MSの余りの手際の良さに、ニーミッツ提督はそう結論づける他なかった、連合軍やザフトが激しい消耗戦を演じベテランや熟練兵の多くを失っていく間に、共和国軍はしっかりとパイロットを育成していたのだ。

 

共和国軍のハイザックは、どんな戦場でも兎に角パイロットを生かす機体であった、その為、共和国軍パイロットの多くは機体を撃破されても無事に生還し、戦訓を持ち帰って研究し全体の練度向上に一役買っていたのである。

 

「弾幕が薄くなった、好機!」

 

同じ頃、ガトー大尉は敵艦隊の弾幕が薄くなったのを感じ、敵旗艦を仕留める好機と思い1人敵陣の中を駆けていく。

 

侵入した無謀な敵機を仕留めようと、四方八方から対空砲の火線とミサイルがガトー大尉が駆る指揮官機用マラサイを追いかけ、発射されたビーム砲をギリギリのタイミングで躱し機体の肩を掠める。

 

余りの早さに、連合軍が対MS用に機能を向上させ配置も見直したアークエンジェル級譲りの、対空砲の弾幕が敵機の影さえも踏めない。

 

その異常事態に、連合軍は中のパイロットがコーディネイターでは無いかと疑ったが、しかしガトー大尉はれっきとした混じりっ気のないスペースノイドである。

 

彼は今にも気絶しそうになる中、必死に機体と体に掛かるGの中を気力と精神力で必死に堪え、目が霞む中でも機体のコントロールを失わずに、肩に担いだメガランチャーを発射するタイミングを測っていく。

 

そして、漸く敵旗艦の姿を捉えるとガトー大尉は機体を反転し、急上昇させてから目標上方からの逆落としを仕掛ける。

 

突然の急制動に、連合軍からは視界から一瞬でマラサイが消えたかに見えただろう、その隙を逃さずマラサイは右肩に担いだメガランチャーのエネルギーをチャージしていく。

 

「スペースノイドの理想の為に、共和国の栄光の為に、多くの兵の死が無駄で無かった事の証明の為に!」

 

指揮官機用マラサイの、高機動を支える高出力ジェネレーターが唸りを上げ、メガランチャーの圧倒的な暴力の光が敵旗艦中央を貫いた。

 

その瞬間、敵艦隊中央で一際大きな閃光が確認されたと、両軍の観測員達は後に揃って述べたという。

 

この一撃が決定打となり、旗艦を失った連合軍は総崩れとなり、反撃に出た共和国軍によって完膚なきまでに打ち破られた。

 

連合軍第4艦隊は壊滅し、這々の体で地球軌道上より何とか離脱するも、しかし共和国軍の戦いはまだ終わってはいなかったのである。

 

眼下の蒼い星地球では、今も共和国地上軍と連合軍との間で、激しい死闘が繰り広げられていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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