機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第51話

停戦

 

連合軍によるジャブロー攻略作戦の失敗は、直ちに戦況全体には影響しなかった。

 

先のパナマ攻略によって連合軍はマスドライバーを失っており、南米はその戦略的重要性を喪失していた為である。

 

月への補給路を断たれた連合軍は、その穴埋めとしてジャブローの打ち上げ施設を狙ったが、これに失敗して国境まで撤退していた。

 

以降南米における戦線は膠着し、大戦末期の南米独立運動最年まで南アメリカ大陸は一時の平穏を得たのである。

 

しかし連合軍の本命はオーブの「カグヤ」とアフリカザフト占領下の「ビクトリア」両マスドライバーであり、軍事政治的にもまた後世の歴史に与えた影響でもその重要度は比較にならなかった。

 

C.E.71年6月18日 ジャブロー攻略に失敗した同じ日に、前日より連合軍の侵攻を受けていた中立国オーブは、時の首脳部諸共モルゲンレーテ社とマスドライバー「カグヤ」を自爆させた後に連合軍に降伏する。

 

しかし自爆間際に一部の国民とオーブ軍並びにアークエンジェルや、後に伝説となる機体「フリーダム」「ジャスティス」を宇宙へと送り出し、その後の彼等がどんな活躍をするのかは歴史に示される通りである。

 

また全く同じ日にユーラシア連邦を主力とする「第三次ビクトリア攻防戦」が発生し、大戦初期の頃とは違いMSの大量に成功した連合軍は破竹の勢いで進撃し、翌日には包囲網を完成させた。

 

この様に地球圏全体で見ればジャブローの戦いは環境被害こそ大きいものの、戦況全体に与えた影響は微々たるものであると言わざるおえない、しかしそれは今現時点ににおける話である。

 

ジャブローから脱出した地上軍ジャブローの将兵達は、無事にティアンム大将の艦隊に保護された。

 

故マ・クベ元帥(死後元帥に列せられ、彼は生前に遡って後方勤務本部長の座と統帥本部長補佐の称号も同時に送られた)との約束を守り、地上軍の生き残りの将兵は誰1人裁かれる事なく無事本国に帰還する。

 

その中の1人であるマ・クベ元帥の副官であったウラガン少尉は、1人で共和国軍唯一の現役の元帥であるゴップ元帥閣下の前に立っていた。

 

ウラガンには故マ・クベ元帥から預かった白磁の壺があり、これを何としてでもゴップ元帥に届ける使命を負っていたのである。

 

例えどんな汚名や汚辱を被ろうとも、これだけは果たさなければならないと固く決心し、本国帰還後のゴタゴタの中でも努力し、漸くこの日目通りが叶ったのであった。

 

「ふむ、これがか。マ・クベ元帥からの最期の贈り物は」

 

「は、故元帥閣下はこれをいたく気に入って常に肌身に離しませんでした」

 

「ほう、これをか?」

 

執務室の机に置かれた白磁の壺を前にゴップ元帥の言葉に感心では無く、寧ろ故人を侮る響きをウラガンは敏感に感じ取る。

 

この常に眠たげで昼行灯を装う老人を、彼は階級を抜きにして心からの尊敬を抱けず、それが益々補強されていく。

 

彼は元帥閣下の執務室に通された時、さして部屋の調度品類や豪華さに心惹かれる事は無かった。

 

地球でマ・クベ元帥の身の回りの世話をしてきた彼にとって、今更これしきの物で驚きを覚えるような者ではなく、そもそもからして芸術的感性に乏しい故にある意味無関心でさえあったのである。

 

しかしながらそんなウラガンでも故人の持ち物を侮辱されたと感じ、憤りを覚えざるを得なかった。

 

「マ・クベ元帥はこれを何と言っていたかねああ〜」

 

「は、北宋であります」

 

「北宋…北宋ね…」

 

そう言って値踏みするように壺を見回すゴップ元帥、その無遠慮な視線にウラガンは元帥が一体何を言いたいのかと疑問に駆られる。

 

「時に私も、磁器のコレクションを持っている知っているかね」

 

そう言って無造作に壺をひっくり返すゴップ元帥、故人の贈り物に対して余りの振る舞いに今度こを面食らうウラガンであったが、しかし今度は彼は別の意味で驚く事になる。

 

ゴップ元帥は壺の底を掴むと、底が外れて中から極小のチップが現れた。

 

自分も知らない壺の秘密に、ウラガンは思わず息を呑んだ。

 

つまりゴップ元帥はマ・クベ元帥の贈り物が偽物であると見抜いて、わざと面白がってあんな風な態度をとっていたのである。

 

「ゴップ元帥閣下これは…!?」

 

「マ・クベ君は良く贈り物をしてくれるのだよ。彼の目利きは随一でね、私も色々とコレクションが増えた」

 

手でチップを弄びながらゴップ元帥は遠い昔を懐かしむかの様な表情を浮かべる、その顔だけでウラガンは先ほどまでの態度が嘘のように洗い流される気持ちであった。

 

ゴップ元帥は表情を切り変えると、執務室の端末にチップの中身を読み込ませていく。

 

そこに表示された中身は、故マ・クベ元帥が地上で構築したレジスタンスや現地組織への協力網と資金の流れ、闇市場やその取引記録であった。

 

故マ・クベ元帥は地上軍を率いると同時に、地球上の反連合反プラント組織と裏で手を結び彼等に武器弾薬や資金援助をし、共和国軍の尖兵として使っていたのである。

 

有名なところでは南米解放戦線:カリスマのバリボアが暗殺されて以降実質共和国地上軍の歩兵担当軍となっていた。

 

アフリカのマグリブ:彼等は砂漠の虎が撃破されて以降MSを用いたゲリラ活動を行いザフトだけでなく連合軍の後背も脅かしている。

 

或いは汎イスラームのガーベイ・エンタープライズ社:CEOガーベイ氏はペルシャ湾やインド洋を股にかけて、各地の組織に武器や弾薬を供給し独自のMS軍団を建設中とのこと。

 

近年では赤道連合内の新興宗教南洋同盟:謎の指導者レヴァン・フーを味方につけザフトのカーペンタリア基地の目と鼻の先であるニューギニアに基地を建設中である。また、豊かな水源と耕作地を利用して各地に農作物などの食料品も輸送している。

 

同時に何故壺などにチップを隠さなければならない理由も判明した、地上の裏組織の詳細情報とその一覧とでも言うべき物であり、こんな物を持ち歩いていては幾つ命があっても足りないからだ。

 

だからこそマ・クベ元帥は常にこの白磁の壺を手元に置き、単なる骨董趣味を装って周囲の目から隠していたのである。

 

「確かに、マ・クベ元帥からの贈り物を受け取った。約束通り、脱出した地上軍の面倒は私が見よう」

 

ゴップ元帥は端末からチップを取り出し、改めてウラガンに向かってそう言った。

 

如何にティアンム大将が尽力しようとも、事共和国本土ではゴップ元帥の権勢は絶大であり、その元帥が目を光らせている内は地上軍将兵も安心して家族の元に帰れるという物である。

 

「生き残りの将兵に変わり、感謝いたしますゴップ元帥閣下!」

 

ウラガンは背筋を正しゴップ元帥に感謝を述べた、もはや彼の胸中には元帥に対する侮りは消え失せ代わりに本物の尊敬の念が浮かび上がっていた。

 

それを見てゴップ元帥は満足そうに頷くと、まるでイタズラを思いついたかのような顔で突拍子もない事を告げる。

 

「時にウラガン君と言ったかね?いつまでもその階級では肩身も狭かろう」

 

「はあ」と生返事をするウラガン、彼はゴップ元帥が一体何を言い出したのかが分からなかったが、更に爆弾発言は続く。

 

「今日から君は中尉だ、明日からの仕事の詳細は隣のセシリア君に聞くと良い」

 

「????」

 

いきなりゴップ元帥に中尉への昇進を告げられ、しかも明日からその元帥の下で働けと言われたのである。

 

以降彼はゴップ元帥の元、その手足としてマ・クベ元帥の戦死によって断ち切られた地球と共和国との線を結び直し、地球での調略や諜報任務に従事する事となった。

 

ウラガン少尉改め中尉はこうしてゴップ元帥の元で前の上官と同じか、それ以上の苦労をするハメになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

共和国本土でジャブローから撤退した地上軍の後始末が進む中、連合軍内でもとある動きが活発化していた。

 

連合軍の新しい本部、冷たい氷に覆われたグリーンランド基地の地下深くでは、連日連合軍首脳部が氷河も溶けるような熱い議論を交わしていた。

 

「プトレマイオス基地は月表面施設を放棄し、内部へと撤退籠城戦に入っている!このままでは共和国の本格侵攻を許してしまう」

 

「既に幾つかの敵部隊がメインシャフト内に侵入したとの報告もある、月地下本部への到達も時間の問題だろう…」

 

「ビクトリアはまだ陥とせないのか!?」

 

「昨日今日始まったばかりだ、それは無茶と言うものだ」

 

「仮に魔法を使って今日中に陥せても、軌道上に艦隊の一つでもあれば打ち上げは厳しい…」

 

「だからあの時私は言ったんだ!共和国なんぞに宣戦布告するべきではないと…!?」

 

「君だってあの時はノリノリでは無かったじゃないか?」

 

「その時は唆されたんだ!?私は騙されたんだ、悪いのは騙した奴だ!!」

 

その様子を1人、ムルタ・アズラエルは笑って見ていた。

 

連合の政財各界や軍政府を代表する紳士淑女が、まるで子供の喧嘩の様な論戦を交わしているのが無性に可笑しくて堪らないのだ。

 

そのアズラエルの笑みに気づいた何人かが、苛立たしげに彼に矛先を向ける。

 

「アズラエル氏には何か弁明は無いのですかな?聞けば、先のジャブロー戦は貴方が仕向けたそうじゃないですか」

 

そうアズラエルに言った政府高官職にある人物も、ついさっきまでは隣の者同士で互いに口角泡を飛ばしていたのに、今では仲良く肩を組むように揃ってニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。

 

身代わりの速さか政治家の常とは言え、余りの露骨な態度に内心でホトホト呆れ返るアズラエルであった。

 

しかし、言われた以上言われぱなしと言うのはアズラエルの性分ではない。

 

「アレは僕が言ったんじゃありません。所謂現場判断、そうスタンドプレーと言う奴ですよ」

 

「何だったら責任者をここに呼べば良いじゃないですか?あ、そっかその*1責任者は今行方不明でしたね」

 

そういけしゃあしゃあと言って肩を竦めるアズラエル、当然嘘であるがしかしこの場で証明が出来ない以上、政府高官もそれ以上の追求しようが無かった。

 

「それよりもです、ここにいる皆様には僕から提案があります」

 

アズラエルは舞台で注目を集める演者の様に、或いは小学校の教師の様にわざとらしく手を何度か叩いてから、話題を変えるようにそう言った。

 

全員がうさん臭げにアズラエルを見た、彼がこの場で掲げる表向きの看板が国防産業連合理事であると同時に、実質連合軍を内部から牛じるブルーコスモスの盟主であることは、この場にいる全員が口に出さずとも承知している。

 

その男の提案が実質的に“命令“にも等しいとしても、一応この場は聞く姿勢をとるポーズは必要であった。

 

しかし彼の口から出た一言には、流石に動揺を表さずにはいられなかった。

 

「僕からの提案はたった一つです、戦争を辞めましょう」

 

繰り返す様であるがムルタ・アズラエルは国防産業連合の理事であり、この未曾有の大戦勃発の切っ掛けとなったブルーコスモスの盟主である。

 

連合と連合軍と言う人類史上最大の組織を支える軍産複合体を率い、地球上の各地で今も行われているコーディネイターに対する“ジェノサイド“を指揮する男。

 

その彼の口から“戦争を辞める“、と言う言葉が飛び出し集まった者達は面食らった。

 

「あ、アズラエル氏、正気かね…それは」

 

集まった者達全員の心情を代表するように、アズラエルの隣にいた男が動揺を隠せいな風でそう言った。

 

普段からアズラエルの力をよく知る者が見れば、それが如何に迂闊な発言かは見て取れたがそれ以上に驚愕と疑問が優ったのである。

 

「僕はいつだって正気ですよ」

 

「誤解をしている様ですが、あくまでも戦争を“一旦“辞めるだけです。これ以上戦っても我々には何の利益もない」

 

アズラエルの返答に、会議に集まった面々は一応の納得はした。

 

確かにこれ以上の交戦は悪戯に犠牲を増やし、兵器の大量増産を受けるアズラエル氏を除いて連合に全く利益を齎さない。

 

それが一時の休戦でも、今の連合には一息つく必要をヒシヒシと彼等は感じていたのだ。

 

だが歴史が証明する通り、戦争とは始めるのは容易いがいつだって終わらせるのは途方も無い困難を伴うのである。

 

「それはそうだが、しかしどうやって…?一時休戦にしても、こちらからの呼びかけに応じるとは到底思えないぞ」

 

「そこは僕を信用して欲しいですね。“色々“と伝手は多いので」

 

こうして不承不承と言った形ではあるが、アズラエルの“提案“によって連合軍は一時休戦を決定する。

 

尚誤解の無いように言っておくが、あくまでも連合は決めたのは“共和国“との休戦であってそれ以上のものでは無い。

 

彼等にとってプラント・ザフトとの戦争継続は議論するまでもない決定事項であり、先月マルキオ導師に持たせた書簡「オルバーニの譲歩案」が、彼等にとって最後の慈悲であった。

 

それが蹴られた以上、最早彼等に“容赦“の2文字は無かったのである。

 

ナチュラルとコーディネイター、生みの親とその子供は互いに憎悪しその戦いは互いが互いを屈服させるか或いは“最終的“解決するまで終わらないのであった。

 

 

 

*1
パラシュート無しスカイダイビングで自然の火葬場に突っ込んで行方知らず

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