機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第54話

休戦条約

 

C.E.(コズミック・イラ)71年6月25日 月の連合軍本部プトレマイオス基地を包囲している共和国艦隊の元に、本国よりの緊急通信が届く。

 

共和国艦隊旗艦タイタンの艦橋で、緊急通信を受け取ったティアンム大将はその内容を読み進めていく内に、見る見ると顔色を変化させた。

 

その唯ならぬ様子に周囲の参謀達は心配そうに顔を覗き込み、同時に緊急通信の内容に興味をそそられる。

 

一体どんな内容なのか、ティアンム大将が拳の中で握り込んだそれをしかし手の力を緩めた彼は皺くちゃなったそれを再度広げた。

 

彼は参謀達に各艦隊の提督達を旗艦に集めるよう命令を下すと、それまでの間自室に戻ると言って艦橋を後にする。

 

30分後ランチに乗って旗艦タイタンの作戦会議室に集められた諸提督の前で、最後に部屋に入室したティアンム大将は衝撃的な一言を放った。

 

「本国より緊急の命令が降った、本日24時をもって共和国は連合との一時休戦協定を結んだ。これにより今から48の内に両軍は戦闘を停止し、互いに現状維持のまま後退するとの事である」

 

集まった諸提督達は騒然となった、到底その内容は受け入れ難いものであったからだ。

 

「ティアンム大将、それは真ですか?本国から突然その様なことが…」

 

「本当だ、既に3回も確認の通信を送っている」

 

ワッケイン提督が真っ先に反応するも、通信分の内容が本物であると分かると顔を顰めて歯噛みした。

 

「48時間と言いますと、今すぐ撤退を始めねばなりませんがしかし連合もまだ戦闘を継続中です。ここはいっそ連中の休戦破りと言う形で戦闘を続行されては」

 

「ならん、本国からの追伸でどの様な状況であれ、一時後退は絶対命令である」

 

エイノー提督は本国からの命令を無かった様に勧めるも、しかしティアンム提督の固い意志の前に素気無く退けられる。

 

他にも何人かの提督達が意見を出そうとするも、その前にティアンム大将は声を張り上げて断固たる態度で言った。

 

「集まった提督諸君らには含むところもあろう。その気持ちは私も同じである、しかしこれは本国からの絶対命令である、この旨は共和国軍の恥とならぬよう粛々と後退をするのみである」

 

「ここに集まった貴官たちにの思い、この場は私が一旦預かる!」

 

「それで納得してはくれまいか?」

 

そう言われてしまえば集まった諸提督達もそれ以上、反論の声を挙げることは出来なかった。

 

しかし作戦会議室を退出する提督達の中でグリーン・ワイアット提督とジーン・コリニー提督、その両提督は内心でほくそ笑んでいた。

 

(ふ、胸に収めるでは無く預かるとは。大将も中々に役者である)

 

(今回の一件でティアンムと首相の仲が拗れる事は必定じゃ、後はどう料理するか…)

 

共和国軍を代表する軍人でありまた屈指の策謀家でもある両提督は、ランチで帰途の途中に新たな陰謀を張り巡らせようと考えに耽っていく。

 

その間、作戦会議室に残ったティアンム大将と同じく腹心で右腕のワッケイン提督は今回の突然の休戦条約締結について、話し合いを行なっていた。

 

「ティアンム大将、これは明らかに何かしらの陰謀です。恐らくは大将と首相閣下の仲を引き裂こうとする何者かが、裏で糸を引いているに違いありません」

 

「私の最初それを考えた。しかし、命令書にははっきりと首相のサインが書かれていた。恐らく休戦の意思、それ自体はバハロ首相も承知のことだろう」

 

「では一体どうして!?」

 

この突然の裏切りにも等しい行為に益々ワッケイン提督の頭は混乱した、一体共和国本土で今何が起きていると言うのか?

 

「分からん、それを直接問いただす為にも休戦ラインまで後退を急がねばならん」

 

そう言ってティアンム大将は今この場で結論を急ぐ事無く、本国に戻ってバハロ首相と直接面会する為にも急ぎ軍を纏める事を優先した。

 

以後共和国軍は粛々と後退を開始し、休戦の話がまだ前線まで届いていなかった連合軍兵士達は敵が突然いなくなった事に困惑し、中には無謀にも追撃をかけようとして慌てて真相を知った士官に止められる者も出る始末。

 

実はこの時点で連合軍はアフリカにあるマスドライバービクトリアをザフトの手から奪還する事に成功し、プトレマイオス基地に増援を送る準備を始めていたのである。

 

仮に地球からの増援が間に合った場合戦況は泥沼化し、消耗戦は悪化の一途を辿る事は想像に難くない。

 

それを思えば共和国と連合との休戦は、間一髪のタイミングであったと言える。

 

無論、内外には大きくケチを付ける事になったが、ここにもその1人がいた。

 

「アズラエルめ、案外良くやる」

 

ナスカ級ヴェサリウスの自室で仮面の男こと、ラウ・ル・クルーゼは1人唸る。

 

彼はある時はゾルゲとして、共和国に情報を流しまたある時は連合にと、独自の情報網で戦況を裏から操り、戦いの激化を策謀していた。

 

彼の策謀の結果ザフトはアラスカで大敗し、その後憎悪に駆られたプラントと連合は各地で残虐行為に手を染め、今やザフトは地球から追い出されようとしている。

 

戦局が厳しくなり本土決戦が叫ばれる中、クルーゼは次なる一手をどう打つべきか思案していたところであった。

 

このまま共和国と連合の争いが長引けば、その間に戦力を回復させたザフトが再び地球に侵攻する芽もある。

 

或いは、クルーゼが邪悪な期待を寄せる例のアレの完成を待って、最終決戦を挑むのもいい。

 

しかし、その為には今少しの時間が必要であっった、思った以上にザフトの消耗が激しく、このままでは宇宙要塞ボアズは簡単に抜かれてしまいそうだったからだ。

 

共和国軍が陽動作戦として行ったボアズ戦は、両軍共に膠着状態に陥るもその間プラントと地球間の補給が滞り、地上戦線は厳しい戦いを余儀なくされたのである。

 

ザフトは残る重要拠点ビクトリアに戦力を集中すべくジブラルタル基地の放棄を決定し、次いでカーペンタリア基地からも戦力を移動させる腹積りであった。

 

しかし、その前に連合軍によるビクトリア攻略作戦が始まり、結果としてビクトリアは陥ち、ザフトはカーペンタリア基地に閉じ込められる形となったのである。

 

クルーゼも間一髪の所で本国に召喚された事で間に合い、地球に取り残されずに済んだのであった。

 

「連合はカーペンタリアを無視して宇宙での反攻に全力を投じてくるはず。共和国との休戦がなければ今少し時間は稼げたものの」

 

だが今更そう言っても始まらない、彼は自身の手元のデスクから一枚のディクスを取り出す。

 

端末に読み込ませ、照明が落とされた暗い室内でディスプレイの薄暗い灯りと共に内容を表示させた。

 

そこに表示されている物は禁断の果実であった、それが誰かの手に渡った瞬間世界に破滅を齎すかも知れないし、或いは福音となるやもしれない。

 

「誰がこの引き金を引くのか?」

 

ディスクを取り出すと、再びデスクの奥に仕舞い込みクルーゼはそっと自室のベットの方を見やる。

 

シーツ頭から被り、胎児の様に身を縮めて丸まって寝息を立てている少女。

 

ひょんな事から保護したアークエンジェルに乗っていたフレイ・アルスター嬢を、ラウ・ル・クルーゼは自室に囲っていたのである。

 

「或いは君やもしれぬな、フレイ・アルスター君?」

 

意味深にそう言ってクルーゼは1人、心の中で高笑いをするのであった。

 

その様子を寝たふりをして震えて感じていたフレイ・アスルターは心の中で助けを求める。

 

(誰か助けて、キラ、キラ、キラ…!)

 

彼女の声にならない悲鳴は、ただ心の内で虚空に向かってこだまするのみであった…。

 

 

 

 

 

共和国と連合軍が、一時休戦条約を結んだと言う情報はすぐさま地球圏全体に知れ渡った。

 

辺境のスペースノイド国家共和国が、複数の超大国が参加する連合軍相手に休戦に持ち込んだ事に人々は瞠目するも、それはスペースノイドが健闘したからだと最初思われていた

 

だがその思い込みが全く違った事を、地球圏の人々はすぐに思い知らされる事となる。

 

休戦条約が結ばれた翌月、その最初の日に共和国は全ての通信回線や各国メディアを招き(何とその中にはプラントも含まれていた!)、月面都市グラナダで休戦を祝うパレードを執り行うと宣言した。

 

連合軍の支配から解放された月の人々は街頭に集まり、パレードが始まる瞬間を待ち各メディアも、いつ始まってもいいようにカメラを構える。

 

パレードが始まると、最初それは困惑を生じ次いでどよめきとなって、人々の間を駆け巡った。

 

メディアのカメラは一番最初にその姿を捉えた瞬間、連合系のメディアは直ぐに中継を打ち切ったが、しかし別の回線では中立国メディアの中継が続けられる。

 

それはパレードと聞いて想像するような煌びやかな物ではない、豪華な衣装も、歩みを揃えた行進も、勇壮な軍楽隊の音楽もない、ただ見窄らしい姿となった連合軍捕虜達が幽鬼の群れの如く、淡々とグラナダの通りを歩いていた。

 

通りの端には、見物する市民と行進させられる連合兵の捕虜達を分けるように共和国軍兵士たちが武器を構えて整列し、彼らの鋭い眼光が惨めな捕虜達を射抜き身を竦ませる。

 

最初こそ自分たちを散々弾圧し虐め抜いた捕虜達に、月市民達は罵声や怒号を浴びせかけ、中には石ころを投げる者もあった。

 

しかし、段々とその声も小さくなりパレードは不気味な沈黙のまま、粛々と進行していく。

 

連合軍捕虜達は、軍服を洗わせて貰えず汚れたままであり、行く人かは靴さえ履いていなかった。

 

列の先頭を歩かされるのは、わざと勲章をぶら下げさせられた元提督や将官達であり、彼らの絶望した顔と磨かれた勲章の光が不気味なコントラストを醸し出している。

 

共和国が捕虜となった連合兵に対し、どの様な扱いをしたのかそれが衆目の前に示されていた。

 

捕虜のパレードが進む中、その途上で周囲の観客とは分けられた集団に遭遇し、幽鬼の如く黙々と歩いていた連合兵達の間に動揺が広がる。

 

それは自分達と同じく、或いはそれ以上に見窄らしく眼光は落ち窪んで、肌に骨が張りつき異様な風貌の集団であった。

 

そこで沈黙していた街頭のスピーカーから声が発せられ、同時に各メディアに事前に送られた内容が画面に表示される。

 

ここにいる彼等は、連合軍が月で行ったコーディネイター狩りの犠牲者とその家族であった。

 

彼等は連合軍が犯した戦争犯罪の生き証人であり、これと同時に地球圏全てのネットワークには、月で行われた連合軍の数々の悪行や戦争犯罪が証拠と共に暴露されていく。

 

連合軍の捕虜達は自らの悪行を地球圏全体に暴露され、先ほどまで市民達が抱いていた同情や憐憫の眼差しは、今や冷ややかな物に変わっていた。

 

その中でも一際冷たく、何も映し出す事のない瞳を浮かべるコーディネイター狩りの犠牲者達は、ただ淡々と目の前を通る捕虜達を無感動に見続けていた、決して逸らす事なく。

 

当然連合の上層部はこれを重大な人道違反や戦時法違反として断固抗議し、休戦破りだと非難したものの等の共和国政府には梨の礫であった。

 

寧ろ、その連合内部に与えた影響こそ、大きかったのである。

 

捕虜達の行進を見ていた家族や友人、或いは子供達はその中に父や兄に姉、或いは弟や妹の姿を見つけて絶叫し、家族が戦争犯罪に加担した事を深く悲しんだ。

 

反コーディネイターで、連合を団結させていた筈のブルーコスモスも、これには全く無力であり、ロゴスの情報統制すら追いつかない有様である。

 

特に連合からの加盟圧力を受ける中立国国民に与えた影響は甚大で、彼等はこのパレードの後にデモを起こして連合を批判し、加盟圧力に対して断固たる態度を取るよう自国政府に要求していく。

 

その中立国政府の中にも、連合軍が月での大敗を隠したことが明らかになり、連合の力そのものにも疑問の目が向けられていく事となる。

 

また同時に今まで辺境のコロニー国家とした地球の人々に認識されていた共和国の力が明らかとなり、俄かに地球圏の主要プレイヤーの座に踊りでて行く。

 

特に深刻であったのは、ただでさえ冷え込んでいた連合加盟国間の間が、更に悪化したことであった。

 

ユーラシア連邦、東アジア共和国は共に戦争犯罪への関与を否定し、実行したのは大西洋連邦の部隊やその指揮官だと、公然と非難したのである。

 

その対応に、大西洋連邦と時の大統領は追われ、地球連合はただでさえ不安定な所を、その団結を危うくさせていく。

 

捕虜達の行進が終わると、彼等は複数の輸送船に乗せられて、辺境の資源採掘衛星にある捕虜収容所へと送られて行く事となった。

 

過酷な採掘現場で彼等の幾人もが命を落とし、また無事に故郷に帰れても、その扱いは針の筵であったとされる。

 

行進の最後尾には散水車が横並びになり、まるで最初から存在しなかった者の様に、捕虜達の痕跡を一切洗い流していく。

 

こうして、共和国と連合との戦いは一旦は終わり、連合はその国威と信用を大きく貶める事となる。

 

だが以前として、戦争それ自体が終わった訳ではない。

 

地球での戦いに敗北したプラントは、本土決戦に備えその狂気を加速し、全人類を道連れにするとある兵器の完成を急いでいく。

 

そして、共和国もまた宇宙の覇権を握るべく、プラントとの最後の決戦に臨もうとしていた。

 

 

 

 

ハイザック戦記第二部とりあえず完




連続投稿攻勢はここで一旦終わり、こっから先は殆ど原作沿いなので、対してかからない予定(未定)です。

最近はガンダムの勢いが凄く、妙なフラグ()を立てると大変な事になりそうなので、もう何も言いません。

ではまたどこかで、皆様の健やかなる事を祈っております。
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