第1話 メンデルの戦い(特に因縁のない者達)
コロニーメンデルの宇宙港には、アークエンジェルとその隣にオーブを脱出したイズモ級2番艦クサナギに、同じくプラントから逃走したエターナルが身を潜めるように停泊し、それぞれの艦の船体に取り付くように、慌ただしく3者の整備員達艦の修理や整備作業が行われていた。
ここメンデルは今でこそ全くの無人だが、今から20年近く前まではこのコロニーで大規模な遺伝子研究、所謂コーディネイターの開発と“製造“が盛んに行われ、地球各国の研究機関も軒を連ね正に人類の夢と未来と欲望の最先端を走っていた場所であった。
しかし、大規模なバイオハザードが発生し(一説にはブルーコスモスのテロであったとされるが、現在でも真相は闇の中である)、住民は全て避難した上でガンマ線による徹底した消毒が行われた結果、施設は放棄され現在まで無人のままであった。
遺伝子操作と言う人倫の禁忌に触れる為か、放棄されて長い年月が経って今なおジャンク屋でさえ寄り付かない、人類の禁域とでも言うべき場所と化していたのである。
故に、人目に付かないただ一点のみに置いてはアークエンジェル一行にとって、正に絶好の隠れ家となるはずであった..。
だが運命の悪戯か悪魔の采配か、何者かに導かれる様に3者にとって因縁ある相手が、メンデルへとその魔手を伸ばそうとしていたのである。
1つはアラスカでアークエンジェルと袂を分ち、今やアークエンジェル級2番艦ドミニオンの艦長となったナタル・バジルールと、オーブを戦火に落としたブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルと、3人のブーステッドマン達。
また1つは、今やプラントのお尋ね者となったラクス・クラインとその元婚約者でありザフトの新型機ジャスティスを奪ったアスラン・ザラを抹殺すべく、エターナル追撃の任を受けた宿敵ラウ・ル・クルーゼ。
其々の思惑が交差する中、コロニーメンデルでその後の世界の運命を決める戦いが、今ひっそりと然し激しい怨嗟の炎を伴って燃え広がろうとしていたのである。
が、その一方この宙域は最早無主の地などでは無かった。
C.E.70年中頃にジャミトフ・ハイマン等の提言でザンスカールコロニーが復興され、この地は一応の中立地帯と言うことになっていたのである。
無論、これが共和国が地球との安全な連絡路を確保するためにでっち上げたものであることは、誰しもが分かっていた。
が当時既に問題となっていた、戦争難民の受け入れ先やその支援などの解決に一定の役割を果たした事も、確かであった。
要は共和国が望んで難民を抱えてくれるのなら、連合やプラントとしても願ったり叶ったりと言うわけである(その難民も共和国軍に生活の保障を餌に徴兵されてしまってはいるが)。
その為、ザスカールコロニーには共和国のパトロール艦隊が展開警備しており、また同宙域にはパトロール艦隊の拠点となる基地も置かれていた。
そのパトロール基地防空司令部にて共和国軍のセンサーは当然の事なが、コロニーメンデルで始まった戦闘をキャッチしていたのである。
「新たに戦闘による光を確認!!
「最寄りのコロニー及び航行中の船に警報を発令。住民の避難シェルターへの誘導急げ」
「一体何処の連中だ、領域ギリギリとはいえ中立地帯だぞ!?」
「分かりません、しかしNJ散布前に連合軍のIFFを確認しています。また未確認ながらザフト艦が領空に侵入したとの報告も上がっています」
防空司令部は突如として始まった戦闘に、蜂の巣を突いたかの様な騒ぎとなっていた。
ザンスカールコロニー完成当初こそザフトや連合軍がちょっかいをかけてくる事はあったが、年を跨いでからは主要戦線がコンペイトウと月面方面に移り、敵機や不明機の侵入も絶えて久しかった。
その為、現在はルナツーからの部隊も引き上げ少数のパトロール艦隊のみ残されており、彼等には十分な備えがなかったのである。
「念の為、主力艦に準備をさせますが宜しいですか司令?」
と、司令官席の背後から副司令にそう尋ねられ、振り返る事なく司令官は「うむ」と頷いて応えた。
防空司令の瞳はバイザー型ゴーグル越しに、ただ一点戦闘光が連続する司令部モニターに注がれていたのである。
「本国に状況は伝わっているな?」
「は、既にルナツーから即応部隊が派遣されたとの事です。また付近の部隊も順次合流予定との事です」
防空司令の問いに、オペレーターが素早く答えると副司令が皮肉げに「大事になりますな」と耳打ちした。
辺境のパトロール任務とは言え敵の侵入を阻止できなかったのだから、最悪2人とも罪に問われる可能性があったのである。
にも関わらず、司令と副司令は全く普段通りの態度であった。一々そんな事を気にしていては、共和国軍人の椅子など座ってなど居られないのである。
「全くだ人の庭先で勝手な事を…一番近い部隊はどこだ?」
「は、第2パトロール艦隊であります」
「では第2を向かわせろ、状況が掴めん以上直接確かめる他無い」
こうして防空司令部からの命令を受けた第2パトロール艦隊は、急ぎコロニーメンデルへと急行した。
コンスタンティン大尉率いる小規模パトロール艦隊は、サラミス級2隻にMSハイザック8機の編成でありしかも肝心のMSは、初期に生産された量産性優先の簡易モデルであった。
性能では全くの時代遅れであり装備も貧弱で、この様な心許ない戦力での偵察を命じられたコンスタンティン大尉は、内心の不機嫌さを一切隠さない様な人物であった。
「全くとんだ貧乏クジだ。総員ノーマルスーツを着用、第一種警戒体制」
そう言って部下達にノーマルスーツを着用させるコンスタンティン大尉であったが、当の本人は着替えずそのまま艦長席に座していた。
これは豪胆さや無謀な勇気を部下に示して士気を鼓舞する、といったよくあるパフォーマンスでは無く、単に本人の面倒くさがりと仮に敵に遭遇すれば自分達など簡単に捻り潰されてしまうと言う、そう言った悲観的な判断であった。
下手にノーマルスーツを着て即死を免れて苦しむより、一思いに宇宙に吸い出された方がまだマシだと、彼は思っていたのである。
「アイザックでもあれば簡単なんだが…先行させたMS隊に伝えろ、敵を見つけてもこちらからちょっかいは出すなよ。情報を生きて持って帰る事だけを考えろ」
とそう部下に、檄とも命令とも何ともつかない指示を出すコンスタンティン大尉。
発艦したハイザックがスラスターの尾を引きながらパトロール艦隊に先行し、L4コロニーメンデル周辺に滞留するデブリの中に突入して行った。
こうしてただでさえ複雑なメンデルの戦いは、共和国も参戦し絡まった糸の様な複雑な情勢を描いていくのである。
あたかもそれは混迷を極めるC.E.世界そのものであり、呪われた世紀は尚も多くの血を欲しているかの様であった。
一方その頃、アークエンジェル追撃の任についていたドミニオンは艦長のナタル・バジルール大尉の手腕もあり、歴戦の武勲艦であり嘗て知ったる古巣相手に優勢に戦いを進めていた。
ドミニオンら地球連合軍の目的はアークエンジェルの追討と、アラスカ及びオーブで確認された新型MSの拿捕と、表面上の建て付けはそうなっている。
これは連合軍の作戦と言うよりも、同乗する国防産業連合理事にしてブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエル氏の個人的な要請に基づいて行われているものであり、それだけ今の連合軍内で彼の影響力が非常に強い事が窺い知れた。
現在は敵に一当てした後、搭載MSのバッテリーとパイロットいや部品であるブーステッドマン達の活動限界が来たため、一旦デブリに後退し次の方策を練っている最中であった。
元々生粋の軍人家系出身である女性軍人バジルール大尉と、ビジネスマンでありしかも連合軍を動かすフィクサーであるアズラエルとの相性は最悪と言ってよく、2人は方針の違いで意見をぶつからせていたのである。
そんな中、対空監視を行っていたオペレーターの緊張した声が艦橋ブリッジに鳴り響く。
「デブリを移動する熱源を探知!?MSです!!」
「何処の機か、分かるか!!」
とバジルール大尉は自分で言っては何だが、現在コロニーメンデルに展開している自分達を除き外から侵入して来る者など、一つしか考えられなかった。
「データーベースと照合確認、確認取れました。MS-106 ハイザックです」
「あらら、来ちゃったか」
とおちゃらけた風にアズラエルは言いながら、ニヤリと口元を歪めてバジルール大尉を見やる。
バジルール大尉はそれを見て、また何か良からぬこと企てているのではと暗澹たる気持ちに襲われるも、毅然とした態度は決して崩さなかった。
「どうしますか、状況はますます我々にとって不利です。ここは一旦後退し、後日にまた機を伺うべきです」
と努めて軍人らしい最もらしい言い分と態度でそう伝えるバジルール大尉だが、内心ではこれでアークエンジェルを討たずに済むと、ほっとしていたのである。
しかし、アズラエルはそんなバジルール大尉の心境など知らぬとばかりに、逆に突拍子もない事を言い出した。
「何を言うんですか、機会は向こうからやって来たんですよ。ここで尻尾を巻いて逃げるなんてナンセンスです」
一体何を言い出すのかと、バジルール大尉は相手の正気を疑ったがしかしアズラエルは、一方的に話を進める。
「彼らとコンタクトをお願いします、ああ交渉は私がやりますよ。軍人である貴方が戦う事の専門なら、交渉ごとは私の専門です」
今度こそバジルール大尉は混乱した表情を浮かべアズラエルを見たが、しかし彼女が止める間もなく勝手に通信兵から席を奪い共和国軍との回線を勝手に開いてしまうのであった。
もう一方のザフトではるがラウ・ル・クルーゼ率いるナスカ級3隻は、アークエンジェル等とは反対側のコロニーメンデルの宇宙港に隠れ、エナーナルと奪われたフリーダム、ジャスティスの2機を一体どうやって取り返すのかと、方策を練っていた。
彼らが到着した時には、既にアークエンジェルとドミニオンが戦端を開いており、様子を伺うべく隊長のラウ・ル・クルーゼは部下のイザーク・ジュールを伴い、宇宙港からコロニーメンデル内に潜入していた。
この2人の帰還を待って、どの様な策に出るのかと各艦の艦長やMSのパイロットはその時を待っていたが、しかしそれより先に連合軍が先に攻撃を仕掛け始めたのである。
連合軍に再度先制されナスカ級各艦の艦長達は、命令通り待つべきかそれとも打って出るべきか、と思案時始めていた。
普通の軍隊ならば上官の命令は絶対であるが、しかしザフトは明確な階級は存在せずまたコーディネイター特有の思想で『優れた者が前に出るべきである』という考えは、ザフトは無論プラント中に染み付いていた。
特にナスカ級は、エターナルを除けばザフトで最も速く優れた艦であり、それを任される艦長は当然の事ながら優秀とされた。
また各艦のMSパイロット達も*1赤服では無いとは言え、歴戦の戦士達である。
上がグズグズするのなら、我先にと戦場に踊り出す様なのが彼らであった。
要は上も下も独断専行気質が浸透しきっており、ナスカ級ヴェサリウスのアデク艦長が抑えなければ、彼らはとっくに暴発していたであろう事は想像に難くない。
最もそれも限界に近くアデク艦長は腕時計を捲りながら、逸る気持ちを抑えつつクルーゼの帰還を信じて待ち続けていた。
そして彼の努力は正しく、報われる事となる。が新型機ゲイツとアサルトシュラウド装備のデュエルを伴っていたにも関わらず、クルーゼの機体は四肢を捥がれ達磨状態でデュエルに抱えられたまま、ヴェサリウスに緊急着陸をしたのである。
隊長の安否が気になる事だが、しかし艦橋を離れる訳にもいかず焦ったい思いを抱えたまま、アデクは更に短い時間を待たされる事となった。
そしていきなりクルーゼから艦橋に通信が入り(しかも何故か自室からである!?)、慌ただしい様子で出撃が命ぜられたのである。
普段の人を上から見下すかの様な態度からは信じられない程、感情を露わにした様子にアデクはいったいコロニー内で、何が起きたのかを問いただしたくなったが、その前に一方的に通信は途切れてしまう。
こうして何もかもが突然に始まった戦いは、遂に最終局面に向けて動き始めたのである。
ここから先は殆ど原作沿いなので、なるべく早く終わる予定です。