再びコロニーメンデルに接近し、攻撃を仕掛けて来たドミニオンに対し先の戦闘で負った傷が癒えない中、再度対峙するアークエンジェル。
ただでさえ厳しい状況の中で、CIC索敵担当のジャッキー・トノムラ軍曹が緊張した声で、ドミニオンの背後から続く新たな機影を報告する。
「ドミニオンの後方より新たな機影を確認…IFF照合…これは、共和国軍です!」
「何ですって!?」と思わずマリュー・ラミアス少佐の驚きの声は、ブリッジクルーの心中を代弁していた。
実を言うとコロニーメンデルに身を寄せる少し前の話にはなるが、地球とプラント共和国の3者に顔が利くマルキオ導師の協力により、メンデルならばある程度匿えると言う話であったのだ。
しかし、そんな事を知らない連合軍とザフトはそれぞれの方向から自分達に迫っており、共和国軍も見逃せないとついに出張って来たと彼女等は思ったのである。
無論、実際にはマルキオ導師の力はプラントと連合は兎も角余り共和国では有効では無く、上層部は一応の黙認を認めていたがそれが現場レベルには降りて来ていなかったのであった。
その為、悲しい認識の食い違いが起きていたのだが、アークエンジェルも共和国軍もそんな事など露知らず、双方望まざる戦いに飲み込まれようとしていたのである。
戦場に突入するこの少し前に第二パトロール艦隊を率いるコンスタンティン大尉は、突如としてデブリの中に身を潜めていた連合軍の軍艦から通信が入り、その一方的に告げられたその内容は要約すれば『現在、脱走艦を追討中であり手出し無用。しかし、非常に凶暴な相手の為助力を得るもやむなし』、と言ったものであった。
その余りの内容に自分では手に負えないと感じたコンスタンティン大尉は、レーザー通信で防空司令部にお伺いを立てた結果、当然の事ながら要求は拒否され代わりに『どの様な理由に関わらず、即刻領空より出る事。命令に従えないのなら実力を持って排除する』と言うお決まりのセリフで返答された。
しかし、こちらの返答など最初から知らぬとばかりに連合軍の艦は(接近し確認した部下のパイロットの話では、例の木馬ことアークエンジェルと同型艦と思わしき艦でありドミニオンと言うらしく、当然の事ながらパトロール艦隊の手に負える相手では無かった)、領空を離れるどころか再度コロニーメンデルに接近し始めたのである。
当然の事ながら、コンスタンティン大尉と麾下のパトロール艦隊は出来るかどうかは別としても、これを追跡しなければならなかった。
共和国軍の面子にかけても、相手に侮られるのは心情的にも物理的な首的にも看過出来なかったのである。
が、ここで先に述べた通り不幸な認識のすれ違いが影響した。
アークエンジェルからすれば当に話は通っている筈の共和国が、ドミニオンに引き連れられて(実際には違うが)自分達に攻撃を仕掛けて来たかに見えるし、まさか共和国も逃亡艦があのアークエンジェルであるとも知らずそれに他に2隻の艦と、ザフトのナスカ級3隻までいたのである。
共和国軍兵士達がそれを知った時に浮かべた表情は、驚愕を通り越して最早絶望と言っていいであろう。
反対にドミニオンに乗艦するムルタ・アズラエルはしてやったり、と言いたげな表情を艦長席横に設けられた補助席で浮かべていた。
無論艦長席に座るナタル・バジルール大尉は顰めっ面をしつつ、内心いつ背後から撃たれるのかと冷や冷やしていたのである。
せめて相談の一つでもしてくれればと思ったが、そうなれば自分は絶対に反対したであろうし、アズラエルも自らの権力を振り翳してより無茶な要求をしたかもしれない。
それを思うと、ある意味での最善手であり自分では決して取らないであろう、無茶苦茶な策であった。
ふとバジルール大尉はアークエンジェルでの日々を思い出し、あの時はいつもこんな無茶をしてばっかりで艦長の、マリュー・ラミアスとは意見を異なる立場に常に置いていた。
しかしそれがとても懐かしく思え、またついこの間の出来事が何処か遠くの日々に思えたのである。
「アークエンジェル接近!!距離30、尚も増速中」
「背後を警戒しつつアークエンジェルに向け全砲門開け、MS隊順次発艦せよ」
オペレーターの声で頭の中に浮かんだ過去の幻影を振り切り、バジルール大尉は目の前の戦場に意識を集中した。
好むと好まざるとを問わず、軍人として生まれ生きてきた彼女には責務に向き合う以上に、最早生きようがなかったのである。
さて、アークエンジェルとドミニオンの艦長同士の悲しい袂を分つ経緯や、ザフトのラウ・ル・クルーゼと療養中のムウラ・フラガの因縁。同じ部隊の嘗ての仲間が敵味方に分かれたイザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンに、親友でありまた友を殺された者同士のキラ・ヤマトとアスラン・ザラに囚われのフレイ・アルスターなど、他に挙げればキリがない程に人の業が絡み合った戦場で、共和国将兵の気持ちはただ一つ。
『戦争がやりたければ向こうでやれ!!』
であった。
参戦の経緯からして常に他者の思惑に奔走され続けてきた共和国は、上層部の思惑は兎も角、現場レベルでは当の昔にこの戦争に飽き飽きしていたのである。
特にパトロール艦隊所属の兵士達は、戦時とは思えない平和で退屈な任務に内心辟易していたが、それでも戦火を遠くに離れ平穏な日々を過ごしていた。
その平和が、突如として破られたのである。
彼らが怒り浸透というよりも、『いい加減にしてくれ』と思うのは無理からぬ事であった。
それが為に、共和国軍の動きは非常に緩慢かつ消極的であったのである。
ハイザックを駆る共和国のMSパイロット達は積極的に攻撃には出ず、遠巻きに時々言い訳の様に当てる気のあるかないかの射撃を繰り返し、或いは敵が接近すると立ち向かうのでは無く逆に逃げる始末であった。
到底、戦時の軍隊の姿とは思えない醜態を晒していたが、第二パトロール艦隊司令コンスタンティン大尉含め、こんな訳の分からない戦場で命を落とすなど、御免被ると言った風であったのである。
共和国視点から見れば、自分達の領空に何故か勝手に連合軍を脱走したアークエンジェルが居付き、それを追って連合軍のドミニオンが領空を侵犯し更にはザフトがナスカ級3隻も、辺境のコロニーに差し向けてきたのだ。
しかも場所は例のコロニーメンデルであり、そこにはアークエンジェルだけでなくオーブを脱したクサナギや正体不明の艦(エターナルの事である)と、それ等を守る地球で確認された2機の新型MSである。
防空司令の言を借りるまでもなく、『人の庭先で何をやっているのか?』と、オープン回線で周囲に怒鳴りたくなると言うものであった。
この様に、状況だけを積み上げれば共和国軍は法的に侵入者を排除すべき立場にいながらも、実行力の面でそれは不可能に近く、また状況の分からなさから一種の思考麻痺状態に陥っていたのである。
しかしながらそれは今この時点での話であり、既に防空司令部は残るパトロール艦隊を続々とコロニーメンデル宙域に投じ、また付近の共和国軍も艦隊を集結させつつあった。
つまり時間をかければかける程に共和国軍が優位になると言う構図であり、それを誰しもが分かっている為ドミニオンもヴェサリウスもそしてアークエンジェル等も、一刻も早く自分達の目的を達する必要があったのである。
「4時の方角より新たに侵入する艦を探知、サラミス級数は4隻、MS8機を伴っています」
「7時方向よりもう1隻確認、侵入まで1分程の距離です」
「あ、今2時の方角からも推進光を確認したと偵察にでたM1から報告が。詳細はまだ不明です」
どんどんとオペレーターから入ってくる報告に、マリュー・ラミアス艦長は脱出がより困難になっていく事に焦りを感じ始めていた。
頼みの綱のフリーダム、ジャスティスは連合軍の新型3機の相手で忙しく、オーブのM1アストレイはまだ宇宙に不慣れで母艦クサナギの護衛で手一杯であった。
おまけにストライクに搭乗していた恋人のムウ・ラ・フラガは、メンデルコロニー内であのラウ・ル・クルーゼと遭遇し負傷してしまい、現在治療中である。
一向に改善の兆しが見えない状況に、ラミアス艦長は何か逆転の切っ掛けを探さずにはいられなかった。
アークエンジェルが追い詰められる中、一方ザフトはと言うと..
「ヘルダーリンからヴァサリウスに通信。艦隊右舷より接近する共和国艦を認む、対処の必要ありとのことです」
「コロニー外縁部に偵察に出ていたジンより報告。周辺の共和国軍が続々と集結中、このままでは包囲される危険性があるとのこと」
周囲に警戒に出していたジンからの報告に、アデク艦長はとんだ事になったと思わず天を仰ぎ、しかもここに来て上官のクルーゼが出す妙な指示(戦闘中にも関わらず捕虜の返還など)の数々に、さしもの彼も頭が混乱し緊張が全身を駆け巡っていた。
「クルーゼ隊長に報告、兎に角我々の目的はエターナルだ。それ以外は無視しろ」
最悪、この艦をぶつけてでもエターナルとフリーダム、ジャスティス2機の秘密を守らなければと、アデク艦長は1人覚悟を決めていた。
そんな混迷を極める戦場にあって、ただ1人ラクス・クラインだけが冷静に状況を分析していた。
彼女はエターナルの艦長、砂漠の虎ことアンドリュー・バルトフェルドに提言し「ヴェサリウスに火力を集中するべき」と伝えた。
「敵中中央突破をしよう」と告げる彼女の案に、バルトフェルドの副官マーチン・ダコスタは危険すぎると反対の意を表明するも、しかしバルトフェルドは妙案だと内心意見に賛成しつつ、しかしついで彼女の口からその理由が語られる事で、この儚げな少女に対する評価を改める。
「ヴェサリウスを突破すれば、追撃される可能性は最も低くなります。共和国も領空の外までは追っては来ないでしょう」
「連合の追撃も、ザフトと背後に共和国を抱えてはそれも難しい筈です。それに共和国は今は静観している様ですが、時期に数を揃えて私共諸共全てを押し潰そうとするでしょう」
「決断するなら、今すぐにするべきです」と彼女の強い眼差しがそう伝えており、まさにバルトフェルドが考えていた事そのものをズバリと答え、彼は内心で彼女の慧眼に舌を巻いた。
隣で聞いていたダコスタも、まさか素人と侮っていた少女の口からでた言葉に信じられない、と言った面持ちを浮かべていたのである。
エターナルからオーブのクサナギ艦長レドニル・キサカ1佐とカガリ・ユラ・アスハに作戦が伝えられ、この2人の同意を得て活路を開くべく2隻はザフト艦隊へと突貫していった。
エンターナル等が覚悟を決める中、ドミニオンもまた共和国軍が自分達を背後から撃たない事に感謝しつつ、しかしそれがいつまで続くのかと焦燥感を募らせていた。
「オペレーターは絶えず共和国軍の動きを報告!不審な動きがあれば即刻下がるぞ」
眼前に強敵、アークエンジェルと激しい砲火と回避運動を交差させつつ、バジルール大尉は絞り出すように共和国軍の動きに目を光らせようとした。
今この戦場において最も数が少ない自分達が劣勢である事は誰の目にも明らかであり、例えアズラエルお気に入りの3機を持ってしても、この戦場を切り抜けられるかどうか分からなかったのである。
戦闘を再開してかなりの時間が経過しようとしているが、既にレーダー上に表示される共和国軍の数はサラミス級だけで10を越え、コロニー全体を包囲するように展開していた。
更に付近から続々と増援が来援して来るのである、それら全てを相手にするとなるとドミニオンと言えどもひとたまりは無かったのである。
本音を言えば、今すぐにでも撤退したいところではあったが、そこに更に凶報がもたらされた。
「新たな艦影を確認。これは…アレキサンドリア級です!?」
アレキサンドリア級の名を聞き、さしものアズラエルも思わず「ひょっ」と目を見開いた。
「戦艦をこの場面で投入ですか、いやいや面白くなってきましたね」と直ぐに軽口を叩いたが、しかし次にオペレーターが告げる数を聞いて、さしもの彼も口を閉じるしか無かった。
「アレキサンドリア級、4隻を確認。真っ直ぐ向かってきます」
暗黒の宇宙の影から現れる様に、巨大な船影を伸ばし戦場に姿を現した4隻のアレキサンドリア級の登場は、混迷を極める戦場がついに終盤を迎えるその先ぶれであった。
共和国軍がコロニーメンデルに投じた切り札、アレキサンドリア級重巡洋艦は全長300mを超える巨艦であり、連合軍はこれを*1戦艦に分類していた。
連合の付けた戦艦の異名に相応しく、主砲の連装ビーム砲だけでも4基8門に副砲の単装ビーム砲2門、多数のミサイルランチャーに対空機銃、艦首にレールガンを装備する重武装艦である。
搭載MSは最低でも12機、これを上下カタパルトから一度に4機発艦が可能で母艦としての能力も完備しており、アークエンジェル級などの特装艦を除いてこの宇宙における最も戦闘力が高いと評される艦であった。
だが、この艦を脅威たらしめているのは圧倒的火力でも膨大な搭載機数でもなく、呆れるほどの分厚く頑強な装甲と耐久力である。
月面では単艦で連合軍艦隊の隊列に切り込んで撃沈される事なく、コンペイトウの戦いでは並み居るザフト艦隊を前に、唯の1隻で立ち向かい最終的に撃沈されるも味方の撤退が完了するまで最後まで持ち堪えたり、体当たりを敢行して他の艦を持ち上げたり艦橋を喪失しても戦闘続行が可能など、兎に角MS登場以降やたら撃沈される艦の中で破格の防御力を誇っていた。
この強力なヘビー級ボクサーの様な艦を相手にするには、最低でも同数以上の戦艦が必要だと言うのが連合、ザフト共に出した結論である。
そのアレキサンドリア級重巡洋艦が戦場に4隻も戦場に現れたのなら、軍事に精通していなくてもこれが如何に絶望的かは容易に窺い知れた。
ザンスカールコロニーの防空司令部が準備した主力艦とは、このアレキサンドリア級の事であり、他3隻は付近を航行中に合流した艦と共に重巡航戦隊を結成していたのである。
「まずは目障りなザフトを仕留める。その後、あの不明艦とオーブ艦を拿捕する」
防空司令部旗艦アレキサンドリア級ルサントに乗艦した防空司令は、まず眼前のザフト艦隊ナスカ級3隻に狙いを定める様指示を出し、4隻40門のビーム砲の砲口が敵に狙いを定める。
防空司令は手持ちのパトロール艦隊でコロニーメンデル囲む一方で、自らこうして戦場に足を運んだのは自分の庭を荒らされその報復と、もう一つにエターナルの拿捕があった。
この少し前、ドミニオンからの失礼極まる通信を断った防空司令であったが、同時に連合軍の狙いがアークエンジェルと知る一方で、ではザフトの狙いはと考えを巡らせたからである。
そして先に戦場で情報収集に当たっていた第二パトロール艦隊のコンスタンティン大尉が、アークエンジェルの他に2隻の艦がいる事を報告し、1隻はオーブのクサナギと判明するももう1隻は不明で、これこそザフトの狙いだと防空司令は当たりを付けたのであった。
現在、連合軍とは一応の停戦が結ばれており、これを独断で破る気は今の所共和国には無かった。
一方でザフトとは交戦状態を継続しており、そんな彼等が態々中立地帯を侵ししかもナスカ級まで投入して来ているのである。
余程あの不明艦が重要だと、当たりをつけるのは当然のことであった。
防空司令は「上手くすれば本国に席を得られるのでは?」、と相手が何者かも知らずに皮算用しつつ、エターナルとオマケのオーブ艦を拿捕すべく邪魔なザフトを排除しようと試みたのである。
「MS隊を発艦させろ、相手があのヴェサリウスでも数で囲めば問題ない。それと、あのポッドは誰も回収していないのか?」
防空司令が言うポッドとは、ザフトが参戦する少し前に連合軍相手に捕虜の返還を申し出て、その時射出された推定捕虜が乗っていると思わしき脱出ポッドの事である。
突拍子も無い事に、連合側のアークエンジェル級は回収する様なそぶりを見せず、またアークエンジェル等もこれを無視していた。
当然の事ながらザフトの通信は防空司令部でもキャッチしており、辺境とはいえコロニーメンデル周辺に設置されたセンサー類はしっかりと仕事をし、結果共和国の知るところとなったのである。
「ついでだ、何機かまわしてアレも回収しろ」
防空司令が放った一言は特に理由がある訳では無かった、しかし取れる物があるならば可能な限り取るべきだと言う考えが、その根底にあった事は確かである。
しかしこの決断が、この後彼等を恐怖のどん底に叩き込むことなど、一体誰が予想出来たであろう。
4隻のアレキサンドリアから発艦した50機近いMSハイザック達は、一気に距離を詰めてザフトMS部隊に襲いかかり、対するザフトはジン12機に奪われた連合のG兵器を含む14機であり、両軍の差は3倍以上であった。
更には様子見をしていたパトロール艦隊も、等々積極的に攻撃を仕掛けてきたのである。
両軍のMSは激しく機動し、曳光弾にビームとスラスターの軌跡が弧を描いて虚空を彩り、時折生じる閃光は、直前までそこに命だったものがあげる最後の煌きであった。
艦隊同士も砲撃戦に入り、丁度その時にエターナルとクサナギの突入が始まったタイミングで意図せずして、共和国との十字砲火を形成する形となりザフトとしては全く堪らない事態であった。
エターナルとクサナギからの砲撃はザフト旗艦ヴェサリウスに集中し、特にクサナギに搭載される2門の陽電子砲は敵の船体を抉り取る。
僚艦のナスカ級2隻ヘルダーリン、ホイジンガーは旗艦のカバーに入ろうとするも共和国のアレキサンドリア4隻の集中砲火を浴びて、彼等もそれどころでは無かった。
このままザフト艦隊が全滅するかに見える一方で、そこから離れて2機のハイザックが脱出ポッドを回収しようと接近していた。
「司令も物好きだな、中身が何だか分からないんですよね?」
「狐オヤジめ、珍しいからって何でも拾って来させるなよな」
2機のパイロットは近距離通信で軽口を叩きつつ、脱出ポッドをマニュピレーターで掴もうとしたその時である。
戦場全ての通信機から、戦場に似つかわしくない悲痛な少女の叫び声が響いたのである。
国際救援チャンネルで行われたそれはその場にいた全軍も当然聞こえており、ポッドを回収しようと近づいたハイザックのパイロット達も、思わず動きを止めてしまった。
そしてその僅かな躊躇いが彼等の明暗を分けた、突如として敵機の接近を知らせる警報が鳴ったと思うと一瞬で機体の武装が破壊され四肢と頭部を撃ち抜かれ、戦場を漂うデブリの仲間入りをさせられてしまう。
暗黒の宇宙に舞い降りた純白の天使の様に、フリーダムが脱出ポッドの前に降臨した。
フリーダムのパイロットであるキラ・ヤマトは、ポッドの中の少女フレイ・アルスターの声を聞いた瞬間いてもたっても居られず、アークエンジェルや対峙する連合の3機を放って置いて最短距離で駆けつけたのである。
途中ポッドに近づこうとした共和国軍のハイザックを一瞬で達磨にし、再び少女と会うためにキラはポッドを回収しようとライフルを降ろした瞬間であった。
「仲間の仇だ!死ねぇ」
ポッド回収を命ぜられた機のバックアップを行なっていたハイザックが、ビームを乱射しながら突撃してきたのである。
フリーダムはポッドを抱え、急いで離脱しようとしたがしかし偶然の一撃かビームがポッドの直ぐ近くを掠めた。
その瞬間キラは激昂しと同時に思考は急速にクリアになっていく、全てがスローモーションに見える中フリーダムのビームライフルがハイザックの武装を正確に破壊し、またレールガンが両足を撃ち抜き両肩のプラズマ収束ビーム砲バラエーナがシールドごと両腕を捥ぎ取る。
フリーダムの存在に気づいたのか、今まで遠巻きに様子を見守っていたパトロール艦隊所属のMS部隊も攻撃を試みようと接近して(第二パトロール艦隊所属の部隊は指揮官の勲等よろしく、無茶な事をしなかったが)、その悉くが全武装を開放したフリーダムによって一瞬でデブリの仲間入りした。
パトロール艦隊からの悲鳴の様な救援要請に、アレキサンドリア級ルサントの防空司令は麾下のMS部隊を向かわせるも、それが撃破されると増援を次々と送り込み益々キラの防衛本能を煽ってしまう。
埒が開かないとばかりに、機体の能力を全開にしマルチロックオンシステムが近づく敵全てに狙いを定め、コックピットでキラがトリガーを引き絞るとフリーダムを中心に破壊の暴威が戦場を覆った。
乱射乱撃と言って良いレールガンやビームの嵐は、それに反比例するかの様な正確無比な狙いにより次々とMSを無力化していく。
少なくともフリーダムからの攻撃ではMS隊に1人の犠牲者も出してはいないのは、パイロットの優れたを通り越して神がかり的な操縦技術によるものであった(無論流れ弾やデブリの衝突、落武者狩りに合うなどの犠牲者は当然発生したが)。
パトロール艦隊とアレキサンドリアを含め、戦場全体で80を超えるMSを展開させていた共和国軍だったが、その半数がフリーダムにより一瞬で失われてしまう。
被害はMS隊だけに留まらず、MSを支援すべく近づいたサラミス級はエンジンを撃ち抜かれて漂流し、パトロール艦隊そのものに大きな被害が出始めた。
事ここに来て防空司令は自らの失態を悟る、ザフトの狙いは(もしかしたら連合も)あの新型MSであったのではないかと。
凄まじい威力と性能を誇る新型MSを前に、防空司令には最早これ以上ベット出来る戦力は残されてはおらず、全軍を一旦後退させる他なかったのである。
だがフリーダム側も無事とは行かず共和国の大部隊を退け気が抜けたのか無防備な姿を晒し、そこを脱出ポッド回収を命ぜられた連合軍の新型3機、カラミティ、レイダー、フォビドゥンが背後から猛攻を仕掛ける。
レイダーの攻撃はフリーダムは避けようとするも、そうなればポッドに攻撃が当たってしまう事を恐れて動かず、今まで無敵を誇った機体の肩翼が吹き飛んだ。
被弾の衝撃がコックピットまで伝わり、シートベルトが肉に食い込み骨を軋ませる中、ディスプレイにはカラミティが脱出ポッドを確保し、ドミニオンに収容しようとする姿が映し出されていた。
キラはフットレバーを踏み込み残るバーニアスラスターで何とか追いつこうとするも、更に追撃が加えられ結局フリーダムは半壊し、ジャスティスの援護がなければ最悪の事態になっていたかもしれなかった。
脱出ポッドを収容しフレイ・アルスターを救出したドミニオンは信号弾を発して戦場から離脱し、同じようにエターナル、クサナギ、アークエンジェルもヴェサリウスを退けザフト艦隊を突破する事には成功した。
エターナル阻止に失敗し、ヴェサリウスを失ったザフト艦隊はコロニーメンデルを脱したものの被害は甚大であり、MSを殆ど失いホイジンガーは中破、艦隊右翼に位置したヘルダーリンは共和国の集中砲火を浴びて航行するのもやっとと言う有様であった。
母艦ヴェサリウスを失い、僚艦に降り立ったイザーク・ジュールは格納庫内の様子に思わず顔を曇らせた。
無事な機体など唯の一機もなく、コックピットからパイロットが整備員に引きずり出され、急いで担架に乗せられていく。
壁には治療を待つ負傷兵達が膝をついてもたれ掛かり、ノーマルスーツの破れた所から血が漏れ出し肉がはみ出て、中には骨まで見えている者もいる。
隅にはもう手の施しようの無い者達が集められ、死体袋さえ足りない様子であった。
正に酸鼻を極めるとはこの事であり歴戦の勇姿であるイザークも顔を歪めずにはおられず、と同時にこの惨状を引き起こした責任の半分は嘗ての戦友であり、今やプラントの裏切り者となったディアッカ・エルスマンやアスラン・ザラにあのアンドリュー・バルトフェルドなのである。
共にプラントの為に故郷の為に戦った者同士が、何故殺し合わなければならないのか?
彼の心中にかかる靄は、一向に晴れる様子は無かったのであった。
イザーク・ジュールが暗い重いを抱えているのと同じ頃、コンスタンティン大尉も戦闘終結後の宙域で懸命に救助活動にあたっていた。
「負傷兵の収容急げよ。対空監視員、拾い忘れが無い様にな、味方の期待くらいは応えて見せろ」
第二パトロール艦隊の甲板には、救助されたMSパイロットや航行不能になって漂流するサラミスの乗組員達が艦内に収まりきれず、溢れ出していた。
如何に共和国のMSが頑丈さと生存性が高いとは言え、それでも犠牲者は出てしまっていた。
こんな辺境に似つかわしくない超高性能MSを相手にして、逆に無事でいられた方が幸運と言うものである。
その点で言えば第二パトロール艦隊の犠牲者は皆無と言ってよく、バケモノ達相手に無謀に戦いを挑まなかった分MS隊は懸命に救助活動に専念していた。
「コンスタンティン大尉、あんなバケモノを相手にしなくて我々は幸運でしたね」
「月並みだが、命あってこその物種だ。帰りは多少デブリにぶつけて構わん、無傷だと帰った時に色々言われかねん」
副官にそう応えつつも、実質コンスタンティン大尉達は何もせず行って帰るだけの任務であった。
こうしてコロニーメンデルにおける戦いは終わった、この時当事者達の誰もが後になってこの時ほど後に影響を与えた戦いは無かったと、振り返ることだろう。
しかし、今この瞬間に生きる者達にとってはそんな事も露知らず誰しもが痛みと悲しみを抱えたまま、次の戦いへと向かっていくのである。
時に
ドミニオン艦内の自室にて、ムルタ・アズラエルは回収した脱出ポッドに乗っていた少女フレイ・アルスター、の持っていたデータディスクを解析していた。
あのラウ・ル・クルーゼから『戦争を終わらせる鍵』とまで言わしめた物であり、解析されたデータは正に彼が欲しかった新型機のものであった。
特に最重要機密となっている機体の動力、そこには正しく彼が欲しかった文言が並んでいた。
それを見た瞬間アズラエルは狂喜乱舞し、狂気を宿した両目は光り自室で高笑いを挙げるその姿は、正に地獄の悪魔そのものであった。
この後、月の基地から地球に戻って2ヶ月もしないうちに連合軍はプラント本土殲滅作戦、エルビス作戦を発動させる事になる。
たった1人の男の狂気から始まった破滅へのカウントダウンは、この日以降急速に時計の針を進め最終局面へと雪崩れ込み、誰も彼もが地獄の釜の底に放り込もうとしていた。