機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第4話 ヘリオポリス

C.E.(コズミック・イラ)71年7月L(ラグランジュポイント)3宙域に存在するコロニーヘリオポリスは、半年以上前にザフトの襲撃を受け崩壊した筈であったが今現在急速な復興が進められていた。

 

本来中立国であるオーブ連合首長国の資源採掘用コロニーであったヘリオポリスだが、しかしその実裏では連合軍の新造戦艦アークエンジェルとそれに搭載する新型MS開発に協力し5機の「G兵器」開発を進めていたのである。

 

だが計画を察知したザフトのクルーゼ隊の襲撃を受け結果としてコロニーは崩壊し、軍民双方に多くの犠牲者を出して以降は*1秘密外交や軍事機密の観点から復興されずに長らく放置されてきたのであった。

 

地球からも主要な戦線からも遠く離れ崩壊後はジャンク屋ギルド達に荒らされ放題であったが、しかしC.E.71年に再編されたコロニー公社が戦争難民受け入れ居住区確保を名目にオーブに購入を打診し、これを故ウズミ代表が受けてヘリオポリスコロニーの復興事業がスタートしたのである。

 

そもコロニー公社とは何かと言うと現在のジャンク屋ギルドという胡乱な組織が誕生する遥か前、旧世紀の宇宙開発にまで遡り宇宙開発による宇宙ゴミ(デブリ)掃除や隕石衝突による事故対策を専門に行う国際組織を母体として生まれた。

 

再構築戦争後に再開した宇宙開発事業においても、国際機関としてその本部は宇宙開発の拠点と位置付けられたL1の国際ステーション「世界樹」に置かれ、地球の組織でありながらも共和国と良好な関係を持つなど宇宙開発において大きな影響力を持ったのである。

 

しかし連合とプラントが開戦した結果戦火は「世界樹」にまで及び、両軍の激しい攻防の末にステーションは崩壊し最後まで民間人の避難退去を行い内部に残っていたコロニー公社は、本部諸共主要スタッフを失いまた生き残った人員も戦乱の中バラバラに引き裂かれたのであった。

 

以後、国際組織として行なっていたデブリの除去やコロニーの管理などの様々な業務を負えなくなったコロニー公社に替わり、マルキオ導師が世界各国に呼びかけて結成した民間組織であるジャンク屋ギルドが表舞台に登場することとなる。

 

コロニー公社の名はそのまま歴史の裏に葬られるかに見えたが、しかし共和国が月へと進駐する及び各月面都市と並びに共和国内に残っていたスタッフを中心に組織再編の機運が広がり、また共和国軍政府両者からの協力もあって組織は息を吹き返したのであった。

 

当時、共和国は広大な戦線を支える上で本土〜地球間の中継地となるべくL4にザスカールコロニーの復旧を企図し、また国内に大挙して押し寄せる戦争難民の受け入れ先兼前線との緩衝地帯とすべくこれの早期復旧を急いでいた。

 

だが戦時中と言う事もあり破壊されたコロニーの復旧事業は難航が予想され、また中立地帯とするには戦争当事国のみでは国際的な承認が得られ辛かったのである。

 

そこで白羽の矢が立ったのがコロニー建造とその運営のノウハウがあり、元国際機関にして第三者かつ中立の立場を取れる存在としてコロニー公社が選ばれ、結果として双方の思惑が重なった事でささやかながらも公社は再び歴史の表舞台に登ることとなったのである。

 

最も今現在は完全な中立機関と言う立場は有形無実と化しており、また再建の経緯からしてジャンク屋ギルドとは完全に業務が被っておりその関係性は緊張感をはらんだ微妙なものとなっていた。

 

それでもコロニー公社の名は宇宙市民(スペースノイド)月市民(ルナリアン)の多くに受け入れられ、以降戦乱に翻弄される地球圏において貴重な公的機関として大戦や戦後を通して多くの仕事を成して行くのである。

 

その復旧した宇宙港の一角を占めるようにアークエンジェルが鎮座し、周囲にはオーブから脱出したクサナギと同じくプラントから逃走したエターナルの姿があった。

 

後世「3隻同盟」や「歌姫の騎士団」と呼ばれる事となるこの3隻は、それぞれが複雑な経緯の末にここに辿り着いたがその詳細は省くとして今は半ば共和国に身を寄せる形となっていた。

 

その内の1隻であるアークエンジェルの艦橋にて同艦長マリュー・ラミアスは艦長席に頬杖をつき補給と修理作業の監督をしながら、座席のモニターに表示される宇宙港の外の様子を眺めていた。

 

宇宙港の外では広範囲に散らばったデブリを回収すべく作業用ポッドやMSが飛び交い、回収したデブリを収容兼作業母機の艦である巨大なトロール船の船内で圧縮(プレス)され、巨大な(ブロック)に加工されたそれは船外へと放出されガイドビーコンの誘導に従い資源衛星に設けられた太陽熱を利用した溶鉱炉の中へと吸い込まれていく。

 

こうして溶かされたデブリに含まれる希少金属を抽出し、今度は資源衛星内部の工廠へと運ばれ再び資材や機材の部品として生まれ変わるのである。

 

その様子はコロニーという一つの生態系を舞台とした、宇宙における循環構造を思わせ見る者を感嘆させざるを得なかった。

 

マリュー・ラミアスはふと軍に士官する前、カレッジで学んでいた折に講義で触れた鯨骨生物群集(ホエールフォール)と呼ばれるものを思い出していた。

 

暗く冷たい深海に沈んだ巨大な鯨はゆっくりと腐敗し、やがて内部に溜まったメタンガスによって周囲の海水を温め様々な微生物や捕食生物の餌場となり、死の世界である深海でそこだけ生き生きとした豊かな生態系を構成する。

 

今いるコロニーヘリオポリスが崩壊した責任の一端は自分達にあると自覚しながらも、宇宙と言う深海の底でヘリオポリスと言う鯨はそれを苗床とした新たな生活圏を築きつつあると言う事に、戦時中でありながらも人間らしい復興と再建の力強い営みを彼女は確かに感じていた。

 

しかしコロニーの外を映すモニターに共和国軍の識別標が付いた機体が入り込むと、それまでの気分も霧散しマリュー・ラミアスはモニターの電源を落とす。

 

地球と宇宙との哲学的繋がりから切り離され、現実へと戻ったマリュー・ラミアスは視線を横に向けると艦橋の窓からは隣に停泊するエターナルが見え、その奥にはエターナルと同じくプラントを脱出したザフトのナスカ級やローレシア級が並び、反対側のクサナギ側にはオーブカラーに塗られた共和国軍のサラミス級やアレキサンドリア級が船首を連ねていた。

 

コロニーメンデルに逃げ込んだ時は最初3隻しかいなかったのが、いつの間にか小規模艦隊にまで膨れ上がり果たして一体どこまで行くのかとマリュー・ラミアスは内心で不安に思わずにはいられなかったのである。

 

組織と言うのは大きくなればなるほど身動きが取りづらいものであり、ましてナチュラルとコーディネイターの破滅的争いを止めるべく団結した始まりの3隻と、後から参加した艦とでは当然ながら温度差が存在する。

 

そのギャップを埋めるべくオーブのキサカ1佐やエターナルのアンドリュー・バルトフェルド(まさか生きているとは!)は日夜奔走しており、彼女もまた名目上は実戦部隊の指揮官として元ザフトのコーディネイター部隊と自分達やオーブのナチュラル側の部隊との間に立つ役割と求められ、内心疲弊の色を隠せないでいた。

 

更に事態を複雑化させているのは自称共和国からの義勇兵(スペースノイド)の存在であり、これは彼等の弁を信じるならばラクス・クラインの思想に共感し、共に戦うべく馳せ参じた有志の協力者と言う事になる。

 

無論その実態は共和国軍正規部隊であり、自分達に協力するのは半分本当であるがもう半分は監視が目的であると言うのは誰の目にも明らかであった。

 

おまけに直接の指揮権は自分達には無いと来ており、これで一体どうやって部隊間の協調を図れば良いのかと、マリュー・ラミアスは頭を抱えずにはいられなかった。

 

更に近頃は問題が更に増え、共和国のみならず月からはアナハイム社の社員達までもが彼女達に注目し、ありとあらゆる方法で内側に入り込もうと試みているのだ。

 

その目的はフリーダム、ジャスティスであることは疑いようがなく、2機の核動力MSに搭載されるNJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)の秘密を暴こうと共和国もアナハイムも躍起になっているのだ。

 

無論エターナル側がこれを厳重に管理し今の所無事であるが、現状パイロットであるキラ・ヤマトとアスラン・ザラの2人には不便を強いる結果となっている。

 

自分達の今の状況は極めて不健全と言って良く、その存立は共和国の過度な好意によって成り立っており、現状そんな彼等と対等に交渉出来る数少ない(カード)があの2機とそのパイロットの2人しかいないのであった。

 

子供を大人の勝手な政治の道具にする事にマリュー・ラミアス本人は心の底から反感を覚える、が同時に今の自分達にはその“政治“をしなければならないと言う現実が、重く背中に伸し掛かっていた。

 

果たして今の姿を見て、元副官は何と言うのだろうと昔をふと思い出しては懐かしむマリュー・ラミアスなのであった…。

 

 

 

 

 

一方同じ頃、クサナギ艦内の自室にて報告書を一旦進める手を止め、エリカ・シモンズは一息入れるべくデスクに置いたコーヒーカップに口をつけていた。

 

淹れてから時間が大分経っていたため、冷めて風味も味も素っ気もない物であったが、何処ぞの「虎」とは違い彼女自身はそこまでコーヒーに拘っている訳では無い。

 

しかしながら、オーブ脱出時に持ち込めたコーヒーの粉がもうそろそろ底をつき始める事に思い当たると、次はコロニー産の物になるのかもしれないと思いマリュー・ラミアスと同じく、ふと自分達の置かれた状況に想いを馳せた。

 

オーブ脱出後、アークエンジェルと共に宇宙に逃れたクサナギであったが、L4宙域のコロニーメンデルにて同じくプラントを脱出したラクス・クラインやエターナル一行と合流し、共に戦争終結の意を同じくし今後の方策を練っている最中であった。

 

だがしかし間髪入れずに放たれた追手がその時間を許さず、エターナル追撃の任についたザフトのラウ・ル・クルーゼと同じく敵前逃亡したアークエンジェルを捕えるべく出撃した連合軍のドミニオンに挟まれ、彼女達は窮地に陥ったのである。

 

しかもそこに共和国軍のアレキサンドリア級4隻まで現れる始末、最終的に2機の核動力MSフリーダム、ジャスティスの活躍もあって敵の囲みを突破することには成功した。

 

問題はそこからである…。

 

何とつい先ほどまで交戦していた共和国から、ザンジバルに乗って特使が派遣されてきたのだ。

 

単身MSに乗って乗り込んできたその特使は共和国参謀本部付きヨハン・イブラヒム中佐と名乗り、手土産に未だプラント国内で反パトリック活動を続けるアイリーン・カナーバ氏からの手紙を持参して来たのである。

 

その内容は今でも信じられないものであったが、要約すればプラントに潜伏するクライン派残党は共和国と手を組み国外に拠点を構築しつつあること。

 

ラクス・クライン嬢にはこれに参加し、共に亡き父シーゲル・クラインの理想を継いで欲しいというものであった。

 

最初これを罠だと疑う者もいたが、しかしエターナル組のアンドリュー・バルトフェルドやラクス・クラインその人が手紙を信憑性に足ると判断した事で一気に話が進こととなる。

 

無論反発もあったが、クライン派が戦争終結を望んでいるのはラクス・クラインやエターナルの行動を見れば、誰もがその覚悟と本気を認める事だろう。

 

だがしかし、そこに共和国が入るとなると途端に不安に駆られるのも確かである。

 

共和国はこの少し前に月で連合軍と激戦を繰り広げ、あわやあと一歩の所まで追い詰めた強国であり、落目のプラントに変わって今や連合と宇宙を二分する勢力に成り上がっていた。

 

その共和国が、何の見返りも無しにクライン派残党に協力するとは考え辛く、一体どんな要求をされるのか分かったものでは無かったのである。

 

最悪、いい様に使い捨てられるかもしれなかったが、しかし同時にその場にいた全員がこの提案を受け入れざるをえないことも、承知していた。

 

何故ならば当時の状況は拠点も補給のアテも無く、戦艦3隻が宇宙を放浪するしかないと言う極めて絶望的な状況に近く、頼みの綱であるマルキオ導師がジャンク屋ギルドを通して送ってくる補給も、L4を追い出された後では十分とは言い難かったからである。

 

(少年少女達を除く幹部達の間では、生きる為には最悪海賊行為を覚悟しなければならないと、真剣に検討されていた。)

 

それが為に、この提案は正に渡に船とでも言うべきものであったのである。

 

何度かの短い、しかし真剣な会議の末に最終的にラクス・クライン嬢はこれを受け入れ、オーブもアークエンジェルもまた消極的賛成と言う形で落ち着いた。

 

そのクライン派が用意した拠点とは、崩壊したはずのコロニーヘリオポリスの事であったと知った時は、流石に驚かざるをえなかった。

 

特にアークエンジェルとカガリ様にとっては、自分達の出発点に戻ってきてしまったのだから、その驚きも一層際立つものであっただろう。

 

個人的にもヘリオポリスには様々な因縁があり、運命の悪戯にしては過ぎると言うものであった。

 

私達が到着した時には、既にコロニー公社と共和国の手によって崩壊したコロニーの、かなりの復旧が進められていた。

 

再建したばかりの宇宙港には、続々と船が入港し各種機材や資材を搬入されまたコロニー外周では、クライン派のMSジンと共和国のハイザックが肩を並べて周辺を警戒していた。

 

再建されたコロニーとMSの姿を見るまでは半ば半信半疑であったが、実物を見ては最早疑いようも無く『本当にクライン派は共和国と手を組んだ』のだと、信じざるをえなかった。

 

私達が様々な痛みを乗り超え、互いに手を取り合うのと同じくらい、或いはある意味での“深い“関係を共和国は構築していたのである。

 

そして今現在、オーブを含め彼女達の扱いは正直に言って非常に微妙な物と言っていい。

 

それもこれも原因は、共和国の支援対象があくまでプラントのクライン派である点が大きいのだ。

 

アークエンジェルは理由はあれど連合軍を脱走した逃亡兵達であり、オーブもまた現在国土を連合軍によって制圧されそ国家を預かる故ウズミ代表ら首脳部も、モルゲンレーテ社とマスドライバー「カグヤ」諸共自爆して果てており、実質的に国家機能を喪失している。

 

一応はカガリ・ユラ・アスハ様が次の代表と言う事になっているが、治めるべき国も国民もなく今や宇宙を放浪するしかない身分であり、オーブを軍政下に置いた連合軍が建てた傀儡のオーブ臨時政府はカガリ様の代表就任を認めておらず、また生き残った下級氏族の大半もこれに同意する始末。

 

無論私達はカガリ様が正当な代表だと誰もが知っており、国民もその帰還を信じ困難に耐えているが、国際的には父親を亡くした娘であり政治的には殆ど無力と言う他無かった。

 

現状クサナギもアークエンジェルも戦艦と搭載するMSによる武力以外に価値は無く、それもエターナルの2機の核動力機とNJC、何よりも暗殺された故シーゲル・クライン氏の1人娘でありクライン派の象徴であるラクス・クラインとは比べるべくもない。

 

無論、ラクス・クライン嬢やエターナルにその艦長であるアンドリュ・バルトフェルドが私達に向ける友好は決して嘘ではないし、キラ・ヤマトとアークエンジェルクルーの団結は固くオーブとはカガリ様と実の兄弟である事が明らかになっている。

 

しかしながら、個人的な友好と国家間の政治とは分けて考えるべきなのもまた然り。

 

共和国から見れば自分達オーブもアークエンジェルもオマケでしか無く、ラクス・クライン嬢の個人的友人と言う扱いであり、つまりはその程度の相手でしかない。

 

補給や要望の優先事項もキラ・ヤマト関連を除けば大分下の方に回されているのは、ここに来て最初の対応からヒシヒシと肌身に感じていた。

 

(最もアナハイム社が頻繁に出入りするようになってからは、以前ほどの不便やあからさまな扱いは減ってはきているものの、彼等の狙いが明白である以上完全な信頼は置けない相手である)

 

兎に角、籠の中の鳥である私達の現状は極めて憂慮するべきであり、しかしながら現状それを脱する手立ては無く、状況の変化を願ってひたすら待つしか無いと言う消極的姿勢に終始するしか無かったのである。

 

この時の私達は知るよしも無かった、世界を変える鍵は1つで無くあの時もう1つあり、メンデルで既に渡ってしまった事に、誰も気づいてさえいなかった。

 

その結果、どんな事態が生まれてしまったかなど、人間の宿業その行き着く果てが何を産み出したのかを、この時の私達は知るよしも無かったのである。

 

 

 

*1
当時「血のバレンタイン」の報復を掲げるプラントとしては、ザフトが中立国のコロニーを襲撃しこれを破壊したと言うのは大変都合が悪かった。また連合は民間施設に偽装しての兵器開発、オーブは中立違反など三者三様に事を荒立てたくない理由があった。




今回の話の要約:原作の飼い主(スポンサー)が盲目坊主から共和国に変わっただけである。

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