アークエンジェル、クサナギ、エターナル一行が元オーブの現コロニー公社管理下である、コロニーヘリオポリス宙域では、共和国軍との間で熱心な模擬戦闘訓練が行われていた。
エターナルの規格外2機とアークエンジェルのストライク、バスターはパイロットを含め別としても、現在3隻の中で最大機数を誇るオーブの主力量産MSであるM1アストレイとパイロット達の技量向上は、喫緊の課題であったのである。
「動きが鈍いぞ、機動しろ機動を!」
「貴様等が乗っているのは、機動兵器だぞ。実力を見せてみろ」
教官役のハイザックに突っつかれながら、オーブ軍の主力MSであるM1アストレイ達は星々が瞬く宇宙にスラスターを光らせながら、攻撃を避けるべくデブリの中を必死に操縦していた。
本来の訓練メニューは3機のM1が教官機を追跡する筈が、いつの間にか立場が逆転してしまっており、逆に3機が1機に追い回されているのだ。
訓練の趣旨からは大きく外れ奇妙な光景ながらも、管制塔側は静観する構えであった。
「機動力ではコチラの方が上の筈なのに…」
「それは彼等が、機体を上手く活かせていないからですね」
管制室で戦闘訓練を見学していた、オーブのモルゲンレーテ社技術主任エリカ・シモンズがふと漏らした言葉に対し、返ってくる筈のない答えが彼女の背後からかかった。
振り返ると、共和国軍の軍服を着た1人の壮年の男性が管制室内にいつの間にか、入って来ていたのである。
「ジオニック社から出向しましたレム中尉と申します。お噂は予々…」
レム、と名乗った壮年の男が柔かに笑みを浮かべながら手を差し出し、シモンズもまた片手を出して応じる。
ゴツゴツとした岩の様に固い皮膚の感触に、シモンズは相手が中尉と名乗った事もあり、唯の会社員では無いと警戒を一段階上げた。
「態々遠い所にようこそ…と居候の分際で言うのも可笑しいですね」
「いえいえ、こちらも何かと勉強になります」
表面上は穏やかだがシモンズは心の中で、「一体何を勉強しに来ているのか」と皮肉りつつも先程の答えが気になっていた。
「所でさっきの…」
「ああ、誤解しないで頂きたい。貴方がたオーブが作った兵器は素晴らしい、これはお世辞抜きです。しかし肝心の…」
「パイロット」と言われた時、シモンズも痛い所を突かれたと感じた。
そう言ってレム中尉は手元の端末を操作し、シモンズにあるパロメーターを見せる。
「見てください、演習中の機体に設置されてセンサー系の特にスラスターとアポジモーターの所を」
端末を覗き込んだシモンズは確かにレム中尉が言うように、ハイザック側はフルにスラスターを使えているのにも関わらずM1は、最大でも70%しか発揮できていなかった。
他にも機体反応速度や燃料消費でも、ハイザック側が素早く判断し燃料とバッテリーも効率的に運用している中、M1の消費は倍以上でありこのままのペースだと、先にエネルギーが尽きそうである。
「機体の不調、と言う訳でもないですね」
「ええ、残念ながら宇宙では良くあることです。アースノイド…失礼うっかりしてしまいました。あ〜、兎に角、地球生まれの方が初めて宇宙に出ると距離感を見失ってしまうのです」
所謂、空間失調が原因ならばシミレーションである程度克服出来るはずであり、オーブから脱出する際に乗り込んだパイロット全員が基準値をクリアしている筈であった。
「空間失調の事ではありません。これは、実際に乗って初めて宇宙に出た者にしか分からない感覚なのですが…曰く、吸い込まれる感覚なのだそうです」
シモンズは残念ながらパイロットでは無くまた理論的ではない感覚的なものについて、あまり信用してはいなかったが、レム中尉は続けて言うに彼の話ではこうである。
謂く、人類が二足歩行してから重力を感じるのは、ずっと当たり前であった。しかし、宇宙に進出するにあって、初めて人は無重力と言う物に触れた。
足元と足裏に何も無い感覚に人類の脳が追い付いておらず、結果、真空に吸い込まれたり底の無い海に堕ち続ける、といった感覚にパイロットは襲われるのだ。
訓練である程度克服出来るとは言え、生得的なもの故に地球生まれと宇宙育ちでは得意不得意が出てしまう。
「一応、これでもテストパイロットをしていた時期もあります。現場で感じる事は、中々データには表れないものです」
何処か遠い昔を懐かしむレム中尉の様子に、共和国も色々とあるのだとシモンズは思ったが今は兎に角パイロット達の不調を解決する方法を、或いはその糸口となるアドバイスを必要としていた。
「成る程。お話は分かりましたが、具体的には…」
「ああ、これは失礼を。兎に角、宇宙に慣れる事が肝心です、例えば基礎的なコロニー生まれの子供がやるような宇宙遊泳ですとか、あとは体を固定せずに眠ったりとか色々と方法はありますが、一番肝心なのは宇宙では中心は常に自分だと信じ続ける事です」
上下左右の概念の無い宇宙では、地上とは違い星や太陽の位置は常に変化し続け何かを基準とする事も出来ない。
世界から放り出されたかの様な孤独感の中で、自分こそが中心であり基準だと言う強い意志がパイロットには必要不可欠なのだ。
これは訓練では決して得られない感覚であり、嘗て共和国では宇宙の広さに適応し認知能力を拡張した者を、人類の次のステージと定義していた時期もある。
それは宇宙移民いや、棄民者たるスペースノイド達を纏める一種の方便でしか無かったかもしれないが、今でも共和国の民は心の底で強く信じていた。
自分達こそ人類の新たな存在であり、地球の重力に魂を縛られたアースノイド達は最早オールドタイプなのだと。
レム中尉を始め、スペースノイドは同じスペースノイド同士でも中々こういった、腹の内を明かさないものである。
まして相手がアースノイドであり、コーディネイターであるのならば尚更であった。
共和国情報部はなにもプラントのゾルゲだけでなく、この宇宙に広く浸透しその情報網は地球圏のみならず火星や木星の遠宇宙から、果ては地上の中立国オーブの地下さえ伸びていたのである。
当然、エリカ・シモンズはナチュラルのフリをしたコーディネイターである事は調査済みであり、レム中尉も知っての事であった。
『次の演習機が空域に侵入を確認、予定開始時刻は…』
管制室のオペレーターが次の演習予定をアナウンスし、モニターを見るとどうやら鬼ごっこはM1側が推進剤を使い果たした事で、予定よりも早く終了したらいい。
幾ら地上で激戦を生き延びたとて、それだけで宇宙はやっていける程甘くは無かったのである。
「レッドリーダーから各機へ、演習エリアへの侵入を確認。状況を知らせ」
演習エリアに侵入した3機のハイザックは、バイザー越しにモノアイを光らせ異常なしを伝える。
ある程度の距離ならばNJ環境下でも無線通信は可能であるが、しかしそれも万全では無く却ってモノアイを光らせたりジェスチャーをする、といった方が素早く正確に伝達する事もあった。
「演習内容を再度確認する、これより5分後に反対側の演習エリアから
より演習のシナリオを説明すると、哨戒活動中に領空を侵犯する不明機を発見しこれを迎撃すると言うものであったが、今回は不明機が実際に演習開始まで不明と言う点にあった。
今現在、コロニーメンデルには共和国、元ザフト、連合、オーブといったバリエーション豊かな軍やMSが揃っており、普段はそれぞれの所属の元に纏まって訓練しているが今回の演習ではその枠組みを無くし、不明機側は自由な編成での運用となっている。
言わば呉越同舟的な者同士、演習を通して連携と交流を図ろうと言う意図の元で、今回の演習は企画された。
先程も述べた通り、現在のコロニーメンデルに駐留する勢力は様々でありそれぞれのMSの機種どころか、その運用や文化さえ異なっている。
一応は戦争を終わらせる為、と言うラクス・クラインの大義名分を元に集まってはいたが、それだけで人が纏まるのなら苦労はない。
だから折に触れて、この様な混成部隊や指揮官を変えての演習を行い相互理解を深めようと言う、ある種の親心でもあった。
この場合親とは無論共和国の事であり、血の繋がらない居候同士を養いつつその仲を何とか取り持ち、目的地に導くのである。
「時間だ、状況を開始する。母艦からの誘導に従い不明機を迎撃」
母艦であるサラミス級からオペレーターの誘導に従い、侵入してきた不明機に接近する3機のハイザック達。
実を言うと共和国の軍制ではMSの最小単位は2機であり、これに2機加えて4機で一個小隊を通常編成している。
史上初めてMSを開発し、実戦に導入したザフトでは3機での運用を基本としており、連合やオーブなどMSを開発導入した各国でもこれに倣っていた。
当初は共和国軍も3機編成の小隊を採用していたものの、B号作戦前により運用の柔軟性と個々のパイロットの判断を尊重する形で、編成を改めている。
今回は演習と言う事もあり、また仮想敵を連合軍という事から鑑みて、旧来の3機編成となっていた。
つまり、共和国扮する連合軍の哨戒網に接近する3隻同盟側が、上手く迎撃機を潜り抜けて目標である母艦を攻撃できるのかの訓練であったのである。
「レッドリーダより、各機へ目標を確認。全機、武器の安全装置解除し交戦に備えよ」
戦時中でありまた通常軍事作戦中の軍艦ならば、接近する不明機には問答無用で発砲は許可されているものの、今回はあくまでもシナリオ通り進めると言う事でありレッドリーダーはまずメインカメラに捉えた不明機を見据え、通信を試みた。
「接近する所属不明機に告ぐ、貴機は現在…!?」
と最後まで台本を言い終わる前に、不明機いや今や明確に
演習場に侵入した敵機の編成は、隊長機が捉えたモニターには先頭からジン、M1、M1となっていた。
最悪、フリーダムとジャスティスのペアが出てくる事も想定されていたが(その場合演習にすらならず、一方的な狩りになってしまう)、オーブとザフトの混成部隊であった。
色々とあってオーブとも元ザフトとも共に行動してきたアークエンジェル所属機が現れなかったのは、恐らくだが実戦では彼らがオーブのMS部隊を率いる事もあり、寧ろ自分達が居ない状況でのザフトとオーブの連携を最低でも確認しておきたい、と言う意図が働いたのだろうとレッドリーダーは推察した。
ジンからの射撃を回避しつつ、レッドリーダーは通信で敵機の編成と武装を伝える。
「敵はジン1、M1が2、内1機は長物を背負っているから注意せよ」
恐らくジンに乗っている元ザフトが先制攻撃で撹乱し、その隙を突いてバズーカ装備のM1が母艦を攻撃するのだろうと、レッドリーダーはそう思いつつ機体を操り攻撃の回避に専念した。
一応今回の演習ではこちらが仮想連合軍であり、MSもハイザックであるがストライク・ダガー想定である。
つまり、普段通りのハイザックの気持ちで攻撃を受けると、センサーが反応して機体を撃墜判定してしまうのだ。
以前これでやらかしたパイロットがおり、マラサイを持ち出して撃墜判定を喰らった間抜けがいたのである。
尚そのパイロットは演習後大目玉を喰らうし、仲間内で散々揶揄われた事を追記する。
しかし、連合軍のストライク・ダガー想定とは言え、乗っている機体はハイザックでありパイロットもまたここまで戦場を生き延びてきたパイロット達は、ジンの攻撃を避けつつ反撃も加えていく。
「悪いが、安い方から墜とさせてもらう」
レッド部隊の仮想ストライク・ダガーのハイザックが、元気に暴れるジンの後ろで動きの鈍いM1に狙いを定めた。
照準レクテルが動き火器管制装置が複雑な計算を行った末に、スコープ越しにパイロットはトリガーを引き絞る。
ハイザックが構えたビームライフルからビームが…実際には発射されず代わりに照準レーザーを感知した機体が、実際に被害状況を計算し自機が動けるのかそれとも撃墜されたのかをエミュレートしていく。
結果、ビームライフルを胴体に直撃したM1は大破判定を受け、直ちに操作系統がロックされ宇宙を漂う事となる。
如何に機動力に優れたとて、回避できなければ全くの無意味であり唯でさえビーム兵器が普及した現在においては、被弾即大破の機体が大半であった。
その点で言えば、ハイザックのパイロット達は自分達の機体に感謝していたし、他国のパイロット達はそれを羨ましがっていたのである。
「まず1機」とパイロットが内心で敵機撃墜を数えたが、その直後に通信機から緊迫した声で僚機から警告が入った。
「レッド2!回避しろ、長物を持った奴が抜けて来た、思ったより疾い!?」
声に反応する間もなく、ハイザックの全天周モニター一杯にバズーカを持ったM1アストレイの姿が映し出された。
レッド2が接触を回避しようと操縦桿を倒すが、それよりも早くM1アストレイの前蹴りが炸裂した。
蹴りを胴体に受けたハイザックが機体をくの字に曲げて吹き飛ばされ、幾ら頑丈なハイザックとて機体は兎も角も中のパイロットは堪らない。
共和国軍で採用される球形のコックピットは、構造上は衝撃にも強く緊急時には
それでもMSの質量をマトモに喰らっては無事で済む保証はなく、実際レッド2は衝撃でヘルメットをコックピットコンソールにぶつけて緊急時に発動するクッションカバーによって顔面を覆われ、頚椎を保護する為のパイロットスーツのネックガードも発動する。
これらの保護機構によって何とか人体にかかる負荷を和らげたが、それでも完璧では無く即座の復帰は困難であった。
「野郎ふざけやがって!!」
「あの動き…!?手強いぞ、注意して掛かれ」
味方が吹き飛ばされ演習とは言え激昂するレッド3と、明らかに今までのM1とは違う手練れだと脅威どを引き上げたレッドリーダーは、防衛ラインを抜けた敵機を追撃しにかかる。
無論背後にジンを抱える事になるが、母艦をヤられてしまえばどちらにしろコチラの敗北で終わってしまう。
リスクを取ってでも、ここは無茶をするしか無かったのである。
「レッドリーダーより母艦へ、敵機が1抜けた。繰り返す敵機が抜けた、これより援護にはい…!?」
コックピっどのフットペダルと踏み込み、スラスターを全開にして追撃を掛けようとする2機のハイザック。
しかし、あろう事か先行するM1が機体を後ろに捻りながらバズーカの砲身を、此方に向けて来たのである。
3回に分けて速射されたバズーカは、無論実際に発射される事はなくあくまでもモニターが写す幻であっても、このままの進路では無論回避しようとしても別の弾に自ら当たりにいってしまう為、進路を大きく変える必要があった。
「うぐぐぅ!」
操縦桿を倒し急減速をかけて何とかバズーカの弾を回避するレッドリーダーだが、急激な進路変更で機体が揺さぶられ座席シートベルトがパイロットスーツに食い込む痛さに耐える。
「隊長!」
「レッド2…!?そのまま母艦のカバーに入れ…!コイツは、お前の敵う相手じゃない」
急激なマニューバの中でも、レッドリーダーはあくまで母艦を守ように部下に伝える。
何とかバズーカを全弾回避する事に成功したが、それを見てコチラを脅威と見たのかM1が反転し(あるいは最初からこれを狙ってか)、猛烈な速度で襲いかかって来た。
バズーカが更に2発連射され、しかし明らかに狙いが逸れたそれはハイザックの為で炸裂する。
全天周モニターは演習で使われる模擬弾とリンクしており、実際にはそうでなくともCGによって補正された画像が閃光と共に炸裂し、爆炎を上げてモニターを明るく照らした。
その光の影に隠れるように、M1は接近し今度は至近距離からバズーカの残弾を叩き込んでくる。
だがしかし、バイザー越しに隠れたモノアイカメラはパイロットが目を眩ませる前に光量を自動的に絞り、連動してコックピットの全天周モニターも爆炎の影に隠れて接近するM1をセンサーが捉えていた。
敵機接近を知らせる
全弾を無事に回避し、改めて敵機と対峙しようとするがそれより先に機体のコンピューターが先ほど回避したバズーカの弾と、それの向かう方向を表示した。
何と敵機は巧妙にもレッドリーダーと母艦とが直線上に結ばれる位置に移動し、そこから攻撃する事で例え回避されようとも、無防備な母艦を仕留める二重の罠を仕掛けていたのである。
今から慌ててバズーカの弾を迎撃しようにも、距離はドンドンと遠くになり母艦が気づいた時には既に手遅れになっているだろう。
最早打つ手なしに見えたが、しかしレッドリーダーに焦りは無かった。
M1が勝利を確信する中、しかし先回りして母艦のカバーに着いたレッド2がビームライフルを構え、バズーカの模擬弾を迎撃し全てを撃ち落とす事に成功する。
(これは演習なので本当にビームは出ないし、模擬弾も炸薬を実装していない。しかし、双方MSのコックピットモニター上には撃ち抜かれ爆発するバズーカ弾の様子が、克明に描写されていた)
これを見越し、敢えて数的優位を捨てて母艦の防御を優先したレッドリーダーの作戦勝ちであった。
だがM1側も完全に手詰まりになった訳では無く、レッドリーダーと一対一の状況で勝ちその後に追いついたジンと共に残るレッド2を撃墜判定に持ち込めば、彼らの勝利なのである。
演習の行方は双方の、リーダー機にかかっており管制塔も沈黙しその行方を固唾を飲んで見守っていたのだ。
先に仕掛けたのは今度もM1であり、弾切れのバズーカを投擲しレッドリーダーの乗るハイザックは思わず機体の右腕で弾くも、装備していたビームライフルも同時に失ってしまう。
その隙を逃さず、M1はビームサーベル(勿論、実際にビームの刃は出ない。あくまでも全ては演習でモニター上にしか実在しない)を抜き放ち、近接格闘戦を挑む。
大戦当初から多くの戦場で活躍し、今尚現役で戦い続けられるハイザックだが明確な弱点と言うものがある。
それは、近接格闘能力がジンに比較して劣りまた共和国軍のパイロットもこれを忌避する傾向が強い、と言う点であった。
共和国のドクトリンでは砲射撃戦が主体であり、例えコーディネイターの乗るMS相手に格闘戦を挑んでも反応速度の差と、ハイザックの機動性運動性を犠牲にしても装甲と生存性に特化する特性から大きな不利であり、非常時を除いて敢えて挑む必要は無かったのである。
この点、何かにつけてプラントとコーディネイターを超える事を志向する連合でも、こと格闘戦に至っては集団で囲んで滅多刺しにする、これ以外に対処法は無かった。
つまりハイザック相手には弾幕を突っ切り、近接格闘戦に持ち込む事こそ勝利を掴む鍵であったのである(最も常に複数機以上部隊規模で動き、ビームライフルを標準装備するハイザック“達“相手に出来ればの話ではあるが)。
両手でビームサーベルの柄を持ち両断しようとするM1、回避困難な一撃をしかしハイザック側も脅威的な反応速度…ではなく、予めシールド裏に仕込んでいたビームサーベルで受け止めた。
一応現行最も普及しているビームサーベルの基本原理について説明すると、ミラージュコロイドの技術を応用し磁場を刀身状に形成しG兵器を初め多くの機体が採用しているがが、ではビームサーベル同士が打ち合った場合どうなるかと言うと、実はミラージュコロイド同士は干渉せずに互いにすり抜けると言う形になる。
つまり、通常ならばビームサーベルを同じビームサーベルでは受け止められず、ハイザック側が一方的に切り裂かれる筈であった。
にも関わらずシミュレーションとモニター状ではお互いのビームサーベルが反発し、まさに競り合っている様子が表示されている。
これには管制塔で見学していたエリカ・シモンズも思わず驚き、レム中尉は逆に関心するかの様にモニターを見つめた。
種を明かせば簡単なものであり、ビームサーベルの刀身を形成するのに必要なミラージュコロイドだが、共和国軍はビームサーベル形成に別の力場理論を使っているのだ。
共和国軍製ビームサーベルはあくまで緊急用であり、連合やザフトの様な主要兵装ではない。
その為、強力だが常に機体からエネルギー供給を必要とするミラージュコロイド式ビームサーベルではなく、柄に内蔵されたエネルギーカプセルによって刀身を形成する非ミラージュコロイド式の力場に基づくビームサーベルを採用していた。
これはカプセル内のエネルギーが尽きれば当然使用不可能になり、また威力もミラージュコロイド式に比べて劣っている(それでも戦艦の装甲は無理でも、MS程度ならば十分な威力はもつ)。
要はいつもの共和国の技術不足に起因する問題であり、今回はそれが却って幸いして機体を守ったのである。
M1と中のパイロットとしても予想外の出来事に混乱するが、しかし両手でビームサーベルを保持しエネルギー供給を増やして押し切ろうとするが、だがこの場合その両手と言う体勢が両者の明暗を分けた。
「ここまでだ、M1」
レッドリーダーがそう言うや、ハイザックはシールド裏とは別に腰に吊るしたもう1本のビームサーベルを抜き放ち、鋭く一閃しM1の頭部を両断ではなくコックピットモニターではそう表示され実際には首は落ちてはいない。
頭部を失い、機体の電気系統に支障をきたしたM1はシミュレーターの判定で中破となり、その場で動かなくなった。
こうして強敵を苦心の末に倒す事に成功したレッドリーダーは、同じく再度合流したレッド2と共に残敵を掃討し、こうして演習は共和国扮する連合もとい彼らが母艦を守り切る形となったのである。
その後…
ヘリオポリス内の酒保にて1人盃を空かしていたレッドリーダーは、偶然にも先頃の演習相手と出くわした。
向こうから声を掛けられて一目見て直ぐに、レッドリーダーは演習相手の仕掛けに気がついたのだ。
その相手はモスグリーン色の軍服をした元ザフト兵であり、だからM1の動きが良かったのか1人合点がいく。
その後、ささやかな再会を祝したあとで会話は当然の様に演習についてになった。
ジンは元々彼がパイロットであったが、演習前に急遽M1に搭乗する事となり反対にM1のパイロットが、ジンに乗る事になったのである。
不慣れなジンに乗るオーブ兵が先に攻撃を仕掛けてしまい、もう一機のM1は味方の予想だにしない行動に反応が遅れ、結果彼が1人アドリブを効かせたと言う訳であった。
その時に部下の1人に手荒な真似をした事を彼は謝罪したが、レッドリーダーは幸い部下は多少の打撲だけですみ、検査でも異常がなく今は任務に復帰している事を伝えて、謝罪は不要だと返した。
「寧ろあれ位激しくないと、訓練の意味は無いからな」と付け加え、逆にフォローされて彼の方も安堵した様子であった。
その後は話とグラスも進み必然お互いのマニューバ、戦闘機動に話は移っていく。
“…あの時は無理に反撃せず、そのまま直進すれば良かったんじゃないか?“
“それだと前後を挟まれる、逆にこっちはそちらの背後に1機いたから、それで挟み撃ちにするつもりだったんだ“
“成る程な、まあ俺達は母艦が堕とされたら負けだからそっちのカバーを優先したんだが…“
向こうの思惑は外れ、一対一になった訳だがそれでもM1が有利だと彼は考えていた。
オーブが開発したM1の本領は近接格闘戦にあり、非常に多彩な格闘戦のパターンも取り揃えていたのである。
またハイザックが近接戦に弱いと言うのは、既に有名な話でありそれで勝負を決めようと最初から考えていたのだ。
だが実際は演習での通り、必殺の一撃は防がれ反対にカウンターを食うハメになったのだ。
彼は何故、ハイザックがレッドリーダーがそれを防げたのかが気になって、態々彼を探していたのである。
「ああ、簡単な話だ。敵も味方もハイザックが近接戦に弱い事を知っている、だから格闘戦を仕掛けてくるのは初めから分かっていた」
その返答に相手は納得していない様子であったが、タネを明かせば以下の通りである。
共和国軍のMSはその全てに教育型コンピューターの簡易モデルが搭載されており、戦場で得られた全てのデータが本国で収集解析された後に、共有並列化されるのだ。
つまり一機のMSとパイロットが得た経験値は共和国軍全てに伝わり、特に近接格闘戦を*1仕掛けられた時の回避や防御方法、ビームサーベルでの受けや捌きといった初めからカウンター前提の動きを構築していると言う訳である。
*2以前にもこの仕組みに気づいた者がいたが、それもこれもハイザックの高い耐久性とパイロットの生存性あってこそであり、結局の所機体を動かすのが人間である以上、経験を積んだパイロットの価値は同じ重さの金塊より貴重であり、人的損害を最小限に抑える仕組みや組織を作ってきた共和国軍だからこそ、これらの恩恵を最大限活かせるのであった。
聞きたい事を聞き終えたのか、彼は席を立ち去り際にレッドリーダーの核心を突く一言を放つ。
“あの回避挙動は見事だったよ、とてもナチュラルだとは思えないくらい“
それだけ言うと、酒保を出ていく彼の背中に向かってグラスを傾けながらレッドリーダーも内心で答えた。
(お互い見事だったよ、“同胞“)
2人の会話も姿も酒保を賑わす喧騒の中に消え、そこには普段通り何も無かったかの様に振る舞う人々がいるのであった。