機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第12話 悪夢再び

C.E.71年9月23日、L(ラグランジュ)5 ザフト宇宙要塞ボアズ沖

 

「月面方向から接近する連合軍艦隊を確認、第一防衛ライン接触まで30分」

 

「総員第1種戦闘配置、事前の防衛計画に従って行動せよ」

 

ボアズ要塞司令部のオペレーターが連合軍の接近を知らせ、要塞司令は直ちに全軍に対し戦闘配置を命じ防備を固める。

 

司令部の巨大なスクリーンに映る連合軍艦隊は、正に圧倒的であったがしかし司令は「このボアズそう易々とは抜かせないぞ」と呟き、自らと兵達を鼓舞するのであった。

 

宇宙要塞ボアズは元は東アジア共同体所有の資源衛星「新星」だった事は先述の通りであるが、L4宙域にあったこれを態々移動させたのは、単に資源採掘目的だけでなく対地球及び月に対する橋頭堡の役目を負わせようとしていたのである。

 

鉄分を豊富に含んだ硬い岩盤に掘られた坑道と内部空間を再利用し、カーペンタリア基地同様に分割した基地施設を持ち込み、内部で組み立て連結する方法で短期間の内に軍事拠点化する事に成功していた。

 

連合軍は何度か妨害と奪還しようと攻撃を仕掛けるもその悉くが撃退され、完成後ボアズと名付けられたこの要塞にはザフト宇宙艦隊が駐留し、以降プラント政府はボアズを難攻不落と大いに喧伝したのである。

 

事実、昨年まではその名に偽りは無かった。

 

しかしこの要塞にも転機が訪れ、71年3月に発生した共和国軍が保有する宇宙要塞コンペイトウを攻略すべく、プラントはザフトの派兵を決定しボアズはその後方基地として利用されたのであった。

 

コンペイトウ攻めは当初の想定を大きく超えて1ヶ月以上続いた結果、派遣したザフト艦隊は壊滅し残存部隊も這々の体でボアズに逃げ帰り、逆に勢いに乗る共和国軍の追撃部隊と防空部隊との間で以降激しい砲火が交わされる事になる。

 

ボアズは先述の通り単なる宇宙要塞だけでなく、プラントの対地球戦略の重要な中継拠点でありまた本土ヤキン・ドゥーエ要塞との間に、最終防衛ラインを構築する国防の一角でもあった。

 

が4月以降共和国軍は度々ボアズ要塞とその防空ラインを襲撃し、数で勝る相手に戦力を消耗させられまた同月就任したプラント評議会新議長の、パトリック・ザラが発動した「オペレーション・スピットブレイク」の煽りもモロに受けて、碌な戦力補充もされないまま作戦の為に艦隊戦力を供出させられたのである。

 

その結果は既に承知の通りであるが、本来プラント防衛の要として戦力を充実させて然るべきの筈のボアズは、再編もままならぬ中で共和国軍は次なる作戦に打って出た。

 

5月に共和国軍が発動した月面解放を目的とした「B号作戦」の陽動の為、共和国軍カニンガム提督率いる艦隊との間に、ザフトはボアズ宙域で両軍合わせて100隻を越す宇宙艦隊同士の戦いが行われた結果、防衛ライン奥深くまで食い破られたのである。

 

一時はボアズ陥落まで危惧されたものの、共和国軍の目的が先の通り月であった為そこまで要塞攻撃を重視していなかった共和国軍は、連合軍の目を騙すと言う目的を達した後まるで波が引くかの様に撤退したのだった。

 

何とか一息つく事ができたザフトであったが、その被害は甚大でありボアズに駐留していたザフト主力艦隊を含む戦力は、最盛期の2/3にまで減少し3月以降戦い続きであった将兵の多くは疲労困憊で限界を迎えており、本国で戦力を回復させるべく後送する必要があったのである。

 

プラント本国もボアズの失われた戦力の再編と回復は急務と捉え、ヤキン・ドゥーエ要塞から交代部隊を回し要塞の修繕も急ピッチで進めたが、それが完全に終わる前に今度は連合軍が攻め寄せてきたのであった。

 

 

 

 

共和国とボアズとの間で行われた戦闘の結果発生した巨大なデブリ群は、ジャンク屋ギルドの回収も儘ならぬ中で、要塞周辺に滞留し大きな暗礁地帯(デブリベルト)を形成していた。

 

その中を連合軍宇宙艦隊所属の第6、第7機動艦隊合わせて160隻を越す大艦隊が進み、ザフトの宇宙要塞ボアズをその視界に納めようとしていた。

 

連合軍艦隊の陣容はアガメムノン級宇宙空母20隻、ネルソン級宇宙戦艦56隻、ドレイク級護衛艦64隻に補給艦や補助艦多数にMSとMAを合わせて5,000機以上が投入されており、ここにムルタ・アズラエルらブルーコスモス派直属のアガメムノン級18隻とカラミティ、フォビドゥン、レイダーにピースメイカー隊360機が加わるのである。

 

対するザフトは宇宙要塞ボアズと駐留する防衛艦隊50隻程度と1/3以下であり、内ナスカ級8隻にローラシア級が32隻に補助艦多数、MSに至っては連合軍の半数以下の2,200機程度であった。

 

しかも期待の新型MSゲイツは全体で800機程度であり、大半は旧式機のジンやシグーと言う有様でボアズは質量共に、連合軍に大きく差をつけられていたのである。

 

またプラント国内の問題もあって増援は望めず、現有戦力のみで対処するしか無かったがしかしプラント防衛に燃えるザフト兵の士気は依然高く、また共和国軍と長い期間対峙し続けてきたボアズ側は大軍相手に有効に機能する重厚な防衛陣地を構築し、連合軍を待ち受けようとしていた。

 

ザフトが覚悟を決める中、アークエンジェル級2番艦ドミニオンに同乗する国防産業連合理事にしてブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルは艦橋で用意された席に座ったまま手を叩いて、まるでゲームでも始めるかの様に作戦発動を宣言する。

 

「さあ、ちゃっちゃと始めちゃってください」

 

連合軍各艦艇から次々とMSやMAが発艦し、ビームライフルを構えた連合軍主力量産MSストライクダガーや新型MAコスモグラスパーが先陣を切ってザフトの防衛ラインに襲いかかり、その隙間を埋めるように旧式化したとは言え数だけはあるMAメビウスの編隊が飛び交う。

 

対するザフトもまた連合軍を迎撃しようと艦隊からMSを出撃させ、両軍のMSとMA部隊との間で激しいドックファイトが繰り広げられる。

 

宇宙(ソラ)のバケモノめ!叩き潰してやる」

 

「パナマで殺された妹の仇だ!!殺してやる、殺してやるぞ!」

 

「今まで散々痛ぶってきたお礼に、連中は全員嬲り殺しだ!!」

 

ブルーコスモスに洗脳され、あるいは単に家族や親類を殺された恨みからか、連合軍パイロット達は口々に敵を呪う言葉を吐きつつ、相手を殺そうとMSの大群が殺到する。

 

数で勝る連合軍はその質においてもまた優っており、ビームライフル装備のストライクダガーが前衛を張り、同じくビーム兵器と各種ストライカーパックを装備したMAコスモグラスパーがザフトが構築する、防衛陣地に向けて破壊的なビームの奔流を解き放った。

 

宇宙を焦がすかの様な荷電粒子の束が陣地に突き刺さり、陣地を守る装甲を融解させ防衛用砲台を破壊し、弾薬に引火して巨大な火球が連続して宇宙に光の帯を作り出す。

 

あっという間に防衛ラインは破壊され、そこに開いた穴に連合軍は殺到してボアズ要塞に取りつかんと、彼らが迫ろうとした時である。

 

「今だ、ナチュラルの低脳共に戦争のやり方を教えてやれ!」

 

待ち伏せていたザフトMSゲイツのビームライフルの銃口から光が放たれ、同じくジンからも88式レールガンが撃ち出された。

 

先行して突入した連合軍部隊は、四方八方からビームやレールガンに襲われてある機体は胴体を貫かれて宇宙を漂うデブリの仲間入りをし、またある機体はバックパックに直撃し一瞬にして火球に変わって宇宙に短い命の花火を光らせる。

 

待ち伏せを受けた味方を救おうと連合軍MSが殺到するも、その眼前には先ほどまで存在しなかった防衛陣地や砲台が立ち塞がり、或いは機雷原が出現して足止めしていた。

 

ボアズに構築された防衛陣地は共和国との戦いで得た戦訓から、ザフト流にアレンジされており、材料こそデブリや廃材の再利用品であったがしかしその目的は、敵を単に防ぐだけでは無かったのである。

 

共和国軍と違いザフトの防衛陣地は可動式であり、巧みにその位置を変える事で戦線を柔軟に維持しつつ、例えば敢えて突破させた後に後続を遮断し敵を分断して待ち伏せるなど、よりアクティブなディフェンスを旨としていた。

 

これの優れている点はコストが安いことと、何よりも無人なことである。

 

人的資源に乏しいプラントにあって、例え防衛用兵器とは言え兵士を貼り付ける事は難しくならばと、基本は使い捨てに指示機からの指令に従って稼働する、言わば無人移動防衛砲台であった。

 

そうと知らない連合軍は無駄弾を防衛陣地に使い、ザフトはジン偵察型を改良した指示機が敵の位置を後方の味方に知らせたり時に陣地その物を質量弾としてぶつけたりと、連携して巧みな防衛戦術を行っていたのである。

 

全体的に数で圧倒しているはずの連合軍であったが、MSとMAの制空戦闘で上手く行かずまた艦隊同士の砲撃戦であっても、ザフト艦は数の少なさをカバーすべくデブリを盾にしその影から出て攻撃しては引っ込むと言う戦法で手を焼かせた。

 

戦艦の火力を集中させてデブリごと焼き払おうとするも、逆にザフトは巨大なデブリに推進器をくくり付け密集した所に放り込み、連合軍の陣形を乱していく。

 

そうして乱れた所にザフト艦隊は少ない火力を集中させ、敵の陣形に穴を開けて被害を拡大させるのだ。

 

戦いは連合軍にとって最初から非常に不本意な形で進み、性能で勝るはずのストライクダガーが相手がレールガン装備とは言え、旧式機のジンに追い回されて撃ち落とされたり、或いはコスモグラスパー隊がランチャーストライカーで敵艦を撃沈しようとするも、巧みに連携するMSと艦隊の立体的な対空砲火に誘い込まれて撃墜されたりと、明らかに連合軍は精細を欠いていた。

 

「ふむ、やっぱり急造戦力ではダメですね。もっと訓練しなくちゃ」

 

と後方のドミニオンで戦闘にも参加せず、前線部隊の醜態ぶりを表するアズラエルだが、しかしそもそもこの作戦を強行したのは彼自身である。

 

元々連合軍は月基地において初戦で壊滅した宇宙艦隊の再編と増強、及び生産が始まったばかりのMSの製造とそのパイロットの育成訓練を行なっていた。

 

連合軍は着々と反攻戦力を蓄え、地球各戦線から引き抜いたベテランを含め最盛期に近い陣容を、整えようとしていた所であった。

 

がそこに共和国軍のB号作戦によって折角再建した艦隊戦力が悉く撃破壊滅させられ、虎の子のMS部隊も共和国軍MSハイザックの緑の津波に飲み込まれた挙句、月のプトレマイオス基地まで攻め込まれる始末である。

 

一度は防空レーザーオプティクスを使って味方ごと敵を撃ち、何とか追い返すも最後は基地内部にまで侵攻され、大きな被害を受けた。

 

最終的に一時休戦が成立して、何とか首の皮一枚どころか半枚で生き延びた連合軍であったが、しかし休戦と引き換えに月面都市全てを失い残った基地も、プトレマイオスを除けば辺境の小規模基地や監視観測所だけと惨憺たる有様であった。

 

この戦いで連合軍が受けた被害は、大戦初期に受けた被害とほぼ同等であり事実上、反攻戦力が消滅したに等しかったのである。

 

これの再建にはさしもの連合であっても年単位は必要な所を、アズラエルが強硬した作戦の為に失ったMSとベテランの代わりに機体は再度生産し直し、パイロットについては訓練過程を大幅に繰り上げて新米どころかヒヨッコ同然の者達を当たらせ、艦隊についても比較的無事であった物をかき集められるだけかき集め、形だけは何とかそれらしく整えたのであった。

 

練度不足についてはブルーコスモスによる洗脳教育や、或いは過度な敵愾心を煽り戦意を高め、時に戦闘麻薬さえ支給して感覚を麻痺させて、戦いに動員したのである。

 

つまり今の連合軍は見た目こそ大軍であるが、その実ウドの大木でしか無かったのである。

 

だがしかし、連合軍の本命は今前線で生命を散らしている雑兵では無かった。

 

アズラエルが乗るドミニオンに、同じく後方で戦いを観戦していたアガメムノン級宇宙空母ドゥーリットルから通信が入る。

 

「アズラエル様、そろそろ宜しいかと」

 

連合軍を乗っ取ったブルーコスモス派、その将校の中でも特に忠誠厚いサザーランド大佐から盟主に許可を求め、それに応えてアズラエルも足を組んで何でもない風に応えた。

 

「じゃ、さっさと終わらせちゃいましょう」

 

最初の時と同じようにアズラエルの一言によって、今まで安全な位置で待機していたブルーコスモス派で固められたアガメムノン級空母18隻から、続々とピースメーカー隊と呼ばれるMAメビウスが吐き出される。

 

同じ様にドミニオンからもまたブーステッドマン達が駆るカラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機がカタパルトから発艦し、ピースメイカー隊と言うよりもその腹に抱えた巨大なミサイルを守るべく、敵陣に先行していく。

 

最初からボアズの防衛ラインに対し全方位から攻撃を仕掛ける連合軍艦隊を目眩しに、敵要塞への防備の弱い所と最短経路を探り当て、そこに最精鋭戦力を惜しげも無く投入したのである。

 

ザフトが全戦戦で優位に進めている中、連合軍最精鋭部隊に護衛されるピースメイカー隊に気が付いた1機のゲイツが、不審に思い所定の位置を離れて接近して確かめようとした。

 

「何だあれは?今更メビウスで一体何をしようとしてるんだ」

 

パイロットが機体のメインカメラを最大望遠にして、その正体を探り当てる前にカラミティから発射されたビームが機体を貫き、コックピットは中のパイロットごと蒸発し推進剤に引火して大爆発を起こす。

 

その爆発によって敵の思わぬ接近を知ったボアズ司令部は、直ちに迎撃部隊を差し向けるも新型の3機だけでなく、その周囲には105ダガーや生産されたばかりの最精鋭機ダガーLが配置され一切のザフトMS接近を許さなかった。

 

「滅殺!」とレイダーがミョルニルを振り回してジンの頭部を吹き飛ばし、カラミティの圧倒的な火力が敵を部隊単位で飲み込み、フォビドゥンが敵の攻撃を完全に防ぎ反撃のニーズヘッグが敵を両断する。

 

同じように薬物で反射神経を強化された、ブルーコスモスの狂信者達が乗るソードストライカー装備の105ダガーが、巨大な対艦刀でローラシア級を切り裂き或いは突き刺してバラバラにしていく。

 

母艦にとりついた敵を排除しようとシグーが88式レールガンを連射して接近戦を仕掛けるも、ドッペルホルン連動無反動砲装備のダガーLから一斉砲火を浴びて、無惨に打ち砕かれていった。

 

それでも極小数の熟練パイロット達が乗るゲイツが、鋭い機動で砲火の嵐を潜り抜けてピースメイカー隊に接近する。

 

彼等が乗るゲイツは通常機とは違い、所々別々のパーツで補修され殆ど原型機が無い物もあったが、それは彼等がコンペイトウの戦いから乗り続けてきた、猛者達の証であった。

 

彼等は反逆容疑で逮捕粛清部隊の強制解散されたマシュタインと、コンペイトウやボアズで共に轡を並べて戦い、個人主義蔓延るザフトにあって互いに連携しまるで一つの生命体のように敵陣奥深くに迫れる真の勇者達である。

 

等々彼等はピースメイカー隊の姿をカメラに納め、MAメビウスが腹に抱えた巨大なミサイルに描かれた象徴的なハザードマークを目にし、一瞬だがたじろいでしまう。

 

(何故、NJで使用出来なくなった呪われた核兵器を何百機も抱えているのか!?)

 

その意味が全く分からない彼等に、突如として四方八方からガンバレルが襲いかかってきた。

 

稀有な能力である高度な空間認識能力者である、モーガン・シュバリエが乗る105ダガーが立ち塞がったのである。

 

彼は元はユーラシア連邦軍所属の戦車兵であり、「月下の狂犬」の異名を頂く同国のエースパイロットであった。

 

その彼がブルーコスモスでも無いのに、この作戦に動員されているのは矢張り先述に挙げる、稀有な能力故であったのである。

 

「作戦は気に入らない無いが、これも任務だ」

 

そう言って彼はガンバレルと自機を同時に操作し、単騎でまるでMS一個小隊の如き戦いを展開する。

 

ガンバレルに気を取られると回り込んだモーガン機のビーム狙われ、逆に本体を撃ち落とそうとすると、今度は無防備な背中にガンバレルが飛んでくるのだ。

 

後に共和国軍で定着する事になるMS戦術、通称MAV戦術と同様の動きを単騎で再現するあたり、モーガンの技量は突出しておりそれを初見で防戦一方でありながらも、ゲイツのパイロット達は必死に食らいついていく。

 

両軍の極まった技量の持ち主達だけが踊れる死の舞踏は、しかしその間にもピースメイカー隊は最精鋭部隊が開いた道を通って、ボアズ要塞にどんどんと近づいていく。

 

とうとう要塞対空砲の射程にまで接近し、当然激しい対空砲火が上がるもガーディアンシールド(PS装甲ではなくTP装甲バージョン)装備の105ダガーが前面に躍り出て、対空砲火から背後のピースメイカー隊を守りつつ、逆に判明した敵対空砲陣地に向かってランチャーストライカー装備のダガーがアグニを発射して叩き潰す。

 

一番の脅威である要塞主砲にして巨大な連装対空ビーム砲は、薬物で強化されたパイロット以上の反射速度と機動で猛然と3機が迫り、これをあっと言う間に破壊してしまった。

 

完全に要塞の防備は丸裸にされてしまい、ピースメイカー隊は眼前一杯に広がる要塞に向かって抱えた巨大ミサイルを発射する。

 

メビウスから切り離された巨大ミサイルはブースターに点火し、最初はゆっくりと進むそれは真空ゆえ遮るものない宇宙空間で加速し続け、MSでさえ追いつけない速度にまで到達した。

 

発射された数十発は勢いそのままにボアズ要塞の硬い岩盤にぶつかり、その直前に弾頭のカバーが外れ巨大なドリルが姿を現し、そのまま要塞内部へと掘削していく。

 

まさかこのロケット付き掘削機械でボアズ要塞を破壊しようと言うのかと?ザフトは愚かなナチュラルの考えそうな事だとバカにした瞬間である。

 

内部で強烈な熱反応が起こり、同じく掘削し内部で炸裂する巨大ミサイルと連鎖爆発を引き起こし、一気に巨大な破壊の奔流となったそれは、解放を求めて内側から要塞内部を破壊し遂に司令部が置かれた中央広間を消滅させた。

 

「この…反応と光は…まさか!?」

 

ザフトパイロットの中には大戦勃発時、プラントの守りについていた者もおり、その時に目撃した光景と今の光景は非常に酷似していた。

 

が次の瞬間ボアズ内部で発生した爆発の圧力に、砕かれた要塞の破片に巻き込まれて機体を押しつぶされる。

 

これが連合軍がボアズ攻略用に投入した兵器、禁断のMk5核弾頭魚雷とその威力であった。

 

この核兵器は先の「血のバレンタイン」で、ユニウス7を破壊した物と同一であるがたった1発でコロニーを破壊したように、その開発目的は宇宙空間における拠点殲滅である。

 

連合軍結成前、まだプラント理事国時代に当時の地球列強はスペースノイドの共和国が築いた、宇宙要塞攻略用の兵器開発を進めていた。

 

仮想敵であった共和国は巨大なスペースコロニーを100基以上も建設する能力を持ち、火星植民地やアステロイドベルトの資源衛星などにおいて、その獲得競争が激化していたのである。

 

特に核の直撃にさえ耐えると豪語する、共和国軍が建造した宇宙要塞は当時理事国宇宙艦隊に大きな脅威を与え、共和国との核戦争に勝つべく大西洋連邦が開発したのが、このMk5核弾頭魚雷であった。

 

仕組みとしては非常にシンプルで、大型ロケットエンジンで段階的に加速しつつ敵要塞に突入し装甲と岩盤を貫徹または、弾頭の掘削装置を使って要塞内部奥深くに突入しその後起爆。

 

内側からの核爆発によって宇宙要塞を破壊するという、そういった対拠点用兵器であり決して脆弱なスペースコロニーに使うような物ではない。

 

つまり、今日初めてMk5はその開発目的とコンセプトの正しさを証明した事になる。

 

崩壊するボアズ要塞にピースメイカー隊は第二、第三波を撃ち込み、核の業火に包まれる要塞を背景にザフト防衛艦隊は恐怖と衝撃で凍りつき、そこを最精鋭部隊と全方位から攻め寄せる連合軍艦隊に挟まれ包囲されてしまう。

 

必死に包囲網を抜けようとするも、連合軍の包囲網は分厚く突破しようにも衝撃から立ち直りきれないザフトとMSパイロット達は、全方位から降り注ぐビームやレールガン、ミサイルを喰らって虚空に命を散らす。

 

一部の部隊はそれでも生き延びる為に必死に抵抗し、艦隊の盾に使っていた巨大デブリと共に突進する事で包囲の輪を抜けて、プラント本国に命からがら逃げ延びる事が出来た。

 

それ以外の脱出出来なかった者達の末路は、まさに筆舌に尽くし難い有様であった。

 

ボアズが崩壊した時点で、これは戦いでは無く一方的な殲滅と虐殺であったのだ。

 

連合軍は戦闘前に「一切、捕虜を取らない」と命令されており、またブルーコスモス派で固められた彼等は例え命令が無くとも、喜んでコーディネイター殲滅を行なったであろう。

 

戦意をなくした逃げ回るしかないザフトMSを複数の連合軍機が手足をビームで破壊し、中からパイロットを引きずり出して虚空に放り投げたりMSで握り潰したり、或いは無理やりノーマルスーツのヘルメットを剥ぎ取って殺した。

 

またある者は投降を求める相手を無視してビームサーベルの刃を突き立てて焼き殺し、動けなくなった敵艦に乗り込んで略奪と殺戮を行いその様子を撮影したり、中には命令違反にも関わらず捕虜をとり、艦内で凄惨な陵辱と拷問を行うなどの行為もあったと言う。

 

だが最も行われた行為は、救難信号をあげる敵兵や脱出ポッドを無視して何もしない事であった。

 

宇宙では敵味方関係なく、救難信号を挙げる者は誰であれ助けるのが不文律でありまたスペースノイドにとって常識ですらある。

 

地球と違い真空の宇宙は放射能が渦巻き、場所によっては絶対零度や灼熱の極寒地獄が襲われる。

 

特に戦場ともなれば、破壊された戦艦やMSの破片や有毒ガスが減速しないデブリとして飛散してノーマルスーツに穴が空いたりと、或いは水やオイルが凍って出来た氷塊が脱出ポッドの生命維持装置を破壊する事もあった。

 

故に救命者を迅速に救助する事が肝要であり、これを無視する者はどんな理由があれ、今後一生信用されず宇宙の爪弾き者となるのである。

 

にも関わらず連合はザフトの戦艦などを徹底的に破壊し、身動きが取れず真空の宇宙を漂うしか無いザフト兵達は、救助がなければ彼等は半日と経たず酸素切れで窒息死する事になる。

 

刻一刻と酸素の残量が減っていき精神がヤスリにかけられ、時に発狂して自らヘルメットを外したり或いはまだ酸素が残っている仲間を襲い、タンクを無理やり奪おうとする争いが彼方此方で見られた。

 

がそれも数時間もすると動かなくなり、連合軍が去った後の宙域には文字どり、無数の物言わぬ屍の山が残されていったのである。

 

味方が虐殺、いや大量殺人を行う間、ドミニオンのナタル・バジルール艦長は必死に何かを堪えるように唇を噛み、余りにそれが強すぎて血が流れているのにも本人は気づかない程であった。

 

同じく、艦橋にいた今の連合でマトモ寄りなクルー達や席を与えられたフレイ・アルスターもまた、味方が目の前で行う蛮行を目の当たりにし顔面を蒼白させていたのである。

 

その中でただ1人、ムルタ・アズラエルだけが上機嫌にまるでピクニックにでも行くかの様な声でこう言った。

 

「さあ、次はプラントです。さっさと行ってちゃっちゃとこの戦争を終わらせちゃいましょ」

 

ナタルはそれを聞いて、この世に悪魔がいるのならそれは目の前にいると、と同時にその悪魔に加担した自分もまた呪われているのだと悟った。

 

名誉ある軍人の家系に生まれた彼女にとって、軍という組織にいる以上覚悟していた事だが、これから先に行われるのは戦争終結の大義名分を借りた、一つの国家と人種を徹底的に徹底的に根絶する悍ましい民族浄化であった。

 

最早自分たちは神にも見捨てられたと、暗澹たる気持ちを抱えたまま補給を済ませた連合軍は一路次なる殺戮の宴が開かれる場所へ、プラント本国を目指し突き進んでいくのである。

 

 

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