機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第14話 憎しみの光

サルが森を出て初めて二足歩行した時から始まった人の歴史、その最初の転換点とでも言うべき火を手にした時から、人類は絶えず自らを破滅に導く力と共に歩いてきた。

 

木を燃やし大きくなった火はやがて、地中に眠る鉱石や資源までをも焚べるようになった。

 

そして遂には天高く燦々と降り注ぐ太陽の力にさえ、人は手を伸ばそうとしたのである。

 

その代償は2度目の世界大戦に始まり、3度目には地球各地でプロメテウスの火は使われこの猛毒を伴う火は、しかしその後の復興の時代にあって人類再生の希望の灯火でもあった。

 

…4度目の時、火は再び大きな悲劇を生んだ。しかし、一時その力は抑えた人々はMSと呼ばれる巨大な鋼鉄の巨人を操り、まるで太古の神話に描かれる伝説的な巨人と人の戦争を繰り広げたのである。

 

しかし、常に禁断(パンドラ)の箱は暴かれるものであり、再び人類の手にプロメテウスの火が戻った時、それは最早消せない業火となって世界を焼き尽くそうとしていた…。

 

 

 

 

 

時にC.E.(コズミック・イラ)71年9月26日、ボアズ要塞に核によって葬った連合軍は今やプラントの眼前に迫り、その前には巨大な砂時計の形をしたプラントのスペースコロニーと本土防衛最後の壁である、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエが立ち塞がっていた。

 

ボアズで殆ど消耗しなかった連合軍と違い、地球との連絡路を絶たれ完全に宇宙で孤立したプラントはなけなしの戦力を投じて、最終決戦に挑もうとしていたのである。

 

昨年、プラントは連合軍を地球に封じ込め月のプトレマイオス基地を孤立化、兵糧攻めを企図した「オペレーション・ウロボロス」を発動し、地球各地のマスドライバーを襲い各地で激戦を繰り広げてきた。

 

しかし今やプラントとその矛先であったザフトは地球から駆逐されつつあり、反対に今はプラントの方が孤立を深めこのまま輸送と貿易が再開されなければ、一年と経たずプラントは飢えてしまう。

 

が連合軍はプラントとその国民であるコーディネイター達を確実に抹殺すべく、艦隊を再建し核の力を再び手にして、「血のバレンタイン」の再来を行おうとしていた。

 

文字通りプラントには後が無かった、彼らは連合との決戦に勝利し地球との連絡路を回復せねば今日も明日をも知れぬ身となり、反対に連合は例えここで負けたとしても、月にはプラントを100回破壊してもお釣りが来る核兵器が、大量に貯蔵されているのである。

 

土台、国力が決定的に違うこの両者が、真っ向からぶつかる事になるこの戦いは始まる前から、勝敗は明らかであったが、しかしそうはさせじと戦いに介入する第三勢力がいた。

 

共和国軍からの極秘通信とマルキオ導師らのネットワークから得た情報で、連合軍が核を再び使ったと知った彼らは、十分な準備も整わぬままに出撃を決定した。

 

その際、特に共和国軍からの情報で得た連合軍の核兵器搭載部隊とその母艦、及び護衛の位置は彼らに大きな戦略上の優位点を与えたのである。

 

艦隊旗艦のエターナル艦橋で、艦長アンドリュー・バルトフェルドは得られた情報を頼りに、連合軍艦隊を強襲する作戦を集まった各艦の艦長や幹部たちに提示した。

 

「見ての通り、連合軍は数こそ多いがその大半は単なる案山子だ。本命は後方に控えている核攻撃部隊とその母艦、推定アガメムノン級航空母艦が10数隻と護衛の艦にあの“ドミニオン“がいる」

 

ドミニオンの名を聞いてアークエンジェル艦長のマリュー・ラミアスの顔が一瞬曇るが、今は個人の感情を気にしている時間は無く、バルトフェルドは話を先に進める。

 

「我々の目的は2つ、1つは連合軍のプラントに対する核攻撃の阻止、あとは有るかどうか分からんがプラントからの核攻撃にも対処する」

 

「続いて2つ目は、プラント国内にアイリーン・カナーバ議員を送り届けることだ。評議会があるアプリリウス市の議場を突入部隊と共に突入し、議場を占拠し政権を奪取した後に両軍に対して停戦勧告を行う」

 

「停戦が受け入れられるまでの間、俺達で議場を守る。以上が今回達成すべき目標だが…何か質問は有るかね?」

 

とバルトフェルド本人は自分で今言った事を振り返りつつ、「なんて無茶な事を言ってるんだ!?」と自分で自分に呆れ果てていた。

 

何処からどう見ても穴だらけのこの作戦は、例えば核搭載部隊の位置が間違っていたり、或いは発射を阻止できなかったり、果てしてカナーバ議員と突撃部隊だけでアプリリウス市を占拠できるのか?

 

そもそもいきなり出て来て停戦を謳ったとしても、果たして受け入れられるかどうか、全てが未知数であり同時に作戦を練り直し細部を詰める時間と準備も、今の彼らには与えられていなかった。

 

それ程までに、状況は逼迫していたのである。

 

「分かりました、戦力の具体的な配分は移動中にでも。今は一刻も惜しいと思います」

 

ラミアス艦長は真っ先に賛成の意を示し、歴戦の彼女に引きづられて周囲の各艦の幹部達もそれで良い、と同意を示した。

 

その中にはオーブのクサナギ艦長キサカもいたが、しかし彼にはここで皆に言わなければならない事があった。

 

「我々オーブも同じだ。ただ我々は…」

 

言葉を濁すキサカだが、その先は言わずとも誰もが想像できた。

 

つまりオーブの現代表カガリの事であり、彼女は代表の身ながらもMSの訓練を重ね決して艦内で安納としているのを良しとしない、正に獅子の子であった。

 

それを頼もしく思う反面、彼女はやはり今やオーブのただ1人残った正当な代表であり、その身に万が一があってはならない身で有る。

 

その点で言えばラクス・クラインも同様の立場と言えたが、しかし彼女はプラントの歌姫でありこの組織の精神的支柱ではあったが、悪い言い方をすればそれは象徴でしか無いと言う事であった。

 

実際に組織をここまで大きくしたのは、共和国と繋がったアイリーン・カナーバの手腕であり彼女がいなければ、彼らは今も宇宙のどこかを放浪していたかも知れない。

 

つまり同じ組織内にあって目的や大義は同じでも、それぞれが一番大事にしているものは違ったのであった。

 

「分かっている、その時はオーブはオーブの判断で動いてくれたまえ」

 

「感謝する、バルトフェルド艦長」

 

僅か2ヶ月余りとは言え、お互いの事情を十分了承している彼らは互いに配慮し、重要な作戦で貴重な戦力が抜けてしまうかも知れないのにそれを認め、認められた方はただ感謝するしか無かったのである。

 

こうしてヘリオポリスコロニーを出航した20隻余りの艦隊は、一路プラントを目指し出撃していくのであった。

 

 

 

 

 

-共和国軍 第一連合艦隊旗艦「タイタン」-

 

共和国軍宇宙艦隊第一連合艦隊旗艦のアイリッシュ級宇宙戦艦タイタンにて、同艦隊提督にして宇宙艦隊司令長官であるマクファティ・ティアンム大将は、たった今入った報告を聞いていた。

 

「では先程の光は…」

 

「はい閣下、観測部隊からの報告では連合軍は壊滅したと」

 

ティアンム大将は思わず天を仰ぎ「そうか」、とだけ呟いた。

 

周囲には、次の指示を求めるべく参謀達が黙って立っており、艦橋どころか艦隊全体に緊迫した空気が張り詰めていた。

 

事は数時間前に遡り、プラント本国を核で焼き尽くそうとする連合とそれを阻止しようとするザフトの戦いは激しさを増していた。

 

その最中に両軍の戦闘を止めるべく参戦したクライン派であったが、共和国軍が仕掛けた通り連合軍の核兵器部隊をピンポイントで強襲した事により、連合軍の戦力を消耗させる事には成功したのである。

 

後は両軍の消耗を待って、共和国軍が漁夫の利を得るだけであった…。

 

しかし、プラントは共和国(恐らく連合も)を始め誰もが想像だにしていなかった巨大兵器「ジェネシス」を投入した、これは巨大なガンマ線レーザーで敵を破壊する正にこの大戦における最大最強最悪の大量破壊兵器であった。

 

「ジェネシス」によって連合軍は核攻撃部隊共々壊滅し、作戦通りプラント本国に接近しつつあった共和国軍は、宇宙を貫く憎しみと破壊の光を目の当たりにしたので有る。

 

「アレをコロニーに撃たれてしまえば、ひとたまりもない。エクソダス計画も、あれの前では絵に描いた餅に過ぎん」

 

既に作戦参謀達がシミュレーター上の計算で、プラントの大量破壊兵器の射程がほぼ地球圏全域であると、結果を出していた。

 

最悪、火星や木星圏にすら届き得るとも試算されており、文字通りこの宇宙に彼らが逃れる場所はなかったのである。

 

だが彼等に悲観にくれ絶望する時間は、全く与えられていなかった。

 

現在ティアンム大将率いる第1連合艦隊と第3連合艦隊は一旦前進を止めて、共和国本土とプラント本国との丁度中間地点におり、ここから先の彼らの行動が今や国家どころか、人類そのものの運命を左右しかねなかったのだ。

 

「…最早、事ここに至っては撤退はあり得ない」

 

「閣下、では!?」

 

ティアンム提督はゆっくりと部下に振り返ると、悲痛な面持ちでしかし威厳ある態度と声ではっきりと言った

 

「作戦は続行する、目標は変わらずプラント本国とパトリック・ザラの首だ」

 

「何としても敵超兵器の本土攻撃を阻止し、これを以ってこの戦争を終わらせるのだ」

 

艦橋にいた部下達全員が無言で敬礼を返し、これにより共和国軍もまたこの宇宙の運命を決める、最終決戦場に突き進んでいくのであった。

 

一方でジェネシスの攻撃により戦力の4割を失い、一時撤退した連合軍は再度プラントに攻撃を仕掛けるべく、月本部ことプトレマイオス基地からの増援を要請していた。

 

「そうだ、今すぐに出せるだけの艦をを出せ!!何がナチュラルの野蛮な核だ、連中の方がよっぽど野蛮じゃないか!」

 

アズラエルが怒鳴り散らす度に、オペレーター席を与えられたフレイ・アルスターはビクビクと怯えて体を振るわせた。

 

彼女は所謂「NJC(ニュートロンジャマー・キャンセラー)を齎した功績」により、好きな場所に配属されると言う特権を与えられ、こうしてドミニオンの艦橋にあったのである。

 

だがそこで彼女が目にしたのは、正に地獄その物であった。

 

味方による再度の核兵器使用、その後の虐殺、挙句にジェネシスである。

 

若干16歳の少女が経験するには、あまりに辛すぎる現実の連続であり、彼女は心身ともに限界をきたしていた。

 

本来そんな彼女を気にかけ、サポートするはずのドミニオン艦長ナタル・バジルールはという…

 

「艦長、チャーチルより救援要請です」

 

「分かった、すぐに向かうと…」

 

とナタルはナタルで、壊滅し指揮系統が寸断された残存艦隊を立て直すべく、孤軍奮闘していたのだが…。

 

「おい、ふざけたことを言うな!救援ダァ、この艦がなんでそんな事をするんだ!」

 

オペレーター席からナタルが座る艦長席にすっ飛んできたアズラエルは、広角泡を飛ばす勢いで彼女に怒鳴り込む。

 

「今すぐ補給と整備を済ませろ!無事な艦はすぐにでも再度の総攻撃を行うんだ!!」

 

「…!?不可能です、アズラエル理事もご覧になったでしょう。我が軍の被害を…ここは一旦撤退して再度部隊を立て直して…」

 

思わず絶句しそうになるが、相手が慌てふためく様子で逆に冷静になったナタルは、純軍事的立場からアズラエルに翻意を促そうとした。

 

「冗談じゃない、あんな危険な物をアソコに残したまま帰れる訳無いじゃないか!!」

 

だがアズラエルはますます激昂し、ジェネシスが地球に発射された場合のシミュレーションデータも併せて、プラント殲滅を尚も主張したのである。

 

だがそんな2人の会話を切り裂く様に、ドミニオン艦橋にオペレーターの声が鳴り響いた。

 

「プラント周辺で戦闘光を確認!」

 

ナタル艦長はアズラエルを放っておいて、オペレーターの側に急いで駆け寄った。

 

「何処の部隊だ!分かるか」

 

現在プラント宙域から連合軍は一時撤退し、取り残された部隊も残念ながらザフトの執拗な残党狩りで皆殺しにあっていた。

 

故に現在、あの宙域にはプラントと敵対する勢力はいないはずであった、いや一つだけ存在したが彼等がこうも早く動くとは、ナタル艦長も思いもしなかったのである。

 

「現在哨戒部隊が確認中…これは!?共和国軍です」

 

 

 

 

 

 

L(ラグランジュ)4プラント本国宙域、先のザフトと連合軍における戦闘の痕跡(デブリ)が夥しく残る中、共和国軍第3連合艦隊は宇宙要塞ヤキン・ドゥーエに迫っていた。

 

連合に続いて再び迎え撃つプラントであったが、ジェネシスによって連合軍に壊滅的被害を与えるも、反射ミラーを交換する僅か数時間だけでは到底満足な補給や整備に休養もとれる訳もなく、厳しい連戦を強いられる形であった。

 

「ナチュラルの野蛮人に続いてスペースノイドの土人共め、何者であれ我らの故郷を土足で踏み荒らす者たちには死あるのみだ」

 

プラントの、最終防衛ラインたる宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの司令部にて、パトリック・ザラ議長は本日3度目の演説を行い、疲労が積み重なるザフト将兵の士気を鼓舞した。

 

先のジェネシスの威力を目の当たりにし、その創世の光に目を奪われた多くの将兵達は体に鞭打ち、疲れを引きずりながらも再度出撃していくのである。

 

現在プラント本国の陣容は、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエに戦力の凡そ7割を集め残りの3割を本国防衛に当たらせていた。

 

ザフトはこの最終決戦に100隻余りの艦隊とMS3200機以上を投入し、事に足りないパイロットの不足を補うべくアカデミー生徒の卒業を繰り上げて、多くの学徒を動員していたのである。

 

正に総力戦そのものであったが、連合軍との戦いで少なからず消耗し更に今対峙する共和国軍は、単純な数ではザフトと連合双方を合わせたよりも上回っていた。

 

その共和国軍第3連合艦隊の指揮官である、ヴォルフガング・ワッケイン中将率いる200隻余りの艦隊は、ティアンム大将の本隊に先行して要塞に取り付くべく作戦を開始した。

 

「ティアンム大将の“アレ“の準備が整うまでの15分、何としても稼ぎ出すぞ。全艦、メイルシュトローム作戦を発動!」

 

ワッケイン提督の号令一下、共和国軍第3連合艦隊は200隻と言うそれ単独で先の連合軍を上回る戦力でありながら、宇宙に巨大な渦を描くかの様な機動で戦場に突入した。

 

艦隊に先行する形で共和国軍は国内に残存するMAガトルや突撃艇ジッコを突入させ、それぞれが腹にビーム撹乱幕を弾頭に搭載した巨大ミサイルを抱え、ヤキン・ドゥーエ要塞目掛け突撃していく。

 

「まさか、共和国も“核“を!?」

 

「あれを止めろ!何であれ、絶対に撃たせるな」

 

先の連合軍による核攻撃によって、特に巨大なミサイルに過敏に反応したヤキン・ドゥーエの司令部は、突入する敵部隊の迎撃に必要以上の部隊を回してしまう。

 

血のバレンタイン、ボアズ、そしてプラントに向けて再度発射された核の脅威は、最早プラントとコーディネイター達にとって拭難いトラウマとな理、彼等の心の奥底に深く染み込んでいたのである。

 

戦場となった宇宙にローラシア級やナスカ級が上げる対空砲や、ジンの76mm重突撃銃が曳航弾の弧を描きながら発射され、ゲイツやシグーのビームライフルから迸るビームの光が虚空を彩った。

 

その度に、本来ならとっくに退役してもおかしく無い旧式機が、小型の機体に見合わぬ巨大なミサイルを抱え込んだまま、業火と共に火球となって消えていく。

 

がそれでもガトルやジッコのパイロット達は激しい迎撃に晒される中でも、最後まで任務を果たすべく巨大ミサイルを発射していくのであった。

 

当然これらのミサイルもその多くが迎撃されたが、しかしそれにより戦場には着実にビーム撹乱幕が形成されつつあったのである。

 

「思った以上にザフトの迎撃が激しいですな、予想の散布範囲の30%に届くか否か」

 

一方で前線から上がる被害報告に、アイリッシュ級宇宙戦艦の旗艦レナウン艦橋で参謀からの報告を受けたワッケイン提督は、渋い表情を浮かべる。

 

本来の予定であれば、MAガトルや突撃艇ジッコだけでも十分な範囲にビーム撹乱幕を散布出来る筈であったのだ。

 

がプラントは予想以上に熱心な迎撃を行った結果、当初の予定に多少の修正を加える必要が出てきたのである。

 

「残念ながら、彼等には囮の役割を担わせてしまったな。第二派の準備は済んでいるな」

 

「は、既にランチャーに換装したサラミスが予定宙域に展開を完了しております」

 

「では始めてくれ」

 

ワッケイン提督の命令が下され、艦首ブロックを丸々ミサイルランチャーに換装したサラミスの戦隊が、ヤキン・ドゥーエ要塞に向けてビーム撹乱膜搭載の超長距離ミサイルを連続発射する。

 

ガトルやジッコに気を取られ必要以上に戦力を割いてしまったザフトは、慌ててこれを防ごうとするも到底迎撃は間に合わず、ヤキン・ドゥーエ周辺にミサイルが雨霰と着弾した。

 

「っ!被害報告、急ぎ迎撃部隊を呼び戻せ」

 

ヤキン・ドゥーエ要塞司令部にて、直接指揮を執っていたパトリック・ザラは着弾の衝撃で揺れる中、何とか姿勢を堪えていた。

 

自身の判断ミスによる結果だが、まだパトリックにはそれを感じさせない威厳を備えていたのである。

 

「各部より被害報告が上がってきました。“被害極めて軽微なり“他も同様です」

 

オペレーターからの報告に、司令部要員たちはホッと胸を撫で下ろした。

 

少なくとも、中身が核兵器でないことは確かであり、彼等の不安要素の一つが取り除かれたことになる。

 

だがしかし、ついでオペレーターからの報告でザフトは共和国の本当の狙いを知った。

 

「!?感知センサーに反応、要塞周辺に極めて高濃度なアンチビームフィールドが形成されています」

 

「スペースノイドめ、小賢しい真似を…!」

 

パトリックはそう歯噛みし、これで当分の間ヤキン・ドゥーエ要塞からの長距離ビームは封じられた事になり、純粋に艦隊とMS同士の勝負と言う事になる。

 

つまり唯でさえ敵に対して数で劣り、疲労困憊なザフトが共和国軍の圧倒的な数に真正面から挑まざるを得ない事を意味した。

 

「だが我々には、ジェネシスがある。アレがある限り、我々は絶対に負けん!」

 

パトリックはそう言って再度周囲を鼓舞したが、その間にも共和国軍の大艦隊は続々と戦場に突入し各地で激しい戦いが繰り広げられていく。

 

「事前の作戦計画に従い、常に機動せよ。敵に狙いを定めさせるな」

 

ワッケイン提督の指示の元、共和国軍第3連合艦隊は後の戦史の教科書にも載る、伝説的な艦隊運動を展開した。

 

要塞からの長距離ビームを封じつつ、敵艦隊にもジェネシスにも捕捉されない様に“メイルシュトローム“の名の通り、渦を描くように絶えず動きつつ本命の要塞に取り付いていく。

 

それはまるで全体が巨大な一つの生き物の様であり外から見れば巨大な光の尾を引く蛇が、ヤキン・ドゥーエ要塞を中心に光の輪っかを描いて、とぐろを巻いて飲み込もうとするかに見えた。

 

NJ(ニュートロンジャマー)下に置いて、レーダーや無線が妨害される中でここまで統一された艦隊運動が出来る軍は、今の地球圏にはワッケイン艦隊を置いて他に無い。

 

他勢力が無為に戦力を消費し練度を著しく低下させる中でも、単にルナツー要塞に籠るだけではなく、日々練度の向上と戦力の充実に当ててきた甲斐があると言うものであった。

 

「敵艦隊をジェネシスの射線に追い出せ、グズグズするな反応が遅い!」

 

パトリックと同じくヤキン・ドゥーエ要塞司令部に詰める特務隊のレイ・ユウキは、パトリックがジェネシスの次弾発射に専念している間に艦隊指揮を任され、何とか共和国艦隊を要塞から引き剥がそうと試みていた。

 

彼は今現在パトリック・ザラの信任を受ける数少ない人物であり、またアカデミー時代パトリックに息子であるアスランの恩師でもある。

 

つまり、親子二代にわたり関わってきた彼はその経歴に漏れず優秀であったが為に、現状のザフトの有様に忸怩たる思いを抱いていた。

 

元々ザフトはナスカ級をはじめ、本来なら高速電撃的戦法を得意とし、事実これまでにも多くの戦場でその戦法で勝利し続けてきたのである。

 

が本土防衛と言う受け身にならざるを得ない現状と、それ以上に先にも挙げた著しい練度と戦力不足に苦しんでいた。

 

「一部のゲイツの動きが鈍いぞ!何をやっている」

 

「は、はい。恐らくはアカデミーを繰り上げ卒業した学徒動員のパイロットが多いようですから…」

 

ユウキの苛立ちを感じつつ、オペレーターの1人がおずおずと言った風に多くの学生パイロットが動員された事を告げた。

 

プラントが開発した初のビーム兵器を標準搭載したゲイツは、性能だけ見れば核動力機を除いて現行機の中で最高の性能を誇っている。

 

しかしながら生産と配備の遅れにより、旧式化したMSジンを完全に置換するに至らず逆に「オペレーション・スピットブレイク」の失敗と無理なパナマ攻め、並びにビクトリアのマスドライバー防衛失敗などで貴重なベテランを喪失した今のプラントには、十分な機種転換訓練を受けさせるパイロットとその時間すら無かったのだ。

 

その為、ベテランほど旧式機のジンやシグーに乗り反対に学徒などの新米パイロットが、余ったゲイツに乗ると言う逆転現象が発生しており、その為に折角の高性能機を全く行かせていなかったのである。

 

それを聞いてユウキ自身、思わず足元がぐらつきそうになるのを必死に堪えた。

 

(やはり、学徒など動員すべきでは無かったのだ…!)

 

戦いが始まる少し前、プラントの最高評議会でアカデミーの学生を早期動員すると言う決定がなされた時、最後まで反対したのがユウキ本人であったのだ。

 

前途有望な若者達を、未熟なまま戦場に出して無為に命を散らす事に一体どんな意味があるのかと、並み居る評議員の場で臆せずそう主張したのである。

 

が、既に決定を覆すには至らず、こうして未来ある若者達が戦場の露と消えていく光景を、彼は要塞司令部のモニターから黙って見ているしか無かった。

 

唯でさえ第3世代以降の出生率が著しく低下する中、その若者を真っ先に魔女の窯に叩き込むが如き所業をする国家に、これ以上忠節を尽くす必要があるのか?

 

指導部とその子息だけが安全な後方で安穏とする現状に、果たして未来はあるのかと?

 

この時、ユウキの胸の内に始めて抱きようもないドス黒い感情の萌芽が少しずつ、芽生え始めていた。

 

 

 

 

 

 

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